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ツチヤの口車 第1339回 土屋賢二「三人の頭の中」
コメ0 週刊文春デジタル 3時間前
意思疎通はどこまで大切なのか。他人の考えていることが分かったら、冷静ではいられない。たとえば電車で立っているときだ。【席に座る若い男】前に立っているジジイ、わざとらしく咳をして弱っているところを見せたいんだろうが、そうはいくか。紳士ヅラしやがって、歳を取れば譲ってもらえると思ったら大間違いだ。...
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ツチヤの口車 第1338回 土屋賢二「寿命を延ばす器具」
コメ0 週刊文春デジタル 1週間前
運動と睡眠が不足している。その分、食事でカロリーを補っているが、それでは不十分な気がして緑茶を飲むことにした。 メカニズムは知らないが、緑茶は身体にいいという記事を読んだか、読まなかったか、どちらでもないかだ。原理はともかく、緑茶を飲めば健康になり、健康になれば長生きし、長生きすれば……何をする...
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ツチヤの口車 第1337回 土屋賢二「父の疑念」
コメ0 週刊文春デジタル 2週間前
どの家にも分担がある。わたしの実家では、箏を教えることと娯楽は母の担当、残りは父が担当していた。 子育ても父の担当だった。わたしがよちよち歩く後についていたのも父だった。 演奏会の舞台で弾いているのが母だと分かると、わたしがお乳を求めて泣き叫ぶので、父が演奏会の合間にお乳をやってくれと母に頼む...
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ツチヤの口車 第1336回 土屋賢二「感謝の心は必要か」
コメ0 週刊文春デジタル 3週間前
「ありがとう」「ごめんなさい」の二つはちゃんと言えるようにしなさい。こう口を酸っぱくして教えられてきた。教えたのは妻だ。妻自身は、わたしに対してどちらのことばも使ったことはない。 わたしは感謝も謝罪も数えきれないほど表明させられてきたため、いまでは心の中で鼻歌を歌いながら口に出せるまでになった。...
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ツチヤの口車 第1335回 土屋賢二「誤解を招く表現」
コメ0 週刊文春デジタル 4週間前
わたしは世の中に何の貢献もしていないと思われているが、大間違いだ。 かつて埼玉県の和光市駅はホームも階段も老朽化が進み、崩れないようにそっと歩いたほどだった。池袋から二十分の位置にあって駅員がいることを除けば田舎の無人駅のようだった。 だが、わたしが引っ越しして税金を和光市に払うようになった途...
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ツチヤの口車 第1334回 土屋賢二「手を抜くにもほどがある」
コメ0 週刊文春デジタル 1ヶ月前
コスパやタイパがブームである。映画を早送りで見たり、小説の結末をあらかじめ読んで、無駄を排除する若者の姿勢を嘆く人もいるが、わたしはまだ生ぬるいと思う。 わたしのまわりには何十年も前からその傾向は存在していた。はるかに徹底した形で。 イギリスに滞在していたとき、妻は個人教師に英語を教わっていた...
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ツチヤの口車 第1333回 土屋賢二「冷蔵庫にモヤシがある」
コメ0 週刊文春デジタル 1ヶ月前
冷蔵庫を開けると数日前に買ったモヤシがある。使わないと傷んでしまう。それではもったいない。モヤシを使う料理で知っているのは、野菜炒めと焼きそばだけだが、野菜炒めはおいしくできたことがない。焼きそばなら市販の焼きそばソースを使えば失敗しない。そこで麺、豚肉、ソース、人参、ピーマン、キャベツを買っ...
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ツチヤの口車 第1332回 土屋賢二「父の職業」
コメ0 週刊文春デジタル 1ヶ月前
子どものころ、ほとんど何も分かっていなかった。いまと同じである。 大人は確固とした世界観、倫理観をもち、明確な原理に基づいて行動していると子ども心に思っていた。そうでなければ、わたしにはどうでもいいように思えること(たとえば弟と将棋をするなど)に父がなぜ激怒したのか、説明できない。初めて訪れた...
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ツチヤの口車 第1331回 土屋賢二「急がば転ぶ日々」
コメ0 週刊文春デジタル 1ヶ月前
『急がば転ぶ日々』(文春文庫)が発売になる。 ツチヤ本の購買から遠ざかっていたため、「ツチヤ? だれそれ? 本? 何それ?」と言って認知症を疑われた人もいるだろう。 いまや、購買意欲を満たせなかったくやしさを、思う存分晴らすことができる。読書用、保存用、予備用、投資用、贈答用と、何冊でも買いたい...
