「MADテープ」から「音MAD」までの道のり(その1)
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「MADテープ」から「音MAD」までの道のり(その1)

2013-03-26 12:40
  • 7
音MADのルーツといえば、仲邑飛鳥さんの労作「音MADの歴史」シリーズがありますが、
サンプリングミュージックと音MADの関係について書かれたowataxさんの記事を見て、
私も一筆書いてみようと思いました。と、いうのも、私自身が、記事の中で言及されている「音MADにネタとしての面白さを求める」人間であるからです。
 そこで、今回のテーマは、「音MADの視点からのMAD史のまとめ」あるいは「ネタMADとしての音MADの系譜」です。サンプリングミュージックやナードコアに音MADの源流を求めていくと、影響は考えられても、ルーツと言えそうなものが多すぎ、結局よく分からなくなりがちです。その点、「MAD」の側は、「MAD」ということばで決定される、枠の中の動きが比較的明確に残されているのです。なので、ここで言うMAD史とは、「MAD」という呼び名、ことばの継承の歴史でもあります。

※なお、今回の内容は、既に私のマイリストにまとめたものと、MAD Wikiやニコニコ大百科などに記載されたものから関係する内容を抜き出したものになります。基本的に内容については伝聞、聞きかじりで、一般的に流布している言説になります。正確さについてはご容赦ください。
※ちなみに、上記のMAD Wikiは静止画MAD系のまとめサイトで、編集ソフトや作者サイト、権利関係まで細かな歴史の動きを網羅しているのですが、音系についての記載は、ほぼMADテープ・MADニュース・ムネオハウス(と70年代以前の実験的作品)くらいで、「音MAD」の文字は全くありません。代わりに嘉門達夫の替え歌が「初の商用MAD」として挙げられている点はとても興味深いと思います。



・MADのあゆみ(音MADの登場前)
 今回は、現在のような「MAD」がどのように発展していったのか、年代ごとにその流れを大まかにおさらいしてみたいと思います。

MADテープ(1978年頃~)

(1978~82年頃制作)            (1982年制作)
 最初に登場した「MAD」と呼ばれるものが、「忙しい人向けシリーズ」や「歌の後に○○シリーズ」と同様の前後組み換え式編集を主体とした「MADテープ」です。
 カセットデッキの普及により、70年代の時期から、個人レベルで同様の音声MADの制作は多数されていたそうです。その中で、カセットテープとしてまとめられた作品集がダビングで広い範囲に流布された(反響が大きかった)ために特に知名度が高く、「MAD」の語源となったのが、左の「NEW MAD TAPE」ということのようです。
 「NEW MAD TAPE」には、原型になる作品があったと言われます。「キチガイテープ」が「MAD TAPE」に変わり、それをもとに再編集された「NEW MAD TAPE」が今広く知られているものです。そのため成立の時期がはっきりしないのですが、1978年ころには「MAD TAPE」の呼び名はあったようです。
 なお、右の動画のものなど、1980年代には独立して同様の作品がいくつか作られていますが、制作時にはそれらは「MADテープ」と名づけられず、「MAD TAPE」の呼称は固有名詞的に使われた部分があったようです。

 これ以前に、既存の音源を編集して新しいものを作ろうとする試みは無数にあったとも言われますが、この時期の「MADテープ」の特徴はなんと言っても、その「ネタ性」にあったと私は思います。「NEW MAD TAPE」を通して聞いてみると、「天丼」、「不意打ち」、「言葉の意味の逆転」、「オチ」、「下ネタ」、「ホモネタ」、「組み合わせのミスマッチ」、「会話の捏造」、「わけのわからなさ(カオス)」、「連呼」、「絶叫」、「速度変更と声の変調」といったネタのバリエーションがありったけ詰め込まれているのが分かります。そればかりでなく、繰り返しになった定番のネタの先を視聴者が予測できるようになったところで、それをどう外すか、どのタイミングで出すかと言った、真剣勝負のコントにも通じるような高度な笑いの駆け引きまでも活用しているのがMADテープなのです。
 その面白さゆえに、MADテープはテープが擦り切れるまでダビングされて人づてに日本全国に広まり、「MAD」と呼ばれるものが、音声や映像を編集した2次創作物を表す共通の言語として語られるまでになったのではないでしょうか。その後の「MAD」は、長い期間「ネタ性」がジャンルの中心となって育っていきました。笑い」や「ネタ性」こそが、「MAD」というものの一つの本質と言うこともできるでしょう。

