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木曜日、朝8時。佐藤さん(無職/28歳)は、成田空港の長いソファーに座っている。
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足元にはブルーのスーツケース。何を持っていけばいいのか悩んで、1週間前から詰めては取り出し、取り出しては入れ直した。
ガイドブックは3冊買って、隅から隅まで読んだ。佐藤さんにとって、これが初めてのひとり旅なのだ。
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佐藤さんは去年、6年間勤めた建築事務所を辞めた。
第一線で働く社員たちのサポート役として、働き詰めだった日々。頼られてやりがいもある仕事だったけれど、一念発起した。自分も建築士の資格をとるために...。
試験前の2か月は専門学校にも通った。週末も学校に行ったり、同じクラスの仲間とファミレスで集まって勉強したり、まるで大学受験の頃に戻ったみたいで、苦しいなかでも楽しかった。そして2週間前に、その試験が終わった。
久々の解放感と、とてつもない達成感。その感覚を形に残しておきたい。いままでの自分ではできなかったけれど、いまの自分ならできそうなこと。
そうだ、ひとり旅にいこう。
これまでの自分には縁がないと思っていた野望を秘め、それから2週間後のいま、こうして空港のロビーにいる。
――サンフランシスコ行きはただいまご搭乗の最終案内を致しております。57番ゲートよりご搭乗ください。 May I have your attention please...
空港の雑踏、チャイム音とアナウンスが、非日常を感じさせて、胸を高鳴らせる。
大きな電光掲示板を見あげると、佐藤さんの乗る飛行機には「定刻」の表示。
ゆっくり立ち上がって、搭乗手続きのカウンターへ向かった。
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