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【クッキー☆SS】夢の話
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【クッキー☆SS】夢の話

2021-03-05 00:44

     夢の話だ。
     目の前には薄灰色の土で出来た、靴跡や轍で押し固められ、
    その上傾斜がひどく、今にも滑り落ちてしまいそうな坂道があり、
    私は反射ベストを羽織り、誘導棒を握り締めながらも、
    軽々と登り進めていた。
     季節は多分夏だ。
     しばらくすると、炎天下の中、顔と背格好が全く同じの
    ヘルメットしか被っていない裸の男達が、パイロンとトラ柄のバーの奥で
    猫車で瓦礫を運んでいたり、ランマ―で砕石を平らに均していたりしていた。
     ここでいくつかの矛盾点が生じる。
     まず最初にこの夢を見始めた時、上目で坂を望むと、
    そこには途方もなく続いている道があり、人影どころか、
    遮蔽物一つ無く、その上に物でも置こうものなら、
    たちまち転げ落ちてしまい、工事作業なんて出来たものではない。
    しかし、それでも夢の中では、男達は活発に働き、
    私と同じ位高さの大岩や、砂埃に塗れた真っ黒なゴム板があったり、
    水の流れていない枯れた川の上には、鉄足場が置かれ、その上を渡ったりもした。
     ある一人の作業をしていた男が私に話しかけてきた。
    その男以外の作業員は皆一様に押し黙り、顔色一つ変えず、
    黙々と体を動かしている。不思議なことに交通整備で暇そうな男や、
    U字ブロックに座り缶コーヒーを飲んでいる男もいたのに、
    その男は土で汚れたツルハシを積んだ猫車を止め、わざわざ近づいてきたのだ。
    どんなことを話したか、内容はさっぱり覚えていないが、
    「気を付けてな」
    と別れ際に言っていたことだけが、頭にこびりついている。
     ここでもやはり夢特有の意識の違いが生じていたのだろう、
    その男ただ一人だけが、顔の表情を変え、感情があったというのに、
    そのことには全く触れず、会話を終えている。
     坂道を登りきると、海があった。
    海と坂道の間には、横一直線に丈の短い夏草が青々と茂っていて、
    畔が海を塞き止めている。何時か子供の時に夢想していたこと、
    そのままの光景が目の前に広がっている。
     畔を踏まないように、海に落ちないようにしながら、
    下を覗き込むと、その底の知れない黒々とした海面が恐ろしくなり、
    それをごまかすように、すぐさま遠くに浮かんでいる入道雲と
    人工的な色合いの空を見るため顔を上げる。
     ふと、今まで登ってきた道程を見てみたいと思い、
    シロツメクサを踏みにじりながら、振り返ると、
    そこには何も無かった。
     目を刺すような真っ白な空間を目の当たりにし、私はよろめく。
     夢の中の私が思ったことは、世界がこの小さな畦道と海しかなくなって
    しまったことに対する危惧だったような気がするが、
    それも今思うと中々見当違いな気がする。
     後ずさりして畔を踏んでしまい、靴を抜き取ると、
    そこからどんどん海が湧き出て、遂には地面にまで溢れてきた。
    ダムの決壊のように海水が地面を覆い隠し始め、私は走る。
     水はあの虚空の中に滝のようにほとばしっているはずだが、
    後ろも見ずに走り続けていて、あの水がどうなったかは分からない。
     そのうちに追い付かれ、私は海にのまれ虚空の中に落ちていった。
     目が覚めると、隣にはノエルが寝ていて、震える手で彼女の腕を握り、
    布団を深く被り、もう一度目を閉じて眠ってしまった。
     あの一人だけ感情を持っていた作業員の男は、
    誰とも喋ることなく、孤独の中で寒々しく生き続けながら、
    瓦礫を運んでいるだろうか。
     ラジオのツマミを弄っていたり、缶詰を開けていたりしていたり、
    ノエルと一緒に庭いじりをしている時に、そんなことを思う。


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