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月は、暗闇に恋をした
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月は、暗闇に恋をした

2018-05-17 23:39


    耀 静葉(ひかり・しずは):才色兼備、文武両道の美少女。本物の天才。何でも出来てしまうことから日々に何の感動も見出せないでいる。

    柊 姫乃(ひいらぎ・ひめの):無垢で可憐な少女。いじめを受けているが、誰かを憎むなどという発想を持たず全ては自分のせいだと考えている。

    志賀 なつき(しが・なつき):いじめっ子の少女。普段は明るく快活なムードメーカーだが、姫乃に対する歪んだ感情から姫乃に辛く当たる。

    野木 若奈(のぎ・わかな):なつきの親友。京都出身のお嬢様で静葉に迫る美少女で秀才。静葉を除けば、貴澄と並んでツートップの人気を持つ。

    大路 貴澄(おおじ・きすみ):静葉の幼馴染。所謂、イケメン系美人で女子生徒からの絶大な人気を持つ。人を見下す癖があるが、その観察眼は確か。

    風見 春香(かざみ・はるか):愛玩動物系の庶民派美少女で、放っておけないと周囲に思わせるタイプ。静葉に憧れている。

    泉 志保(いずみ・しほ):春香の友人。ダウナーな気質で基本的に何事にもやる気が無い。しかし、勘が良くよく気付く。


    姫乃
    『私は愚図(ぐず)で役立たず。
     物心ついた時には、私はいつもそうやって言われていた。
     いじめられるのが当然で、そういう星の巡り合わせ。だから私は今もここで、変わらず誰かに虐(しいた)げられる』

           □

    静葉
    『いつからだろう。私が、天才と呼ばれたのは。
     いつからだろう。私が、何の達成感も得られなくなったのは。
     出来ないことなんて無かった。出来ないことが、ほしかった――』

           □

    春香
    「あ、おはようございます静葉様っ」

    志保
    「静葉様、おはようございます」

    静葉
    「おはよう。二人とも」

    春香
    「はぁ~。静葉様、本当にいつも綺麗だよね。
     その上、凜々しくて優しくて、何でも出来ちゃうんだから。もう、凄く憧れだよぉ」

    志保
    「本当にねぇ。非の打ち所が無いっていうのは、ああいう人のことを言うのかしら。
     完璧すぎる人って現実に存在するんだって、会う度に毎回思うわ」

    春香
    「うんうん。なんていうか、あれだよね。
     出来ることなら、一度はああいう人になってみたいよね!」

    志保
    「あー、うーん。私はいいかな」

    春香
    「えっ、何でっ!?」

    志保
    「だって何か、疲れちゃいそうじゃない?」

           □

    貴澄
    「おはよう、静葉。今日も何となく憂鬱そうだね」

    静葉
    「貴澄(きすみ)……。おはよう、私を見てそんなことを言うのはきっと貴方くらいのものよ」

    貴澄
    「はは。他は随分とよそよそしいものね。
     まあ、相手が財閥の娘でオマケに文武両道の美人じゃ話をするのも気が引けるってものだろう。僕は、ずけずけ行くけど」

    静葉
    「図々しいこと」

    貴澄
    「何だ、幼馴染のよしみじゃないか。そう、ツンとしなくてもいいのに」

    静葉
    「幼馴染だから素でいるだけよ。
     後、気付いていないかもしれないから言っておくけど。私、貴方のこと嫌いだから」

    貴澄
    「大丈夫、知ってる」

    静葉
    「……」

    貴澄
    「僕は性格が悪いからね。
     他は上手く騙せても、君には全部お見通しだろう。嫌われて当然だ。
     でも、本質を知る者同士。仲良くやっていくのは悪くないことだと思うけど?」

    静葉
    「残念、意見の相違だわ。
     私は、損得勘定以上に貴方と話していたくないの。
     そうね、一際目立つ濁りきった瞳が嫌い。眼を合わせたら吐き気がしそうでね」

