のすじいの小説もどき・・どれみふぁ・らぷそでぃー④
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のすじいの小説もどき・・どれみふぁ・らぷそでぃー④

2019-09-24 00:22

    昼下がりの某私大キャンパス・・甲高い声やドスの利いた声が
    先ほどから妙なフレーズを集団で幾分苦しげに繰り返し絶叫している。

    いっち にぃ すぅわん すぃ~  にぃ にっ すわん しぃ~ぃ
    さぁあん にっ すぅわん すぃ~   しぃ にっ すわん しぃ~ぃ

    その声に合わせてかんかんと何かを叩くような乾いたリズムを取る音。

    通りかかる学生たちも、一瞬何事かと足を止める奴が居りはするものの
    すぐにその正体に気付き、ああ、そうね、この時期だからねえ、と
    大概の奴が訳知り顔でちょいとにやけたり無視したりして過ぎていく。

    本校舎名物と言われた=吹研のおとこラインダンス(笑)=
    ドリルという=見せる演奏=のための基礎訓練風景である。

    $のすたる爺の電脳お遊戯。

    腰に手を当て、背筋きっぱり伸ばして真正面向いたままの兄ちゃん達が
    およそ4列ほどの縦隊に並んで血相変え、汗だくになって
    カウント絶叫しつつそれに合わせて陸上でいう=腿(もも)上げ=

    それも上げた膝と大腿は地面と水平で、その膝から下、足先までは
    上げた瞬間、ぴいん、と真下に伸びていったん静止・・という
    なんとも慣れないうちは力の入りそうな=足踏み=を延々続けて・・・

    先ほどから、もう20分くらいは過ぎただろうか・・

    おりしもちょいと強くなってきた4月末の日差しに
    新入生?と思しき坊やっぽい連中から順番に
    徐々にその脚の上がる角度が下がり始めたころ・・。

    「・・最後、きばらんかぁっ・・・あと100ぅうっ!」

    頭のてっぺんから絞り出すような怒声が列の後方から飛び

    「そこおっ!・・声が出ていない~っ!・・=気合いっ=」
    「・・・ご、ごっつぁんで~すっ・・・押忍(おぉすっ)!」

    ばっしーん・・という、妙に派手な打撃音が真昼の校内に響く。

    =気合い=と称して振われる=ドラムメジャー=と=サブメジャー=
    此の訓練を指揮している4回生と3回生の持つ竹刀の打撃音。
    打撃場所は必死に脚を上げている男子吹奏楽部員の=尻(けつ)=。

    とはいえ、実は此の竹刀・・剣道で使うものより遙かに軽い・中が空洞の代物。

    故に思いっきりぶっ叩いているように見えてせいぜいで赤く腫れる程度。
    その代わり良く往時のギャグで使われた=張り扇(はりせん)=のごとき音、
    すさまじく景気のいい=音=が高々と鳴り響くという代物ではあったから
    まあ、しごきとは言え純粋体育会のそれほどの悲壮感恐怖感はないものの
    其れを知らぬ連中が見たなら・・なかなかの光景であることに変わりはない。

    とくに自由だの自治だの標榜しつつ左巻きの思想に被れているような
    社会思想なんとか研究会だの女性主権推進なんとか何ぞという
    文化サークルの名を標榜した一部思想集団のような連中からは
    此の=部=が=前世期の遺物=だの=軍国主義的思想の実践=だのと言う
    何ともありがたくない決めつけと蔑視を受ける原因のひとつでもあった。

    が、実際やってる部員たちにはそんな思想意識何ぞ欠片もない(笑)
    必要に迫られて必死、懸命に脚あげてるだけの事なのだ。

    とくに此の=ドリル=を体験して4年目、4回生にもなると体が厭でも覚えている。

    4月からの此れで足腰に耐久力つけて置かぬと・・5月連休の合宿
    =ドリル合宿=と呼ばれる僻地1週間缶詰=ドリル=三昧の日々に
    絶対に耐えられなくなるという、まあ、切なくもむごい真実と言うやつを、だ。

    故に、幹部の面子が無くとも4回生はかなり真顔真面目の本気モードで
    率先して此の妙に哀感と気合に富んだ地味で苦しい練習に臨み
    其れを見た新人も徐々にその雰囲気とペースに染まっていく4月末。

