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☆
夕食後、来是はパソコンの前に座った。入学祝いに買ってもらった、最新型のウルトラブックだ。遊ぶ以外にどう使ったらいいか、いまいちわからなかったが、これで将棋の勉強や情報収集がいくらでもできそうだった。
ブラウザを起動し、キーボードを叩く。練習中のタッチタイピングで「神薙紗津姫」と検索欄に入力する。
「……あ、出た」
アマ女王として立派な成績を残している紗津姫は、しっかりその情報が検索エンジンに収集されていた。
去年の三月に行われたアマチュア女王戦のページを開く。
一番上に写真が掲載されていて、「Aクラス優勝 神薙紗津姫さん」とあった。
中央で賞状を持って、晴れ晴れしく笑っている。左右に準優勝者と三位の女の子もいるが、言っては悪いが格が違った。きっと本人たちも複雑だったに違いない。
アマ女王戦は例年三月に行われ、参加者は棋力に応じて複数のクラスに分かれて対局する。一番上のAクラスの優勝者が、後日にアマ女王に挑戦するという仕組みだ。つまり去年、紗津姫は当時のチャンピオンに勝ったのである。
今年のページも見てみる。Aクラスの優勝者が現アマ女王の紗津姫に挑戦する旨が書かれている。
トップとしてチャレンジャーを迎え撃つ……なんだかすごくスケールの大きな話だった。
「とんでもない人なんだなあ……」
今さらながら、感嘆の溜息が出る。
そんな人と一緒に席を並べ、部活動ができるのだ。こんな幸せがあるだろうか? いやない! 来是は燃えて燃えてしょうがなかった。
ネットサーフィンを続ける。すると――。
『このアマ棋士が巨乳すぎる件www』
すごくイヤな予感と、抑えきれない興味が湧き上がった。
匿名掲示板の書き込みをまとめたブログのようだ。生唾を飲み込み、おそるおそるページを開いてみる……。
ドン! と効果音が鳴りそうな大迫力だった。
張られているスナップショットは、間違いなく神薙紗津姫のものだ。何かの棋戦の写真を引用しているのだろう。温和な顔で背筋正しく着手しているその姿は、部室でのものと何も変わらない。
そして衣服を盛り上げすぎているバストも。
<ノーチェンジ!>
<マジで巨乳すぎるwww>
<可愛すぎワロタ>
<けしからんおっぱいだな>
<俺の棒銀がアップを始めました>
<この子の穴熊を攻略したい>
欲望丸出しのコメントがずらりとならんでいる。っていうか棒銀? 穴熊? ものすごく卑猥な響きに思えた。
「……あ、あとで調べてみるか」
とにかく紗津姫は、素晴らしく写真写りがいい人だ。今後さらに活躍することで、注目度も増していくことだろう。このネット住民たちみたいに、熱狂する人がどんどんと増えていって。
そして……みんなのアイドルのようになってしまうのだろうか。手の届かないところに行ってしまうのだろうか。悶々とした思いが頭の中で雨雲みたいにまとわりつきそうに……。
「ぬおおお! 俺は負けん!」
何に負けないのか自分でもわかっていなかったが、とにかく来是は気合いを入れた。