ユーザーブロマガは2021年10月7日(予定)をもちましてサービスを終了します

「黒白(池波正太郎著)」⑤
閉じる
閉じる

新しい記事を投稿しました。シェアして読者に伝えましょう

×

「黒白(池波正太郎著)」⑤

2021-02-24 19:00


    ・浮寝鳥(うきねどり)
     市蔵は生き生きとした様子を見せ、小兵衛はおそらく市蔵は波切八郎と再会したのであろうと見当をつける。市蔵が八郎の元に戻りたいというなら快く送り出してやろうと思いつつ、八郎は今どのように過ごしているのだろうかと気にかかる。
     岡本弥助と伊之吉は、ようやく突き止めた八郎の住む三ノ輪の下宿・笠屋を道を隔てた料理屋の二階座敷で話し込んでいる。この店の亭主は伊之吉の知り合いで顔がきく。だが岡本は八郎に会いには行かず、伊之吉に見張りを頼んで帰っていく。
     この頃は八郎からお信の住む鞘師・久保田宗七の家へ行き、そのまま泊まることもある。二人の仲は宗七も好ましく思っているようで、八郎と宗七で話すうちに、八郎が田能の石黒素仙のもとへ向かうのであれば、お信も同行し、剣の修業の邪魔にならぬよう京なり丹波なり、ほど近い場所に住んでもいいのでは みたいな話になっている。そうなると市蔵も連れて行きたい。
     そんな時に八郎は高田馬場近くの鞘師の家から三ノ輪の笠屋に向かう途中、偶然岡本弥助と出会う。これは弥助が笠屋に訪ねていっても八郎は拒絶するだろう、と周到に偶然を装ったものだが八郎は気付かなかった。岡本は八郎を逃がすまい、と飲み屋に誘う。
     八郎は仕方なくという感じで応じるが、岡本にもうお主との縁は切れたはず、もう以前のような人殺しの手伝いはせぬ、とクギを刺す。たのみごとをしないなら、たまには会ってもよいだろうと。
     結局岡本は森平七郎という自分では勝てない強敵と戦うことを八郎に言い出せずに終わるが、自分の主人が堀大和守という男であることを思わず口にする。八郎は全てを言わせずに席を立つが、帰り道に岡本はおそらく強敵と戦うことになったのだろうと思案をめぐらせる。
     お信にも聞いて堀大和守がいかなる人物かを調べると、五千石の大身旗本で今は寄合、つまり役目についていないことがわかる。八代様、つまり徳川吉宗が紀州から連れて来た古参の家来の一人らしい。八郎は深川にある堀の屋敷に出向き、そこで岡本が門をくぐるのを見る。
     将軍家御側御用取次という重職をつとめる田沼意次も同じように吉宗が紀州から連れて来た田沼意行(おきゆき)の子だが、石高は二千石で堀の方がはるかに多い。それなのに寄合というのはいささか不可解で、どうも影の仕事をしていると見える。実は堀は吉宗直属の隠密組織の元締めだったのだ。

     ある日、八郎は三ノ輪への帰り道に町人を暴行する侍を見て放っておけず、やめさせようと声をかけたところいきなり斬りつけられて反射的に斬ってしまう。これに久々の快感を感じてしまう。こいつを斬りたい、という欲望に従ってしまったのだ。これが歪んだ形の希望として心にわきあがる。もう剣客では無くなった八郎は、秋山小兵衛と正式な真剣勝負はできない。だが不意打ちならどうか。その時小兵衛はどう動くか見てみたい。そう思いはじめる。
     八郎の下宿に伊之吉がやってくる。岡本にもここは教えていないはずだがと応対すると、伊之吉は岡本の命が危ない、助けてやってくれ、と訴えて来る。

