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ごきげんよう。有料メルマガ評論家の渡辺文重です。サッカー漫画『U-31』が映画化されるようですね。『U-31』はもちろん読んだことがあり、以前のブログ『サッカー景気の悪い話』でレビューを書いたこともあります。そこで、過去ログから該当の記事を見つけました。それを再編集して掲載します。
それにして、以前書いた原稿を読んでみると、いろいろと懐かしい気持ちになると同時に、自分の進歩のなさに驚きます。今回は掲載しませんが、「ラインハルト=何進論」とか「ジャギ=リュウケン実子説」とか、執筆当時は傑作だと思ったのですが、完全に「黒歴史」ですね。恥ずかしい!
以下、2010年2月4日に公開した『U-31』のレビューとなります。「ネタバレあり」なので、これから原作を読む人は、読了後に閲覧していただければと思います。
【参考】綱本将也×吉原基貴の「U-31」が映画化!馬場良馬、中村優一ら出演
http://natalie.mu/comic/news/172735
◆イントロダクション
サッカー漫画『U-31』を読んだので、感想を書きたいと思います。普段、アニメは見ているのですが、漫画はほとんど読まないため、疲れました(笑)。ほんの数時間、パラパラと読んだだけなので、所々おかしな点もあるかと思いますが、ご容赦いただければと思います。取りあえず1回だけ読んだ印象は「キリスト教的な救世主物語みたいな内容」でした。
◆ストーリー概要
主人公は東京ヴィクトリーに所属する河野敦彦。20代前半の頃は期待の注目株ともてはやされていたが、27歳となった2002年の時点では、すっかり平凡な存在となっていた。彼女をデートに誘っても断られ、信頼していた後輩には陰口を言われる始末。さらには、上司から解雇通告を突き付けられてしまう。
河野は一念発起し、半ば強引に辞めた古巣・ジェム市原への移籍を決意。そこで、後々一緒に暮らすことになる新人雑誌記者・山咲佳奈と出会う。上司・同僚との衝突や旧友の死、海外赴任などを経て、最終的には2006年ワールドカップの舞台に立つ。『U-31』は2006年時点での河野の年齢であり、フリーライターに転向した佳奈が出版したノンフィクションであった。
◆富める者が天国に入るのはラクダが針の穴を通るより難しい
大した実績や才能がなく、女性にもモテない。しかも貧乏で、サッカーで借金を返済するしかない……。そんなキャラクターが主人公ならば、ただただ努力するしかないため、スポ根的なメソッドで2006年ワールドカップ・ドイツ大会という天国に入る物語を描くことができます。
しかし、主人公の河野敦彦は富める者です。元日本代表という肩書、J1クラブでスタメン出場できるだけの能力、六本木で遊べるだけの財産、そして、アイドルとエッチすることだってできます。河野よりも実績がない人間でも、引退したら解説者になれるのです。東京ヴィクトリーで戦力外通知を受けた時点で現役を引退していたとしても、河野はその後の生活に困ることはなかったと推測できます。
元日本代表選手が、31歳でワールドカップに出場する。河野が天国を目指すことになる必然性は、ソドムの街で人々に冷笑された預言者の言葉だけでした。
◆最後の審判の前には偽預言者が現れる
主人公のライバル、藤堂涼介は偽預言者として描かれます。河野が一目でドーピングを見抜けたのですから、ほかの人が気付かないはずはありません。しかし、日本サッカー協会やジード監督は、彼こそ日本を導く救世主だと言いはやします。そして、偶像崇拝主義者たちは、その姿に熱狂するのです。
しかし、神は、イブの誘惑に負け、禁断の果実を口にしたアダムを許しません。悪魔に魂を売った偽預言者ならば、なおさらです。藤堂はワールドカップに出場することを許されず、十字架に掛けられて死ぬことになります。偽預言者が神の裁きを受け、真の救世主として河野がスポットライトを浴びる。やや出来過ぎな感じもしますが、クライマックスとしては申し分なかったと思います。
