• 散文 2017年総選挙を振り返って

    2017-11-23 18:19

    1.2017年総選挙の結果

    2017年10月の衆議院総選挙の結果は自公政権の継続を世論が支持した結果となった。一方で、自公に対立する最大野党であった民進党は選挙戦直前に衆議院民進党を解体し、小池百合子を代表とする希望の党への合流を決めた。また小池百合子が合流する民進党議員の政策の認識の違いから「排除発言」をしたことによって少なくない議員が希望の党への合流を断念せざるを得なくなった。そこで民主党菅政権時の内閣官房長官を務めた枝野幸男が立憲民主党を立ち上げ、希望の党から「排除」された議員が多く合流して、選挙戦に臨んだのであった。

     選挙結果は自公圧勝で終わり、改憲に必要な3分の2を前回選挙から継続して得るかたちとなった。選挙戦当初、大躍進の可能性が示唆された希望の党ではあったが、先ほどの「排除発言」によるイメージの悪化や、選挙後の内閣総理大臣の指名選挙で誰を立てるのか不透明さによって、50議席にとどまる結果となった。他方、排除されたことで誕生した立憲民主党は「下からの民主主義」、「右でも左でもなく前へ」のスローガンで希望の党を上回る議席を獲得することとなった。

    2.イデオロギー選挙の終焉?

    そんな2017年総選挙について堀江和博は保守や革新、リベラルといったイデオロギーラベルが有権者に意味をなさなくなってきていることを指摘している。堀江は竹中佳彦の論文を参照しつつ、有権者のイデオロギー尺度が1983年と2013年で比較した時、保守と革新に分かれていたものが、隔たりが小さくなり中道化しているとした。そうした有権者のイデオロギー認識、いいかえれば保守と革新それぞれの陣営に分かれていたものが、中道化することで争点として機能しなくなっているという。

     また堀江は竹中論文ではイデオロギーが中道化しつつある現状のほか、保守・革新の認識が変化していることに注目している。それは維新の党が共産党よりも「革新」であると有権者は認識しているという点である。維新の党(現:日本維新の会)はもともと大阪都構想の実現を図り結成された大阪維新の会を出発点としている。そうした改革志向の政党が有権者においては「革新」として認識されているというのである。

     竹中論文の要諦は、堀江が注目している通り、イデオロギー認識において有権者が中道化していることであるが、これまでの保守・革新の常識とは異なる認識の変容が有権者に進行しつつあるというものである。改めればイデオロギーを中性化しつつあるということは、むしろ日本政治が変容しつつあるという時代的転回を意味しているということだろう。

     これまで通りのいわば常識では保守対革新の政治構造は冷戦期における資本主義陣営対社会主義・共産主義陣営の対立構造を国内において自民党対社会党というかたちで表していた。それが1991年のソ連崩壊による冷戦の終結によって、国際社会における冷戦構造の解体とともに、日本では1993年に非自民連立政権が誕生し、国内レベルにおいても、変化が訪れることとなったのである。それまでの体制を1955年に社会党と自民党が誕生し対立構図ができたことを反映して1955年体制と呼ばれていた体制が、非自民政権の誕生によって変化したのである。後述するが吉田徹によればそれは「ポスト55年体制」と位置づけられるものである。

     この体制構造の変化に裏付けられるように社会党(現:社民党)は勢力を衰退させていった。しかしながら、社民党や革新の一翼を担っていた共産党は勢力が衰えながらも存立し続けていることで、保守対革新の基本構図が変化することはなく、55年体制を知る有権者にとって保守対革新の認識に変化がなく、マスコミベースでも同様の認識を持ち続けている。

    ところが、小泉政権以後、日本政治に積極的に「改革」の言葉が使われるようになってきた。2000年代の日本政治の特徴として1つ挙げるとすれば、それは保守として認識されている側が積極的に改革を唱えるようになったことであろう。例えばみんなの党であったり、地域政党の減税日本、先ほどの大阪維新の会や今回の小池百合子によって結党された希望の党のように、ラディカルに改革を進めようとする新党が誕生するケースが目立つ。そしてそれら新党は新自由主義的政策を志向し、制度変革を試みようとする姿勢が有権者にとって「改革」として見られ、言葉通りの意味でとらえようとするとき、自民党が保守となり、「改革」勢力が革新としてイデオロギーが再編されているのである。これが55年体制と55年体制以後との違いとなっている。

