• うにゅほとの生活2865

    2019-10-14 02:4013時間前

    2019年10月13日(日)

    資格試験の筆記をパスした自分へのご褒美として、新しいDACアンプを購入した。
    「やー、DACは届くし、台風は逸れるし、今日は良い日だな」
    「ほんとだねー」
    うにゅほが、のほほんと相槌を打つ。
    もちろん、DACアンプを注文する際には、うにゅほの許可を取ってある。
    合法だ。
    「──よし、と」
    古いDACアンプを外し、新しいものと繋ぎ換えて、ほっと一息つく。
    「これ、いいおとするやつだよね」
    「そうそう。デジタルアナログコンバータ兼ヘッドホンアンプ」
    「でじたるあなろぐ──……あんぷ」
    あ、途中で諦めたな。
    「まえのより、いいおとするかな」
    「どうだろ。いちおう、前のよりワンランク上の価格帯のを選んだけど」
    「いいおと、しないの?」
    「正直、気分の問題が大きい気がする……」
    「えー……」
    「まあまあ、聞き比べしてみようじゃないか」
    「するけど……」
    「ちょっと待って。いま、リモコンで初期設定とかするから」
    「うん」
    そう告げて、デスクの上に置いてあったリモコンを手に取ろうと──
    「……あれ、リモコンないな」
    「りもこん……?」
    不思議そうな表情を浮かべながら小首をかしげたあと、うにゅほが周囲を見渡す。
    「へんなとこ、おいたのかなあ」
    「悪いけど、一緒に探してくれるか」
    「うん」
    さまざまな場所に目を通す。
    デスクの上は言うに及ばず、開封した箱、ベッド、本棚、果ては冷蔵庫の中に至るまで探したが、目当てのリモコンは見当たらない。
    「え、こんな短時間で失くす……?」
    自分で自分が信じられなかった。
    「……俺、部屋から出てないよね」
    「うん……」
    「××、触ってないよね」
    「さわってない……」
    「ほんと、どこ──」
    髪を掻きむしりながら、幾度も見たデスクに視線を落とす。
    「──…………」
    絶句する。
    リモコンがあった。
    それも、物陰などではなく、堂々とデスクの上に置かれていた。
    「マジか……」
    自分で自分が信じられなかった。
    「えー……と、××、リモコンあったんだけど……」
    「えっ」
    「××も気付かなかったの……?」
    だとすれば、もはや怪奇現象だ。
    「◯◯さがしてたリモコン、それだったの?」
    「うん」
    「わたし、ちがうやつのさがしてるのかとおもった……」
    「……てことは、ずっと、机の上にあった?」
    「うん」
    「マジか……」
    若年性痴呆でも発症してしまったのだろうか。
    ショックのためか、音質の違いがよくわからない俺だった。




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  • うにゅほとの生活2864

    2019-10-12 23:47

    2019年10月12日(土)

    台風19号が接近している。
    「──…………」
    記録的豪雨、土砂災害、河川の増水、氾濫──次々と溢れ出る速報に、うにゅほが俺の腕を抱く。
    「たいふう、こわい……」
    「怖いな……」
    「これ、うちくるの……?」
    「直撃はしないみたい」
    「そか……」
    強張ったうにゅほの表情が、ほんのすこしだけ弛緩する。
    「でも、心配だな。関東に何人か友達いるから……」
    「だいじょぶかな」
    「距離が距離だから、祈ることしかできない」
    「うん……」
    うにゅほを膝に乗せ、抱き締める。
    「東京には、荒川って川があってな」
    「うん」
    「ここが氾濫すると、すごいことになるんだってさ」
    「……どうなるの?」
    「荒川付近のかなり広い範囲が、5m以上浸水する」
    「ごめーとる……」
    「うん」
    「……たかさ?」
    「高さ」
    「ごめーとるって、どのくらい?」
    「屋根より高い」
    「──…………」
    抱き締めた矮躯の背筋が伸びる。
    「荒川の傍に、ふたり友達が住んでてさ」
    「!」
    「心配だなって」
    「しんぱい……」
    「ほんと、何事もなく過ぎてくれないかな……」
    「うん……」
    自然に対し、個人はあまりにも無力だ。
    台風の被害が最小限で済むことを祈る。




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  • うにゅほとの生活2863

    2019-10-12 00:38

    2019年10月11日(金)

    体温計の表示部を読み上げる。
    「──38.2℃」
    「さんじゅうはってんにど……」
    原因はわかっている。
    インフルエンザの予防接種だ。
    「まさか、こんなに重く出るとは……」
    毎年のように予防接種を受けてきて、初めてのことである。
    布団に入れば、暑い。
    布団から出れば、寒い。
    中間がないのが、つらい。
    「びょういん、いく?」
    「行ったところでなあ……」
    予防接種の副反応だから、二、三日で症状がなくなることはわかっているのだ。
    せいぜい解熱剤を処方されて終わりだろう。
    「……××は大丈夫なのか?」
    「うん、だいじょぶ……」
    「なら、よかったよ」
    「──…………」
    うにゅほが、布団からはみ出た俺の手を取る。
    「てー、あつい」
    「38.2℃だからな……」
    「よぼうせっしゅ、うけなかったらよかったね」
    「そういうわけにも行かないだろ」
    「でも」
    「二、三日風邪っぽくなる程度でインフルエンザにかからずに済むなら、そっちのほうがいい」
    「そだけど……」
    「××は、心配しすぎ。俺なら平気だから」
    「……ほんと?」
    「今日の仕事はできそうにないけど、三連休があるし、どうにでもなる」
    「うん……」
    「それより、汗かいて気持ち悪いや。タオル濡らして持ってきてくれないか」
    「わかった!」
    うにゅほが階下へと駆け出していく。
    過度に心配しているときは、仕事を頼んで気を逸らすのがいい。
    うにゅほと暮らす上で身についた知恵である。
    「はい、うえぬいで」
    「……自分で拭いちゃダメ?」
    「だめ」
    「ダメなんだ……」
    「うん」
    仕方ない。
    上半身を優しく拭われながら、なんとなく気恥ずかしい思いをするのだった。




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