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RecotteStudio 3ヶ月使用レビュー!手軽で本格的な実況動画はできるのか!?
ゲームは自分で遊ぶだけではなく、その過程を動画にしたり、それを見ることも楽しみ方として定着しつつあります。
そんな中、AHSから実況動画制作に特化したソフトとしてRecotte Studioが発売されました。
フリーソフトで十分に編集ができる土壌が出来ている中で用途を名指しした有料ソフト。その実力はどれほどのものでしょうか?
約3ヶ月の使用レビューです。
※Ver. 1.2.0.0時点のレビューです。バージョンアップにより実態が変わっている場合があります。
習作動画
※外部から用意したBGM/効果音/3Dモデル、自前の画像/モーションが含まれています
・大まかな編集の流れ
ソフトの大まかなレイアウトはこのようになっています。
マウス操作主体で左側のウィンドウからドラッグ&ドロップで下のタイムラインにオブジェクトを挿入、
場合によっては右側のウィンドウで詳細設定をして動画を編集していきます。
各種オブジェクトの挿入だけでなくエフェクトの適用や効果時間、さらに3D話者のマスク範囲までマウスで直感的に操作でき、
強力なスナップ機能のおかげで微調整もそんなに必要なくサクサクと進めることができます。
商用利用可能な図形素材も用意されており、”画面を素早く構築する能力”はとても優れています。
『キュピーン!』も付属図形のひとつです
Aviutlで同じことをするのは工程を考えるだけで嫌になりそう
編集機能そのものは控えめですが、あくまで元動画を主役に編集する前提。
実況動画だけでなくYoutubeなどの個人動画を見てもこのソフトでできる範囲に抑えられているものが多く
実用十分な機能を持ちつつ使いやすさを重視したソフトであることがわかります。
- その他の印象
・集中線などのエフェクトはないものの外部から素材を用意してクロマキー合成で対応可能。
・トランジション(シーンチェンジ)の種類は少なめ。
・スナップの位置が期待する位置よりも1ピクセル内側なため画面いっぱいに配置したつもりでも端に線が出てしまうことがある。
・話者のマスク機能は会話ウィンドウ作成には強いものの普通の立ち絵として使うときには不本意に見切れてしまい、おおげさな余白が必要に。
初期の印象は良かったのですが、使い込めば使い込むほど『どうしてそんな仕様なの』と
思わずつぶやきたくなる荒削りさ、妙な使いにくさが目立ってきました。
・動作環境は要確認
最近の動画で一般的なHD画質を編集する時点でCPUはIntel Core i7-6700K、メモリは16GB、グラボはNVIDIA GeForce GTX 1060を要求されます。
これは最新のゲームを最高画質で快適に遊べる環境に匹敵、他の動画編集ソフトと比べても
DaVinci ResolveやPower DirectorならHD画質を編集できる環境でもまだ足りません。
私は要求スペック未満の状態で無理やりHD画質にするために編集中はSD画質にすり替えたり、
出力時のFPSを元動画の2倍にすることで1秒あたりの処理数を擬似的に増やして出力動画のカクつきを抑えたり工夫しています。
要求スペック未満のパソコンで使って動きの遅さに文句を言うのはお門違いなのは大前提ですが、ここは見落としがちな要素です。
20年以上前からあるAviutlの軽さに慣れていたり、初めての動画編集の場合は確認必須。
動画と3Dモデルの同時処理という独自の構造が問題かと思いきや、動画単体でも十分に負荷がかかるほか
テキストの処理がものすごく重く、ある程度の文章量では画像化の手間がかかるでしょう。
もちろん、新型のソフトほど要求スペックが高くなるのは仕方がないことではあります。
・UIに統一性がなく分かりづらい
先述の通り左からオブジェクトを配置して右側で詳細設定するのが基本の流れですが、規則性のない例外操作が多く戸惑います。
例えば書式ライブラリは左側にありますが、そこから直接タイムラインに配置できるわけではありません。
テキストを配置してから文字を編集する際にライブラリの書式を適応することができるのですが、図形タブから配置するテキストは
