声劇台本「追憶に耽りし白亜の船」
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声劇台本「追憶に耽りし白亜の船」

2020-04-07 01:12

    ヘンネル探偵事務所シリーズ
    第2話「追憶に耽りし白亜の船」


    作者:一時 初
    人数比率 ♂3:♀2
    上演時間 約50~55分

    登場人物

    クレスティア・ヘンネル
    探偵  愛称 ティア
    ヘンネル探偵事務所の若き女主
    アグレッシブな行動力が売りでこれまでに様々な事件を解決する。
    台詞数 93

    エンドゥーイ・ハウマン
    助手  愛称 ドゥーイ
    ヘンネル探偵事務所で助手を勤める青年
    おっちょこちょいで頼りない言動だが、現場ではしっかりとし事件解決の糸口を見つけ出してきた。
    台詞数 93

    エラルド・スカリオーネ
    船長 
    豪華客船ホワイト・アメリータの船長
    船員の皆を纏める立派なお鬚のナイスガイ、悪ガキには鉄拳制裁。
    台詞数 73

    ヴァスコ・アルベルティーニ
    船員 
    豪華客船ホワイト・アメリータの船員
    良い感じに日焼けしたスポーツマン体型のナイスガイ、ナンパは挨拶。
    台詞数 47

    グレース・ローデンヴァルト
    記者 
    クールなフリーの女性記者
    社会進出する女性達を第一候補として取材し個人的にも応援している麗人。
    台詞数 59

    マティアス・ラ・フォンテーヌ
    富豪 
    自動車メーカー・ブランドの事業主、元貴族な父の影響で貴族的、ワイン集めが趣味らしい。
    台詞数 14

    名前だけ登場

    クリストハルト・ヘンネル
    フロレンティーナ・ヘンネル
    ドゥイリオ・スカリオーネ

    エルローラ・リストン


    比率 男3:女2
    ●役表
    ・ティア        ♀:
    ・ドゥーイ       ♂:
    ・エラルド       ♂:
    ・ヴァスコ&マティアス ♂:
    ・グレース&女性客※  ♀:

    ※女性客は悲鳴だけSEでも代用可


    本文


    【港】

    ドゥーイ
    「青い空、白い雲、そして穏やかな海に浮かぶ純白の船!これは最高の出航日和に違いありません。
    ほらほらティアさん、こっちに来て見てくださいよ」

    ティア
    「ドゥーイ……子供じゃないんだから、いきなり荷物放って駆け出すんじゃないわよ。
    一緒にいる私まで恥ずかしくなってくるじゃない」

    ドゥーイ
    「あはは……ごめんなさい、でもまさかこんな豪華客船に乗れる機会が巡ってくるなんて思わないじゃないですか」

    ティア
    「まぁそうね、実際私も依頼のお礼にってチケットを貰わなければ、自分から乗ろうとは思わなかったでしょうしね」

    ドゥーイ
    「そういえば貰いものだから気にしてませんでしたけど、このチケットの値段って、一体いくらくらいだったんでしょうね」

    ティア
    「大体……そうね、家の事務所に電話を導入できるくらいの値段かしら」

    ドゥーイ
    「電話を導入って、工事から手続きやらでめちゃくちゃかかるって聞いてますけど」

    ティア
    「貴族か資産家かあるいは役人くらいしか、個人で持ってるところはないんじゃないかしら?個人的に電話があると、仕事の依頼も受けやすそうだから助かるのよね」

    ドゥーイ
    「それってつまりもし導入されたら、そんな地位のある人達と電話越しにお話ししなきゃいけないってことですよね?」

    ティア
    「その為に導入するんだからそうなるでしょ」

    ドゥーイ
    「僕は嫌ですよ、いくらお仕事だからってそんな方々と関わる機会が増えるとなれば、確実に僕の胃がおかしくなりますって」

    ティア
    「そう、じゃあハーブティーでも常備しておくわね」

    ドゥーイ
    「じゃあティアさんは、ちゃんと入れ方を覚えておいてくださいね」

    ティア
    「あら、雇用者に正面から意見するなんて、何時からそんな口叩けるようになったのか・し・ら?」

    ドゥーイ
    「ティアひゃんいひゃいれふー!もう暴力反対ですよ!」

    ティア
    「あんたが話を脱線させるからよ、無いお金の使い道なんて考えてる暇があったら、有るチケットでどう楽しむか考えなさい」

    マティアス
    「そうそう、その方が君たちにとっても良い思い出になると思うよ」

    ティア
    「あら貴方は?」

    マティアス
    「面白そうな話が聞こえてきてね、私の名前はマティアス・ラ・フォンティーヌ。
    元貴族な役人の父を親に持つ、実業家兼資産家さ」

    ティア
    「ご丁寧にどうも、私はクレスティア・ヘンネル、郊外に居を構えてる、ヘンネル探偵事務所の事業主よ」

    ドゥーイ
    「えっと僕はエンドゥーイ・ハウマンと言います。ヘンネル探偵事務所にて、助手を務めさせていただいております」

    マティアス
    「なるほど、君があの女探偵とその助手か、となると確かに、電話が有れば便利かもしれないね」

    (SE メモに書き込む音&紙をちぎる音)

    マティアス
    「もしも電話を購入するのであれば、ここに手紙を送ると良い。
    私の名前を出せば、少しは安くしてくれるはずさ」

    ドゥーイ
    「どうしますティアさん(小声)」

    ティア
    「えっとフォンティーヌさん、私としてはありがたいのだけど、どうしてそこまでしてくれるのかしら」

    マティアス
    「海を眺める君に惹かれたから、というのも理由の一つだけど、実績のある探偵である君と、縁を繋いでおきたかったからね」

    ティア
    「あら素敵なお世辞、もし私宛に依頼をするのであれば、格安で相談に乗ってあげるわよ」

    マティアス
    「その時は是非ともお願いするよ……あぁそうだ、明日の夜なのだが、
    私が主催する立食パーティーを、ラウンジ貸切で開催する予定なんだ。
    もしよかったら来てみるといい、きっと良き縁を結べるはずさ」

