• happy birthday to town headman'19~The Edge of Heaven~

    2019-06-26 21:59

    「これは凄いな」
     さて、防衛隊の夕飯時である。
     俺の目の前、リビングはキッチンカウンター前に位置する大テーブルには色鮮やかな料理が並んでいた。
     まず、ちらし寿司。
     酢飯の上に飾られているのはマグロの赤、サーモンといくらのオレンジ、穴子の薄茶にむき海老の紅白、卵焼きの黄色に、胡瓜とアボカドの緑、酢蓮の白だ。
     まさに、海の宝石箱やー、と言わざるおえないきらびやかさである。
     そして他にもタコときゅうりの酢の物、おそらくタコはいずこかの地だこを買って来たのだろう、色が濃く、冷凍ものにありがちな水っぽさが切り口に感じられない。
     さらにハマグリのお吸い物に、筑前煮。
     そしてケーキと、和洋折衷、まさに日本のよき成人の誕生会という風情。
     知っている人は知っていることだが、防衛隊の食事は自炊制である。
     基本、日勤、夜勤とに分かれている勤務の中で、食事時にはその時勤務している人間が当番制で食事を作ることになっている。
     無論、料理が不得意な隊員もいるので、そこは料理が得意な隊員と、他の当番――掃除や洗濯のそれと変えて貰って、ことなきを得ている者もいるが、大体の隊員はそれなりにこなすことが出来ているように思う。
     そして、大体の場合、誕生日を迎えた隊員が居れば、その日はいつもより少しばかり豪華な食事と、ケーキを買って来てお祝いをしたりするのが常である。
    「そんなわけで本日は我らが隊長、巽清士朗さんのお誕生日です。三十路突入、おめでとうございまーす!」
     満面の笑顔でそう述べたのは、本日の夕食当番、ひさぎであった。
     なぜか三十路の部分に強いイントネーションを感じた俺は、ほんの少しばかり笑顔がこわばるのを感じながらも、そこはそれ。
    「ありがとう、ひさぎ。皆も、ありがとう」
     と、滑らかに返事を返したものである。
     続けてクラッカーが鳴る。
     音頭を取ってくれた縒に続き、リリィにミカド、エルスに楓、大にメイリア、メイカに武蔵、椛らが祝いの言葉を述べてくれる。
     ありがたい。
     皆、それぞれ、一人一人へ礼を述べて回っていると、そこへさらに、町外からのゲストがやって来た。
    「巽さん!30歳のお誕生日、おめでとー!これから再び巡る1年が、巽さんにとって素晴らしいものとなりますように!」
    「清士朗さん、30歳の誕生日おめでとうございます!真摯で丁寧に対応する深慮な町長さんなあなたの、より一層のご活躍と、志を貫ける穏やかで充実した日々をありのまま護り続けられることを願って」
     と、嬉しい言葉をくれた二人、平和を愛する華憐な乙女……と、見まごうドワーフ男子、シルディ・ガードと、同じく、そのあまりにすらりとしたスタイルは、一見ドワーフの男性には見えないドワーフ男子、イッパイアッテナ・ルドルフがやって来てくれていた。
    「お二人ともようこそー!大したものはないですけど、どうぞ食べて行って下さいな」
     というひさぎの言に俺も頷き、二人に着席を促す。
     特に、イッパイアッテナから貰ったルーペシステム搭載のドローンは、自動的に使い手に随行し、そのカメラで自在に映像を拡大も出来るという優れもので、潜入系の依頼で輝きそうな逸品であった。
     そんな二人を交えての食事も楽しく終わり、ほどよくアルコールも入った楽しい食事がおひらきとなってしばし――…風呂を終えた俺は自室にいた。
     聞きなれた洋楽をPCから流しながら、仕事に使う原稿を起こすべく、Wordを立ち上げて唸っていると、部屋の呼び鈴が鳴った。
    「誕生日――三十路突入おめでとう!おそくなってごめんね、やっと仕上がったのでー」
     ふわりと花の香り。
    「お、髪洗ったのか。良い香りだな」
    「え。あー、うん、ま……一応」
     なぜかぼそぼそと答える彼女の耳はいつものけも耳でない人耳、レアだ。
     細長い包みを手に、元気よく、しかし時間を考慮してか、少し声量を落としてそう言ってくれたのはそう、本日の夕飯当番、ひさぎであった。
    「ありがとう。……そうか、何か、手作りのものを作ってくれたのだな?」
    「うん、まあ、その方が気持ちがこめられるかなって……気に入るかわからないけど、開けてみて?」
    「ああ。と、まあ入り口で立ち話もなんだ、風邪を引いてもいかんし、中にお入り」
     そういうとひさぎは一瞬、ちらりと、廊下へ視線を逸らしたのち。
    「……じゃ、遠慮なく。お邪魔しまーす」
