七階で出会った「聖女」について(1)
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七階で出会った「聖女」について(1)

2020-02-14 20:49
    ありがたいと言うべきか、最近ここに載せれるほど長い夢を見なくなった
    お祈りのおかげか
    というわけで、小説の続きをUPします


    シーン1


    私は、この病棟、つまりホスピスに入院してから、折に触れ人生を振り返るようになった。日記をつけるわけでもないし、誰かに「私はこういう人生を送ったのだ!」と声高らかに主張したいわけでもない。ただ、本当になんとなく人生を顧みる瞬間がある。それだけなのだ。

    しかし今思い返しても平凡な生き方だったように思う。私の若かったころは・・・やはり思い出そうとしても特に印象深いエピソードは思い出せない。こんな思い出が思い浮かばないような私でも、脳は過去を振り返ろうとする。ただただ虚しいことこの上ない。まるで「お前の人生は空虚なものだ」という現実を突き詰められているような気持になる。とはいえ、今更どうすることもできないし、やはり何かいようという気持ちにもならない。

    その時、病室の扉が開いた。定期の検査に訪れた看護師さんがそこにはいた。

    「こんにちは。おかげんいかがですか?」

    彼女は手際よく検温を始める。最近は薬の飲み忘れもないし、何より今日は気分がよいのでこのまま何事もなく終わるだろう。以前薬を飲むのを忘れて発熱した時はたっぷりと時間をかけてお説教されたものだ。私なんかにそんな時間をかけて仕事は回るのだろうか、と頭の中で考えていたのは言うまでもない。

     「よし!今日は調子よさそうですね。また昼食後の検査の時に伺いますね。」

     彼女は確か、今年の春にこの病院へとやってきたと聞いた。今ではすっかり慣れてきているようだ。彼女は明るい。この病院を訪れるヘルパーや神父等教会関係者、患者のご家族、どの層からも評判が良いとおせっかいなヘルパーに聞いたことがある。

     私がこの病院へやってきたのも春のことだった。入院当初、私は一般病棟に入院していた。その頃からホスピスへの転院を望んでいたが、当時の七階は入院待ちをしている患者もいるほど病室は常に満室だった。最近の風潮というのか緩和ケアというものが世間で少し知られるようになり、静かに最期を迎えるホスピスという場所に注目が集まりつつあるのである。

    私がこの七階にやってきたのは、ようやく梅雨が明けたころだったと思う。一通り一般病棟での治療を続け、これ以上治療を続けても顕著な効果は見られないという診断を受けたのだ。ただしそんなことは分かり切っていたし、この治療もホスピスへ至るまでの通過儀礼だと割り切っていた私は、治癒の見込みなしという宣告を聞いても、それほど悲嘆にくれる事は無かった。きっとこれは私という人間がいかに空虚な存在なのかを物語っているように思う。夢中になれるもの、それが仕事にせよ、恋人にせよ、あるものはきっと、この類の宣告を受け入れられず、より高度な医療を求めて各地を転々とするところだろう。それはきっと間違いではないし、とても崇高な事だと思う。私にはそれだけの活力もないし、そこまでして生きながらえる意味もないように思えるのだ。

    また入院にはまた多くの人に面倒をかけた。これ以上治療を受けるつもりはなかったので、担当のソーシャルワーカーに頼み込み、ホスピスへの転院を実現したのだ。身元引受人がいないということも大きなマイナスだった。入院費については後見人をつけることで対処できたが、問題は私の亡骸を誰が引き取るのか、ということだった。運がよかったことに、この病院がキリスト教関係の病院だったので、神父さんに頼み込み、信徒となるなら、という条件付きで、亡骸の引き取りを約束してもらったのだ。もちろん洗礼も受けていて、洗礼名はジュリアン、だそうだ。もちろん名乗ったことはないが。

    私のような不信心な者がいる一方で、当然教会関係のこの病院においては篤い信仰心を持つ者もいた。

    私のもとにたびたび訪ねてくる若いヘルパー(どうも私の担当ではないようだが)がそうである。おおよそ宗教などというものに関心のない私が見ても、彼女はどこか神聖な、といっては言い過ぎかもしれないが、不思議な雰囲気をまとった女性だった。世が世ならきっと彼女は「聖女」と呼ばれていたかもしれない。そしてもう一人、この七階に「聖女」はいる。同じ「聖女」でもヘルパーの彼女は、どこか浮世離れした雰囲気をもっているが、もう一人の方はこの上なく俗っぽい「聖女」である。




    原作はしっかり読み込んでいるつもりでも、それを文字に起こすのは結構難しい

    (註)
    ・本家様とは一切関係ありません。ただの自己満足の小説です。
    ・実際の諸制度と異なる点が有ります。あくまでフィクションです。


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