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      岡田斗司夫プレミアムブロマガ「なつぞら完全解説:アニメの演技と広瀬すず〜完全シンクロの奇跡を見よ!」
    • 2019/08/24
      岡田斗司夫プレミアムブロマガ「朝ドラ『なつぞら』完全解説〜ワンス・アポンア・タイム・イン・アニメーション」

    岡田斗司夫プレミアムブロマガ「なつぞら完全解説:労働組合の実験作品だった『太陽の王子ホルスの大冒険』」

    2019-08-22 07:001時間前
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    岡田斗司夫プレミアムブロマガ 2019/08/22

     今日は、2019/08/04配信の岡田斗司夫ゼミ「『なつぞら』特集と、『天気の子』『トイストーリー4』ネタバレ解説、ちょっと怖い“禁断の科学”の話」からハイライトをお届けします。


     岡田斗司夫ゼミ・プレミアムでは、毎週火曜は夜8時から「アニメ・マンガ夜話」生放送+講義動画を配信します。毎週日曜は夜8時から「岡田斗司夫ゼミ」を生放送。ゼミ後の放課後雑談は「岡田斗司夫ゼミ・プレミアム」のみの配信になります。またプレミアム会員は、限定放送を含むニコ生ゼミの動画およびテキスト、Webコラムやインタビュー記事、過去のイベント動画などのコンテンツをアーカイブサイトで自由にご覧いただけます。
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     8月2日金曜日の放送は、その不入りのシーンから始まります。「映画が全然ダメでした」と。
    (パネルを見せる)

    nico_190804_02712.jpg【画像】社長 ©NHK

     もうね、社長は引退して会長になったから、新しい社長になってます。新しい社長は、スーツを着ているような人なんですけども。
     そんな新しい社長から責任を問われるイッキュウさん、つまり、高畑勲は「関わったスタッフ全員の昇給とボーナスを停止します」と言われます。
     その上、「以後、映画部長、つまり、映画の起草を決める部長は、本社から出向してくる管理職になるだろう」と言われるんですね。
     つまり、これまではアニメーター達が自由に企画を作って「次は演出を誰がやる? 作画監督は誰がやる? どんな話をしようか?」というふうに、全て現場で決めさせてもらっていたけれど、そういう甘っちょろい時代は終わって、いよいよ管理職の人が「こういう作品を作りなさい。このスケジュールで進めなさい」と言う体制になる。
     「それはなぜかというと、全て君たちの責任だ」と。「君たちが思う理想の映画を会社は作らせてあげた。その結果を見てごらん? ほら、客が全然入ってない。子供が喜ぶ? ウソつけ! 子供は映画館の中を走り回ってるじゃないか。大人も寝てるじゃないか。こんな映画を作ったからには、もう以後は、こんなことは出来ませんよ?」と。
     まさに自業自得というんですかね。だから、イッキュウさんも何も言い返せないわけですね。ここでようやっと、理想の作品を作ることのリスクに、イッキュウさんは気が付きます。

     その結果、辞表願いを出して「辞めさせてください」と頭を下げます。
     この頭を下げての「辞めさせてください」というのは、もう、映画を見る世代によって、やっぱり反応が違うんですけど。
     これを「逃げる」というふうに見る人もいるんですよ。「もうこれでダメだから、逃げるだな」というふうに見てる人もいるんですけど、逆なんですよね。
     まず、社長から「関わったスタッフ全員の給料はもうこれ以上は上げないし、ボーナスも停止する」と言われたので、「私が辞めて責任を取りますので、他の人間の処分を軽くしてください」と。例えば、部長だった人を課長にするとか、作画にいた人間をどっかに飛ばすとか、そういう報復的なことはやめて、私1人の首で、みんなへの処罰は勘弁してくださいという、そういうニュアンスがあるんです。
     だから、「辞めさせてください」というふうに、頭を下げて管理職にお願いしなきゃいけないんですね。頭を下げてお願いして、自分が辞めることによって、他の人に対する処罰というのを軽くしようとしているわけです。
     という、中身の話は、まあまあ、見てりゃわかることなんですけど。
     僕が気になったのは、ここにあるキャラクターフィギュアなんですね。「おいおい、ちょっと待てよ!」と。
    (パネルを見せる)

