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第14号(2011年5月19日号)
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第14号(2011年5月19日号)

2011-05-19 12:00
    『NEWSを疑え!』第14号(2011年5月19日号)

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    【価格】1,000円/月(購読料のうち半分は、研究所の活動に対する維持会費とお考えいただき、ご理解をいただければ幸いに存じます。)
    【発行日】2011/5/19
    【発行周期】毎週月曜日、木曜日
    【次回配信予定】
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    【今回の目次】 
    ◎ストラテジック・アイ(Strategic Eye) 
    ◇◆ビンラディンを殺害したDEVGRU(SEAL6)の正体
    ◆米海軍の脆弱性を徹底して暴いたマルシンコのSEALチーム6
    ◆デルタフォースはグリーンベレーから生まれた
    ◆日本の特殊部隊(警察庁、海上保安庁、海上自衛隊、陸上自衛隊)
    ◎セキュリティ・アイ(Security Eye) 
    ・中国が尖閣諸島沖に漁業監視船を派遣する根拠
    (静岡県立大学グローバル地域センター特任助教・西恭之) 
    ◎ミリタリー・アイ(Military Eye) 
    ・米軍の脱石油戦略を知っていますか?(西恭之)
    ◎今週の言葉:SEAL
    ◎編集後記 
    ・読売は本当に誤報を訂正できるか

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    ◎ストラテジック・アイ(Strategic Eye)
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    ◇◆ビンラディンを殺害したDEVGRU(SEAL6)の正体

    国際変動研究所理事長 軍事アナリスト 小川 和久

    Q:アメリカがパキスタンで、9.11テロを首謀したアルカイダの指導者オサマ・ビンラディンを殺害しました。同国北部の街アボッタバードの潜伏先を米海軍特殊部隊SEALの対テロ部隊デブグルー(DEVGRU)が急襲し、銃撃戦の後に殺害。遺体とともに手際よく引き上げたという。デブグルーは初耳だという人も少なくないはずです。今回は、デブグルーはじめアメリカや日本の対テロ特殊部隊について教えてください。

    小川:「作戦を実行したデブグルー(DEVGRU)と呼ばれる部隊は、米海軍特殊部隊SEAL(今週の言葉参照)とイコールの存在ではなく、もともとはSEALのなかで対テロ能力を高めたチーム6という部隊です。チーム6の存在が明らかになったのは、創設者で初代隊長のリチャード・マルシンコ元中佐が上層部に疎まれて干されたあと、軍を辞めて回想録『無法戦士』を出版、ベストセラーになったのがきっかけです。部隊の素顔が詳細に暴露されたことに慌てた米海軍当局は、チーム6を「特殊戦開発群」というありふれた名前に変え、組織図のなかに埋没させたのです。DevGroupやDEVGRUというのは、企業の新製品開発チームなどに普通につけられる名前ですからね。以来、米海軍の広報官は『SEALチーム6などという部隊はどこにも存在しない』と、堂々と言えるようになったわけです」

    Q:しかし、DEVGRUは世を忍ぶ仮の名。SEALチーム6は存在し続けているわけですね?

    小川:「そうです。デブグルーは、SEALチーム6の任務と職責をほとんどそのまま受け継いでおり、そのチーム6は1980年、イランでアメリカ大使館人質救出作戦が失敗した数ヶ月後に発足しました。当時、マルシンコはペンタゴンで第2次救出作戦の計画に携わっており、そこに新たなSEAL部隊の計画を付け加えたのです。計画は承認され、マルシンコにSEALチーム6を創設する許可が下りました。レーガン大統領就任と同時にイランが人質を解放し、第2次救出作戦は行われませんでしたが、部隊は1981年1月に運用可能の状態となりました。運用開始が認められた演習は、テロリストに盗まれた核兵器を奪い返すというシナリオで、チーム6はプエルトリコの11キロ東にあるヴィエケス島に隊員56人を派遣しました。隊員たちは夜間に航空機から高高度降下・高高度開傘(HAHO)でパラシュート降下し、目標まで16キロメートル滑空しました。もちろん急襲作戦は大成功でした」

