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  • 月は、暗闇に恋をした

    2018-05-17 23:39


    耀 静葉(ひかり・しずは):才色兼備、文武両道の美少女。本物の天才。何でも出来てしまうことから日々に何の感動も見出せないでいる。

    柊 姫乃(ひいらぎ・ひめの):無垢で可憐な少女。いじめを受けているが、誰かを憎むなどという発想を持たず全ては自分のせいだと考えている。

    志賀 なつき(しが・なつき):いじめっ子の少女。普段は明るく快活なムードメーカーだが、姫乃に対する歪んだ感情から姫乃に辛く当たる。

    野木 若奈(のぎ・わかな):なつきの親友。京都出身のお嬢様で静葉に迫る美少女で秀才。静葉を除けば、貴澄と並んでツートップの人気を持つ。

    大路 貴澄(おおじ・きすみ):静葉の幼馴染。所謂、イケメン系美人で女子生徒からの絶大な人気を持つ。人を見下す癖があるが、その観察眼は確か。

    風見 春香(かざみ・はるか):愛玩動物系の庶民派美少女で、放っておけないと周囲に思わせるタイプ。静葉に憧れている。

    泉 志保(いずみ・しほ):春香の友人。ダウナーな気質で基本的に何事にもやる気が無い。しかし、勘が良くよく気付く。


    姫乃
    『私は愚図(ぐず)で役立たず。
     物心ついた時には、私はいつもそうやって言われていた。
     いじめられるのが当然で、そういう星の巡り合わせ。だから私は今もここで、変わらず誰かに虐(しいた)げられる』

           □

    静葉
    『いつからだろう。私が、天才と呼ばれたのは。
     いつからだろう。私が、何の達成感も得られなくなったのは。
     出来ないことなんて無かった。出来ないことが、ほしかった――』

           □

    春香
    「あ、おはようございます静葉様っ」

    志保
    「静葉様、おはようございます」

    静葉
    「おはよう。二人とも」

    春香
    「はぁ~。静葉様、本当にいつも綺麗だよね。
     その上、凜々しくて優しくて、何でも出来ちゃうんだから。もう、凄く憧れだよぉ」

    志保
    「本当にねぇ。非の打ち所が無いっていうのは、ああいう人のことを言うのかしら。
     完璧すぎる人って現実に存在するんだって、会う度に毎回思うわ」

    春香
    「うんうん。なんていうか、あれだよね。
     出来ることなら、一度はああいう人になってみたいよね!」

    志保
    「あー、うーん。私はいいかな」

    春香
    「えっ、何でっ!?」

    志保
    「だって何か、疲れちゃいそうじゃない?」

           □

    貴澄
    「おはよう、静葉。今日も何となく憂鬱そうだね」

    静葉
    「貴澄(きすみ)……。おはよう、私を見てそんなことを言うのはきっと貴方くらいのものよ」

    貴澄
    「はは。他は随分とよそよそしいものね。
     まあ、相手が財閥の娘でオマケに文武両道の美人じゃ話をするのも気が引けるってものだろう。僕は、ずけずけ行くけど」

    静葉
    「図々しいこと」

    貴澄
    「何だ、幼馴染のよしみじゃないか。そう、ツンとしなくてもいいのに」

    静葉
    「幼馴染だから素でいるだけよ。
     後、気付いていないかもしれないから言っておくけど。私、貴方のこと嫌いだから」

    貴澄
    「大丈夫、知ってる」

    静葉
    「……」

    貴澄
    「僕は性格が悪いからね。
     他は上手く騙せても、君には全部お見通しだろう。嫌われて当然だ。
     でも、本質を知る者同士。仲良くやっていくのは悪くないことだと思うけど?」

    静葉
    「残念、意見の相違だわ。
     私は、損得勘定以上に貴方と話していたくないの。
     そうね、一際目立つ濁りきった瞳が嫌い。眼を合わせたら吐き気がしそうでね」

    貴澄
    「驚いた。学園生徒達の麗しの星、かの静葉様から暴言が出るとは」

    静葉
    「わざとらしく敬称をつけるのはやめなさい。
     他と違って、貴方は私に憧憬(どうけい)を抱いているわけでも無いでしょう?」

    貴澄
    「まさか。尊敬しているよ、君の才能は。是非、僕にも分けてほしいものだ」

    静葉
    「あげられるものなら幾らでも。
     けれど、こればかりは生まれ持ったものだからね。
     何があっても渡せないし、捨てることも出来ないわ。一生涯、ね」

    貴澄
    「それは、羨ましい限り。
     不満そうなのが非常に不可解だよ」

    静葉
    「貴方には、分からないわ。
     人を見下すことしか考えていない、貴方のような人には」

    貴澄
    「……行っちゃったか。
     でも、静葉。無意識に、人を有象無象としか思えていない君のような人間には。僕も、言われたくないかな」

           □

    姫乃
    『私がいじめられるのは、全部私のせい。
     私がいじめられるのは、全部私が悪い。
     生まれるべきじゃなかったガラクタ。それが、私という人間だから』

           □

    若奈
    「なつき。もう、やめといた方がええんちゃう?」

    なつき
    「止めないで、若奈。
     こいつはまだまだ大丈夫。結構、頑丈なんだから」

    若奈
    「そうは言うてもなぁ」

    姫乃
    「ぁ……が、はっ。うぐっ」

    若奈
    「病院送りとは言わんでも、これは割と重体やと思うで」

    なつき
    「いやいや。ちょっと血が出てるだけっしょ。
     切り傷も、打ち身も、まだまだ足りない。そりゃあ、親に見つかったら困るって言うんだったら私も控えるけど、さっ」

