ビタリー・カツェネルソン「Q. 孫正義が WeWork に出資したのは大丈夫? A. 大丈夫じゃなくても心配ない」
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ビタリー・カツェネルソン「Q. 孫正義が WeWork に出資したのは大丈夫? A. 大丈夫じゃなくても心配ない」

2019-05-26 16:42

    ・米国の著名なバリュー投資家、カツェネルソン氏による短いメモ。孫正義によるWeWork社への巨額出資を、ソフトバンク・グループの株主という立場から簡単に解説しています。
    ・その他の情報は最後に置きました。
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    Q. 孫正義が WeWork に出資したのは大丈夫? A. 大丈夫じゃなくても心配ない

    Softbank will succeed even if its WeWork investment doesn’t work out

    ビタリー・カツェネルソン

    Vitaliy N. Katsenelson
    原文〔2019年5月〕


    日本のコングロマリット〔巨大複合企業〕、ソフトバンク・グループについてぼくの顧客から質問がきた。ソフトバンク・グループが WeWork に大きな出資をしたことについてどう思うか?と。

    WeWork の CEO〔創業者のアダム・ニューマン〕 が WeWork 株をソフトバンク・グループに売ったのは、彼個人がニューヨークとカリフォルニアの物件を買って WeWork にリースバックするためなのは明らかだ。この取引は利益相反にあたらないのか? というのが、この顧客の疑念だった。


    正直なところを言えば、ぼくの会社〔カツェネルソン氏の運営するファンド〕は、ソフトバンク・グループとその CEO、孫正義のファンではあるけれど、WeWork のファンというわけではない。

    WeWork はぼくたちから見ると、不動産会社だ。オフィス用不動産を買ったり、オフィスを長期で借りたりという形で、長期の借り入れをする。そして、その大きなオフィス空間を小さなオフィスに分割し、家具や内装を整えたうえで、日割りや週単位、月単位という短期で貸し付ける。


    ぼくの会社は、WeWork の競争相手である Regus 社についても、じっくりと分析してみた。

    実は、Regus 社こそが、このビジネスモデルの先駆者なのだ。

    ぼくらの結論はこうだ。このビジネスにおける重要な数字はただ一つ、利用率だ。つまり、保有物件のうちでリースできているものの割合である。

    もし、WeWork がオフィススペースの90 %を貸すことができたら、大いに儲かる事業になる。

    利用率が下がって、たとえば 60 %になったら損が出はじめて、やがて崩壊する。

    高コストでしかもそのコストが固定的というビジネスの典型例なのだ。収入のほうは高くも安くもなるが、景気循環の影響を受けがちだ。


    ところが孫正義はというと、WeWork のことを、コラボレーション的な働き方という未来を先取りしたものと捉えている。

    ぼくらとしてはそれなりの疑念を抱いている。

    ソフトバンク・グループのビジョン・ファンドは数十億ドルを WeWork に投資した。WeWork を400億ドル〔約4兆4000億円〕もの価値がある企業と評価して出資したのだ。

    すると、ウォール・ストリート・ジャーナル誌があの記事を書いた。WeWork の CEO 、アダム・ニューマンがニューヨークとカリフォルニアで物件を買っていて、それを WeWork にリースバックしているというのだ〔WeWork社のCEOであるニューマン氏が個人で所有している物件を、WeWork社に貸し付けているということ。もしニューマン氏が賃料を不当に高く設定すれば、私腹を肥やしつつWeWork社とその株主に損害を与えることになる〕。


    で、ぼくらの考えはこうだ。

    ソフトバンク・グループ株を買うというのは、実質的に、孫正義を雇うということ。素晴らしい投資家であり、未来を視る人〔ビジョナリー〕である孫正義に、資本配分の意思決定をさせるということである。しかも、ソフトバンク・グループ株は安い(ぼくらの見積もりによれば、ソフトバンク・グループはその価値の50%割引で売買されている)。

    孫正義が決定する資本配分の全てに賛成できなくてはいけないだろうか? そもそも、孫正義の決断のすべてを理解することさえ可能だろうか?

    もちろん、そんなことは不可能だ。

    孫正義は、他人とは違う視点で世界を見てきた。そして、失敗はあっても、成功のほうがずっと多かったからこそ、大企業をゼロから作り上げることに成功したのだ。

    孫正義が間違うこともあるだろうか? もちろんある。

    すべての賭けに勝ってきたか?ノーだ。

    上場会社に投資することも、未上場会社に投資することも、精密科学〔物理学や数学といった厳密な数量化の学問〕ではない。しっちゃかめっちゃかで、非連続で、確率的な試みなのだ。


    孫正義とソフトバンク・グループを分析するにあたって、ぼくらは、マネーの運用者としてのぼくら自身はどう分析されたいのか、ということと同じように考える。

    つまり、ぼくらが下した意思決定の一つ一つについて、ぼくらの顧客がするであろう質問と同じ質問を、ぼくらは孫正義に投げかけるだろう。


    ・孫正義は、言行一致〔インテグリティ〕の人、知性的な人か?

    孫正義の三十数年分の意思決定の記録は〔ソフトバンク・グループの株価や決算という形で〕公開されている。

    ぼくらは一度も、孫正義のひたむきさを疑ったことはない。ぼくらが知るかぎり、もっとも素晴らしい人物の一人だ。


    ・孫正義は慎重な意思決定プロセスを踏んでいるのか?