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ツチヤの口車 第1330回 土屋賢二「透明人間になりたい」
コメ0 週刊文春デジタル 2ヶ月前
カッコをつけることほどカッコ悪いことはない。わたしはどんなことがあっても、カッコをつけていることを悟られないよう長年、細心の注意を払ってきた。 わたしから見ると最近の若者は理解を超えている。男が臆面もなくファッション誌を読み、脱毛し、パックし、メイクし、エステに行き、整形し、その上、散髪し、爪...
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ツチヤの口車 第1329回 土屋賢二「大谷選手と瓜二つ」
コメ0 週刊文春デジタル 2ヶ月前
大谷翔平選手はいまや世界のスーパースターである。疑問に思っていることを教え子に聞いた。「大谷選手のような並外れた能力の持ち主に憧れる気持ちは分かる。だが彼とは大違いなのに、まるで自分のことのように自慢する者がいるのはなぜだ?」「憧れの人との共通点を探してつながりたいからじゃないですか? 日本人...
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ツチヤの口車 第1328回 土屋賢二「見る目が変わった」
コメ0 週刊文春デジタル 2ヶ月前
いまお笑い芸人の行動が問題になっているが、それ以外にも近年、芸能界、スポーツ界の闇が次々に暴かれている。告発されているセクハラ、パワハラのひどさは目を覆うばかりだ。 こう感じるのは、わたしの見る目、わたしの価値観が変わったからだ。昔、子どもは当たり前のように親や教師に殴られ、後輩は先輩に殴られ...
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ツチヤの口車 第1327回 土屋賢二「不便だったころ」
コメ0 週刊文春デジタル 2ヶ月前
便利な世の中になったものだ。 人類は、動物の丈夫な皮膚を失うかわりに、気温に応じて細かく暖かさを変えられ、その上、ドブネズミからヒョウまで模様も変えられる衣服を発明した。 動物の鋭い聴覚を失うかわりに、必要に応じて補聴器から耳栓まで聴覚を調節できるようになった。視覚も、望遠鏡から顕微鏡まで、暗...
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ツチヤの口車 第1326回 土屋賢二「三十五年前の自分へ」
コメ0 週刊文春デジタル 3ヶ月前
お~い! 賢二! 七十九歳のお前だよ。こんなに長生きすることに驚いているだろうが、ここまで生きるのは、努力なしにできる数少ないことの一つだ(百歳の人に聞いても、「何もしていない」としか言わないだろう?)。なお、同じぐらい努力なしにできることは、死ぬことだ。 自分が歳をとるとは思ってもいないから...
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ツチヤの口車 第1325回 土屋賢二「高齢者の創意工夫」
コメ0 週刊文春デジタル 3ヶ月前
歳をとると心身が衰えてくるが、高齢者は簡単にはくじけない。創意工夫をこらして切り抜けている。 たしかに感覚は衰える(残念なことに、痛覚は衰えない)が、衰えた分は経験で補える。聴力が衰えても、相手の表情や口調から、過去の経験をもとに何を話しているか推測できる。わたしを叱っていないことが分かれば、...
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ツチヤの口車 第1324回 土屋賢二「断り切れない男」
コメ0 週刊文春デジタル 3ヶ月前
早熟な人はいるが、わたしは大器晩成タイプだ。なぜそう言えるかと言うと、これまで一度も芽が出なかったからだ。 花開くのがいつなのか、どんな大輪の花が開くのか、楽しみにしてきた。今年こそ花開くのではないかと待ち続けて六十五年になる。それなのにまだ萌芽も見られない。この調子でいくと、花開くまであとど...
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ツチヤの口車 第1323回 土屋賢二「友人へのメール」
コメ0 週刊文春デジタル 4ヶ月前
お変わりありませんか。残念ながら小生も変わりありません。 貴兄とは、年齢的には親子ほどの違いがあり、気品では貴公子と山賊ほどの違いがありますが、このままでは、二人手をたずさえて不幸の度を深めているような気がしてなりません。 悪い流れを変えようにも時間が足りません。先日正月を迎えたばかりなのに、...
