のすじいの小説もどき・・どれみふぁ・らぷそでぃー⑫・・
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のすじいの小説もどき・・どれみふぁ・らぷそでぃー⑫・・

2020-07-09 17:49
    第12章・・こっぱずかしいレンアイは周囲に多大な被害と影響をもたらす(苦笑)・・

    凡そ此のご時世に稀と思われる希代のこっ恥ずかしさで彩られた
    少女漫画かギャグ漫画か判別のつかぬような=レンアイ現場=から
    当事者二人に気づかれぬよう武士の情けでそっと逃走した薄田指揮者は
    体育館から渡り廊下を通り、食堂と宿室に向かう廊下を静かに通過し
    ああ、笑った・・まあ、夕飯前に一服しようか、なぞと考えながら歩いていた。

    そのとき、此の学指揮の兄ちゃんの耳に今度はさっきのチューバの音色とは
    真逆(まぎゃく)の・・凄まじい=怪音=が思いっきり=聞こえて=くる。

    ・・・ありゃりゃ・・こ、此れは=酷(ひど)い=
    ・・な、何という=異音(ノイズ)=・・・

    呆れて音のする方向をちら見すれば、クラリネットの1回生が健気に練習中。
    肩に力が入りまくり、幾分紅潮した頬で必死に多音階のドレミファのお浚(さら)い。

    楽器初心者と思しき其の1回生少女と、まあ4回生で10年近くチューバ吹いてて
    色んな事情(笑)により先程稀有の名演奏を具現化させた=哲つぁん・先輩=を
    比較すること自体に無理はあると言うものの・・既に其の音は音階を逸脱し
    明らかに=どれみふぁそらしど=を通り越して=どれかはしらねど=に変貌中だった。

    他人の、特に自分も含め男女間の出来事には無関心だが
    こと、演奏と音楽って部分になれば見過ごせないと言う
    此の兄ちゃんのポリシーめいたものを此の必死の怪音が直撃する。

    で・・あまりの=凄さ=に流石に看過出来かねたのか、
    半解放型の渡り廊下の腰まである仕切りをひょいっと乗り越えて
    つかつかっと其の必死に雑音製造中の小娘に近づいた薄田は・・

    「・・・う~ん・・・がんばってるね。・・・真面目に吹いてて偉いんだけど
    ・・正直、かなり酷(ひど)いよ?・・音程が・・ええっと・・・君は・・・」

    此の時点で此の兄ちゃんは在ろうことか此の1回生の名前さえ=うろ憶え=

    「・・・し、霜鳥、・・・霜鳥雪子です・・・薄田先輩・・・。」

    妙に渋めの声で、優しく柔らかめに語りかけた薄田の声に反応し
    即、恥ずかしげに頬を染めて雑音製造を停止したとこを見れば
    まあ、=酷(ひど)さは吹いてた本人も重々承知ではあったのだろう・・・

    其れでなければドリル免除の女子部員とは言えまだ入部ひと月足らずの
    素人お嬢ちゃんが貴重な休憩時間に人目の無い場所で練習などすまい。
    逆にある意味・・下手だけど、物凄く真面目な子なんだろうな、と
    此の学指揮の兄ちゃんは、珍しくも此の女の子に=好感=を持った。

    此の前髪ぱっつんの色白の・・ちょい素朴な=こけし=のような1回生に、である。

    いきなり一番お偉いさんの4回生幹部の男子、しかも指揮者のお兄ちゃんに
    声を掛けられ吃驚して固まった彼女は、霜鳥(しもとり)と言う珍しい名字の子。

    友人にくっ付いて勢いで此処に入った、音楽・楽器はほとんど初心者で
    どうしても吹きたいと言う楽器さえ無かったと言う状態の子だったので
    いちばん大人数で女性の多いクラリネットに回されたと言う経緯の新人であり
    言い方は悪いがひと月持つか?と危惧される中の筆頭候補だったのだが
    そのおっとりした外見には不似合いなくらいの芯の強さが在ったらしく
    始めて手にした楽器を飽きもせずこうして必死に練習してたと言う

    此れは本来の意味で=誠に健気(けなげ)=な子だったのである。

    $のすたる爺の電脳お遊戯。

    いわば技術職幹部で、しかも本人自身も密かな努力家の薄田にとっちゃ、
    真摯で懸命な新人さんってのは、あらゆる意味で=褒めてやるべき存在=。
    男であろうが女の子であろうが其れは平等に変わらないのであって
    逆にそういう意味で女の子だから何ぞと言う妙な遠慮が此の兄ちゃんには無い。
    こと、音楽と演奏のジャンルに限っては其の傾向はさらに倍加して現れる。
    其れゆえ、あまりの音の凄さ(笑)が彼にこの子を傍観させなんだ訳で・・・

    いわば=教育的指導=のようなお堅めなカテゴリーの会話のはずだった、此処までは。

    さもなければ・・不必要なことは喋らないうえに、女の子と会話することさえ
    向こうから用事でも振られなきゃまず成立しないと噂されてる此の兄ちゃんが
    独りで居る女の子に自らすすんで声なぞ掛ける訳も無かったのだから。

    が・・例の=致死性ほのぼの菌=が密かに蠢き始めていたのか・・・(笑)