    「SEALチーム6は、本部と訓練場をバージニア州ダム・ネック艦隊戦闘訓練センターに設けました。屋内プールは工費400万ドル、ヘリポートを併設した拳銃・ライフル射撃場は310万ドルといった設置費用が公表されています。隊員は既存のSEALから募集し、船舶への乗り込みや油井の制圧など、主に海上でのテロ対策任務について訓練を受けます。あまりにも練度が高いので、隊員は映画『スター・ウォーズ』になぞらえて『ジェダイ』と呼ばれたりしました。財政や人事の管轄は海軍特殊作戦司令部ですが、作戦は統合特殊作戦司令部の指揮下で行なわれます。目的地が世界のどこであれ、出動命令から4時間以内に出撃可能です」

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    ◆米海軍の脆弱性を徹底して暴いたマルシンコのSEALチーム6

    Q:その最強チームを作ったマルシンコ氏は、なぜ軍で干されて、辞めるハメになったのですか?
    「優れた指揮官としてSEALチーム6を鍛え上げたマルシンコ中佐は1984年初め、海軍作戦本部第6室(計画・政策・作戦担当)のジェームス・ライオンズ室長(中将)から新たな命令を受けます。テロに対する海軍の脆弱性をチェックする部隊の創設です。部隊は『レッド・セル(仮想敵細胞)』と呼ばれました。マルシンコ中佐は、テンポラリー・グレードといって臨時に大佐に昇進し、その任務に従事します。本物のテロ組織のように行動し、海軍や海兵隊の基地、船舶、航空機などについて、テロ攻撃に対する備えができているかを、徹底的にチェックしたわけです」

    「レッド・セルのメンバーは偽名を用い、変装して移動し、武器を持ち込み、目標を偵察する。ホームセンターで買うか海軍基地から盗んだ材料で爆発物をこしらえる。準備が整うと、基地に脅迫電話をかけ、警戒態勢を高めてから、その裏をかいて襲撃する。テロリストが使う『なりすまし』のテクニックによって警備をかいくぐり、爆弾を仕掛ける。マルシンコとレッド・セルは、ことごとく成功しました」

    「有名なケースのひとつは1985年6月、コネティカット州ニューロンドンの弾道ミサイル原潜基地に脅迫電話をかけ、警戒レベルを高めておいて、なりすましによって侵入したものです。横須賀もそうですが、原潜が接岸しているときの岸壁には、武装した水兵が10メートルおきに配置されます。そんな警備のなか、『シャーウッドの森』と呼ばれるミサイル区画、魚雷、プロパンガスのボンベなどに模擬爆弾を仕掛けたのです。このときはGEのエンジニアになりすましたと言われていますが、原潜の弾薬庫には『爆破に成功!』と大書した垂れ幕がかけられていました」

    「もうひとつのケースは1985年9月初め、カリフォルニア州ポイント・マグー航空基地にレーガン大統領を乗せた大統領専用機エアフォースワンがやってきたときのことです。このときもレッド・セルは基地に脅迫電話をかけ、警戒レベルを高めておいて、なりすましによって入り込むのに成功しました。2人の下士官が模擬爆弾を積んだ兵器運搬車を大統領専用機の近くに移動し、運転席に発煙手榴弾を仕掛けました。警察のSWATが使う緊急用トラックにも模擬爆弾を仕掛けることに成功したので、SWATは脅迫電話の直後の段階で『10人死亡、10人負傷』したとみなされました。このときSWATは兵器運搬車に気づき、荷台にあった爆発物の処理にあたりましたが、運転席の発煙手榴弾を引っ掛けてしまい、大統領専用機は兵器運搬車とともに吹き飛んだと判定されました」

    Q:つまり、マルシンコは、やりすぎた?

    小川:「マルシンコが侵入に成功するということは、基地司令官など海軍の高級指揮官たちのメンツが丸つぶれになることです。チーム6の隊員をほかのチームから引き抜くものだから、SEALの第1~第5チームからもよく思われていなかったようです。結局、後ろ盾になっていた海軍のトップが退役したとたんに干されてしまい、軍を辞める結果になったのです」

    「私は2回、ワシントンのオフィスでマルシンコ氏に会って、電力、電話など重要インフラの防護について意見を求めたことがあります。顔一面がひげ。髪はロン毛をポニーテールに結っている。胸板はあくまでも分厚く、『沈黙の戦艦』のスティーブン・セガールをごつくした感じです。マルシンコ・グッズもあるほどの有名人ですよ。グリーン・ベレーOBのG氏と一緒にSOSテンプスという会社を作り、危機管理コンサルタントとして活躍しています。顧客は米政府、外国政府、企業などで、コンサル料は破格。オフィスからホワイトハウスまで下水道を通って行けると冗談を言っていました」

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    ◆デルタフォースはグリーンベレーから生まれた

    Q:海軍のSEALとデブグルーについてはわかりました。アメリカのテロ対策精鋭部隊といえば、陸軍のデルタフォースがあります。これはどんな部隊ですか?