    ティア
    「折角のお誘いですし、参加させていただこうかしら」

    マティアス
    「その方が良い、では私はここで失礼させてもらうよ……2代目ヘンネル探偵(小声)」

    ティア
    「……」

    ドゥーイ
    「……貴族に役人に実業家、それに資産家って、前に話してたのをフルコンプどころかプラスされてるじゃないですか」

    ティア
    「もう軟弱ね、どの道これからも探偵業を続けていくのなら、ああいった人との付き合い方も、身につけなきゃダメなのよ」

    ドゥーイ
    「わかってはいるんですけど、まだまだ難しいかなぁなんて……あはは」

    ティア
    「まぁどうせ、明日の立食パーティーで揉まれれば、嫌でも覚えるでしょ」

    ドゥーイ
    「え、僕もパーティーに行かなきゃいけないんですか?」

    ティア
    「えぇ、もちろん強制参加よ」

    ドゥーイ
    「そんなぁ」

    【操舵室】

    エラルド

    「入港後だろうと気を引き締めろ、段取りを間違えるなよ。
    今日は波が穏やかだが、ゲート周りはいつも通り、16人体制で回していけ、客が海に落ちたら大失態だからな。
    お前らは一流のクルーズ船員だ、しっかりゲストルームまでエスコートしていけよ」

    ヴァスコ
    「エラルド船長、今日の下船者・乗船者リストが出来ました。
    それとゲストの1人が、ラウンジ貸切の使用許可を申請してるみたいっす」

    エラルド
    「おうご苦労、あーなになに?料金は主催者負担の立食パーティーか、随分と豪勢なこったぁ。
    おいヴァスコ、食堂のコック連中に、何人かボーナス有りで出張してくるように声掛けてこい」

    ヴァスコ
    「了解!ちなみに船長、いつも通り仕事が一通り終わったら、パーティーに参加しても良いですよね」

    エラルド
    「先週も似たようなこと言って、客に迷惑かけてたのは誰だっけか。
    まぁいい、折角の奢りなんだ。明日の業務に、差し支えない程度に楽しんでこい」

    ヴァスコ
    「流石船長話がわかる。
    おーいお前ら聞いたか、さっさと終わらせて飲みに行くぞ」

    エラルド
    「おいおい、はしゃぎすぎてドジすんじゃねぇぞ。
    にしてもこのマティアス・ラ・フォンティーヌってやつ、なんか聞き覚えがあるような……いや気のせいか」


    【客室前廊下】

    ティア
    「流石お金掛かってるだけあって、船内も綺麗なものね」

    ドゥーイ
    「そうですね、更に言えば道も広いですし、全体を見て回るのにどれくらいかかるのか、
    ……っと見つけましたよ121番、僕たちの部屋はここですね」

    (SE 扉の開く音)

    ティア
    「ねぇドゥーイ、私の視界がおかしいのかしら、何故か目の前にダブルベットが見えるわ」

    ドゥーイ
    「──あ、そういえば貰ったチケットって、ペアチケットだったような」

    ティア
    「一緒の部屋になるのは、なんとなくわかってたけど、まさかベットが別々じゃないなんて」

    ドゥーイ
    「事務所だと、それぞれ別の部屋で仮眠とってましたもんね」

    ティア
    「あーもうどうすればいいのよ」

    グレース
    「クルーに頼めば、ベッドメイキングし直してもらえるはずだよ」

    ドゥーイ
    「へ?」

    ティア
    「貴女は?」

    グレース
    「隣の部屋の者さ。その反応的に、君たちはクルーズ船は初めてなのだろう?」

    ティア
    「えぇ、恥ずかしながらその通りよ」

    グレース
    「いや恥ずかしがらなくともいい、誰だって初めての時はある。
    ただ一つ言わせてもらうとするならば、そういう時こそ周りの者を頼った方がいい」

    ティア
    「その金言、心にとどめておくわ」

    グレース
    「ふふ……噂にたがわぬ切り替えの早さだねヘンネル探偵。
    その様子だと、先ほどの狼狽っぷりも演技だったのかな」

    ドゥーイ
    「いやあれは完全にティアさんの素です」

    ティア
    「おい」

    ドゥーイ
    「でもまだ名乗ってもないのに、何で僕たちの名前を?」

    グレース
    「船着き場で、マティアス・ラ・フォンティーヌという男に会っただろう?
    彼とは仕事柄付き合いがあってね、ここに来る前に、君たちのことを聞いていたのさ」

    ドゥーイ
    「フォンティーヌさんとお知り合いだったんですね……ってことは、貴女も高貴な身分のお方だったり」

    グレース
    「いや私はそんなかしこまるほどの者じゃない。
    改めて自己紹介しよう、フリージャーナリストのグレース・ローデンヴァルトという者だ。
    船上パーティーに記者として呼ばれていてね、マティアスは今回限りのスポンサーといったところさ」

    ティア
    「フリーでスポンサーが着くってことは、ローデンヴァルトさん貴女とても優秀なのね」

    グレース
    「女性記者という物珍しさから、少しばかり目にかけてもらっているだけだよ。
    私としては、着手したい仕事に専念出来てない時点でまだまださ」

    ドゥーイ
    「それでも凄いと思いますよ、それだけ仕事が評価されてる証ですし」

    ティア
    「ちなみになのだけど、その着手したい仕事っていうのは?」

    グレース
    「社会の一線で活躍している女性達を取り上げる記事を書き上げること、
    そう例えばヘンネル探偵、君みたいな人物が主な対象となる」

    ティア
    「なるほどね、何で私たちに話しかけてきたのか、おおよそ理解出来たわ」

    グレース
    「ご察しの通りだ、で早速なのだがヘンネル探偵、
    少しばかり私の取材に付き合ってはいただけないか、無論無理にとは言わないが」

    ティア
    「ええ取材位なら、私は別に構わないわ」

    グレース
    「話が早くて助かるよ、では場所を変えさせていただこうか。
    船上部の展望台に、落ち着いて話せるバーがあってね、そこまでエスコートしよう」

    ティア
    「随分と小洒落た場所にあるのね、楽しみにさせてもらうわ」

    ドゥーイ
    「えーと取材するって話の流れ的に、僕も同行した方が良いんですか?」

    グレース
    「それだとクルーにベットメイキングを頼む者がいなくなってしまうな。
    確かに助手である君からも話を聞きたくはある、だが今回はヘンネル探偵を優先させてもらおう」

    ティア
    「そういうわけだからドゥーイ、貴方お留守番ね。
    要件が終わったら自由行動していいから、それまでよろしく」

    ドゥーイ
    「ちょティアさん!?」

    グレース
    「すまないな助手君」

    ドゥーイ
    「はぁ……なんか僕、こういう役どころばかりな気がする」


    【ロイヤルクラス客室】

    (SE ノックの音)