    nico_190804_03013.jpg【画像】トラとワニ ©NHK

     ここにちゃんとトラとワニがいるんですよ。「お前らは、たしか『動物三国志』の、関羽と張飛だろ!」と(笑)。
     これ、たぶん、ドラマの中ではこれまで出てきたことがなかったんですけど、「『動物三国志』というアニメを作った」という話があったんだから、そのキャラクター人形も、NHKの小道具係の人は作ったんですよ。でも、今まで、本編内で登場させる部分がなかった。なので、せめて「東洋動画のこれまでのNo.1ヒット作」という設定もあるしということで、小道具さんがここに置いたんだと思うんですけど。
     いや、なんか、『動物三国志』のキャラクターフィギュアが見れて嬉しかったんですけど。
     実は、『なつぞら』の中で東洋動画が作っている長編劇場映画には、全て、それぞれ理由があるわけですね。
     最初に『白蛇姫』という中国の昔話のアニメを作るんですけど、これは何のために作っていたかというと、ドラマの中では東洋動画、現実の歴史では東映動画は「東洋のディズニーを目指す」と言ってたんですね。
     ディズニーというのは何かというと、「ヨーロッパ原作のおとぎ話を、アメリカでアニメーションにして、もう一度ヨーロッパに輸出する」というビジネスだったんです。当時は、アメリカ国内だけの映画として作っていては儲からないので、あえてヨーロッパに輸出することによって儲けようとしていた。この構造を「ディズニー的」と言ってたんです。
     なので、当然、東洋動画も最初は同じようにヨーロッパの童話をアニメーションにして、ヨーロッパに輸出することを考えてたんですけど。しかし、そこはもうディズニーにマーケットを取られちゃっている。
     「じゃあ、中国のお話だ!」ということで、自分達でアニメにして、アジア圏に売り出そうとしていた。これが、実際の東映動画の戦略だったんですね。
     なので、ヨーロッパ原作では勝てないので、アジア圏のマーケットを狙って『白蛇姫』を作った。
     その次の『動物三国志』というのも、同じく、アジアマーケットを狙うための中国原作のアニメです。その後の『アラジン少年とランプの魔人』というのは、中東マーケットを狙ったものだったんですけど。
     ここまでやって、東洋動画が徐々にわかってきたのは「国際的な市場で子供向けのアニメーションを作るのは、まだまだ難しい」ということだったんです。
     なぜかというと、映画館がすでに完備されていて、子供を映画館に連れて行く文化のあるアメリカやヨーロッパと違って、アジア諸国では、まだまだその段階に達してないからですね。
     「なので、今はアニメーションを作る実力を蓄えて、日本国内でのマーケットをもっと開拓しよう」ということで、そこから先の『わんこう浪士』……現実には『わんわん忠臣蔵』や、あとは『真田十勇士』……現実には『少年猿飛佐助』のことですけど。こういうふうに、国際マーケットというのを一時保留し、日本マーケットに集中するためにその時代劇モノを2つ作った。
     これが、『なつぞら』の中での東洋動画の全体戦略です。
     ここら辺は、もう、ドラマの中では説明してくれてないんですよ。
     「はい、アニメファンの皆さんはわかってくださいね?」という感じで、スタッフからサインが出てるんですけども。まあ、難しいですよね(笑)。
