「後宮の烏(白川紺子著)」①翡翠の耳飾り
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「後宮の烏(白川紺子著)」①翡翠の耳飾り

2021-01-27 19:00


    ・はっきり時代の明示が無い古代中国の話。夏王朝とか炎帝とか出て来るので三皇五帝の時代を頭に置いているのかもだけど、この時代の事はほとんどわからないに等しいので一種のファンタジーなのだろう。帝には皇帝という表記が使われているけど始皇帝より後の時代とも思えない。何か文献があるのかもだけど。
     と思ったら3巻に世界地図とかがあって、これは十二国記とかと同様、古代中国風の架空の世界の話らしい。すると皇帝でいっこうにかまわない。

     現在の皇帝の後宮に夜明宮(やめいきゅう)という建物があり、ここに烏妃(うひ)と呼ばれる特別な妃(きさき)が住んでいる。老婆とも少女とも言われるがめったに外に出ることも無く、姿を見た者はほとんどいない。彼女は後宮にありながら夜伽をせず、呪殺や招魂、失せ物探しなどの術を心得ているという。烏妃というものはもともとは今は寂れて信仰が薄れた神の巫婆(みこ)だったらしい。
     そんな彼女が当代の皇帝の頼みに応じたことからいろいろなものの歯車が動き出すみたいな。

     現在の皇帝は高峻(こうしゅん)という青年で、その即位までにはいろいろあった様子。彼は腹心の宦官・衛青(えいせい)一人を連れて夜明宮を訪れ、頼み事をする。だが初対面の烏妃は16歳だが皇帝に対してもかしこまらず偉そうな口をきく。烏のような黒づくめの姿で現れると皇帝に対して「断る」「去(い)ね」ととりつくしまもなく、不思議な術を使って二人を部屋の外に転移させてしまう。
     烏妃というのは前王朝から存在し、前王朝が滅びてもそのまま現王朝に引き継がれている。これは異例のこと。最も現在の烏妃は前王朝時代からいるわけではなく、こちらも最近代替わりしたらしい。烏妃の後継者は星星(シンシン)と呼ばれる、夜明宮で飼われている鶏が選ぶという。高峻は現王朝の三代目皇帝の様子。

     高峻の願いは後宮で拾ったという耳飾りに幽鬼が取り付いているようなのだがなんとかできないかというもの。つまり成仏させてやってほしいと。理由を聞くと不憫だからとだけ答える。
     烏妃は皇帝に対して何の義務も敬意も感じていないようで、失せ物探しなども後宮の女たち相手に暇つぶし程度なら、というような感覚で行っている様子。呪殺や招魂にはそれなりの対価が必要なので、そうしたものが払えない女たち相手だと失せ物探し専門みたいな感じらしい。だが呪殺なども行うという噂や彼女に関する情報が少ないことで恐れられ忌避されている。それでも相談に来るのはよっぽど思い詰めたものが多いみたいな。
     皇帝の依頼などトラブルの種だ、と彼女は全く受けるつもりは無かったのだが高峻は相手の事はきちんと調べる性質らしく、次に来たときは彼女の好物の蓮の実の餡入りの包子(ぱおず)を持って来て、餌付けするように彼女を動かすことに成功する。彼女は柳寿雪(りゅうじゅせつ)と名乗り、幽鬼の姿を術で目に見えるようにするが首を絞めて殺されたのか自殺したのかはわからないもののとにかく首が絞まった状態で口がきけない。口がきければどこの誰で何か心残りがあるのか聞けるのだがこれではそうもいかない。ただ服装などから彼女が後宮で帝の寵愛を受ける立場の妃嬪(ひひん)と言われる女性だったらしいことはわかる。
     現在の皇帝の後宮で死んだ女は今のところいないので、これは先帝か先々帝の後宮の女だろうということになる。だが名簿などを高峻が調べさせると皇帝が関心をお持ちだということになっていろいろ影響が出てしまう。

     そこで寿雪は宮女の衣装を用意させて、自分が直接宮女たちから噂を集めることにする。妃嬪は普通は侍女の助けを借りて着替えるのだが、寿雪に侍女はいない。彼女は夜明宮に来る前は貧しい暮らしも経験しており身の回りのことは自分でやる。夜明宮にはこまごましたことをやる老婆が一人いるだけだ。
     寿雪は後宮を出る自由を持っていないが、後宮エリア内であれば自由に動けるようで夜明宮を出ると飛燕宮という建物に行く。ここで先輩に嫌がらせをされている宮女をうっかり助けてしまう。これが九九(ジウジウ)という内膳司というので厨房担当らしい少女で、ちょっとおしゃべり。寿雪は九九の仕事を手伝いつつ情報を集め、ここで九九から皇室の噂あれこれを聞く。この中に高峻の母が皇太后に殺されたという話もある。高峻の母は身分が低く、本来なら高峻も皇位を継ぐような立場では無かったらしいが皇帝の正妻である当時の皇后、現在の皇太后にも息子がいなかったりで皇太子となったが皇后からは目の敵にされ、父親の死後は一時は廃嫡されそうになったのを盛り返して皇太后を失脚させて幽閉し皇帝の座についたということがわかる。    
     寿雪は先代の烏妃に教わったことしか知らないのでこれは初耳だった。皇太后は他のライバルの妃たちにも色々仕掛けていて、流産させられた妃もいれば毒殺された妃もいたという。
     その毒殺の犯人と疑われて自殺した別の妃の名前までは九九は知らなかったが古株の宮女によれば班鶯女(はんおうじょ)といったらしい。鶯女は位を示す呼び名でかなり下位のものらしい。

