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ビタリー・カツェネルソン『孫正義は指数関数的成長をつかみ取る達人――バリュー投資家のぼくがソフトバンク株を買った理由』
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ビタリー・カツェネルソン『孫正義は指数関数的成長をつかみ取る達人――バリュー投資家のぼくがソフトバンク株を買った理由』

2016-09-25 08:03
    アメリカのバリュー投資専門家が、孫正義に惚れ込んだあまりソフトバンク株を保有している――。そんな記事を見つけたので翻訳してみました。

    ソフトバンクグループといえば、いまや時価総額8兆円の大企業ですが、天才起業家・投資家たる孫正義氏が率いる巨大なベンチャー企業。いつみても巨額の借金をして巨大な新規事業に取り組んでいて、大成功を収めたり大失敗を懸念されたりを繰り返している。そんなイメージです。

    バリュー投資〔割安株投資〕というのは、企業が確実に持っている資産や収益力に注目する手堅い手法ですから、ソフトバンク株なんてまったくの対象外のはずです。しかし、この記事の執筆者であるカツェネルソン氏は、その道を踏み外すほど孫正義に入れあげてしまったもよう。ここにこの記事の面白さがあります。

    ソフトバンク株および孫正義という人物の魅力を、なんとかバリュー投資の枠組みで説明しようとするカツェネルソン氏の文章は、読みやすく、わかりやすく、そして情熱的でもあります。指数関数的成長への眼力こそ孫正義の才能、というのは実に的確な着目点ではないでしょうか。

    ソフトバンクへの興味の有無を問わず、多くの投資家のみなさまにおすすめできる読み物だと思います。

    翻訳・転載の許可を下さったカツェネルソン氏に感謝いたします。

    =================================
    ・原文は こちら です。カツェネルソン氏の投資情報ブログ「コントラリアン・エッジ〔逆張り投資家の優位性、の意〕に掲載された記事です。
    ・〔四角いカッコの中〕は訳者による補足です。
    ・タイトルは訳者によります。原題は "SoftBank CEO Masayoshi Son Banks on Exponential Growth”、直訳すると「ソフトバンクCEO孫正義、指数関数的成長を見込む」といったところです。
    ・ドル金額は1ドル=100円で訳注しましたが、各時点での為替レートとは差があります。あくまで参考程度に付したものとお考え下さい。
    =================================


    孫正義は指数関数的成長をつかみ取る達人――バリュー投資家のぼくがソフトバンク株を買う理由

    2016年9月9日〔原文公開日〕

    ビタリー・カツェネルソン Vitaliy Katsenelson 
     インベストメント・マネジメント・アソシエイツ社最高投資責任者


    ぼくは薄氷のうえを歩もうとしている。

    ぼくはバリュー投資家だ。でも今からここに書くことのせいで、バリュー投資界からは、たぶん追放されることになると思う。

    言いたいのはこうだ――「ある産業が指数関数的な成長局面に入ったばあいは、企業のいま現在の株価がどうかなんて、大した問題じゃない」。

    ――この一文を打ちながら自分でも思わないではない。「ITバブル脳かよ dot-commish」。でも、ちょっと待ってほしい。いつものバリュー投資の考え方でちゃんと説明してみるから。


    ソフトバンク社は、アーム社〔英の半導体設計大手〕を、243億ポンド〔=320億ドル=3.3兆円〕で買収することを近ごろ決定した。ウォール街はこれを酷評している。――年間利益の48倍なんて値段で買うのは、とんでもない高値掴みだ! ただでさえ株価の高すぎた会社を、さらに43%ものプレミアム〔上乗せ〕でお買い上げだと。そもそも、イギリスを拠点にする半導体知財の会社なんかとくっついたって、なんのシナジー〔相乗効果〕も生まないじゃないか。ソフトバンク社にアーム社をくっつけたって、コストも削減できないし、収益も増えやしない。…と、いうわけだ。


    ぼくの会社がソフトバンク株を保有している理由、それは孫正義だ。〔カツェネルソン氏は「インベストメント・マネジメント・アソシエイツ社」の最高投資責任者。顧客資金を運用するファンドにてソフトバンク株を保有〕。ソフトバンク社の創業者にして現CEO〔最高経営責任者〕。このアーム社買収のせいで、いまは不人気だ。ぼくの友達の一人は、こう言い放った。「金持ちすぎて暇つぶしに買ったんだろ」。(まあ、ごもっともな意見だ。)