    マティアス
    「どうぞお入りください」

    (SE 扉の開く音)

    エラルド
    「失礼するぜ、確認をとりに来たんだが、あんたが一等ラウンジを貸切で使いたいって言ってる、マティアス・ラ・フォンティーヌさんでいいんだよな」

    マティアス
    「ええ私で合ってますよ」

    エラルド
    「そうか、これが貸切費用の明細と契約書類だ。
    失くさずしっかり保存しといてくれよ」

    マティアス
    「どうもありがとう助かるよ」

    エラルドM
    「……俺の見間違いじゃなければ、あいつはあの時の」


    【船上デッキ】

    ドゥーイ
    「んー全てやりきったかのような開放感、ティアさんも居ないし、のんびりとクルーズを満喫できそうだ」

    ヴァスコ
    「おーいそこのお前さん、人手が足りねぇからよ、少しばかり手伝ってくれねぇか」

    ドゥーイ
    「え、もしかして僕ですか?」

    ヴァスコ
    「おうとも、随分と暇してるように見えたからな」

    ドゥーイ
    「さらば、僕のなけなしの自由時間」

    ヴァスコ
    「まぁそんなしょぼくれるなって、後でいい物くれてやるからよ」

    ドゥーイ
    「はぁ……で僕は何をすればいいんですか」

    ヴァスコ
    「ありがとよ、実はこいつをラウンジまで持っていきたいんだが。
    1人で持ち上げるのはきつくてな、反対側を持ってくれ」

    ドゥーイ
    「うわっ立派な樽、これって中に何が入ってるんですか?」

    ヴァスコ
    「そりゃとびっきりのワインよ、太っ腹な客が居たらしくてな、今夜はこいつでパーティーってわけだ」

    ドゥーイ
    「それはなんとも凄いですね。
    わかりました、しっかり運ばせてもらいます」

    ドゥーイ&ヴァスコ
    「せーのっ!」


    (2人の気張る音 )※10秒~30秒ほどアドリブどうぞ


    ヴァスコ
    「んっ、ここら辺で降ろしておけば大丈夫だろう」

    ドゥーイ
    「ふぅ……とても疲れました」

    ヴァスコ
    「にしても随分とひょろいから問題ないのか気になってたが、案外やるじゃねぇか」

    ドゥーイ
    「いやぁ、これでも随分としごかれてるんですよ」

    ヴァスコ
    「お?そいつぁ女か?どうなんだ?俺に教えてみろよ」

    ドゥーイ
    「いや、そのえっと」

    ヴァスコ
    「ん?どうした、もしかして言いづらいことだったか?」

    ドゥーイ
    「……後ろ」

    ヴァスコ
    「うしろぉ~?」

    エラルド
    「おうヴァスコ、客に仕事を手伝わせておいて自分はお喋りたぁ、随分と良い身分じゃねぇか」

    ヴァスコ
    「せ……船長!?いやこれには深い事情があって」

    エラルド
    「言い訳無用!まだ運び足りてねぇ樽があるから、全部お前が運んで来い」

    ヴァスコ
    「すいませんでした!」

    (SE 走り立ち去る音)

    エラルド
    「ったくあいつは……すまねぇな坊主、折角リフレッシュしに来たのに仕事なんかに付き合わせちまって」

    ドゥーイ
    「あーいえ、少し体動かしたい気分でしたし大丈夫ですよ」

    エラルド
    「坊主、お前中々に気が良いやつだな、よし気に入った。
    詫びになるかわかんねぇが、俺がこの船を案内してやるよ」

    ドゥーイ
    「え、確か船長さんでしたよね。本当に大丈夫なんですか?」

    エラルド
    「男に二言はねぇ、ちょうど暇してたんだ。
    これから付きっ切りで、ホワイト・アメリータ号の良い所を教えてやる」

    ドゥーイ
    「はい!」


    【展望台】

    ティア
    「実はあの事件の捜査の裏で、私の活躍を自分の手柄にしようって考えてた汚職警官がいてね。
    少しばかり危なかったけど、両親の教えのおかげで、表沙汰にしてやり返してやったわ」

    グレース
    「あのスキャンダルは君の仕業だったのか、当時記事を読んでいて胸のすく思いをした覚えがある。
    君の両親は、随分と教育熱心だったみたいだね」

    ティア
    「ええ、小さい頃から探偵としての思考を父に、名士としての立ち振る舞いを母から教わったもの」

    グレース
    「クリストハルト・ヘンネル氏とフロレンティーナ・ヘンネル氏か、随分と惜しい人を亡くしたものだ」

    ティア
    「……そうね」

    グレース
    「申し訳ないヘンネル探偵、少しばかり無神経だったみたいだ」

    ティア
    「大丈夫よ、仕方ないってわかってるから、あれは誰も予想できない事故だったもの」

    グレース
    「……」

    ティア
    「……」

    グレース
    「ところで話は変わるのだが、フォンティーヌ氏主催の立食パーティー、君は参加するのかな?」

    ティア
    「声をかけさせて頂いたし、私は参加しようと思っているわ」

    グレース
    「もし良かったらだが、その時に私も同行させてはいただけないだろうか、これでもそれなりに顔が効くと自負している」

    ティア
    「とても助かるわ。でも貴女の取材の続きがしたいっていう一言を、付け忘れてるんじゃないかしら」

    グレース
    「ふふふ、これは一本取られたかな」

    ティア
    「これで対等よね、貴女は私の取材が出来て、私は貴女のコネを利用する」

    グレース
    「全く強かな女性だよ、ヘンネル探偵」

    ティア
    「貴女もね、グレースさん」

    ティア&グレース
    (笑い)

    ヴァスコ
    「あぁこれはきっと運命だ、何故なら我が人生の中で、最も美しい存在がここに居るのだから。
    美しき女神たちよ、願わくばこの私に、宴の場までエスコートさせてはいただけないか」

    ティア
    「どうぞお構いなく」

    グレース
    「そもそも誰だ君は」


    【操舵室】

    エラルド
    「どうだ坊主、これが船を操縦する者の世界だ、凄いもんだろう?」

    ドゥーイ
    「はい凄いです!うわー船を動かすときって本当に舵を取るんだ」

    エラルド
    「航行中の今は触らせてあげられねぇが、舵を握った時は絶対興奮するだろうぜ。
    窓の外を見てみろよ。この大海原を、こいつ一本でこれだけの人間乗せて航海するんだ。
    それだけで凄い重圧だろう?そいつを任されるっていうのは、それだけ名誉でロマンがあるってーわけだ」