    小川:「デルタフォース(米陸軍第1特殊デルタ作戦分遣隊)は1977年に発足しました。生みの親は米陸軍特殊部隊(グリーンベレー)のチャーリー・ベックウィズ大佐です。1960年代に英国陸軍特殊空挺連隊(SAS)で訓練を受けたベックウィズは、低強度紛争で非正規戦の手段となるための部隊がアメリカに必要だと考えました。部隊の任務は、テロリストと戦い、前線の背後を正確に攻撃し、情報を集めるというものです。当時のカーター政権も、軍の精鋭部隊をテロ対策専門に訓練することが理想的と考え、ベックウィズの考えが受け入れられることになりました」

    「初代デルタ隊員の多くはグリーンベレーから選抜されましたが、最初の選考課程に参加した30人の場合、7人しか残ることができませんでした。そこで、第2次募集では応募資格を陸軍の他の部隊にも広げることになりましたが、応募者60人のうち合格者は5人にとどまりました。募集段階を見ても、デルタフォースの厳しさがわかります」

    「しばしば誤解されることですが、特殊部隊イコール対テロ部隊ではありません。SEALとデブグルー、グリーンベレーとデルタフォースの関係を見てもわかるように、確かに対テロ部隊は特殊部隊から生まれていますが、両者は訓練内容や能力面でも似て非なることを知っておくべきでしょう」

    Q:デブグルーによるビンラディン殺害作戦を、改めてどう見ますか?

    小川:「やはり『殺害せよ』という命令だったのでしょう。日本人は裁判にかけるべきだと思うかもしれませんが、アメリカ人は生かしておけばやっかいのタネだと考える。水葬にしたのも聖地を作らないという判断です。要するに、9.11の報復、復讐をした。落とし前をつけた。やはり『目には目を』の世界だということです。徹底的に訓練されたアメリカの対テロ部隊に目をつけられては、ビンラディンも隠れようもなかった。同じような作戦をするマン・パワーを持つのは、英国SAS(陸軍特殊空挺連隊)、オーストラリアSAS、ドイツGSG-9(国境警備隊第9群)、フランスGIGN(国家憲兵隊介入群)、ロシアのアルファ、イスラエルのモサドくらいですが、装備品や長距離を移動して隊員を送り込む能力などを合わせて考えれば、やはりアメリカの能力が群を抜いています。また、アメリカはアフガンなどで無人機を多用していますが、それでも重要な目標を確実にヒットするには人がベストだということが、改めて証明されたと言えます」

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    ◆日本の特殊部隊(警察庁、海上保安庁、海上自衛隊、陸上自衛隊)

    Q:では、日本の特殊部隊の状況は、どうなっていますか?

    小川:「日本では、警察庁、海上保安庁という警察組織から整備が始まり、次いで海上自衛隊に軍事組織として初めての部隊が編成され、続いて陸上自衛隊が特殊戦能力を整備しました。順に見ていきましょう」

    【SAT(警察庁)】
    「日本の特殊部隊のさきがけとなったのは、警察庁の特別急襲チームSAT(Special Assault Team)です。1977年11月、バングラデシュでの日航機ハイジャック事件(ダッカ事件)などを受けて、人質救出などを目的に警視庁第6機動隊特科中隊と大阪府警第2機動隊零中隊の2個中隊で発足しました。95年6月、全日空機ハイジャック事件のとき函館空港で機内に突入し、その存在が公式に認められました」

    「1996年4月にSATとして再編成され、2007年当時から約300人で推移しています。内訳は、警視庁(3個)、大阪府警(2個)、北海道警・千葉県警・神奈川県警・愛知県警・福岡県警(各1個、1996年発足)、沖縄県警(1個、2005年発足)の11個班。各班には隊長(警視)のもと、指揮班、制圧班、狙撃支援班、技術支援班が置かれています」