    普段なら引き続いて・・技術的な事を端的にそっけなく言うか、
    同じ楽器の先輩に練習方法を間接に提言し、巧くなるように指導させる
    なんて対応をする、此の冷静な指揮者兄ちゃんも、実の処・・・
    どうも・・やはり、本人は自覚せずとも、確実にかなり重篤に・・

    先程の強烈な=致死性ほのぼの菌=の影響を受けていたらしい。

    如何にも羞恥心って風情で固まったこの素人クラリネットお嬢ちゃんに向かい
    此の男には珍しくかなり渋めの笑顔まで見せながら、ちょいと優しげな声で・・・

    「えっと・・霜鳥くん?・・だっけ?・・練習は反復、そして考えて吹く。
     指が動くだけじゃいい音出せないから・・呼吸法もしっかり教えてもらわないとね。
     凄く頑張ってるのは判るから、考えて、そう、気持ち込めて練習するんだ。」

    と、珍しくも直接音楽的なニュアンスの=指導=なんぞを始めてしまった。
    普段は必要以外の事を喋らないという無口すぎるほど無口な此の兄ちゃんが・・である。

    で、無口な此の兄ちゃんの意外な低音の美声で語られる=指導=を
    クラリネットの1回生霜鳥嬢は神妙そうな顔つきで拝聴していたのだが・・・
    最期の気持ち込めて練習云々(うんぬん)の部分でちょいと首を傾(かし)げ・・
    おずおずと、此の大先輩の学生指揮者に=すなおなしつもん=を投げる。

    「う、薄田先輩・・気持ちを込めてって・・具体的に何をすればいいんですか?」

    ああ、東北生まれの此の1回生は、紛れもなく生真面目な女の子だったのだろう。
    薄田はちょいと考え込んでいたようだったが、その問いにおもむろに応えて・・・

    「そうだねえ・・吹くときに・・好きな人の事でも考えてみれば?・・・
     其の人に聞いてもらうんだ、とか、想いながら吹くと好いかもね。」

    明らかに先程の二人の影響と思しき彼らしからぬムードっぽい台詞を
    半ば冗談のような雰囲気も交えながら其の甘めの低音で囁いてしまう。
    普段そんな言動を取らぬ、求道者めいた風貌行動の指揮者兄ちゃんの言だけに
    本人は珍しく軽い洒落と言うか緊張緩和のつもりの軽口だった其の一言は・・・

    予想外の色っぽさと真実味を帯びて此の純朴素人むすめに響いたらしい。

    で、其れを聞いた此の生真面目ちゃんが、更に頬を染めながら
    おずおずとだが真っ正直に、ちと恥ずかしそうに上目づかいで

    「す、好きなひととか・・全然、居なかったら・・・どうすれば・・・?」

    と、真顔で訊いたものだから・・此処でも話は微妙に=違う方向=に動き出す。

    此の日常の些事やまして男女の色恋沙汰なぞ=我関せず=な兄ちゃんは
    先程の二人の影響か、よせばいいのに珍しくも=茶目っ気=を起こし
    ・・此の悩んでる生真面目むすめに軽い冗談口か何かのつもりで・・・
    ・・本人はたぶん言ったのだろう・・・満面の微笑で・・かなり渋く(笑)。

    「う~ん・・困ったねえ・・じゃあ・・ついでに=恋愛=もしてみたら?」
    「ええええっ!・・・だ、誰と・・そんなことしろって・・・あの・・・?」

    思いもかけぬ=指導=を戴いた=生真面目素人むすめ=霜鳥嬢の吃驚目(びっくりめ)
    心なしか其のまっ白い雪国生まれの肌までぽおっとほんのり染まって来たような・・・

    「まあ、ああ、霜鳥(しもとり)くん、=可愛い=から、大丈夫だよ。
    ・・じゃあ、(練習)頑張って・・判らない事あったら、
    田原か、ああ、=俺に直接=でもいい、いつでも聴いて。」

    そう言うと薄田は颯爽と渡り廊下の手すりを乗り越えて去っていく・・
    内心で、=うん、珍しく喋ったねえ、俺=、とか微妙に不思議がりつつ。

    が、彼を見送ってお辞儀をしたクラリネットの生真面目一回生の目のいろが
    先程までの先輩に対する畏敬のいろから妙に何処か甘めな憧憬っぽいそれに
    微妙に変化し始めてたことになんぞ・・・気付く様子は微塵もなく。

    「う、薄田先輩に・・直接指導して貰っちゃった・・・。
    そっ、其れより・・かっ、=可愛い=って・・い、言われちゃった・・・
    どっ、如何しよう・・・勧誘の時もかっこいいって・・思って・・・
    咲喜ちゃん(同期のクラリネット1回生)に此処に付いてきちゃったのに・・・」

    間の悪いことにと言うべきか幸運な偶然と言うべきか・・此の生真面目そうな
    田舎出身の純朴1回生ちゃんの俗に言う=タイプ=なお兄さんと言うのが
    =物静かで大人で筋が通った年上のおとこ=だったのも致命的と言えば致命的。

    しかも初めての楽器に四苦八苦しつつも懸命に練習する真面目少女にとっちゃ
    学生の身で大きな楽団指揮する=セミプロ=のような立場の先輩と言う存在は
    其れでなくとも=潜在的憧憬=のまさにど真ん中に鎮座する存在に成り得る訳で・・・