    姫乃
    「痛っ……!」

    なつき
    「こいつの所の親は全部見て見ぬフリ。
     幾ら傷をつけたって、何も文句は言われないよ」

    若奈
    「好きやねぇ。サディズム言うんかな、そういうの。加虐性愛(かぎゃくせいあい)?」

    なつき
    「まさか。これは、虫が自分の周りをうろちょろしてたら鬱陶しくて潰したくなる。それと、おんなじ感覚だよ」

    姫乃
    「あぎぃっ、はぁ、はぁ……ぁ、ぁぁ」

    若奈
    「えげつないこと言うて。
     姫乃ちゃんは、立派な人間やろうに」

    なつき
    「これのどこが。良くて、汚い置物でしょ?」

    若奈
    「きっつ。なつきはほんま、その娘のこと毛嫌いしとるなぁ。
     普段となんかテンションちゃうし。あーあー、恐ろしいわぁ」

    なつき
    「別に、こいつ以外には普通だし。若干距離とるのやめてくれない?」

    若奈
    「あはは。いじめっ子が、何を可愛い反応してんねん。そんな私のことが大事か?」

    なつき
    「からかわないでよ、もう。全く、やる気が削がれちゃったじゃない」

    若奈
    「じゃ、そろそろ行く?」

    静葉
    「――何を、しているの?」

    若奈
    「えらい怖いべっぴんさんも、やって来はったみたいやしな」

    なつき
    「し、静葉さまっ!? あ、あの、これは……」

    静葉
    「わざわざ、隣のクラスの子を可愛がるなんて随分と御苦労なことね。志賀なつきさん」

    なつき
    「あ、あ……。ごめんなさい。わ、悪気は無くて」

    静葉
    「言い訳は結構。今すぐここから失せなさい。
     後、国語か道徳の勉強をすることをおすすめするわ。でなきゃ、悪気が無くてこんなことは出来ない」

    なつき
    「す、すみませんでしたっ!」

    静葉
    「貴方も、共犯?」

    若奈
    「止めてた側やな、実際。
     ただ、見とった側でもある。私はあの子の友達やからな。味方してたら、いつの間にかワルモンになってもうてたわ」

    静葉
    「友人は選ぶことね。もしくは、その友人が大切ならしっかりと道を正すことよ」

    若奈
    「肝に銘じとく。行動に移すかは、置いといてな」

    静葉
    「……」

    若奈
    「さいなら、才色兼備のお嬢様。
     くれぐれも、なつきを悪いようにはしたらんとってや」

    静葉
    「調子の良いことを」

    姫乃
    「げほっ、げほっげほっ」

    静葉
    「っ、大丈夫?
     ……酷い怪我。すぐに保健室に」

    姫乃
    「良いん、です。私は何とも。これくらい、平気だから……。
     それより、すみません。学園の憧れ、静葉様のお手を私なんかが煩(わずら)わせてしまって……」

    静葉
    「そんなこと気にしないで。
     貴方、ズタボロなのよ。こんな時は、自分の心配をしなきゃいけないわ」

    姫乃
    「ぁ……。静葉様は、お優しいんですね。
     そんな風に言ってもらえたの、いつぶりか分からないです」

    静葉
    「――」

    静葉
    『向けられたのは、混じり気の無い純粋な微笑み。
     怒りも、憎しみも、痛みも、苦しみも。どこか遠くに忘れてきたような、無垢な瞳。――なんて、強く儚い』

    静葉
    「貴方、名前は?」

    姫乃
    「え?」

    静葉
    「名前よ。名前を、教えてほしいの」

    姫乃
    「……柊、柊姫乃(ひいらぎ・ひめの)です」

    静葉
    『私はきっと、一生人を好きになることが無い。ずっと、そう思っていた。この瞬間までは』

           □

    貴澄
    「おや、偶然。今日は随分とオシャレだね。
     デートか何かかい? 遂に、君にも気になる人が出来たとか」

    静葉
    「さて、どうかしら。
     それより貴方、眼に毒よ。生まれ直して、心を洗った方がいいんじゃない?」

    貴澄
    「切れのいいことだ。それと、浮かれている。
     まさか、本当に誰かとお付き合いを始めたのかな? 君は、人間の心を持たないと僕の中ではもっぱらの噂だったんだが」

    静葉
    「奇遇ね。私も、私に対して近しいことを考えていた時期があったわ。
     けれど、どうやらそういう訳じゃないみたい。それが、分かったの」

    貴澄
    「思い違いではなくて?」

    静葉
    「思い違いかもね。でも、そうだとしても私には真実はいらない。
     こんな感情になれるのなら、永遠に思い違ったままでいいと思ってる」

    貴澄
    「ふん、相当にお熱なようだ。だが、恋の病は重いものと聞くからね。
     もしもの時は、気兼ねなく僕に言ってくれ。腕の良い医者を紹介するよ」

    静葉
    「解剖でもされるのかしら」

    貴澄
    「君は本物だからな。それも、結構有りかもしれない」

    静葉
    「なるほど。貴方にだけは、何も頼まないことにするわ」

           □

    姫乃
    「行ってきます」

    姫乃
    『暗い部屋に一人。
     ぽつんと佇む母親に、私はそうやって声をかける。
     けれど返事は一切無くて、その顔も眼もこちらを向くことは無い』

    姫乃
    「……」

    姫乃
    『変わらない、いつも通り。
     最後にこの人の眼が私を見たのは、一体いつの頃だったろう』

           □

    なつき
    「むかつく……!」

    若奈
    「なんや。随分荒れてるなぁ、なつき」

    なつき
    「だってあいつ。あの蛆虫、最近調子乗りすぎでしょっ。
     放課後行くと、いつも静葉様と話してるとか。マジで有り得ないんだけど……!」

    若奈
    「そうは言うてもなぁ。
     あれ、その静葉様が姫乃ちゃん誘ってんのやろ? 姫乃ちゃん自体は、いつも通りちゃうん?」

    なつき
    「それが、むかつくの!」

    若奈
    「はぁ、理不尽なやっちゃなぁ」

           □

    静葉
    「姫乃」

    静葉
    「待たせてしまったかしら」

    姫乃
    「いいえ、静葉様。私も、今来たばっかりです」

    静葉
    「なら良かったわ。じゃあ、行きましょうか」

    姫乃
    「はいっ」

    静葉
    「まずはお昼よね。姫乃は何が食べたいとかある?」

    姫乃
    「そう、ですね。私は、静葉様の食べたいものが食べてみたいです」

    静葉
    「私の食べたいもの……」

    姫乃
    「静葉様? 私の顔に、何かついていますか?」

    静葉
    「つぶらな瞳に、長い睫毛。愛らしい鼻と可憐な唇」

    姫乃
    「え?」

    静葉
    「貴方の顔に、ついているもの。
     他にも色々あるけど、その4つが私は好き」

    姫乃
    「え、えっと」

    静葉
    「ふふ、困らせてしまったかしら?」

    姫乃
    「あ、いえ、その。今みたいに褒められたことは、今まで一度も無かったから。
     少し、戸惑ってしまって。あ、ありがとうございますっ!」

    静葉
    「かしこまらなくていいの。
     学園でも何回か言ったでしょう。普通に接していいって」

    姫乃
    「でも、静葉様はみんなの憧れで。目標で。理想の人ですから。中々難しくて」

    静葉
    「無理強いはしないけどね。
     徐々に砕けてくれると嬉しいわ」

    姫乃
    「努力します。なんていうか、恐れ多いですけど」

    静葉
    「私はただの女子高生よ。貴方と同じ、女子高生。
     ところで姫乃、さっき答えてなかったお昼のことなんだけど。あそこなんてどうかしら?」

           □

    姫乃
    『あの人は月。
     暗闇という嫌われものさえ、優しく静かに照らしてくれる。銀色の月』

           □

    姫乃
    「美味しかったですね、さっきのお店。デザートも、とても甘くて」

    静葉
    「お気に召したかしら」

    姫乃
    「それはもう。ただ、少しだけ不安になっちゃいますね。
     こんなにも幸せな時間を過ごしてしまって、本当に良いのかなって。罰(ばち)が、当たってしまうんじゃないかって」

    静葉
    「おかしなことを言うのね。
     幸せであることに、罪なんてあるわけ無いのに」

    姫乃
    「そうですよね、そうなんですけど」

    静葉
    「姫乃は、自分が嫌い?」

    姫乃
    「……かも、しれません。
     自信が無いんです、自分に。必要とされたことが無かったから」

    静葉
    「私は、姫乃が必要だと思ってる」

    姫乃
    「ありがとうございます。私、とても嬉しい。
     けれど、どうして私なんですか。一緒にいるのに私を選ぶなんて、普通じゃ考えられません。
     他にもっと幾らでも、隣にいるのに相応しい人がいるはずじゃないですか」

