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  • まさか自分が新聞の勧誘にのってしまうなんて その③

    2021-06-20 17:01


    [前回のお話]

    まさか自分が新聞の勧誘にのってしまうなんて その①

    まさか自分が新聞の勧誘にのってしまうなんて その②






    「...すいません...印鑑をどこにしまったか忘れて...」



    そう、見当たらない。いくら探しても、しまっておいたであろう場所に印鑑が無い。ズボラな私にありがちなことだ。
    私はこれをチャンスと捉えた。印鑑がなくては、契約も何もできないはずだ。ズボラな面は紛れもなく私の「地」の部分。
    さぁ、ようやくお互い、地で勝負する時が来たではないか。





    「あ、でしたら全然サインでもいいですよ!」





    いいんかーーーーーーーーーーい







    後に調べて分かったことだが、内閣府の発行している、押印に関する書面の中には「書面の作成及びその書面への押印は、特段の定めがある場合を除き、必要な要件とはされていない。」と記載されている。
    「特段の定め」とはどんなものか詳しく知らないが、契約の中にはハンコなど要らないものもあるのだろう。よく考えてみればうちのWi-Fiの設置も、印鑑など押した記憶はない。スマホだって電子契約であった。



    かくして、完全に私の敗北が決定したのだ。つい先程身の半分を玄関に入れたばかりのイケメン新聞屋は、いつの間にやら完全に玄関に入っていた。これは家宅侵入罪ではないのだろうか。しかしもはや、今更それを咎め、帰ってもらうような気力は私に残されていなかった。あとは言われるがまま、住所と氏名、そしてサインをするのみである。




    「これ、僕の娘です!」




    書いている途中で、スマホで撮影した娘さんの映像を見せられた。
    ふざけるな。1歳前後の娘なんて可愛いに決まっている。




    「あは、可愛いですね...あはは...。」




    気のない返事を返しつつも、ペンを進める手が止まることはなかった。





    「本当にありがとうございます!あ、お兄さんいい人なんで、商品券もっと差し上げますね!いや〜本当によかったです!」



    「はは...あなたも、上手いですね...」





    「いい人」とは今の自分にとって最高の皮肉であるものの、お互い最後はお世辞で締めくくり、この攻防は幕を閉じた。




    「本日は本当にありがとうございました!お兄さんも頑張ってくださいね!あ、あとからやっぱり契約やめますって言わないでくださいね!?そしたら僕の実績がつかなくなっちゃいますから!!ホントに、それだけはお願いしますね!?」



    「はいはい、しませんから。あなたも頑張ってください。」




    そう言ってドアを閉じようとした瞬間、彼は最後にもう一つだけ、私に質問した。




    「あ、親御さんとかに何か言われたりしないですか!?契約したこと怒られたりとか...大丈夫ですか!?」



    「大丈夫ですよ。一人暮らしですし。」



    「あは、そうですよね!僕らもう2□歳ですもんね!ははっ!では!!」




    ガチャン。




    可愛いかよ。はは〜ん...さすがイケメンだ...。
    これは「顔が」という意味ではない。
    人当たりの良さそうな雰囲気で相手を油断させ、少し距離が縮まったタイミングで自分の弱みを露わにし、相手が同情したのを見計らって要求を迫るそのスキル...それ自体がいかにもイケメンらしいって意味だ。
    営業の仕事はしたことが無いので研修中にどんなことを教わるのかは知らない。だが仮に今のような技術を教わったからと言って、まだ経験も浅いであろう研修生が実践で使いこなせるだろうか。



    否、恐らくお前は、仕事上のやり口としてだけではなく、今までもそのようにして人間関係を上手くくぐり抜けてきたのだろう。そしてその延長で、今の奥さんを捕まえたのではないだろうか...。


    もちろん、全ては私の偏見だ。だが嫉妬からの偏見ではない。ここまで鮮やかに、そして最後は持ち前の可愛らしさでしっかりオチをつけられてしまったので、その一連を思い返すとすがすがしくさえ思い、なんとなく彼の人間性というものに想像を張り巡らせてしまったのだ。



    しばらくそんな余韻に浸っていると、さっきまで忘れていた眠気も再び押し寄せてきた。



    (今日はさっさと寝よう。編集だけ早く終わらせるか...)