    ドゥーイ
    「いや本当に凄いです、この船にはお偉いさんもいっぱい乗ってるみたいですし。
    船長さんはそれだけ信頼されてるってことなんですもんね」

    エラルド
    「はっ確かにそうだな、随分とお世辞も上手じゃねぇか坊主」

    ドゥーイ
    「あはは、お世辞じゃないです本心からですよ」

    エラルド
    「坊主もなんだかんだ言って人を乗せるのが上手いな。
    おうそうだ、流石に操舵は無理だがこっちに良いもんがあるぜ」

    ドゥーイ
    「えっと船長さんこれは?」

    エラルド
    「こいつは伝声管、別名をボイスチューブと言ってな。
    このラッパのベルみたいなところで声を出して、ここから他の場所に繋がっている別の伝声管に声を伝えるっていうもんだ」

    ドゥーイ
    「つまり電話みたいな感じですか?」

    エラルド
    「確かに似てはいるがこっちが本家大元よ、電話と違って電力いらずで声を届けれるんだ。
    ただ距離に制限があるのと、片っ方で声出してる間はもう片っ方では声を聞くしかない一方通行ってことぐらいか」

    ドゥーイ
    「こうして聞いたところ、何だか不便そうに思えますね」

    エラルド
    「不便なところもあるが、利便性やコストでいうとこっちが勝るんでな。
    それに良いこともあるぞ、ラウンジとかでオーケストラが有る時に開けてるとな、その演奏をここで堪能できるんだ」

    ドゥーイ
    「クルーだけの特権ってやつですね!
    それにしても、なんでこんなにたくさん蓋が閉まってるんですか?」

    エラルド
    「そりゃあ、それぞれ別々の場所に繋がってるからな。
    蓋を閉めとかなきゃ、色んな所の音が混ざっちまって困ることになる」

    ドゥーイ
    「なるほど、確かにそうなりますね」

    エラルド
    「だろう?まぁ全部閉めてると、あっち側で何かあった時に対応できねぇから、最低限の場所はいつも開けてるんだがな」

    ドゥーイ
    「ちょっと気になったんですけど船長さん」

    エラルド
    「ん、何だ?」

    ドゥーイ
    「一度試しに全部の蓋開けてみていいですか、どんな感じになるのか聞いてみたいです」

    エラルド
    「しょうがねぇな坊主、緊急の連絡も入ることはないだろうし、向こう側も開いてるところがあるかはわからねぇがやってみてもいいぜ」

    ドゥーイ
    「ありがとうございます!えっとこれが機械室で……こっちがラウンジ……んでもってこれが乗降口。
    あ!これティアさん達が行ってる展望台のだ。
    聞こえるかどうかわからないけど開けてみようっと」

    (SE 蓋を開ける音)

    がついてるのは管を通した音声

    ヴァスコ※
    「あぁこれはきっと運命だ、何故なら我が人生の中で、最も美しい存在がここに居るのだから。
    美しき女神たちよ、願わくばこの私に、宴の場までエスコートさせてはいただけないか」

    ティア※
    「どうぞお構いなく」

    グレース※
    「そもそも誰だ君は」

    (SE 蓋を閉じる音)

    ドゥーイ
    「……あれ?なんか全員聞き覚えがある声だったような」

    エラルド
    「おい坊主、すまねぇがもう一回開けてみてくれ」

    ドゥーイ
    「あ、はい」

    (SE 蓋を開ける音)

    ヴァスコ※
    「女神たちはきっと気恥ずかしがっているんだね、でも大丈夫。
    海の勇士であるこの私に任せていただければ、きっと満足させてあげられますとも」

    ティア※
    「こちらとしては、貴方はお呼びではないのだけど」

    グレース※
    「ハッキリ言おう迷惑だ」

    エラルド
    「坊主、ちょっとそこ退いてくれ」

    ドゥーイ
    「あ、はいどうぞ」

    エラルド
    「このアホンダラ!仕事サボって女口説くたぁ、おめぇホワイト・アメリータ号のクルーである自覚はあんのか!
    そもそもヴァスコ、おめぇには言っておいたよな、樽をラウンジまで運んどけって。
    さっさと終わらさねぇと、パーティーの参加も禁止にするぞ」

    ヴァスコ※
    「うぇっ!聞こえてたんですか船長、今すぐとりかかります!」

    エラルド
    「なんでそこだけ成長しねぇのかねぇあいつは、サボり癖とナンパ癖だけはいっちょ前になりやがって」

    ティア※
    「船長さんで良いのよね?ありがとう助かったわ」

    エラルド
    「いやこちらこそクルーの1人が迷惑かけて申し訳ねぇ、あいつには後で盛大に叱っておく」

    グレース※
    「私からも感謝を、世話になった」

    エラルド
    「改めて言われるとなんか恥ずかしいなおい」

    ドゥーイ
    「船長さん、僕も少し話がしたいんですけど」

    エラルド
    「ん?あぁ良いが、知り合いか?」

    ドゥーイ
    「はいそうです!……あ、ティアさんティアさん聞こえますか、僕ですドゥーイです」

    ティア※
    「え?何でドゥーイの声がそっちから聞こえるのよ」

    ドゥーイ
    「ちょっと色々ありまして、船長さんにこの船の案内をしてもらってるんです。
    本当に凄いんですよ!この後も色々見せてもらう予定なのでそっちも楽しんでくださいね」

    ティア※
    「楽しいからって迷惑かけすぎないようにね、あと立食パーティーには遅れないように」

    ドゥーイ
    「心配しなくても大丈夫ですよ、じゃあティアさんまた後で」

    (SE 蓋を閉める)