    静葉
    「いないわ、そんなの。
     私には、貴方だけが特別なの。だって」

    姫乃
    「ぁ……」

    静葉
    「私、貴方が好きなの。友達としてじゃなく、愛しているという意味で。
     分かるでしょう、この胸の高鳴りが。貴方以外じゃ、こんなにどきどきしたことは無いわ」

    姫乃
    「静葉様……」

    静葉
    「軽蔑した? 女なのに、女の子を好きになった私のことを」

    姫乃
    「まさか。そんなわけ、無いです。私だって……。
     けど、駄目。静葉様が私なんかを好きにだなんて。そんなの、いけませんよ。
     私は貴方と釣り合わない。私は人を、不幸にする人間なんです」

    静葉
    「それは、どういう」

    姫乃
    「私の母は、私が父親に乱暴されてから精神を病みました。
     父親は、私に暴力をしたから刑務所に行きました。友達は、私へのいじめに抗議していじめられました。
     先生は、私を犯罪者から守ろうとして殺されました。犯罪者はその後、事故で亡くなりました。良くしてくれた先輩は、病気で」

    静葉
    「……」

    姫乃
    「面白いくらいに。笑えないことが、身の回りでたくさん起こるんです。
     疫病神というのが、もしいるんだとしたら。それはきっと、私のことなんですよ。だから――」

    静葉
    「――関係ないわ」

    姫乃
    「え」

    静葉
    「私にとっては、どんな不幸も貴方といられるなら受け入れられる。
     貴方といられないことが、一番の不幸だから」

    姫乃
    「なんで、そんなに」

    静葉
    「さあ。理屈なんて、知らない。それに、いらないわ。
     私が欲しいのは、貴方の素直な答えだけ。ねぇ、姫乃。教えて。貴方は、私のこと好き?」

    姫乃
    「……はい。好きでした、以前から。貴方が私を知る前から、私は貴方を見ていました。
     そして。好きです、今も。貴方が私を知って、私を見てくれてから。思いは、もっと強くなって。胸が、はち切れそうで」

    静葉
    「ありがとう、愛してる」

    姫乃
    「静葉様……っ。私も、私も愛してますっ」

           □

    静葉
    「帰り、気をつけてね。最近は事故も多いから」

    姫乃
    「はい、静葉様も。
     それじゃあまた明日、学園で」

    静葉
    「……簪(かんざし)。初めての恋人からの、プレゼント、か」

    静葉
    「私いま、満ち足りてる。心が、満たされてる」

    静葉
    『あぁ、姫乃。貴方となら、この先もずっと――』

           □

    なつき
    「あれ、姫乃?」

    姫乃
    「あ……」

    なつき
    「へえ、珍しいじゃん。
     外で会うなんて。ちょっと、こっち来てよ」

    若奈
    「なつき。流石に外では自重しいや」

    なつき
    「嫌よ。しばらく分、溜まってるんだから。
     外だろうがどこだろうが、ボコしてやらないと気が済まないっての」

    姫乃
    「えっと」

    若奈
    「ごめんな、姫乃ちゃん。
     やばい思ったら止めるさかい、ちょっとだけ堪忍したってや」

    なつき
    「ほら、ちゃっちゃと来なさい。こっちは、苛々してるんだから」

    姫乃
    「あっ、やめて、下さい」

    なつき
    「はぁ? 姫乃、あんた誰の許可があってこの私に口答えしてるわけ?」

    姫乃
    「あぐっ」

    なつき
    「この、クソ女!」

    姫乃
    「あうっ。あ、はぁ……は、ぁ、ぐぅぅ」

    なつき
    「少しは自分の立場が分かった? ほら、分かったら早くこっちに――」

    若奈
    「――なつき、動いたらあかん!」

    なつき
    「へ? トラック?」

    姫乃
    「っ、危ないっ」

    なつき
    「……ぇ」

    若奈
    「居眠り運転が。急に突っ込んできよって」

    なつき
    「ぁ……ぁ、ぁ…………ぁぁ。ぁぁ、ぁ、ぁぁ、ぁぁっ」

    若奈
    「なつき」

    なつき
    「わ、わわ、若奈っ! ど、どうしよう……! ひっ、ひ、姫乃がっ!」

    若奈
    「助け呼び」

    なつき
    「へ?」

    若奈
    「助け呼ぶんや!
     医療に携わる仕事してる人、そのへんから探して引っ張ってきい! 私は、病院に連絡する」

    なつき
    「あ、わ、分かった……っ!」

    若奈
    「……因果応報ってやつやろか。
     私がこんなこと言うんもあれやけどな、お願いやから死なんとってや。姫乃ちゃん。というかあんたはん、どんなけ良い子やねん。ほんま、阿呆やわ」

           □

    志保
    『聞いた? 隣のクラスのあの子、亡くなったって』

    春香
    『交通事故なんだってね。志賀さんを庇ったんだって聞いたよ』

           □

    静葉
    『姫乃が死んだ。
     事故から数日、姫乃を知らない人間達と姫乃のことを知っていて救おうとしなかった人間達が彼女の死を悼んだ』

    静葉
    『そうしてしばらく。
     定型文を粗方並べられた後で、姫乃の話はぱたりと止まった。誰も、姫乃の話をしなくなった』

           □

    静葉
    『出来ないことが欲しかった。出来ないことが出来た。
     でもそれは、どうしようも無いことで。どう足掻いても出来ないことで』

    静葉
    『貴方に触れたい。ただ、それだけなのに貴方はもう戻ってこなくて。傍に、いなくて』

    静葉
    『どうすれば、もう一度会えるんだろう。
     どうすれば、あの子の笑顔を見られるんだろう。
     強く深く抱き締めて、唇を重ねることが出来るんだろう』

    静葉
    『ふと、気付く』

    静葉
    「簪……」

    静葉
    『姫乃にもらった簪を、私はじっと見つめた。
     なんだ、簡単な方法があったじゃない』

    静葉
    『そうよね、そう。私には、出来ないことなんて無い。これまでも、これからも。
     だからお願い、待ってて姫乃。私は今すぐ貴方のもとへ。きっと、迎えに行くから。
     貴方は私を不幸にしてないって。貴方は疫病神なんかじゃないって。そう、言わせて』

           □

    貴澄
    「満足そうな顔だね、静葉。天国は、やっぱり良い所だったかい?」



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    2018-04-26 18:51

    この台本はとある作品のオマージュです。
    途中から、割とまんまになってしまって悔しかったのでいつかリベンジしたい所存です←

    [♀]アメジスト
    [♀]アリス・アヴァロン
    [♂]アルバート・ノーグローブ
    [♀]アンジェリカ・ノーグローブ


    アメジスト
    「依頼、ですか?」

    アリス
    「そう、依頼よ。クライアントは作家のアルバート・ノーグローブ様。
     手が細かく動かせないってことで、代わりに私達に文章を書いてもらいたいって話みたい」