    その日も毎年変わらぬ=吹奏=のカレンダーどおりの晴れた一日ではあった。

    「・・・すっごいです・・ね・・=ますみ=先輩(せんぱあぃ)。
     男子って・・あんなことまでやるんですかぁ?・・吹奏(ここ)。」

    此の=ドリル=の練習を遠目で見ながらパート練習中の
    SAXの新人女性部員が感に堪えたような声音で、女傑=ますみ=先輩に訪ねる・・

    そりゃあそうだ、音楽系のブラスバンドで竹刀が飛ぶ練習するなぞ
    高校レベルじゃその当時は考えられない=野蛮=さだったのだから。
    往時、吹奏楽=ブラスバンドは中高ではどちらかと言えば女子中心の部活で
    時には女の子のみのバンドも存在し、ブラバン=ブラジャーバンドなどと
    品の無い冗談口の対象にされてたような昭和50年代のおはなし。

    $のすたる爺の電脳お遊戯。

    怖いものを見る目つきの後輩ちゃんを、此のサックスのお姉さまは
    うふふ、こんなんで驚くのはお子ちゃまね、と言う流し目でちょいと見ると

    「あら、連休の合宿なんか・・あんなもんじゃ無いわよ・・
    まあ、その時はねえ・・あたしたちは、他で練習メニューあるから・・
    最初と最期の操演しか=見せてもらえない=けどねっ。」

    SAXの姉御はそう言って妙に悪戯っぽく微笑み・・今度はちょい、と時計を見た。

    「あ、1時間半経ったわねえ・・そろそろかな~・・こっちも~・・」

    下の4列縦隊のほうから、いきなり=み~~=というホイッスルの音。

    「操演(そ~えん)練習(れんしゅ~)・・やめえええっ!」

    最後は殆どやけくその絶叫になりかけていた=いっちにぃさぁんしぃ~=が
    水を打ったようにいきなり=ぴたっ=と止まり・・・続いて・・・

    「レディ! ゲットセット! メジャーに・・・=礼(れい)っ=」

    =統制(とうせい)=蒼山(そうやま)のちょい乱れた息での号令が響き
    実に解放感と歓喜に満ちた・・本音の絶叫がそれに続いて聞こえてくる。

    「あっ、ありがとうございまっしたぁああ~っ・・ひえ~・・きっついわあ・・。」

    その声を聞くか聞かぬかせぬうちに=ますみ=先輩が
    ひょいっと立ちあがってそそくさと・・
    疲れ切った表情でばらけはじめた
    男子部員の隊列に
    小走りに向かっていくのをを見て、
    新人の女子部員たちは、
    ことごとく・・・=?=という顔になる。


    その手にはいつの間に引っ張り出したのか・・ちょいと可愛げなタッパーウェア。
    蓋つきのプラスチックの料理やお弁当に使う、往時は出始めの保存容器。

    あれあれ、何が始まるんだろう、と、可愛い一年生たちが見守る前で・・
    =ますみ=先輩はちょいと汗を拭ってる主将の=山内=に近寄ると、
    満面の笑みと何処か色っぽい仕草を意図的に見せながら・・元気よく声をかけた

    「山内せんぱぁ~いっ お疲れさまでしたぁ~っ・・・はい、これっ」
    「・・お、=ます・・=、いや=雅村(まさむら)=・・ごっつぁん・・。」

    山内の表情が一瞬=にやけ気味=になって、はっと気づき主将の顔にもどる。
    その顔の前には=ますみ=姉御の白い指でつままれた黄色い何かの薄片。

    $のすたる爺の電脳お遊戯。

    この手の運動のあと、実は一番ほしいものは水分と糖分だったりするのだが
    その吸収を一番促進し効率良くするのに必要なのはクエン酸のような物質。
    今ならまあスポーツドリンクなんぞちょいと飲めば終わる話ではあるが・・
    往時、アメリカからゲータレードがようやく入って来たフィジカルサイエンス黎明期。

    此の=レモンの砂糖・蜂蜜漬け=ってえのはなかなかに効くアイテムだった。

    しかも、女子部員お手製と思しきやつをタイミング見計らって満面の笑みで
    ちょい切ない=ドリル=訓練の後に=どうぞ=と出されてみりゃあ・・=判る=

    後輩なら=ああ、なんて愛(う)いやつっ=と、普段の態度も変わろうというもんだし
    同期なら=お前、ほんとうに俺らのつらさ判ってんなあ=と感涙しきりだろうし
    先輩であろうもんなら=ああ観音菩薩様のようなお方=と一撃必殺間違いなし・・・だ。

