【法律・会計】政教分離と神社修繕費にかかる補助金について
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【法律・会計】政教分離と神社修繕費にかかる補助金について

2016-11-21 19:00

    事例から物事を捉えるということは、非常に重要な視点である。
    司馬遷の『史記』は、編年体ではなく紀伝体という形式で記述されている。
    伝記という形式に近いが、その趣旨は、時系列的に無味乾燥に物事を追って行ってもその本質が見えてこないためである。
    そして、それは他の学問領域にも当てはまるように思う。

    そんなこんなで、今回も、事例から法学上・会計学上それぞれの側面から考察を行っていきたいと思う。
    今回は、タイトルにあるように、政教分離をメインに扱っていきたい。
    ※ところで、平成24年司法試験公法系第一問、つまり憲法の問題は、政教分離(神社に対する公金の支出についての合憲性)であった。
    この背景にあるのは、前年3月11日に発生した東日本大震災である。
    少なくとも、当時の法律雑誌『法学教室』には、そのような旨記載があったことを記憶している。
    それを踏まえて、さっそく事例を見ていきたいと思う。


    ①事例その1(阿蘇神社)

    【阿蘇神社復旧が本格化】2016年11月06日
    【読売新聞】

     「熊本地震で国指定重要文化財の楼門が倒壊するなどした阿蘇神社(熊本県阿蘇市)の復旧工事が5日、本格化した。
     復旧工事を行うのは、国の重要文化財6棟を含む14棟。10月31日に安全祈願祭を行い、今月1日に着工した。5日は初めてクレーンなどの重機が入り、倒壊した拝殿に通じる回廊の屋根部分をつり上げてブルーシートの上に置いた。
     
    (クレーンでつり上げられ、ブルーシートの上に置かれる阿蘇神社の回廊の屋根部分)

    神社によると、重要文化財6棟のうち5棟は2017年度まで、残る2階建ての楼門は22年度までに工事が完了する見通し。6棟の復旧費は総額9億3000万円と試算され、9割以上を国と県が負担する。重要文化財指定を受けていない拝殿など8棟については、神社が自力再建を目指している。


    2016年4月14日に熊本県を中心に大地震が発生したことは記憶に新しい。
    熊本城など、国の重要文化財が損壊した映像が鮮明に思い浮かぶ方が多いと思う。

    当然、熊本城のみならず、阿蘇神社やその他大小さまざまな神社仏閣が倒壊・一部損壊の被害を被った。

    問題は、その被害額に対して公金はどの程度支弁され得べきかである。
    これには以下の二つの限界が存在する。


    ②法的限界(政教分離)

    世間一般によく耳にする政教分離(20条1項後段他)というのは憲法上の規定ではあるが、人権ではない。
    あくまで、同条に規定している信教の自由を制度的に保障するためのもの=制度的保障である
    すなわち、政教分離とは、「信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。」という「信教の自由」を、政教分離という制度を保障することによって、信教の自由の侵害に対する防波堤の役割を果たしているものなのである。

    したがって、政教分離に反する公金支出は、憲法違反となる(厳密には、国家賠償法に基づく賠償請求や地方自治法に基づく住民訴訟などの手続きにおいて、憲法違反を訴えることになる)。
    もちろん、憲法違反になる行政行為は行うことができないため、特定の宗教団体に公金を支出することはできない。
    神道・仏教・キリスト教・イスラム教・その他・・・
    こういった特定の宗教に対して国や自治体などが肩入れすると、他の宗教(特に弱小宗教団体や新興宗教団体)は、公権力と当該宗教が結託することによって生じる様々なプレッシャーによって、信教の自由が委縮してしまう危険がある。
    ※靖国神社の参拝は、神道と国家の結びつきにおいて信教の自由を侵害するおそれがあるため、政教分離が問題となっているものであって、中国韓国などの外交問題として大げさに煽るべきではないように思われる。

    政教分離規定は、もとはアメリカから移植されたもので、レモンテストなどのアメリカ判例を参考に運用しているのが実際である。
    ここに大きな欠陥がある。
    それは、震災などによって倒壊した神社仏閣に対して補助金を出せなくなってしまったということである。

    震災によって、道路や学校、病院などなど・・・さまざまなインフラがダメージを負ったが、それらは全て、国土交通省や文部科学省から補助金が支出され、ある学校では、補助金をあまらせるといけないからと、もらった補助金でグラウンドを人工芝に変えた学校もあった。
    ※学校は、修繕費という名目で、その1/2が施設整備費という名で補助されている。

