どれみふぁ・らぷそでぃー⑭
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どれみふぁ・らぷそでぃー⑭

2020-09-11 02:54
    高度な宴会芸(ぎじゅつ)への指標(笑)

    タイトルの元ネタは此れです・・昭和の邦人課題曲の名作っ。


    その日の午後、体育館フロアのドリルフォーメーションスペース以外の場所に
    わちゃっと群れ集った小学校低学年のちびっ子たちと吹奏の女子部員たち。

    何が始まるの、と、興味半分不安半分で見守るちびっ子の視線のまえに
    颯爽と現れたのは・・無論、言わずもがな、此の吹奏のドリル隊の男ども。

    メジャー森村の鋭いホイッスルのひと吹き、軽快に鳴りだすドラムマーチ。
    全員、本番のコスチュームこそ着けては居ないものの、半袖のTシャツにジャージ、と
    其れなりに恰好を揃えた32人のドリルの駒がきびきびと動き出すと・・・
    そんなもの見たことの無い田舎の小学生ちびっ子たちは一瞬吃驚した風情だったが
    時勢柄、鼓笛隊もトランペット鼓隊なんてのが意外に普通になりはじめていた事も在り
    此の大きいお兄ちゃんたちが6年生のやる=らっぱの行進=のもっと凄いのを
    此処で見せてくれるんだ、という事を殆どが理解したらしい・・
    拍手と同時にわあっというこどもらしい歓声が一気に・・

    此の歓声は無心な分、堪らなく嬉しいもの。

    今まで以上に気合が入りまくったドリル隊の音楽莫迦男たちは目いっぱい頑張った。
    大きく鶴翼に広がった最初のフォーメーションのど真ん中から、
    映画ベン・ハーの中の=戦車の行進=という勇壮な行進曲に合わせ、
    指揮杖を構えたメジャーの森村がTシャツに移動用の黒のスラックスに
    バンダナ鉢巻と言う微妙な恰好で登場し、其の歩調に合わせるように
    全楽器がしずしずと、まるでローマの戦車隊のように
    幾つかのブロックにまとまった形のままゆっくりと前進を始めると、

    ちびっ子のみならず此のドリルの完成形を始めて目にする女子部員や、
    毎年此のドリルを見て貰ってる此の施設の職員からも、
    わあっ、とか、ほほう、とか、思わず歓声が上がる。

    ぴったり揃って動き回り、軽快なマーチや流行の歌謡曲、
    ポップス、テレビ番組や映画のテーマソングを吹き鳴らしては、
    隊列を変え、色々な形を描きながら思いもよらぬステップや
    ラインダンスのような揃った個々の動きをリズムに合わせ
    次々と展開していく此のドリルと言う
    見たことの無い=おにいちゃんたちの遊び=に
    食い入るような目をして見入るちびっ子たち・・

    無論此の部の女子部員たちだってある意味同様なのは当然・・・
    去年のドリルと比較して凄く高度よねっ、とか凄い複雑なことしてるっ、とか、
    結構見巧者な感想を漏らす3・4回生も居れば
    ちびっ子同様に感動してうるうる来ている1回生のお嬢ちゃん部員も居て
    一曲終わるごとに無意識の、惜しみない拍手が体育館に響き渡るもんだから
    操演の男どもも必要以上に張り切って、何時になくきびきびと動き吹き鳴らす。

    そして、例のコミカルなステップが始まった瞬間・・きゃあきゃあはしゃぐちびっ子は
    先頭を行くスーザフォンを指差して、アヒルさん、アヒルさんとコールする始末。

    スタンドで吹きまくるトロンボーンの主将山内が、大乗りのアドリブでトロンボーンの
    スライドを急速に動かし=がぁ=と聴こえるアヒルの鳴き声らしき音をカウベルの
    1発に合わせて放り込んだりするものだから、大人たちの方も思わず笑みが漏れる。

    ・・いい出来だ・・此れなら、此の面子なら・・やれる・・ステージドリルっ。

    メジャーの森村は密かに心中で呟きながら、己が作品の完成形を見つめていた。

    コミカルなステップが終わり、当時人気番組だった=大都会=のテーマに合わせ
    再び全員が揃ったスクエアフォーメーションで動きだす頃には、何処からともなく
    リズムにあわせた可愛い手拍子が沸き起こり此の音楽莫迦たちを妙な感動が包む。
    そして、最後は割れんばかりの可愛い歓声と拍手・・きらきらした目のちびっ子たちの
    今年のドリル隊にとって最初にして、ある意味最高の賛辞が待っていた。