    アメジスト
    「代筆ということですね、承りました。
     以前やった、料理店でのお客様の呼び込みより大幅に自信があります」

    アリス
    「無表情且つ無感情だものね、貴方。いつも淡々としてるし」

    アメジスト
    「普通にしているだけなのですが」

    アリス
    「それが無機質ってこと。まあ、いいわ。
     タイプライターの扱いは私も認めているし、仕事としては打って付けでしょう」

    アメジスト
    「アリス様も、今回はご同行を?」

    アリス
    「えぇ、ついていかせてもらうわよ。
     コミュニケーション能力に欠陥があるのは、これまでの経験でよく分かったから。そこは私がフォローする」

    アメジスト
    「お世話をかけます」

    アリス
    「全くよ。とんだ、拾いもの」

    アメジスト
    「捨てられますか?」

    アリス
    「あのね、私は鬼畜ではないのよ。
     生まれたての子犬を、手がかかるからといって放置するわけないでしょ」

    アメジスト
    「子犬? 私は機械であって子犬では」

    アリス
    「例えだから、表現技法。
     なんであれ、貴方はまだ赤ん坊みたいなものなの。能力が、どれだけ凄くたってね」

    アメジスト
    「意味がよく分かりません。
     赤子に近いと言われるのならば、今年で18になるのに未だ幼女のようなお姿をしているアリス様のほうが――」

    アリス
    「――私は成長期が遅いだけ。これからぐんぐん成長するわよ。
     ともかく。いずれは、私が言ったことも分かるようになると思うわ」

    アメジスト
    「そういうものでしょうか」

    アリス
    「そういうものよ。
     だってアメジスト。貴方の胸には、他のどんな機械にも無い、心って回路があるんだから」

           □

    アルバート
    「どなたかな?」

    アメジスト
    「便利屋アヴァロンです。オーダーがありましたので、代書に参りました」

    アルバート
    「あぁ、そうか。そうだ、呼んでいたな……。今開ける」

    アメジスト
    「お初にお目にかかります。私はアメジスト。こちらが代表のアリス・アヴァロンです。
     貴方が、アルバート・ノーグローブ様ですね。有名な作家の方とお会い出来て、大変光栄に思います」

    アルバート
    「――」

    アメジスト
    「いかがなさいましたか?」

    アルバート
    「いや、なんでもない。
     随分と感情の無い、平坦な喋り方をする子だなと思ってね」

    アリス
    「申し訳ありません。お気に障られましたか?」

    アルバート
    「別に。個性的なのは良いことだ。
     僕ら作家にとっては、奇抜は美徳だよ。話の種になる」

    アリス
    「そうですか。なら、良かった」

    アルバート
    「だから、君も普通にしていていい。
     慣れない敬語はしんどいだろう。人として大事な部分を過たないなら自然体が一番だ」

    アリス
    「寛容な方、なんですね」

    アルバート
    「趣味嗜好の問題だよ。
     色々言ったが、本当はかしこまられるのが苦手なだけさ」

    アメジスト
    「私は、常にこうなのですが」

    アルバート
    「なら、それはそれであえて変える必要は無い。敬語が嫌というわけではないしね。
     まあ、何だ。とりあえず上がってくれ。出不精(でぶしょう)の男には外での立ち話すら多少堪(こた)える」

           □

    アルバート
    「しかし、驚いたよ。
     まさか、代書を頼んでやってきたのが少女二人とは」

    アメジスト
    「私達ではご希望に添えませんか?」

    アルバート
    「そういうわけじゃない。
     もちろん、満足に仕事が出来ないなら話は別だが。そこは心配いらないんだろう?」

    アリス
    「えぇ、お愛想はてんで駄目でも基本的な業務においてアメジストは優秀と言える。期待してもらっていいと思うわ」

    アルバート
    「はは、お墨付きというやつだ」

    アメジスト
    「……アルバート様」

    アルバート
    「どうかしたかな?」

    アメジスト
    「私の眼には、貴方様の手に酒瓶(さかびん)が握られたように見えますが。
     職務を執行するにあたって、それは不要なものでは?」

    アルバート
    「僕は、アルコールを入れないと書けないタチでね」

    アメジスト
    「書くのは私ですが」

    アリス
    「ちょっとアメジスト」

    アルバート
    「いいよ、アリス。なるほど、確かに君の言うとおりだ。
     僕は書かない。僕は物語を語り、君が文字に起こす。役割分担はそうなってる。
     ただね、頭にファンタジーを描く方法は人それぞれ。僕にとっては、酒を飲むことがそれに当たる」

    アメジスト
    「ルーティンということでしょうか」

    アルバート
    「そう、成功者の秘訣だよ。
     ということで、作業を始めるのは少しばかり待ってくれ。ほろ酔う」

    アメジスト
    「では、その間に私は部屋の掃除を。
     ここは、どこもかしこも散らかっていますから」

    アリス
    「あんた、本気で失礼千万よね」

    アメジスト
    「事実を述べたまでです。
     それで、普段書いている場所をお教え頂きたいのですが」

    アルバート
    「日常的には、この居間かテラスか。
     だけど、いいのかい? 僕の依頼は代書であって清掃じゃあないのに」

    アメジスト
    「務めの為に環境を整備するのもまた、私達の役目です。
     因みに、追加料金を頂戴しようなどということも考えてはおりません」

    アルバート
    「大したサービスだ。助かるよ。
     あぁ、だがその前に大事なことを思い出した」

    アメジスト
    「何事でしょうか?」

    アルバート
    「食料を切らしてるんだ。
     金は出すから、買ってきてくれないか?」

    アメジスト
    「ご自分で行かれては?」

    アルバート
    「そこは辛辣なんだな。とはいえ、僕は飲酒してしまった。
     このまま行くと、罪状、飲酒歩行でお巡りに捕まる恐れがある」

    アメジスト
    「飲酒歩行。飲酒運転は耳にしますが、そのような交通法規があるとは。初耳です」

    アリス
    「アルバート様。
     アメジストは接して分かる通り、冗談の通じない子なので。あまり嘘を教えないでくれないかしら」

    アルバート
    「悪かった。つい、ふざけたくなってね。
     それで、君も買い出しは断固拒否の構えかい?」

    アリス
    「流石に私も家政婦じゃないもの。
     でも、上限それなりで私達の分の食料品も買っていいっていうなら。当然、話は別だわ」

    アルバート
    「いいだろう。豪遊しているわけでも無し、財産は残ってる。好きなものを買ってくるといい」

           □

    アルバート
    「上手い……」

    アリス
    「どう、中々の腕前でしょ?」

    アルバート
    「見かけによらずとはこのことだな。
     それに、誰かの手料理なんて久しぶりだ」

    アリス
    「これまではずっと自分で?」

    アルバート
    「パンばかりさ、料理はからきしでね」

    アメジスト
    「栄養に偏りがありそうです」

    アルバート
    「健康より楽をとる主義なんだ。
     元来、作家は短命な生き物でもある。太く短くが信条さ」

    アメジスト
    「真実、そう思っているのですか?」

    アルバート
    「口から出任せ。
     無名であれば馬鹿らしい台詞だろうが、有名作家なら格好のつく言葉の上位だ。実際は、下らない考えだよ」

    アメジスト
    「……」

    アルバート
    「それより手が止まってるぞ。早く食べよう。
     折角の美味しい料理、冷めてしまわない内に食してやるのが礼儀というものだからね」

           □

    アルバート
    「アビゲイルの台詞。この雷の山を越えなければ、魔物を倒す魔法を知ることは出来ない。
     ト書き、石の獣が現れる。獣の台詞。私が貴方の盾となりましょう。そうすればこの山を越えられるはず」

