そんなときに、思いっきりデトックスできるライブがあると聞いて行ってみました。
世界が注目するメディアアーティストを抱える「相対性理論」行ってきたのは、アーティスト「相対性理論」によるライブ「証明III」。
相対性理論は、2006年のデビュー以来「ポストYouTube時代のポップ・マエストロ」を名乗り、ポップやロック、テクノまでかけ合わせた中毒性のあるサウンドが特徴的な音楽ユニットです。
ボーカルのやくしまるえつこさんは、音楽家・アーティスト・プロデューサーとしても活躍。オーストラリアのメディアアート賞『アルス・エレクトロニカ』の『STARTS PRIZE』でグランプリを受賞して脚光を浴びました。
シリアスな歌詞とかわいらしい声とのギャップに引き込まれるライブは、最新アルバム『天声ジングル』のなかの、『ウルトラソーダ』という曲からスタート。
やくしまるえつこさんの、人の心情に寄り添うようなシリアスな歌詞に自分自身を重ねてしまいます。
気丈なふりで日常気取っても
震える指先 止められない 止まらない
けれど、歌詞とは裏腹に、やさしく包み込むようなかわいらしく透明感ある声質に、思わず疲れも忘れて聞き入ってしまいました。
相対性理論の世界観にのって、どこまでも深いところに落ちていく中盤、『弁天様はスピリチュア』というスローテンポの曲が流れ始めると、会場は暗転。
ゆっくりと流れるハープの音に揺られていると、徐々に天井に色とりどりの照明が光り始めます。
波のように、オーシャンブルーやエメラルドグリーンの光が揺れて、まるで海のなかから、寄せては返す波を見上げているような錯覚に...。
その先には、点々と星がきらめいて、まるで天の川のよう。
やくしまるさんが歌にのせる言葉も、現実から切り離すようなものへと変わっていきます。
脳しんとう 脳しんとう 脳しんとう 真っ白になるの
falling down falling down falling down 全部
もう一回もう一回 天の声聞かせてベイベ
もう一回もう一回 天の声聞かせてなんだい
まるで毛布に包まれているかのようなやさしいサウンドと、揺れる光の氾濫が、こり固まった心をほぐしていきます。
気がつくと、日常のさまざまな雑事が静かに体からにじみ出ていました。
胸がキュンとなる恋愛をしたい。でも、いまはとことん仕事に打ち込みたい気持ちもある。私、このまま仕事だけして年をとっていくのかな...。
ブルーライトに光るパソコンを消したら、黒い画面に反射したげっそりした自分の顔...。
そんな、日々のイヤなことが浮かんでは、ざぁ~ざぁ~っと、音と光の波のなかに流されていきます。
まるでその歌詞のように、自分自身も真っ白になっていくよう。
真っ白になるの
モーニングコールして起こしてね
モーニングコールしてね いつか
少し泣きながらも、眠りに入る前のようなリラックスした心地が続きます。なんだか、家のベッドで眠るよりも、ずっと深いところに落ちていけるよう。
流れゆく日々にどんなモヤモヤがあっても、これでいいやと思えるのが、相対性理論のライブ空間の不思議な力なのかもしれません。
もう無理...。限界がきたら自分を一度リセット夢のなかに浸るような心地よいライブが終わると、自分のなかのモヤモヤは、洗い流されていました。
もう無理、限界...。そう思っていた自分はどこへやら、いつの間にか気分はスッキリ。まるでデトックスされたみたい。
都会のカラカラに乾いた心に必要だったのは、相対性理論のライブだったんだ、と心も体も軽くなっている自分に気づきました。
やくしまるえつこ 最新情報9月8日にオーストリア・リンツのブルックナーハウスで、アルスエレクトロニカの授賞式(Prix Ars Electronica Gala)が開催。
グランプリ受賞者として、やくしまるえつこさんも式典に出席し『わたしは人類』のパフォーマンスを実演しました。
『わたしは人類』は、"人類滅亡後の音楽"をコンセプトに、やくしまるさんがバイオテクノロジーを用いて制作した作品。
微生物の遺伝子情報を基にポップミュージックを作り、その楽曲情報を遺伝子コードに変換、その情報をDNAに埋め込んだ遺伝子組換え微生物と音源(音楽配信やCD)を発表しました。
日本でも『わたしは人類』は2018年1月8日(月)まで金沢21世紀美術館で開催中の、コレクション展2「死なない命」で展示されています。
撮影/MIRAI sesaku, Hazuki Muto 取材・文/蜷川二奈
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