    「SATは、アメリカFBIのHRT(人質救出チーム)などと共同訓練を重ねており、英国SAS(陸軍特殊空挺連隊)の兄弟組織オーストラリアSASの訓練施設『キリングハウス』(パース)で対テロ訓練を行なっているという情報もあります。2005年に北海道で行なわれた警察と陸上自衛隊の合同訓練では、北海道警SATが参加したとみられます。なお、一部の都道府県警察航空隊は、SATとの連携を想定して、ベル412EP中型ヘリに防弾板、赤外線カメラ、ワイヤーカッターなどを装備しています」

    【特殊警備隊(海上保安庁)】
    「海上保安庁の特殊警備隊SST(Special Security Team)は1996年、関西国際空港海上警備部隊(1985年創設)と輸送船警乗隊(プルトニウム輸送船護衛、1992年創設)を統合して発足したとされています。人員は約60人。選りすぐりの若手海上保安官で編成され、米海軍のSEALや陸上自衛隊第1空挺団で訓練を行っています。潜水、パラシュート降下、陸上戦闘、格闘技、ラペリング(ヘリからロープで降下する技術。陸上自衛隊は「リぺリング」と表記している)などに高い能力を備えています」

    「1999年3月の能登半島沖と佐渡島沖の不審船事件では追跡する巡視船内で待機、同年秋にも、海賊に襲われた日本企業所有の大型貨物船アロンドラ・レインボーの救出に向かう巡視船に乗り込んでいました。2000年、沖縄近海を航行中のシンガポール船籍の貨物船内で中国人船員による暴動が発生した際は、ヘリコプターから強襲して制圧しました」

    「関西空港海上保安航空基地から、固定翼機サーブ340Bで現場近くの航空基地に移動してヘリに乗り換えるか、最初からEC225LPヘリ(シュペールピューマ)で移動して、場合によっては巡視船を経由して、対象の船を急襲します。その手段には、ヘリからのロープによる降着、巡視船搭載の複合型ゴムボート(7メートル級以下のRHIB複合艇、時速50ノット)、水中スクーターなどがあります」

    【特別警備隊(海上自衛隊)】
    「海上自衛隊の特別警備隊SGT(Special Guard Team)は、米海軍のSEALをモデルとして2001年3月に発足しました。ヘリコプターと小型舟艇、潜水により艦船の制圧、敵陣地の強襲などを行います。広島県江田島に拠点を置き、人員は約70人。幹部(士官)10人と海曹(下士官)で編成されています」

    「2001年12月の奄美大島沖不審船事件では、海上自衛隊は発足したばかりのSGTの投入を準備していました。海上警備行動が発令されたとの想定で待機し、あとは首相の承認による防衛庁長官の命令を待つばかりだったといいます。このときは命令までに不審船が沈没したため、初出動は実現しませんでした。2009年3月には、ソマリア沖海賊対策第1回派遣部隊の一員として参加しています」

    【特殊作戦群(陸上自衛隊)】
    「陸上自衛隊の特殊作戦群は2004年3月に創設され、人員は約300人。2006年創立の中央即応集団(CRF)に所属しています。習志野駐屯地に本拠を置き、群長は1等陸佐。群本部、本部管理中隊、第1、第2、第3中隊、特殊作戦教育隊で編成されています。空中機動は第1ヘリ団第102飛行隊のUH-60JA及びOH-6Dを使って行ないます」

    「特殊作戦群は、バレット社製の大型狙撃銃を装備しています。これは口径12.7ミリで、装甲車やヘリコプターを目標とするときは有効射程距離2400メートル。人間を撃つときは1600メートル以内で撃ちます。ちなみに湾岸戦争のとき、1093メートルの距離でイラク軍の指揮官をヒットしたという記録があります。アメリカの特殊部隊が使っているM4カービンの操作に習熟しています」

    「ちなみに、特殊作戦群は山形県神町の第6師団で警備体制のチェックを行なったことがあります。師団長・宗像陸将の命令でしたが、このときはラーメン屋の出前持ちに『なりすまし』て駐屯地への侵入に成功し、ラーメンが入っているはずのおか持ちに仕掛けた発煙筒が火を吹き、警備担当者たちを慌てさせました」

    Q:日本も、特殊部隊の整備を進めているわけですね。格好だけは一人前に見えますが、実力はどうでしょうか?