     今言ったような「アジア圏のための中国原作。それがダメだから日本の時代劇」というような移り変わりの中で、『神をつかんだ少年クリフ』という企画がいかに無茶だったかは、もうおわかりだと思います。
     そりゃもう、最初から当たるはずがないんですよね。
     「辞表を提出してきた。もう、俺の映画全然ダメだった。当たんなかったよ」と言うイッキュウさんを、なつは喫茶店の中で慰めます。
     「大人にも見てもらえたら、大人向けだと宣伝してもらえたら良かったんだけどね」と、ここでなつは言うんです。でも、それに対してイッキュウさんは何も返しません。
     なぜかと言うと、イッキュウさんは知ってるからですね。「この映画は大人も見てる」んですよ。
     というのは、10歳とか8歳の子供が映画館に来る時に、子供だけで来るなんてことはありえないからです。必ず、子連れで大人も来てるんですよ。
     でも、そういった大人達にも、自分の作った作品は全くアピールしなかったわけですね。だって、そんな大人達は映画館の中でグーグー寝てたわけですから。
     この「大人も見てるのにダメだった」というのをどう考えるべきかというと、まあまあ、「子供向けだと宣伝されたのが悪い」ということだと思うんですけど。
     またさっきの『オネアミスの翼 王立宇宙軍』の時の話になるんですけど。映画というのはね、思った以上に中身で勝負できないんですよ。「観る時の気持ち込みで映画」ってよく言うんですけど、宣伝って、映画の本編と同じくらい大事なんですね。
     映画を作ってる最中は「どんな方法であろうと、映画館に呼びさえしたら、中身は観た人が判断してくれる。だから、面白いものを作ればいいんだ!」というふうに、スタッフはついつい考えちゃうし、宣伝の人もそういうふうに説得してくるんですけど、それは絶対に違うんですよ。
     「こんな作品ですよ」というふうに、あらかじめ、ちゃんと宣伝しないと、みんなそういう気持ちで観てくれない。そうなると、後の世になって「ものすごく面白い!」と言われるようになる『ホルス』も、公開当時は「本当に面白くない映画」というふうになっちゃうわけですね。
     今、ちょっとコメントで流れたんですけど、『この世界の片隅に』もそうなんですよ。
     『この世界の片隅に』というのは、ものすごく慎重に、派手な宣伝を一切やってなかったんですね。なぜかと言うと、派手な宣伝をやって、そっち方向で観に行っちゃうと、あの感動がやってこないんですよ。
     なので、宣伝というのは本当に映画と同じくらい大事なんです。だからこそ、『かぐや姫の物語』の時に高畑勲は怒ったわけですね。
     『かぐや姫』の時、高畑勲は「これは“かぐや姫の物語”なんです。だから、かぐや姫の物語だけを観に来てください」と、すごく抑えた宣伝をするはずだったのに、鈴木敏夫が勝手に「かぐや姫の罪と罰。かぐや姫はなぜ地球に追放されたのか?」という、高畑勲が「それだけはやめてくれ」と言ってた宣伝をやっちゃったわけですね。
     結果、映画はヒットしたんですけど。観る人はみんな「かぐや姫の罪と罰ってなんだ?」という目線で観に来てしまった。なので、高畑勲としては、それはもう本当に「生涯、鈴木敏夫を許さない!」と思ったくらい、怒ったそうなんですけど。
     それくらい、宣伝というのは大事だったわけですね。

