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  • オンリー☆ローリー!〈2〉 Vol.6

    2014-02-10 18:00
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    「な、ななな…… 崇城さん?」
     ピタッと硬直したのも一瞬のこと、崇城はガラガラを放りだしてうがーっと叫んだ。
    「どうして深見くんがここにいるのよ! メルティも!」
    「なんてことだ、いいんちょは出産経験があったのか! 君を孕ませた男は誰だい?」
    「私の子なわけないでしょうが! こっちの質問に答えなさいよ! まさか一本杉さんが連れてきたの?」
    「おーおー、あんまり怒鳴ると泣いちまうぞ」
     ニヤニヤ笑ってからかう一本杉だが、崇城はそれ以上感情を高ぶらせることなく、慌てたように赤ん坊をよしよしとあやした。
     ……一週間ぶりの崇城の姿を、あらためて眺める。
     カジュアルTシャツ&ジーパンという身軽な服装。背には子守帯にくくりつけられた乳児が。
     修行のためにアジトに戻ったと聞いて、きっとピリピリした空気をまとわせてるんだろうと思ったが、とても微笑ましかった。そしてこの上なく奇妙な光景だった。
    「つーか嬢ちゃん、俺らが近づいてくるのに気がつかなかったのか」
    「こ、この子の世話に気を取られて」
    「それで……誰の子なの?」
    「上司よ。修行の合間に面倒を見てやってくれって頼まれて……」
    「そ、そっか。IMPOも家庭的なところがあるんだね」
     誰であろうと社会から隔絶されては生きられないとメルティは言った。
     苛烈な魔法戦士の集団である彼女たちも……恋をして家庭を築く。当たり前のことのはずが、妙に印象深かった。
    「で、深見くんとメルティはどうしてここに来たの? いいかげんに答えなさいよ」
    「零次のこと、IMPOじゅうで話題になってるんだろ? だからこっちから紹介してあげようと思ってね。大五郎は好意的に出迎えてくれたよ」
    「……メルティとは昔からの知り合いと聞いてますけど、勝手に招き入れるなんて」
    「まー固いこと言うな。あんまキリキリしてっと、この自慢の巨乳がしぼむぞ?」
     そう言ったか言わないかのうちに、一本杉は崇城の背後に回って、立派なふたつの膨らみを鷲掴みにしていた。
    「この変態!」
     即座に右腕に炎の魔法剣を出現させ、本気で殺す気としか思えない勢いで攻撃する。
     しかし一本杉は次の瞬間には、零次の隣に立っていた。
     まるっきり、見えなかった。テレポートしたとしか思えない速さに零次は戦慄する。
    「遅い遅い。そんなだからメルティにやられるんだよ。もっと精進しな」
    「~~~~~!」
     ……仲間にまでこんな扱いをされているのか。零次はさすがに崇城が不憫になってきた。いや、この好色老人だけが特別なのだと信じたい。
     しかし自分のなすべきこともわかってきた。
     崇城の味方になってやれるのは、この深見零次しかいない! とにかくなんでもいいから彼女を元気づけなくてはならない。
    「あのさ、崇城さん。君が学校に来なくなって気がかりだったんだけどさ、なんでもなさそうでよかったよ。クラスメイトたちも君を心配してるけど、納得いくまで修行をしてればいいんじゃないかな」
    「……ふん。もうあの学校に戻ることはないわ。みんなには適当に伝えておいてちょうだい」
    「わかった。みんな寂しがるけど僕は君を応援……」
     そこまで言いかけて、はたと気づいた。
     崇城が学校に来てくれないと、会うことができないではないか?