漫画の最後で、河野がワールドカップで活躍する姿が描かれます。藤堂を救世主と信じていた人々からユダの烙印(らくいん)を押されるというエンディングを迎える可能性もあったことを考えると、ブラジル戦の結果がどうあれ、物語はハッピーエンドだったと思います。
◆日本サッカーの現状を正しく認識している点が素晴らしい
この作品を読んで面白いと感じられた最大の理由は、作品に描かれている日本サッカーの現状と、僕が思っている日本サッカーの現状が一致した点に尽きると思います。
楽園を追放された後、数年間ものほほんと過ごしていた河野が、最終的には日本代表に復帰できる。出来過ぎだとは思いますが、ありえない話でもないと思えてしまう。4年前には輝いていたロナウドやアドリアーノ、ロナウジーニョですら、2010年ワールドカップ・南アフリカ大会に出場できるか分からないブラジル代表とは大違いですが、才能さえあれば、ちょっと努力するだけでチャンスを得られる。これが日本代表のレベルなのです。
河野は日本代表に復帰しますが、それが限界で、レアル・マドリードに移籍なんて話はありえない。作者、あるいは読者や編集者の意向が示した「正解」を選んだとしても、グループステージでブラジル代表と接戦を演じるのが精いっぱいという点も、日本代表のレベル設定としては妥当だったと思います。
U-31[Kindle版]
◆
約6年前の文章ですが、読み直してみると、勢いで文章を書いていることに感心します。いや、「ほんの数時間、パラパラと読んだだけ」という予防線が恥ずかしいですね。批判されたくないオーラが出ているというか……。批判されたくないなら文章を公開するなよと思うのですが、その結果が有料Webマガジンの開設だった、となるのでしょうか。
なお、西部謙司『犬の生活』には、『U-31』原作者・綱本将也氏と西部氏の対談が掲載されています。
【オフ企画】スペシャル対談 西部謙司×綱本将也(第1回)2016/1/15
http://www.targma.jp/nishibemag/2016/01/15/post3871/
それにして、以前書いた原稿を読んでみると、いろいろと懐かしい気持ちになると同時に、自分の進歩のなさに驚きます。今回は掲載しませんが、「ラインハルト=何進論」とか「ジャギ=リュウケン実子説」とか、執筆当時は傑作だと思ったのですが、完全に「黒歴史」ですね。恥ずかしい!
以下、2010年2月4日に公開した『U-31』のレビューとなります。「ネタバレあり」なので、これから原作を読む人は、読了後に閲覧していただければと思います。
【参考】綱本将也×吉原基貴の「U-31」が映画化!馬場良馬、中村優一ら出演
http://natalie.mu/comic/news/172735
◆イントロダクション
サッカー漫画『U-31』を読んだので、感想を書きたいと思います。普段、アニメは見ているのですが、漫画はほとんど読まないため、疲れました(笑)。ほんの数時間、パラパラと読んだだけなので、所々おかしな点もあるかと思いますが、ご容赦いただければと思います。取りあえず1回だけ読んだ印象は「キリスト教的な救世主物語みたいな内容」でした。
◆ストーリー概要
主人公は東京ヴィクトリーに所属する河野敦彦。20代前半の頃は期待の注目株ともてはやされていたが、27歳となった2002年の時点では、すっかり平凡な存在となっていた。彼女をデートに誘っても断られ、信頼していた後輩には陰口を言われる始末。さらには、上司から解雇通告を突き付けられてしまう。
河野は一念発起し、半ば強引に辞めた古巣・ジェム市原への移籍を決意。そこで、後々一緒に暮らすことになる新人雑誌記者・山咲佳奈と出会う。上司・同僚との衝突や旧友の死、海外赴任などを経て、最終的には2006年ワールドカップの舞台に立つ。『U-31』は2006年時点での河野の年齢であり、フリーライターに転向した佳奈が出版したノンフィクションであった。
