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僕はたいした理由もなく君の手を握る 第十章
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僕はたいした理由もなく君の手を握る 第十章

2014-04-27 19:05

    俺はぐったりとした少女を連れて、連絡もなしにミハイルの事務所に転がり込んだ。

     突然の事にミハイルは驚いていたが、ただ事じゃないことをすぐに察した。

     ソファーに少女を横たわらせ、俺も近くの椅子に腰をうずめたミハイルはすぐに「一体どうした、何があった?」と聞いてきた。

     声の様子からは不安とも焦りとも取れるものを感じた。

     俺は何があったのかを端的に説明する。

     ミハイルはそれを聞くにつれて、表情が険しくなった。

    「ちょっといいか?」

     急に服の中に手を入れられた、何かを探しているかのような手つきで体をまさぐられる

    「ちょっと待て、一体何……」

    「だまってろ……。クソッ」

     俺の服の中から文字の書かれた小さな紙片とも布きれとも取れるようなものが出てきた。その取り除いたものはミハイルの人差し指と中指の間に挟まり、ミハイルは苦々しい表情でそれを見つめていた。

    「つけられてる。ここから逃げるぞ。今すぐに」ミハイルは言った。

    「えっ?」

     数秒もしないうちに、ドアがドンドンと暴力的にたたかれる音が聞こえた。借金取りでないことは明白だった。

    「ついてこい、カルナ。ここも危ない。前方は俺が対処するから後方を頼む」

     俺はソファに横にしていた少女を抱き上げると、後方を警戒しながら非常階段を駆け抜けた。逃げている間もミハイルは何かぶつぶつと呪文をつぶやいている。

     俺は、出来る限りの力を振り絞って走った。

     建物から、ある程度の距離まで走り抜けると、ミハイルの呪文が唱え終った。

     後方から閃光。

     そのあと爆音。

     ガラスが破れてこすれる音。

     転がる建物の破片。

     そして煙。

     事務所のあった建物は跡形もなく爆破されていた。

     追手が来ないことを確認して、物陰で一息つく。

    「悪かったな」俺は言った

    「何で謝る? お前の悪い癖だ。謝る必要のない所で謝ると変な罪悪感や、自己評価を過剰に下げ過ぎる、結果的に漬け込むすきを与えるだけだ」

    「いったい何が、どうなってるんだ?」

    「多分、俺のせいだ」ミーシャは言った。

    「どういう事だ?」

    「もともと俺は、ヤバい仕事に手を付けているんだ。基本は情報をそのまま右から左に流すだけなんだが、ここ最近色々とこじれてる。その報復みたいなもんだ」

    「ほんとうにそれだけか?」

    「多分な。でなければ、もっと上手に殺されてる。それよりも、その娘は大丈夫なのか?」

    「え?」

     血の気が失せている。さっきよりも反応が弱い。その癖、幾分か呼吸が荒くなってきている。

    「このままだと助からないぞ、どうする?」

     考える猶予(ゆうよ)は無かった。

    「この子の使い魔として契約して、魔力を分け与えるしかないだろう」俺は言った。

    「責任は取れるのか? 取れないようなら、俺が今ここで殺す。それがここでの責任の取り方だ」

    「おい、ちょっとまて!」

    「どうした、お前は半端な気持ちで助けるのか?」

    「この子は俺がすべて責任を持つ」

    「わかった」

     俺は少女に呼びかける「俺の声が聞こえるか? そして俺の言っている意味が分かるなら手を握ってくれ。」

     少女の指が動いた。確かに弱々しいが確かに手を握っている。

    「わかった。これからが、本題だ。このままだと君は死ぬ。まだ生きていたいと思うのならもう一度、俺の手を握ってくれ。俺の魔力を分け与える」

     少女の域は荒いままだ。

     俺の方が、心拍数が上がってくる。不安か興奮かもわからない。もう握り返す力もないかもしれない。それでも俺は待った。たった数秒の間の事だが、とても長く感じる。

     指がピクリと動いた。

     確かに弱いが、ちゃんと握っているのがわかった。

    「契約成立だ」

     俺は詠唱した。昔からの古風な契約の文言を呪文に乗せて。


    ―――

    「おつかれさま。気分はどうだ」

     まだ意識もぼんやりしているが、横たわっている少女を見る呼吸が安定して、顔色も良くなっている。上手くいったらしい。

    「詐欺師になった気分だよ……ん? そうか、この格好か」今更、契約すると自分の身体が使い魔の形態になるのを思いだした。俺は吸盤の付いた緑色のカエルになっていた。

    「軽口が言えるようじゃ問題ないな。それに相手の同意は取った」

    「究極の二択をさせて丸め込んだの間違いだろ?」

    「そこは嘘でも、正当だったと振る舞う所だ」

    「お前、悪魔だな?」

    「知らなかったのか?」

    「冗談も程々にしておけ」

    「場合によっちゃ、俺たちは悪魔以下だ。元々、使い魔って概念は魔女が善悪に分類される前の外部からの魔術的な力をコントロールしたのが始まりだ。だから余計に俺たちの在り様(よう)は不当な位低いんだ。行くぞ」

    「どこへ」

    「俺の家だ」


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