    初めての人前での演奏に疲れを覚えていたドリル隊の駒ども、音楽莫迦の部員たちも
    此の頑是ない笑顔を見せられ、此方も満面の笑みを思わず浮かべて手を振ったり
    そのラッパみせて~・・と言うかわいい声に応えて手招きし、楽器に触らせたり、と
    何とも明るく、妙にハートフルな光景があちこちで展開し始めるというおまけつき。

    ・・スーザフォン構えている先輩と2回生の川崎の処には、ひときわ大勢のちびっ子が
    もの珍しそうに寄ってきて、おおきい~、とか、これおもいの~?と興味深けに見詰め
    楽器に小さな手でぺたぺたと触ったりしては、うわ~、とか歓声を上げている。

    其れを、妙に優しげな眼で見ていた先輩が、ふと隣に居たトロンボーンの2回生
    武藤と言う高校時代吹奏楽コンクールの常連校に在籍してたちょい剽軽な兄ちゃんに
    軽く目配せをし、周囲のちびっ子たちが一瞬吃驚するような大きな音を吹き鳴らすと
    続いてゆっくりと何処かで聴いたことのあるメロディを吹き始める・・・

    $のすたる爺の電脳お遊戯。

    ♪ぞ~うさん そ~うさん お~はなが ながいのね・・・♪

    大きくて丸っこい金属の重そうなスーザフォンに相応しい童謡、誰でも知ってる
    =そうさん=のメロディだった・・一気にわあっと盛り上がるちびっ子たち。
    其の先輩のスーザフォンのメロディに合わせ、トロンボーンの武藤がアドリブで
    前打ちのビートを刻み始めると、ノリのいいホルンの星野と山村と言う3回生コンビが
    後うちのリズムを3度のコードで吹き始め・・ぶんちゃっちゃっ、ぶんちゃっちゃっ、と言う
    ゆったりした3拍子のリズムが流れ始める・・大喜びのちびっ子たち・・・そして何時しか
    此の小楽隊を囲んだちびっ子は可愛い声で=そうさん=の唄を歌いだした。

    ♪そうね~かあさんも~なぁ~がいのよぉ~・・ぞ~うさん、ぞ~うさん・・♪

    其れを眺めて居たサックスの牟田口やクラの前田が次々と其のメロディに加わり
    何処かコミカルな裏メロや俗にいう=おかず=、フレーズの合間の装飾音を
    此れもアドリブで入れ始め、即興の演奏は意外に本格的なものに変わって行く。

    この連中はまた、疲れてるという言うのに・・サービス精神旺盛と言うか・・
    ああ、本当に好きなんかもなあ、音楽と言うか、吹くことと言うか・・・
    しかし、楽しそうに・・吹くねえ・・ああ、みんな=良い顔=してるわ(笑)・・

    ドリル隊の時はパーカッションのアシストを務める学指揮の薄田が、妙に感慨深く
    しみじみと呟く中、ちびっ子とスーザフォンの=合奏=は緩やかに続いた。
    其処に居た全員が妙にほのぼのと見守る中で、実に長閑に、実に微笑ましく・・

    まあ、其のちびっ子の群れの端っこに、妙にうるうる眼をした、其の子たちと
    さほど身長の違わない栗毛のくせっ毛のお稚美ちゃんが、まるで子供のように
    嬉々としてぞうさんを唄っていたのは、まあ、予想外ではあったが(笑)。

    かわいい声でお礼を言う子供たちに、施設が用意してくれたお菓子を
    女子部員のお姐さんが手分けして配って、皆でおやつタイムを過ごし
    今年のドリル隊の初披露はにぎにぎしくも大成功裏に終わる・・・

    楽器片付けて合流したドリル隊の男子部員たち、おっきいおにいさんも
    ちびたちと妙に童心に還ったかのように、一緒に成ってお菓子喰ってみたり
    中にはちびたち相手に妙な顔芸始める奴や昔懐かしい遊戯をお国訛りで
    伝授する奴まで出るにおよび、此の合宿特有のほのぼのムードは最高潮に。

    クラのトップの田原に至っては、普段から=クラのお母さん=とか呼ばれるほど
    妙に母性的な雰囲気の子だった故か、一番幼げな女の子に妙に懐かれ
    ママ、おねむ・・とか甘えられて柔らかな表情で微笑したりする始末で。
    吹奏の部員全員が此の日、合宿終了の安堵感やドリル完成の脱力感も在り
    不思議とまったりのんびりとした気分に成って行ったのだった。

    そして、其の微妙に柔らかでいいムードは其の夜の恒例行事を例年に無く
    賑やかで爆笑物の、此の吹奏楽研究部史上類を見ない莫迦騒ぎに変えて行く。
    後に、=奇跡の一芸大会=と言い伝えられた合宿恒例の打ち上げ宴会に・・。


