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まさか自分が新聞の勧誘にのってしまうなんて その②
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まさか自分が新聞の勧誘にのってしまうなんて その②

2021-06-17 19:11
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[前回のお話] 『まさか自分が新聞の勧誘にのってしまうなんて』その①



...


身の置き所もない羞恥にかられ、私が赤面するかしないかというタイミングで、そいつは私に更なる追い討ちをかけてくる。



「実は僕こう見えて、子供3人いるんです。」



見た目だけではなかった。
結婚して子供までいるという時点で、世間的な評価としてはますます私より信頼度が高い。


「正社員になったら給料も上がるし、厚生年金とか社会保障とかあって、いろいろ得じゃないですか。だからこのままだと家族に申し訳なくて...」


私と同い年であることを知った直後、同世代に自慢をしたかったのか、それとも単にこれもビジネストークなのかは分からない。いずれにせよ普段の私であれば、そんなことは知ったことではないといった態度を貫くのだが、何せ今は、全てのプライドをズタズタに引き裂かれようとしている、まさにその時だ。


「え〜...マジっすか...。」


私の口から思わず「マジっすか...」という言葉が出た。子供が3人いるということに対してもそうだが、なによりも、そんなことを私にひけらかしてまで新聞をとってもらおうとする、やつの"プライドの無さ"に恐れ入ったのだ。


最初にこいつを一目見た時、私は劣等感を抱いた。自分と同じくらいの年齢で、イケメンで、口達者な営業マンである。明らかに自分よりハイスペックで仕事の出来そうな人間であるからだ。その嫉妬故にそいつの口車にのってしまうことに、私の一丁前なプライドが許さなかったのだ。
「知らない好青年か、もしくは知らない美女が玄関に立っている場合の99.99%が勧誘である。」なんてセオリーは存在しない。全ては私の劣等感が導き出した偏見だ。
だから私は「怪しい」と身構えたのだ。それは一旦の判断としては間違っていなかったはずなのだが、2手先まで待とうとしたことが、私の「騙されるほどバカではない」という慢心から来る失敗であった。その直後に私はまんまと、こいつに親近感を抱いてしまったのだから。




「マジっすか...。」(お兄さん─ )




それは、身構えたからこその安堵なのだ。
人が誰かに対し、急に親近感を抱く時というのは、もともと心が通っていなかった前提である。相手を毛嫌いしているか、もしくは単に興味がなかった。そんな折に、自分との強い共通点を認知した瞬間、急に心が通じ合えるかのような期待が芽生えるのだ。
劣等感をそのまま劣等、即ち劣っていることと認められるだけの潔さが、私にはなかった。だからこそ「騙されるほどバカではない」というプライドと化して、自分の弱さを覆い隠し、警戒していたのだ。しかし、「社員になれない」という自分と近い経験を聞いてしまったが為に、自分と似ているにすぎないと安堵し、その警戒心を解いてしまった。
私のプライドという名の装甲が剥がされたのは、これが一つ目。



(お兄さん、流石に─)



そして私は、親近感を抱いた矢先に敗北を突きつけられた。同い年であることが発覚し、好青年に見えるそいつと比べ、私は対面する上での最低限の身だしなみも整っていない。相手に不快感を与えてしまっているかもしれないという羞恥。挙句結婚して子供までいるとなれば、もはや私がそいつと釣り合う点など、何も無い。
二つ目に剥がされた装甲は、会社員、社会人としてのプライドである。



(流石にそれは─)



私は長らく、勘違いをしていたようだ。
恐らく私は本来、情に流されやすく、意志の弱い人間なのかもしれない。意思を貫いてきたかのように思えたそれは、様々な装甲によって自身を覆い隠し、人との距離を隔てることによって、自分の領域をなんとか守っていたにすぎなかったのだろう。いざ装甲を剥がされて、うろたえている自分を傍から見れば、それは想像に難くない。





「流石にそれは、ずるいですよ...」





身ぐるみを剥がされた私にとっての、精一杯の悪あがきだった。
丸腰であらば、意地しかない。
どこまで足掻けるか。意地という名のプライドだ。





「ずるくないっすよっ!!(笑)」






一笑に付されて終わった。
そうだった。こいつにプライドなどないんだった。
というか今のこいつは、プライドで勝負していない。
私と違って、こいつは最初から自分の弱さをアピールしていた。つまり私のような意地どころか、「地」で挑んでいたのだ。プライドで勝負を挑んでいない相手にプライドという土俵が通用するはずもない。ましてや地の部分が強い人間に、地の弱い者の意地などでは歯が立たぬ。




だが私は、ある一つのプライドを置き去りにしていることに気がついた。

「男としてのプライド」である。


劣等感からのプライドは、せいぜい長くても培われて10年ほどの代物。ましてや社会人なんて5〜6年。脆くて当然だ。だが男としてと言うならば、私は生まれてこの方2□年間ずっと男である。その差は劣等感の2倍以上。今こそ私の男としてのプライド、男としての意地をみせるときなのだ。




(男宅にイケメンがのこのこと訪問したその落ち度...万死に値する。)




武者振るいする私に、イケメン新聞屋は最後のひと推しを迫る。


「もう、ホントに、別に今すぐじゃなくてもいいんです!なんなら来年から半年だけっていう契約も可能なので!実は...後から電話して申し込んでいただくこともできるんですけど、本音言っちゃうとそれだと会社の利益にしかならなくて、僕の実績にはならないんです。」



そう、今更手のひらを返したように断るなんて、男の名が廃る。



「分かりました。来年からでいいなら、そうします。」



─ 違う。



「ありがとうございます!!!では、すみませんがこちらにですね、シャチハタでもいいので、押して頂けませんか?」



─ やめろ...



「あ、はい、ちょっと待ってくださいね...」




─ そうじゃない!!









私の中の男は裏目に出た。それもそのはず、私は肝心なことを見落としていた。
私は男ではあるものの、今まで「男としてこうするべき」などという理念で行動した覚えもなく、男であるということに誇りなど感じてすらいないような人間である。そもそも1番最後に思い出したプライドである時点で、それを自覚すべきであった。
使ったことのない「諸刃の剣」は、ものの見事に己のみを破滅させる形をとったのである。






それまでずっと外の通路に立っていたそいつは、私が契約すると言った途端、玄関の中に身の半分ほどを乗り出した。それはつまり、「もう後戻りするなよ」という威圧、ビジネス戦略なのだろう。
そう、プライドなど使っていない。全てはやつの計算と、地の側面から来る動きである。





無念の思いに身をこわばらせつつしばらく印鑑を探していた私は、恐る恐る口を開いた。





「...すいません...印鑑...どこにしまったか忘れて...」


つづく



次のお話→まさか自分が新聞の勧誘にのってしまうなんて その③

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さっさと解約しよう。
電話一本すればいい。
違約金発生してもずっと新聞取り続けるよりはいい
とかっていても実行しないんやろうなあ
なんだかんだズルズル取り続けるんやろうなあ
疲労でメンタルやられてIQ下がってる人が営業の人間との口論なんて勝ち目ないやん
1ヶ月前
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>>1
読んでくれてありがとうございます。
まだね、続きはあるんです。
1ヶ月前
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