    ちょっとした思いやりで人間関係スムーズになりゃ世の中丸く収まって平和。
    其のうえ、お返しには機嫌のいい男どもが飯なり酒なり喫茶店のパフェなり
    お前の優しい気配りにって御馳走して呉れるなんて付録も大概は付いてくる。

    レモン1個とお砂糖に蜂蜜と手間で時に鯛が釣れたりもする実益つきの好意のうえに
    女の子としての株も上がりかねないのだから、まあ、こりゃあ流行る(笑)。

    そして、もうひとつ此の行為が蔓延してる理由は・・
    此の部、=吹奏=創部以来の今では殆ど在って無いようなものではあるが
    ひとつの=部則=の存在が根底にあった事は否めない。

    ~部活動中における=男女関係・及び其れに類するあからさまな表現の禁止=~

    恐らくは昭和初期、若い男女が一緒に合宿までしたり演奏旅行したりして
    ある意味一つ屋根の下長期間過ごす、この種の部活動において
    学校側や父兄などの要望と言うか圧力と言うかによって否応なしに
    強制的に作られたと思しき、まあ矯風会的前世期遺物のような決まり。

    流石に部内恋愛は絶対にご法度だとは・・此の自由な時代、
    男女混合の部活で大学生な連中に強制こそ出来なかったが
    其の部則は厳然と此の部を未だ支配していた。

    ・・要は=部内の男女交際は最高で黙認レベル=と言う暗黙の了解。

    =出来てたとしても、活動中に公然といちゃつくんじゃねえ=・・的な
    妙に頑なな申し合わせが厳然と存在してたと言うのが、まあ、実際。

    それゆえに=先輩=と=弓丘=嬢の=踊り場KISS誤認=事件が、
    =自由練習中=の出来事とはいえ、
    あれほどの大騒ぎを巻き起こしたりすると言う

    いまどきの大学生とは思えぬ純情二重奏な莫迦話が成りたつわけで・・・

    此の、如何にも本音と建前の乖離した、ちょいと辛くも馬鹿馬鹿しくもある部則は
    日常の人間関係やこの部の活動にまで様々な矛盾も数多く生み出しており
    実はこの時期、結構深刻で大きな=問題=に成り始めてもいたのだが・・・

    それでも、ある意味純情ぞろいの此の音楽莫迦たちは、蔭では兎も角も
    結構真面目に此の決まりごとを順守し、特に人前では気を使っていたのである。

    しかし、全ての規則や仕来たり、掟には必ず例外と言うものが存在する。

    押さえつけた反動をさりげなく逃がすための黙認と言う名の此れも不文律が。

    そう、その唯一黙認された人前での恋愛表現らしきもの、
    男女いちゃつきは部活中ご法度、の、唯一の伝統的例外が・・・
    =疲れてるドリル隊男子にサポートで何かしてあげること=なのである。

    4月5月はまだ良い、7月8月の炎天下、其れも土曜日や日曜日。

    此の部の男も女も演奏会や合宿、楽器のメンテや購入、新譜の購入

    存外金のかかる音楽系の部活動を支えるために集団で雇われて
    其れこそ関東一円に楽器吹きに汗だくで交通費のみ貰って飛び回る。

    其のバイトの主力となるのが此のドリルと言う=見せる演奏=であり

    ドリル隊の男子は一年中休日すら無しに吹いたり跳んだり歩いたり・・・
    炎天下10キロ休みなしのパレードなんてえ苦行も少なくなかった。

    そんな何処か悲壮感さえ漂う集団の中に憎からず思う男の子がいれば、
    何としてでも何かしてやりたくなるだろうし・・実際、=恋人関係=であっても
    練習中・活動中は名字呼び・先輩呼び・さん付けが半強制の=吹奏=男女。

    で、何時しか此のドリル隊サポートは恋する女の子のガス抜きとして作用しはじめ
    其のうちに、女の子側からの数少ない公然プロポーズのような微笑ましい儀式になり
    近年に至っては=もう、出来てんのよ私たち、うふっ=という
    密かな示威行為に変わって
    ある種の=男女関係公認儀式=のような様相さえ帯び始めていた。