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ツチヤの口車 第1322回 土屋賢二「ツチヤ師の師走」
コメ0 週刊文春デジタル 4ヶ月前
ツチヤ師に聞いた。――師走です。走るんですか?「走らない。教師は引退したから走る必要はない」――では走らないんですね。「わたしは必要がないからといって手を抜くような人間ではない。原則として毎日ウォーキングする」――歩いているんですね。「もちろん暴風雨の中を外出するほど杓子定規ではない。臨機応変に、寒...
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ツチヤの口車 第1321回 土屋賢二「ゴキブリに敬意を」
コメ0 週刊文春デジタル 4ヶ月前
多様性の時代と言われるが、人間には多様なものを平等に受け入れる度量がないと思う。 だれにも食べ物の好き嫌いはあるし(「好き嫌いがない」と豪語する人はわたしの妻の料理を食べてみるがよい)、異性の好き嫌いもある。たぶんこれは本能的なもので、動物にも食べ物や異性に対してはっきりした好き嫌いがある。 ...
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ツチヤの口車 第1320回 土屋賢二「亀による政治」
コメ0 週刊文春デジタル 4ヶ月前
亀甲羅政治を提唱するコラ・亀田氏に聞いた。――どんなご主張なんでしょうか。「政治は選択の連続だ。しかも昼食をそばにするかうどんにするかといった選択とは違う。国民の運命を握る選択ばかりだ。プーチンのような選択をしたら何万人もの人命が失われる。どうすれば正しい選択を下せるだろうか?」――あらゆるデータ...
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ツチヤの口車 第1319回 土屋賢二「不可逆的グルメ道」
コメ0 週刊文春デジタル 4ヶ月前
グルメを極め、「不可逆的グルメ道」を提唱しているニャン・猫田氏に話をうかがった。氏は他にもワン・犬田、モー・牛田などのペンネームをもっている。――早速ですが、「不可逆的グルメ道」ってどういうことなんでしょうか。「いま人々はあくことなくおいしい物を求めている。ラーメン一杯を食べるために博多まで飛行...
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ツチヤの口車 第1318回 土屋賢二「もらわれるところだった」
コメ0 週刊文春デジタル 5ヶ月前
教え子に言った。「これから養子だった人を列挙する」「待ってください。何をなさりたいんですか?」「やがて分かる。驚愕の事実が」「驚愕するほどくだらない結論にならないことを祈るしかありません」「養子だった人は多い。スティーヴ・ジョブズ、マリリン・モンロー、ビル・クリントン、ジョン・レノン、ネルソン...
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ツチヤの口車 第1317回 土屋賢二「ライオンに嫌われた日々」
コメ0 週刊文春デジタル 5ヶ月前
国が成熟するということはこういうことなのか。テレビではグルメ番組が隆盛をきわめ、女性誌には相変わらず、グルメ情報とダイエット情報が載っている。暖衣飽食の時代である。 わたし自身、若いころよりも運動量が圧倒的に少なく、食べる量は圧倒的に多い。いまや、腹をすかしたライオンが好む体型である。ライオン...
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ツチヤの口車 第1316回 土屋賢二「天国に住めない理由」
コメ0 週刊文春デジタル 5ヶ月前
これまでわたしはラクな生き方を模索してきた。その道のりはラクではなく、迷路にはまり込んでいるいまもラクからはほど遠い。 だが悪夢もいつか終わりが来る。先日、この模索もついに終焉を迎えた。 模索の方向に根本的な誤りがあると気づいたのである。長年の努力が見当違いだったと気づくいつものパターンだ。 ...
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ツチヤの口車 第1315回 土屋賢二「納得できない写真」
コメ0 週刊文春デジタル 5ヶ月前
将棋の宣伝ポスターに違和感を覚える。藤井八冠をはじめ、トップ棋士の面々が威嚇するような表情を浮かべ、腕を組んで仁王立ちになっている姿を下からあおるように撮った写真だ。まるで「麺は柔らかめ、味玉とワカメ追加で」と注文しなくてはならないような気分になる。 なぜ考えている棋士の写真か、笑顔か、せめて...
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ツチヤの口車 第1314回 土屋賢二「ラクな生き方」
コメ0 週刊文春デジタル 6ヶ月前
ラクに生きたい。何がラクなのだろうか。使う労力が少なければラクというわけではない。 一日中、哲学の論文を読み、何十年の間、寝ても覚めても哲学の問題に取り組むことはふつうの人には苦行だろうが、問題を解きたい一心の哲学者にとっては努力ですらない。朝から夜まで飲まず食わずでパチンコをするのが努力とは...