◆富める者が天国に入るのはラクダが針の穴を通るより難しい
大した実績や才能がなく、女性にもモテない。しかも貧乏で、サッカーで借金を返済するしかない……。そんなキャラクターが主人公ならば、ただただ努力するしかないため、スポ根的なメソッドで2006年ワールドカップ・ドイツ大会という天国に入る物語を描くことができます。
しかし、主人公の河野敦彦は富める者です。元日本代表という肩書、J1クラブでスタメン出場できるだけの能力、六本木で遊べるだけの財産、そして、アイドルとエッチすることだってできます。河野よりも実績がない人間でも、引退したら解説者になれるのです。東京ヴィクトリーで戦力外通知を受けた時点で現役を引退していたとしても、河野はその後の生活に困ることはなかったと推測できます。
元日本代表選手が、31歳でワールドカップに出場する。河野が天国を目指すことになる必然性は、ソドムの街で人々に冷笑された預言者の言葉だけでした。
◆最後の審判の前には偽預言者が現れる
主人公のライバル、藤堂涼介は偽預言者として描かれます。河野が一目でドーピングを見抜けたのですから、ほかの人が気付かないはずはありません。しかし、日本サッカー協会やジード監督は、彼こそ日本を導く救世主だと言いはやします。そして、偶像崇拝主義者たちは、その姿に熱狂するのです。
しかし、神は、イブの誘惑に負け、禁断の果実を口にしたアダムを許しません。悪魔に魂を売った偽預言者ならば、なおさらです。藤堂はワールドカップに出場することを許されず、十字架に掛けられて死ぬことになります。偽預言者が神の裁きを受け、真の救世主として河野がスポットライトを浴びる。やや出来過ぎな感じもしますが、クライマックスとしては申し分なかったと思います。
漫画の最後で、河野がワールドカップで活躍する姿が描かれます。藤堂を救世主と信じていた人々からユダの烙印(らくいん)を押されるというエンディングを迎える可能性もあったことを考えると、ブラジル戦の結果がどうあれ、物語はハッピーエンドだったと思います。
◆日本サッカーの現状を正しく認識している点が素晴らしい
この作品を読んで面白いと感じられた最大の理由は、作品に描かれている日本サッカーの現状と、僕が思っている日本サッカーの現状が一致した点に尽きると思います。
楽園を追放された後、数年間ものほほんと過ごしていた河野が、最終的には日本代表に復帰できる。出来過ぎだとは思いますが、ありえない話でもないと思えてしまう。4年前には輝いていたロナウドやアドリアーノ、ロナウジーニョですら、2010年ワールドカップ・南アフリカ大会に出場できるか分からないブラジル代表とは大違いですが、才能さえあれば、ちょっと努力するだけでチャンスを得られる。これが日本代表のレベルなのです。
河野は日本代表に復帰しますが、それが限界で、レアル・マドリードに移籍なんて話はありえない。作者、あるいは読者や編集者の意向が示した「正解」を選んだとしても、グループステージでブラジル代表と接戦を演じるのが精いっぱいという点も、日本代表のレベル設定としては妥当だったと思います。
U-31[Kindle版]
◆
約6年前の文章ですが、読み直してみると、勢いで文章を書いていることに感心します。いや、「ほんの数時間、パラパラと読んだだけ」という予防線が恥ずかしいですね。批判されたくないオーラが出ているというか……。批判されたくないなら文章を公開するなよと思うのですが、その結果が有料Webマガジンの開設だった、となるのでしょうか。
なお、西部謙司『犬の生活』には、『U-31』原作者・綱本将也氏と西部氏の対談が掲載されています。
【オフ企画】スペシャル対談 西部謙司×綱本将也(第1回)2016/1/15
http://www.targma.jp/nishibemag/2016/01/15/post3871/
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