    3.イデオロギーとは

     そもそもイデオロギーとは何か。イデオロギーとは三省堂辞書サイトなどをみると、次の説明がなされる。イデオロギーとは「『社会集団や社会的立場(国家・階級・党派・性別など)において思想・行動や生活の仕方を根底的に制約している観念・信条の体系。歴史的・社会的立場を反映した思想・意識の体系』を意味する。また『特定の政治的立場に基づく考え』を指す」とされている。これが一般的なイデオロギーの理解として解せられるが、たとえばジョン・プラムナッツは「イデオロギーはある集団や社会に特有の一連の緊密に関連しあった信条や、観念、さらには態度などを指して用いられる」と用法を限定し、イデオロギーを「多くの人々にとって、何よりもまず、政党やその他の組織が掲げている理論、あるいはこれらの組織が権力や影響力を獲得する試みをなす際に用いる理論を意味する」と定義づけている。プラムナッツに倣って端的にまとめればイデオロギーとは実体的価値判断体系を意味するものなのである。

     プラムナッツのイデオロギーの用法に従えば、保守・革新といった55年体制下以来使われているイデオロギーは冷戦下を反映したイデオロギーとしては機能していたが、今日では明らかに保守にせよ革新にせよイデオロギーとしてもちいられている用語が旧来の用法通りには通用しなくなっている。それはむしろ有権者が日本維新の会を「革新」として認識しているのはプラムナッツの定義通り実体的にとらえたイデオロギーだといえよう。本来的にはイデオロギーとはものの見方にすぎず、保守・革新という日本政治で伝統的通用的に使用されていた用語に変わる言葉を使用せず、用語の内面だけが変容しているがために何を指して保守なのか、あるいは革新なのかが話し方によって変化してしまうというジレンマに陥っているのである。

     ここで堀江の議論に立ち戻ってみれば、イデオロギー選挙の終焉なのではなく、むしろ55年体制下で使用されてきた保守・革新のイデオロギーの構造が変容しており、どのようにイデオロギーをとらえるか、再構成するかが問題となっているのである。

    4.ポスト55年体制と野党再編

     さて今日の日本政治は55年体制以後の政治状況を迎えている。『世界』2017年12月号に寄稿した吉田徹は55年体制以後を「ポスト55年体制」と表現している。ポスト55年体制とは、細川連立政権の成立によってもたらされた制度変容によって訪れた体制である。ポスト55年体制の再編成に生き残ったのが自民党であり、制度変容に自民党がうまく対応してきた姿が今日の安倍政権であるという。自民党は小泉政権にみられるように旧来の自民党のスタイルを根本的に変化させた。その制度変容はたとえば政権でいえば内閣機能の強化であり、政党レベルではトップダウン型の政策形成能力の強化となる。今日の安倍政権が非常にリーダーシップがあるように映るのはこうした制度変容に自民党が対応させた結果である。

     そうして政権与党の座にいる自民党は生き残ってきたが、野党はどうであろうか。かつて政権交代を達成した民主党(現:民進党)は参議院議員しかおらず、民進党の衆議院議員は希望の党か立憲民主党へと枝分かれした。政権に対しては是々非々で臨むという日本維新の会は政権に対する態度が不透明にみえるのか、議席は伸び悩んでいる。安倍政権の批判票を受け皿に議席を伸ばした共産党も2017年総選挙では議席を減らした。その他政党も大きく躍進できるような状況とはいいがたい。

    5.イデオロギーの明確化

     だが、自民党に対抗する、政権交代に一番近い政党は希望の党か立憲民主党であることは明らかであろう。この2つの政党は吉田徹によれば、希望の党は制度改革を重視する「新自由主義の極」であり、立憲民主党は再分配を重視する「社会民主主義の極」であるという。両政党とも結党の発端は憲法改正に対するスタンスの違いからであるが、国民生活に直結する経済政策で見れば、吉田の言う通り新自由主義か社会民主主義になるであろう。

     民進党という一つの政党に内包されていた2つ違う政策志向が分かれたのは日本政治をどのように変えていくかの志向の違いからということもできようが、立憲民主党の代表である枝野幸男が自身め明言している通り「改憲反対」勢力ではない。そうした政策スタンスでは問われるのは改憲か護憲かではなく、改憲のあり方の違いにすぎない。そうした点から今後希望と立憲はまた一つになり政権交代を目指す政党として野党再編がもう一度起こることも考えられよう。そうした政権交代に向けた野党再編で意識しなければならないのが、自身のイデオロギーをどこにピボットするのかということなのである。


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  • 民進党代表選の振り返り

    2016-09-26 23:44


                (写真は読売新聞より)
                          遅くなりました。そして今月は手抜きです。



    1、はじめに

     9月2日から15日にかけて、野党第1党である民進党の次のリーダーを決める代表選挙が行われた。次の政権選択選挙である衆議院選挙では結果次第では与党になる可能性を秘めている野党第1党であるという意味から、重要な選挙とみなされ、各新聞社も大きく報道していた。15日の投開票の結果、蓮舫が新代表に選出された。参議院議員ながら、政党代表に就くという異例な結果ながら、民進党としては初の「女性」リーダーとして歓迎され、岡田体制から蓮舫体制へと引き継がれることになった。蓮舫以外にはベテランで元民主党代表経験者である前原誠司や、認知度は低いながらも当選回数が3回ながらも若手のホープとして取りざたされていた玉木雄一郎も出馬していた。なぜベテランの前原や期待の若手である玉木をさし置いて蓮舫が新代表に選ばれたのだろうか。今回はこれを候補者と有権者の繋がりから考えてみたい。