    再び発生する出会いがしら無意識のレンアイ衝突事故確定の瞬間である。

    で、生真面目な此の純朴一回生はこの日の出会いを妙に意味あるものと思い込み
    何とか早く合奏に加われるように、と、授業の合間を割いて練習に励む折々に
    此の時の薄田の言葉を反芻し、最期は、単なる合奏メンバーに加わると言うよりも
    =薄田先輩の指揮する合奏=のメンバーになりたい・・と思うようになってしまう。

    で、あの=お花畑おちび=ほどの判りやすさはなかったものの、妙に、其の・・・
    僕か田原(クラリネットのチーフ4回生)に相談してと言うひとことを頼りに
    此の学指揮の薄田先輩になにくれとなく接近して相談やら愚痴やらこぼし始める。

    まあ、殆どが音楽のことと練習のこと、時に部の人間関係のこと・・などという
    真摯真面目極まりないものだったが、其れを受ける薄田のほうもこと音楽に関しちゃ
    生真面目絵にかいたような奴だから真剣に其の相談に乗り、本人同士無意識に
    練習の空き時間や休みの日、校内で待ち合わせて話し込んだりするようになる。

    練習中はお互い演奏と指揮に精いっぱい、という両方の真面目振りが産んだ
    此の擬似デートのような=逢引(笑)=が複数回続いた後の事・・・・
    何時しか、此の生真面目ちゃんはバイトのドリル奏演の折に、頼まれもせぬのに
    =薄田先輩=に=おむすび=拵えてきたり、例のレモン切ってきてあげたり
    =薄田先輩=の指揮用スコアに附箋貼って見やすくしてあげたり、と
    遂に、何処か世話女房にも似た行動を嬉々として地味にはじめるに至る。

    で、実は根が真面目でちと古風な女性観の持ち主であった=薄田先輩=は
    此の手の=内助の功=的なアプローチ・・東北育ちの純情ちゃんらしい
    控えめな=お慕い申しております=攻撃には此れが想像以上に脆(もろ)かった・・

    一説によれば毎回バイトの時にどうぞ、と差し入れされる=おむすび=が
    此の生真面目ちゃんの実家から仕送りされていた東北随一というブランド天然米を
    手を変え品を変え工夫してこころを込めて握った逸品ぞろいで、恋心云々以前に
    =青春の胃袋=をがっちり握られたのが最大の陥落要因との噂も囁かれたが・・・

    なあに、要は此のふたり、都会と田舎の差はあっても=似たもの同士=だったのだ。
    生真面目でどっか古風で、でもきちんと自分の言いたいことが言える・・・・
    正しい日本のお父さんとお母さん候補のような、レトロで真っ当な大人になりそうな。

    余談だが・・此の案外目立たなかった男女のユニットは薄田先輩の卒業後も
    小津安二郎の映画の如き平穏で妙にレトロ感あふれるお付き合いを続け
    霜鳥が大学を卒業して数年を経た後(のち)めでたく本物の=夫婦=になった。

    想えば其の運命の発端は、例の=朴念仁&お花畑=が無意識に伝播させた
    =致死性ほのぼの菌=の効果によるもの?と、言えなくもない(笑)。

    で、関連した二次被害はその後も続々と合宿所の其処かしこで発生していった。

    後に此の騒動の張本人の片割れである=先輩=こと=哲つぁん=が
    =ほのぼの・パンデミック(流行感染症)=と迷言を吐き、呆れた周囲から
    =哲には言われたくねえ=と軽い顰蹙を買う高レベルの汚染度で(笑)。

    薄田が生真面目素人の一回生ちゃんに幸福な誤解の切っ掛けを投げてた頃

    夕暮れが迫ってきた体育館裏の大欅の下、流石に此の抱っこちゃん状態に
    羞恥と驚愕を感じるだけの理性を回復した=先輩=と、此処までの自分の行動に
    思わず赤面してもじもじとし始めた=稚美(ちび)=の二人は・・おずおずと動きだし
    大照れ状態でそれでも仲良く宿舎棟のほうに=凱旋=を始めたのだが・・・

    其の光景と言うのがまた・・チューバを右腕に引っ抱えて妙に照れくさそうだが
    ちょいと大股で歩く先輩の後ろ、親鴨にくっつく仔鴨のようなサイズのお稚美ちゃんが
    ご丁寧に先輩の羽織っていたサマージャケットの裾を片手でちょこんと掴むような形で
    真っ赤になって俯きながら付かず離れずとことことついてくると言う珍妙極まるもので
    期せずして目撃者全員の生暖かい注視を公然と浴びまくる羽目になる。

    $のすたる爺の電脳お遊戯。

    まず、ドリルのフォーメーションでちと脳みそが煮詰まり気味だったメジャーの森村が
    此の親鴨仔鴨の行進に無防備状態で遭遇、其のあまりのほのぼの加減に
    呆れると言うより微妙に感銘を覚えてしまい、今回のドリルのフォーメーションに
    後にアヒルの行進と他大学のドリル隊から呼ばれる独特の動きを発想することになり

    続いて主将の山内がチューバ片手で歩む哲つぁんの後ろでひょこんひょこん揺れる
    此のお稚美の無意識モンローウォークを真後ろから目撃し、大爆笑した挙句
    近くで屯っていたサックスのまさみ女傑にちょいと尻振ってみ?と無茶ぶりをし
    全体重をかけて足を踏まれて悶絶するという一種の痴話喧嘩を引き起こす。