    アメジスト
    「はず、なのですか?」

    アルバート
    「いいや、きちんと越えられるさ。
     ト書き。雷から獣はことごとくアビゲイルを守る」

    アメジスト
    「獣は、大丈夫なのでしょうか?」

    アルバート
    「痛みはある。けれど、獣にとってそれはかすり傷に過ぎない。
     ――なぁ、どうだろうか。君にとってこの話は面白いか?」

    アメジスト
    「そうですね、不思議な心地です。
     お話であるというのに、まるで自らがそこにいるかのような。
     自分が、このアビゲイルという少女と同じように気持ちを動かされているような。
     これは、どうしてなのでしょう。怒るも、悲しむも、私は知らない筈なのに」

    アルバート
    「それは、共感しているということだよ。
     感情移入してるんだ、アビゲイルに。物語に、深くのめり込んで。心ごと、入り込んでくれているのさ」

    アメジスト
    「心ごと」

    アルバート
    「安心したよ。君が、そういう風に言ってくれて。
     久しぶりの作品、ましてや不慣れな子供向けの作品だ。正直、自信が無かった」

    アメジスト
    「不安になることは無いかと。
     この後、アビゲイルは魔法を手に入れ魔物を倒すのですよね?」

    アルバート
    「あぁ。けれども、その代わりに石の獣をはじめとする仲間達はそれぞれの力を失ってしまう。魔法も同様に、使うことが出来なくなってしまうんだ」

    アメジスト
    「なら、アビゲイルはどうやって故郷へ帰るのですか?
     移動手段は全て絶たれました。その上、力も何も無い少女に戻ってしまえばアビゲイルはどうすることも出来ません」

    アルバート
    「……そこはまだ、考えていない。
     アイディアが浮かんでいないんだ」

    アメジスト
    「考えましょう。考えなければ、家族の待つ家に帰ることが出来ません」

    アルバート
    「そうだね。だが、着想はまだやってこない。――少し、気分転換しないか?」

           □

    アルバート
    「良い天気だな。良すぎるくらいに」

    アメジスト
    「アルバート様。こちらの傘を使われては?」

    アルバート
    「あ……日傘、か。玄関に置いていたやつだね。
     心遣いは嬉しいけど、僕はいいよ。戻してきてくれるかな」

    アメジスト
    「……」

    アルバート
    「どうかしたかい?」

    アメジスト
    「いいえ。とても、綺麗なものだと思いまして」

    アルバート
    「……体調不良だ」

    アメジスト
    「え?」

    アルバート
    「部屋に戻る」

           □

    アルバート
    「……アンジェリカ」

    アリス
    「お邪魔だったかしら」

    アルバート
    「アリスか。昼食の用意は終わったのかい?」

    アリス
    「まあね。それはそうと、いかがなされたのよアルバート様は。顔、酷いわよ?」

    アルバート
    「フランケンシュタインの怪物みたいかな?」

    アリス
    「茶化さないで。何か、あったんでしょう。
     アメジスト、寛大な貴方ですら許せないような事件でも起こしちゃった?」

    アルバート
    「違うよ。彼女はこれっぽっちも悪くない。善意からの行為だ」

    アリス
    「アンジェリカ」

    アルバート
    「――!」

    アリス
    「さっき呼んでた名前。それが、理由?」

    アルバート
    「聞かれてたか。そりゃそうだよな、あのタイミングじゃ」

    アリス
    「その写真。娘さんがいたのね」

    アルバート
    「知らなかったろ。メディアには非公表だったから」

    アリス
    「……」

    アルバート
    「妻が亡くなって。寂しくなった邸宅を後にして、僕は娘と一緒にこの別荘へ越してきた。
     母親がいなくて辛かったと思う。だけど、アンジェリカはそんな様子は欠片も見せず。
     僕が仕事を頑張れるようにと、何かと気遣ってくれてたんだ。
     そんな娘の好きなものが可愛らしいデザインの日傘と、大空を自由に飛ぶ鳥だった」

    アンジェリカ
    『わぁー。良いなぁ、鳥さん達。
     私もあんな風に、空へ羽ばたくことが出来たらなぁ』

    アルバート
    「日傘を差して風を利用すれば、出来るかもしれないね」

    アンジェリカ
    『ふふ、とっても素敵。
     じゃあ、いつか。私が空へ羽ばたく所、お父さんに見せてあげるね』

    アルバート
    「程なくして、アンジェリカは病に倒れた。不治の病だと言われた」

    アンジェリカ
    『大丈夫。私は、大丈夫だから』

    アルバート
    「医者との押し問答を繰り返し、残された時間を少しでも一緒に過ごす為。
     僕は、娘を連れて家に戻ることにした。久しぶりの娘の笑顔。穏やかで優しく、悲しい日々。そうして、たった一つの宝物は……」

    アメジスト
    「大切な人と、離ればなれになるということは。
     二度と会えなくなるということは。こんなにも切なく、耐えがたいことなのですね……」

    アリス
    「アメジスト」

    アルバート
    「全く。君達は、揃って盗み聞きとはな」

    アメジスト
    「申し訳、ありません」

    アリス
    「貴方、泣いているの?」

    アメジスト
    「はい。きっと、共感、感情移入したのです。アルバート様の、お心に」

    アルバート
    「……アメジスト。君の髪は、君の瞳は。亡くなった娘によく似ている」

    アメジスト
    「……」

    アルバート
    「完成させるよ、彼女の物語を。
     アビゲイルは故郷へ帰って家族と再会する。文句なしのハッピーエンド。幸せな結末で終わらせてみせる」

           □

    アルバート
    「そして、打ち倒される怪物。獣の台詞。
     遂に、怪物を倒した。よくやったな、アビゲイル。ト書き。光に包まれていく獣を含む仲間達。
     獣の台詞。私達はここでお別れだ。魔物が消えた今、私達を繋ぎ止めていた奇跡の力も同時に消え果てる。
     立ち尽くすアビゲイル。さて、ここからどうやってアビゲイルを家に帰すか。うんと、夢のある方法がいいんだが」

    アメジスト
    「鳥でしたら飛んで帰れますが……」

    アルバート
    「羽で、飛べばいいのか」

    アメジスト
    「アビゲイルに羽はありません」

    アルバート
    「あるんだよ、アビゲイルの背中には大きな羽が。
     石の獣が言うんだ。アビゲイル、君にはもう魔法の力が無い。
     けれど、今の君は冒険を始めた時には持っていなかったものを持っている。
     それは、豊かな感情だ。勇気は君の翼になり、希望は強い追い風となる。
     太陽に寄りすぎた時には、日傘を広げるといい。愛が、どんな熱をも受け止めてくれるだろう」