    エラルド
    「はっはっは、男と女の知り合いってことで少しばかり邪推しちまったが、まるで姉と弟だな」

    ドゥーイ
    「まぁ確かにティアさんは意外と心配性ですけど、そんなに僕って頼りないかなぁ」

    エラルド
    「ガタイが良いとは避けても言えねぇなぁ、もちっと鍛えろ坊主。
    さて、次はお待ちかねの機関部だ」

    ドゥーイ
    「はい!」


    【船上デッキ】

    ヴァスコ
    「探しましたよ船長、こんなところにいたんすね」

    エラルド
    「あ?仕事は終わったのかヴァスコ」

    ヴァスコ
    「ちゃんと片付けときましたよ……あいつドゥイリオに似てましたね」

    エラルド
    「あぁそうだな、まるで過去に戻ったみたいだった」

    ヴァスコ
    「いつも俺のバカに付き合わせて、一緒に騒いでたあの頃が懐かしいや」

    エラルド
    「なんだ、バカしてた自覚はあったのか」

    ヴァスコ
    「ひでぇ!流石にそれくらいは、大人になって自覚しましたって」

    エラルド
    「自覚してる割りに、今日は随分と無理してはしゃいでたみたいだがな」

    ヴァスコ
    「そいつぁ……その色々あったんすよ」

    エラルド
    「そういえば今日のリストを纏めたのお前だったな……てことはやっぱり気づいてたのか」

    ヴァスコ
    「忘れられるわけないじゃないですか、それに辛いのは船長だって一緒でしょ」

    エラルド
    「あの頃みたいにおやっさんとは言ってはくれないんだな」

    ヴァスコ
    「言えるわけねぇ、俺はドゥイリオを、船長の息子を殺したようなもんなんだから」

    エラルド
    「だからってそうあんまり自分を責めるもんじゃねぇぞヴァスコ」

    ヴァスコ
    「それじゃあ自分が納得できないんすよ……少し夜風に当たってきます」

    ヴァスコM
    「そうだ10年前のあの日、俺が旅行に誘わなければ、ドゥイリオも親父もお袋も、誰も死ななかった」

    ──少しの間──

    エラルド
    「バカ野郎が、親代わりの身として、泣き言の1つくらい受け止めてやるっていうのに」


    【ラウンジ】

    ティア
    「ここが一等ラウンジ、船の中とは思えないくらいに広いホールね」

    グレース
    「演奏ホールとしても使っている時もあるみたいでね。
    そこの螺旋階段を上がれば、2階からも眺めることができるようだ」

    ティア
    「へぇそうなの、さてフォンティーヌさんに挨拶したいのだけど、主催なだけあって周りに人が多いわね。
    ドゥーイとも合流出来てないし、もう少し待っていようかしら」

    グレース
    「ならば、そこのカウンター席で飲みながら待つのは如何だろう」

    ティア
    「良い考えねそれ、もし飲みすぎたとしても、遅刻したドゥーイが悪いって言い訳ができるところが特にね」

    グレース
    「なら私からは酒が美味しくなるような話を提供させて頂こう。
    まぁ先ほど見かけた光景の話になるわけだがね」

    ティア&グレース
    (笑う)

    ドゥーイ
    「やっと追いついた……(息を整える)
    さっき扉の前で目が合ったのに、お二人とも助けてくれないなんて酷いですよ」

    ティア
    「あらドゥーイ、何時の間に近くに来たのかしら、人が多すぎて気づかなかったわ」

    ドゥーイ
    「それで誤魔化せられると本気で思ってるんですか」

    グレース
    「おや助手君、あのレディ達とは同行しなかったのかい」

    ドゥーイ
    「彼女達にはしっかりと断ってきました。
    大体あんなところで1人にされても、何を話せばいいのかわからないですよ」

    ティア
    「そうそれは残念、いい酒の肴になるかなって思ってたのに」

    ドゥーイ
    「やっぱり確信犯じゃないですか!あーもう僕も飲みます」

    グレース
    「では私はアンジェロをいただこう」

    ティア
    「私はオールドファッションドで」

    ドゥーイ
    「ソウルキスをお願いします」

    (SE カクテルを振る音&グラスの置く音)

    グレース
    「さてカクテルもいきわたったところで聞いてみたいのだが、ヘンネル探偵は探偵業での目標みたいなものはあるのかな?」

    ティア
    「特にないわ」

    グレース
    「ほうそれは何故?」

    ティア
    「私はやりたいことをやってるだけよ、ただ目の前の謎を解き明かしたいだけ。
    まぁ強いて言うなら、より困難な事件に携わりたいものね」

    グレース
    「ふっ君も彼女と同じようなことを言うのだな」

    ティア
    「あらその彼女っていうのは?」

    グレース
    「君と同じ女探偵のエルローラ・リストン氏のことさ」

    ティア
    「へぇ私と同じねぇ……ん?なんかその名前何処かで見た覚えが」

    ドゥーイ
    「ティアさんあれですよ。2か月前の一面に載ってた、マーカス市長不審死事件を解決したっていう女名探偵ですよ」

    ティア
    「そういえばそんなのも見たような」

    ドゥーイ
    「対抗心燃やしながら読んでたのにもう忘れたんですか」

    グレース
    「実はその記事を書いたのは私なんだ、その折に少しばかり交流する機会があってね。
    そういう経緯で彼女と同じように探偵として活躍する君に興味を持ったというわけさ」

    ドゥーイ
    「ってことは、ティアさんも新聞に乗っちゃうんですか?」

    グレース
    「私としては是非とも、と言いたいところだがね。
    残念ながら、話題性という意味で出版社からは却下されるだろうさ。
    だから今回の取材は、私の個人的なものになる」

    ティア
    「それは残念ね、少しばかり期待したんだけど」

    グレース
    「ヘンネル探偵ならば、そう遠からず話題に上がると思われるがね。
    おや、主催者のフォンティーヌ氏からパーティの挨拶があるみたいだ」

    ──少しの間──

    マティアス
    「ようこそクルーズ参加者の皆さま、この度は、私の主催する立食パーティーにお集まりいただき、誠にありがとうございます。
    皆さまのご存じの通り、現在は飛ぶ鳥を落とす勢いで成長を続ける、我が自動車メーカーですが。
    10年程前に、事業主である私が起こしてしまった自動車事故で、その信頼と勢いを失くしてしまった歴史があります」

    ティア
    「へぇ、落ち目のところから持ち直したの、なかなかの経営上手なのね」

    グレース
    「当時の記事を纏め読みしたことがあるのだが、しばらくの間、その話題が取り上げられていたようだね」

    ドゥーイ
    「とても大きなスキャンダルだったと思うのに、それを苦にもしてないなんて。
    やっぱり大物って言われる人って、心理面の強さも凄いんだなぁ」

    マティアス
    「しかし我が自動車メーカーは、その様な苦境や逆境にも耐え、地道に信頼を取り返していき、遂には来季上旬に、海外進出を図ることができるようにまで大きく成長いたしました。
    その為、この度のパーティーでは、これからの海外での活動を、応援していただける出資者を集いたく思っております。
    またそうでなくとも、様々な面でご協力いただけるプロフェッショナルな方々もご招待いただいておりますので、この機会に是非ご交流いただければと思います」

