Lv1勇者を救い出すのは33人の娘達!?
ニコニコ自作ゲームフェス4<大賞>受賞作、
ドラゴンクエストシリーズ開発の中村光一氏絶賛!
超人気自作ゲーム待望のノベル化!
ニコニコ連載小説では、4回に渡って小説を掲載!

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【あらすじ】
Lvが1から上がらなくなってしまう呪いを受けた勇者ラルフは、異世界から強い力を持ったヒロイン《娘》達を召喚することで数多の魔王を倒してきた。……が、ある日、奇襲を受けた勇者は為す術もなく悪の兵士にさらわれてしまう!
拉致された勇者を救出するために立ち上がったのは女子高生、天使、魔法使いで――!? 第4回ニコニコ自作ゲームフェス《大賞》受賞の話題作が、完全オリジナルストーリーでノベル化!

【キャラクター紹介】
・ラルフ
レベル1勇者。以前は百八十体以上の魔王を倒した実蹟を持つ勇者だったが、とある事件によりレベルが1から上がらなくなってしまった。
・ララ
ラルフの仲間の一人。乙女街道驀進中の鉄拳女子高生。ラルフのことが好きだが、子供扱いされていることに不満を持っている。
・ストレーガ
ラルフの仲間の一人。おでこがチャームポイントな怒りっぽい魔法使い。素直になれないところがある。口癖は「謝ってください!」
・ホーリー
ラルフの仲間の一人。常に氷のような雰囲気を纏ったドS天使。口を開けば毒舌が飛び出す。基本的に他人に心を開こうとしない。
・ワゴコロ
ラルフの仲間の一人。「和」の概念を体現した武術と波動を操る和流娘。落ち着いた雰囲気の美少女だが、仲間の中で誰よりも暴力的。
・エロサモナー
本名・賢者サモナー。「エロサモナーの酒場」の主であり、酒場に集まる女の子達に邪な視線を常に向けている。ラルフの良き理解者。
・兵士です!
過去二度、ラルフに敗れ去った兵士の中の兵士。ラルフのレベルを1に下げた張本人でもある。今回はラルフを誘拐するという大騒動を巻き起こすが……?

  その事件は、月が無駄に明るい真夜中に発生した。
 時刻は、午前の二時を回った辺りだっただろうか? 普段は多くの少女達が出入りする酒場の中も見事に静まり返っていた。ランプの火は一つ残らず消され、窓から差し込む月明かりだけが光源となって石畳の床をターコイズブルーに照らす。
 そんな中、
「ふぅ」
 ただ一人、丸椅子に腰を下ろし、悩ましげなため息を漏らす男の姿があった。明るい橙色の髪、エメラルド色の双眸。男の名はこの世界で誰よりも名の知れた勇者――ラルフ。
 ラルフはグラスの中の琥珀色の液体をぐいっと飲み干し、ぽつりと呟いた。