    まあ、一部の女子はそれに反発し、あえて此の行為に参加せぬものもあり
    逆に何の思い込みもなく単に男の子が気の毒という真の博愛精神から
    全員分のレモンスライス大型タッパに満載で施してくれる
    其れこそ観世音菩薩の如き4回生女子なんぞも、まあ居たりもしたので
    一概に全てがそういう色恋沙汰とも言いかねはするのだが・・

    ある意味此の瞬間のドリル隊の男どもは・・間違いなく
    最高に=落としやすい=状況にあったことも確かなわけであって・・

    =ますみ=嬢ほどの古株部員は其のあたり完全に熟知しており・・
    此処を先途、と好みと実益まで兼ね、主将の山内という
    =大物幹部=を狙ってまあ果敢な行動に出ている、と・・云う訳。

    だが、まあ、そんな裏を入部1カ月のかわいい新人女子部員は知る由(よし)もない。

    まして、それを・・さらに此の時遠巻きに見ていた・・とある新入部員。
    本編のもう一人の主人公である、例のフルート吹きにして
    外見もおそらくは内面も飛び切りの=おこちゃま=な=おちびちゃん=・・
    あの弓丘稚美ちゃんなんz・・その隠された真相に絶対に気付く訳もない。

    ・・ああやって、疲れた先輩を元気づけてあげてるのね・・
    =ますみ=先輩や、ああ、他の先輩たちも・・・。
    ・・優しくておとな・・きゃっ、大学生ってやっぱり違う・・・ぽっ

    と、素直にも程がある感想をこころで呟きつつ
    その妙に潤み気味のお目目に少女マンガ風の憧れお星さまを
    飛ばしていたうちは、まあ、平和だったのだが・・・

    $のすたる爺の電脳お遊戯。

    そこに、あの=先輩=・・弓丘嬢にとって偶然の出会いながら妙に気になるものの
    例のピンク絆創膏以来、羞恥と慚愧のあまり口も利けなくなっちゃってた
    優しくて大きい、今まで見たことの無いタイプの=変なひと=な=先輩=・・・

    実は其の若親父な風貌にそぐわず、ある種の男女関係に極めて疎そうな
    =のほほん=男が、その大きな体をドリル練習で疲れ果てさせ、汗ふきながら
    講堂前のベンチに座り、独りコーラなぞ飲んでいる姿が、何故かくっきりと
    彼女のお星さま飛ばし中な瞳の中に鮮やかに飛び込んできてしまったから・・
    ちょいとまた話は面白くて幾分微妙な方向にひそかに拗(こじ)れていく。

    その日、ドリル練習後、夜の合奏練習までのちょいとした空き時間・・・
    汗をぬぐい終わり顔まで洗って気分一新、大講堂前で独り、
    愛器のおんぼろチューバ・・アマティという名の東欧メーカーの
    此の吹奏うん十年選手の錆びついた楽器を手入れしつつ風に当て、
    チューニング管にグリスなんぞ塗り込んで夜の音出しに備えつつ
    ついでにハイライト一服して眼なんぞ閉じ涼んでた=先輩=に
    ちょこちょこっと近づいてきた弓丘嬢が・・意を決しつつ訪ねたのだった。


    「せ、先輩(せんぱぁい)・・す、好きなものって・・何ですか?・・」

    まったくの無警戒、しかもかなりの空腹時、其れもほぼ無防備な精神状態。
    其処にひょっと投げかけられた質問に・・此の=のほほん兄ちゃん=は・・
    相手が誰と問う事も、其の閉じた目を開けると言うことさえせず、
    何の用意も疑問もなく・・思いついたままに・・こう即答したのだった。


    「・・ああ、そりゃあ・・・塩鮭と梅干のお結び・・って・・?