    ティア
    「私たちはプロフェッショナル枠で呼ばれてたみたいね」

    グレース
    「君は探偵、私は記者としてだな」

    マティアス
    「それでは皆さま、乾杯いたしましょう」

    (SE ガチャ ※ワイヤーロープ巻き取り機のロックが外れる音)

    (SE シュルシュルシュル ※ワイヤーロープ巻き取り機が回転する音)

    マティアス
    「ん?」

    (SE ガシャン ※シャンデリアの落ちる音)

    女性客※(SEでも代用可)
    「キャアアアアア!!」

    ドゥーイ
    「えっ!フォンティーヌさん!?」

    グレース
    「シャンデリアが落ちてきただと」

    ティア
    「緊急事態よ!手を貸せる人は協力をお願い!
    ドゥーイ!みんながシャンデリアを持ち上げてる間にフォンティーヌさんを下から引き出すのよ」

    ドゥーイ
    「はいティアさん!すぐに取り掛かります」

    ──少しの間──

    グレース
    「彼は大丈夫か」

    ティア
    「いいえ駄目よ、心臓も呼吸も止まってる……ドゥーイ脈拍は?」

    ドゥーイ
    「それが、残念ながらもう」

    ティア
    「即死……か、きっと当たり所が悪かったのね」

    エラルド
    「事故が起きたって聞いたぞ、一体何があったんだ!……っ!!フォンティーヌさん!?」

    ドゥーイ
    「あ……船長さん」

    グレース
    「パーティーの挨拶中にシャンデリアが落ちてきてな。
    落下場所にいたフォンティーヌ氏が亡くなってしまわれたのだ」

    エラルド
    「なんだと……とりあえずここは危ねぇから、お客さんは皆自室に戻っていただかねぇと」

    ティア
    「ねぇ船長さん、私たちはもう少し現場に立ち会ってもいいかしら」

    エラルド
    「あ?気は確かか、何だってここに残るっていうんだ」

    グレース
    「彼女はヘンネル探偵だからね、恐らく現場の捜査がしたいのだろう」

    エラルド
    「探偵……確かに不安がってるお客さんの為にも、何があったのかしっかり調べてもらった方がいいだろうな。
    よし、関係者ってことで許可を出しておくぜ。それと俺も一緒に捜査に付き合うからな」

    ドゥーイ
    「こちらとしても、現場に詳しい人が居てくれるととても助かります」

    グレース
    「それと私も同行させていただこう。
    こう見えて記憶力には自信があるのでな、何かと役に立つかもしれん」

    ティア
    「頼りにしてるわね、それじゃあ動くわよ」


    【ラウンジ捜査パート】

    ドゥーイ
    「一番最初に捜査するべきは、落下してきたシャンデリア……ですよねティアさん」

    ティア
    「えぇそうね、凶器になったのはあのシャンデリアだもの」

    エラルド
    「あのシャンデリアはワイヤーロープで釣りあげててな。
    ラウンジの2階にある巻き取り機で操作してるんだ」

    ティア
    「2階ね、とりあえず行ってみましょう」

    ──少しの間──

    エラルド
    「こいつだ、ここにあるのは手動の巻き取り式でな。
    レバーを倒してロックが外れると、ワイヤーロープが巻き戻ってしまうんだ」

    ドゥーイ
    「確かにロックが外れてますね、でも何が原因で動いたんでしょ?」

    エラルド
    「うーむ、触ってみたところ緩くなってるわけでもねぇしなぁ」

    ティア
    「となると、何か外的要因によって引き起こされたってことになるわね」

    ドゥーイ
    「外的要因っていうと人とかですか?」

    ティア
    「ええそうよ」

    グレース
    「つまり君はこう考えているわけだ、今回の事故は本当は事故などではなく、殺人事件だったのだと」

    エラルド
    「殺人事件だと?いくらなんでも話が飛躍しすぎだと思うんだが」

    ティア
    「でも巻き取り機は正常だったのよね?」

    エラルド
    「あぁ確かにその通りだが、もし仮に犯人がいたとしてロックを外したとすれば、
    いくら現場がパニックになってようとここじゃ丸見えで、出口に行こうにも遠回りする必要があるぜ」

    グレース
    「あと事故の前の話になるが、確かあの時この場所で、特に人は見かけなかったな」

    ティア
    「そこがネックなのよねぇ」

    ドゥーイ
    「そういえばティアさん、関係あるのかはわからないのですが、
    シャンデリアが落ちてくる時に、こことは違う場所で金属の擦れるような音がした気がするんです」

    グレース
    「あぁ確かに私もそのような音を聞いた、確かこの辺りだったかな?」

    エラルド
    「おいおいそっちに行っても壁の突き当りだぞ……ん?こいつぁ」

    ドゥーイ
    「これ伝声管ですね」

    ティア
    「伝声管……金属の擦れる音……もしかして!」

    ドゥーイ
    「何か分かったんですかティアさん?」

    ティア
    「ええ、私の思ってる通りなら、これで犯行のトリックを突き止められるわ」

    エラルド
    「なんだって?そいつぁ本当か嬢ちゃん」

    ティア
    「この伝声管から巻き取り機までの位置って、丁度上手いこと人が通らない位置にあるわよね」

    グレース
    「ふむ確かに、言われてみればそうなっているようだ」

    ティア
    「それと巻き取り機のロックを外す時のレバーを倒す方向、
    伝声管のある方向と一致しない?」

    ドゥーイ
    「あ!本当だ一致する」

    エラルド
    「いやまぁ言われてみればそうなんだが、それが一体何になるんだ?」

    ティア
    「私の推理が正しければ、その伝声管の内部に紐か何かが擦れたような痕があるはずよ。
    ドゥーイ確かめてきて」

    ドゥーイ
    「はい、すぐ確認してきます!……(少し離れたところから)ありました!ありましたよティアさん!」

    ティア
    「やっぱりね、そこから紐を通してレバーを操作したのよ。
    それとフォンティーヌさんを狙ったことだけど、おそらくそれも伝声管を通して挨拶のタイミングを伺ってたに違いないわ」

    グレース
    「こんな些細な手掛かりでトリックを見破るとは、やはり君は凄いな」

    ティア
    「この程度たいしたことじゃないわ、さてこれでほぼ確定よね。
    後はあの伝声管が何処に繋がっているかなのだけど……船長さん?」

    エラルド
    「あそこが繋がってる場所は一か所しかねぇ、操舵室だ」


    【操舵室】

    ヴァスコ
    「(お酒を飲む音)……美人には逃げられるし(ヒック)仕事はサボれねぇし(ヒック)
    人生って本当に辛いよな……あーお酒だけが俺を癒してくれる……うっぷ」