    アメジスト
    「感情が、形を伴って力になるのですね」

    アルバート
    「そうだ。育まれた感情が、家族との絆を辿る架け橋になる。
     そうして、アビゲイルは父と再開して。まず、何と声をかけるか……」

    アメジスト
    「着想が、やってきませんか?」

    アルバート
    「そうだな、そのようだ。
     君、ちょっと向こうから歩いてきてくれないか?
     日傘をさして、追い風を受けて。イメージがしたい」

    アメジスト
    「歩いてくるだけでいいのですか?」

    アルバート
    「出来れば、翼を生やしてくれると良いね」

    アメジスト
    「分かりました」

    アルバート
    「……え?」

    アリス
    「あーあー、あれは本気で飛ぶわよ。
     言ったじゃない、あの娘に冗談は通じないって」

    アルバート
    「アリス。いや、しかし」

    アリス
    「飛べるわけない? 翼なんてない?
     どうかしら、案外あるのかもしれないわよ。現実にも、ファンタジーっていうものが」

    アメジスト
    「いきます」

    アンジェリカ
    『じゃあ、いつか』

    アルバート
    「羽が……」

    アンジェリカ
    『私が空へ羽ばたく所、お父さんに見せてあげるね』

    アルバート
    「アンジェリカ……っ」

    アルバート
    『何千回、何万回だってそう呼ばれたかった。
     死なないで、いてほしかった。生きて、大きく……育って、ほしかった……っ』

    アリス
    「アルバート様。腕、動いて……っ?」

    アルバート
    「動くさ。だってここに、ファンタジーがあったんだ」

           □

    アメジスト
    「よろしいのですか? この日傘を頂いてしまって」

    アルバート
    「むしろ、もらってほしい。
     君は、死んだ娘のいつかを叶えてくれた」

    アメジスト
    「いつかを……」

    アリス
    「アメジスト、そろそろ出航の時間よ」

    アメジスト
    「それでは、失礼します」

    アルバート
    「あぁ、二人とも元気で」

           □

    アリス
    「それで、翼なんか生やしちゃったりしてたけど。記録は全く戻ってないと」

    アメジスト
    「そのようです。
     ですが、心というものは少しだけ理解出来た気がします」

    アリス
    「貴方には、最初からもっと、本を与えるべきだったかしらね」

    アメジスト
    「大丈夫ですよ。
     いつか、記録の再生はかないます」

    アリス
    「そう。――ねぇ、アメジスト。今日は、良い天気ね」



















  • 深海に、沈む

    2017-09-28 16:00




    水沢文佳(みずさわ・ふみか)
    氷芽野乃亜(ひめの・のあ)
    柊つぐみ(ひいらぎ・つぐみ)
    秋月亜矢子(あきづき・あやこ)
    紬日和(つむぎ・ひより)


    日和
    『ねぇ、こっちにおいでよ』

    文佳
    『小さい頃。臆病で、泣き虫だった私は人に遊びに誘われても上手く返事を出来ずにいた。
     何度も何度もまごついて、答えられない子供。そんな私に、いつしかみんなは声をかけなくなっていった』

    日和
    『お名前、なんて言うの?
     昨日もいたよね。そのまた昨日も、そのまた昨日の昨日も』

    文佳
    『けれど、たった一人だけ。
     日和だけはずっと声をかけ続けてくれた。
     太陽のような笑顔で。春の銀河のよう煌めく瞳で。私が心を開く、その時まで――』

           □

    日和
    「ごめんね、文佳ちゃん。
     私、今日演劇部参加出来そうにないんだっ」

    文佳
    「何か用事ですか?」

    日和
    「お店の手伝い。何か、色々忙しいらしくてさ。どうしても手が必要なんだって」

    文佳
    「なるほど、それは仕方がありませんね。
     では、私達は基礎練習と小道具作り、大道具作りなんかをしておきます」

    日和
    「ほんと、申し訳ないっ」

    文佳
    「良いんですよ。家のことなんですから。
     その代わり、次の練習では良い所を見せてくださいね」

    日和
    「うんうんっ。見せる見せる、見せまくっちゃうよっ。もう、長船(おさふね)に乗ったつもりでいて!」

    文佳
    「大船でしょう。長船は刀ですよ」

    日和
    「はれっ、そうだっけ!?」

    文佳
    「もう、日和はいつも適当なんですから。
     それより早く行かなくていいんですか?」

    日和
    「一分一秒も無駄にするなって言われてた気がする」

    文佳
    「もう、かなり無駄にしていますね」

    日和
    「無駄じゃないよ。文佳ちゃんとのお喋り、楽しいんだもんっ」

    文佳
    「それは、嬉しいことですけど……。
     私のせいで日和が遅れてしまうのは、正直いただけません」

    日和
    「むぅー、文佳ちゃんってば真面目さんだなぁ。ちょっとくらい良いのにー」

    文佳
    「ちょっとくらいは、というのはいつか大きくなってしまうものですから」

    日和
    「んぅっ? 何か経験あり?」

    文佳
    「なんでもありません。
     後、急に抱きつくのはやめてください」

    日和
    「スキンシップだよ、スキンシップ。
     あぁ、私が超能力者なら文佳ちゃんに触った瞬間何を考えてるか読み取れるのにっ」

    文佳
    「プライバシーの侵害ですよ」

    日和
    「うーん、超能力に法律は通じないんじゃないかな?」

    文佳
    「確かに? ではなくて、いい加減に行かないとでしょう? 私もこのままだと部活に遅刻してしまいますし」

    日和
    「あっ、そうだねっ。それじゃあまた明日学校で。ばいばーいっ!」

    文佳
    「はい、また明日。気をつけて帰るんですよ?」

    文佳
    「……超能力、ですか。
     そんなものがあったら、私が困ってしまいますよ日和。貴方を、困らせてしまいます」

           □

    乃亜
    「そう、日和はお休みなのね」

    文佳
    「はい、どうにも家のお手伝いをしなければいけないらしくて」

    乃亜
    「なら、しょうがないわね。
     実を言うと、つぐみと亜矢子も委員会やら諸々の事情で部活に遅れるそうなの。他のメンバーも各々色々。というわけで、暫くまさかの二人っきり」

