「ねこのひげ」。それは猫にとって、欠かせないもの。

平衡感覚を保ったり、周囲を感知したりするのに、とても大切な役割があると言われている。

当連載では、アーティストでありライターのJunko Suzukiにとっての「ねこのひげ」を紹介していきます。

路地裏に走り込む大きめのトラ猫。

待って待って!

話しかけながらカメラを構えると、ちらりちらりと振り返り、誘っているかのように路地裏へ消えてしまった。

そんな細い道、私じゃはいれないよぅ。ちぇ。

同時に、ある話を思い出した。『ルドルフとイッパイアッテナ』だ。

探究心と好奇心の向かう先

大学まではどちらかと言うと、「家」「学校」「彼氏」の3点しか動かない人間だった。

それが大学院くらいから、目まぐるしい変化を遂げた。

ひょんな出会いで知り合ったJリーガーのお兄さんがとってもおもしろい人だったのが、いま思えば小さなきっかけだったような気もする。

いろんな人と話したいなぁ。むくむくと膨らむ気持ち。

一生懸命になって、毎日のように大学の課題に明け暮れる日々。

どこに向かっているのかもわからない真面目風な自分にほとほと嫌気がさし、観察と探求が大好きな私は、好奇心の赴くままに外の世界を知りたいと思った。

未知との遭遇の連続だったブロガーライフ

大学院で飛び込んだいろいろな仕事やチャンスのなかのひとつがファッションブロガーだった。

チャンスの使いかたは、いたって自由。私は好奇心の欲望のままに生きてきたと思う。

「まぁ、よー出会わんでもいいもんにも出会っとるな」と、代官山でバーを営む兄貴にはよく呆れられるほど、人間百科事典が作れそうなくらい、いろいろな人に出会っている。

多くの人と出会うことは、良いことも悪いこともあるのだ。

とはいえ、事件が起きて瞬間凹んで早々復活するスタイルすらもお手の物。(になり始めてるのはいいことなのか、悪いことなのか...)

つい先週は、ミラノ行きの仕事先で知り合った兄貴分に誘われて、鶯谷の東京キネマ倶楽部へ行ってきた。

「浅草音天祭 2017本祭」というライブのお目当は「浅草ジンタ」。

え、そういうの行くんですか、じゅんこさん!? ってくらいディープなロックバンドだ。

これがまた、東京キネマ倶楽部の空間とマッチして、最高に興奮する盛り上がりを見せていた。興奮のあまりダイブする観客。

2階から眺めて、うれしさのあまり一緒に飛び跳ねたくなった。

物語はイッパイアッテナとともに

そんなこんなで??? 私の手もとには先日Amazonで注文したばかりの『ルドルフとイッパイアッテナ』がある。

私が小学生に上がるころくらいに、挿絵と語りのテレビ絵本で放映されていた児童文学だ。

主人公の黒猫・ルドルフは、小学5年生のリエちゃんの飼い猫。ある日誤って乗ったトラックで遠路はるばる東京まで来てしまい、そこでイッパイアッテナという"教養ある"大きなトラ柄の野良猫に出会う。

正確にいうと、「イッパイアッテナ」なんて名前じゃあない。

ルドルフが名前を聞いた際に「いっぱいあってな」と答えたのを名前だと勘違いしてしまったことが由来。

そんな2匹の大冒険の話だ。

路地裏の猫を見ながらこんなことを思い出したのは、ほかでもない、いまの私の生活は「イッパイアッテナ」のような姉貴と兄貴との出会いでできているってことに、ふっと気が付いたからだ。

そしてこの文章を書く前夜、ベッドの上でこの本を慌てて読んで、またまたうれしさに にんまりと高揚し、我が家のやんちゃ坊主の白猫の頭をガシガシと撫で回した。

「んにょーーーーーーーあ」

赤ちゃんみたいによく鳴く白猫。

いつか日本語喋り出すんじゃないかしら。

イッパイアッテナは文字の読み書きができたんだから、私も毎日教えてたら話し出すんじゃないか、と淡い期待で白猫に話しかける。

その様子をベッド脇の棚から、ちらりと片目で様子をうかがう黒猫姫。

ひとりと2匹の同居だと思っていたが、もしかしたら3匹の同居かもしれない。

私たちの物語は、今日もまた1ページ進んでいる。

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