    2、民進党代表選

     民進党代表選立候補者

     東京都知事選後の8月2日、民進党が両院議員総会で代表選の実施を決定した。8月26日の代表選事前説明会では、出馬をすでに宣言した蓮舫ほか、26日に出馬表明した前原誠司、そして出馬の可能性が報じられた長島昭久、原口一博、井出庸生、玉木雄一郎など6陣営が出席した。

     代表選告示日の9月2日、蓮舫、前原誠司、そして当日ぎりぎりで代表選出馬に必要な推薦人20人を確保した玉木雄一郎が正式に立候補することで確定し、民進党代表選挙が開始された。翌日の3日から衆議院比例ブロックごとの都市を中心とした計10か所の全国地方遊説を開始した。

     代表選告示直後の立候補者共同会見

     いち早く出馬を表明していた蓮舫は次の民進党を「新世代の民進党」にすると主張した。旧民主党時代より支えているベテラン議員として、自身が女性であることを引き合いに「母親の気持ちで上と下の世代を『情』でつなげていくことができたら」と代表への意欲を見せた。また、当選すれば民進党初の女性代表ということで、「ガラスの天井に向き合っている女性、その女性を支える男性に元気に与えることができるのではないか」と代表選へ挑戦する自分と女性の社会環境をなぞらえた発言をした。

     前原誠司は「ゼロからの再出発」と題し、民進党が国民から信頼を失っている状況への反省と潔さを訴えた。前原が民主党代表だった当時、メール問題によって辞任したことを「戦犯」と評し、「国民にいったん土下座をするのがふさわしい。それができるのは戦犯の自分しかいない」として、もう一度再出発するという点を強調した。そして、「All For All(みんながみんなのために)」をスローガンに掲げた。

     代表選に立候補した玉木雄一郎は、47歳で当選がまだ3回しかないことを「お前はまだ若い」という指摘を受けているとしながらも、その若さをセールスポイントとして、「2人は尊敬する先輩でありますが、私が一番田舎に住んでいる。独居老人の不安は問題などを知ることのできる、最も近いところで生活をしています」と国民と寄り添っている姿勢を強調した。

     民進党新代表の選出

     9月13日、2日後の代表選開票日に先んじて、党員・サポーター等の郵送投票が締め切られた。党員・サポーターの投票情勢で蓮舫が優勢であることが伝えられた。そして15日に投開票が行われた。当日の投開票日には国会議員、公認候補者、地方議員が投票し、党員・サポーター票と合算して開票された。今回選挙の総合計849ポイント中503ポイントを獲得して、蓮舫が民進党新代表に選出された。公認候補者のポイントでは蓮舫と前原誠司の差は6ポイント差と僅差であったが、国会議員票、地方議員票では前原は蓮舫に倍近く差をあけられ、党員・サポーター票に至っては3倍の開きがあった。第1回目投票で過半数を取り、決選投票に持ち込むことなく蓮舫は勝利した。

     なぜ蓮舫であったのか

     今回、参議院議員であり、女性として初めて民進党の代表に就任した蓮舫は、なぜ今回の代表選で選出されることになったのであろうか。知名度があり、旧民主党では代表を務めた経験がある前原誠司や、知名度は低いが官僚出身の経歴を持ち、民進党でも若手でフレッシュ感を強調していた玉木雄一郎がなぜ選ばれなかったのであろうか。代表に選出されるためにどんな手段を採用するか、という意味で各候補の戦略に着目することができるであろう。

     この問いを考察するためには、政治学・国際政治学で用いられるリンケージ論をもとに考えてみたい。このリンケージ論はもとは、選挙の時において、政党は有権者とどのように結びつき(言い換えれば「絆」と表現できる)、支持してもらっているのかを紐解く概念として利用されている。同じ選挙という過程を経る代表選挙においても、「政党」を民進党候補者に、「有権者」を代表選の投票権がある有権者へと置き換えることで、このリンケージ概念をある程度あてはめることが可能であろう。政党(候補者)と有権者を結びつけるリンケージには4つの戦略があるという。