    経理担当の4回生斉藤は宿室で経費の計算中に入り口前を横切って行った
    此の親鴨仔鴨を目撃して暫し沈黙した後此れも爆笑して小銭を畳の上にぶちまかし
    騒動の発端を仕掛けた管理の深沢はコーラの自販機前で出会いがしらに遭遇
    飲みかけのペプシコーラを盛大に隣にいた譜面管理の田原の顔面に吹きかけ
    周章狼狽して平謝りになり、サックスの牟田口に至ってはパートの後輩を集合させ
    此の珍妙でどっか力の抜けるツーショットの歩き方を宴会芸にまで昇華させん、と
    時ならぬウォーキングの自主練習を大笑いしながら始めると言う弾け具合で
    4回生随一の堅物と言うか生真面目お局様の筈のラッパの美樹に至っては
    思わず目を点にして呆然と此の親鴨仔鴨のパレードを見送った後、妙に初々しく
    溜息まで吐き・・ああ、ああいうの、いいなあ・・と、思わず女の子の本音を漏らす始末。

    4回生が揃って此のざまでは3回生2回生が無事に済むわけも無い・・・
    此の珍景を目撃した同じ低音金管の後輩4人を発信源として
    此の二人の親鴨仔鴨ウォークは相当な尾ひれ端ひれがくっつき
    急速に合宿所全体に爆笑と羨望とともに広められていくことになり・・・
    当日の夕食時には、ほぼ全員が此の珍妙なふたりパレードを知ることになる。

    ・・・哲先輩とフルートのお稚美(ちび)ちゃんが珍妙なツーショットで
    殆ど結婚式の入場シーンみたいな顔しながら体育館から戻ってきた。
    此れはきっと何か重大な出来事が起きたのではあるまいか・・・

    予想としては遠からず妄想としては勢いに幾分欠けるものの
    誰もが此の二人の動向に微妙な興味を抱かざるをえないレベルで
    此の噂は伝播し、拡散し、此の合宿に蔓延したほのぼの空気を
    面白おかしくヒートアップさせる要因として機能し始めていた。

    まあ、此の騒ぎのまえ振り、核心部分の唯一の目撃者、学指揮の薄田だけは、
    流石にあの状況と真相を喋るわけにはいかんだろうな、と、微笑しつつ無言を保ち
    此の親鴨仔鴨行進についても、・・あ、そう、あの二人なら似合いそうじゃない、・・などと
    全くの傍観者的態度を崩さず、ごく一般的な感想を述べるに留まったので
    事態は依然ほのぼのレベルで収束してはいたが。

    それでも例年なら修羅場を絵に描いたようになる此のドリル合宿の日々が
    いい意味でも悪い意味でもちょいと活気と笑いの在り過ぎる状態に成りつつあり・・
    其れは・・・悪意を以って見れば緊張感に欠ける観があるちょいと舞い上がり気味な
    部員総出の=浮き足立ち状態=と、まあ、言えなくも無かった。

    何せ、今まで、人前で公然とレンアイ表現は一応ご法度な集団。

    如何にほのぼのの権化とは言え、事と噂が此処まで大きくなると言うか
    全部員があの二人の動向に何らかの興味を抱くと言う異様な状況を
    流石に役職が風紀委員で幾分以上に杓子定規な男でも在った
    統制の蒼山は立場上ちいと見過ごしも出来ぬと思ったらしく・・・
    熟考のあげく、食堂一角に4回生を密かに急遽集合させ、おずおずと
    とある=議題=を真顔で提案したのはその日の夕食後、即の事だった。

    無論、其処に当事者の哲つぁんの姿が無い事はいうまでも無かったのではあるが・・・

    「なあ・・・さ、流石に今、ちと弛(たる)んでんじゃね?
    その、妙に雰囲気と言うか、風紀と言うか、あの・・其のな・・

    ・・全員、あの・・哲とフルートのお稚美(ちび)の何つうか、
    其の、・・少女漫画オーラっつうかに影響され過ぎと言うか・・其のなあ。

    どうも本調子な感じじゃねえ、と言うか・・どう思う?・・なあ?」

    何時もなら頭ごなしに気合が足りねえとか風紀紊乱と言う此の男も
    こと原因があの二人となると妙に調子でも狂うのか、実に言い辛そうに
    何処かしら言葉尻も柔らかく今回の臨時幹部集合の本題を切り出す。

    言われるまでもなく、幹部一同身に覚えどころか
    間違いなくあの朴念仁とお花畑の無意識に巻き起こす
    ほのぼのウェーブによって=気抜け=とでも言うような状況に
    陥っていると言えば言えなくも無い、という認識は共通していたらしい。

    が、全員が妙な表情で頷き、苦笑するあたり、其の影響と言うのが
    ある意味好感と言うか微妙な呆れ具合を以って認識されているのも
    まあ、疑う余地も無い事実ではあったようで・・雰囲気は妙にほのぼの。

    蒼山が当事者の哲つぁんを此の突発幹部会からあえて外したのも
    哲が居ると流石にあいつも俺等もこっ恥ずかしいじゃん、くらいの
    どこか微妙な好意的ニュアンスを含んだ感情が主なる理由で在って
    当初、此の幹部会は雑談めいたもの程度の気分の其れだった。

