ユーザーブロマガは2021年10月7日(予定)をもちましてサービスを終了します

【クッキー☆SS】クッキー
閉じる
閉じる

新しい記事を投稿しました。シェアして読者に伝えましょう

×

【クッキー☆SS】クッキー

2021-02-14 12:15

    「また来たの?」
     幼少期の頃からいちごは体が弱く、入退院を繰り返し、
    学校はほぼ休学というかたちをとり、
    まともに通えていない。ご近所で親同士がとても仲がよく、家族ぐるみの付き合いを
    ずっとしており、彼女とは姉妹のような関係だと私は思っている。
    今回は生死に関わる大手術のため、特別な病室に入れられ、面会の日は限られている。
    「今日はこの前失敗したやつのリベンジ、ワッフルです」
     味気の無い病院食ばかり食べているのは、むしろ心にとっては毒だ。
     実家がお菓子の材料屋である私は、よくお菓子を食べ、作り、
    いちごにおっそわけをしている。彼女は体つきから想像もつかない位、よく食べるのだ。
     本当は病人にお菓子なんてあげてはいけないけど、油や砂糖をあまり使わないように心がけ、
    すっきりとした味付けにすれば、少し位食べてもいいだろう。
    「おいしい」
     いちごはワッフルを手に取り、布団に欠片を落とさないよう、丁寧に頬張っている。
     一つ二つと口に入れていき、彼女は全て平らげた。
    「いつもありがとうね、にょん」
     あなたのお菓子は病院での唯一の楽しみだわ、と彼女は言ってくれた。
     次の面会日は3日後、手術前に会える最後の日だ。
     バイバイ、と病室を後にし、私は次のお菓子の構想を練るのであった。

    「娘は死にました」
     手術を翌日に控えたある日、彼女の両親は目に涙を浮かべ、彼女の死を告げた。
     私は混乱した。最後の会話を思い出そうとしたが、よく出来なかった。
    「どうして死んだの?」
     彼らの口から語らせるのは酷なような気がした。それでも私は知りたかった。
     にょんは2日前、病院に来る途中の横断報道を渡っている時に、
    車に轢かれた。即死だ。
     涙は出なかった。あまりに唐突だから、処理が追いつかなかった。
     彼らはにょんが病院に来る途中に持っていた小さな箱を手渡し、
    病室を去って行った。
     この小さな箱は彼女から十数メートル離れたマンホールの上の、
    バッグから出てきたものらしい。
     私はしばらくその箱の外観を眺めていた。
    やがて、真っ白で飾り気のない紙箱を眺めるのをやめ、箱を開けた。
     中には予想通り、お菓子が入っていた。クッキーだ。
     そのクッキーの上には小さく折られた一枚の紙があった。
     なんだろうと私は思い、その紙を手に取り、広げる。
     にょんの普段書く丸っこい字から、かけ離れ、
    白紙に黒く、力強く書かれていた。
    『生きて』


    広告
    コメントを書く
    コメントをするには、
    ログインして下さい。