    3、候補者と有権者の繋がり

     綱領的リンケージ

     まず、第一は綱領によって選挙民への応答性を示す綱領的リンケージ戦略である。ここでは、政策空間上に存在する選挙民の支持獲得にむけて、各党が競合する。政策空間上の選挙民は、自らの政策選好に従ってそれに近い支持政党を選ぶと想定される。この綱領的リンケージには党の目指す世界観、社会像を示し、包括的政策を示すものから、個々の有権者クラスターをねらった個別具体的な政策提供まで、かなり性格に幅がある。後者の場合、リンケージの性格はクライエンテリズム・リンケージとかなり近い。対象とする有権者の凝集性の有無が一応の判断基準となるがその違いは相対的なものとなりがちである。リンケージの性格としては、基本的には党派的で安定的なリンケージである。

     相対的位置による競合的リンケージ

     第二は、相対的位置による競合を作り出す戦略である。ここでも綱領的リンケージが使用されるが、政党は、実現したい世界観に基づく自党の固有の綱領的立場そのものを訴えるのではなく、政策空間上の相対的位置の違いを強調して競合する。他党との対立状況を描き出し、自党の相対的位置を印象付けることによって、有権者をひきつける戦略である。どのような対立状況を描くのかは、有権者のイデオロギー分布状況についての政党の認識と、選挙後の政権をめぐる戦略が大きく影響を及ぼす。第二のリンケージは政党の新しいリンケージ戦術の中でも重要な役割を果たしている。リンケージの性格としては、戦略による可変性の幅の広い選挙リンケージである。

     カリスマ的リーダーシップ・リンケージ

     第三は、魅力的で有能な政治指導者を示し、支持を調達するカリスマ的リーダーシップのリンケージである。これも、リンケージの性格としては、戦略による可変性の幅の広い選挙リンケージである。

     属性帰属意識リンケージ

     第四は、エスニック・マイノリティあるいは篤信的信者層といった属性に属している人々を集団として代表する、属性帰属意識や政党帰属意識に基づく競争性の低いリンケージである。リンケージの性格としては、基本的には党派的な安定的なリンケージである。

     これらリンケージは、複数あるという点である。また、リンケージごとに競合の様態は異なることになろう。リンケージの中でどのリンケージにどれだけ力を入れること他党と競合する上で有利か、という判断に基づく戦略の選択が、選挙民の支持をどれだけ手に入れられるかを左右する。そして、様々な政党のリンケージ戦略を基礎として、候補者間競合構造が形作られることになる。

    4、各論点での主張

     野党共闘

     9月2日の共同記者会見では野党共闘についてそれぞれ語った。蓮舫は「綱領、政策が違う政党と政権を目指すことはあり得ない」と強調するも、岡田体制で進めてきた選挙協力は評価を与えた。そして、「まず考えなければいけないのは、民進党の立て直し。共闘はその先の問題」であり、「党員の声に耳を傾ける」と、共闘関係の維持には留保する姿勢を語った。

     前原は「共産党主導で野党共闘はは絶対にダメだ。我々が主体の軸に変えなければならない」と主張し、「岡田路線はリセット」と全面見直しの考えを明らかにした。玉木も「我々が主導権を持ちながら、できるかどうかだ」と前原に同調した。

     憲法9条

     13日の日本記者クラブで、憲法改正についてもそれぞれ考えを明らかにした。蓮舫は「9条を守ってほしいという国民の声はとても大事だ。9条は守りたい」と9条の固守を主張した。玉木も「海外での自衛隊の武力行使を認めるような9条の改正には反対だ」と9条の改正には消極的な姿勢を見せる。

     一方で前原は「憲法に自衛隊の位置づけがない。党内でしっかりと議論すべきだ」と持論を展開した。民主党内でも保守系議員として蓮舫、玉木らに比べて一歩進んだ議論を展開していた。

     憲法改正

     9月8日、長野市での共同記者会見では憲法改正でのそれぞれの意見が述べられた。蓮舫は「地方主権は私たちの一丁目一番地」だと主張し、憲法8章の地方自治の改正に前向き姿勢をとった。9条改正反対で護憲派に配慮しつつ、それ以外のところの改正論議の可能性を主張することで、憲法改正に積極的な旧維新系議員の取り込みを図った。前原は憲法9条改正の言及が支持取り込みの不調をもたらしていることに深慮し、「憲法改正は最重要課題だとは考えていない。9条は守るが、自衛隊を憲法に位置づける」と、持論は曲げないが、積極的に9条を改正する考えではないことを強調した。玉木は「党内の憲法明言を1年以内にまとめる」として、憲法裁判所の創設や、環境権の明記を中心課題に掲げた。玉木は蓮舫と同じく、憲法改正について9条を絡ませた議論を避けた格好となった。