     おまけに、歴史的な経緯で話すと、実は『太陽の王子 ホルスの大冒険』も、大人向けの宣伝はちゃんとやってたんですよ。まあ、なんとツラいことに。
     というのも、『ホルス』というのは、実質的には東映動画の作品というよりは、東映動画労働組合の作品だったんですね。
     実際は、スケジュールにしても予算にしても、会社のトップと交渉した上で、東映の労働組合が決めた予算、労働組合が決めたスケジュールの中でお話を作ったんですよ。
     それはなぜかと言うと、当時の東映の労働組合というのは、すごくパワーを持っていたのと同時に「自分達で作品を管理しよう」という企みもあったからなんですね。
     「会社と戦って自分達の権利を通す」というだけではなく、それと同じくらい「自分達がちゃんと管理して、面白い作品を作って儲けよう」という意識もちゃんとあったんですよ。
     労働組合のみんなが集まる総会の中で「本当に良いものを作ればヒットするはずだ!」という結論を全員が共有していた。そういう意見が大多数だったので、その実験作品として『太陽の王子 ホルス』というのは作られたそうです。
     これ、大塚さんの『作画汗まみれ』という本に書いてあって、僕は結構ビックリしたんですけど。
    (本を見せる)

    nico_190804_03738.jpg【画像】作画汗まみれ

     労働組合の実験作品として作ったものなので、実は作品の宣伝や動員も、労働組合がいろいろ手を尽くしてくれていた。だから、「これは大人向けの作品だ」ということまで含めて、労働組合の組合員達は宣伝してくれたし、チケットも配ってくれた。
     でも、ダメだったわけです。そこまでやっても『ホルス』というのは、ヒットしなかった。
     なので、労働組合がそれまで信じていたコンセプト、「本当に良いものを作れば、観客はやってくるんだ」という大前提が崩れてしまって、労働組合は、この後、徐々に力を失っていき、『ホルス』のような作品は二度と作れなくなっていくという、こういう大きい悲劇が待っていたわけです。
     でも、『なつぞら』の中では「『クリフ』がダメだったから、長編映画はもう作れない」みたいに描かれてるんですけど。
     この『作画汗まみれ』の中で、大塚康生さんは「実際には、東映動画側もオリジナルの長編アニメは『ホルス』が最後だと、最初から言ってた」と証言しているんですね。
     「もう、長編作品はできない。以後はマンガ原作のものをやるか、テレビの方に集中する」というふうに、管理部の方は最初から言ってた、と。だから、最初から、俺達は確信犯的に好きなことをやるつもりだった。会社の言うことは聞かずに、自分達が本当に良いと思う作品を、これで長編アニメは打ち切りだから、一生に1回だけ、自分達の好きなものをやってやれというつもりでやった、と。
     だから、『なつぞら』のドラマの中で描かれているように、アニメーター達というのは無力で、会社の言いなりになるしかないという存在ではなかったんです。もっとしたたかだったんですよ。
     「これで最後なんだったら、予算とか全部取っ払って、自分達の好きなことをやってやれ!」という大実験をやって、その結果、ボロ負けしたという。そういう、アニメーターの方もしたたかだったというところが面白かったですね。


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  • 岡田斗司夫プレミアムブロマガ「なつぞら完全解説:高畑勲のすごさと、それでも『ホルス』がヒットしなかった理由とは?」

    2019-08-21 07:00
    216pt

    岡田斗司夫プレミアムブロマガ 2019/08/21

     今日は、2019/08/04配信の岡田斗司夫ゼミ「『なつぞら』特集と、『天気の子』『トイストーリー4』ネタバレ解説、ちょっと怖い“禁断の科学”の話」からハイライトをお届けします。


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     7月31日水曜日、ついに『太陽の王子ホルス』は始動します。
     ドラマ内では『神をつかんだ少年クリフ』というタイトルになっています。よくわからないタイトルですよね。
     なぜ「神をつかんだ」なのかというと。これって、わりと良い意味のように聞こえるんですけど、この「神」というのは、どうも死神らしくて。
     だからといって「死神をつかんだ少年」というのが、どういう意味なのかも、よくわかりにくいんですけど。
     制作のスケジュールは遅れに遅れて、夏になっても、ドラマの中の一番の悪役であり、おまけにヒロインになるはずのキアラという女の子のキャラクターデザインが決まらないんですね。
     なつも、キアラのデザイン案をいっぱい描くんですけど、全然決まらない。
     これも、歴史通りです。『太陽の王子ホルス』でも、主人公なつのモデルになった奥山玲子や、宮崎駿、あとはまゆゆのモデルになった大田朱美まで、みんなでヒルダを描いたんだけど、この全員がボツをくらったんですね。
    (パネルを見せる)

    nico_190804_01159.jpg【画像】ヒルダ案1

     例えば、奥山玲子なんて、上手いんですよ。この2つのヒルダが、奥山玲子が描いたバージョンなんですけど。「悲しみをたたえた感じ」というのが十分出てると思うんですけど、高畑勲にとっては、これでもダメ。

    nico_190804_01231.jpg【画像】ヒルダ案2

     宮崎駿なんて、もう、いろんなパターン描いてるんですけど、全てダメなんですね。
    (パネルを見せる)