MADニュース(1980年~)

(1980年制作)            (2003年頃制作?)
 「MADニュース」は、1980年にタモリが番組内のコーナーで企画した、「NHKつぎはぎニュース」が最初と言われています。
 時期的に「MADテープ」も広くは知られておらず、当然ながら、公式には「MAD」とは呼ばれませんでした。後に「MADテープ」からの類推で「MAD」として扱われるようになったものと思われますが、その時期や経緯についてはよく分かっていません
 右側の動画は比較的最近のものですが、ムネオハウスなどを真似たのか、言葉でリズムを取るものも混じっています。

MADビデオ(1986年~)

(1986年制作)            (1989年制作?)
 ビデオテープが普及すると、「MADテープ」と同じ要領で「MADビデオ」が作られました。「MADテープ」同様のネタに動画がついたものの他、音声に違う映像を合わせるタイプのMADも流行しました。
 「NEW MAD TAPE」と同じ作者による「MAD VIDEO TAPE」もあったようですが、最古のものと言われる「えとけっとビデオ」は、当初「MADビデオ」とは題されませんでした。同じような作品が増えていくにつれ、「MADビデオ」の呼び名が広まったようです。

デジタル編集MAD(1997年~)

(1997年制作。はじおう作品)       (2006年頃制作)
 PCによるノンリニア編集が可能になると、「MADビデオ」の媒体は現在のような動画ファイルの「MAD」に移り変わっていきます。フレーム単位での自由な動画編集が可能になり、曲のリズムに合わせてぴったり動画を切り替えるような表現が可能になりました。映像編集技術の格段の向上に対して、音声の弄り方は昔とあまり変わらず、MADは緻密な映像編集に重きを置かれるようになってゆきました。
 ノンリニア編集MADのはしりとされるのが、1997年に登場した作者はじおう氏の手による作品群ですが、これらはネタも編集もとてもクオリティが高く、今見ても全く遜色がありません。現在の形式のMADはほぼこの時期に完成していたと言っても良いでしょう。
 はじおう氏の作品は「おたくのMADビデオ」と題されていましたが、動画ファイルでの制作や頒布が一般化するにしたがって、「MADビデオ」の呼び名は使われなくなっていったようです。
 既にインターネットの利用は始まっていましたが、ブロードバンド普及前の回線で扱うにはMAD動画ファイルは重すぎ、コミケ等での手渡しでの頒布や分割偽装DLなどが必要で、2chが開設された頃のネットでもアングラよりな存在でした。入手してもPCパワーによってはまともに再生できないということもあったと言われます。
 今、単に「MAD」とだけ呼ばれるのは、P2P等で拡散される際の短いタグ様の【MAD】の表記が関係しているのかも知れませんね。

静止画MAD(1998年~)

(1998年制作)            (2000年制作)
 ノンリニア編集の時代のMADの中でも、一世を風靡した感があるのが、葉鍵系の「静止画MAD」でした。これらは、エロゲ、ギャルゲの静止画CGを素材としながら、最先端の動画編集ソフトのエフェクトや3D表現を駆使して動画化したという点で、それまでの動画の切り貼りをメインにしたMADビデオとは一線を画していました。
 今なお伝説として語られるawarenessを見ると、動画を編集するのに元の素材が動画である必要はない、ということがはっきり分かりますね。(ちなみに、この作者は、現在エロゲーOPなどの制作を多数手がける、プロの動画編集者として活躍しているということです。)
 これらのMADに求められたのは、高度な動画編集技術であり、音声編集の要素はほとんど使われなくなったようです。また、他ジャンルのMADでも「熱血系」「シリアス系」のものが出現していましたが、静止画MADでは、大半がキャラクターの可愛さやシナリオの感動要素を強調するものであり、いわゆる「ネタMAD」は少数派になっていたことも、それまでのMADとは違っていました。
 静止画MAD界では、初期のうちから「MADビデオ」という呼び名は使われなくなったようで、代わりに「MAD movie」や単に「静止画MAD」という呼称が広がっていきました。

AMV(1982年頃~)