     消費増税

     9月5日、岡山市内での共同記者会見では、消費増税について触れた。蓮舫は「費用対効果の低いお金の使われ方を改善するのが大前提だ」として、2%の増税は「必ずすべき」と導入時期の明言を避けつつ言及した。前原は「今回(2017年4月)でもやるべきだったと思っていた」と述べ、行革は難しいと政権の時に感じた。財政論から逃げないことが大事だ」と、増税の前に行革を行うことが大事だと訴えた蓮舫をけん制した。玉木は「消費増税から逃げてはいけない」と語った。消費増税には前候補が前向き姿勢であり、消費増税をしないという選択肢を提示した候補は見られなかった。

     TPP

     9月10日には札幌で共同記者会見が行われた。北海道では農業が盛んであることから、TPPに関する主張がなされた。蓮舫は「米候補2人ともTPP反対だといっている。米国が批准しない可能性のものには明快に反対だ」と主張した。前原は2010年菅内閣がTPP交渉参加検討の表明が行われた当時、外務大臣として携わっていたことから、TPP参加の「方向性は間違っていない」と主張したが、一方で「交渉に入って得たものと失ったものが分からない」と反対の立場であることを訴えた。玉木も「民主党時代に検討したものとは異質になっているので反対」と述べた。TPPは全員反対しており、この問題にも3人の立場の違いは見られなかった。

     新代表としての方向性

     13日の外国特派員協会での会見では、蓮舫は「初の女性党首に選ばれるために手を挙げた。選択的夫婦別姓など変えてほしいと女性が思っている現実的なものから提案したい」と自分が女性であることを前面に押し出し、女性目線の政策を考えることを主張した。前原は「自民党に変わる新しい国家像、政策を打ち出し実行する」と、自民党と対決していく政党づくりを目指すことを主張した。そして玉木は「新しいリーダーが新しい政策を打ったいえることで変化の熱意を示す」と、これまでの党運営の見直しから民進党を変えていくことを掲げた。

     5、考察

     選挙争点とリンケージの作用

     では、この民進党代表選ではどんなリンケージが戦略として作用していたのだろうか。上記の各論点を見ても、基本的に3者には大きな違いが見えにくいという構造があった。野党共闘について、蓮舫は少なくとも岡田体制で推し進めてきた共闘については評価する姿勢ととったが、3人ともこのままの共闘路線を維持するかは留保するといった消極的な姿勢であるような印象を有権者に与えた。どの候補者も、まず「民進党リードで共闘を考えるべき」と主張したが、共産党の小池晃書記局長は「民進党リードで良い」と容認姿勢をとることで、民進党としては維持できる選択肢が残された代表選となっていた。結局、明確な反対姿勢をとる候補がいなかった点で、争点はなかった。

     憲法改正についても基本姿勢は3人とも改憲自体を否定せず、9条に関して前原のみ加憲と主張するに終始した。岡田体制で「3分の2をとらせない」と参院選に臨んだ民進党としては、実際には9条の改憲を反対している姿勢をとっていたものであり、この論点では前原がこれまでのあり方とは違う方向性を示した。

     消費増税やTPPといった論点でも3者とも増税には賛成の立場であり、TPPには反対という主張であった。論点への主張に大きな違いがない以上、明確な争点とはならず、どの候補になっても党としての基本スタンスは変わらないということを有権者に示した形となった。

     選挙期間中、最大の争点となったのは憲法9条をどうするかという点しか見受けられないような選挙に終始してしまっていたのではないだろうか。こうなると、第1のリンケージである綱領的リンケージでは、憲法9条について前原が蓮舫と玉木とは違うという戦略をとったということになる。だが、有権者には積極的にその姿勢を支持するような動きは見られなかった。第2のリンケージでも、3人は野党共闘路線の継承は保留で、次の新体制に移行した後にどうするか議論すると実質的に棚上げしたことで、論点としての性格を失わせてしまっていた。

     カリスマ性と属性の発揮

     第3のリンケージと第4のリンケージでは3人に大きな違いが出てくる。第3のカリスマ的リンケージでは、それぞれ戦略を立てていた。蓮舫は「初の女性リーダー」、前原は「元代表としての安定感」、玉木は「若手リーダー」と違いを見せていた。だが、カリスマ性を有権者が見出すとともにそれはネックにもなりうる。果たして女性が代表としてよいのか。あるいは一度は問題により辞任したリーダーをまた据えるのか。政治経験が浅い若者でよいのか。これらは後で語る有権者の態度で現れてくる。

     第4のリンケージである属性帰属意識リンケージでは蓮舫と前原が強調されていた。蓮舫の場合、女性であるということを強調することで、有権者の女性票の取り込みに有利に働いたとみることができる。自身の女性としての苦労を語り、女性が求めている政策に真摯に取り組むことができることを主張することで、これまでにはなかった新しい視点を民進党にもたらしてくれる期待感につながったと解釈できよう。