    なんだあっ?・・いきなりっ?・・誰?・・・
    えっ?・・・ゆっ、弓丘っ?・・・き、君かっ?」

    「す、すみませんっ、先輩っ・・ああっ・・ごっ、ごめんなさあいっ・・・」

    $のすたる爺の電脳お遊戯。

    顔を真っ赤に染め、脱兎のごとく其処から逃走するお花畑おちび。
    其れを見送ってちょいと呆然とする朴念仁=先輩=。

    実は、前回のピンクカットバン事件以降、まあ大方の予想通りと言うか
    妙にお互いの存在を意識し合いはじめた節があったのだ・・此の二人。

    まあ、あの騒ぎの翌日にもかなり珍無類にして力の抜ける光景を
    此の二人は衆目の前で華々しく繰り広げたりしたのだから・・・無理もない。

    あの絆創膏一件の翌日、練習におずおずと現れた弓丘=おちびちゃん=は
    先輩女子から総がかりで=階段踊り場KISS?=の一件について
    興味津々、全方向総攻撃な質問攻めにあった挙句、
    真っ赤に頬を染め、半ば涙目状態で完全に=フリーズ=してしまい
    それを見かねて、前夜確認した事の=真実=を・・
    かなり盛って(笑)ぶちまけたSAXの牟田口リーダーの言葉で
    =先輩=の其の後の行動と出来事の顛末を知ると

    今度は恥ずかしさと申し訳なさと自分のドジ加減に完全に舞い上がって・・
    のほほんと楽器出しつつ演奏の準備している=先輩=のまえに出頭し、
    1メートル40強の小さなからだをさらにさらに小さく縮めて
    今度は半泣きで何の説明も申し開きも事態の説明もせず、ひたすら
    「ごめんなさいっ ごめんなさいっ ごめんなさいっ」と永久リピートを始める始末。

    それを見た=先輩=が、此の男にしちゃ珍しく妙に照れ・・
    いや、とか、だから、とか、まあ、とか、あの、とか無駄な前置詞つけたあと・・・
    ・・あれは善意による行為の偶発的結果で、それに関して
    謝ることは行為自体を貶める行為であって云々・・・・何ぞという、
    饒舌にして言語明瞭意味不明瞭な日本語で滔々と
    この=ごめんなさい=マシンを慰めはじめたもんだから、周辺はもう堪らない

    練習前の大講堂は、爆笑と生温かい眼差しの渦である。

    仕舞には、学生指揮者の薄田がちょいと怒るにも怒れず
    最後は感に堪えたように・・なかば苦笑しつつ
    「ああ、今日は・・深刻な曲は・・さらっても駄目だ・・」
    と、言いだすほどの=致死性ほのぼの菌(笑)=を拡散させたのだ。

    実は、此のふたり、この時代でも稀有な絶滅危惧種というか・・・
    大学生短大生にもなって70年代の少女漫画のような
    先輩とドジっ子をリアルタイム本気でやらかしてくれるという
    まあ、ある種の得難い逸材の組み合わせだったのである。

    いわば=史上最強のど天然=VS=前代未聞のお子ちゃまお花畑=の対決(笑)
    自衛隊も地球防衛軍もウルトラマンも手におえぬ天災レベルの奇跡のユニット。

    本人たちが素直に行動するだけで、ことレンアイと言う状況下に於いては

    奇跡レベルの周囲の脱力と失笑を産みかねぬ代物だったのである。

    故に、まだ其れに気づきはせぬものの・・好意と言う感情が芽生え始め
    新入1回生のお花畑おちびのほうは其の好意がちょいと好意以上の其れに
    無意識にランクアップし始めていたと思しき此の二人の・・・

    たった今交わし交わされた、しかもお互いかなり舞い上がった状態で収束した

    =あんまりにもいきなり、だが・・内容は一見普通の会話=が、
    素直にそのままで済むはずは・・予想通り・・=無かった=。

    翌日、昨日にまして好天で気温も上がった午後の学内・・・
    以前にもまして切羽詰まった=いっちにぃすぁんしぃ~=が響き渡り
    びっしばしという張り扇竹刀の音も昨日にまして木魂(こだま)し
    メジャーの=操演終了(そ~えんしゅうりょ~)=の声さえ
    幾分力なく響きわたるかのような初夏のごときプチ炎天のもと
    吹奏名物の脚あげラインダンスがやっとこさ終了して・・

    腹に一物手に荷物ならぬレモンもった女子部員たちが
    てんでに疲労困憊の兄ちゃん達にすり寄り始めた=ほのぼのタイム=。

    そこに昨日まで居なかったちいさな影が、遠慮がちに物陰から・・・

    お目当ての主将山内に、意図的に昨日より幾分=密着気味=で
    はい、あ~ん、もぐもぐ・・を公然と繰り広げていた=ますみ=女傑をはじめ
    それぞれレンアイ示威活動(笑)に邁進中の女子部員全員は
    そのひょこっと出現したものの正体を見極めて一瞬、えっ・・と驚く。