    nico_190804_01306.jpg【画像】ヒルダ案3

     これ、もう全部、宮崎駿のデザインなんですけど。宮崎駿ね、実はこういうムック本(『ジブリ・ロマンアルバム 太陽の王子 ホルスの大冒険』徳間書店)で、3ページ以上、宮崎駿のデザインだけが載ってるページがあるくらい描いてるから、「どんだけ描いてんだ?」って思うんですけど(笑)。
     この鼻筋がスラッと通っているのは、ロシアのアニメーションの『雪の女王』の影響だと思います。そういう人形劇っぽいようなキャラクターも描いてるんですけど、これまたボツをくらいました。
     ここに「(大田朱美)」って書いてありますよね? この大田朱美というのがドラマでまゆゆが演じている、後に宮崎駿の嫁さんになる人のデザインです。やっぱり、絵が上手いんですよ。しかし、やっぱりこれも全部ボツをくらってしまうんですね。
     この大田朱美版にしても、奥山玲子版にしても、ちゃんと悲しみの表現はできていると思うんですけど、それでもダメと言われるんですね。十分に素晴らしいんですけど、高畑勲はOKを出さなかった。
     スケジュールは遅れに遅れて、ついに仲さん、森康二が心配して、声を掛けるんだけど。
     それに対して「仲さんのアニメーションは古い。かわいい動物が出てくるだけの古臭いアニメーションだ」と思っている高畑勲は「仲さんは口を出さないでください。自分達の好きにさせてください。責任は僕が取ります」と、後の伏線になるようなセリフを言っちゃうんですね。

     しかし、結局、キアラというキャラクターデザインの決定版を出したのは、ドラマ内ではイッキュウさんと呼ばれている演出家・高畑勲が「古い」とか「あの人の言う通りにしていたら、新しいものが出来ない」と言い捨てていた仲さんのデザインでした。
     これは、やっぱり、あまりにも面白い展開だったので、毎日新聞のネット版にも記事になって載っていたんですよね。
    (パネルを見せる)

    nico_190804_01427.jpg【画像】毎日新聞

    仲の描いた「キアラ」は小田部羊一さん作だった。「当初のような絵は描けない」も…いきさつは?


     ということで、もう、ニュースにまでなってるんですけど。
     ちなみに、この回は、ちゃんと『なつぞら』のオープニングでも、「イラスト制作:小田部羊一」というクレジットが、わざわざこのためだけに出ているんですね。
    (パネルを見せる)

    nico_190804_01440.jpg【画像】クレジット ©NHK

     ドラマ内でのデザイン原稿は、アニメーション時代考証を担当している小田部羊一さんが描いたんですけど。
     それくらい、このキアラ、現実の『ホルス』の中ではヒルダというキャラクターはすごかったんですね。
     では、「どんなにすごかったのか?」というと、こんな証言が残っています。

    「東京アニメーション同好会」(アニドウ)主宰 なみきたかし


    『太陽の王子 ホルスの大冒険』を公開時に観た僕の世代は、みんなヒルダにイカレてしまった。
    それは、かわいいとか萌えとかいうものとは断じて違う。二次元の作られたものではなく、考えて行動する、そして主張を持った1人の人間を感じて、忘れられない実在の人物となったものなのだ。


    宮崎駿


    僕らが想像もしていなかったものを、高畑勲はやろうとしていて、それに応えたのは、森康二(さん)しかいなかったんですね。ヒルダが(雪狼に襲われるシーンで)フレップという子供と熊を自分の首飾りを与えて逃して見送る姿を見た時は、凍りつきましたからね。
    こんな映画を作っていたんだと。初めて観たって感じでね。ショックでした。


     これが、実際の『太陽の王子 ホルスの大冒険』のヒルダです。
    (パネルを見せる)

    nico_190804_01853.jpg【画像】ヒルダ ©東映アニメーション

     自分が持っている、魔除けの首飾りを、子供と小さい動物に与えて、自分のもとに氷の狼がこれから襲い掛かろうとしているにも関わらず、子供が飛んで行く後ろ姿を見守っている。
     「この時のヒルダの表情というのは、もう森康二しか描けなかった」というふうに宮崎駿は言ってるんですけども。
     同時に「こういうキャラクターというものを、アニメーションで描けるんだ! こういう見せ方ができるんだ!」ということに、すごいショックを受けたそうです。
     このヒルダの描き方は、全て実験だったそうです。
     例えば「虚ろな目」。アニメーションとか漫画でよくやるんですけど、何か気持ちが入っていない、虚ろな目を表現する時、目を中央より広げて描く。
     逆に言えば、意思の強いキャラを描く時は、目を中央に寄せて描く。