     前原の場合、民進党内では保守派として知られる。野党共闘では一定の成果をみせたといっても、保守派にとってその結果が限界だという姿勢をとることで、党内バランスを保守系に重きを置いた体制を作ろうとしたことで、岡田代表の下で進められた共産党や社民党といった左派政党との野党共闘の見直しを主張した。また憲法9条では、全面改正するのではなく、あくまで9条に第3項を加えて、自衛隊の位置づけを行うことを主張することによって、党内の保守派の支持掘り起こしを成功した。だが、同時に加えることで海外展開が可能になるようでは、9条を維持したいと考える護憲派にとっては支持できない主張であった。

     玉木は蓮舫、前原とことなり、属性帰属意識を取りづらかった。「若手」というだけでは、同じ「若手」である議員からの支持を取り付けるのが精いっぱいであり、次のビジョンを示すことにはつながらない。また、玉木は前原グループに所属しており、政治スタンスは前原と基本的に同じである。そうなれば、ベテランである前原の方がリーダーとしての期待感は高く、保守派の議員は若手の玉木より熟練な前原を選択することになることは想像に難くない。

     このように各4つのリンケージで違いが出たのは第3と第4のリンケージであった。代表選において論点に大きな違いが見られなかった以上、残されたのはリーダーとしてカリスマ性があるのかという点が有権者の選択肢に残された。属性帰属意識は政治スタンスやジェンダーといったポイントで大きく引き付ける魅力にはなるが、若さは属性としての要素にはなりにくい。特に今回のような政党のリーダーを決める場合、どのように党を運営していくのかが注目されるのであり、党の運営経験がほとんどなければ、期待感は希薄になる。

     読売新聞の動向調査に見る有権者の意識

     有権者はどのようなところで次のリーダーとして最適だと考えたのだろうか。9月6日、読売新聞が国会議員票の動向を調査した。その結果、蓮舫は国会議員の63人が支持しているとみられ、全体の4割を固めた。前原は35人、玉木は22人に留まり、蓮舫がリードしている情勢が伝えられた。

     それぞれの候補者の支持の理由を調査した結果、蓮舫の場合は「女性リーダー」による党の刷新に期待感を示しているのが理由として多い。前原は「加憲」持ち出したことで、保守系議員の支持を集めていたが、このことによって逆にリベラル系議員に対して支持の浸透がはかれていないのが浮き彫りとなった。また玉木に関しては、支持を表明している議員からは「地方のことを一番わかっているのは、香川県選出の玉木氏だ」とアピールするも、告示日に出馬が決まったことによる出遅れが響き、推薦人以外の支持獲得が広がっていなかった。

     また9月9日、読売新聞は公認候補予定者に対して調査を行った。蓮舫に40人が支持し、前原には21人、玉木には7人と、公認候補予定者においても蓮舫がリードしていることが明らかになった。

     都道府県連の幹事長に対する調査では、蓮舫は13つ、前原は7つ、玉木は2つの都道府県連が支持する意向であることがわかった。それぞれ支持する理由には、蓮舫は女性として「清新さ」や「発言力」が期待されていた。前原は「過去の経験」による「安定感」があるとされた。玉木を支持する理由には「若さ」と「イメージ頼みではない新しいリーダー」としての期待があるという認識であった。

     以上の各候補者への支持動向をみると、代表選は蓮舫が他2人を抑えて終始リードしていた。蓮舫を支持する理由には「女性」であることが大きな要因であった。時を戻せば、2016年は女性リーダーが大きく取り出されていた。6月のイギリスの国民投票の結果、キャメロン首相が辞任を表明し、エリザベス女王によって次の後継者が任命されたのはテリーザ・メイ議員であり、イギリスで2人目となる女性リーダーとなった。そして7月31日に行われた東京都知事選挙では都知事としては初めて女性である小池百合子が新都知事として就任した。このように、女性が活躍する時代との意識が、民進党の有権者の間にはこれまでネックであると考えられてきた女性という性差を乗り越え、女性でもリーダーを任せられるという意識に変えていった要因であるかもしれない。そのような時の情勢を蓮舫はつかみ、民進党代表という地位につけたのかもしれない。

     6、結論

     蓮舫新代表の課題

     以上、民進党代表選をリンケージとの関係で考察してみた。蓮舫が新代表に就任した理由として、女性でも代表として党を引っ張っていくことができる期待感が他の候補に比べて大きくリードしており、勝利につながったと解釈ができよう。