    貴澄
    「驚いた。学園生徒達の麗しの星、かの静葉様から暴言が出るとは」

    静葉
    「わざとらしく敬称をつけるのはやめなさい。
     他と違って、貴方は私に憧憬(どうけい)を抱いているわけでも無いでしょう?」

    貴澄
    「まさか。尊敬しているよ、君の才能は。是非、僕にも分けてほしいものだ」

    静葉
    「あげられるものなら幾らでも。
     けれど、こればかりは生まれ持ったものだからね。
     何があっても渡せないし、捨てることも出来ないわ。一生涯、ね」

    貴澄
    「それは、羨ましい限り。
     不満そうなのが非常に不可解だよ」

    静葉
    「貴方には、分からないわ。
     人を見下すことしか考えていない、貴方のような人には」

    貴澄
    「……行っちゃったか。
     でも、静葉。無意識に、人を有象無象としか思えていない君のような人間には。僕も、言われたくないかな」

           □

    姫乃
    『私がいじめられるのは、全部私のせい。
     私がいじめられるのは、全部私が悪い。
     生まれるべきじゃなかったガラクタ。それが、私という人間だから』

           □

    若奈
    「なつき。もう、やめといた方がええんちゃう?」

    なつき
    「止めないで、若奈。
     こいつはまだまだ大丈夫。結構、頑丈なんだから」

    若奈
    「そうは言うてもなぁ」

    姫乃
    「ぁ……が、はっ。うぐっ」

    若奈
    「病院送りとは言わんでも、これは割と重体やと思うで」

    なつき
    「いやいや。ちょっと血が出てるだけっしょ。
     切り傷も、打ち身も、まだまだ足りない。そりゃあ、親に見つかったら困るって言うんだったら私も控えるけど、さっ」

    姫乃
    「痛っ……!」

    なつき
    「こいつの所の親は全部見て見ぬフリ。
     幾ら傷をつけたって、何も文句は言われないよ」

    若奈
    「好きやねぇ。サディズム言うんかな、そういうの。加虐性愛(かぎゃくせいあい)?」

    なつき
    「まさか。これは、虫が自分の周りをうろちょろしてたら鬱陶しくて潰したくなる。それと、おんなじ感覚だよ」

    姫乃
    「あぎぃっ、はぁ、はぁ……ぁ、ぁぁ」

    若奈
    「えげつないこと言うて。
     姫乃ちゃんは、立派な人間やろうに」

    なつき
    「これのどこが。良くて、汚い置物でしょ?」

    若奈
    「きっつ。なつきはほんま、その娘のこと毛嫌いしとるなぁ。
     普段となんかテンションちゃうし。あーあー、恐ろしいわぁ」

    なつき
    「別に、こいつ以外には普通だし。若干距離とるのやめてくれない?」

    若奈
    「あはは。いじめっ子が、何を可愛い反応してんねん。そんな私のことが大事か?」

    なつき
    「からかわないでよ、もう。全く、やる気が削がれちゃったじゃない」

    若奈
    「じゃ、そろそろ行く?」

    静葉
    「――何を、しているの?」

    若奈
    「えらい怖いべっぴんさんも、やって来はったみたいやしな」

    なつき
    「し、静葉さまっ!? あ、あの、これは……」

    静葉
    「わざわざ、隣のクラスの子を可愛がるなんて随分と御苦労なことね。志賀なつきさん」

    なつき
    「あ、あ……。ごめんなさい。わ、悪気は無くて」

    静葉
    「言い訳は結構。今すぐここから失せなさい。
     後、国語か道徳の勉強をすることをおすすめするわ。でなきゃ、悪気が無くてこんなことは出来ない」

    なつき
    「す、すみませんでしたっ!」

    静葉
    「貴方も、共犯?」

    若奈
    「止めてた側やな、実際。
     ただ、見とった側でもある。私はあの子の友達やからな。味方してたら、いつの間にかワルモンになってもうてたわ」

    静葉
    「友人は選ぶことね。もしくは、その友人が大切ならしっかりと道を正すことよ」

    若奈
    「肝に銘じとく。行動に移すかは、置いといてな」

    静葉
    「……」

    若奈
    「さいなら、才色兼備のお嬢様。
     くれぐれも、なつきを悪いようにはしたらんとってや」

    静葉
    「調子の良いことを」

    姫乃
    「げほっ、げほっげほっ」

    静葉
    「っ、大丈夫?
     ……酷い怪我。すぐに保健室に」

    姫乃
    「良いん、です。私は何とも。これくらい、平気だから……。
     それより、すみません。学園の憧れ、静葉様のお手を私なんかが煩(わずら)わせてしまって……」