    文佳
    「重なるものですね。では、乃亜先輩。今日は何からしましょうか?」

    乃亜
    「解散するっていう選択肢は貴方には無いのね」

    文佳
    「日和以外は休むわけじゃなくて遅れるだけですし、発声練習なんかは可能な限りやっておきたいので」

    乃亜
    「真面目なんだから。ま、付き合うけど」

    文佳
    「ありがとうございます」

    乃亜
    「とりあえず、まずは基礎練から始めましょうか。
     筋トレして、発声して。後は、一旦飲み物でも飲んで休憩。それから小道具作りでもしましょう」

           □

    文佳
    「はぁ……はぁ……」

    乃亜
    「ねぇ、文佳。貴方もしかして無理してる?」

    文佳
    「え、何がですか?」

    乃亜
    「……体調、優れないって感じ」

    文佳
    「そうですか? 別に、そんなことはないと思いますけど」

    乃亜
    「その割には顔が赤いわ。呼吸も、乱れてる」
    文佳
    「あはは、筋トレの影響でしょうか?」

    乃亜
    「そんなわけないでしょ。
     あれからそれなりに経ってるし。大体、そんな風になったことないじゃない」

    文佳
    「……」

    乃亜
    「根を詰めすぎるのはダメよ、文佳。人には体を休める時が必要だわ」

    文佳
    「このくらい平気ですよ。ちょっと暑さにやられてるだけです」

    乃亜
    「頑張りすぎないの」

    文佳
    「後少しだけですよ。もうこの小道具、すぐに作り終えられますから」

    乃亜
    「道具よりも自分の体調。
     貴方が倒れればみんな困るし、心配だって凄くするんだから」

    文佳
    「乃亜先輩……」

    乃亜
    「休んで。後は、私がやっておくから。終わったら一緒に帰りましょう」

           □

    文佳
    「ん……」

    乃亜
    「あら、おはよう文佳。少しは調子良くなった?」

    文佳
    「私は、眠っていたのですか?」

    乃亜
    「えぇ、少しの間ね」

    文佳
    「すみません、私。乃亜先輩に代わってもらっておいて……」

    乃亜
    「いいのよ。寝て少しでも良くなったのなら、私は嬉しいもの。
     それより、道具はもう作り終わったから眠気が多少消えたらここを出ましょうか」

    文佳
    「はい……」

    乃亜
    「後、寝顔可愛かったわよ」

    文佳
    「ふぇ? きゅ、急に何を言い出すんですか……っ」

    乃亜
    「あら、ただ思ったことを言っただけなのだけれど」

    文佳
    「恥ずかしいです……」

    乃亜
    「ふふ、愛らしいリアクション」

    文佳
    「からかわないでください」

    乃亜
    「ごめんなさい。一々反応が良過ぎるから、つい本音を漏らしちゃうのよ」

    文佳
    「うぅ、その本音をとかいうのわざとやってるでしょう……」

    乃亜
    「まあね。それはそれとして、文佳。
     ――貴方って本当に、日和のこと大好きなのね」

    文佳
    「ぇ? 何ですか、突然そんな」

    乃亜
    「寝言で、日和のことを何度も呼んでいたから」

    文佳
    「なっ……」

    乃亜
    「なんてね」

    文佳
    「へ?」

    乃亜
    「別に何も言ってなかったわよ。
     普通に、静かに、くーくー寝てた」

    文佳
    「……そう、ですか」

    乃亜
    「でも。結構な狼狽(うろた)えっぷりだったわね? 何か、心当たりでもあるのかしら」

    文佳
    「あ、いえ。特には。でも、覚えていないだけで変な夢でも見ていたのかもしれませんね」

    乃亜
    「……ふーん」

    文佳
    「どうかなさったんですか?」

    乃亜
    「その夢、今は見ていないの?」

    文佳
    「あ、はは。何を、言って」

    乃亜
    「そのままの意味なんだけど」

    文佳
    「の、乃亜先輩……?」

    乃亜
    「とぼけちゃって。
     寝ても覚めても、日和のことを愛している癖に」

    文佳
    「んぐっ!?」

    乃亜
    「ん……んんっ……ん、はぁ。ふふっ。恋する乙女の純な唇。私が、奪っちゃった」

    文佳
    「な、何をするんですかっ」

    乃亜
    「キスよ。まさか、知らない?」

    文佳
    「そうではなくてっ。どうして、私にこんなことっ」

    乃亜
    「そんなの、決まってるじゃない。貴方のことが、欲しかったからよ」

    文佳
    「っ!? 私、は……」

    乃亜
    「日和のことが好きなのよね。分かってる。
     見ていれば分かるもの。貴方がどれだけ日和のことばかり見ているか」

    文佳
    「っ……」

    乃亜
    「けれど、その愛はあの子にはきっと届かない。だってあの子は、普通でまともだから」

    文佳
    「そんなこと……っ。最初から、分かってます。私の気持ちが恋だと気付いた、その時から」

    乃亜
    「そう、苦しい思いをしているのね。長い間、諦めきれないままで。
     だけど、いい加減もう疲れたでしょう。私が、楽にしてあげるわ」

    文佳
    「ぁっ、ひゃっ!? な、何をするつもりですか……っ」

    乃亜
    「分からない? さっき以上のことを、よ」

    文佳
    「無理です、出来ません……っ。乃亜先輩、お願いですからやめてください……っ」

    乃亜
    「駄目。断れば貴方のことみんなに話すわ。
     ついでに、日和のことも。根も葉もない噂を広めてあげる」

    文佳
    「なんてこと……。本気、なんですか?」

    乃亜
    「嘘をついているように見えるかしら?」

    文佳
    「……っ。貴方は、最低ですっ!」

    乃亜
    「えぇ、自覚してる」

    文佳
    「ぁ……っ。ぁぁ……」

    乃亜
    「さぁ、文佳。心ごと慰めてあげる」

    文佳
    「ひゃ……っ。はぁ、はぁ……(あぁ、日和。私は貴方を……)」

    SE:メール音

    乃亜
    「……あら」

    文佳
    「……?」

    乃亜
    「助かったわね、文佳。
     亜矢子とつぐみ、もう少しで来るみたい」

    文佳
    「え、二人、が……。ぁっ!」

    乃亜
    「油断しちゃって。つままれて、いけない汁が出てるわよ」

    文佳
    「ぁっ……はぁ、ぅぅぅ」

    乃亜
    「ほら、早く服を整える。
     私にされたこと、されかけたことが、ばれたくなかったらね」

           □

    つぐみ
    「こんにちはー。ごめんなさい、思ったより遅れちゃって。今、何してた感じですか?」

    乃亜
    「こんにちは、つぐみ。基礎練終わって、ひたすら小道具作りかしら」

    亜矢子
    「へぇ、中々良く出来てる。これなら問題無さそう」

    乃亜
    「文佳が頑張ってくれたのよ。ただ、オーバーワークのせいで今はオーバーヒート中」

    つぐみ
    「文佳ちゃん、お疲れ様。本当に結構お疲れみたいだね」

    文佳
    「ありがとうございます、つぐみ。
     そうですね、少しはりきりすぎてしまったみたいです」

    亜矢子
    「体調管理も大事。
     文佳ちゃんは、今日はもう帰った方が良さそうね」

    文佳
    「でも、折角二人が来たのに」

    亜矢子
    「そんな赤い顔で練習しても頭に入ってこないでしょ。
     それに、みんなだって心配して余計なこと考えちゃうから。今日はもうお開きにしよう」

    文佳
    「ごめんなさい」

    亜矢子
    「ううん。文佳ちゃんは部活の為に一番働いてくれてる。
     どこかの真面目なフリした三年生に見習わせたいくらい」

    乃亜
    「それって私のことかしら」

    亜矢子
    「さあ? まあ、何にせよ今日は解散。乃亜だけは居残りね」