    一方、神社は、政教分離の観点から、震災にあっても補助金が出ることはないのである。
    学校や病院などは、耐震性強化や震災被害などの観点から国や自治体からも補助金が出るが、木造建築で建築構造に脆弱性を内在している神社仏閣に対しては、補助金が出ない。
    つまり、重要文化財に指定されなければ、文化庁から補助金が交付されないのである(文化財という名目であれば、使途が政教分離の議論から切り離すことが可能だからである)。
    翻って、文化財に指定されなかった建物は、猫の額ほどの賽銭や玉串料云々、その他寄付金・義捐金で賄うしかない厳しい財政状態に陥る。


    (神社仏閣は、得てしてこのように、名前を寄進者として掲載する代わりに寄付金を集めて修復費を稼いでいる。今風にいえば、クラウドファンディングである。)


    (京都の芸能神社は、修復に限らず、広く芸能活動にご利益があるという縁で寄付する著名人が多い。)

    西欧は、基本的には地震が頻発しないため、レンガ造りの建物が目立つ。実際のところ、ヨーロッパでは、不動産登記は1つしか存在せず、土地と建物が一体化している。
    他方、日本は古来から地震や火事によって建物が倒壊する危険をはらんでおり、不動産登記は土地と建物の2つ存在する。
    つまり、日本は、他国と比べてかなり特殊性があり、そのまま政教分離を杓子定規に運用して、補助金の支出を渋ることには(震災を考慮していないという点で)問題があると思われる。
    もちろん、判例の解釈論はすばらしく、精緻に理論化され、学会においても日々研究が進んでいることには大いに賛辞を送りたい。
    だが、我々のライフスタイルにはもとより、観光資源にも大いに貢献している神社仏閣等には、大幅に文化財指定を認める、要件を緩和する、あるいは補助金額を増やす、または震災のつど特別立法を行うなどして立法論の側面からフォローしていくことも考えていかねばならないだろう。



    ③会計的限界・収益的支出(修繕費)と資本的支出


    (左が収益的支出=当期の費用となる。右が資本的支出=当期の資産となるため、減価償却費を通じて毎期費用化する)

    会計学上は、建物を修繕する場合、その修繕支出は、収益的支出と資本的支出に分かれる。
    資本的支出というのは、耐用年数を延長する効果をもつものであって、既存の建物の増改築と同義である。
    だが、実際のところ、資本的支出が行われることはほとんどないように思われる。
    むしろ、修繕するのもままならず、そのまま耐用年数を超えて使い続けている公共設備ばかりが目立つ。

    各自治体でトンネルの崩落事故や道路の陥没事故などが生じているのもその証左であろう(当然それ以外の要因もあるにはあるだろうが、設備更新が間に合っていない自治体が多いのは紛れもない事実である)。

    つまるところ、建物を増改築するどころか、耐用年数を過ぎてまで、ずっとその建物や設備を使用し続けるしかないのである。
    とりもなおさず、それは国も自治体も予算がひっ迫しているからに他ならない。
    ※多くの基礎自治体では、固定資産の台帳で備忘価格1円(減価償却しきってしまっているがデータ上残しておくため、金額を1円)として資産登録しているのではないだろうか。もちろん、つぶさに検証したわけではないが、すべてを更新している自治体はまず無いだろう。



    以上のように、神社に対する補助金には、法的限界(政教分離)会計的限界(予算が無い)が存在しているため、結局は、各々が自助努力するしか他ないのである。



    ④事例その2(下鴨神社)

    【世界遺産:下鴨神社マンション問題 ユネスコへ緊急署名】2016年11月18日
    【毎日新聞】

    世界遺産・下鴨神社(京都市左京区)境内のマンション建設問題で、周辺住民らでつくる市民団体「糺(ただす)の森未来の会」など3団体は17日、国連教育科学文化機関(ユネスコ)世界遺産センターに提出する国際緊急署名が1万1787筆集まったと発表した。文化庁や府、京都市に対し、世界遺産保護のための適正な措置をするようユネスコが勧告することを求めている。署名は月内に郵送し、来年1月にも住民代表がパリの世界遺産センターを訪問するという。
     京都市役所で記者会見した住民側代理人を務める中島晃弁護士(京都弁護士会)は「銀閣寺側の半鐘山の宅地開発では世界遺産センターが(日本政府に)一定の見解を出したことで見直された例がある」と説明した。
     住民らは同日、マンション建設に関連した倉庫建設計画に市が都市計画法上の許可を出したことについて、市建築審査課を訪れ、神社側に周辺住民の同意を得た上で計画を進めるよう指導することなども要請した。


    (マンション建設を予定している下鴨神社。世界遺産であっても財政的にひっ迫しているということが伺える)

    式年遷宮という改修工事費用が足りないということで、下鴨神社がマンションを作るとの計画を発表したのは去年のことである。
    マンション建設の狙いとしては、安定収入を得、式年遷宮費用に備えることが主目的である。
    マスコミやその視聴者は、現在も賛否両論に分かれているが、そういった自助努力をしなければならない神社側の置かれている現状(二つの限界)を認識したうえで議論すべき問題であるように思う。


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