    この買収を理解するためには、孫正義の投資戦略と頭の使い方を知ってなきゃいけない。日本一の金持ちになれた理由はそこにあるんだから。孫正義は、指数関数的(非線形的)成長という思想の達人だ。これまでの投資実績をみてほしい。「高成長だが線形的〔比例的〕に成長」している局面から、「指数関数的に成長」する局面へと突入せんとする、まさにそういう産業をバチッと眼力で捉えてきている。成長の〈率〉が加速する産業へと投資してきたんだ。

    これを40年間、なんどもなんども繰り返してきた。最初は、70年代のパソコンだ。パソコン市場の成長が加速局面に入ったとき、そこに身を投じてパソコンソフトの流通を手がけ、資本を大きく育てた。90年代にインターネットの成長が急速化する転換点に入ったときは、米ヤフー社に出資し、ヤフージャパン(米ヤフーとの合弁事業)を設立した。


    2000年代初めには、電子商取引に目をつけた。インターネットが普及しはじめた中国で、アリババ社へ出資。そのとき投資した2000万ドル〔20億円〕は、いまや600億ドル〔6兆円〕という莫大な評価額へと成長した。

    その次はワイヤレス市場だった。ワイヤレス市場は、すでにすごい速度で成長していたけど、スマートフォンの普及によってまさに爆発的に成長が加速する一歩手前だった。こんな実話がある。孫正義がスティーブ・ジョブスのところに、iPodにダイヤルパッドをくっつけたものを紙に描いて持ってきた。つまり、スマートフォンを作ってくれというのだ。iPhoneなんてまだ存在してなくて、アップル社がiPhoneの構想を発表することすら、この2年も後になってからのことだ。

    それよりももっと重要なことがあった。――孫正義は、スマートフォンの普及の波に乗った商売をするために、日本で最低最悪の無線モバイルキャリア〔携帯電話会社〕を買収したんだ(そして大変な不評をこうむった)。だがかれは、それを最良のキャリアへと変身させた。いまや、ソフトバンク社の現金収入の屋台骨になっている。

    2013年、孫正義は、モバイルゲームの成長率が加速すると考えた。もちろんその前にもすごい速さで成長していたのだけれど、このときもまた、成長率の加速を捉えた。スマートフォンの計算処理能力と画像表示力が改善されて、スマートフォンでゲームをする人が増えたからだ。

    目の前で始まっていたこのトレンドに乗るため、ソフトバンク社は15.3億ドル〔1530億円〕を投じて、ヘルシンキを拠点とするゲーム制作会社「スーパーセル社」の株式の51%を取得した。2015年には、この保有割合を73.2%にまで引き上げた。そして今年、この持ち分のすべてを、入手時の評価額の3倍以上の価格で転売することに成功した。


    指数関数的な成長局面へと突入しつつある産業を見つけ出すこと。これだけでも十分に難しい。見つけたとしても、実際にそこへ飛び込んでゆくのはもっと大変なことだ。

    ぼくは2009年に、アップル社についてのリポートを読んだときのことを覚えている。スマートフォン市場の将来規模とか、その中でのアップル社のシェアとかを推計したやつだ。わりと控えめなシェアを前提としていたにもかかわらず、大筋としては、「iPhoneの売上は今後数年間、加速し続ける(または、その時点での年30%程度の成長を維持する)のであり、したがって現在の200億ドルから1000億ドルにまで成長するであろう」みたいなレポートだ。

    話としては理解できたけど、そんなに高い成長率で指数関数的に増えるなんて、ぼくにはとても信じられなかった(ほとんどの人はそうだったと思う)。ところがどっこい、2015年のiPhoneの年間売上は、1550億ドル〔1兆5500億円〕に達している。

    そういう、〈成長率が加速する転換点〉に投資するというのは、バリュー投資家にとっては特別な無理難題といえる(ぼくの会社を含めてだ)。〔バリュー投資は主に企業の資産価値に注目する手法なので、成長を見込んで高値のついた株は対象外となる〕


    売上が加速的に伸びるときは、費用の方はさほど急速には上昇しない。だから利益の伸びは、売上の伸びよりも、さらに高い伸び率になる。利益の成長は、まさにこのとき指数関数的な増大をみせる。この仕組みによって莫大な価値が創造されるのだ。人間の脳は線形〔比例的〕な変化に慣れているから、ここを思い描くことがなかなか難しい。