    夕食前の例のロビー前の喫煙場所・・サックスの牟田口が妙に真剣な表情で
    パートの後輩どもを集め、何事かを話し込んでいる・・秘密会議の雰囲気で。

    「で、今年の=芸=だっぺが・・何かいい案在る奴、居るかあ?・・雅村ぁ・・」

    「あら、例年の牟田口先輩の=アレ=でいいんじゃないですかあ?
     あたしたち=芸=が無いしぃ、其れにぃ・・微妙に恥ずかし・・・」

    「莫ぁ迦、あんなもん2回見せられりゃ予定調和だっぺよ・・何か新しいもんを・・
    此処はひとつ披露しねえと盛り上がらんぞ・・おい、高橋・・何か無えけえ?」

    「あ、歌詞変えたらどうっすか・・ナニじゃなくアレに、
    で、唄をですね・・こういう風に。」

    「いやん、そんなの唄うのぉ、あたしがぁ・
    ・一人は勘弁よぉ、せめて1回生の子も・・」

    「・・なら、男どもは踊りだな・・
    おい、高橋、振付け考えるっぺ・・色っぽい奴な・・。」

    「押忍!了解しました!渾身の力で微妙にエロい奴を早急にっ・・」

    $のすたる爺の電脳お遊戯。

    何のことは無い、此の連中が鳩首会談してたのは=宴会芸=の中身。

    此の合宿最後の夜、本来なら禁じられてはいる公共施設での飲酒を
    良い時代だったと言うか体育館の中のみで行い、準備から後の始末まで
    一切を此の部の部員だけで行うと言う条件で黙認されている
    俗にいう=ドリル完成記念打ち上げ宴会=で各パートごとに強制的に
    披露をさせられる=宴会芸=の密かな段取りを密談中なのだった。

    大學の吹奏楽団ってのは応援団付属の場合も多く、ある意味この時代
    此の手の妙にバンカラな一芸強制は普通に行われる宴会の肴であり
    普通は1回生中心に宴席で何かやらされたりするのだが・此の部の場合
    何故か其れを4回生が中心に成ってパートごとに披露すると言うある種
    奇妙で微妙に一蓮托生な平等感を持った仕来たりが在るのである。
    ピンの芸では無く、あくまで集団で団結しろってことじゃねえの、なんぞと
    豪傑主将の山内なぞは訳知り顔で常々言っては居たのだが・・・

    豪快で宴会慣れした男どもが多いパートはまあ良い・・・山内率いる
    トロンボーンあたりは毎年瞠目の珍芸を披露するのが恒例だったし
    男所帯のホルンや4回生の美樹以外はむくつけき男どものトランペットは
    勢いとノリで受けるかこけるかの真の一発芸を具現化させるのが常で
    そして、大学吹奏楽連盟の理事である牟田口率いるサックスあたりは
    牟田口が他大学から仕入れてきた珍芸を集団用に絶妙にアレンジして
    披露に及ぶと言う裏ワザで毎年結構な大うけを勝ち取っていると言う
    いわば強豪パートだったりする・・まあ、其れゆえに其のプレッシャーも大きく
    ただ今必死に作戦会議を普段の演奏以上に真剣にやらかしている訳。

    まあ、ある意味の蛮習と言えば其れまでだが・・此のガス抜き宴会により
    ドリル完成合宿で微妙に疲れたり荒んだりしている部員全体の雰囲気を
    一気に払拭して日常の活動に戻ろうと言う此の音楽莫迦たちなりの知恵と言うか
    伝統的に連綿と続けられてきた恒例行事・・4回生以下経験した連中は
    存外楽しみに待っている節も在る、学生の無礼講めいた息抜き。

    で、此の音楽莫迦たちは何時しか呑む事以上に其のパートごとの宴会芸が
    受けるかうけないかと言う部分に結構=本気で取り組む=ようになっていた。
    で、毎年密かに作戦なぞ立て、秘密裏に練習までするパートも出現するに至り
    此の数年は衣装まで準備してくるお調子者までちらほら見受けられる状況に。

    まして、今年は例年に無くほんわかムードで終了を迎えられた合宿である。
    恐らく相当にはっちゃけた宴会となりそうな雰囲気が充満している訳で
    各パートが何時になく気合入っちゃってるのもむべなるかな、なのであったが