    静葉
    「そんなこと気にしないで。
     貴方、ズタボロなのよ。こんな時は、自分の心配をしなきゃいけないわ」

    姫乃
    「ぁ……。静葉様は、お優しいんですね。
     そんな風に言ってもらえたの、いつぶりか分からないです」

    静葉
    「――」

    静葉
    『向けられたのは、混じり気の無い純粋な微笑み。
     怒りも、憎しみも、痛みも、苦しみも。どこか遠くに忘れてきたような、無垢な瞳。――なんて、強く儚い』

    静葉
    「貴方、名前は?」

    姫乃
    「え?」

    静葉
    「名前よ。名前を、教えてほしいの」

    姫乃
    「……柊、柊姫乃(ひいらぎ・ひめの)です」

    静葉
    『私はきっと、一生人を好きになることが無い。ずっと、そう思っていた。この瞬間までは』

           □

    貴澄
    「おや、偶然。今日は随分とオシャレだね。
     デートか何かかい? 遂に、君にも気になる人が出来たとか」

    静葉
    「さて、どうかしら。
     それより貴方、眼に毒よ。生まれ直して、心を洗った方がいいんじゃない?」

    貴澄
    「切れのいいことだ。それと、浮かれている。
     まさか、本当に誰かとお付き合いを始めたのかな? 君は、人間の心を持たないと僕の中ではもっぱらの噂だったんだが」

    静葉
    「奇遇ね。私も、私に対して近しいことを考えていた時期があったわ。
     けれど、どうやらそういう訳じゃないみたい。それが、分かったの」

    貴澄
    「思い違いではなくて?」

    静葉
    「思い違いかもね。でも、そうだとしても私には真実はいらない。
     こんな感情になれるのなら、永遠に思い違ったままでいいと思ってる」

    貴澄
    「ふん、相当にお熱なようだ。だが、恋の病は重いものと聞くからね。
     もしもの時は、気兼ねなく僕に言ってくれ。腕の良い医者を紹介するよ」

    静葉
    「解剖でもされるのかしら」

    貴澄
    「君は本物だからな。それも、結構有りかもしれない」

    静葉
    「なるほど。貴方にだけは、何も頼まないことにするわ」

           □

    姫乃
    「行ってきます」

    姫乃
    『暗い部屋に一人。
     ぽつんと佇む母親に、私はそうやって声をかける。
     けれど返事は一切無くて、その顔も眼もこちらを向くことは無い』