     困る。めちゃくちゃ困る。
     ここに来れば会えないことはないと思うが、家から遠いし入れてくれるとは限らないし、何より戦士としての崇城ではなく日常の姿の崇城を見ていたいのだ。
    「いや、やっぱり学校に来るべきじゃないかな!」
    「なによ、言ってることが全然違うじゃない」
    「リラックスできる時間も大事だよ! 修行ばかりじゃ疲れるだろ? 学校なら仕事のことも忘れられるはずだし」
    「冗談じゃないわ! この極悪な魔女の近くにいてリラックスできると思うの?」
     やはり例の事件のせいで、崇城はいたく傷ついているようだった。
     自分の実力に一定の自信がつくまで、ひとり黙々と鍛えていたいのだろう。その意思は尊重したい。しかし会えなくなってしまうのなら話は別だ。
    「と、とにかく引きこもりはダメだ! 社会性が失われる!」
    「引きこもりじゃないわよ! だいたいなんであなたが私に口出しするわけ?」
     双方ヒートアップしかけたところで、赤ん坊が盛大な泣き声を上げた。火が着いたようにとはこのことで、部屋中にわんわんと反響する。
    「バカ! 泣いちゃったじゃない!」
    「ええ、僕のせい?」
    「あなたたちがいると面倒見られないわ! もう帰ってよ!」
    「そうだ大五郎、これお土産のミルフィーユ。みんなで食べなよ」
    「おう、ありがとうよ」
     まるで相手にしてもらえてなかった。
     こんな風に軽くあしらわれるのも、すべては実力差があるからだ。
     その差を少しでも縮めるべく、崇城は努力をしている。しかしそれだけに時間を費やしていいのか、疑問に思ってしまう……。
  • オンリー☆ローリー!〈2〉 Vol.5

    2014-02-03 18:00
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     エントランスは殺風景だった。一般企業のようにフロントなどあるわけがない。ややくすんだ白い壁と天井で構成された手広な空間が広がっていた。奥の方に階段とエレベーターが見える。
     そこまでは別段どうということもない、ある程度は予想された風景。
     しかし空間の中心にただひとり――油断のならない目をした小柄な老人がたたずんでいるのは、得も言われぬ奇妙な空気を醸し出していた。
    「おや、君がひとりで出迎えてくれたのか」
    「お前さんにしては珍しく、土産を持ってきたみたいだからな」
     老人の視線が零次に移る。
     土産――とはメルティが買ってきた洋菓子のことではあるまい。緊張感と警戒を最大限に引き上げる零次に、彼は口端をわずかだけ持ち上げて笑う。
    「そう怖がるな。取って食いやしねえよ」
    「安心して、零次。君を取って食えるのは私だけだから☆」
     いちいちツッコミを入れる気力もなかった。
    「さて、紹介するよ。警視長の一本杉大五郎。私が会いに来た知人っていうのは彼のことさ」
    「け、警視長って……じゃあもしかして、ここのトップ?」
    「数年前まではな。今は後進に譲ってのんびりさせてもらってる」
     値踏みするように零次を見つめる老体の存在感は、メルティに劣らず不気味だった。
     皺だらけの顔に薄い白髪、やや曲がった背中。どう少なく見積もっても八十歳は超えている。それでいて眼光だけは若者のように鋭利だった。なぜかアロハシャツというのも得体の知れなさに拍車をかけている。
    「大五郎はIMPO結成当初からのメンバーでね。もう五十年以上の付き合いになる。同期のほとんどは戦死したか、寄る年波や傷の後遺症に勝てず引退したんだけどね。こいつだけが今でもピンピンしているんだ」
    「俺だってもう半分引退の身だぜ?」
    「どうだかねえ。今の支部長を相変わらず子供扱いしているんだろ」
    「ま、こんなところで立ち話もなんだ。茶ぁでも飲みながら話そうや」
     一本杉はゆったりした足取りでエレベーターに先導する。歴戦の戦士であろう男の背中はあまりに小さい。何も知らない人間が見れば、孫たちを案内する好々爺としか思われないだろう。
    「名前、深見零次だったか?」
     振り返らないまま一本杉は問いかける。
    「……やっぱり僕のこと、IMPOじゅうに知れ渡ってるんですか」