    言うなれば、ちいと、あのお稚美(ちび)は兎も角にしても
    幹部の哲つぁんは=もうちょい大人にやってよ=、と言うか・・・
    あまりにも純粋お子ちゃま過ぎるあの二人の無意識の行動へ
    此処は好意的な警鐘をとりあえず鳴らすべきでは・・・と、言う
    此れもまたある意味レンアイ推進とは違うが好意的な無意識のお節介精神が
    此の何処か生真面目な統制の蒼山の行動の根源にも在ったのかも知れない。

    悪意とか言うものではない何処か好意的突っ込みのような気分の。

    が、実は、此の問題の真の根源は居並ぶ幹部連の方にこそより多く存在していた。

    実は、此の連中も其の手の男の子おんなのこの関係と言うか
    より年齢に相応した恋愛状況に現時点で数名がまあ
    足を踏みいれて現在進行形、と言う状況が厳然として在り
    其の事を建前上は秘匿する形で此処まで来ていると言う事情によって
    此の愛すべき音楽莫迦男たちのこころにあの二人の行動を
    責めるという行為に対して何処か微妙な後ろ暗さのような気分が在った、という事実が
    此の突発的な幹部会合を予想外の方向に誘導していく事になる。

    実際の処、例の森村と美樹の破局寸前カップルの他にも、
    主将の山内は積極的なアプローチで接近してきたSAXのお姉さま
    =ますみ=を既に自分の下宿に泊めるレベルの大人な関係になっており、
    風紀委員であるはずの統制の蒼山ですら、独りの個人としては
    3回生の夏あたりから、同期で母性的で癒しタイプのクラのチーフ田原と
    結構ステディな関係を構築済みだという事は4回生周知の事実で
    実は其の折のいささか微妙に過ぎる人間関係が遠因となって
    同期のフルートの折原が突然退部すると言う騒ぎが起来た、と言う
    ある意味、ちょいと洒落に成らない=前科=があったりするのである。

    で、こういう問題でいちばん頼りになりそうな、女っ気無し、指揮棒一筋のはずの
    学生指揮者=薄田=にしてもつい先ほど此の問題発生原因ふたりの
    =劇的瞬間(笑)=を不可抗力とは言え至近距離で目撃させられたことで
    ちょいと此の一件に口を挟むのを躊躇すると言う複雑な心境に陥り・・・
    普段の無口が必要以上に昂進し、殆ど腕組み石像状態で沈黙という始末。

    要は四役と言われる=男大幹部=殆どが其の心中で聊かの忸怩たる思いと言うか
    ああ、どの面下げて自分があれを真っ向から咎められる?・・・と、言う気分に陥り
    ここにきて奇妙な四すくみ状態で黙っちゃったものだから話はなかなかに進まない。

    俺は其の手の色っぽい話には無縁だべ、と完全に割り切ってるらしき
    其れこそ純粋音楽莫迦でありある意味=先輩=に匹敵しそうなお子ちゃま、
    SAXの牟田口の・・さあて、どうしたもんだべ、・・と呟く邪気の無い笑い顔を
    全員が妙に深刻に見詰めちゃ頭掻いたり溜息ついたりと言う惨状に陥る。

    まあ、此の手の騒ぎ自体がお子ちゃま騒ぎだよね、と無言で達観中の
    実は一番のプレイボーイで本物のおとなに近かった管理の深沢以外は・・・

    ・・・莫っ迦(ばっか)じゃん?・・もう二十歳過ぎた男と女が此れだけ一緒に居て
    何にも起きない方が普通じゃ無いってのにさあ・・絶対不自然だよ。

    部の規律と伝統とか言うけどそんな建前のせいで、実際・・折原、辞めちゃったし。
    不必要に制限するから蔭で付き合って馬鹿馬鹿しい騒ぎになってんじゃないの。
    其れを・・どの面さげて蒼山くんも・・まあ、さっきから妙に持って回った言い方して。

    此れじゃ、結果的に哲くんの欠席裁判みたいじゃん・・こういうの好きじゃないなあ。

    先程から此のちょいフェミな美青年兄ちゃんは実は密かに憤っていたのである。

    元々此の兄ちゃんは軟派そうに見えて、理不尽な権威とか仕来たりが嫌いな男で
    実家の寺院の跡を継ぐために仏教系の大学に行けと強く強制されたにも関わらず
    親や檀家を、世俗知らない坊主が多いから堕落するんだ、と言い張って納得させ
    此の哲学が売りの私大の国文学部に進学したと言う芯のほうは頑固な男であり

    実は、哲つぁんとお稚美ちゃんのほのぼの恋愛を公然と後押しし始めた裏には
    此の集団の古い悪しき習慣と言うか建前だけの男女関係公然化禁止と言う掟に
    強い反発と言うか、嫌悪のような感情を持っていたと言う理由が在った。

    ・・・逆に、あんな馬鹿莫迦しい=伝統?=・・百害あって一利なし・・だよねえ。
    この際・・いい機会なんじゃない?・・止めるの・・あんな馬鹿げた=規則=?
    此処に居るみんなだって、此処まで其れで痛い目に結構あってるはずだよ・・・

