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「奥州白河・会津のみち(司馬遼太郎著)」①奥州こがれの記
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「奥州白河・会津のみち(司馬遼太郎著)」①奥州こがれの記

2021-06-16 19:00


    ・奥州こがれの記

     平安時代に京の都で暮らす貴人・文人にとって、奥州はみちのく・みちのおく・おくなどとも呼ばれてあこがれの土地だったという。
     現在の福島市も信夫郡とか信夫荘などと呼ばれて、乱れ模様の絹布の産地として知られていた。信夫捩摺(しのぶもじずり)とか忍摺(しのぶずり)とか呼ばれたらしく、百人一首に

    陸奥(みちのく)の しのぶもぢずり 誰(たれ)ゆゑに
                          乱れそめにし われならなくに

     という歌がある。もともとは古今和歌集に入っていて、こちらでは

    みちのくのしのぶもぢずり誰たれゆゑに                               
                    みだれむと思ふ我ならなくに
     となっているらしい。違いがあるのは百人一首の選者が手を入れたとも。

     この歌を詠んだのは平安時代初期の源融(みなもとのとおる)という人で、光源氏のモデルの一人とも呼ばれているらしい。そしてこの人はものすごいみちのくマニアだったらしい。
     源融さんが生まれる10年ほど前に坂上田村麻呂が死んでいて、田村麻呂は征夷大将軍として東北に遠征して反乱を平定して凱旋したとある。司馬さんによると戦闘で圧倒したのではなく理を説いて農業をすすめて帰ってきたらしい。
     そのため源融さんの子供時代はこの遠征軍が持ち帰った奥州知識が都に蔓延していたのだろうという。
     融さんは嵯峨天皇の息子であったが源姓を賜って臣籍に入り、出世も早かったらしい。この間陸奥出羽按察使(あぜち)という官職についたことから奥州の産物にも詳しくなったらしい。
     別荘や庭園も造って、宇治の平等院もこの人がもともと別荘として作ったものだとか。京都の下京区には河原院(かわらのいん)と呼ばれた別荘も造り、奥州塩竃の景色を模した豪華な庭園を備えて当時の文人墨客のサロンとして使われたという。
     この評判から河原大臣(かわらのおとど)と呼ばれたりもしたらしい。この河原院も現在は枳殻邸と名を変えて残ってはいるのだが、江戸時代に改装されて当時の面影は無く、非公開だという。
     と司馬さんは書いているが現在は見学可能で、ここが河原院跡地という説も否定されているらしい。執筆当時はそうだったということか。
    渉成園 -枳殻邸- (higashihonganji.or.jp)

     司馬さんは今後研究が進んで詳細が明らかになるかもしれないと断りつつも、この源融という人物と河原院がみやこにおける奥州ブームの原点ではないかと書いている。

     そこから都人の間に北へのあこがれが生まれ、少し後の壬生忠岑(みぶのただみね)は陸奥の名取川を歌に詠んだ。
     藤原実方(ふじわらさねかた)という公家は陸奥守に任ぜられると左遷とは思わず大喜びで赴任して、歌に詠まれたみちのくの名所を訪ね歩いたという。阿古屋の松を探したが見つからず、老人に
    「昔は陸奥も出羽も一緒くたにみちのくと呼ばれていましたが、あのあこやの松というのは出羽にあるのです」
     と教えられたエピソードがあるらしい。現在の山形県千歳山あたりのことらしい。
     この人は清少納言と交流があったらしく、枕草子にこの人の東北赴任を思いだして書いたのかもしれない
     陸奥国(みちのくに)へいく人、逢坂(あふさか)越ゆるほど
     という文があるという。

     現在の郡山市のあたりは安積(あさか)の沼と呼ばれた沼地であり、ここには「花かつみ」と呼ばれる花があることになっていてさかんに歌に詠まれたが、誰も実物がどんなものかは知らなかったという。
     松尾芭蕉はこの花を現地で訪ね歩いたがわからなかったとか、しのぶもぢ摺りゆかりの里に行ったとか、名取川を渡ったとか書いているらしい。

     司馬氏の自宅近くの高槻市は昔は摂津の古曾部といったそうで、ここに能因法師という人がいた。実方の少し後の人で、行ってもいないのに白河の関に行ってきましたなどという歌を詠んだりもしたというのだが、全く東北と縁がなかったわけではないらしくて献上品として京にやってきた奥州の馬を一時的に飼っておく牧場を持っていたらしい。
     四十を過ぎるころから二回、本当に奥州に旅したとも。これは馬の交易のためだったのかも、と司馬さんは書いている。
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