    小川:「陸上自衛隊の特殊作戦群については、私自身、SASを派遣して指導してきたオーストラリア軍関係者から『相当よくなっている』という評価を聞きました。海上自衛隊の特別警備隊についても米海軍の評価は悪くないようです。これは、世界の特殊部隊と比べても見劣りしないということで、喜ばしい限りです。そうした評価は、毎日のように命懸けの訓練で鍛えられてきた賜物ですが、海上保安庁と警察の特殊部隊については自衛隊の特殊部隊との共同訓練、出動に際しての連携の問題を政府が調整する必要があると指摘されています」

    Q:命懸けの訓練?特殊作戦群は実弾で撃ち合っているとか。

    小川:「訓練の中身はノーコメントにしておきます(笑)。ここでは自衛隊と警察機関の特殊部隊に共通する課題を申し上げておきましょう。それは日本の特殊部隊が使っているヘリコプターの問題です。いかに隊員の練度が高くても、ヘリコプターが基本的な防弾装備しか備えていないことは、プロが外見を一瞥すればわかります。テロリストは、特殊部隊が搭乗している状態でヘリコプターを撃墜しようとします。特殊部隊のヘリは単なる輸送手段ではなく、もっとも重要な武器なのです。専用の機種を使うことは世界の常識です。特に警察機関の特殊部隊指揮官たちは、その点について政府の理解が乏しいと嘆いています」

    「今回のビンラディン殺害作戦には、4機のヘリが使われたとされています。中型ヘリMH60Kペイブホークのステルス性を備えた改良型と、タンデムローターのMH47Eチヌークが2機ずつ、どちらもSEALやデルタフォースが使うヘリです。MH60Kのうち1機は隊員を降ろした後、塀に接触して墜落し、撤収するとき爆破されました。空母から飛び立ちパキスタン領に入るあたりで空中油給したか、あるいはアフガニスタン側から回り込んできたか、どちらかのルートで侵入したのでしょう。海からは1200キロ、アフガンからは200キロですから、アフガンから飛来したとする見方が自然だと思います」

    「2機種とも日本の特殊部隊指揮官にとって垂涎の的です。ステルス改造型の詳細はわかりませんが、原型のMH60Kペイブホークは外見こそUH60ブラックホークに似ていますが、地形照合装置などの航法機器だけでなく、耐弾性でも大きく水をあけています。ブラックホークは、操縦席の脇に7.62ミリ高速ライフル弾に耐える防弾板があるだけなのに対して、ペイブホークは湾岸戦争で大量の23ミリ機関砲弾に耐えた実績があります。防弾装備で機体重量が4トンほど重くなったぶんエンジンの出力も大きく、ブラックホークの1690馬力エンジン2基に対して、3400馬力エンジン2基を搭載しているとされます。ステルス改造型ではさらに重量が数百キロ増えたといわれています。MH47Eチヌークも米陸軍や陸上自衛隊が使っているCH47Dチヌークの3000馬力エンジン2基に対して、4687馬力エンジン2基と大幅にパワーアップされています」

    「ビンラディン殺害のあと、オバマ大統領が『1500万ドルのヘリ1機を失った』と発言したとワシントンポストが報道し、国防総省関係者は困惑の表情です。『普通のブラックホークが1機500万ドルほどだというのは周知の事実で、大統領の発言で特殊部隊用ヘリの改造の中身がばれてしまうのではないか』というのですが、ステルス改造型の詳細が明るみに出るのも時間の問題かもしれません」

    (聞き手と構成・坂本 衛)

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    ◎セキュリティ・アイ(Security Eye):
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    ・中国が尖閣諸島沖に漁業監視船を派遣する根拠

    (静岡県立大学グローバル地域センター特任助教・西恭之)

     尖閣諸島領海での中国漁船衝突事件以来、周辺海域で執拗に示威航行する中国の漁業監視船や調査船に日本国民の怒りが高まっているが、日本側の国際法に対する理解不足や法制度の不備の間隙を狙い澄ましてのものだということは、意外に語られることはない。