    そう思い、部屋に戻ろうとしたついでにふと、手に持っていた契約書の控えの、裏に目をやってみた。





    『契約して8日以内であれば、クーリングオフが使えます』






    ...クーリングオフ、か。




    終わり。





    -後日談-

    昨日、クーリングオフで解約をしました。
    クーリングオフという言葉を目にした瞬間、もらった品は使ってはいけないだろうと思ったので、全て未開封、未使用の状態で保管しておきましたが、やはり返すことになりました。その際は会社の人間がもう一度訪問をしてくることになったので、さらにもう一押しを粘るのではないかと疑った僕は、前回の失敗を省みて、服装はできるだけきっちりとし、あとは少しでも威圧感が出るように髪をワックスで固め(普段あまりしないのに)、インテリっぽいメガネをかけてついでにネックレスもして、靴は革靴を履いて挑みましたが、普通に品だけ渡してあっさり終わりました。
    コメントでも言われましたが、疲労状態で訪問販売に挑むもんじゃないですね。ましてや僕のような情に弱い人間が。彼には可哀想ですけど、しっかり寝た後に正常な判断能力を取り戻した上で、今回は自分の都合を優先いたしました。まさに敗者復活です。

    印鑑はまた探しておきます。





    【おことわり】
    偏見と称していくつかの意見を述べましたが、あくまでこの体験で自分がその時感じたことを書いたまでですので、それを助長する旨ではございません。また、訪問販売を批判するつもりもございませんのでご了承ください。

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  • まさか自分が新聞の勧誘にのってしまうなんて その②

    2021-06-17 19:112

    [前回のお話] 『まさか自分が新聞の勧誘にのってしまうなんて』その①



    ...


    身の置き所もない羞恥にかられ、私が赤面するかしないかというタイミングで、そいつは私に更なる追い討ちをかけてくる。



    「実は僕こう見えて、子供3人いるんです。」



    見た目だけではなかった。
    結婚して子供までいるという時点で、世間的な評価としてはますます私より信頼度が高い。


    「正社員になったら給料も上がるし、厚生年金とか社会保障とかあって、いろいろ得じゃないですか。だからこのままだと家族に申し訳なくて...」


    私と同い年であることを知った直後、同世代に自慢をしたかったのか、それとも単にこれもビジネストークなのかは分からない。いずれにせよ普段の私であれば、そんなことは知ったことではないといった態度を貫くのだが、何せ今は、全てのプライドをズタズタに引き裂かれようとしている、まさにその時だ。


    「え〜...マジっすか...。」


    私の口から思わず「マジっすか...」という言葉が出た。子供が3人いるということに対してもそうだが、なによりも、そんなことを私にひけらかしてまで新聞をとってもらおうとする、やつの"プライドの無さ"に恐れ入ったのだ。


    最初にこいつを一目見た時、私は劣等感を抱いた。自分と同じくらいの年齢で、イケメンで、口達者な営業マンである。明らかに自分よりハイスペックで仕事の出来そうな人間であるからだ。その嫉妬故にそいつの口車にのってしまうことに、私の一丁前なプライドが許さなかったのだ。
    「知らない好青年か、もしくは知らない美女が玄関に立っている場合の99.99%が勧誘である。」なんてセオリーは存在しない。全ては私の劣等感が導き出した偏見だ。
    だから私は「怪しい」と身構えたのだ。それは一旦の判断としては間違っていなかったはずなのだが、2手先まで待とうとしたことが、私の「騙されるほどバカではない」という慢心から来る失敗であった。その直後に私はまんまと、こいつに親近感を抱いてしまったのだから。




    「マジっすか...。」(お兄さん─ )




    それは、身構えたからこその安堵なのだ。
    人が誰かに対し、急に親近感を抱く時というのは、もともと心が通っていなかった前提である。相手を毛嫌いしているか、もしくは単に興味がなかった。そんな折に、自分との強い共通点を認知した瞬間、急に心が通じ合えるかのような期待が芽生えるのだ。
    劣等感をそのまま劣等、即ち劣っていることと認められるだけの潔さが、私にはなかった。だからこそ「騙されるほどバカではない」というプライドと化して、自分の弱さを覆い隠し、警戒していたのだ。しかし、「社員になれない」という自分と近い経験を聞いてしまったが為に、自分と似ているにすぎないと安堵し、その警戒心を解いてしまった。
    私のプライドという名の装甲が剥がされたのは、これが一つ目。



    (お兄さん、流石に─)



    そして私は、親近感を抱いた矢先に敗北を突きつけられた。同い年であることが発覚し、好青年に見えるそいつと比べ、私は対面する上での最低限の身だしなみも整っていない。相手に不快感を与えてしまっているかもしれないという羞恥。挙句結婚して子供までいるとなれば、もはや私がそいつと釣り合う点など、何も無い。
    二つ目に剥がされた装甲は、会社員、社会人としてのプライドである。



