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サブリナパンツとフラットシューズを履いて、加藤さん(24歳/契約社員)は、横浜港を一望できるホテルのレストランにいる。
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1日10食限定の、話題のフレンチトーストがお目当てだ。店内には朝のやわらかな日差しが差し込んでいる。
料理が運ばれてくるまで、外を眺めながら、加藤さんはぼんやり先週の出来事を思い返す。
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加藤さんが務める会社は、社員120人ほどの制作会社で、加藤さんはそこでデザインをおこす仕事をしている。
残業の日々、深夜帰宅は当たり前。毎年行われる正社員採用のわずかな枠をかけて、ライバルよりもいい評価を得ようと、みな必死だ。
そんな職場で2年働き、ようやく自分の強みがわかってきたころ。加藤さんに告げられた結果は、契約終了だった。
「キャーーーーー!」
突然、奇声のような大きな声が耳に飛び込んできて、加藤さんはハッと我に返る。隣のテーブルを見ると、3歳くらいの子どもが椅子に立ってはしゃいでいた。
じつは、加藤さんは子どもが苦手だ。いつもはこういう状況にあうと、心の余裕のなさもあいまって、わざと親に聞こえるように大きなため息をついていた。
しかし、今日は大きく吸い込んだ息をごくりとのみ込む。代わりに、家から持ってきた本をそっと広げる。
加藤さんが好きな、オードリー・ヘップバーンが晩年、子どもに読み聞かせたという詩集だ。
「魅力的な唇のためには、美しい言葉を紡ぐこと。愛らしい瞳のためには、人々の素晴らしさを見つけること」
母親に抱きかかえられた子どもと目が合い、加藤さんはにこりと微笑む。
子ども越しに広がる海に、船が一艘、ゆっくり出航していくのが見えた。
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