     高峻は母親の仇でもあり、幽閉されながらも未だに高峻にとって油断できない相手である皇太后をなんとかしたい。だが罪をでっちあげて殺せば皇太后と同じになってしまう。なんとしても罪の証拠を掴んだ上で処刑したい。皇太后は長く権力の座にあっただけあって、彼女に近しいもの全員を除けば宮廷がまわらない。そのため今もそこここに皇太后の力は及んでいる。

     事情を知るには班鶯女の侍女もしくは小間使いをしていた宮女に話を聞きたい。班鶯女の死後も後宮のどこかで働いているはず。それには女官名簿を閲覧する必要がある。
     寿雪は夜明宮に侍女をひとり欲しいという口実で名簿を調べるよう衛青に頼む。選ぶのは九九と決めている。

     実は寿雪は現王朝に滅ぼされた前王朝の血を引いている。母親は身分の低い女で幼い寿雪を隠して育てたが、前王朝の血筋を根絶やしにせよという命が出て彼女を逃がして殺される。四歳だった寿雪は自分のせいで母親が死んだようなトラウマを持っている。その後人買いに奴隷として売られて辛酸をなめた。六歳の時に先代の烏妃に後継者として見出され、後宮に入って先代に文字や術を学んで現在に至る。先代の死と共に烏妃の座も引き継いだ。寿雪にとっては先代烏妃の麗娘(れいじょう)が母親でもあり、師でもあった。前王朝の一族は美しい銀髪を持ち、寿雪もそうなのだが普段は黒く染めている。子供の奴隷の頃は汚れのせいだと思われてばれなかった。先代の烏妃はそれを知っても寿雪を後継者に選んだのだった。烏妃と皇室にはいろいろとややこしい関係があるようで、本来両者は深くかかわらない。

     九九が夜明宮にやって来る。名簿を調べる口実なのですぐに元に戻すつもりだ。麗娘からも夜明宮には侍女を置くなと言われているし、いなくても困らない。九九を口実に調べた結果、死んだ班鶯女の侍女とその侍女付きの小間使いがいたとわかるが小間使いは既に病死し、もと侍女は蘇紅翹(ソコウギョウ)という名前で今は洗穢寮(せんえりょう)という、女官の姥捨て山みたいなところにいるという。ここは烏妃はもちろん、一般の宮女が行くようなところではない。後宮内のスラムとでもいったところ。それでも烏妃は九九を連れて出かけて行き、いろいろトラブルがあったものの高峻がひそかにつけていた護衛の宦官・温螢(おんけい)の助けもあって侍女をうまく連れ出す。彼女はしゃべれないよう舌を切られていたが筆談は可能で、皇太后が帝の子を身籠った三の妃である鵲妃(じゃくひ)を殺し、この罪を班鶯女になすりつけたことを証言する。小間使いも口封じに殺されたのだという。彼女も実家の家族を殺すと脅されて班鶯女を見殺しにしたのだった。彼女は問題の耳飾りが班鶯女のものであることも知っていた。

     寿雪は班鶯女の幼馴染で許婚だった郭皓(かくこう)という男が秘書省にいると聞いて彼に事情を聞くことにする。洪濤院(こうとういん)という古文書の研究機関みたいなところに郭皓を訪ねることにするが、ここは女官が行くところではないので寿雪と九九は宦官の姿で行く。明允(めいいん)という四十過ぎの男が責任者らしく、彼の案内で郭皓と会う。
     郭皓は班鶯女、本名小翠(しょうすい)の無実を訴え、話の発端である耳飾りは宮女となるため許嫁でいられなくなくなった彼女が片方を形見に渡したものだとわかる。そして、彼女が持っていたはずのもう片方は高峻が持っている。彼は実母を殺されて泣いていた十歳の時に、彼をなぐさめてくれようとしたある宮女からその耳飾りをもらったのだった。もちろんその宮女は小翠だった。

     烏妃の力で小翠は姿を現して、穏やかな笑顔を見せて成仏する。最後に許婚の姿を一目見たいというだけが心残りだったらしい。郭皓は小翠の事を調べるために後宮に忍び込むという罪を犯していたのだが、高峻によって許される。そして、郭皓と蘇紅翹が証言したことが決め手となって、ついに皇太后の罪を暴き、処刑することに成功する。九九のおしゃべりも皇太后による高峻暗殺計画を防ぐ役に立つ。

     帝である高峻と、烏妃であり前王朝の王女だった寿雪には共に幼い頃に母親を殺され、その母親を自分が見捨てたような、共に死ぬべきなのに自分だけ生き残ってしまったような罪悪感を持っている。共に心の中に空ろな部分がある。そんな二人が出会ってしまった。
     二人とも自分の感情を素直に外に出せない環境で育ってきたために基本無表情で対人スキルに欠け、互いに相手に対する感情をうまく言葉にすることもできないのだが少しずつ引き合う。そしてこの世界の理(ことわり)は、二人が親しくなることを許さない。みたいな話。

     1巻にはこの話を含めて4つの話が収録されている。
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