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僕はたいした理由もなく君の手を握る 第七章
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僕はたいした理由もなく君の手を握る 第七章

2014-04-26 19:54

    訓練所ではマジカルステッキの使い方から、実践訓練までありとあらゆることを一通り教わった。得手不得手は関係なかった。誰でも一通りできるようになることが目的だった。

     訓練はかなり厳しいもので、実践(じっせん)訓練となると気を張っていないと命にかかわる。おまけに攻撃魔術やマジカルステッキでの格闘しなくてはならなかった。実際に市街地で市街戦の訓練もやった。連隊を組んだ時と個人行動の場合の両方の場合を想定したため指導官も容赦(ようしゃ)がなかった。

     大切なのは非情になれるか。そして、どうやって他人を欺(あざむ)くか。優雅になんて言っていられないのだ。

     もはや魔法少女に礼儀は必要ない。

     敵でも利用価値があれば生かすし、自分に危害を加えるようなら仲間でも殺す。事を難しく考えては駄目なのだ。直感による選択が明暗を左右する。

     結局最後に頼れるのは自分自身だ。

     ハードな戦闘訓練でそういったことを全身に叩き込まれた。

     訓練をしていると色々なことがどうでもよくなっていく。目の前の事が精いっぱいで余計なことを考えなくなるのだ。それは人間関係でも同じで、疲労困憊(ひろうこんぱい)で他人の事を気にしている余裕はない。

     全体訓練のカリキュラムが済むと、同期の部隊はいくつかの小隊に分けられ、訓練はその小隊で行われることのなった。全体訓練の成績や、得手不得手で区分けされたようだった。

     私の配属された小隊のカリキュラムには通信部隊の科目が多かった。殆どが、味方の暗号化された魔術通信を、解読してタイプし直すことだったが、中には通信傍受(ぼうじゅ)の技術や特殊な魔術の解読法といった、一定のスキルが必要なものもあった。ただ、私にとって暗号解読は言葉遊びのようなもので自分の専門分野の応用が利くので、楽に出来ることだったし好きだったのだが、周りはそうでもないようだった。


    ―――


     講義が始まるまで講義室で、暇つぶしを兼ねて、ちょっとひねった暗号を解く。訓練と訓練の合間の自由時間は一人で過ごす方が多かった。

     人づきあいは嫌いじゃないが徒党(ととう)を組むのは気を使うのでそんなに好きではないし、面倒くさい。単独行動の方が性に合っていた。

    「ねえ、ちょっとやってもいい?」突然、切れ長の目のかわいらしい女の子が話しかけてきた。

    「解ける? 結構難しいけど、これ」私は意地悪そうに言ってみた。

     それを見て笑いながらペンを走らす。

    「どう?」 

    「合ってる」

    にこりと笑って、

    「どう? すごいでしょう」満面の笑みを見せた。

     すごく人懐っこい子だった。

    「なかなかね」

    「まだ時間あるし、何か話そうよ。少しは楽しいことしないとね」

     彼女はシジレと名乗った。本名はシジレスレンと言うらしいが、長ったらしいのでみんなシジレと読んでいるらしい。透き通る白い肌だが、髪の毛は黒くどことなく東洋風の顔立ちで、よくよく後で聞いてみるとルーツにロシア系とモンゴル系の血が入っているそうだ。

     彼女は暗号解読の能力が特別優れているわけではないが、器用で臨機応変に対応できる応用力が優れていた。センスがいいという奴だ。魔法の通じない場所でも五種類ほど言語の基本的な読み書き会話が出来るそうで、暗号解読が得意なのは、多分その所為(せい)だろうというのが彼女の弁だ。ただ、全部中途半端にしか出来ないそうで、高度な文章はお手上げらしい。

     誰とでも仲良くなれる才能があるようで、小隊内でもすぐに人気者になった。シジレと言うあだ名も遠くでも聞き取りやすいし、発音しやすいという理由で、シチレーへと変化していったた。

     彼女は人気者なので様々なグループのお誘いが多いのに、事あるごとに時間を見つけては一緒に行動してくれた。彼女のおかげで、小隊のメンバーとも良い関係を保てるようになった。


    ―――


     休日の日は外出許可が与えられる。一応、組織所属の魔法少女という事で給料も出た。

     街に出ると組合の福利厚生施設がいくつかあり中には劇場やサロン、運動場などもあり娯楽にはさほど困らなかった。

     数週間ぶりに私はサロンでレーニャと再会した。レーニャは私に、

    「最近どう?」と挨拶代わりに聞いてきた。

    「どう? といわれても……まあまあかな」私は上手く答えられなかった。

     レーニャは別部隊に配属されてしまっていたので、会う機会も少なくなっていたせいで、会話にぎこちなさと言うか居心地の悪さが感じられた。色々昔の様には上手くいかない。

    「私の方も良くもないし、悪くもない」

    「そう」

     何を言ったらいいんだろう。適当な言葉が見つからなかった。サロンの二階の吹き抜け部分に寄りかかって下のホールを見下ろしながら、しばらくの間たいして中身のない話をして、調子が戻るのを待っていた。

    「アリサぁ!」後ろの方から、シチレーの声がした。しばらくして、近づいてくる人影が見えた。

    「シチレー?」

    「奇遇だね、アリサもここにいたんだ。この人は?」

    「レーニャ、学舎のルームメイトだったの」私はシチレーにレーニャを紹介すると、今度は「この子はシチレー。私と同じ小隊に所属してる」とレーニャにもシチレーを紹介した。

     二人の挨拶(あいさつ)と自己紹介がおわると、私たちは一つのテーブルを囲い、コーヒー片手に他愛のないおしゃべりをした。

     レーニャとシチレーは、出身地が近いらしくその話して盛り上がっていた。シチレーと話すレーニャは、良く笑って楽しそうだった。久しぶりに笑うレーニャを見た気がする。

     そのあとも色々と三人で話をして会話を楽しんだ。

     そのうちシチレーは、また別の友人を見つけて、一旦席を外し、そっちの方へ行ってしまった。

     元々、特定の誰かとずっと話し込むような空間ではなかったし、みんな飲み物片手に席を移動して情報交換なんかをしていたから。別におかしなことではなかった。

    「いっちゃったね」

    「なんか変なかんじだね」私は微笑いながらいった。

     どこかに取り残された感じで、奇妙な喪失感があった。それはレーニャも一緒だったようだ。パーティが終わって、みんなが家路につくような寂しさに似ていた。ほとんど残っていないコーヒに口をつけていると、

    「ねえ、別の場所に行かない?」レーニャが聞いてきた。

    「どこへ?」

    「もっと静かなところ。飲めるところも、時間を潰せるところもいくつか知ってる」

     少しの間をおいて、

    「いいよ」と私は頷いた。

     レーニャと一緒に外に出て、家出をする少女のように静かにサロンの扉をしめた。その日は私は時間が許す限り、レーニャと一緒にいることにした。



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