    2009年の時点だって、各種の数字による評価では、アップル社は安くなかった。というかむしろ、高値がついていた。バリュー投資家が、〈アップル株は「安全域 margin of safety」があるから買っても大丈夫だ〉なんて考えることは、まずありえなかった。

    〔安全域は、バリュー投資の核をなす概念。単純化した例でいうと、現金50億円と不動産50億円分を保有する会社は、最低でも100億円の価値がある。だから、それよりも安くなったときに株を買えば、いつかは時価総額100億円まで回復すると考えてよい。この差額が、ほぼ確実な値上がりを期待でき、損失への防御となるという意味で「安全域」と呼ばれる。〕

    なぜかといえば、この2009年、アップル株は1株29ドルで、利益の22倍という値段がついていたからだ〔1株当たり利益は1.32ドル〕。でも後知恵でいえば、このときのアップル株は安かった。翌2010年には、アップルの利益は1株あたり2.2ドルまで上昇したんだから。さらに1年後の2011年には、アップルの利益は1株あたり4.01ドルにも達した。ほんとうは1株29ドルなんて大安売りもいいところだったのだ。(アップル社のバランスシートに積み上がった莫大な現金も考えれば、さらにさらにお得だった。)


    で、なにが言いたいかというと、アーム社をみて、ぼくはそれを思い出したということだ。アーム社は、プロセッサ〔処理装置〕の設計をして、ライセンスを他社に与えて稼ぐ。従来の半導体会社とは違って、アーム社は製造をしない。製造をしないどころか、製造の外注さえしない。

    設計ライセンスを受けるのは、アップル社とか、ブロードコム社〔半導体製品の製造販売〕とか、クアルコム社〔通信技術および半導体の設計開発〕だ。こういう会社が、アーム社のプラットフォーム〔基盤となるシステム〕を利用したうえで自社のプロセッサを作り上げる。アーム社の基本設計を、それぞれのオペレーション・システムへと変化させるわけだ。

    アーム社のプラットフォームを使うからこそ、サムスン社のスマートフォンに搭載されたクアルコム社のプロセッサは、サムスン社自身が作ったプロセッサ(それもアーム社のプラットフォームを利用して作られている)との互換性が確保される。アーム社のライセンスを受けた各社が、アーム社が基本設計をしたプロセッサのために何十億ドルもの研究開発費を投じるから、アーム社をめぐるエコシステム〔業界のしくみ〕はますます価値が高くなり、アーム社の競争力はさらに幅広いものになる。

    こんにちでは、モバイル機器の97%は、アーム社が基本設計したプロセッサによって動いている。アーム社は、ロイヤリティ〔使用料金〕をきわめて安く設定している。プロセッサ1つが売られるごとに、ほんの数ペニー〔1ペニー=約1円〕だ。


    孫正義は10年も昔から、アーム社のビジネスを遠くから眺めては感嘆の念を抱いてきた。かれはこうも言っている。もしソフトバンク社に、スプリント社の建て直しという重荷がなかったなら、もっと早くにアーム社を買いたかった、と。ソフトバンク社が100億ドル〔1兆円〕の現金を調達したのは最近のことだ。アリババ社の持ち分を少し売ったのと、スーパーセル社の所有権を中国のテンセント社に売却した80億ドル。これが、ソフトバンク社がアーム社を買収するさいの手元資金になった。

    孫正義は、〈モノのインターネット=IoT〉が、転換点にさしかかったと考えている。そう、まさに、指数関数的な成長局面へと突入するところなのだ。世界には70億人の人々がいる。2015年にアーム社が売ったプロセッサの数は150億個。一人あたり2個のプロセッサだ。2020年までには、1年に750億個のプロセッサを売るようになると同社は見立てている。5倍もの増加だ。

    だが、これすら、ほんの始まりにすぎない。孫正義によれば、将来のぼくらは、一人あたり1000個とは言わないまでも、数百個のプロセッサを必要とするようになる。自動車、街灯、電化製品、病院の患者…。すべてがインターネットにつながる。

    牛だって〈モノのインターネット〉の一部になる。いつ乳を搾ったらいいかとか、病気になっていないかとか、農場主にセンサーで知らせるようになる。牧場のすべての牛はGPSで位置がわかるようになって、iPadで表示できるようになる。ぼくは酪農についてはなんにも知らないし、これは2分ででっち上げた思いつきだ。でも酪農とか農場経営にくわしい人なら、〈モノのインターネット〉が本当に普及したときに何ができるのかわかるんじゃないか?(半分冗談のつもりで書き始めたんだけど、「ネット接続の牛」は現実になるに違いない。要注目だぜ)