    姫乃
    「……」

    姫乃
    『変わらない、いつも通り。
     最後にこの人の眼が私を見たのは、一体いつの頃だったろう』

           □

    なつき
    「むかつく……!」

    若奈
    「なんや。随分荒れてるなぁ、なつき」

    なつき
    「だってあいつ。あの蛆虫、最近調子乗りすぎでしょっ。
     放課後行くと、いつも静葉様と話してるとか。マジで有り得ないんだけど……!」

    若奈
    「そうは言うてもなぁ。
     あれ、その静葉様が姫乃ちゃん誘ってんのやろ? 姫乃ちゃん自体は、いつも通りちゃうん?」

    なつき
    「それが、むかつくの!」

    若奈
    「はぁ、理不尽なやっちゃなぁ」

           □

    静葉
    「姫乃」

    静葉
    「待たせてしまったかしら」

    姫乃
    「いいえ、静葉様。私も、今来たばっかりです」

    静葉
    「なら良かったわ。じゃあ、行きましょうか」

    姫乃
    「はいっ」

    静葉
    「まずはお昼よね。姫乃は何が食べたいとかある?」

    姫乃
    「そう、ですね。私は、静葉様の食べたいものが食べてみたいです」

    静葉
    「私の食べたいもの……」

    姫乃
    「静葉様? 私の顔に、何かついていますか?」

    静葉
    「つぶらな瞳に、長い睫毛。愛らしい鼻と可憐な唇」

    姫乃
    「え?」

    静葉
    「貴方の顔に、ついているもの。
     他にも色々あるけど、その4つが私は好き」

    姫乃
    「え、えっと」

    静葉
    「ふふ、困らせてしまったかしら?」

    姫乃
    「あ、いえ、その。今みたいに褒められたことは、今まで一度も無かったから。
     少し、戸惑ってしまって。あ、ありがとうございますっ!」

    静葉
    「かしこまらなくていいの。
     学園でも何回か言ったでしょう。普通に接していいって」

    姫乃
    「でも、静葉様はみんなの憧れで。目標で。理想の人ですから。中々難しくて」

    静葉
    「無理強いはしないけどね。
     徐々に砕けてくれると嬉しいわ」

    姫乃
    「努力します。なんていうか、恐れ多いですけど」

    静葉
    「私はただの女子高生よ。貴方と同じ、女子高生。
     ところで姫乃、さっき答えてなかったお昼のことなんだけど。あそこなんてどうかしら?」

           □

    姫乃
    『あの人は月。
     暗闇という嫌われものさえ、優しく静かに照らしてくれる。銀色の月』

           □

    姫乃
    「美味しかったですね、さっきのお店。デザートも、とても甘くて」

    静葉
    「お気に召したかしら」

    姫乃
    「それはもう。ただ、少しだけ不安になっちゃいますね。
     こんなにも幸せな時間を過ごしてしまって、本当に良いのかなって。罰(ばち)が、当たってしまうんじゃないかって」

    静葉
    「おかしなことを言うのね。
     幸せであることに、罪なんてあるわけ無いのに」

    姫乃
    「そうですよね、そうなんですけど」

    静葉
    「姫乃は、自分が嫌い?」

    姫乃
    「……かも、しれません。
     自信が無いんです、自分に。必要とされたことが無かったから」

    静葉
    「私は、姫乃が必要だと思ってる」

    姫乃
    「ありがとうございます。私、とても嬉しい。
     けれど、どうして私なんですか。一緒にいるのに私を選ぶなんて、普通じゃ考えられません。
     他にもっと幾らでも、隣にいるのに相応しい人がいるはずじゃないですか」

    静葉
    「いないわ、そんなの。
     私には、貴方だけが特別なの。だって」

    姫乃
    「ぁ……」

    静葉
    「私、貴方が好きなの。友達としてじゃなく、愛しているという意味で。
     分かるでしょう、この胸の高鳴りが。貴方以外じゃ、こんなにどきどきしたことは無いわ」

    姫乃
    「静葉様……」

    静葉
    「軽蔑した? 女なのに、女の子を好きになった私のことを」

    姫乃
    「まさか。そんなわけ、無いです。私だって……。
     けど、駄目。静葉様が私なんかを好きにだなんて。そんなの、いけませんよ。
     私は貴方と釣り合わない。私は人を、不幸にする人間なんです」

    静葉
    「それは、どういう」

    姫乃
    「私の母は、私が父親に乱暴されてから精神を病みました。
     父親は、私に暴力をしたから刑務所に行きました。友達は、私へのいじめに抗議していじめられました。
     先生は、私を犯罪者から守ろうとして殺されました。犯罪者はその後、事故で亡くなりました。良くしてくれた先輩は、病気で」

    静葉
    「……」

    姫乃
    「面白いくらいに。笑えないことが、身の回りでたくさん起こるんです。
     疫病神というのが、もしいるんだとしたら。それはきっと、私のことなんですよ。だから――」

    静葉
    「――関係ないわ」

    姫乃
    「え」

    静葉
    「私にとっては、どんな不幸も貴方といられるなら受け入れられる。
     貴方といられないことが、一番の不幸だから」

    姫乃
    「なんで、そんなに」

    静葉
    「さあ。理屈なんて、知らない。それに、いらないわ。
     私が欲しいのは、貴方の素直な答えだけ。ねぇ、姫乃。教えて。貴方は、私のこと好き?」

    姫乃
    「……はい。好きでした、以前から。貴方が私を知る前から、私は貴方を見ていました。
     そして。好きです、今も。貴方が私を知って、私を見てくれてから。思いは、もっと強くなって。胸が、はち切れそうで」