    まあ、・・こういう行為には一番縁遠いとこに居そうな=おちびちゃん=

    弓丘稚美((ともみ)ちゃんが、手に何か存外に大きめの紙包みを抱え
    ちょこちょこと実に少女漫画的に可愛く、しかし真剣な表情で・・・
    かなり、ばて気味で息をついてる大きな影・・そう、あの=先輩=こと
    チューバ吹きの4回生=哲つぁん=に・・嬉々として駆けよる姿が其処に在った。

    $のすたる爺の電脳お遊戯。

    ・・・い、意外に、や、やるじゃん、あの=おちびちゃん=・・・

    ・・しかも入部ひと月って・・人は見た目によらずって本当ねえ・・

    相手は?・・・やっぱりぃ? =哲せんぱい=?・・うわ~大穴・・

    ・・其処以外、考えられないじゃん?・・だって、ほら・・あの階段の(笑)

    ええ?・・じゃあ、もしかして・・あれ(KISS)も、・・まさか=事実(マジ)っ=?

    レモン食わせてる方も食わされてる方もそのまた野次馬ギャラリーも
    一瞬注目して見守る1メートル80弱と1メートル40強のツーショット。

    大講堂前広場の一番隅っこのほうの出来事で
    音声は定かに聴こえないのがまあ、微妙にもどかしいが・・
    遠目で全員興味津々で注目する価値満載な=奇観=ではある。

    否が応でも高まる・・色んな意味での=期待感(笑)=

    (以下、無音の現場実況描写でお送りします)

    ちいさいほう・・必死に何か言いながら大きい方に紙包みを差し出す。

    大きい方・・其の形状と大きさを訝りつつも、手に取って軽く会釈。

    ちいさいほう・・満面の笑みで・・早く開けて・・と言うような仕草

    大きい方・・妙に照れつつ、其の物体の包みを開けて・・動きが止まった。

    ちいさいほう・・わくわくポーズで恥じらいながら上目づかいで何か言ってる風情。

    大きい方・・一瞬、天を仰ぎ・・其の手にしたものを一気に口に入れる。

    ちいさいほう・・其の様子を妙に幸福そうに覗いつつ何か話掛け中

    大きい方・・突如、顔面に血を上らせ、前屈姿勢で咳き込み始めた。

    ちいさいほう・・あわてて何か液体の入った遠足用の水筒を手渡す。

    大きい方・・其れを必死に開け、勢いよく飲もうとして・・・さらに咳き込み、吹く。

    「きゃあ・・せんぱいっ・・せんぱぁいっ・・だ、大丈夫ですかああっ・・・」

    一瞬上がった切なくも可愛い悲鳴と
    声にならぬ苦悶の呻きがエンディングであった。

    「おいっ、=哲つぁん=っ・・どうしたっ!・・」
    「ゆ、弓丘ちゃんっ・・あなた・・何したのっ!」
    「先輩っ大丈夫っすかあっ?すげえ咳っすよおっ」
    「おいっ、哲っ、気を確かにもてっ!・・お、お前、何を?」
    「誰か、水と救急箱、いや、医務室行って・・」
    「みーみー泣いてちゃ・・わかんないでしょっ、弓丘ちゃんっ。」

    すわ一大事とばかりわらわらと=寄ったくまって=くる(牟田口曰くの茨城弁)
    周囲の男女・・で、出来た人垣の中から統制の蒼山らしき・・心底呆れたと言う声が・・・

    「・・ば、馬鹿かあ、お前らぁ・・
    此の炎天下、ドリルの直後に・・・
    そんなもん・・・食わせる方も食う方も・・

    い、医者なんか要るかあっ、水もってこい水っ。
    あ、あのなあっ・・この・・ぶわはははっ」

    其のさきはちょいと壊れたかと思うほどの馬鹿笑いにかき消され、
    そして、その笑いは一気に周囲の人垣に伝染し・・暫く続いたのだった。

    まるで砂漠の遭難者のように薬缶の水道水がぶ飲みする=先輩=と
    半べそで其の広い背中をとんとんしてる=お稚美=の周囲で。

    $のすたる爺の電脳お遊戯。
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