    未来を思い描き、大きな変化の起きる領域を見極め、そのうえで、その未来に賭けるためのベストな方法を見つけ出す。これが孫正義のやり方だ(80年代はパーソナル・コンピュータ、90年代はインターネット、2000年代はネット接続のワイヤレス化、スマートフォン、中国の電子商取引。そして現在はシンギュラリティ、すなわち、コンピュータが人間より賢くなることに孫正義は賭けている)。

    ソフトバンク・グループの株主にとって ビジョンファンド は、未来に賭ける手段として、じつに素晴らしい。

    ビジョンファンドというのは、基本的には、孫正義が1000億ドル〔約11兆円〕を運用するプライベート・エクイティ・ファンド〔未上場企業に投資するファンド〕である。

    それなのに、ヘッジファンド業界のよくある運用報酬(手数料2% + 収益の20%)を孫正義に払う必要はない。ソフトバンク・グループの株主は、運用報酬を受け取る側なのだ。

    ソフトバンク・グループはビジョンファンドに250億ドルの資金を投じている。残りの750億ドルは、クアルコム社、アップル社、オラクル社、そしてサウジアラビア・ウェルス・ファンドが、普通株または優先株という形で投じている。

    いちばんすごいところを教えよう。

    ぼくらの分析によると、ソフトバンク株は安値で売買されているから、ビジョンファンドの価値はタダで手に入るのだ。

    ソフトバンク・グループは2018年第4四半期に、この会社が保有する最大の未上場資産である通信ビジネスソフトバンク・グループの子会社であり通信ビジネスを担うソフトバンク社〕を、極めて魅力的な評価額で上場させた。

    いまや、ソフトバンク・グループが保有している全ての会社の価値を、公開市場での値付けをもとに計算できる。

    ソフトバンク社、アリババ社、ヤフー!ジャパン社、スプリント社、アーム社の価値を足し合わせると、一株あたり70~80ドルだ(アーム社の価値はソフトバンク社による買収価格で計算)。この分析のなかには、ビジョンファンドの価値がまったく考慮されていない。

    では、ビジョンファンドにどれだけの価値があるのかというと、本当のところはわからない。

    とはいえ、まったくの当て推量ではあるけれども、今後十年間、8%の収益をもたらすとぼくらは思っている。つまり、ソフトバンク・グループの株価の根拠となっている収益と同じだけの収益をもたらすだろう、と。


    ・孫正義の利害は、私たちの利害と一致しているのか?

    経営者を信頼できるかどうかは、「同じメシを食っている」〔利害が一致している〕かどうかによるところが大きい。

    孫正義はソフトバンク・グループ株の20%を保有している。したがって孫正義の利害は、私たち投資家の利害と完璧に一致している。


    ・孫正義の意思決定に透明性はあるか? 判断ミスを認めることのできる人物か?

    ぼくらは何年にもわたって、孫正義による事業説明会や、孫正義へのインタビューを視聴してきた。答えはイエスだ。彼は自画自賛することはあっても、嘘をつくようなところは少しもない。また、スプリント社を最初に買ったとき、何十億ドルにも値する間違いを犯したとも認めている(Tモバイル社との合併が承認されるだろうと思い込んでいたのだ。もっとも、オバマ政権下では阻まれていたけれども、現政権下ではかなりの希望が出てきた)。2018年には、Tモバイル社との交渉をしくじったせいでソフトバンク・グループに何十億ドルものコストを生じさせたことを謝罪した。



    したがって、大局的にみれば、ソフトバンク・グループの WeWork への投資は、大したものではないのだ。



    〔おわり〕

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    【訳者より】
    ・米国の著名なバリュー投資家、ビタリー・カツェネルソン氏が、自身のファンドの顧客からの質問に答える形で、ソフトバンク・グループおよびビジョン・ファンドによる WeWork 社への出資について解説したメモです。
    ・カツェネルソン氏のファンドはソフトバンク・グループをポートフォリオに組み込んでいます。また本文中にもあるように、カツェネルソン氏は孫正義を起業家・投資家としてきわめて高く評価していることを公言しています。
    ・結論としては、孫正義が WeWork に出資したことが正解かどうかはわからないけれども、ソフトバンク・グループおよびビジョン・ファンドの投資額としてはそう大したものではなく、孫正義のこれまでの実績を考えれば信頼を揺るがすものではない、といったところですね。
    ・カツェネルソン氏はこれまで何度も孫正義とソフトバンク・グループについての論考を執筆しています。
     インターネットはもっと賢くなる――孫正義の11兆円投資計画の素晴らしさ〔2017年〕
     孫正義は指数関数的成長をつかみ取る達人――バリュー投資家のぼくがソフトバンク株を買った理由〔2016年
     バフェットとブランソンとジョブズをまとめて安く買う=孫正義を買う〔2015年〕
    ・翻訳許可をくださったカツェネルソン氏に感謝いたします。

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    ビタリー・N・カツェネルソン Vitaliy N. Katsenelson Wikipedia

    ロシア出身。米コロラド大学および同大学院金融学科卒。CFA〔公認財務アナリスト〕。自身の投資情報ブログとして「コントラリアン・エッジ」。コロラド州デンヴァー市の投資ファンド「インベストメント・マネジメント・アソシエイツ社」の最高投資責任者。著書『Active Value Investing』〔邦訳『バリュー株トレーディング レンジ相場で勝つ』パンローリング社〕、『横ばい相場の攻略本 The Little Book of Sideways Markets』。著書は8ヶ国語への翻訳あり。フォーブス誌にて「ベンジャミン・グレアムの再来」と評される。

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