    「まったくご愁傷様だな。よりにもよってこの魔女に捕まっちまうとは。だが感謝してるぜ。お前さんのおかげで、メルティの秘密が明らかになったんだからな」
    「そんな感謝されても、嬉しくないです」
    「はっは! だがな坊主、メルティと一緒にいれば、とりあえず飽きることはないからな。いつか魔法が身近にある生活を、楽しいと思えるようになる。どんな状況だろうと、人生を楽しもうって気概を忘れちゃいけねえ」
     メルティと似たようなことを言う。他人事だからか、それとも老境に達すれば誰でもこのような価値観を持つようになるのか。
    「で、今日はこの坊主を紹介しに来ただけか?」
    「私がここに遊びや冷やかし以外で来たことないだろ?」
    「そりゃそうだな」
    「あの! 崇城さんはここにいるんでしょう? ……会うことはできませんか」
    「ほう? お前さんはお前さんで、目的があって来たわけか。あの乳に惚れたか?」
     途端に、問答無用で引いてしまうほど好色な顔になった。
    「いつも揉ませてもらってるが、あれはまだまだ成長する余地がある。実に楽しみだ」
    「なっ……ななな?」
    「大五郎はセクハラが趣味なんだよ。あんなだらしない肉はいっそ握りつぶしちゃえばいいと思うんだけどね」
     妙な関係ではないことにホッとする。崇城をセクハラしまくっているなどという事実は到底看過できない……と言いたいところだが、非力な自分に何ができるわけもない。
    「メルティも本当なら、揉みがいのある女に成長しただろうに。お前さんの親父はもったいないことをしたぜ。あと十年、不老長寿の魔法を編み出すのが遅れていればな」
    「もしそうなっていたら、ロリの魅力に気づくことは永遠になかっただろう。そんなIFに興味はないよ」
     四階に到着したところで、一本杉は立ち止まる。
    「んじゃ、朱美嬢ちゃんも誘ってやるよ。嫌とは言うまい」
    「……崇城さんの様子、どうなんですか。先生を監視する任務を放棄してまで、ここに戻った理由は。鍛え直すためとか先生は言うんですけど」
    「それでビンゴだ。嬢ちゃんは修行に集中したいって願い出て、了承されたのさ。メルティにこっぴどくやられたのが、相当に応えたらしいな。まあ別のことも指示されているんだが」
     エントランスと同じく殺風景な廊下をしばらく進むと、「専用休憩室」とプレートが掲げられた扉の前まで来た。誰かが専用に使う休憩室なのだろうか、そう思っていると、一本杉がすぐに扉を開け放つ。
    「邪魔するぜ」
     ともかく久しぶりに会える。零次の体を支配していた緊張感は、一気に喜びに塗り変わろうとしていた。
     畳が敷き詰められ、テーブルや棚が配置され、廊下よりも生活感に満ちた部屋。
     その中で崇城朱美は――。
    「え」
     赤ん坊を背負ってガラガラを振っていた。
  • オンリー☆ローリー!〈2〉 Vol.4

    2014-01-27 18:00
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    「IMPO……日本支部?」
    「そ。あの組織についてはどこまで理解してる?」
    「魔法を使って犯罪を働く連中を成敗する……くらいのことしか」
    「じゃあ、道すがら説明しようか」
     メルティは駅の方向へ歩き出す。当然、周囲が自分たちの会話を気にかけないような結界魔法をすでに広げている。
     ――国際魔法警察機構、International Magic Police Organization。略してIMPOは一九六〇年代に結成された。
     それ以前にも魔法犯罪を取り締まる自主団体は各地に存在したが、「世界的に通用する戦士の集団を作る」という理念を掲げ、これらをひとつにまとめることになった。名称は本物の警察組織である国際刑事警察機構、ICPOを真似たのだ。権威付けにはおおいに役立っただろうとメルティは評する。
     IMPOは各国にひとつ以上の支部を持ち、ヨーロッパの本部や他国の支部との連絡網を形成する。事が起これば構成員に命令を飛ばし、迅速に処理に当たらせる。
     彼らは九つの階級に分かれているという。崇城は警部補――下から三つめ。一般人の目から見れば充分すぎるほど人知を越えた存在だが、全体では決して強くはないのだろう。崇城自身、まだ修行が足りないと言っていた。