    乃亜
    「あら」

    亜矢子
    「ちょっと、話したいことがあるから」

    乃亜
    「ふふ」

    つぐみ
    「それじゃ、私は文佳ちゃん送って帰りますね。それと、乃亜先輩」

    乃亜
    「何かしら?」

    つぐみ
    「ちょっとこっちに来て下さいませんか」

    乃亜
    「うん?」

    つぐみ
    「さっき、文佳ちゃんから乃亜先輩のにおいがしました。
     ……次またちょっかいをかけるようだったら、私乃亜先輩でも許しませんから」

    乃亜
    「まあ、怖い」

    つぐみ
    「――では、今度こそお疲れ様でしたっ。また休み明けにっ」

    文佳
    「お疲れ様でした。
     体調は出来るだけ早く治します」

    亜矢子
    「あんまり、気を張らないようにね」

    文佳
    「はい、ありがとうございます。亜矢子先輩」

    亜矢子
    「……行ったね」

    乃亜
    「えぇ。それで、お話っていうのは?」

    亜矢子
    「そうね、火遊びに関してかな」

    乃亜
    「火遊びか。それは、例えばこういう?」

    亜矢子
    「……やめて」

    乃亜
    「本当はしてほしい癖に」

    亜矢子
    「そういう気分じゃない」

    乃亜
    「だったら、そういう気分にさせてあげる」

    亜矢子
    「っ、ちょっと。強引……んぁっ」

    乃亜
    「それが、好きなのよね?」

    亜矢子
    「んっ……あぁっ、ぁ」

    乃亜
    「亜矢子。貴方は私の一番の理解者。
     そして最愛の恋人。だから、分かるでしょう。私、あの娘(こ)のことも欲しいのよ」

    亜矢子
    「っぅ」

    乃亜
    「好きにさせて。好きにしてあげるから。好きでいて、あげるから」

    亜矢子
    「うぁっ、んくっ……んぅぅっ!」

           □

    つぐみ
    「ねぇ、文佳ちゃん。部室でさ、何かあったんじゃない?」

    文佳
    「え? い、いえ。特に何も。変わったことはありませんでしたよ?」

    つぐみ
    「……本当?」

    文佳
    「えぇ、本当です」

    つぐみ
    「まあ、文佳ちゃんがそう言うのなら信じるけど。
     もし何かあったんなら、私はすぐに相談してほしいなって」

    文佳
    「つぐみ……」

    つぐみ
    「だって、親友でしょ。
     困ってることがあったらほっとけないよ」

    文佳
    「ありがとうございます。でも、大丈夫ですから」

    つぐみ
    「……そっか」

    文佳
    「はい」

    つぐみ
    「じゃあ、一つだけ。乃亜先輩には気をつけて」

    文佳
    「……!」

    つぐみ
    「多分、猫被ってるから。私とおんなじで」

    文佳
    「そんなことは、無いでしょう」

    つぐみ
    「ううん、あるよ。分かるんだ」

    文佳
    「……つぐみは、乃亜先輩のことが嫌いなんですか?」

    つぐみ
    「まさか。大切な先輩だよ。
     ただ、文佳ちゃんよりは優先順位が低いだけ」

    文佳
    「……」

    つぐみ
    「はは。ごめんね、変なこと言って。
     けど私、文佳ちゃんのことがとっても大事なの。だから過剰なくらいに心配しちゃうんだ」

    文佳
    「嬉しい限りです」

    つぐみ
    「文佳ちゃんは、どう? 私のこと、大事?」

    文佳
    「もちろん。だって、親友ですから」

    つぐみ
    「ふふ、ありがと。……なら、一つ約束してくれるかな。
     もしもの時は私に連絡すること。どんなことがあっても、私は文佳ちゃんの味方だから」

    文佳
    「分かりました」

    つぐみ
    「なんだか、一つだけとか言っておいて色々言っちゃったね。ごめん」

    文佳
    「あ、いえ。それは全然」

    つぐみ
    「良かった。それじゃ、ちゃんと体調治すんだよ?
     人恋しくなったら、呼んでくれたら見舞いにだっていつでも行くから。料理も振る舞っちゃうよ」

    文佳
    「至れり尽くせりですね」

    つぐみ
    「文佳ちゃんの為だもの」

    文佳
    「ありがとうございます。
     どうしてもという時は、頼らせてもらいますね」

    つぐみ
    「うん、全力で待ってる。そんなわけで、とりあえずまたね。今度は学校か文佳ちゃんの家辺りで」

    文佳
    「はい、また」

    つぐみ
    「……。文佳ちゃん、私信じてるからね?」

    文佳
    『ごめんなさい、つぐみ。私は、きっと貴方に頼れない。
     どんな言葉も、どんな気遣いも、私の濁った心にはもう絶対に届いてはくれないから』

           □

    文佳
    「あ……。ここ、日和の」

    文佳
    『ぼうっとしていた。無意識に足が動いてたんだ』

    文佳
    「日和に、会いに行く?」

    文佳
    『いいえ、駄目ですよね。
     日和に会ったとしても私はどんな顔をすればいいのか分からない。
     汚された辛さを、穢された苦しさを、話すことは決して出来ないのだから』

    日和
    「あれ、文佳ちゃん……?」

    文佳
    「え、日和?」

    日和
    「うん、私だよっ。
     帰り? 今日は部活終わるの早かったんだねっ」

    文佳
    「……っ」

    日和
    「え、文佳ちゃん……?
     急にどうしたの? お腹、痛い?」

    文佳
    『私は何をしてるんだろう。
     突然抱きついて、日和を困らせて。でも今は、この体を離したくない……』

    日和
    「何か、あったんだね。
     いいよ、何でも話して。話したくないなら、話さなくてもいいから」

    文佳
    「……ぅ、ぅぅっ」

    日和
    「落ち着くまで、こうしててあげる」

    文佳
    『ごめんなさい、日和。
     今は貴方の優しさにただひたすらに浸からせて。
     汚れた私を、本当を言えない私を、どうか世界で一番近く。あの時のままの笑顔で慰めていてほしい……』

    日和
    「大丈夫、大丈夫だから」

    文佳
    『風が、頬を撫でる。
     抱き締めた腕に力がこもって、瞼は一層熱くなって。
     涙はぽろぽろ零れ出て、思いはいつか止まらなくなった』

    文佳
    「日和……」

    日和
    「どうしたの、文佳ちゃ――んむっっ!?」

    文佳
    「ん……」

    日和
    「ん、んぅ……っ。ん…………」

    文佳
    「心が、じんとした。唇が、痺れる』

    日和
    「は、ぁっ。文佳、ちゃん……? きゃぁっ!?」

    文佳
    『夕陽が、落ちて沈んだ。
     気付けば私は、日和を押し倒していた。人が通るかもしれない、こんな場所で』

    日和
    「ぁ、文佳ちゃん……怖いよ。お願い、やめて……?」

    文佳
    「っ……!」

    日和
    「……ぅ」

    文佳
    『懇願する日和に血の気が引く。
     どこかで、乃亜先輩が笑った気がした』

    文佳
    『あ、あぁ……。私、私はなんてことを……っ」

    日和
    「ぁ……待って、文佳ちゃんっ……文佳ちゃんっ」

           □

    文佳
    『私は、あの人と同じだ。
     自分の欲望を抑えきれずに、無理矢理に大切なものを奪った。最低の、人間だ』

    乃亜
    「――こんばんは、文佳。凄い偶然ね」

    文佳
    「乃亜、先輩……」

    文佳
    『さっきのは、勘違いじゃなかった。
     乃亜先輩は私を見ていた。そうして、笑ったんだ。貴方も私と変わらないんだって』

    乃亜
    「ねぇ、文佳。貴方、罰が欲しくない? 消せない罪を償う為の、重くて気持ちいい、最高に傷つく罰が」

    文佳
    「私、は……」

    文佳
    『ごめんなさい、日和。ごめん、なさい』