    「黒目だけ?」(コメント)

     違います。「眼球の位置自体を」なんですよ。
     眼球の位置自体を外側に広げて描くと、何かこう、ボンヤリした、虚ろな目になるんですね。反対に、眼球の位置を、やや中心に寄せて描くと、強いキャラになる。
     こういうのは、この頃の実験で確かめられたんですね。森康二と高畑勲が何回も何回も話し合って、情報を交換して、実験して実験して、徐々に徐々に確かめていったことなんです。

     次に、このヒルダの「顔の上半分だけを見ると目は何も語っていないけど、下半分だけを見ると口元が笑っている」という表情。
     これも、それまでのアニメーションの表現では絶対にやってなかったことなんですね。
     これは、一度、テレビアニメなどをやって、リミテッドアニメと呼ばれる「顔の輪郭とか目とか口とかをバラバラに描く」というところから、逆説的に発見した方法なんですね。
     つまり、目の表情と口の表情をあえて別の表現で描く。「目は怒っていても、口は笑っている」とか、そういうことをやることによって、なんとも言いようのない、不思議な表情が作れるということを、高畑勲は発見していたんです。
     そして、それをこのヒルダの中で積極的に応用していった。そうやって完成形に近づけていったわけですね。

     これは高畑勲本人の証言です。


    吹雪のシーンの森さんの作画について、ぼくは別のところに書いたのでもう繰り返す事はしないが、そのパトスの表現はまさに鬼気迫るものがあったと自分の作品であっても恥ずかし気もなく断言したい。
    森さんの描くヒルダは他の誰のともちがっていた。森さんのヒルダだけが本当のヒルダだった。
    前にも書いたが、首つきからしてちがっていた。森さんからのおそろしいばかりのエネルギーを全身にみなぎらせていた。


     この、首のつく位置から何から全部違ったので、高畑勲にとっては、宮崎が描こうが大塚康生が描こうが、他の誰が描こうが、それはもう、ヒルダではなかったというわけですね。

     しかし、こういうのって『太陽の王子 ホルスの大冒険』がちゃんと完成したから言えることなんですよね。
     このドラマの中でも描かれているんですけど、普通、演出家が「僕の頭の中にあるヒルダは、もっと別のものだ! もっとすごいヒルダが歩いているはずなんです!」と言ってデザインをボツにしたら、アニメーターは怒るに決まってるんですよね。