    (流石にそれは─)



    私は長らく、勘違いをしていたようだ。
    恐らく私は本来、情に流されやすく、意志の弱い人間なのかもしれない。意思を貫いてきたかのように思えたそれは、様々な装甲によって自身を覆い隠し、人との距離を隔てることによって、自分の領域をなんとか守っていたにすぎなかったのだろう。いざ装甲を剥がされて、うろたえている自分を傍から見れば、それは想像に難くない。





    「流石にそれは、ずるいですよ...」





    身ぐるみを剥がされた私にとっての、精一杯の悪あがきだった。
    丸腰であらば、意地しかない。
    どこまで足掻けるか。意地という名のプライドだ。





    「ずるくないっすよっ!!(笑)」






    一笑に付されて終わった。
    そうだった。こいつにプライドなどないんだった。
    というか今のこいつは、プライドで勝負していない。
    私と違って、こいつは最初から自分の弱さをアピールしていた。つまり私のような意地どころか、「地」で挑んでいたのだ。プライドで勝負を挑んでいない相手にプライドという土俵が通用するはずもない。ましてや地の部分が強い人間に、地の弱い者の意地などでは歯が立たぬ。




    だが私は、ある一つのプライドを置き去りにしていることに気がついた。

    「男としてのプライド」である。


    劣等感からのプライドは、せいぜい長くても培われて10年ほどの代物。ましてや社会人なんて5〜6年。脆くて当然だ。だが男としてと言うならば、私は生まれてこの方2□年間ずっと男である。その差は劣等感の2倍以上。今こそ私の男としてのプライド、男としての意地をみせるときなのだ。




    (男宅にイケメンがのこのこと訪問したその落ち度...万死に値する。)




    武者振るいする私に、イケメン新聞屋は最後のひと推しを迫る。


    「もう、ホントに、別に今すぐじゃなくてもいいんです!なんなら来年から半年だけっていう契約も可能なので!実は...後から電話して申し込んでいただくこともできるんですけど、本音言っちゃうとそれだと会社の利益にしかならなくて、僕の実績にはならないんです。」



    そう、今更手のひらを返したように断るなんて、男の名が廃る。



    「分かりました。来年からでいいなら、そうします。」



    ─ 違う。



    「ありがとうございます!!!では、すみませんがこちらにですね、シャチハタでもいいので、押して頂けませんか?」



    ─ やめろ...



    「あ、はい、ちょっと待ってくださいね...」




    ─ そうじゃない!!









    私の中の男は裏目に出た。それもそのはず、私は肝心なことを見落としていた。
    私は男ではあるものの、今まで「男としてこうするべき」などという理念で行動した覚えもなく、男であるということに誇りなど感じてすらいないような人間である。そもそも1番最後に思い出したプライドである時点で、それを自覚すべきであった。
    使ったことのない「諸刃の剣」は、ものの見事に己のみを破滅させる形をとったのである。






    それまでずっと外の通路に立っていたそいつは、私が契約すると言った途端、玄関の中に身の半分ほどを乗り出した。それはつまり、「もう後戻りするなよ」という威圧、ビジネス戦略なのだろう。
    そう、プライドなど使っていない。全てはやつの計算と、地の側面から来る動きである。





    無念の思いに身をこわばらせつつしばらく印鑑を探していた私は、恐る恐る口を開いた。





    「...すいません...印鑑...どこにしまったか忘れて...」


    つづく



    次のお話→まさか自分が新聞の勧誘にのってしまうなんて その③

  • まさか自分が新聞の勧誘にのってしまうなんて その①

    2021-06-15 21:181
    『まさか自分が新聞の勧誘にのってしまうなんて』その①


    ※新聞の訪問販売を受けた話を大げさに書き綴ったものだと思って読んでいただければ幸いです



    2021年6/14(月)

    4連休明けの仕事が終わった。

    昨日は徹夜だった。新しい歌ってみた動画を投稿するために、曲を編集する作業に明け暮れていたのだ。幸い作業自体は夕方のうちに済んだので、動画は19:00ごろにはアップロードできた。まぁ本当のところは、アップロードが終わった後、あまり進んでいなかったオンラインゲームに勤しんでいたことが徹夜の原因である。更に厳密に言うならばゲームのお供に飲んだいたエナジードリンクで眠れなくなったのだ。朝の4時ごろにはかろうじて眠れたが、その間にも何度か猫に起こされたので、実質眠った時間は更に短縮された。


    とにかく早く帰って寝たい。眠気でぶっ倒れそうだった私は、帰り道のコンビニで晩飯を買い、部屋に入って早々にPCに向かった。
    オンラインゲームではない。実は昨日アップロードした動画の中で、どうしても修正したい箇所が見つかったのだ。そこを修正してアップロードし直すまでは、落ち着いて床に入ることができない。
    設定をいじくり、再生して、もう少しいじくり、また再生して...