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ツチヤの口車 第1313回 土屋賢二「迷える若者への返信」
コメ0 週刊文春デジタル 6ヶ月前
お便り拝見しました。人生の選択に迷っておられるとのこと、ご参考までにわたしの生活をご紹介します。 最近、老化のためか、運動不足のためか、身体が思うように動きません。立ったまま靴下を履くこともできません。片足ずつしか履けないのです。先日は首が十度しか回らなくなりました。寝違えです。だいぶよくなり...
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ツチヤの口車 第1312回 土屋賢二「謝罪の極意」
コメ0 週刊文春デジタル 6ヶ月前
謝罪の専門家、斜財御免氏は何万回と謝罪してきただけあって、すでに坊主頭だ。謝罪の極意を聞いた。「謝罪はいいよ~。謝っても価値は下がらない。もともと価値はないんだから。謝罪すれば裁判でも『反省の色が見られる』と情状酌量までしてもらえる」――気を付ける点は?「ふつうのやり方はこうだ。謝罪の前にすべき...
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ツチヤの口車 第1311回 土屋賢二「いままでで一番衝撃を受けた一言」
コメ0 週刊文春デジタル 6ヶ月前
他人の目は節穴である。その証拠に、わたしを尊敬する者が一人もいない。 だが、他人の目に驚かされることがある。 東大に入って一年後、真冬でも裸足にサンダル、ジーンズにジャケット一枚、風呂は月一回というホームレス風の姿で渋谷を歩いていて、衝動的に占い師に見てもらったところ、「惜しいねぇ。あんた、真...
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ツチヤの口車 第1310回 土屋賢二「ヒーローの闘い方」
コメ0 週刊文春デジタル 7ヶ月前
「法の支配」は民主主義の基本だ。実際、独裁者の気まぐれですべてが決まったらたまったものではない。だがわたしは子どものころ、法の支配を軽蔑していた。 あこがれのヒーローは、規則や法律に訴えたりせず、力ずくで正義を実現する。どこのヒーローが弱い者いじめをしている悪人に向かって、六法全書を開いて見せる...
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ツチヤの口車 第1309回 土屋賢二「わたしはこうしてダマされなくなった」
コメ0 週刊文春デジタル 7ヶ月前
歳をとるにつれてダマされなくなる。わたしも生まれつきダマされなかったわけではない。サンタクロースも鬼も人さらいも閻魔様も実在すると信じて疑わなかった。子どものころから詐欺師にダマされた回数は、自覚しているものだけでも両手に両足を加えても足りない(五件以上という意味ではない)。 小学生のころ、校...
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ツチヤの口車 第1308回 土屋賢二「騙されやすさの研究」
コメ0 週刊文春デジタル 7ヶ月前
友人がメールで送ってきた自撮り写真は衝撃だった。 誤解を恐れずに言うと、友人の外見は弥勒菩薩像に似ている。写真に写っているのも、恐れ多くも弥勒菩薩を檻に入れて運動を禁止し、高カロリー食を与え続けて体重を三倍に増やし、神々しさと気品と毛髪を除去し、代わりに無精ひげを生やし、暴飲暴食と不摂生の毎日...
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ツチヤの口車 第1307回 土屋賢二「ねじが時限爆弾になるまで」
コメ0 週刊文春デジタル 7ヶ月前
新しいパソコンは驚くほど速い。記憶媒体にハードディスクではなくSSDが入っているからだ。ハードディスクとの差は圧倒的だ。ちょうど東京から大阪に車で行くのにかかる時間と、自転車で行ったと嘘をつくのにかかる時間ぐらい違う。 これで納得できた。何十年も前から長編ミステリを二十冊は書こうと思いながら一冊も...
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ツチヤの口車 第1306回 土屋賢二「想像すれば失敗しない」
コメ0 週刊文春デジタル 7ヶ月前
古いパソコンのハードディスクを取り出して新しいパソコンに取り付けなくてはならない。簡単だ。だれもがそう思う。だがいざ取りかかるとまず失敗する。 わたしはこの種の簡単に見える作業に何度も失敗してきた。その失敗を活かさないと何のために失敗してきたのか分からない。 今回は画期的な方法を考案した。失敗...