    そういうすべての「モノ」に、プロセッサを埋め込む必要がある。そこにいるのがアーム社だ。プロセッサを設計し、出荷されるすべてのプロセッサについて数ペニーをいただく。

    アーム社が、ソフトバンク社の一部になったのはよいことだ。独立した会社でいるよりも、ずっとマシになった。〈モノのインターネット〉には巨額の投資が必要だ。アーム社が自分でそれをやったら、短期的には決算を悪化させてしまいかねない。孫正義なら、目先の決算なんて気にもしない。――覚えておられるだろうか。孫正義はソフトバンク社のための300年計画を脳裏に描いているのだ。かれは、アーム社がいまから5年で従業員数を倍増させることにだって合意している。


    じゃあ、ソフトバンク社がアーム社買収で支払った値段という問題に戻ろう。2016年のアーム社は、16億ドル〔1600億円〕の売上と、6億6000万ドル〔660億円〕の利益を上げると予測されている。かりに、2020年には、アーム社のプロセッサの出荷数は、いまの売上にその5倍が加わるとしよう。ただし一個あたりの値段は半分に値下がりする(ロイヤルティも半分になる)。するとアーム社の売上はいまの売上の3倍、48億ドル〔4800億円〕になる。そのとき、孫正義はかねて約束のとおり、研究開発費を倍増させているとする。税引き後の利益がどうなるかというと、28億ドル〔約2800億円〕になっているはずだ。

    言い換えると、ソフトバンク社が支払った価格〔3.3兆円〕は、アーム社の年間利益のたった12倍に収まることになる。しかも2020年というのは、爆発的成長のまだ初期段階にすぎないはずだ。もしこのシナリオ通りになるなら、アーム社の獲得によって、孫正義はソフトバンク社の1株当たりの価値を、少なくとも10ドルは高めることになる。〔カツェネルソン氏のファンドは、アメリカ市場に上場されたソフトバンク株を売買している。後出するが、この原稿の執筆当時のソフトバンク株は1株25ドル近辺。日本のソフトバンク株とは投資単位が異なる。同じころ日本のソフトバンク株は1株5000円近辺。〕


    孫正義はこれまで、とてつもない投資実績を誇ってきた。といっても、無謬だったわけじゃあない。スプリント社を買収したのは、Tモバイル社も買収して合併させるつもりだったからだ。それでコストを削減して、一緒になって事業展開をするつもりだった。日本でボーダフォンを買ったときと同じだ。

    だがかれは、計算を誤っていた。米国の規制当局が買収に待ったをかけたのだ。Tモバイル社のCEO〔最高経営責任者〕が商売の天才っぷりを見せつけて、スプリント社からシェアを奪うというオチまでついた。

    孫正義は去年、スプリント社のチーフネットワークオフィサー〔通信網にかんする最高責任者〕という役職を買って出た。目標としているのは、対抗各社のたった数分の一の費用によってスプリント社の通信網を改善することだ。かれは最近、こうも言っている。スプリント社が現金という血を垂れ流すのをやめさせて、今年中に現金収支を黒字にしてみせる、と。とはいえ、スプリント社の買収は失敗ではあった。かれ自身が真っ先にそれを認めている。


    アーム社の買収も失敗に終わったらどうなってしまうだろうか。アーム社が今後4年間、1年あたり15%しか成長しなかったら? そのときは、年間利益は12億ドル〔1200億円〕までしか伸びないから、19倍で評価したとしてもその企業価値は230億ドル〔2.3兆円〕。ソフトバンク社は80億ドル〔8000億円〕ほど余計な浪費をしたことになる。買収当時のアーム社の株価に上乗せして支払った43%のプレミアムに、ちょうど相当する額だ。このプレミアムが嫌われたせいで、この買収が報じられたとき、ソフトバンク株はあっという間に4ドルも急落したのだった。

    ぼくの会社による〈サム・オブ・ザ・パーツ Sum-of-the-Parts 分析〉〔複数の事業や資産を持つ会社の価値は、各部分の価値の合計になるはずだという考え方〕によれば、控えめに見積もっても、ソフトバンク株の価値は、ほんとうは40ドルから50ドル以上ある。ということは、最悪の場合でさえ、最近のソフトバンク株の価格である1株25ドルというのは過小評価だ〔この原稿は2016年7月に執筆されており、その時点でのアメリカ市場での株価〕