    ボクは・・まあ、此処は音楽楽しむ場所だって思ってるから如何でもいいけどさあ。
    そんな=規則=のせいでのびのび出来なきゃ、そっちにも影響するもんね。

    ええい、誰も言わないんなら、ボクが・・この際、思い切って言ってやろうかっ。

    珍しく其の端正で女性的な眉根を吊り上げ気味にし、此の兄ちゃんが
    創部数十年来の規約に真正面から喧嘩を売ろうと覚悟した瞬間である・・・

    妙にまったりとした其れで居て微妙に説得力のある誠実其の物の声が響いた。

    「・・俺さあ、弛(たる)んでるとか思わねえけどな・・ドリルの練習だって気合入ってるし・・
     大体、ドリルだろうと演奏だろうと楽しくやれて結果が出るなら・・一番良くねぇ?」

    全員が思わず其の声のほうを注視する・・其処には経理の斉藤のちょいと真面目な顔。

    部内の金銭出納を一手に引き受ける此のパーカッションの4回生は酷く地味な男で
    角の立つ事も言わなければ文句も言わず粛々と部の役職も演奏もドリルもこなし
    常にスネアドラムでものすごく正確なリズムを刻むことに定評のある奏者であり
    幹部会でも殆ど自分から発言することなど無かっただけに、全員が瞠目した。

    「・・なあ、森村・・夕べ言ってたろ?・・今年は一年生の出来が結構良いって。
     蒼山だって、今年は妙に学年間のトラブル少ないって言ってなかったか。

     気づいて無いかもしんねえけどさあ・・其れって、哲つぁんと、あの、なんだ・・
     弓丘ってのが1回生と4回生とか男の子と女の子とか言うんじゃないと言うか
    そういう区切りみたいの関係なしに、その、一生懸命に、なんだ・・その・・・
    ああいう雰囲気つうかさあ・・、いい感じっつうか・・・真面目にしてて。
    其の雰囲気のお蔭で1回生とか誰も=怯えて=無いんじゃねえ?

    ・・思い出せよ、俺ら1回生の時さ・・・正直、言いたくねえ話なんだけどよ。
     此の合宿に、救急車呼んだっていうか、俺が乗ったの、忘れてねえよな。」

    其の一言を聴いて全員が、特に男幹部が、はっと何かを思い起こした顔になる。

    三年前の此の合宿のとき、その年の4回生は妙に性格の悪い奴が揃っていて
    特にドリル担当のメジャーの4回生は不必要に其の役職を傘に着て
    必要のないしごきやいじめに近い扱いを伝統と言い張り下級生に振う悪癖が在った。

    竹刀で顔をぶん殴るなぞ日常茶飯事、宿室に帰っても其の嗜虐は続き
    其のせいか部内の風紀がかなり荒んで居たことは男幹部全員が身体で覚えていた。

    ・・・で、最後には合宿の宿室でこっそり飲酒を始めた其の4回生が
    同じ部屋の1回生の斉藤やあの哲つぁんに無理やり酒を飲ませ
    ある=大問題=を起こしたと言う正直思い出したくないが忘れられない事実を。

    其の時一種のちと笑えるが問題大ありの=暴行事件=があり
    表沙汰に成れば廃部も在りうると言う大騒ぎになったという事を。
    其の時の被害者であり中心人物が此の斉藤4回生本人であったことも。

    普段の温厚な表情が何時なく深刻に変わった斉藤は淡々と続ける。
    感情が激高していないだけ其の言葉には妙な迫力が籠もっていた。

    「・・かろうじて警察沙汰にならなかったから、部活続いたけどよ・・・
     俺、酔ったあの馬鹿に尻の穴にハンガー突っ込まれて・・・
    もうちょっと刺さり方が酷かったら直腸破裂だって言われたし。

    まあ、あんとき、3回生とか山内や、ああ、哲つぁんが珍しく怒って
    あの糞、いや、メジャー突き飛ばして当時の主将とか呼んで呉れたから。
     救急車来ても、今は笑い話で済んでるっての、忘れてねえだろ。
     
    あの時、女の子だって無茶な注文つけられて、美樹なんざ毎日泣いてたじゃね。
      ああいうのより、俺はよっぽど今のほうが・・まだまともだと思うんだよ。
    其れに、個人的には哲つぁんは・・恩人みたいなもんだからな。
    あいつが絡んでる話は正直、悪く言いたくねえんだ・・ま、それは俺の勝手だけど。」

    普段無口な此の兄ちゃんの真正面な問題提議に無論深沢が真っ先に食いつく。

    「斉藤くん・・そうだよ・・そうだよね・・絶対にそうだよ。
    あんなのが良いって言う連中なんか4回生の性格の悪いやつだけだよ

    蒼山くんだって怒ってたじゃん、あんとき、酷すぎるって・・・
     
    森村くんの前のメジャーの長淵さんなんか、定演の後の納会で
     あの糞メジャーぶん殴って、俺は私怨や思い付きで竹刀振わないって
     全部員の前で宣言して・・・森村くん、凄く感激してたじゃん・・。」

    斉藤の言葉に援護射撃をするかのように深沢も何時になく強い口調だ。

    「蒼山くんの言いたいことは判るよ・・役職だから特にそう思うのもね。
     でも、振り返って此処までの、其の1回生の時の事だけじゃなくて・・・
     本来自然でしょ、此れだけ20過ぎや其れに近い男の子と女の子がさ?
     
    こんな毎日一緒に居て、同じことして、同じ場所の空気吸ってるんだからさ?
     好きとかくっつくとか普通に在って当然でしょ?実際どうなのよ、みんな?
     後輩だって僕ら4回生の誰が誰とくっついてるとかみんな知ってるでしょ?
     