     結論から言うなら、絶対に日本は中国の土俵に乗せられてはならない。

     中国政府の艦船が日本領海を侵犯し、直ちに退去しない場合、必ずと言ってよいほど海上保安庁の実力行使を期待する声が上がる。巡視船で不可能なら、海上自衛隊の護衛艦を出動させるべきだとする声も根強い。

     しかしながら、そのような強硬策は日本が立場を主張する際の根拠(条約、法律)と矛盾し、結果として日本の国益を損ねることになるのだ。特に法制度に関する以下の点は、押さえておくべきだろう。

     1)日本政府が領海や排他的経済水域(EEZ)に関して国際的根拠としている国連海洋法条約は、「各国政府が非商業的目的のために運航する船舶」に軍艦なみの治外法権を与えている。この種の船舶が、領海内の無害通航に関する規則に違反しても、沿岸国は退去を要求し、損害賠償を所属国に求めることしかできない。中国の漁業監視船や調査船のケースはこれに該当する。

     2)日本が領海警備の根拠法として2008年に定めた「領海等における外国船舶の航行に関する法律」も国連海洋法条約に準拠した解釈を採用、「軍艦及び各国政府が所有し又は運航する船舶であって非商業的目的のみに使用されるもの」を適用から除外している。中国の漁業監視船や調査船も適用を除外される。

     3)現行の日中漁業協定は、北緯27度以南の東シナ海の日本EEZについて棚上げしており、この海域で中国が自国漁船を取り締る権利を否定していない。中国の漁業監視船は、これを根拠に行動することができる。

     4)日本政府はこの海域を「EZ漁業法特例対象海域」に指定し、中国漁船に対して漁業関係法令を適用していない。中国漁船もまた、これを根拠として操業している。

     日本国民として非常に残念なことだが、中国政府には自国の漁業監視船の活動を日本が容認していると主張するだけの根拠がある、と考えるのが国際法的にも自然なのである。

     かりに海上保安庁の巡視船が非武装の中国公船を拿捕したり銃撃することになれば、どのように中国側が対応してくるかは明らかだ(大型の漁業監視船は旧式の23ミリ機銃2基を備えているが、尖閣周辺でカバーを掛け、ロープで厳重に固定しているのは「非武装」の意思表示と見られる)。これを幸いとして、日本の国際法違反ならびに暴挙として国際世論に訴え、最初は海監(海洋警察)の巡視船、次には海軍の軍艦を派遣、尖閣諸島問題を国連海洋法条約に規定された海上警察権の舞台から、一気に軍事力と軍事力が対峙する新たな土俵に上らせようとするだろう。日本には、これに対処できるだけの備えはない。

     日本は、いかにすればよいのか。最初に手掛けなければならないのは、法制度に関する不備を正すことである。上記の法制度の現状を踏まえ、少なくとも当該海域を日本国の「核心的利益」とする領海法、これと補完関係に位置づけられる国境法を制定して曖昧な部分を整理し、中国側の行動を規制できるようにしなければならない。

     これによって日中関係にきしみを生じようとも、動揺してはならない。領海法、国境法の制定によって初めて、日本は中国と対等の条件で外交交渉に臨むことができるのである。

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    ◎ミリタリー・アイ(Military Eye):
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    ・米軍の脱石油戦略を知っていますか?

    (静岡県立大学グローバル地域センター特任助教・西恭之)

     トモダチ作戦で日本国民に巨大な戦力展開能力を印象づけた米軍だが、米国の石油消費量全体の2%を使うことによる財政問題と輸送に伴うリスクなどを克服するため、省エネと代替燃料開発に向けた懸命の取り組みが進められている。

     深刻な輸送リスクに直面してきたのは、アフガニスタンとイラクにおける燃料輸送である。タンクローリーは武装勢力にとって格好の標的であり、車列を護衛する米兵は、戦略戦術のため
    でなく、自分の部隊が使う燃料のために死傷しているとさえ憐れまれてきた。

     イラク西部司令官のジルマー海兵隊少将は2006年夏、太陽電池と風力発電機を最優先で供給するよう、国防総省に要請した。国防総省は当時、無人機、爆発物探知器、仕掛け爆弾対策が施された新型装甲車の生産を急いでいたが、最前線における優先順位の第1位は燃料輸送に伴う人的損耗を回避することであった。