「また俺は、世界を救ってしまったんだな」

 噛み締めるわけでもなく、誇らしげに誰かへと自慢するわけでもなく、ひたすら淡々とラルフはその言葉を口にした。
 ラルフはこれまで数え切れないほどの数、世界を救ってきた。具体的に言うと、百八十回と、あとプラス数回だ。あまりに救い過ぎて、厳密に何回だったかは覚えていない。
 世界を救うとはすなわち、魔王を倒すことだ。
 その過去の栄光は枚挙に暇がないが、とはいえ今回の相手は相当な難敵だったと言えるだろう。
 戦った相手はヘイティという少女の姿をした魔王だった。
 彼女はとにかく女の子が大嫌いな魔王であり、なんとラルフの大切な仲間である三十二人の女の子達を『ついつい魔王になりたくなってしまう』という凶悪この上ない病「魔王病」に感染させ、直接対決させるという手段を取ったのである。
 あまりにも卑劣。あまりにも非道。
 しかし、そんな相手であっても、ラルフは無事に勝利を収めた。ラルフは魔王ヘイティを正しい道へと連れ戻すことに成功したのである。
「はぁ」
 だが、そんな強敵との戦いを終えた後だというのに、ラルフの言葉には微塵の感慨もなかった。むしろ辛そうだった。胸の高鳴りよりも胃痛の方が似合う表情をしていた。
 もちろん、それには理由がある。
 ここしばらく、ラルフを苦悩させているとびきりの頭痛の種。単なる「状態異常」を超越した「常態異常」とでも言うべき超絶バッドステータス。
 とある毒薬によって発動した不治の呪い――
「――ラルフよ。またしてもレベル1で世界を救ってしまったわけだし、もっと嬉しそうにしてもいいのではないかのう?」
「……なんだ、エロサモナーか」
「あまり嬉しくなさそうじゃな」
「夜中にエロい爺さんの顔を見て嬉しがる趣味はさすがの俺にもない」
  ラルフは面倒臭そうな表情で、声を掛けて来た老人の方をを見やった。
 彼の名は、エロサモナー。
 この酒場の主であり、異世界から人間を召喚する能力を持つ偉大な賢者である。ひたすらに「エロい」萌え豚であるという唯一の弱点を除けば、ラルフの良き理解者であり、良き友であると言えるだろう。
  だが、エロサモナーの口にした台詞はラルフからすれば耳が痛い限りだった。
  当たり前の話だが、生まれたときは誰もが裸で、レベル1である。
 そしてまたしても当たり前の話として、誰もが服を着て、そして着実にレベルを上げていく。そんなこと、当然過ぎて誰も疑問に思わない。
 だから、誰も想像すらしない。その摂理から弾き出された者がいるだなんて。ラルフという――永遠にレベルが1から上がらなくなってしまった勇者がいることなんて。
 ラルフは頭を振り、エロサモナーと向かい合った。
「でもその台詞は頂けないな。別に俺は低レベルの縛りプレイをやっているわけじゃないんだぞ。出来ることならレベル1よりもレベル99の状態で魔王を倒したいんだからな。少しでもレベルを上げて挑むことは、ボスに対する礼儀でもあるからな」
「そうは言ってものう」
 エロサモナーが気難しい表情を浮かべる。「もうどうやってもラルフはレベルが1より上には上がらないのじゃから、どれだけ悩んでもムダだというモノじゃぞ?」
「うぐっ!?」
「大体、レベルが1になってからのラルフは基本パーティのお荷物じゃし。レベル1なのにパーティから外せないって、それってもはや動く呪いのアイテムじゃし」
「い、言うな!」
「アルエちゃんやヘイティちゃんを倒せたのもほとんど仲間の娘達のおかげじゃ。ラルフは毎回一ターン目に戦闘不能になる以外、何もしてなかったしのう」
「そんなことはない! 一ターン目にダウンしないことだって稀にあった! 最近は『奥の手』のスキルを使って、たまに戦闘にも参加出来るようになった!」
「いやいや。でもさ、ラルフの一番印象的なスキルと言ったら、これでしょ――『勇者の覚悟』(キリッ)」
「や、やめろおおおおお! 俺の精一杯の覚悟を馬鹿にしないでくれぇえ!」
 ひたすらに痛いところを突かれ、思わず頭を抱えるラルフ。
 レベル1勇者ラルフの代名詞であり、一部の例外を除いてほぼ唯一のキャラ技とも言うべき「勇者の覚悟」は清々しいまでのクソスキルだ。
 『1ターン、受けるダメージを三十パーセントに軽減する。さらに5ターンの間、防御力が上昇する!』という効果があるものの、ダメージをカットし、防御力が少しぐらい上がったとしてもレベルの上がらないラルフは素のステータスが激低であるため、どちらにしろ大抵ワンパンされるという無駄の極みのようなスキルでしかないのだ。
 そう、ラルフのレベルは1である。
 では、そんなラルフがどうやって魔王やモンスターと戦うのかというと――一緒にパーティを組んでいる女の子達、通称「」に戦って貰うという手段を取るしかない。
 つまり、仲間頼み――過去、数多の魔王を一人で倒してきたラルフといえど、今は仲間の女の子達に頼るだけのヒモ勇者。それが現実だった。
