「黒の碑(ロバート・E・ハワード著)」4(終)
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「黒の碑(ロバート・E・ハワード著)」4(終)

2021-01-22 19:00


    ・大地の妖蛆
     エボラクムという古代都市で、ティトゥス・スラというローマ帝国の軍政総督が裁判を行っている。告発者はローマ人。証人はローマ人。裁判官もローマ人。裁かれる犯罪者はピクト人。犯罪者はピクト人の商人だったがローマの商人にからかわれ、騙され、金を巻き上げられ、嘲笑されて相手を一発殴った罪で十字架に釘打たれて死ぬまで苦しみ続けるという刑に処せられるが、若い将官を侮辱したことで刺し殺される。スラはもっと苦しませようと思ったのに、とその将官・ヴァレリウスを叱りつけてピクト人の死体は骨になるまで晒すよう命じる。

     ローマとピクト人の国とは友好国であり、ピクトの大使パルタ・マク・オツもこの処刑に立ち会わされている。実際にはローマに無理やり従わされているといったところ。彼は裁判が不公正であることを繰り返し抗議するが受け入れられない。実は大使というのは仮の姿で、彼こそピクトの王ブラン・マク・モーンなのだがスラは彼らをなめきっており、王の抗議であろうと受け入れないのはわかりきっている。
     ピクト王は無念のうちに殺された自国民のために復讐を誓う。必ずスラを殺すと。だがスラは常にゲルマンの傭兵に囲まれておりそれは容易ではない。従僕のグロムは背中が曲がった男だが王の信頼が厚い。グロムはわたくしめにご命令を、と言うのだが王は許さない。お前は必要な人間だと。その代わり王はグロムにある任務を与え、通行証を渡す。グロムに与えた任務は国元のコルマク・ナ・コトハトという人物にエボラクムを攻めるよう伝えること。そうするとスラはつかめにくい中央から西方にある砦・トラヤヌスの塔に移動するはずだと。

     王の助言者である高僧・老ゴナルは遠くから王の心を知ったようで、夢でそれは止めた方が良いと警告してくる。だが王は止まらない。王はこの土地を知り尽くしており、侵略者のローマ人が思いもよらない方法で復讐を果たすと決め、グロムを放ったのだ。ローマに復讐できれば自分も自分の国も滅びてよいと王は心に決めている。
     王はまず総督の意に反してピクト人を殺したとして牢に入れられたヴァレリウスを窓の外から突き殺す。衛兵は黄金で黙らせる。そして防壁の門から四方に去る。

     ブランの先祖はかつてヨーロッパを席巻した暗黒帝国の支配者で、ローマやケルト人やゲルマン人よりも古い起源を持つ。カレドニア(スコットランド)でアーリア人の侵攻を唯一食い止めた民族でもある。ブランは湿原に踏み入れると、ダゴンの浦の魔女と名乗る、蛇のような異形の女・アトラと出会う。彼女はピクト人よりも古い所属の末裔であり、その異形ゆえにこれまで誰にも愛されたことがない。ブランは彼女と問答の上、女を愛するという条件と引き換えに「門」もしくは「扉」の場所を聞く。ブランはこの扉を開いてある種族をこの世に呼ぼうとしている。遥か古代に彼の先祖がこの世と切り離した種族を。

     ブランはアトラに教わったダゴンの塚という小山の横腹に開いた洞窟に入り、黒の碑を見つける。これを奪い取ると塚を出て、ダゴンの沼と呼ばれる沼にこれを放り込む。
     碑は地中に棲む種族にとってはかけがえのないもの。これを取り戻したければ俺の望みを聞け、とアトラを介して交渉し、地中の種族は了承する。
     王は沼の泥の中から碑を回収して祭壇に戻す。その道中で難攻不落のトラヤヌスの塔が崩れ落ちているのを見る。生き残りに聞くと、スラは地中に飲み込まれたという。
     そして王が約束通り碑を祭壇に置いたのと時を同じくして、濁流のように彼らが現れ、狂気にねじ曲がったスラを引き渡す。ブランはスラの首を刎ねる。

