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「失楽園(ミルトン著)」第一巻
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「失楽園(ミルトン著)」第一巻

2021-04-18 19:00


    ・同じタイトルの本が今はほかにもたくさんあるけど、その本家。巻末の解説によれば十七世紀イギリスの中産階級に生まれた詩人ミルトンが残した歴史的著作で、読者として想定されたのは当時イギリスで起きた清教徒革命のためにそれまでの信仰の土台が崩れて戸惑う人々だったらしい。
     イギリスのキリスト教会はローマ・カトリック教会から分離して、いわゆる新教(プロテスタント)の一角をなす英国国教会もしくは英国聖公会(アングリカン・チャーチ)となっていくわけらしいけどだからといって完全に関係を断つわけでもなくいろいろカトリックと妥協的な立場をとる人と、それが許せないという反体制的な人、いわゆる清教徒に分かれていく。反体制派は弾圧されて最終的には新大陸アメリカに移っていくことになる。信仰することはそうした揺らぐ体制のどこに自分の居所を見つけるかという心の葛藤につながるみたいな。
     ミルトン自身はもともと英国国教会の聖職者を目指していたらしいけど清教徒的な考え方に共感する部分もあり、国教会の清教徒に対する弾圧を目の当たりにしたこともあり詩人を目指すことにしたらしい。彼は旅に出てガリレオ・ガリレイに会ったりもして本国に戻り、いろいろあって清教徒革命の立役者で当時の国王を処刑して共和制を標榜しながらライバルを弾圧して事実上の独裁者となったクロムウェルのスポークスマンみたいな立場になる。こういう仕事をするのはいささか不本意でもあったらしい。だがクロムウェルが死亡するとミルトンの立場も悪くなり失明したりもして、死罪となるところをなんとか免れて、この失意の時代にようやく解き放たれたように後半は口述筆記を行って仕上げたのがこの「失楽園」で、この第二版を出版して間もなく65歳で死んだという。

     という背景を持っていることを頭に置いて読んでみる。有名な本だけど学生時代に挫折して、ちゃんと読んだことは無かった。

    第一巻
     語り手は人間のようだが誰かはわからない。アダムとイブの子孫が遠い先祖を陥れたものについて語っているみたいな。
     全ての人類の母である存在を誑かしたのは蛇であり、その蛇はサタンに宿られていた。
    天使ルシフェルであった彼は神に背き、多くの天使を従えて神の座を狙ったが敗北して地獄に落とされる。敗残の天使たちは不死なのでいつまでもこの地獄にいないといけないのだが、長い時間がたつうちに失意から立ち直ってくる。ここでいう地獄は地球が作られる前の地獄なので、世界の果ての果ての暗黒の世界みたいな。
     サタンは隣にいた片腕だったベルゼバブに語りかけてもう一度戦おうみたいに鼓舞すると立ち上がり、周囲の他の仲間たちにも呼びかける。まずモーロックがそれに答え、次に邪神ケモシ、さらにバアルとアシタロテ、アシトロテもしくはアスタルテ、タンムズ、海の怪物ダゴン、リンモン、さらにはオシリス、イシス、ホルスといったエジプト人を惑わした者たちなどが延々と続き、最後にベリアルがやってくる。
     アザゼルがサタンの旗を掲げると彼らは整列し、サタンから神が新たな計画として新しい世界と新しい種族を創造しようとしていることを聞かされる。サタンはこの地獄を脱してこの新しい世界へ行こう、と呼びかけて、詳しくは協議によって決めたいと天使マンモン率いる工作隊に拠点となる万魔城(バンデモウニアム)を建設させると命による重要会議へ彼らを招集する。

     ベルゼバブとアザゼルとマンモンははっきり元天使と書いてあるけど他はよくわからない。

     以下訳注より補足。

    ベルゼバブは旧約聖書、新約聖書ともに登場するそうでヘブライ語で蠅の王というのはよく知られている。この作品ではサタンの分身みたいな役どころらしい。

     モーロックは聖書ではモロク。アンモン人の崇拝した火の神で牛頭人体とある。
     H・G・ウェルズの「タイムマシン」に登場する悪役未来人の元ネタかもしれないみたいに英語版ウィキには書いてあるけど記述が少なくてよくわからない。

     ケモシはアルノン河南部地域に住んでいたモアブ人の神とのこと。

     バアルとアシタロテは豊饒を表す男性神と女性神。

     アシトロテ(アスタロテ)は愛の女神でギリシャ神話のアフロディーテ、ローマ神話のヴィーナスとのこと。

     タンムズはフェニキュアの男性神でギリシャ神話のアドニスと同一らしい。

     ダゴンは古代セム族の農業神だがのちに半人半魚の海神となったとある。同一かわからないけどこの名前はクゥトルー神話でもおなじみ。

     リンモンはシリア人の拝んだ風と雨の神と書いてある。

     オリシス、イシス、ホルス、は日本でも有名。
    オリシスは冥界の王でイシスはその妹であり妻、ホルスはその子。太陽の子とは書いてないけどウィキペディアだと太陽神でもあるらしい。

     ベリアルは旧約聖書では「無頼」「無価値」みたいな意味で、新約聖書だとサタンと同一視されているとか。ベリアルの子供がジードとかは書いてない。

     アザゼルは本文にはもと智天使とあるけど訳注では悪魔の一人とだけ書かれている。

     マンモンは富の擬人化みたいなで、天使の中で最もさもしい根性の持ち主で悪魔になっても最低の悪魔みたいな。

     はっきり名前を拾えない神々も今は悪魔の一員として数えられているようで、要はキリスト教以前のエジプトやギリシャ・ローマ神話の神々も、アンモン人とかセム人とか異民族が信仰した神々も、全てサタンに加担して地獄に落ち悪魔になったということになっている様子。
     かなり強引な我田引水にも思えるけど、それは著者の信仰であり聖書の解釈だったのだろう。
     エジプトやギリシャ・ローマ神話の神々が悪魔扱いされていたとは知らなかった。何が何でもそうしたものを否定したかったんだろうな。

     サタンが神に叛逆した時点ではまだ地球も人間も存在しないので、その段階でエジプトやギリシャ・ローマの人々が信仰した神が登場するのが構造的におかしいような気がしないでもない。
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