
このシリーズでは、ジャーナリストのオルガ・カザンが、最新のパーソナリティ研究をもとに行った「性格いじり」実験をベースに、いかにすれば自分の性格を変えていけるのかをまとめております。そこで前回は外向性について見てみたので、今回は開放性の介入をチェックしてみましょうー。
開放性の改善介入
「好奇心が大事!」なんて話は、すでに皆さま耳にタコでしょう。好奇心は知性と相関が高いし、好奇心がある人は社会で成功する確率も高かったりしますからね。
が、好奇心がない人にとっては、「常に新しいことに挑め!」「いろんなことに興味を持て!」と言われても途方に暮れちゃうんじゃないでしょうか。私は割と開放性は高いほうなので、そこらへんに悩んだことはないのですが、「好奇心がなくて……」みたいなお悩みはよく耳にするところです。「好奇心が良い」とわかってはいても、実際にやろうとすると、リスクが頭の中で大暴走して結局いつものルーティンに戻っちゃうような人は少なからずおりましょう。
オルガ・カザンさんもまさにそんなタイプだったそうで、たとえば「サーフィン」などをやる時でも、彼女は頭の中ですぐに最悪シナリオを作成してしまい、
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「ボードに頭をぶつけて記者生命が終わるかも」
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「サメが襲ってきたらどうしよう」
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「波に飲まれて溺れるんじゃ…」
と思って新しいチャレンジができなくなるんだそうな。神経症傾向が高い人にありがちな問題っすね。
ただし、こういったタイプってのは、最初の恐怖さえ乗り越えちゃえば意外と先に進めることが多く、実際に海に入ってみると「あれ? 思ったより大丈夫じゃん」と気づいたりするんですよね。しかし、好奇心がない人の多くは、初手のネガティブな感情に負けて(恐怖とか退屈とか)、なかなか一歩を踏み出せないことが多めであります。
が、だからといって開放性が止まったままだと人生に新たな展望が開けないので、好奇心が死んでいる方はどうにかする必要があるわけです。幸いなことに、開放性についても「こうすれば改善するよー」って道筋があきらかにされてますんで、今回はそこらへんをチェックしときましょうー。
開放性がもたらすメリットとは?
簡単におさらいすると、開放性ってのは「新しい経験やアイデアに対して心を開いている性格特性」のことで、現在までの研究によれば「開放性が高い人はクリエイティブで、人生に満足しやすい」という事実が一貫して報告されております。簡単に代表的なものを紹介しときましょう。
メリット1. 創造性/発想力の向上
最もよく知られているメリットのひとつが、創造性との強い関連性であります。たとえば、ある脳イメージング研究(R)では、創造性を支える脳領域の灰白質量と、開放性のスコアに正の相関が確認されたというんですな。つまり、開放性が高い人ほど、脳がクリエイティブな構造になってる可能性があるってことです。
また、観察研究をまとめたメタ分析(R)でも、「開放性が高い人は発散的思考(多様なアイデアを出す力)や独創性で高得点を出しやすい」という傾向が確認されてまして、これはかなり有効な知見っすね。
さらには、開放性と創造性は単なる相関があるだけじゃなくて、相互強化的な関係にあるって話も出てて、これもまた良い感じです。すなわち、クリエイティブな活動をすると、そのおかげでさらに開放性が刺激され、それがまた新たな創造性を引き出すってことですな(R)。
メリット2. 幸福感が上がりやすい
開放性は、精神的な豊かさとか人生の満足感にも結びついております。ある横断研究(R)では、開放性と主観的ウェルビーイングに正の相関が報告されてるし、性別や文化を超えた別の調査でも、開放性の高さと主観的な幸福度の関係がいくつも報告されております(R)。
さらには、開放性と社会不安との逆相関も確認されてまして、開放性が低い人は初対面の相手に対して恐怖を抱きやすくなる傾向があるんだそうな(R)。なので、開放性を高めることはコミュ力の向上にもつながり、それによって幸福度が上がりやすいわけですな。
3. ストレス・順応力・柔軟性の向上
開放性が高い人は、変化やストレスに対して柔軟に対応できるって報告も多めであります。と申しますのも、開放性が高い人は、認知柔軟性が高いことが知られてまして、固定観念にとらわれず状況に応じて思考を切り替えられるんですよ(R)。
あるレビュー論文(R)でも、開放性が高い人は新しい趣味を始めたり、自分を変える挑戦をしたりといったことをする回数が増え、それが長期的な健康維持・心身のレジリエンスを上げてくれると指摘しております。
メリット4. 健康にも良いかも
開放性が高い人には、健康レベルも高いという見解もあったりします。これは、好奇心がダイレクトに健康レベルを上げてくれるってわけじゃなくて、開放性が高い人ほど健康につながる行動を選びやすくするのが原因と考えられております(R)。実際のところ、開放性が高い人は、新しい健康法(運動、食事、予防・検診など)を試す傾向があるって報告も多いですからね。
ただし、いまのところ開放性と健康指標(心血管疾患、寿命など)との直接的な関連を示す研究は限られてるんで、これからの研究に期待っすね。
ってことで、簡単に言うと、好奇心の高さってのは、私たちの脳を柔軟にし、それによって創造性を磨き、結果として「人生に面白みが増す=幸福感が高まる」って流れになってるわけですね。逆に開放性が低いと、未知のものを怖がりすぎて日常が硬直化するんで、安全だけど退屈な人生になるリスクもあるわけっすな。
ちなみに、個人的に最近めっちゃ興味があるのが「サイケデリック研究」の進展であります。「幻覚剤と精神医学の最前線」などでも紹介されているとおり、マジックマッシュルームに含まれるシロシビンやMDMA(エクスタシー)といった幻覚剤は、近ごろうつ病やPTSDの治療に用いられているんですよ。
これらの研究でわかったのは、マジックマッシュルームが引き起こすサイケデリック体験は「開放性」を劇的に押し上げるかも?ってことであります(しかもその効果は一時的ではなく、数カ月〜数年続くらしい)。もちろん日本では幻覚剤のマイクロドーズとかはできないんだけど、「脳が未知に開ける可能性」が科学的に示されたのは大きいんじゃないかと。要は、私たちの脳ってのは、思った以上に柔軟に「新しさ」を受け入れる回路を持っている、ってことですな。