    そのうち、ヘッドホンから流れる曲に不純な音が混じっていることに気がついた。原因はこれだろうか。
    インストとは明らかに質の違うその音は、歌を録音した際に外の音をマイクが拾ったとしか考えられない。奇妙なことに、アップロードした動画を聴いた時には全く気が付かなかった。しかもヘッドホンを外してもなお聴こえてくるではないか。まさか...


    自宅のインターホンが鳴っていることに気付き、玄関に向かった。


    「どちら様ですか?」

    「あ、わたくし〇〇の〇〇という者です〜〜」


    正直良く聞き取れなかったが、とりあえず出てみた。


    ぱっと見は好青年である。だが世の中のセオリーは、知らない好青年か、もしくは知らない美女が玄関に立っている場合の99.99%が勧誘である。私はこの時点で少し身構えた。
    見た感じは自分よりも2〜3歳年上だろうか。謎のイケメンはドアを開けるや否や、



    「あ...すみません、こんにちは。あのわたくし、〇〇の〇〇という者でして... あ、こちらよかったら差し上げますので...」



    と軽い自己紹介を交えつつ、ほんのちょっとだけ高そうに見えるテッシュをこちらに差し出した。5箱入って250円とかのティッシュではなく、1箱で100円みたいに売られているような感じの見た目だ。
    ただ、未だにどこのどういう者なのか、彼の自己紹介の大半が風の音でかき消され、良く聞き取れていない。
    それにしても上手いと思った。恐らく会社から教わった手法だろうとは思うが、勧誘の話に入る前に、それもドアを開けて自己紹介の最中にさりげなく物を渡されれば、受け取るか否かの判断もできないうちに思わず手を差し出してしまう。貰った後に断りづらくさせる為の一つのテクニックに違いない。



    「〇〇の××が△△でして...あの〜...本日は名前だけでも覚えて頂きたくてお伺いしたんです。」



    いずれにせよ強烈な眠気と、中断された作業に取り掛かりたくて仕方ないのとでよく聞いていなかったが、どうやら新聞屋であるというところだけはかろうじて聞き取れた。
    ひとしきり自己紹介が終わったところで、

    「ほんと...急にお伺いして申し訳ありません。お時間取らせてしまって...」

    などと言うと、そのイケメンはおもむろにカバンから何やら取り出した。



    「こちらもよかったら差し上げますので...本日はほんと...僕の名前だけでも覚えてもらいたかったので...」


    (はいはいテッシュときたら今度はどうせゴミ袋か、タオルか何かですかね...え...待て、洗剤だと...しかもナ〇ックス??テッシュがちょっとだけ高めかと思いきや、洗剤までちょっとだけ高めのやつじゃねぇか...。お前なかなかいいチョイスしてんな。伊達にイケメンじゃねぇ。いやまぁ会社のチョイスだろうが。)



    だがあいにく私は、そうそう簡単に情に流されるような人間ではない。合理主義者というほどでもないが、多くの若者が思っているのと同様、「自分は宗教やネズミ講ビジネスに騙されるほどバカではない」くらいの自負はある。
    とにかく名前だけでも覚えてほしいということだけは伝わったが、名前だけ覚えてもらって帰るような営業マンなどこれまでお目にかかったことがない。もちろん新聞を売りつけるつもりだろう。
    まぁせめてこのテッシュとナ〇ックスだけは貰ってやるが、懐に隠してあるお決まりの名台詞、「興味ないのでいいです」を出すまであと2手先といったところか。
    そもそも訪問する相手が悪かったようだ。男相手に明らかに自分よりイケメンなやつが来たって余計に劣等感と嫉妬から来る怒りを掻き立てるだけだ(筆者は男性である)。



    「ほんとにありがとうございます。いやぁ、ご近所さんも何人か回ったんですけどね、皆さんやはりすぐ契約するのは難しいけど、応援だけはするよと言ってくださって...こうやってお名前を頂いたりして、ほんと助かってたんです。実は僕、今研修期間中なんですけど、契約を取れないと正社員にさせて貰えないんですよ。ホント、もう大変で...」



