小学生のときに、憧れて始めたピアノ。

大好きだったけれど、ある日、「これ以上は上手くならないな」と限界を感じてやめてしまいました。

そのときにわかったのが、好きなことが自分に向いているとは限らないってこと。

でも、そんな誰もがぶつかるであろう壁を乗り超えて、というかぶち壊して、夢を叶えた女性がかつて実在したのです。

音痴なのにカーネギーホールを満席にした女性

その女性の名前は、フローレンス・フォスター・ジェンキンス。音痴にもかかわらず、音楽の殿堂であるカーネギーホールを満員にしたのです。

そんな夢のようなストーリーが、映画『マダム・フローレンス! 夢見るふたり』となってよみがえりました。

音程を外す練習をした

主演のフローレンスを演じたのは、大女優のメリル・ストリープ。『マンマ・ミーア!』や『幸せをつかむ歌』で圧巻の歌声を披露してきた彼女が、本作品では音痴な役柄に挑戦しています。

メリルとは真逆ともいえるフローレンスを演じた感想を聞いてみました。

「フローレンスは音痴なんだけど、心から歌を愛していた。彼女はお金を持っていたので、もともとは寄付をして音楽家を支援していたんだけど、本当は自分自身が歌手になりたかったの。そんな彼女を演じるために、まずは2か月しっかり特訓をして、最後の2週間で音程を外す練習をしたのよ」

もともと抜群の歌唱力を持っているメリル。音程をしっかりとれる人がわざと音を外すのは、とても難しそう。

大女優になったいまでも、役作りに対して真摯に向き合う姿に、彼女のプロ意識を感じます。

女性が活躍する役が増えてきている

本作では、フローレンスの前向きな姿勢はもちろんのこと、「カーネギーホールに立ちたい」という夢を一緒に叶えるために奮闘する、夫のシンクレア・ベイフィールド(ヒュー・グラント)の献身的な姿も描かれています。

男性の主人公をヒロインが支える、という映画はよく見かけますが、その逆はめずらしく感じます。しかも本作主人公・フローレンスは70歳を超える高齢。

この配役についてメリルは、

「今回の作品は、アメリカの映画史のなかで、初めて70歳以上の女性が主人公の映画だと思うわ。映画界では、年齢や女性ということで、映画に出るかどうかという決定権を、オーディエンスが何を望んでいるかに左右されることが多いの。でも、いまは女性の役が増えているし、テレビドラマのようなシリーズものにも女性の良い配役があるわ。そういう女性の活躍を観たい、と思っている観客がいることが証明されてきていると思う」

と話してくれました。

これまでハリウッドでのジェンダー問題について、自分なりの意見を発信してきたメリル。長くハリウッドで活動する彼女だからこそ、「いまオーディエンスが何を映画に求めているのか」を敏感に感じることができるのではないでしょうか。

「いまでも夢を持っている」

最後に、メリルに「フローレンスのようにいまでも追い続けている夢はありますか?」と聞いたところ、

「あるわ。いまでも歌手になりたいって思ってる。あまり上手くはないけれど、努力はしているわ」

とチャーミングな笑顔で答えてくれました。

好きなことが自分に向いているとは限らない。でも、そんなことはまったくお構いなしに「好き」という気持ちに忠実に生きるフローレンス。

そんな彼女の素直さが、「好きなものは好き」と言いきる強さをくれる映画です。

マダム・フローレンス! 夢見るふたり

12月1日(木)TOHOシネマズ 日劇ほか全国ロードショー

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配給:ギャガ

取材・文/グリッティ編集部

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