     だが、アトラはおまえがきゃつらを召喚したことを忘れるな!お前も汚れたのだ、次にきゃつらに襲われるのはお前だぞ、と嗤う。ブランは逃げるように故郷に馬を走らせる。

     このブラン・マク・モーンはハワードがコナンにたどり着く前に生み出したキャラクターで、いくつかの短編に登場するらしい。妖蛆の谷と同じくタイトルに妖蛆が入っているけど、登場するのは巨大なウジ虫ではなく、元は人間だったがブランの先祖によって地球に追いやられ、身体が蛇のように変形してしまった種族。「闇の種族」に登場したものと同じように思われる。

    ・鳩は地獄から来る
     グリスウェルという男はジョン・ブラナーという友人と休暇を過ごそうとあてもない旅行に出る。森林地帯を進み、原っぱの真ん中にそびえ立つ古い家に装飾付きのベランダがあるのも気に入って入り込む。ベランダにいた鳩が一斉に飛び立つ。家は廃墟だが南北戦争の前は壮麗だったろうと思われる。
     疲れ切っていたので缶詰の食事をすませるとすぐに毛布にくるまって寝てしまう。が、グリスウェルは夜中に目が覚める。月明かりが階段のあたりにさしこんでいる。その明かりの中に何かがいて、こちらをじっと観察しているように見える。恐怖に襲われて目が覚める。どこからが夢でどこまでが現実かわからない。今度は二階から口笛の音が聞こえる。
     どうも剣呑だ。この家を出た方がいいと本能が告げるのでブラナーを起こそうとするがそうするまでもなくブラナーも立ち上がる。彼は出口ではなく屋敷の奥に向かい、階段を登って姿を消す。夢遊病者のようだ。呼び戻そうとするが声が出ない。叫び声が聞こえる。
     やがてブラナーが階段を降りて来るが、頭頂部が割り割かれて血まみれになっている。頭を割ったとおぼしき斧を片手に持っている。しびれていた身体が動くようになり、グリスウェルは叫びながら家の外に逃げ出す。車に乗ろうとするが運転席に蛇のようなものがわだかまっている。彼はわけがわからくなって駆けだすが何かが追ってくる。行く手に馬に乗った男がいるので助けを求める。男は銃を抜いて追ってくる何者かを撃つと、逃げたのか静かになる。

     男はこの土地の保安官でバックナーと名乗る。犯罪者を隣の郡に連行した帰りだったらしい。グリスウェルは何があったかを話すが、友人が殺されたけど斧を持って自分を殺しに来たんだというとても信じてもらえないような話にしかならない。バックナーはそれはブラッスンヴィル古屋敷だな、とだけ言って否定せず、そこまで戻る勇気があるかと尋ねてくる。
     屋敷に向かう途中、グリスウェルは鳩が飛び立ったのを見たことを話す。バックナーは屋敷にはフランス系イギリス人のブラッスンヴィルという一族が住んでいたが戦争で没落して今は無人になったこと、日没になるとこの一族の霊魂が鳩となって地獄からやって来て、地獄の門が開くと同時に飛び立つのだという。ただしバックナー自身は一度も鳩を見たことは無く、目撃者は黒人ばかりらしい。
     屋敷に入ると、ちょうどグリスウェルの頭があったあたりに斧が突き立ち、その斧を握ったブラナーが倒れている。頭は割れて死んでいる。

     バックナーはグリスウェルに普通なら君がブラナーを殺した犯人として逮捕されるところだが、犯人ならあんなおかしな話はしないだろう、と冷静に分析する。そして二階に上がる。
     彼は正直に君が有罪だとは思わないが、かといって100%信頼するわけにもいかないと打ち明ける。手すりにはブラナーの脳みそらしいものがごってりついている。階段には行きと帰りの足跡。ブラナーのものだろう。
     二階の廊下にもブラナーの足跡は続いているが、途中で引き返していてその折り返し点が血の海だ。さらにそこにやって来て引きあげて行ったらしい小さなはだしの足跡がある。はだしの足跡は廊下の奥へ続いている。つまりこの折り返し点でブラナーは殺されたのだ。