空白の状態かつ1文字で改行する小ささで配置されるためそこからテキストを打ち込む作業が全然スムーズにできません。
タイムラインの上にあるテキストボックス追加ボタンで追加したテキストボックスはある程度の大きさがるので入力しやすいのですが
こっちはこっちで枠付きしか選べず、どちらのやり方も一長一短です。
また、3D話者の動作を配置するのは右側からドラッグ&ドロップする仕様。
せっかく「左から配置して右で調整」という流れを制定したのに自らそれを破壊。
また「動作」タブを経由して新動作を登録する場合は一覧に動作が増えるだけなのに対し、
動作の「オブジェクト設定」タブを経由して新動作を登録すると選択中の動作が勝手に変わってしまうという
ややこしい仕様になっており編集ミスを誘発させています。
余談:
公式放送によると、動作の「オブジェクト設定」タブの機能は本来予定していたものではなく、ガイドブック作者が要望して急遽できたものだそうです。
配置済みのオブジェクトに対して設定をするためのタブなのにタイムラインに動作を追加したり話者に動作を登録/管理する機能があるいびつな構成は
ブラッシュアップする時間がなかったからなのでしょう。
その後のアップデートでこの機能を分離して「動作」タブが追加されたわけですが、それに合わせて「オブジェクト設定」から機能を消していないのは
ソフトと同時発売したガイドブックの内容が通用しなくなってしまうからではないかと推測しています。
なんにせよ、現状の仕様は誤操作を誘う難点でしかありません。
閑話休題:
その他、トランジション(シーンチェンジ)はエフェクトタブから配置するのではなく右クリックメニューから追加だったり
音量フェードをしたいときは波形にキーフレームを打って棒グラフを作らなければならなかったりと例外操作が多く、すべての機能を把握することは困難です。
話者の字幕を常に最前列に表示する便利機能があるのにデフォルトでは設定されていなかったり、なにかと不親切です。
操作の分かりにくさだけでなく機能的にも足りず、マウス主体の操作にこだわっている一方で表示サイズ(レイヤーのズーム)の変更は数値入力が必要(ホイール操作は微調整用)
だったり、テキストはワードのように部分選択して書式を設定する方式でありながら狙った部分だけ選択することができない場合が多かったり
動画を伸縮させようとしても移動するだけなせいで、切りすぎた部分を生やすには「再生範囲の変更→自動で変わる再生速度を1に戻す」と面倒な手順を踏んだり
編集がギクシャクする場面がよくあります。
・動画ファイルに関するPC知識が必須
動画出力時にビットレートの設定ができますが、指標は一切ありません。
レトロゲームから実写動画まで、動画によってビットレートの最適な設定は全然違うのに無機質に選択肢が並んでいるだけです。
さらに、選択肢で最も高いのは10000kbpsですが自分が投稿している10分程度の3Dゲーム動画の設定は26000kbps。
提示された選択肢から選ぶだけでは決して適切な設定ができない構造です。
その他、読み込んだ動画のFPSとプロジェクト設定のFPSが違うと割り切れないタイミングでカクつくなど、なにかとデリケート。
初心者に手放して勧められる状態ではありません。
PCに慣れているつもりでも、録画の生データはスムーズに出力できる一方で何かのソフトで一旦出力したものだとカクついたり、
ビットレートをいくら上げてもブロックノイズが出ることがあったりで素性がまだよくわかっていません。
・3D話者の動作の仕様とソフトの機能が連携できていない
このソフトの売りである機能の一つが話者機能。手軽に3Dモデルを表情豊かに動かすことができますが、かゆいところに手が届きません。
付属のモーションはすべて「やり始め→中間→待機ポーズに戻る」という流れがまとまっている仕様です。
再生速度を調整することはできますが、「人が話をしている間、居眠りモーションを続ける」といったように状況に合わせた動作には限界があります。
ソフトには動作をループ再生する機能や複数のモーションをなめらかにつなげるウェイト機能があるのでこういう場面で融通を効かせられるはずですが
付属動作にその機能を使わせるつもりがないため台無しになっています。
また、各動作には待機ポーズに戻る部分までつくってあり、それを前提に終了ウェイトが短く設定されているため
