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僕はたいした理由もなく君の手を握る 第十八章
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僕はたいした理由もなく君の手を握る 第十八章

2014-04-29 19:43

    ミハイルから、仕事内容を伝えられた。派遣という形で特殊な仕事をする部隊に入る。そこで、与えられた仕事をこなすという形だ。特殊部隊に雇われた傭兵のような仕事らしい。聞いただけで十分汚れ仕事だが、それでもまだマシらしい。

     報酬の面では、俺が呪文学の学士持ちという事で、一般より、給与の面で色がついた感じだった。一人暮らしなら、三か月は働かなくても暮らせる額だ。使い魔なので扱いは低いのは相変わらずだが、それでも命がかかっているだけ、好条件ではあった。

     召集令状などで召集されたら、生活するのがやっと位しかもらえない。

    「さすがに、今はこういう仕事しかないよな」

    「危なくない仕事も探してみたんだが、そういうのは一部に独占されてるか、極端に報酬が低い」

    「今は何やっても危険は隣りあわせか」

    「そういう事だ」

    「工作って言っても、特定の思想に偏るわけじゃないってのは変わっているな」

    「組織の目的は、争いを止める事らしい。打た、止めるためには直接の暴力や犠牲も厭(いと)わないというスタイルだ」

    「組織を疲弊させて停戦に持っていく」

    「内部からの無力化か」

    「簡単に言えばね」

    「無茶を考える奴もいるな。で、今までお前はそう言う事に手を染めてたわけか」

    「詳しく話そうか?」

    「余計な事を知りすぎるのはトラブルのもとだ」

    「賢明な判断だ」


    ―――

     次の日は、朝からパーティの準備に取り掛かった。戦場へ行く俺たちへの手向けでもあった。

     コーディリアも、これから大変なことが起こると伝えてあったが、実際のところ派遣先の現場がどんな状況になっているのかというのがわからないから、実感もクソもなかった。

     結局、こういうのは実際に行ってみて、現実を見つめなければ誰にも理解できない類の事だ。考えても仕方ないのかもしれない。

     買い置きしてあったキュウリ、トマト、ピーマンなんかのピクルスが入ったの大きなビンを引っ張り出し、ジャガイモや串焼きにする塊の肉も用意した。他にもチーズやソーセージ、お酒とジュースの瓶をミーシャが調達してきた。ここまで揃えるのは至難の業だ。

     午前中は、料理の下ごしらえで終わってしまった。ミーシャはその後もベランダで、どこからか引っ張り出してきたロースーターに薪と炭を入れ火を起こして肉を焼いていた。

     そして夜になる前に、パーティを始めた。新年の祝いにも誰かの誕生日にも似た親しいものたちだけのパーティだった。

     食事をしながら、会話したり簡単なゲームをしたりしているうちに時間は過ぎていった。

     この身体じゃ大して、食べ物も入らない。

     コーディリアはジュースを好きなだけ飲んで、贅沢な食事を楽しんだ。

     俺はキュウリとニンニクのピクルスを幾つかと、サラミソーセージを腹に収めた。

     しばらくすると、ミーシャが「飲もう」と言ってきた。

     ショットグラスをテーブルに置き、ミハイルは透明な液体を注ぐ。

    「まだグラスは持つなよ。手酌すると運が逃げる」

     酒のビン。ラベルには、正しいかわからないがキリル文字でスチヒーヤ』と読める文字が書いてあった。見た目からしてなかなか強そうな酒だ。

    「二人の友情に乾杯」

     そう呟くと、無理やりショットグラスをの中身を一気に飲み干し、俺は思いっきり床に投げつけた。

     グラスの割れる音が頭に響く。

     身体中が熱くなり目が回り、

     そして、意識を失った。


    ―――


    「コーディリアは倒れた君を親身になって介抱しようとしたんけど、途中で断念したよ。スパイスに付け込んだ肉みたいに生臭い。だってさ。言い得て妙だね。今の君はある意味で下ごしらえした食用ガエルだ」目が覚めたら、ミハイルにそんなことを言われた。

    「コーディリアは?」

    「眠ってる」

    「そうか」

    「まあ気付けに一杯どうだ?」

     ミーシャはグラスを勧める。

    「結構」

     そういうと、ミーシャは俺に勧めた酒をくいっと飲み干した。

    「お前そんなに酒弱かったっけ?」

    「この身体だからな、もともと強い方じゃないけどな」

    「勿体ないな」

    「そうは思わないよ」

    「時間はまだある。まあ景気よくいこう」


    ―――


     ミーシャの家を後にするときは、余計な言葉は交わさなかった。

     コーディリアを抱きしめ、声をかける程度だった。

     俺に対しても「無事を祈る」の一言。

     俺も、こういう時何を言っていいかわからなくなる。家族という訳でもないし、友人ではあるが、そこまで深入りしているような関係でもない。コーディリアもミハイルも全員他人だった。一時だけ同じ時を共有するだけの。

     それでも別れるときは胸が痛い。


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