    (SE 扉を勢いよく開ける音)

    エラルド
    「動くな!お前の逃げ場所は何処にもねぇぞ!」

    ヴァスコ
    「あれ?船長じゃないですか(ヒック)どうしたんですか?そんな血気迫る顔をして」

    エラルド
    「ヴァスコ……お前こそこんなところで何飲んだくれてんだ」

    ヴァスコ
    「って言われてもなぁ、結局パーティーの参加は禁止されちまったし(ヒック)
    空いた時間使って好きに飲んでるだけっすよ」

    ドゥーイ
    「はぁはぁ……船長さん先走って1人で行かないでくださいよ」

    ティア
    「そうよ、案内が先に行っちゃったせいで無駄に走る羽目になったじゃないの」

    グレース
    「……緊急事態とはわかっているが、私は運動とは随分と無縁なんだ」

    ヴァスコ
    「んあ?昼間の優しい青年に美人さん方じゃないの(ヒック)みんなパーティーを抜け出してきたのかぁ?
    良かったらここで一緒に飲もうぜ(酒を飲む音)みんな一緒ならきっと楽しいからよぉ」

    ティア
    「船長さん、伝声管の前のあれ」

    エラルド
    「あぁ……予備のワイヤーロープだな」

    グレース
    「ふむ、先に何かを引っ掛けられるようになってるのがここからでも見て取れるな」

    ヴァスコ
    「船長も酷いっすよ、俺なんか放っておいてそんな美人さん方と夜を過ごすなんてさぁ」

    エラルド
    「バカ野郎!ヴァスコお前、人が死んだっていうのにヘラヘラしやがって」

    ヴァスコ
    「……人が死んだ?何言ってるんです船長、あっ!もしかして船長ももう飲んじゃってます?」

    エラルド
    「──っ!歯ぁ食いしばれヴァスコ!!」

    (SE 殴る音)

    ヴァスコ
    「──ってぇ……何しやがる!」

    エラルド
    「これで少しは酒が抜けただろう、黙って話を聞け」

    ドゥーイ
    「随分と荒っぽいですね」

    グレース
    「水をかけた方が効果は高いと思うのだがな」

    ティア
    「会うのは2度目ね、昼間のナンパ師さん。
    私はクレスティア・ヘンネル、ヘンネル探偵事務所の女主よ」

    ヴァスコ
    「あぁ?探偵?」

    ティア
    「今日この場所に来たのは立食パーティ中に起きた事故、
    いえ殺人事件の真実を解き明かすためよ」

    ヴァスコ
    「伝声管から聞こえてきた事故のことか?それがなんで殺人事件になるんだよ」

    ティア
    「いいえ、今回の件は確実に殺人事件よ。
    貴方の隣にあるその予備のワイヤーロープが動かぬ証拠になるわ」

    ヴァスコ
    「……」

    エラルド
    「ヴァスコ、お前も本当はわかってるんだろ、もう誤魔化しも効かねぇって」

    ヴァスコ
    「……」

    エラルド
    「なぁヴァスコ、フォンティーヌさんを殺したのはやっぱりあれなのか?」

    ヴァスコ
    「……10年前の、ドゥイリオと俺の両親の敵討ちだ」

    エラルド
    「やはりそうか」

    ドゥーイ
    「え、これってどういうことなんです?」

    ティア
    「あのねドゥーイ、人を殺すのにも動機っていうものがあるのよ」

    グレース
    「10年前……まさか、フォンティーヌ氏が起こしたという自動車事故のことを言っているのか?」

    ヴァスコ
    「あぁその自動車事故のことさ。
    バカな少年が、両親との家族旅行に親友を誘ってその3人をみんな亡くし。
    それどころか交通違反を起こしたのはこっちだと、全ての責任を押し付けられて財産さえも差し押さえられたりもした。
    恨まない方がありえない……でもよ、これまでは自分が悪いんだって、そう思ってなんとかなってたんだ。
    あいつが再び俺の目の前に現れるまでは」

    エラルド
    「……ヴァスコ」

    ヴァスコ
    「船長だって恨んでいるんだろう!だってあいつは!親友のドゥイリオは!
    エラルド・スカリオーネ、あんたの息子なんだから!!」

    ──少しの間──

    グレース
    「当時亡くなった子供の名前は確か……ドゥイリオ・スカリオーネ」

    エラルド
    「……もう10年も経つっていうのによ、未だに夢に見る。
    そりゃあ俺も1人の親だ、忘れられねぇし恨んでもいるさ。
    だがな、それを言い訳にして潰れることは絶対にねぇんだよ。
    ヴァスコ……俺はな、お前のことはあいつらから託されたんだと思っている。
    だからこそ、お前に罪を重ねて欲しくなかった」

    ヴァスコ
    「……おやっさん」

    エラルド
    「いつもそう呼べって言ってたのにな。
    お前は変なところばかり頑固で、自分だけを責め立てていた」

    ヴァスコ
    「俺のそういうところ、きっとあんたに似たんだよ」

    エラルド
    「はっ!減らず口ばかり上手くなりやがって。
    ……もうあの時の自分を許してやれ、そして今重ねた罪を償ってこい。
    俺は……お前をもう1人の息子だと思っている。
    お前の帰る場所はちゃんと残しておく、だから……現実から逃げる男になるな!
    強い男になって帰ってこい!いいか!男と男の約束だ!!」

    ヴァスコ
    「おやっさん……あぁ!約束だ……やくそく……うっ(号泣)」

    ──少しの間──

    ドゥーイ
    「うぅ……大事な、とても大事な約束ですね」

    グレース
    「まさか過去にフォンティーヌ氏について調べたことが役に立つとはな、思いもしなかったよ」

    ティア
    「……約束か、ちゃんと果たされると良いわね、貴方も私も」


    【港】

    エラルド
    「事件やらなんやらで、嬢ちゃん達と坊主には随分と世話になっちまったな」

    ティア
    「良いのよ、クルーズ船で過ごす時には私たちも世話になったもの」

    ドゥーイ
    「そうそう、お互いが世話になってるんですからそれで良いじゃないですか」

    グレース
    「つまり持ちつ持たれつの関係が最良ということだな」

    エラルド
    「そういう意味では、俺もドゥイリオが亡くなってから、ヴァスコのやつに精神的に世話になってたんだなと、そう改めて感じるな」

    ティア
    「親は子がいるから強くなれる、きっとそういうことよ」

    エラルド
    「そうだな、そうに違いねぇ」

    ティア
    「でも本当にいいの?ヴァスコ・アルベルティーニさんの裁判。
    私たちが出席した方が、あの事件についても弁護しやすいと思うのだけど」

    エラルド
    「いやいいんだ、探偵の嬢ちゃんと坊主にはこれから行くべき所があるんだろ?
    流石に忙しそうな人に向かって、長期間続きそうな裁判に参加しろだなんて頼めねぇよ。
    それにな、なんでも強力な助っ人を呼んでくれる当てがあってだな」

