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まさか自分が新聞の勧誘にのってしまうなんて その①
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まさか自分が新聞の勧誘にのってしまうなんて その①

2021-06-15 21:18
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『まさか自分が新聞の勧誘にのってしまうなんて』その①


※新聞の訪問販売を受けた話を大げさに書き綴ったものだと思って読んでいただければ幸いです



2021年6/14(月)

4連休明けの仕事が終わった。

昨日は徹夜だった。新しい歌ってみた動画を投稿するために、曲を編集する作業に明け暮れていたのだ。幸い作業自体は夕方のうちに済んだので、動画は19:00ごろにはアップロードできた。まぁ本当のところは、アップロードが終わった後、あまり進んでいなかったオンラインゲームに勤しんでいたことが徹夜の原因である。更に厳密に言うならばゲームのお供に飲んだいたエナジードリンクで眠れなくなったのだ。朝の4時ごろにはかろうじて眠れたが、その間にも何度か猫に起こされたので、実質眠った時間は更に短縮された。


とにかく早く帰って寝たい。眠気でぶっ倒れそうだった私は、帰り道のコンビニで晩飯を買い、部屋に入って早々にPCに向かった。
オンラインゲームではない。実は昨日アップロードした動画の中で、どうしても修正したい箇所が見つかったのだ。そこを修正してアップロードし直すまでは、落ち着いて床に入ることができない。
設定をいじくり、再生して、もう少しいじくり、また再生して...


そのうち、ヘッドホンから流れる曲に不純な音が混じっていることに気がついた。原因はこれだろうか。
インストとは明らかに質の違うその音は、歌を録音した際に外の音をマイクが拾ったとしか考えられない。奇妙なことに、アップロードした動画を聴いた時には全く気が付かなかった。しかもヘッドホンを外してもなお聴こえてくるではないか。まさか...


自宅のインターホンが鳴っていることに気付き、玄関に向かった。


「どちら様ですか?」

「あ、わたくし〇〇の〇〇という者です〜〜」


正直良く聞き取れなかったが、とりあえず出てみた。


ぱっと見は好青年である。だが世の中のセオリーは、知らない好青年か、もしくは知らない美女が玄関に立っている場合の99.99%が勧誘である。私はこの時点で少し身構えた。
見た感じは自分よりも2〜3歳年上だろうか。謎のイケメンはドアを開けるや否や、



「あ...すみません、こんにちは。あのわたくし、〇〇の〇〇という者でして... あ、こちらよかったら差し上げますので...」



と軽い自己紹介を交えつつ、ほんのちょっとだけ高そうに見えるテッシュをこちらに差し出した。5箱入って250円とかのティッシュではなく、1箱で100円みたいに売られているような感じの見た目だ。
ただ、未だにどこのどういう者なのか、彼の自己紹介の大半が風の音でかき消され、良く聞き取れていない。
それにしても上手いと思った。恐らく会社から教わった手法だろうとは思うが、勧誘の話に入る前に、それもドアを開けて自己紹介の最中にさりげなく物を渡されれば、受け取るか否かの判断もできないうちに思わず手を差し出してしまう。貰った後に断りづらくさせる為の一つのテクニックに違いない。



「〇〇の××が△△でして...あの〜...本日は名前だけでも覚えて頂きたくてお伺いしたんです。」



いずれにせよ強烈な眠気と、中断された作業に取り掛かりたくて仕方ないのとでよく聞いていなかったが、どうやら新聞屋であるというところだけはかろうじて聞き取れた。
ひとしきり自己紹介が終わったところで、

「ほんと...急にお伺いして申し訳ありません。お時間取らせてしまって...」

などと言うと、そのイケメンはおもむろにカバンから何やら取り出した。



「こちらもよかったら差し上げますので...本日はほんと...僕の名前だけでも覚えてもらいたかったので...」


(はいはいテッシュときたら今度はどうせゴミ袋か、タオルか何かですかね...え...待て、洗剤だと...しかもナ〇ックス??テッシュがちょっとだけ高めかと思いきや、洗剤までちょっとだけ高めのやつじゃねぇか...。お前なかなかいいチョイスしてんな。伊達にイケメンじゃねぇ。いやまぁ会社のチョイスだろうが。)



だがあいにく私は、そうそう簡単に情に流されるような人間ではない。合理主義者というほどでもないが、多くの若者が思っているのと同様、「自分は宗教やネズミ講ビジネスに騙されるほどバカではない」くらいの自負はある。
とにかく名前だけでも覚えてほしいということだけは伝わったが、名前だけ覚えてもらって帰るような営業マンなどこれまでお目にかかったことがない。もちろん新聞を売りつけるつもりだろう。
まぁせめてこのテッシュとナ〇ックスだけは貰ってやるが、懐に隠してあるお決まりの名台詞、「興味ないのでいいです」を出すまであと2手先といったところか。
そもそも訪問する相手が悪かったようだ。男相手に明らかに自分よりイケメンなやつが来たって余計に劣等感と嫉妬から来る怒りを掻き立てるだけだ(筆者は男性である)。