     ジルマー少将の要請は容れられなかったが、オバマ政権の発足後、米軍は脱石油の方向に大きく転換を図りつつある。

     まず、米軍の石油の半分以上を消費している空軍は、バイオ燃料と石油燃料を半分ずつ混ぜた混合燃料によって、C-17輸送機、B-52爆撃機、B-1爆撃機、A-10攻撃機、F-15戦闘機、F-22戦闘機の飛行試験を成功させた。無人偵察機グローバル・ホークについては、石炭液化油で飛行させることを試みている。さらに、小型の無人機については太陽電池で飛ばす研究も進められている。

     米軍の石油の3分の1を消費する海軍と海兵隊のほうは、装備と施設を監督する海軍省が「エネルギー安全保障・独立戦略」を推進している。

     海軍については、「緑の大艦隊」を構想として打ち上げている。2016年までに、空母打撃部隊を原子力艦、バイオ燃料ハイブリッド推進艦、バイオ燃料で飛ぶ航空機によって編成する計画だ。

     海兵隊は2025年までに1人当たりの消費燃料を半減し、エネルギー自体についても石油以外に変える計画だ。既にアフガニスタンで1個中隊(200人弱)の消費電力を太陽光でまかなう実験に成功しており、今年は大隊規模(約900人)で実験することになっている。

     国際社会から省エネの遅れを批判されがちの米国だが、最大の消費者である軍を石油エネルギーから脱却させていくことで、軍人の命と国の安全にとどまらず、スーパーパワーの座を確保しようとしていることは、もっと日本でも知られてよいだろう。

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    ◎今週の言葉:SEAL
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    ・既述の通り、アメリカ海軍の特殊部隊。陸海空のいずれからでも出撃し、いずれにおいても作戦できるので、Sea/Air/Landを略してSEALと呼ばれる。Sleep, Eat And Live it up(寝て、食って、楽しめ)の略だというジョークもある。(S・トマイチク著、小川和久監訳、西恭之訳『アメリカの対テロ部隊』並木書房)

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    ◎編集後記:
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    ・中国大使館からの招待

     2月23日、招かれて東京の中国大使館内で食事をした。招待の名目は、尖閣諸島問題でこじれた日中関係の修復。私は、いつも通り厳しい意見しか言わない、との前提で招待に応じた。

     私はこのとき、1)日本も中国とほぼ同内容の国境法と領海法を制定し、尖閣諸島については中国が表記しているのと同じ表現を使って「核心的利益」と明記する、2)尖閣諸島には陸上自衛隊の沿岸監視隊を駐屯させる、という2点について日本の世論に訴えていくつもりであり、日中間の外交は互いに国内法を整備した状態から再出発させるべきだと述べた。

     これについては、その場で公式な回答などあろうはずもないが、先方が理解を示したと思われる瞬間があった。それは、尖閣諸島周辺での漁業監視船の行動の自粛である。

     中国が新型の漁業監視船を日本の接続水域ぎりぎりで繰り返し遊弋させるたびに、日本のメディアはあたかも新型の軍艦が出現したかのように騒ぎ立てる。旧式の23ミリ機銃2基だけの漁業監視船に対して、並走する海上保安庁の1000トン級巡視船はコンピュータ照準の30ミリ機関砲を装備している。200トン級の小型巡視船も20ミリ多銃身機銃を備えている。専門家が見れば、どちらが強力かは一目瞭然だ。中国側も領有権などを主張するために漁業監視船を遊弋させるけれども、それ以上に踏み込む姿勢は見せていない。

     しかし、日本のメディアはいきり立ってやまない。世論は煽られるばかりだ。その先にどんな危険が待っているか、中国側も考えるべきだというのが、私の指摘である。

     軍事問題に疎い日本国民は、メディアに煽られて過剰な対応を海上保安庁や海上自衛隊に求めるかもしれない。万が一、交戦になった場合、一方的に中国側が撃破されたら、中国の国際的な威信は地に落ちる。国際法を振りかざして遠吠えしても無駄だ。しかも、全面的な戦争に発展することはあり得ない。どちらが損をするか、よく考えるべきだ。

     この部分だけは、中国側が真正面から受け止めた様子が雰囲気から伝わってきた。以来、尖閣諸島周辺での活動は見られない。今後を注視したい。

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