    判ってても、其の伝統だとか決まりだからとか・・そんなもんで隠してさ。
    そのせいで、此処までだっていろいろあったじゃない・・実際。

    其れに何にも触れずに・・正直、哲くぅんと弓丘ちん・・変だよ。
    でも、其れは年の割に子供みたいって言うか、そういうとこであって
    あんなに真面目に、笑えるくらいに一生懸命なのって、まず無いよ。

    事実があるのに無いような事にして・・そんなことしてる方がさあ・・
    実際、あの二人をどうのこうの言うの、其れ自体がおかしくない?

    だいたい・・あんな=部則=、今まで残ってたの、変だと思わない?
    僕は逆にそう思うよ・・いや、そう思ってるでしょ、本当はみんな。」

    普段、殆ど幹部会の席で異論どころか質問もすることの少ない
    パーカッションの平幹部二人が何故か此の時は猛然と己が意見と言うか
    溜まっていた何か鬱勃としたものを一気に吐き出したような感があった。

    些細なほのぼのムード蔓延による妙な浮つきをどうすべえか、と言う
    其れほど深刻さを伴わぬ雑談めいた幹部会は一気に深刻な雰囲気に変わる。
    幹部になって1か月そこそこの此の兄ちゃん姉ちゃんたちは意外な原因から
    自分たちも手におえかねぬ重大な問題に直面する結果になったのに気づく。

    其れもある意味此の部の抱えてた根源的矛盾部分に突き当立ったことに。

    幹部だ4回生だなぞと言ってもまだ二十歳過ぎたばかりの子供のような大人。
    帰属していた此の集団の伝統として要は頭を取ったり役職務めたりしていても
    こころの内じゃ恋もしたきゃ好きな女の子男の子と自然にいちゃついたりしたい。

    まして、其の相手が同じ環境で同じような苦労をしてる吹奏の住人であれば
    其の苦労や悩みが起きてる現場や環境で労わりあい慰め合ってこその
    =男の子おんなのこ=なんじゃあないか、と言う思いは全員が痛いほど判る。

    ただ、此の部の妙に長い歴史や俗にいうOBなんぞの無責任な圧力めいたもの。
    今年の幹部は出来が悪いとか俺たちの頃は云々なぞという一種の懐古的恫喝が
    この時代になっても、ちょいと生真面目で可愛い音楽莫迦たちを縛りもしていたのだ。

    全員がちょいと黙り込んで、会議と言うより無言の座禅行のような雰囲気に成って暫し
    流石に、此の集団の大親分と言う意識と責任感からか、主将の山内が・・・
    最初は、何か喋らんと駄目か・・と、此の沈黙に耐えかねたかのように
    徐に、口をひらいたのだったが・・・彼にしては珍しくおずおずと・・・・最初のうちは・・

    「斉藤、深沢・・ああ、お前らの・・・まあ、なんだ・・
    その・・言いてえことは・・よ~く判った。

    まあ、もう、これ以上言うな・・・良く判った、判ったから。

    実際だ・・・考えてみりゃ俺らの上(先輩)だって
    惚れた腫れた、出来た切れた・・なんてえのを、
    飽きもせず・・まあ、妙にこそこそとやってた訳だ・・・

    いや、言われる通り・・・俺も、俺らもそうだった。

    先輩に言われて疑いもせずっつうか・・何と言うか
    其れで厭な気分になるような事も在ったよな、実際よぉ。

    思えば、そんなのは、実に、・・ああ・・男らしく無え。
    いや絶対に男らしく、人間らしく無えぞ、うん。

    男らしくねえのは・・俺は・・好きじゃねえ・・・ああ、そうだ・・」

    自分で喋りながら考えをまとめ自分を納得させるかのように
    徐々に其の口調は妙に熱っぽく断定的に変わって行き・・・

    「あああっ・・糞めんどくせえっ!こん畜生めぇ・・・
     うじうじ考えてたって仕方ねえじゃねえかっ。
    結局駄目だって言っても蔭で付き合うだろっ。
    そういう風に出来てんだから、男とおんななんてもんはよ

    ・・ああ、決めた、決めたぞ、糞ったれぇ(笑)。」

    最後は殆ど怒鳴り声に近い、妙に吹っ切った声が食堂に響く・・・。

    「や、山内くん・・何よぉ?・・何言いだす気?」

    譜面管理の田原が全員の代弁?と言った表情で不安げに問うと
    此のちょい豪傑風で眉毛の濃い、古いタイプの男らしき兄ちゃんは

    全員の前で、腕組みをしたまますっくと立ち上がり、快活に豪快に=吠えた=。

    「決めたっ、もう決めたぞっ・・・そのなあっ・・・
    本年度を以って、ああっ、あの=腐れ部則=を・・・
    ~活動中の男女の交際禁止~は一切チャラだっ。

    ああ、廃止だ廃止っ!糞めんどくせえ(笑)
    文句なんざ言わせねえ、俺が決めたっ!
    此の合宿最後の打ち上げで発表するからなあっ。

    OBが文句?そんなもんほっとけ・・一番大事なのは現役だぞ。
    こんな下らねえ事でうじうじしてるのが一番駄目だ。
    出る音も出ねえし、音楽する気も起きねえだろうがあっ。
    其れに・・・駄目だとか言うから隠して拗(こじ)れるんだったら
    堂々とやらせりゃいいんじゃねえか、下らねえ。
    まさか練習中にナニおっぱじめる奴も居ねえだろうよっ。」