 言うなれば、生きながらにして醜態を晒しているのと同義である。
 当然、元最強の勇者であるラルフからすれば、パーティの先頭に立って歩くことと、回復アイテムを使うことと、戦闘不能になること以外の役割がほとんどない現状が憂鬱で堪らなかった――なにしろ、いくら困難の末、また魔王を倒したといっても、ぶっちゃけ自分はほとんど役に立っていなかったのだから!
「ま、それでも結構上手いこと良くやってると思うよ? なんだかんだで魔王を順調に倒してこれたし、今回も何とか世界を救えたじゃん。今は仲間も沢山いるし」
「それは、まぁ、確かに……」
「しかも、とびきり可愛い子ばかりじゃん。言っとくけど、こんな凄いハーレムを持ってる勇者とか他にいないよ?」
「……今更なことを聞いていいか?」
「うん。いいよ」
 相変わらず、異様にノリが軽い爺さんだ……ま、変に気を遣わなくていいのは好都合だが。
「普通、勇者はハーレムなんて持ってない気がしてきたんだが……」
「かもね。でも、その代わりレベルが1の勇者も他にいないわけだし、新手の等価交換だと思ってさ。それにハーレム、別に嫌いじゃないでしょ?」
「うーん。そりゃ、まぁ。俺も男ではあるわけだし。でもな……」
「もし要らないなら――わしが貰ってあげようか?」
「いやいや……何を言ってるんだ、エロサモナー。それは皆に失礼だって。まるで俺の所有物みたいになってるけど、ハーレムといっても皆がそれぞれの意志で俺の仲間になってくれている、ってだけの話だしな。物みたいに扱うのはダメだろ、常識的に」
「チッ!」
「し、舌打ち!? 冗談じゃなかったのか!?」
「妙なところで固いなぁ、ラルフは」
 本気で忌々しげな表情をしているエロサモナーを見て、非常に複雑な気持ちになるラルフ。確かに今現在、ラルフには三十三人の娘達がいる。彼女達とパーティを組むことによってレベル1であるラルフも凶悪な魔王と問題なく戦うことが出来るようになった。
 だが、時々こうも思うのだ。
 ――自分はこのまま、娘達に甘えているだけでいいのか、と。
「別にいいんじゃないの?」
「こ、心を読まれた!?」
「いや、だってラルフの考えてることとか、モロバレじゃし」
「う……」
「ラルフがレベル1でも他の子達は、あまり気にしてないしのう。弄られたり、馬鹿にされたりこそするが、ラルフの代わりに喜んで戦ってくれるいい子達ばかりじゃないか」
「……」
 エロサモナーの言っていることは何一つ間違っていない。本当に、良い子達ばかりなのだ。だからこそ、ラルフは現状をどうにかしたいと思っていた。
 と、そうしてラルフがどうにかエロサモナーに返す言葉を探っていたときだ。
 不意に――背後に自分達ではない人間の気配がフッと浮かび上がったのである。
「ふーん。いい気なものですねえ」
「な……!?」
 不穏な、声。
 二人はすぐさま振り返り、そして驚愕に目を見開いた。
「お、お前は……!」
 そこに立っていたのは、二人にとって非常に因縁深い相手だった。全身をチェインメイルで武装し、右手には槍、左手には大盾を持った兵士然とした男。
 否、まさに兵士そのもの!
「お前は『兵士です!』……!? バカな、お前は俺が倒したはずだ! しかも二回も!」
 ――紛れもなく男は「兵士」だった。
 時としてそれ以上の形容詞が付くこともあるが、基本的には他の名を持たない。だが彼の非常に慇懃無礼な性格から「兵士です!」ともっぱら正確に表記される。
 固有の名を持たず、普通は塵芥同然の存在としか思われていない人物……だが、この「兵士です!」はそこらの兵士とは格が違うのだ!
 ラルフの問い掛けに「兵士です!」が大笑いしながら答える。
「ぷーくすくす。あれくらいで俺が倒されたと思って貰ったら困りますよ。あの程度で死ぬわけないじゃないですか。レベル1勇者の攻撃なんて何度食らっても蘇れますよ」
「な、なんだと!」
「大体さあ。ボスにレベル1で挑んでくるとかバカなの? 出来るだけレベルを上げてから挑むのが、ボスに対する礼儀ってもんでしょう」
「なに言ってるんだよ! 俺のレベルを1にしたのはそもそもお前じゃないか!?」
 ――そう、まさにこの「兵士です!」こそが、かつてラルフに毒を盛り、彼のレベルを1に下げた張本人なのだから!
 それだけではない。この「兵士です!」は過去に「魔王な兵士です!」となってラルフの前に立ち塞がったことすらある。しかも実は結構最近、魔王ヘイティが大暴れしたときも一瞬だけ復活してラルフに挑んで来たのだ。まぁ、その時は異様に呆気なく倒されたわけだが……まさかアレは布石だったということなのだろうか?
「お、おいラルフ! マズいぞ!」
「なんだよ、エロサモナー! こんな大変なときに!?」
 すぐさま「兵士です!」との戦闘に入ろうとしたラルフは僅かに苛立ちながらエロサモナーに訊き返した。