     「演出の頭の中を覗いて描けと言うのか!?」と。これ、よくアニメーターと演出家の間で言い合いになる問題で。
     例えば、これは僕が実際に目にしたことなんですけど、『オネアミスの翼 王立宇宙軍』というアニメを作っている時に、主人公のシロツグ・ラーダットというキャラクターのデザインが、本当になかなか決まらなかったんですね。
     主役のデザインが決まらないと、他の脇役のキャラクターたちを先に進められないんですよ。脇役を先に進めちゃうと、主役で使いそうなパーツを使うかもわからないから。
     なので、まず、主役のデザインを決めて、それに対して太ってるとか痩せてるとか、顎が張ってる、イケメンみたいに、他のキャラクターというのを決めるから、まず、主役を決めなきゃいけない。
     つまり、『なつぞら』と全く同じ状況だったんですよ。
     山賀博之というのは、絵が描けない監督であって、貞本義行はものすごく絵が上手い。その貞本義行に対して、いろんな主人公のキャラクター案を伝えるんですけど、それは全て口の説明でしかできないわけですよね。
     山賀も「そうではなくて、もっと力強く! ……いや、力強くといっても、やっぱり所詮は現代っ子だから、そんなにイケイケのキャラクターではなくて!」ということを、いっぱい、いっぱい説明するんですよ。
     それに対して貞本は、描いて見せるしかないんです。で、1回目、2回目、3回目までは、まあ、黙って描くんですけど、4回目、5回目くらいになってきたら、本人としてはこれしかないというデザインを毎回描いてるわけだから、「そんなことを言うんだったら、あなたが描いてくださいよ!」と。
     その結果、「いや、俺は描けないから!」という言い合いになるわけです。
     さて、そんな無限に意味のない言い合いをしている中で、ある時、山賀監督が、急に貞本義行にOKを出したんですよ。「あっ! これです、これです! これでお願いします!」と。まあまあ、無事に済んだんですけど。
     その日の夜、みんなが帰った後で、僕と貞本と、あと何人かだけが残っていた時に、貞本が「岡田さん、気が付きましたか?」って言うんです。
     「何?」と聞き返すと、貞本義行は「あれ、山賀さんに似せて描いたんですよ。何回も何回もやり直させられててわかったんですけど、結局、あれは自分を描いてほしかったんですよね。だから、山賀さんの顔の中のパーツをいくつか入れてみたら、1発でOKが出ました。やっぱりって思いました」と。
     こんなふうに、演出家が「俺の中にはイメージがあるんだ!」と言う時というのは、実は、具体的な絵がある場合が多いんですよ。
     でも、それをそのまま描いて欲しいわけじゃなくて、それを超えるものを描いて欲しいんですね。
     貞本は、意地悪にも、山賀に気付かれないように、山賀と同じ顔を描いたんですよね。その結果、山賀が1発でOKを出したので、周りにいる飯田君とか、いろんなアニメーターがニヤニヤしながら「ああ、やっぱりそうだった」なんて思うという、そういう話があったんですけど(笑)。
     だから、たぶん、このドラマの中でも、イッキュウさんには自分の中にイメージがあったんですよ。
     それは、子供の頃に初めて好きになった女の子かもわからない。そういったイメージはあるんだけど。
     でも、それをそのまま描いてほしいわけじゃないんですね。その子の写真を持ってきて「こういうふうに描いてくれ」と言うんではなくて、「それを超える何かを描いてほしい」と思っていたんだと思います。
     このヒルダ、というか、キアラのキャラクターを決める下りは、あまりにリアルで、ちょっとビックリしました。

     あとは「カット割りでアクションをごまかさない」という話があって、これにも僕はビックリしたんですけども。
     これは、『クリフ』の作画に入ってからのシーンなんですけど。
    (パネルを見せる)

    nico_190804_02249.jpg【画像】絵コンテ ©NHK

     クリフの絵コンテがあって、その上に、この絵コンテを元に大塚康生が描いた原画が乗っている。
     これは「この原画ではダメだ」って言ってるシーンなんですね。

     では、何がダメなのかと言うと。わかりやすく、絵コンテの部分をアップにしたものを作ってみました。
    (パネルを見せる)

    nico_190804_02308.jpg【画像】絵コンテアップ ©NHK

     もう本当に、NHKのドラマに映っていたものを拡大しただけなので、ちょっと見にくいかもわからないんですけど。これ、わかりますか?
     絵コンテ上で「カット220」「221」「222」と、1コマずつ続いていた後で「カット223」だけが、ザーッと4コマも続いているんですね。
     これ、どういう意味かというと、「この第223カットは、延々と長いカットだ」ということなんですね。主人公のクリフが剣を振りかぶって悪魔と戦うシーンなんですけど、その周りをカメラがずーっと回り込んでいるんですよ。
     コンテに書かれた指示をよく見てみると「送り込みフォロー」って書いてあるんですよ。つまり、正面から剣を振り下ろすクリフに対して、最初は正面にあったカメラが、クリフの後ろに回り込む。そうやって悪魔と剣を戦わせている様子を丸々1カット描け」ということなんですね。
     ところが、それをすると作画的にあまりにも大変だから、ついつい大塚康生は、カットを勝手に割って、クリフのクローズアップで、ちょっと逃げようとしたんですね。
     これは見せ場なんですけど、確かに1カットで描くと緊張感が出るし、大人は「おっ!」と思うですけど、子供は、ロングショットでの戦いになってしまうので、退屈しちゃうんですよ。子供としては、やっぱり顔のクローズアップがあって、表情が見えた方が安心するんですね。
     だから、今、『太陽の王子 ホルスの大冒険』をBlu-rayなんかで僕らが見た場合、40、50を過ぎてから見ると、あまりにもすごくてビックリするんですけど。子供の頃に見た時は……僕は中学生の時に見たんですけども、確かに面白くなかったんです。小学生、中学生くらいには、よく動きというのがわからないから、「なんか、退屈で説教くせえ話だな」と思ってたんですけど。
     今、見るともう本当にビックリするくらいすごいアニメなんですけどね。確かに、こういうカットを割るということをやってないがゆえの迫力というのは、存分に出ているアニメです。