    指数関数的な成長というやつは、すべてを飲み込む大激動の渦――映画「バーフェクト・ストーム」みたいな――のど真ん中で起こる。ビッグデータ利用の急伸、クラウド活用の急増、低電力プロセッサの小型化(そして低価格化)、ワイヤレスのネット接続環境の劇的な改善(5G回線が実現したらさらに快適になる)、スマートフォンやその他のスマートデバイス〔多機能端末〕のあらゆる場所への遍在化 ubiquity ――。こういうのはどれも、1つだけだったら、〈モノのインターネット=IoT〉を大して成長させないだろう。でも全部が一緒になったら、IoTを加速させて、指数関数的な成長局面に突入させることになる。


    ソフトバンク株を買うというのは、馬ではなく騎手に賭けるということだ。そして、この騎手の勝ち負けは、ソフトバンク株主たちの勝ち負けと一致している。孫正義は、ソフトバンク株の20%を保有している。ということは、かれが他社を買収するときは、〔多くの企業でみられるように〕経営者が会社のカネを玩具みたいにバラ撒いているんじゃなくて、自分自身の身銭を切っているわけだ。過去35年間にわたり、かれは数多の決断をしてきた。そのときは不評で、マトモなやり方じゃないと言われたことも、あとになってみれば特大ホームランだった。今回だってそれと一緒だ。孫正義にはこれまでの投資実績があるから、アーム社の買収も、まずは「疑わしきは罰せず」といった目で見守られているところだ。もしこれが間違いだったなら、ソフトバンク株が失った1株あたり4ドル分は、むざむざと失われたままになるだろう。でも、いまのソフトバンク社の株価はずいぶん控えめに評価されているんだから、たとえそういう結果に終わったとしても、僕は我慢して受け入れることができる。


    【追記】 「部屋の中のゾウ」〔嫌でも目につく問題〕にも一言触れておこう…。ソフトバンク社の巨額負債だ。いろんな報道メディアが、ソフトバンクは1100億ドル〔11兆円〕の借金があると書き立てている。事実は事実、その数字は正しい。でも実態としては、それはソフトバンク社の負債を100%ほど過大に見積もっている。

    アーム社買収を経て数字が若干変わったあとの、直近の四半期決算をみてみよう。ソフトバンク社は、まさしく約1100億ドルの負債を抱えている。しかしながら、そのうちの330億ドル〔3.3兆円〕はスプリント社の借金だ。ソフトバンク社がスプリント社の株式の80%を所有しているせいで、この数字がソフトバンク社へと連結されているだけだ。もしスプリント社が破産しても、ソフトバンク社はこの330億ドルについては一切の責任がない。それに、ソフトバンク社は210億ドル〔2.1兆円〕の現金を保有している。ということは、正味でいえば、負債はだいたい560億ドル〔5.6兆円〕というところだ。ソフトバンク社の日本における通信事業は、毎年約70億ドル〔7000億円〕の営業収入を生んでいる。EBITDA〔営業益+減価償却費〕でいえば110億ドル〔1.1兆円〕だ。560億ドルといえばもちろんスゴイ億ドルだが、ソフトバンク社の稼ぐ力との比較でいえば、無理のない額。それに、ソフトバンク社のもつ他のいろいろな資産のことも考えれば、この数字はさらに軽くなる。


      〔おわり〕

    〔※ カツェネルソン氏が執筆したソフトバンク社についての記事はもう一つあります。2015年2月6日 「ウォーレン・バフェットとリチャード・ブランソンとスティーブ・ジョブスをまとめて割引価格で買う=孫正義を買う

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    ビタリー・N・カツェネルソン Vitaliy N. Katsenelson
    Wikipedia

    ロシア出身。米コロラド大学および同大学院金融学科卒。CFA〔公認財務アナリスト〕。自身の投資情報ブログとして「コントラリアン・エッジ」。コロラド州デンヴァー市の「インベストメント・マネジメント・アソシエイツ社」の最高投資責任者。著書『攻めのバリュー投資 Active Value Investing』〔邦訳『バリュー株トレーディング レンジ相場で勝つ』パンローリング社〕、『横ばい相場の攻略本 The Little Book of Sideways Markets』。著書は8ヶ国語への翻訳あり。フォーブス誌にて「ベンジャミン・グレアム〔バリュー投資の元祖にして最高の理論家〕の再来」と称される。



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