     だが、15日より新代表に選出された蓮舫新代表には課題が残る。9月13日、国会内で蓮舫は台湾国籍が残っていたことを認めた。これまで重国籍の可能性について、放棄したと説明していたこととの食い違いには、「私の記憶の不正確さによって、さまざまな混乱を招いた」と陳謝した。すでに6日に放棄を申請済みで、手続きが終わり次第、台湾籍が抜けることになるが、すでに党員・サポーターと地方議員の郵便投票は13日に締め切られている。蓮舫は党員・サポーターならびに地方議員の投票が完了した後で、台湾籍が残っていたことを明らかにした形となっており、投票した多くの人々はこと事実を知らないまま投票したことになり、蓮舫に対するマイナスイメージが残るのは必然であろう。民進党内でマイナスイメージが残るなかで、次の国政選挙で勝てるのだろうか。新執行部決定後、早々に挙党体制ではないのではないかと疑問視する声も聞かれる中、どのように戦略を立てていくのか。前途多難な船出であるのは間違いないであろう。国政選挙に臨む前に、党内有権者や政党支持者とのリンケージを失わないように注意を払わなくてはならない。


  • 都知事戦のまとめ

    2016-08-05 23:31


    泡沫候補も目立った選挙だったなぁ


    自民党が嫌いだけど、野党候補がダメだから=小池

    小池は魅力的だけど、自民党支持してるから=増田

    自民党が嫌いだし、小池も元は自民党だから=鳥越


    都知事選挙戦

    三候補の選挙戦

    告示日の14日、都知事選史上最多の21人が立候補、過去2回行われた都知事選で次点に終わった宇都宮健児も当初は出馬表明していたが、13日に出馬取りやめを表明し、小池百合子(無所属)、増田寛也(無所属、自公こ推薦)、鳥越俊太郎(無所属、野党連合)が主要候補として注目を浴びる。

    2020年東京五輪・パラリンピックの開催費負担や、待機児童解消などの社会保障政策、首都直下地震に備えた防災対策も焦点とされた。また、小池は自民党東京都連と対決姿勢で事実上の「保守分裂」また共産党を含む野党連合が擁立した鳥越俊太郎は美濃部亮吉以来の革新知事誕生の可能性を秘めている選挙であった。

    主要候補の第一声

    野党統一候補として立候補した鳥越はJR新宿駅東南口で「大事なのは税金がちゃんと使われているかどうか。都民に都政を取り戻す」と強調した。

    自民、公明、こころが推薦する増田は千代田区の選挙事務所前で「混乱に終止符を打つ」とした上で、子育て、高齢化、災害に対する不安解消に努めると訴えた。

    自民党から推薦を得ずに出馬した小池は池袋駅西口で「一握りの人がどこで何を決めているか分からないような都政をやめる」と主張した。

    告示後からの大きな動き

    増田寛也は渋谷、原宿を練り歩き、若者と積極的に写真撮影を行うなど、当初から懸念されていた知名度アップを図っていた。

    小池は17日秋葉原で行った街頭演説中に「この人なら勝てると言って、政策も何もない人、病み上がりの人をただ連れてくればいいというものではないんです」と対立候補の鳥越を揶揄した。また、秋葉原という土地柄に配慮し、「東京全体をアニメランドに」と当初なかった公約を発言した。石原慎太郎も同様の問題に取り組んできた経緯があるため、秋葉原での発言は、反対意見をもつ層に切り込み、支持者の獲得を意図したものであった。

    これに対して、鳥越はフジテレビ系番組『バイキング』内で、「がんサバイバーへの差別・偏見だ」と抗議した。これに小池は同番組内で鳥越に謝罪する場面がみられた。

    この時点で、鳥越は他の主要候補と比べて演説が少なく、都政に関する話がとりあげられている動きはなかった。巣鴨に鳥越の街頭演説を聞きに来た有権者からは、鳥越が登壇するも、すぐに有名歌手にバトンタッチして、ほとんど語らなかった姿勢に対して「馬鹿にしている」といった声もみられた。この主要候補と目されていた鳥越俊太郎の動きの悪さから、世論調査では増田、小池の後を追う形となって、当選レースから脱落していくことになる。

    20日、自民党は「劇場型選挙」を展開する小池に票をリードさせてはならないとし、自民都連が推す増田陣営の支持が伸び悩みを見せているなか、小池に票を奪われないための引き締めを行ったが、一方で小池には処分保留の姿勢を見せていた。小池の当選も視野に入れていることは明白であった。

    21日発売の週刊誌が鳥越が過去に女性問題を起こしていた記事を掲載。鳥越は同日に名誉棄損と公選法違反の疑いで東京地検に告訴状を提出した。

    民進党代表定例会見において、岡田代表は憶測記事がこの時期に出ることは問題と苦言を呈する。だが、鳥越の支持の伸び悩みは女性スキャンダルよりも選挙期間中1日2回しか街頭演説を行っておらず、他の候補に比べて圧倒的に演説回数が少ないことで、有権者からは高齢や体力的な問題を想起せざるを得ないこともあった。