想定外の待機ポーズに戻る時には不自然にキビキビした動きになります。
現バージョンではデフォルトで各3D話者の専用動作と汎用動作が混在しているため、この状態を再現するのはとても簡単です。
この場合はいちいちウェイトを設定をしなければならず、場合によっては「繰り返し再生状態で動作を短くすることで後半の動きを消す」というテクニックも必要です。
デフォルトの終了ウェイトが長めに設定されていれば避けられた余計な手間です。
逆に、ソフト側に動作の調整機能がないため動作側で差分をいくつも用意しなければなりません。
例えば「右を指差す」といった動作をソフト側で左右反転させて左指差しができるわけではなく、左指差しも別の動作として用意しておく必要があります。
ユーザー作成のものならこういった差分を用意できるとはいえ余計な手間に変わりなく、公式モーションに関しては公式が用意してくれた分しか使えません。
「本当は右側に立ち絵を配置したいのに、動作の都合で左側に配置せざるを得ない」ということも起こりえます。
エフェクトの一種として反転機能がありますが、服のデザイン、光の当たり方、物理の動きなど、あらゆる要素が左右非対称な状態で
なにかの動きをする時だけ反転したら明らかに違和感。実用には耐えられません。
特に、付属モデルの琴葉姉妹は物理演算が荒ぶりやすく、モデルが一般配布されていないためユーザーによる物理部分のモーションの作成は不可能。
公式の動作に頼らざるを得ない状態なのでとても扱いにくくなっています。
・外部モデルへの対応力はもう一声
どのような仕様なのかわからない外部モデルの読み込み機能を保証できないのは仕方がないのですが、歯がゆい部分があります。
先述した動作機能の話題の続きになりますが、このソフトに待機ポーズを変える機能は用意されていません。
そして、外部モデルの待機ポーズは「おしとやかな女性」をイメージしたもの固定です。
選べる中の一つとして用意されているのなら大歓迎ですが、どのようなもの来るかわからない外部モデル向けにしては限定的すぎます。
明らかにポーズがミスマッチですが直すのは上級テクニックです
現時点でも繰り返し再生機能でポーズを変えることはできますが、レイヤーが余計に増えて見づらくなったり、
動作中は強制的にまばたきが抑制されるため、ランダムにまばたきを混ぜた長回しモーションを用意する必要があったりと工夫が必要になります。
いうなれば、待機ポーズを変えようとするだけで「ソフトの想定を越えた凝りすぎた状態」になってしまうのです。
また、同じモーションでも腕の長さが違えば見え方が変わってしまうのに調整する機能はなく、
そもそも一部の汎用モーションはモーション自体に不備があり腕の長さに関係なく手のひらが期待した位置にこなかったりと不便なことばかりです。
付属モデルのほとんどが商用利用不可能な状態で外部モデルの扱いも一筋縄ではいかないとなると、企業による利用は難しいでしょう。
しかし、最近のアップデートで肘がねじれすぎる不具合が修正されているので対応を切っているわけではないようです。
3D話者には待機モーションの指定、まばき抑制の有無、左右反転、位置角度補正の機能が必要だと思いました。
(軸足まで反転するのでそれはそれで不具合がありますが)
余談:
動作は追加購入することができますが、公式の紹介動画は下手にオシャレにしようとしてカタログとしての役目を果たしていません。
・動作の把握には関係のないタイトルを中央にドンと構えて主役は端っこに追いやるレイアウト
・人間の目は2つしかない(そして一箇所しか注目できない)のに8つも同時再生
・同じ動作を繰り返し再生する場合もありどれが確認済みの動作か分からなくする策略
ユーザーが必要としているものを把握/提供できない様子をこの動画から読み取って購入を見送る人がいても、引き止めるのはほとんど不可能でしょう。
閑話休題:
・2D話者の機能を削りすぎている
他の実況動画編集ソフトのYMMでは画像ファイル名に独自のルールで文字を加えることでまばたきや口パクの差分を指定する方式です。
これは慣れれば画像の用意と設定が同時にできるので便利ですが、人によっては分かりにくく感じることもあるでしょう。
本ソフトの2D話者の作成ツールは各表情の差分設定がグラフィカルにでき、分かりやすさを重視しています。