    静葉
    「ありがとう、愛してる」

    姫乃
    「静葉様……っ。私も、私も愛してますっ」

           □

    静葉
    「帰り、気をつけてね。最近は事故も多いから」

    姫乃
    「はい、静葉様も。
     それじゃあまた明日、学園で」

    静葉
    「……簪(かんざし)。初めての恋人からの、プレゼント、か」

    静葉
    「私いま、満ち足りてる。心が、満たされてる」

    静葉
    『あぁ、姫乃。貴方となら、この先もずっと――』

           □

    なつき
    「あれ、姫乃?」

    姫乃
    「あ……」

    なつき
    「へえ、珍しいじゃん。
     外で会うなんて。ちょっと、こっち来てよ」

    若奈
    「なつき。流石に外では自重しいや」

    なつき
    「嫌よ。しばらく分、溜まってるんだから。
     外だろうがどこだろうが、ボコしてやらないと気が済まないっての」

    姫乃
    「えっと」

    若奈
    「ごめんな、姫乃ちゃん。
     やばい思ったら止めるさかい、ちょっとだけ堪忍したってや」

    なつき
    「ほら、ちゃっちゃと来なさい。こっちは、苛々してるんだから」

    姫乃
    「あっ、やめて、下さい」

    なつき
    「はぁ? 姫乃、あんた誰の許可があってこの私に口答えしてるわけ?」

    姫乃
    「あぐっ」

    なつき
    「この、クソ女!」

    姫乃
    「あうっ。あ、はぁ……は、ぁ、ぐぅぅ」

    なつき
    「少しは自分の立場が分かった? ほら、分かったら早くこっちに――」

    若奈
    「――なつき、動いたらあかん!」

    なつき
    「へ? トラック?」

    姫乃
    「っ、危ないっ」

    なつき
    「……ぇ」

    若奈
    「居眠り運転が。急に突っ込んできよって」

    なつき
    「ぁ……ぁ、ぁ…………ぁぁ。ぁぁ、ぁ、ぁぁ、ぁぁっ」

    若奈
    「なつき」

    なつき
    「わ、わわ、若奈っ! ど、どうしよう……! ひっ、ひ、姫乃がっ!」

    若奈
    「助け呼び」

    なつき
    「へ?」

    若奈
    「助け呼ぶんや!
     医療に携わる仕事してる人、そのへんから探して引っ張ってきい! 私は、病院に連絡する」

    なつき
    「あ、わ、分かった……っ!」

    若奈
    「……因果応報ってやつやろか。
     私がこんなこと言うんもあれやけどな、お願いやから死なんとってや。姫乃ちゃん。というかあんたはん、どんなけ良い子やねん。ほんま、阿呆やわ」

           □

    志保
    『聞いた? 隣のクラスのあの子、亡くなったって』

    春香
    『交通事故なんだってね。志賀さんを庇ったんだって聞いたよ』

           □

    静葉
    『姫乃が死んだ。
     事故から数日、姫乃を知らない人間達と姫乃のことを知っていて救おうとしなかった人間達が彼女の死を悼んだ』

    静葉
    『そうしてしばらく。
     定型文を粗方並べられた後で、姫乃の話はぱたりと止まった。誰も、姫乃の話をしなくなった』

           □

    静葉
    『出来ないことが欲しかった。出来ないことが出来た。
     でもそれは、どうしようも無いことで。どう足掻いても出来ないことで』

    静葉
    『貴方に触れたい。ただ、それだけなのに貴方はもう戻ってこなくて。傍に、いなくて』

    静葉
    『どうすれば、もう一度会えるんだろう。
     どうすれば、あの子の笑顔を見られるんだろう。
     強く深く抱き締めて、唇を重ねることが出来るんだろう』

    静葉
    『ふと、気付く』

    静葉
    「簪……」

    静葉
    『姫乃にもらった簪を、私はじっと見つめた。
     なんだ、簡単な方法があったじゃない』

    静葉
    『そうよね、そう。私には、出来ないことなんて無い。これまでも、これからも。
     だからお願い、待ってて姫乃。私は今すぐ貴方のもとへ。きっと、迎えに行くから。
     貴方は私を不幸にしてないって。貴方は疫病神なんかじゃないって。そう、言わせて』

           □

    貴澄
    「満足そうな顔だね、静葉。天国は、やっぱり良い所だったかい?」



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