    終盤情勢

     24日の毎日新聞の世論調査によると、小池、増田、鳥越の順番で支持が集まっているという。投票を決めている無党派のうち3割が小池、2割が鳥越、1割が増田だった。

    小池は無党派のほかに、自民支持層を獲得するだけでなく、民進、公明、共産支持層から2割を集める。一方で増田は、自民支持層を固め、公明支持層も6割を固めており、組織としての引き締めが効果を表していた。選挙戦序盤、リードしていた鳥越は野党4党支持層のそれぞれ6割を固めているが、序盤に獲得していた無党派層が離れており、苦戦の様相を呈していた。

     25日の朝日新聞ほか、読売新聞や日経新聞の世論調査でも選挙をリードしているのは小池であり、増田、鳥越の順で追随していた。終盤戦になっても基本的にこの構図は変わらず、小池の優勢が変わることがなく、増田と鳥越を引き離す一方であった。

    投票結果

    地域別得票

    31日、開票時刻である午後8時過ぎに当確が出たのは小池であった。投票結果は、小池百合子は291万票を獲得した。自公こが推薦した増田寛也は179万票を獲得、野党4党が推薦した鳥越俊太郎は134万票を獲得した。

    地域ごとの得票を見ると、小池は中央区と、自身が衆議院として選出されていた東京10区の該当地域である豊島区で5割を超える票を獲得したが、東京全体では満遍なく4割強の票を獲得していた。

    増田寛也は23区では下町である江戸川区で3割の得票を得たものの、平均で2割8分の票を得た。立川市や八王子市など東京の西側地域では3割を獲得していた。また、檜原村で4割、離島地域である利島村では5割を獲得するなど、東京でも農村部で高い得票を示していた。

    鳥越俊太郎は全体で平均2割1分の得票を得ていたが、特に中部の武蔵野市、小金井市、国立市などでは2割5分と平均より高い得票率を示していたが、伸び悩みをみせている。
    (各候補の平均以上に獲得した地域一覧はページの最後に掲載)

    主要3候補の獲得票率は平均で92%と総得票数のほとんどをこれら候補が得ていた。

    朝日新聞出口調査での投票傾向

    朝日新聞の出口調査では、小池には無党派層の51%、自民支持層の49%が投票し、民進支持層から28%、公明支持層から24%が投票していた。さらに共産支持層の19%も投票するなど、支持政党を超えて全体から得票を得ていた。勝因としてはやはり、第一に、本来は増田に投票するはずだった自民支持層のほぼ半分を獲得した。第二に、やはり当初は鳥越に支持が集まると考えられていた無党派層の半数を獲得した。この増田と鳥越の両陣営が獲得する予定であった得票の半分ずつを小池が得たことが大きい。

    増田は、自民党が組織の引き締めをしたにも関わらず40%しか得票を得られず、過半数にも届かなかった。だが、公明党からは69%の得票を得ていた。やはり自民党が支持する増田に公明党も推薦していたことで、組織として増田を支えていたが、当の自民党が小池と増田に分裂していたことが得票を伸ばせなかったとみてよい。

    鳥越は共産支持層からの得票が一番多く、67%を獲得していた。だが、民進党からは56%の得票と伸び悩み、肝心の無党派層も19%しか獲得できなかった。


    選挙結果

    全体の結果

    結果として291万票を獲得した小池が舛添の後任として、新しく都政に携わっていくこととなった。

    今回の選挙の構図は非組織の小池、組織の増田、知名度の鳥越という三者三様の持ち味があった。そのほか泡沫候補を含めると過去最大の21人が立候補しており、キャラ立ちした選挙であった。だが、その実相を考えてみれば、小池は自民党から推薦を得ずに出馬したが、党籍は残しており、自民2候補対野党候補という点では自民党に有利な選挙であった。そうした選挙であっても、小池は「東京大改革」と称し、自民都連のあり方を問題視するなど、自民党所属候補でありながら、自民党と対決するという小泉流の「劇場型選挙」を展開することによって無党派層の取り込みに成功し、大量得票につながったといえる。

    地方選挙と投票率

    今回の選挙の投票率は59%と半月前に行われた参議院選挙よりも投票率が高かった。これまでの地方選挙であれば、新聞社は社会部が担当しており、報道も少ない。ところが、6月の舛添辞任から今後の新都政の動きに関して注目が集まった。参議院選挙の公示においても、注目候補が参議院へ出馬するのか、あるいは都知事選に立候補するのかといった報道があった。このように1ヶ月前から都知事戦に注目が集まり続け、新聞社は社会部だけではなく政治部も都知事選を取り扱うなど、全体として参議院選挙よりも注目された選挙であった。

    つまり、東京においては、国政選挙である参議院選挙が前座的扱いになっており、都知事選挙が本番として扱われていたのである。

    投票が最大の、そして最も基本的な政治参加である民主主義においては、投票率が高いことは良いことである。選挙にいたる過程の問題があるにせよ、投票率が3割あれば良いといわれる地方選挙で高い得票を得た今回の都知事選は高い評価ができるだろう。