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俺の棒銀と女王の穴熊【1】 Vol.17
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俺の棒銀と女王の穴熊【1】 Vol.17

2013-05-22 12:00
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     浦辺はそれからもいくつかの質問をして、インタビューの締めに入った。
    「えーと、最後に交流戦についての意気込みを語っていただければと」
    「そうですね……。相手の大蘭高校はとても手強いですし、新入部員のおふたりも、本格的に将棋を始めて間もないです。厳しい戦いになると思いますが、ただ勝つことだけを考えるのではなく、まずは楽しむことです。楽しむ心を忘れず、いい棋譜を残そうと心がければ、おのずといい将棋になると思います」
    「うんうん! 春張、碧山さん、頑張ってくれよ」
    「おう、頑張るさ」
    「それでは、取材は以上っす! どうもありがとうございました!」
     浦辺が道具をしまおうとしたところで、依恋が慌てて声を上げた。
    「ちょ、ちょっと。あたしへの取材はないの。いくらでも撮影して構わないって言ったじゃない」
    「あー、ごめん。それはまた次の機会にさせてくれないかな。コンセプトがぶれちゃいけないし」
    「コンセプトって何よ」
    「神薙さんそのものだよ。対局姿も、将棋に臨む姿勢も、実にいい! 俺は将棋がまるでわからないけど、この取材はすごく痺れた! だから俺と同じように将棋を知らない生徒たちにも、何かしら刺激を与えると思うんだ」
    「……あたしは邪魔だってこと?」
    「依恋、次の機会って言ってるじゃないか。今回は諦めろよ」
     そのあとは通常の、和やかな部活動に戻った。
     紗津姫の丁寧な指導を受けて、またレベルアップしたんじゃないかと達成感に浸る。教えを実践して依恋との勝負に勝てば、得も言われぬ喜びが満ちあふれる。
     対照的に、依恋は終始ムスッとしていた。取材されなかったのがよほど残念だったのか。もう少しその目立ちたがりを抑えることはできないもんかと、来是は幼馴染として忠告したかったが、たぶん聞き入れてはくれないだろう。
    「お疲れ様でした」
    「じゃ、また来週なー」
     部活が終わり、いつものように校門で紗津姫と関根に別れを告げる。
     これで週明けまで先輩の姿は見納めか。そう思うと実に切なかった。
    「あ!」
    「な、何よいきなり」
    「浦辺に頼んでおけばよかった。今日撮った先輩の写真、俺にもくれって!」
    「……バッカじゃないの」
     依恋は早足で先を行く。来是は難なく追いついて、不機嫌な横っ面に声をかける。
    「今日はずっと機嫌が悪かったな。そんなに取材されたかったのか?」
    「うっさいわよ……」
    「先輩と張り合いたいっていうのはわかるけどさ」
    「だからうっさい!」
     はあ、と溜息をつく来是。
     紗津姫への対抗意識のあまり、以前のような余裕がなくなってしまっている。
     依恋はいつだって偉そうで、男を引っ張り回す強さがあって……。来是はいつも振り回されてきたけれど、彼女独特の魅力ということもわかっている。それがすっかり影を潜めているのはもったいない。
    「もうちょっと余裕を持てば、依恋はもっと素敵な女の子になれると思うんだけどな」
    「え……」
    「だから先輩ばっかり気にして、自分らしさがなくなってるって言ってるんだよ。そういう依恋を見るのは、ちょっと寂しいぞ」
     依恋は息を呑んだ。そしてぷいっと顔を背けて、か細い声で……。
    「や、やっぱり来是は、あたしのことが……」
    「まあそれより、もうすぐメンバー決定戦だな」
    「そ、それよりって何よ! バカ!」
    「なんで怒ってるんだ」
    「もういい……」
     来是は前方の空間に盤をイメージし、エア駒を動かす。素振りならぬ素指しだ。こんなことをしたくなるほど、将棋が身に染みついてきた。
    「俺は毎日練習しているけど、依恋はどうなんだ。相変わらずボディケアのほうが大事って感じか?」
    「……将棋もそれなりにやってるわよ」
    「ふーん? それなり、って程度で俺の練習量を上回っているとは思えないな。やっぱり俺のほうが、まだ力は上だな」
    「あ、あのさ」
    「どした?」
    「この前、将棋会館に高価な道具があったでしょ」
    「はは、とても俺には手が出ないな」
    「あたしね、あれ、買ってもらったんだ」
    「ええ? マジでおじさんにおねだりしたのか」
    「うん、それで上達するなら奮発しようって。入学祝いのプレゼントもまだだったし」
     まさか本当に実行に移すとは思わなかった。来是は一気に羨望の眼差しになる。
    「うらやましいなあ。ちょっとこれからさ、見せてくれないか?」
    「……いいわよ、見せてあげる。そ、それでなんだけど」
     何か条件があるのか。来是は身構えていたが、出てきた言葉は予想外のものだった。
    「明日からあたしの家で、ミニ合宿しない?」
    「ミニ合宿?」
    「ひとりで練習していてもつまらないしさ、相手がいればはかどると思って」
    「ほー、なるほど。確かにその方が上達しそうだ」
     それに買ったばかりの高価な盤と駒で、思う存分指せるわけだ。断る理由などなかった。
    「でもお前が俺を家に誘うとはなあ。小学校以来じゃないのか?」
    「そ、そんなことどうだっていいでしょ。決まりってことでいいわね」
    「ああ、おじさんとおばさんによろしく」
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