     彼女以上の強さの戦士が、ごろごろとひしめいている。
     つまりこれから自分が向かう先は、猛獣の巣窟と大差ないのではないか。零次はにわかに震えが来た。
    「あの……先生って、IMPOに歓迎されるような人じゃないんでしょう?」
    「まあね。何をしでかすかわからないバケモノって思われてるよ。それでも多少のコネはあるわけ。結成当初から、ちょくちょくちょっかい出してきたから」
     どんなちょっかいなのかは聞かずにおこうと思った。
    「……先生はともかく、僕まで敷居をまたがせてくれるとは思えませんけど」
    「大丈夫さ。私の連れに手出しできるわけがない。それに君のことは、きっともうIMPOの各支部に伝わっている。興味深い存在として注目を浴びるはずだ」
    「で……崇城さんは何のために支部へ行った、いや、戻ったんです? 任務を放ってまで」
     んー、と数秒ばかり首を捻ってから、メルティは気持ち悪いくらいの笑顔で言う。
    「自分を一から鍛え直すために、ってところかな? あの子、真面目っぽいし。ああも情けない姿を見せちゃったんだからねえ」
    「だとしたら、引きこもりよりはマシですかね……」
     それよりも……いったい自分は彼女に何を言ってやれるだろう。そもそも崇城が自分の来訪を歓迎などするわけがない。会ってくれるかどうかすら不透明だというのに。
     電車で数駅ほど移動する。その間もメルティは休むことなく話しかけてきた。
    「ねえ、秘密組織ってやつは漫画やアニメじゃよく見るけど、彼らはどうやって生活していると思う?」
    「え? ……つまりお金をどう稼いでいるかってことですか」
    「そのへんの設定をきっちり作っている作品は、あんまりないと思うけどね。IMPOは不動産とか株とかで利益を上げて、構成員の給料にしている」
    「……現実的だ」
    「そりゃそうさ。一応は正義を標榜しているんだから、略奪を働くわけがないだろ」
    「人の世を忍ぶ集団とは言っても、きちんと社会の歯車になってるんですね」
    「この私だって学校から給料を得て生活しているよ。誰であろうと社会から隔絶されては生きられないさ。少しは親近感が湧いたかい?」
     何とも答えられず、零次はメルティの後ろについていくのみだった。
     やがて降り立った駅前は、繁華街というほどではないがそこそこの人出で賑わっていた。メルティは軽快な足取りで歩みを進めていく。
     そんな彼女に、老若男女問わず、人々の視線が集中していることに零次は気づいた。さらさらの金髪に、上質のシルクのような肌に、あどけない表情に、誰もが見入る。
    「私たち、恋人同士って見られているかな?」
    「んなわきゃないでしょう!」
     頭を掻きながら、零次は小さな魔女の横顔を眺める。
     日頃《幼女の世界》の中にいるせいで忘れがちになるが、魔法など使わなくともメルティの容姿は人目を惹く。その本性を知らない者から見れば、この上なく愛くるしい幼子なのだ。
     彼女が狂気の父親の実験台にならず、そのまま普通に成長していたら? そう思うことは何度もあった。だがそのような夢想は無意味だし、彼女自身もつまらないIFとして切り捨てるだろう……。
    「着いたよ」
     メルティの声で考え事を中断した。
     眼前に、ごくありきたりなビルディングがそびえ立っている。ざっと七、八階建ての、一般企業が入れ替わり立ち替わり入居するような、どの角度から見ても普通の建物。
     秘密組織のアジトとはどんなものだろうと疑問だったが、表向きはまさに一般企業を偽装しているのだろう。だが、それだけであるはずはない。
    「もちろん侵入防止用の結界は随時張り巡らされている。ひっそり乗り込んで攻め込もうとしたって、百パーセント失敗するだろうね」
    「……その結界に先生もひっかかるんじゃ」
    「うん。毎度毎度、強面のお兄さんがお出迎えしてくれるよ。そんじゃ入ろうか」
     校門をくぐるような自然体で、メルティは魔法戦士の巣窟へと足を踏み入れる。
     本当についていっていいのか一瞬躊躇したが、崇城に会いたい気持ちが勝った。腹に力を入れて、零次も一歩踏み込む……。