 AMVは、海外、特にアメリカを中心に広がったMADのようなものとよく表現されますが、MADとは全く別の流れを持っています。
 史上初のAMVと言われるものは、1982年に登場しており、実に日本のMADビデオよりも4年も古いことになります。上に示したのは、特に「アニメーターAMV」として知られるようになったかなり新しいタイプです。最古級のものは見つからなかったのですが、90年代のまとめリストなどを見ると当時の雰囲気が分かるのではないでしょうか。
 日本のアニメの動画のバックに、(当たり前ですが)洋楽系の音楽を流し、アニメーションの美しさや作品のイメージを強調したタイプのAMVが多いようです。

面白Flash(2000年頃~)

 ネットではなかなか入手が困難だったMAD動画に対し、当時の回線でも軽く、広い範囲で楽しまれたのが「面白Flash」です。いわゆるFlash黄金期として語りつくされているので、詳しくは触れませんが、初期の映像表現力の乏しかった時代には、音声の面白さを映像で説明する技法のものが人気を集めました。最初の流行と言われる「hatten」の構成も「空耳」に映像の説明を加えたものですし、技術的にもそれが最適の表現だったのでしょう。
 特に有名な「オラサイト」の作品には、MADテープ時代の音声編集や題材を継承して新しいFlashに仕立てたものが多数ありました。(NEW MAD TAPEの中に「ギャバソ」とよく似たギャバンOPの切り貼りMADを見つけることができるほどです。
「Flash」という新しいキーワードを中心とした大流行だったので、「MAD」などという古くてマイナーな言葉が入り込む余地はありませんでしたが、音声MADの手法の面白さは、Flashを通じて多くのネットユーザーに知られることになったのです。

ここまでに取り上げたのは、MADの中でも一時代を築いたような大勢力だけですが、2000年代の時点でも、最初の「MADテープ」から派生した様々なMADジャンルが併存していたのです。大まかに分けるなら、次のようになるでしょう。
・最初期の音声編集の形式をマイナーなコミュニティの中で愚直に伝え続ける「MADテープ」や「MADニュース」。
・「MADビデオ」のネタ性を継承し、シンクロした映像表現に磨きをかける「ネタ系MAD」や「アニメMAD」。
・最新の映像編集技術を駆使し、美しい動画表現を追及する「静止画MAD」。
・「MADテープ」系の音声編集や空耳をネタとして一角に取り込み、ネット世代に共有されるシンプルで新しい動画表現を模索した「面白FLASH」。
続編では、このような「MAD」の流れがどのように「音MAD」に繋がっていくのかを書いてゆきたいと思います。

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この流れに「猛毒」というバンドの音源(ドリフ番組の音源をそのままremixしたもの)が入ってたりするのかな。ナードコアもか。
80ヶ月前
×
同時に外国ではどんな動きがあったのかも気になる。
調べるのめんどくさw
80ヶ月前
×
こんな昔からあるなんて信じられにいなあ
80ヶ月前
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分かりやすくて面白い
80ヶ月前
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>>1
ナードコア関係の議論もいろいろされているのですが、音MADにとって「これがルーツだ」と言えるものがはっきりせず、調べれば調べるほど古いもの出てきたりして繋がりがあやふやになる有様なので、今回は棚上げにしてます。

>>2
流石に海外は手が届かないですね・・・。YTPMV詳しい人に歴史とかまとめて貰えたらなと思っています。

>>3
なんと音声切り貼り作品の試み自体は1930年代にまで遡れるのだそうです。ほとんど録音ができるようになったのと同時に思いついた人はいたんですね。

>>4
ありがとうございます。目指した通りのところを褒めてもらえて嬉しいですね。
80ヶ月前
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MADテープという名前の起源が1978年なだけで
NEW MAD TAPE自体は1982年以降の制作ですよ
78ヶ月前
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>>7
ご指摘ありがとうございます。
実は先に書いていただいた長文のコメントも有難く読ませていただいたのですが、もう一度確認してから書こうと思っていたところ、返信が遅れてしまいました。すみません。

NEW MAD TAPEの成立時期がはっきりしなくて疑問になっていたところだったのですが、大百科記事の考察を失念していましたね。
MAD館の記載によると、NEW MAD TAPEはそれまでの作品をまとめ直したところもあるようですね。

BMSについても何か関係はあるんじゃないかと思いながら調べられないままだったので、とても有難いところでした。
90年代からあるものだとは思っていませんでした。

近いうちに加筆訂正したいと思っています。
78ヶ月前
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