     さて、8月1日の木曜日の放送で、昭和41年の夏になり、『神をつかんだ少年クリフ』は、やっと完成しました。
    (パネルを見せる)

    nico_190804_02544.jpg【画像】クリフポスター

     誤解のないように言っておきますけども、左側が『神をつかんだ少年クリフ』のポスターです。右側がそのモデルになった『太陽の王子 ホルスの大冒険』なんですけど。まあ、かなり似てます。
     この部分に赤い惹き文句があるんです。ちょっとこれ読みにくいんですけども、拡大して読むと「立ち向かえ。クリフよ、君は強い」って書いてあるんですね。
     「君は強い」って変なコピーだなと思ったんですけど。『太陽の王子ホルス』は「ホルスは強い、強いんだ」っていう、もっと変なコピーなんですよね(笑)。
     「ここまでパロディにしなくてもいいのに!」って。「NHKの美術班、どんだけ遊ぶんだ!?」っていう。遊びすぎですよ。もう本当に色々やってくれてるんですけど(笑)。
     「ホルスは強い、強いんだ」っていうのも「そのコピーなんだ!?」って思うんですけど。『クリフ』では、それにピッタリ合わせてきてるというのが面白かったです。
     しかし、この『クリフ』という映画は、東洋動画、始まって以来の不入り。まあまあ、お客さんが全然入らなかったわけですね。
     「イッキュウさんの初監督漫画映画は大失敗しました」というナレーションを、わざわざウッチャンが読みあげるくらいの不入りでした。


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  • 岡田斗司夫プレミアムブロマガ「今日のニコ生は、岡田斗司夫マンガ・アニメ夜話「ガンダム完全講義〜第21回」です!」

    2019-08-20 07:00
    216pt

    岡田斗司夫プレミアムブロマガ 2019/08/20

     今日は、岡田斗司夫のコンテンツ情報をお届けします。


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    今日の岡田斗司夫マンガ・アニメ夜話は
    8月20日(火) 20:00~ 「機動戦士ガンダム完全講義〜第21回 

    ニコ生テキスト全文公開

     2019/08/06配信の岡田斗司夫マンガ・アニメ夜話テキスト全文をアーカイブサイトで公開中!

    のびのびとした戦闘シーンが続く第9話後半

     岡田斗司夫のガンダム完全講座、今日は8月6日です。

     というわけで、前回は「ガルマの波状攻撃を受けたホワイトベースなんだけど、アムロは拗ねて出撃しない」というところまでお伝えしました。
     例の「殴ったね!?」という有名なセリフのシーンで、「殴ってなぜ悪い?」って、ブライトさんが大げさなポーズで言うやつですね。しかし、殴られたアムロが「もう乗ってやるもんか!」と言うと、「情けないこと言わないで!」と、フラウがドスのきいた声で怒鳴るという。
     そんな怒涛のドラマの最中、ホワイトベースがグラグラと揺れて、ガルマの攻撃が一層激しくなったという、まあ本当に、エラいことになっている、というところまでを説明しました。
     今日は、そこから先の「『翔べ!ガンダム』というエピソードは、前半でギューッと圧縮された分、後半はのびのびとした戦闘シーンが続く」ということで、解説の後半をお届けします。
     それでは、よろしくお願いします。

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