「ほんとにありがとうございます。いやぁ、ご近所さんも何人か回ったんですけどね、皆さんやはりすぐ契約するのは難しいけど、応援だけはするよと言ってくださって...こうやってお名前を頂いたりして、ほんと助かってたんです。実は僕、今研修期間中なんですけど、契約を取れないと正社員にさせて貰えないんですよ。ホント、もう大変で...」



もちろんそれも含めてビジネストークであることは分かっている。「ご近所さんもみんなやってくれましたよ」という言葉に日本人は弱い。あと、こいつがさっきから多用する「名前だけでも」というのも、「5分だけ」みたいに言われて「5分だけなら...」と話を聞いてしまう心理を応用した、よりさりげなさを演出することのできるセリフなのだろう。それに加えて自分の弱い立場を利用して同情を誘っているわけだ。


だが不覚にもここで、「正社員になれない」という話に、一瞬動揺した表情を見せてしまった。
実は私も今の職場で、時期的な問題で正社員になれなかったという経験をしたことがある。
自分の将来もさることながら、ある程度いい年齢になってくると、世間の目を気にして引け目を感じるような焦燥感が、周期的に訪れたりする。正社員になれないことは、やはり精神的にキツいものがある。自身の経験と重ねてそいつの話を聞いているうちに、眠気を感じることも忘れていた。


「しかも僕、あと10件契約とるまで帰れないんですよぉ...」


なんだか少し可哀想な気がしてきた。なんでお前そんな会社に入っちゃったんだ。
もはや劣等感や怒りではなく、自分とこいつは立場が似ているのかもしれないという、妙な親近感が湧いてすらいた。
俺よりイケメンで好青年な割にシンパシーを感じさせるそいつは、そんな世間話をしたかと思うと、「あ、よろしければ...」と言ってまたカバンから何やら取り出した。



「こちらウエットティッシュと、あと先程の洗剤の詰め替え用と、あとこちらのエコバッグと、あと商品券もどうぞ...。お時間取らせてしまったので」


おいおいどんだけくれるんだよ...流石に契約しないのにこんなに貰っちゃうの悪いよ...。
あんな話を聞いた上で同情した表情まで見せてしまったのだから、貰えば貰うほど断った際にこちらの体裁が悪くなる。





更にイケメンは私に質問をした。



「お兄さん今おいくつなんですか?」

「2□歳です。」

「え...2□歳...?もしかして今年で2△歳...?平成×年生まれってことですか??」

「はい」

「えっあ...僕と同い年です!僕も今年2△歳なんで!」




より親近感を持たせる為に同い年と嘘を言う手法かとも勘繰ったが、流石にそれはなさそうだ。2□歳と聞いて一瞬で平成×年生まれと計算できるやつなんてそうそういないだろうから。


なんということだ...歳上じゃなかった。
眠気などもはや吹っ飛んだ。なんで俺よりそんなしっかりしてそうな見た目してるんだ。
さっき帰ってきたばっかりで、なんならシャワーも浴びたから髪びしょびしょで、半袖半ズボンで、しかも猫の毛だらけの服のまま同い年でしっかりしてそうな好青年のイケメンと話をしているこの状況が、一体どれだけ恥ずかしいことか。それを認識した私は、すぐ済むだろうと思って着替えずにドアを開けたことを酷く後悔した。


見た目が全てでないことは分かっているが、見た目はその人の誠実さを物語る側面もある。
見た目がいいから誠実であると直結するのではない。髪型を整え、爪を切り、服装はなるべく無難でいてダサくなく、汚れていないものを着こなす、などなどの、その一連の行為そのものが、他者に不快感や威圧感を与えないよう常に気を配り、努力していることを意味する。
つまり「今の私はあなたと対等にお話しする準備が整っていますよ」と暗に伝えているようなものであり、そこに「誠実そう」という印象を抱く。だから会社員はスーツを着るのだ。
全員スーツで統一した方が与える印象にそれほど差はなく、対等に渡り合える。見た目のだらしなさで相手に不快感を与えて不利益を被るくらいならば、従業員にはスーツ、または制服を着て働いて貰いたいと思うのは、組織の上層部からしてみればおそらく普通の感覚であろう。


もはや親近感など感じている場合ではなかった。イケメンという時点で私より生物学的な有利さが上であることは確かだが、かと言って自分がこんなだらしない格好をしていては、余計に「私はあなたより下でござい。」と体全体を使って表現しているようなものである。「モテる男とモテない男の見た目の違い」と題して、2人の男性が並んだ写真やイラストをネットでよく見かけるものだが、今の構図はまさしくそれだ。
私はこの時点で、2手先まで待ってやろうとした謎の余裕を後悔していた。


身の置き所もない羞恥にかられ、私が赤面するかしないかというタイミングで、イケメン新聞屋は私に更なる追い討ちをかけてくる。


つづく



次のお話→まさか自分が新聞の勧誘にのってしまうなんて その②


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