     バックナーは女の足跡のようだとつぶやき、グリスウェルが友人を殺したわけではないことは信じた様子。だが死体が歩いたというのは未だに信じられないでいる。バックナーが持つ懐中電灯の明かりが急に弱まる。電池は新しいのに、とバックナー。闇の中でドアが開く音。
     バックナーも異常を感じた様子でゆっくり後退しながら階段を降りる。ブラナーの死体が起き上がるのでは、とグリスウェルは恐怖するが死体は元の位置にある。死体を見て安心するという妙な感覚。
     1階に戻ると懐中電灯が輝きを取り戻すが、階段は照らしても何かに邪魔されているように明るくならない。わだかまっている霧のような影のようなものが、動く闇として懐中電灯の光を拒否している。
     バックナーは暗闇では不利だ、夜明けを待とう、と1階のベランダに出て待機する。グリスウェルは腰を下ろすと眠ってしまう。
     日が昇ったぞ、とバックナーに起こされるが、あの足跡は消えていたという。埃が掃き寄せてあったという。もう追跡できない。

     バックナーはブラナーの遺体を郡当局に運ぶこととし、きみが冤罪で裁かれないようにするつもりだから余計なことは言わないように、そしてもう一度この屋敷に一緒に戻るぞ、と言い聞かせる。どうもこの屋敷について何か知っているらしい。

     やがて二人は屋敷に戻ってくる。バックナーはここに住んでいたブラッスンヴィル一族は黒人奴隷に対する扱いが過酷で残酷なことで知られていた驕り高ぶった一族であったことを話す。そのため黒人たちに憎まれ、彼らは一族の者が死ぬたびに地獄に落ちるよう祈ったという。一族は次第に減って、四姉妹と彼女たちの叔母にあたるシーリャという三十代の女が残り、混血のメイドが彼女たちの世話をさせられていたが裸にして馬のムチで打つようなひどい扱いだったという。土地のものとはほとんど交わらなかったらしい。やがてそのメイドは姿が見えなくなり、逃亡したのだろうと思われた。
     シーリャもどこかへ去り、娘のうち三人もいなくなって一番年下のエリザベスだけとなる。彼女は怯えていたようで、やがて町に逃げ込んでくる。
     屋敷の中に隠し部屋があり、そこで三人の姉が死んで首を吊るされて死んでいたのだという。そして彼女も何者かに斧で襲われたのだと。人々は虐待されていたジョーンという娘が逃亡したのではなく、戻って来て復讐したのだろうと噂する。死体が見つかっていないシーリャも死んでいるのだろう。
     エリザベスはこの土地を出て行き、カリフォルニアで結婚したらしい。

     バックナーはこれには黒人の知恵が必要だ、とある老人を訪ねる。彼はヴードゥー教徒だという。ジェイコブというその老人は事情を聞いても話すわけにはいかんと断るが、ズウェンビという単語を口にする。どうも老人は考えることと喋ることが自分で区別できなくなっているらしく、うまく誘導すると何があったかを聞き出すことができた。

     老人はジョーンの依頼でズウェンビを作ったらしい。つまり彼女をズウェンビにしたのだろう。ズウェンビとは何かと聞くと、女だったものだという。ズウェンビは声で人を眠りに誘い、殺した人間の身体を操ることができるという。ただし死体を操れるのは血が体内を流れ、あたたかい間だけだという。
     老人は意識せずに禁忌を語っているのだが、その禁忌に触れたためか毒蛇に噛まれて死んでしまう。

     二人はもう一度屋敷に戻る。二人とも鳩が飛び立つのを見る。暖炉の中で燃え残っていたエリザベスの日記を見つける。ジョーン以外にも黒人の使用人はいたらしいが、シーリャが姿を消した頃に全員逃げてしまったらしい。三人の姉もいなくなった屋敷の中で、彼女は何者かが屋敷にいると感じている。そのためいつも自室に鍵をかけてる。ズウェンビというのはゾンビとは似て非なるものらしい。
     その夜、二人は暗闇の中でズウェンビを倒そうと待ち受ける。この死体を示さないと、ブラナーを殺したのがグリスウェルではないと証明するのが難しくなる。
     
     その夜グリムウェルはふと気付くと、二階に登っていく身体を全く自分の意志で動かせない。口笛のような音がしている。二階に上がると目の前に女がいる。
     バックナーのおかげでグリムウェルは難を免れ、ズウェンビの死体が手に入ったことで罪に問われることもない。最後にちょっとだけオチみたいなものがある。

     解説者はこの作品をこの短編集中のベストワンだと評価している。こういう作品はあらすじだけ知ってもあまり面白くなくて、オチや謎解きよりも雰囲気や語り口を味わうものだとすればそうかもしれない。
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