    ・旋風
     伊之吉は、岡本が森平七郎というはるかに技量が上の相手を、かなわぬと知りながら斬りに行くことを八郎に話す。助っ人が二人つくが、それでも森は倒せないだろうという。 
     八郎は岡本が死を覚悟するほどの強敵と立ち会ってみたいという気持ちがわきあがってくるのを感じる。伊之吉から場所を聞き、刻限まではいましばらくの余裕があると知ると八郎はゆっくりと身支度をはじめる。
     その頃岡本弥助は早川太平、古沢伝蔵という二人の剣客と一緒にとある料亭に待機している。二人とも何度も一緒に刺客として仕事をした仲で腕も確かだが、今回は相手も三人らしく、森の腕を考えれば勝算は低い。それでもやらねばならない。

     お信は八郎に聞かれたことが気になって、堀大和守とはいかなる人物か、と伯父に聞く。伯父は真田藩士だった頃に知った、将軍位をめぐる紀州と尾張の暗闘をお信に話し、これに勝利した吉宗は将軍となってからも暗殺の危機があり、これに対抗するために幕府の隠密とは別に吉宗直属の隠密集団を作ったこと、それには「蜻蛉(せいれい)組」と呼ばれるものと伯父は特に名前を知らぬものの二つがあったこと、紀州以来の家来・伴(とも)格之介率いる前者は格之介の死後に自然消滅したが、もう一つは今も活動していて、その元締めが堀大和守であることを明らかにする。
     だが吉宗は既に世を去っており、堀の役目も本来は終わっている。だが堀は自らの存続のため、部下を金のために暗殺を請け負う集団に変えてしまったらしい。そして岡本はその手駒なのだ。森も同様だったが堀を裏切り、逆に暗殺の事をばらされたくなければ大金をよこせ、と脅迫するようになってしまった。

     八郎は襲撃に決めた夜明けが近付くと、仲間を起こして支度をし、森の家に向かう。これを見張っていた伊之吉が八郎に知らせる。

     この日、秋山小兵衛は旧知の絵師・友川正信の隠宅に遊びに行っていたが、翌朝は稽古があるので夜通し歩いて帰ることにする。この正信の隠宅は鐘ヶ淵にあり、後に譲り受けて剣客商売本編の舞台になる。

     森平七郎は近隣では温厚な学者と思われている。護衛の剣客が二人いる。寝静まった家の戸を泥棒上がりの小物に外させて岡本、早川、古沢の三人が斬り込む。早川は若い剣客と互いに傷を負わせての戦いとなり、古沢は年配の剣客とにらみ合う。岡本の相手は森平七郎だが、どうも襲撃は感づかれていたようで不意打ちの利は失われている。
     まともに立ち会えば岡本は森に遠く及ばない。負けを覚悟して岡本は森と斬り結ぶが押しまくられて尻もちをつく。そこに森に後ろから組み付いて投げ飛ばし、さらに体当たりで吹き飛ばした男がいる。男はそのまま森を圧し潰すように、持っていた短刀を抜いて突き入れる。

     早川も古沢も相手の剣客を倒し、岡本は引きあげる。古沢はかすり傷だが早川は太股を槍で突かれて重傷だ。八郎をここまで案内してきた伊之吉が早川を背負う。八郎はその後からついてくる。岡本は伊之吉に八郎を巻き込んだことを叱責し、八郎には侘びを言うが八郎は受け付けない。やがて早川が痙攣をはじめ。伊之吉に代わって古川が早川を抱き起すがそのままこときれてしまう。そこにどうかなされたか、と声をかけた者がある。秋山小兵衛である。

     岡本、八郎、伊之吉は少し遅れていたのでそのまま身を隠し、古沢が小兵衛と言葉を交わすが、小兵衛が小柄であることもあり、見くびったのか一気に斬ってしまおうと剣を抜く。だが倒れたのは古沢だった。八郎は小兵衛の神速の技を目の当たりにする。小兵衛はそのまま去っていくが、仲間がいることは察している。その中に一人、体格に見覚えがあり、誰だったろうかと考えている。
     小兵衛は翌朝市蔵を見て顔色を変える。市蔵から八郎を連想したのだ。あれは八郎に間違いない。

    広告
    コメントを書く
    コメントをするには、
    ログインして下さい。