    ドゥーイ
    「え、そうなんですか?それは本当に良かったです!でも一体誰が」

    グレース
    「私のコネを使ってね、知り合いの弁護士に声をかけておいたのさ」

    ドゥーイ
    「そんなことまでしてたんですか、ローデンヴァルトさん」

    グレース
    「コネは使わなくては勿体ないだろう?もちろんだがこれから先、君たちに頼る時もあるかもしれない、その時はよろしく頼む」

    ティア
    「じゃあその依頼、楽しみにして待ってるわ」

    エラルド
    「おい嬢ちゃん、もうそろそろ出航の時間だ」

    グレース
    「ではまた会おう、ヘンネル探偵とその助手君」

    エラルド
    「探偵の嬢ちゃんと坊主も元気でな、そんでまた俺の船に乗りに来てくれよ」

    (SE 船の汽笛)

    ティア
    「だってさドゥーイ、また稼がなきゃいけないわね」

    ドゥーイ
    「今回クルーズ船に乗れたのも、依頼人から頂いたチケットのおかげですしね」

    ティア
    「じゃあ次の依頼の目的地まで、電車に乗って行くわよ」

    ドゥーイ
    「はい、ティアさん!……あれ?なんかティアさんの鞄に変な紙が挟まってますよ、何々」

    グレースN
    「ヘンネル探偵とその助手君へ
    このクルーズ船での君たちとの旅のひとときは、とても刺激的で楽しかった。
    まさか殺人事件が起こるとは思わなかったが、君たち探偵の推理を現場で見聞きすることが出来て本当に良かったと思っている。
    さて、今回このように筆を執った経緯なのだが、船内で君たちにした取材の件についての話だ。
    元々は個人的なものにしようと思っていたその取材内容を、私の独断で週刊誌の編集部に持ち込むことにした。
    豪華客船での殺人事件を解決したということで、きっと大きく話題を呼ぶことだろう。
    ヘンネル探偵にその助手君、私のサプライズは気に入ってはくれたかな?
    その感想は次に会った時にでも聞くとするよ。

                      君のファンの1人 グレース・ローデンヴァルト」

    ティア
    「やってくれたわねグレース、今度会ったときは思いっきりハグしてやるんだから!」

    ドゥーイ
    「わぁ!これで僕らも、一角の有名人ですかねティアさん」

    ティア
    「評価に名前負けしないように、より一層頑張らなきゃね」

    ドゥーイ
    「ええ!勿論ですよ!」

    END


    あとがき
    ヘンネル探偵シリーズ第2話ということで豪華客船のお話でした。
    一応先の予定も、ティアとドゥーイ、2人の最初の出会いの物語という第0話や。
    ついに登場するライバル役!
    噂だけが先行する女名探偵エルローラ・リストン(ローラ)が第3話より出演します。
    ちなみに第4話ではティアとローラががっつり推理力バトルを繰り広げる予定。
    まぁ後は特に話数は考えてないけど里帰りやメインストーリーとそこまで絡まないサブストーリーとか書いてみたいなとか(気力だけはある体力はない)


    作者自身の脳内未来妄想はさておき
    今回の話での裏設定や自分がやりたかったこと等について細々と書いていきましょう。

    ●前回の1話では犯人が表舞台に出なかったことを反面教師にして、今回の話ではガッツリ犯人さんに出演してもらいました!

    ●1つのシーンでそれぞれ別の場所にいる登場人物とお話させるという手法を初めて使ってみましたが、なんていうか上手く表現できているのか未だに不安で仕方ないです。

    ●今回の話からシリーズ物になるということで過去の伏線回収やこれから先に向けての伏線等をこれでもかと思いつく限りシナリオに盛り込みました。
    ちゃんとこの後も連載できて全部回収できるかは心配ですが、それもそれで楽しみながら創作活動していこうと思っています。

    ●実は登場人物たちが飲んでいたカクテルにも意味がありまして、
    それぞれのカクテル言葉は以下のものになります。
    (ヴァスコが何を飲んで酔っ払っていたのか作中には書いておりませんが設定でこうなっております)

    ▼カクテル
     ▽グレース:アンジェロ(好奇心)
     ▽ティア :オールドファッションド(我が道を行く)
     ▽ドゥーイ:ソウルキス(どうにでもなれ)
     ▽ヴァスコ:シャンディーガフ(無駄なこと)

    前回は花言葉で今回はカクテル言葉……次は宝石言葉とか使ってそうだなおい

    ●小ネタ?なのですがティアがグレースのことを呼ぶとき
    ローデンヴァルトさん→グレースさん→グレースってどんどん近くなってたりしてます。
    きっとクルーズ船で話が合って仲良くなったのかな~と妄想。
    個人的にグレースさんは女性もイケる人だと思ってます。

    ●ちなみに登場人物は自分の勝手なイメージでどの国の人なのか決めてます。

    ▼ 人物名             国
     ▽エラルド・スカリオーネ     イタリア
     ▽ヴァスコ・アルベルティーニ   イタリア
     ▽グレース・ローデンヴァルト   ドイツ
     ▽マティアス・ラ・フォンティーヌ フランス

    ティアとドゥーイや1話のリリアやアルはオーストリア辺りのイメージです。

    最後に
    作者ことペンネーム 一時 初(ひととき はじめ)
    声劇演者としては 残った灰(ノココリ)は気分によって調子がめちゃくちゃ変わる人なので、もし何かしらの別ジャンルの沼にハマっていたりすると、しばらく雲隠れするかもしれませんので、そこのところご了承くださいますとありがたいです。

    それでは自分なんかの台本を使っていただき真にありがとうございました!

    PS 2020年4月7日 投稿

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