    もちろんそれも含めてビジネストークであることは分かっている。「ご近所さんもみんなやってくれましたよ」という言葉に日本人は弱い。あと、こいつがさっきから多用する「名前だけでも」というのも、「5分だけ」みたいに言われて「5分だけなら...」と話を聞いてしまう心理を応用した、よりさりげなさを演出することのできるセリフなのだろう。それに加えて自分の弱い立場を利用して同情を誘っているわけだ。


    だが不覚にもここで、「正社員になれない」という話に、一瞬動揺した表情を見せてしまった。
    実は私も今の職場で、時期的な問題で正社員になれなかったという経験をしたことがある。
    自分の将来もさることながら、ある程度いい年齢になってくると、世間の目を気にして引け目を感じるような焦燥感が、周期的に訪れたりする。正社員になれないことは、やはり精神的にキツいものがある。自身の経験と重ねてそいつの話を聞いているうちに、眠気を感じることも忘れていた。


    「しかも僕、あと10件契約とるまで帰れないんですよぉ...」


    なんだか少し可哀想な気がしてきた。なんでお前そんな会社に入っちゃったんだ。
    もはや劣等感や怒りではなく、自分とこいつは立場が似ているのかもしれないという、妙な親近感が湧いてすらいた。
    俺よりイケメンで好青年な割にシンパシーを感じさせるそいつは、そんな世間話をしたかと思うと、「あ、よろしければ...」と言ってまたカバンから何やら取り出した。



    「こちらウエットティッシュと、あと先程の洗剤の詰め替え用と、あとこちらのエコバッグと、あと商品券もどうぞ...。お時間取らせてしまったので」


    おいおいどんだけくれるんだよ...流石に契約しないのにこんなに貰っちゃうの悪いよ...。
    あんな話を聞いた上で同情した表情まで見せてしまったのだから、貰えば貰うほど断った際にこちらの体裁が悪くなる。





    更にイケメンは私に質問をした。



    「お兄さん今おいくつなんですか?」

    「2□歳です。」

    「え...2□歳...?もしかして今年で2△歳...?平成×年生まれってことですか??」

    「はい」

    「えっあ...僕と同い年です!僕も今年2△歳なんで!」




    より親近感を持たせる為に同い年と嘘を言う手法かとも勘繰ったが、流石にそれはなさそうだ。2□歳と聞いて一瞬で平成×年生まれと計算できるやつなんてそうそういないだろうから。


    なんということだ...歳上じゃなかった。
    眠気などもはや吹っ飛んだ。なんで俺よりそんなしっかりしてそうな見た目してるんだ。
    さっき帰ってきたばっかりで、なんならシャワーも浴びたから髪びしょびしょで、半袖半ズボンで、しかも猫の毛だらけの服のまま同い年でしっかりしてそうな好青年のイケメンと話をしているこの状況が、一体どれだけ恥ずかしいことか。それを認識した私は、すぐ済むだろうと思って着替えずにドアを開けたことを酷く後悔した。


    見た目が全てでないことは分かっているが、見た目はその人の誠実さを物語る側面もある。
    見た目がいいから誠実であると直結するのではない。髪型を整え、爪を切り、服装はなるべく無難でいてダサくなく、汚れていないものを着こなす、などなどの、その一連の行為そのものが、他者に不快感や威圧感を与えないよう常に気を配り、努力していることを意味する。
    つまり「今の私はあなたと対等にお話しする準備が整っていますよ」と暗に伝えているようなものであり、そこに「誠実そう」という印象を抱く。だから会社員はスーツを着るのだ。
    全員スーツで統一した方が与える印象にそれほど差はなく、対等に渡り合える。見た目のだらしなさで相手に不快感を与えて不利益を被るくらいならば、従業員にはスーツ、または制服を着て働いて貰いたいと思うのは、組織の上層部からしてみればおそらく普通の感覚であろう。


    もはや親近感など感じている場合ではなかった。イケメンという時点で私より生物学的な有利さが上であることは確かだが、かと言って自分がこんなだらしない格好をしていては、余計に「私はあなたより下でござい。」と体全体を使って表現しているようなものである。「モテる男とモテない男の見た目の違い」と題して、2人の男性が並んだ写真やイラストをネットでよく見かけるものだが、今の構図はまさしくそれだ。
    私はこの時点で、2手先まで待ってやろうとした謎の余裕を後悔していた。


    身の置き所もない羞恥にかられ、私が赤面するかしないかというタイミングで、イケメン新聞屋は私に更なる追い討ちをかけてくる。


    つづく



    次のお話→まさか自分が新聞の勧誘にのってしまうなんて その②