    「ひ、博隆っ、あんたナニって、何、破廉恥なこと言ってんのよっ!」

    総務の美樹が真っ赤になって其の=暴言=を思いっきり咎めにかかると
    此の直情径行で単純明快な豪傑主将は、一瞬、え?と言う顔に成り

    「い、いや、其の・・・ナニってなあキスするくらいのって意味で・・・
     美樹よお、お前、変なとこに食いつくなよ、まったく。」

    一瞬、妙に戸惑って狼狽した主将の山内だったが、今度は逆に
    其の言質を逆手にとって此のちょいうるさいお局様を弄りにかかる。

    「でもよ・・キスするくらいで破廉恥って?・・お前明治の女学生か?
     十川なんざ女同士で挨拶代わりとか言って遊んでんじゃねえか。
     流石に男にはまだ、其の、おおっぴらには何だけどよお(苦笑)
     あ、其れとも、もっとエロいこと想像したんかい、へえぇ~、そうかい・・・
    お前、ま~だ=お子ちゃま=だと思ってたら・・へぇえ~・・。」

    「ち、違うわよっ、ううん、ち、違わな・・・ああっ、何言わせんのよ、此のすけべっ。」

    「だったら良いじゃねえか、公然とおっぱじめりゃいいんだ、節度の範囲でよ。
     いじいじ隠れてなんてな、正直俺の性分に合わねえんだ、いいな、みんな。」

    そう言うと此の兄ちゃんは妙にすっきりした顔で全員を見わたし
    異存なんかねえよな、と、暗に目力で念押しを掛けて笑った。

    最初っからそんなもん消えてなくなれと思ってた管理の深沢や
    =哲つぁん=に好意的な故に此の議論其の物に嫌気がさしてる斉藤
    そんなもん意識すらしてねえぞ、ってな準朴念仁の牟田口のみならず
    残りの幹部全員が驚きつつも妙にほっとした表情で頷きながら・・・

    「・・ああ、学生としての節度を守って・・という条件付きでなら・・」
    「別に、個人の恋愛まで縛る気は元々無いからね、指揮者としては」
    「ただドリル練習の時は女っ気色恋厳禁だぞ、あれは軍隊なんだから。」
    「でも、あんまりべたべたしないように特に団体行動中は・・其れは言わないと。」
    「大丈夫だべ、みんなそれなりに大人なんだから、なあ、博隆よお・・」
    「うん、山内くん、凄いよ・・コペルニクス的転回の名主将だね・・うんうん」
    「まあ、俺・・相手居ねえから実はどうでもいいんだけどな、その辺も(笑)」

    全員が気抜けしたように笑って口々に勝手な事を言いだしたところを見れば
    誰一人此の豪傑主将の=英断(笑)=に異存など無いのは間違いなかった。」
    其の様子を見て更に己の行動発言の正しさを確信したのか・・・
    此のちょいと一本気に過ぎる=熱血漢(ねっけつおとこ)=は
    ああ、すっきりした、と言わんばかりの表情で、へっと一度短く笑うと・・・

    「馬鹿ったれ、4回生しか居ねえんだ、早く本音吐きやがれっての(笑)
    じゃあ、此の話はもうこれ以上無しだ、もう、夜練始める時間じゃねえか。
    薄田、後輩待たせたら其れこそ洒落にならんぞお・・・
    ああ、=哲=には後で俺が話しとくから・・変に気回すんじゃねえぞ。
    じゃあ、解散だ解散、いいなっ、それで・・・俺ぁ、行くからなあっ!」

    そう豪快に言い捨てて大股で食堂を出て行くのであった。
    何処かで聴いたような妙なエロ唄を鼻歌で奏でながら・・である。

    ♪夕べ父ちゃんと寝た時にぃ~ 変なところに芋があるぅ~♪・・とくらあ。

    まあ、半ば照れ隠しのような気分も在ったのだろうが・・・
    実にその、此の兄ちゃん・・誠に、昭和の御世に貴重な=バンカラ=豪傑。
    いや、ある意味=先輩=以上に何処か素直な子供というか・・・
    ああ、典型的な仁義と人情に篤(あつ)い、生まれながらの餓鬼大将。

    ともあれ・・ある意味こいつを親分に担いだのは間違って無かったな・・・と
    幹部全員、まあ、欠席裁判の哲つぁんを除く此の年の幹部全員が
    遠ざかる素っ頓狂なエロ唄を呆然と聴きながら本音で思ったことで
    これ以降、幹部の結束が妙に固まった、此の突発的幹部会は
    後に=男の子おんなのこ解禁会議=と後輩どもから呼ばれるようになり
    主将の山内は=日本一眉毛の太いキューピットの親玉=と言う敬称を
    後々まで奉られる事になるのだが、まあ、其れは蛇足のようなものだ。

    因みに此の山内は故郷に帰り公務員からなんと小さい町の首長になったとか・・・。

    ああ、親分と言う資質は・・栴檀双葉の頃から何処となく滲みだすものらしい。

    何処か気抜けしたように安堵したように4回生全員が食堂を出たのは
    其れから程なくの事・・だった・・妙に全員が晴れ晴れとした顔をして。

    流石に宴会芸のエロ唄唄う奴は、まあ、独りも居なかったようだが。

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