しかし、まばたきや口パクをしてほしくない場合は「同じ画像を指定して表面的には動かないように見せる」という機転を効かせる必要があります。
せっかく分かりやすさを重視したのに「まばたきしない」のラジオボタンを用意せず搦め手を必須にする中途半端な仕様です。
また、従来の立ち絵ツールは各部位を組み合わせて表情をつくるものでしたが、本ツールはすべてまとめた一つの画像に出力して登録します。
そのため表現力は大きく劣り、予想しようがない利用状況を予想して表情の組み合わせを決め打ちするか、全パターンの組み合わせを用意しなければなりません。
公式の2D立ち絵「レコねこ」は全表情の組み合わせ91種類を用意したパターン。動作一覧が溢れかえって使いにくい状態です。
使いやすくしようとして機能を削りすぎた結果、かえって使いにくくなってしまった問題点が公式の手によって浮き彫りになってしまいました。
91個もの差分を用意するのは大変だったとは思いますが、それを用意するコストを機能改善に回して差分を91個も用意しなくても済むようにしてほしかったところです。
部位ごとに画像を登録して立ち絵を構成した上でよく使う組み合わせを動作として登録、タイムライン配置後に動作の設定で各部位を自由に組み合わせることができれば
使いやすさと表情のレパートリーを両立できたのではないでしょうか。
また、一つの画像にまとめて登録する都合上、同じキャラクターの衣装差分の用意に1キャラ分の労力が必要になります。
Web版ツールであればpsdと設定データの2種類に分けて編集できるためやりやすいのですが、こちらは解像度の高い立ち絵には非対応。
大きい解像度のものを縮小して使う立ち絵のデファクトスタンダードに対応できておらず、手直しが必要な場合があります。
その他の大きな問題としては、新規作成時のテンプレートが完全な空白であることが挙げられます。
この状態で絵師がそれぞれ立ち絵をつくる場合、例えば笑った顔に「笑顔」「笑い」「わらう」といったように表記ゆれができたり
表情の登録順がバラバラになることは避けられません。
絵師ごとにフォーマットの違う立ち絵に対応していく必要があるのは手軽とはいえません。
立ち絵情報に絵師の他にキャラクターの権利を書く欄を設けたのをみると素材の配布を前提とした作りにしようとしているのはわかりますが
実際にこのソフトが流行って立ち絵が作られたときに具体的にどうなるかを想定しきれなかったようです。
総じて、このソフトは手軽に済ませようと思えば済ませられるものの、ちょっと粗を直そうとした時点でソフトの想定外の領域になってしまい
工夫と機転によるトンチ合戦が必要になり逆に難しくなっています。
ソフトとしてのブラッシュアップ不足が使いにくさに直結しているだけでなく、開発者の想定とユーザーが実際に必要としている仕様とのギャップが目立ちました。
2D話者を使う場合は機能も作業効率も優れている従来型から本ソフトに乗り換える理由がなく、
3D話者を使う場合も、何もない所で立ち絵が見切れたり動作の終わり際が不自然にキビキビ動く変な状態が標準品質。
使いやすさを持ち味にしたはずなのに、かゆいところに手が届きません。
Aviutlはプラグインの継ぎ足し継ぎ足しで環境整備に一苦労ですが、その対抗馬としてこのソフトを勧めるのはそれはそれで不安要素が残ります。
実況プレイ用として開発されていますが、むしろパワーポイントの延長線として使った方が活躍を期待できます。
冒頭で述べた”画面を手早く組む能力”はゲーム画面ありきの実況動画よりもプレゼン動画にこそ威力を発揮するものであり、
音声を一括配置する都合で音声効果やスタイルを変えられないボイロ連携機能はナレーションに徹すれば問題にならず、
なにかと使いにくい立ち絵機能はそもそも使わない選択肢もあります。(立ち絵を使わなければ各感情ごとに話者レイヤーを分けて対応する荒業もあります)
とはいえ、リリース後もユーザーの要望を元にアップデートが行われており、サムネ用に静画出力機能、対戦ゲームのID消し用にモザイク機能、
タイムアタック用のストップウォッチ機能といった実況用の機能が着実に追加されています。
今後は機能を追加するだけでなく、すでにある機能をどれだけ改良できるかが注目ポイントとなるでしょう。
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