 ラルフはレベル1ではあるが「スーパーラルフ」という奥の手を持っている。これはラルフが万全の状態であるとき、一度だけ全パワーを使って覚醒する技であり、この力を発動すればたとえ「兵士です!」相手といえど遅れを取ることは――
「今のラルフって、さっき冒険から帰って来たばかりじゃん」
「それがどうしたんだ」
「寝る前じゃん?」
「そりゃあ、夜だからな」
「まだ休んでないんだから、もうTP残ってなくね?」
「……」
 ラルフは自身の両の掌をしげしげと眺めた。そうして「グッ」と力を入れれば、いつだって全盛期のラルフに戻れてしまう――かといえば、別にそんなことはない。
 対価が、いる。
 例えば店で料理を食べるならお金がいるし、フレイムを出したいなら呪文書とMPが欠かせない。固有の必殺技を使いたいならば――TPが必要だ。特に「スーパーラルフ」は奥の手中の奥の手。TPが1ポイントだって欠けてはならない。使用するためにはMAXの100ポイントが必要なのだ。
 今の就寝前のラルフは、スッカラカンだった。1ポイントも余力は残っていなかった。
「だから、わざわざ夜に来たんですよ」
 ニヤニヤしながら「兵士です!」が言った。「別にラルフさんが全盛期の力を取り戻したとしても今の復活した俺には敵いませんけど。とはいえ、万全を期すにはその方がいいじゃないですか。ksks」
「なっ……ひ、卑怯だぞ!? 俺達主人公は本拠地戻ったら十分な回復を受ける権利があるはずじゃないか! だ、大体ボスが自分から攻めてくるなんて……!」
「ハハッ! 椅子に座ってるだけのボスなんて古いですね。そんなんじゃあ、腰を痛めてヘルニアになっちゃうじゃないですか。俺はそんなの嫌ですから」
「ぐっ……た、確かに一理ある……!」
「ふふふ。おっと、そうでした。まだ俺の目的を伝えていませんでしたね」
 言いながら「兵士です!」がラルフ達の前に一足分、歩み出た。
 そして。
「ラルフさん。簡単に言うと、誘拐させて頂こうかと思うんですよ。レベル1でも一応は勇者であるあなたを、兵士の俺が……ついでにその爺さんも一緒に、ですが」
「なん……だと……!?」
 ラルフは驚愕した。焦った。ビビった。狼狽した。
 ――勇者が誘拐されるだって?
 そ、そんなこと、あっていいはずがない!
「っ……そ、そもそも、お前、ここがどこだと思ってんの!? 勇者の本拠地だぞ! ボスが冒険の疲れを癒す前の勇者に奇襲掛けてくるとか、恥ずかしいと思わないのかよ!?」
 ラルフは恥も外聞もなく喚き散らした。
 あまりにも情けない姿であるが、今の彼にはこうするしか「兵士です!」の魔の手に抵抗する手段が残されていなかったのだ。が、しかし。
「は? 思うわけないじゃないですか。というか、どう見ても恥ずかしいのはそっちの方でしょう。勇者のくせに子供みたいに駄々を捏ねて。本物の娘さんに見放されますよ?」
「な、なに!?」
「だよねぇ……」
 さすがにエロサモナーが苦笑する。ラルフだけが酷く取り乱し、声を荒げた。
「エロサモナー! あんたまで納得してどうするんだ!? だ、大体、勇者がさらわれるなんてあまりにもカッコ悪過ぎる……キノコの国のお姫様じゃあるまいし! 俺は腐っても、レベル1でも勇者なんだ! 倒れるときは前のめり! 最期は必ず戦って倒されるべき! 違うか!?」
「いや、ハハッ。なに言ってんでしょう、この人。覚醒も出来ないレベル1のあなたと戦ってもね。勇者哲学を語るにも格というものがあるんじゃないですかねぇ?」
「うぎぎぎぎ……!」
「じゃ、そんな感じで。さらっちゃいーます」
 万事休す。そして非常に軽薄でチャラい雰囲気を携えた「兵士です!」が迫る。TP切れで何も出来ないラルフは全く抵抗することが出来なかった。
「う、うわああああああああああああああああああ!」
  ――勇者の悲鳴が月夜に響き渡る。

 こうして勇者ラルフは「魔」の手に落ちた。勇者が誘拐されるという前代未聞の珍事に対して、酒場へと集う娘達が気付くのは夜が明けてからになる。
 故に、今はまだすべては夢の中。
 三十三人の少女達は、皆、羽毛のシーツと柔らかいまどろみに包まれている。だが三十三人全員が勇者の救出に一役買うかといえば、残念ながらそういうわけではない。個人差があるからだ。
 その中でも、後に一人の少女が背負うことになる責任は非常に大きなものとなる。
「うーん、むにゃむにゃ……ちょっともうラルフったら、えっちなんだからー。うふふふふふ……」
 レベル1勇者を巡る救出劇。
 トレードマークは、薄桃色の髪とお腹が丸出しになった濃青のセーラー服。レベル1になった直後のラルフが最初に出会った天真爛漫な女子高生――「ララ」。小柄な身体では収まりきれないほどの活力を秘めた彼女率いるパーティの手に託されることになる。

続く【6月4日(木)更新予定】


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