    逆に困っちゃったのが、其の中でも女子だけのパートや
    人数の少ないパートの構成員たちであるのは、まあ、言うまでも無い・・。

    中でも2回生と1回生新人の女の子3人のフルートなぞはもう打つ手なしと言う
    体たらく・・もっとも、メンバー3人の中で此の莫迦宴会を経験済みなのは
    パートリーダーの十川だけであり、新人の久遠は其の内容を聴いて微妙に
    面白がり・・何かやりましょう、とか、じゃあ三味線抱えてくればよかったかしら、なぞと
    瞠目の一言を漏らして此の帰国子女お姉さんを感動させたりしたのだが
    例の弓丘お稚美の方は、きょとんとした目でうんうん頷き、がんばりまぁす・・と
    妙に可愛い返事を繰り返すと言う微妙な頼りなさで、今度は此の先輩を
    思いっきり脱力させると言う状況のなか、正直案外負けず嫌いで競争と成ったら
    ジャンルを問わず意外に燃えると言う隠れた性癖を持った帰国子女姉ちゃんは
    密かに捲土重来を期し、とある策略を実行する決意を固めていた。

    其れは・・他のパートから強力な助っ人を呼んでくると言うある種の荒業。

    尤も、候補者は既に確定していた・・強豪パートからは恐らく引き抜けないし
    同じような女の子パートではあまり助太刀の意味が無い、ってんで
    案の定白羽の矢が立ったのは・・低音金管の=先輩=その人である。

    此の妙に気のいいテディベア先輩は、十川の知る限り古典落語のマニアでも在り
    やたら衒学的な考え落ちのギャグを時折放つと言う一面があったのと
    何と言うか妙な天性のアレンジ能力が在り、真面目そうに見えて
    実は失笑系の莫迦芸を毎年低音金管に発案し続けていると言う秘密を
    2回生同期の米山や小原から漏れ聞いていた事が理由のひとつだったが
    更に重大な理由がひとつ・・現在の状況下、此の朴念仁テディベア先輩と
    自分のパートの天然お花畑、弓丘お稚美ちゃんを公然と組ませると言う事で
    恐らくは想像外の事象が発生することを期待して、の深謀遠慮と言うか
    まあ、あの二人を組ませるだけで絶対OKでしょ、受けるわよねえ、と言う
    違う意味での興味半分期待半分な思案の結果であるのは言うまでも無い。

    で、低金の二回生、十川の同期の後輩たちは此の帰国子女から
    宴会芸の助っ人と言うよりも、例のお稚美と公然と組み合わせて
    其の反応を覗おうと言う興味深い提案に一も二も無く乗っかってしまい
    密かな期待を抱きつつ全員で此の朴念仁を助っ人に送り出す。

    実は此の4人も密かにある珍芸を準備していた節が在り・・・
    其れは逆に此の先輩が一緒だとちょいと拙い内容の芸だったという事も
    此の状況を実現する大きな要因であったことは、其の夜の
    打ち上げ宴会の会場で明らかになるのである・・が・・この時点で
    朴念仁先輩が其れに気づくわけも無く、まあ、たまには違う面子と
    莫迦やるのも良いか、なぞと最後は意外にも乗り気で此のトレードに応じ
    密かに其の脱力芸の内容を聴いた十川を赤面させつつ爆笑させる
    哲学科伝統の莫迦歌のアレンジ版を密かに伝授するに至るのだった。

    「せ、先輩、其れ・・本当にやるの?・・まあ私たち筋書き通りに・・
     やればいいにしても・・な、何か、凄く・・ファンキーというか・・お馬鹿と言うか。
     うちの哲学科って・・普段何を勉強してるんだか・・もう、・・其の・・」

    「まあ、本来男だけの宴会芸だからなあ・・ただ、十川、此の戦力と
     メンバ-構成考えると・・此れが限界と言うか・・一番受けそうな気はするんだが。」

    「OK、わかりましたあ・・弓ちゃんズには、決め事だけ
     ・・・吹き込んで置けばいいんですねっ。」

    「ああ、と、特に・・其の・・お稚美、いや、弓丘には細かい事は
     言わん方がいいかなあ・・。正直、反応が・・予測できんのが・・
     まあ、不確定要素っちゃあ要素で・・幾分不安なんだが。」

    「・・OH・・確かに、此れ・・あの子・・中身理解するかどうか微妙に疑問ですねっ・・
     でも、哲先輩・・ああいう子・・実は好きでしょ?・・本当はぁ・・」

    最後の一言で立ち話中の先輩を赤面させた十川は微妙な笑いを漏らしながら

    夕食の準備、と食堂の方に歩いて行く・・其れを見送った先輩は・・・
    照れ隠しなのか実際疲れたのか此れも微妙に脱力気味に手持ちの煙草
    ハイライトを取り出して咥え、何か小声で演説のようなものを反芻しはじめた。

    恐らくは今夜の=芸=の何か台詞らしかったが、其れを軽く呟きつつ
    時折笑って紫煙を変なとこに吸い込み咳き込んでる処を見れば
    どうやら今夜準備した宴会=芸=の出来はかなり満足のいくものらしかったが・・。

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