     と、少しだけ躊躇う様子を見せたのち、部屋へと入って来た。
     夜風を通すため、少しだけ窓を開けていた部屋の中、ひさぎと卓を挟んで座る。
    「ちょっと夜も気温が上がってきてるけど、空気が乾いてるからまだいいね」
    「そうだな」
     そう答えながら包みを開く。
    「でもこれからの時期はこういうの必要かなって。ど、かな?」
    「……成程、傘か」
     それは、黒い洋傘。
     柄の部分は地の木目を生かした造りで艶があり、開けば骨組みもしっかりとして、見るだに良品であることが伺えた。
    「これは……洒落た作りだな、それでいて派手でない。高かったんじゃないか?」
    「んー、まあそれなりに?でも、注目して欲しいのはそこじゃないの」
    「ああ、そういえば手作りだと言っていたか?しかし傘を作ったというわけではないだろうし、さて――」
     くるりと傘を回しながら、電灯に透かしてみると、そこに答えがあった。
     糸だ。
     開いた黒い傘には、同じく黒い糸で、あらん限りに刺繍が施してあったのだ。
    「これはまた……」
     思わず、笑みが浮かんでしまって声が出てこない。
     またひさぎの凝り性が出たな、と思う。
     黒地に黒の糸で、よくよく眺めて見なければ分からない手間をこれでもかと施してある。
     刺繍の柄は吉祥文様――縁起がよいとされる、それこそありとあらゆる紋が入っているのではないかと思うほどに、端から端まで、縫い込まれている。
     しかもそれが傘の円形に見事に落とし込まれ、全体のデザインとして破綻していないのだ。
    「……あれだな、ひさぎ、わりとデザインとかそっち系の才能もあるんじゃないか?……ここまで微に入り細に入り、己の拘りを具現化出来るのは、いっそ才能という言葉だけでは片づけられないが」
    「褒められるのは嬉しいけど、このくらいこつこつやってれば誰でも出来るんよ」
    「いやいや、謙遜を」
     いや、本当に謙遜だと思う。
     思案する俺の前、こういうのはえらい人が率先して使わないと普及しないモンだってばっちゃが言ってた、とか。
     思いつく限りの吉祥文様をこれでもかと縫い込んでおいたから、雨や日射しだけでなくグラビティにも耐える、はず。
     とか、言っているひさぎは、それこそこの刺繍に己の巫女としての霊力をも、縫い込んでくれたのだろう。
     これはそう、才能というよりもいっそ、狂気に近い。
     いや、たとえば天才と呼ばれるような職人や芸術家の仕事はそれこそ、ある種の異常性というべきか、常人には考えられぬ、または思いついたとてやり遂げられぬ仕事を、ただひたすらにもくもくとこなさねば完成せず、またそれゆえにこそ、その完成品はこの世のものとは思えぬものになったりするものだ。
     たとえば象牙多層球とか。
     そう、これはとても人間が作れるものではない、未知の生物の骨に違いないと博士が考えてしまうような代物が生まれてしまったりするのである。
    「ひさぎは、凄いな。お前のそういうところ、俺は尊敬している」
     傘を閉じながら、ひさぎの顔を見つめる。
     ひさぎは自慢げな表情はどこへやら、ぽかんと口を開けて鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。
     ちなみに俺の顔はというと、ごくごく真面目なものだったろう、それはそうだ。本心だったのだから。
     ――部屋には、古い洋楽が流れている。

    「俺はなんだかんだ言っても、この町から出たことがない。安楽に暮らしてきたつもりはないが、まだ幼い子供の頃から家を出て、その日寝るところにも困るような生活をしたことはない」
     立ち上がる。
     部屋の冷蔵庫の上、湯飲みやコップの入った棚から小さめのグラスを取り出して、冷蔵庫から出した梅酒を注ぐ。
     今日は夜勤ではないだろう?わりといけるから、良ければ飲め。
     そう言って、ひさぎの前へ一つ、置く。
     再び座って喉を潤しながら俺は続けた。
    「俺はこれから先も、町を出て暮らすことは、恐らくないだろう。……だから、俺が絶対に経験しないだろうことをして来たお前のことをな、尊敬している」
     俺の言葉に、なんとなく居づらいような様子で、落ち着かなげにそわそわしているひさぎへ微笑みながら、さらに俺は言う。
    「この傘の刺繍にしてもそうだが――…お前は、一度こうと決めたら最後、絶対にやり遂げる。周りが心配になるくらいの実直さで持って、お前はなし遂げてしまうんだ。……まあ、少々頑固すぎるというか、行動力が在り過ぎるきらいはあるがな」
    「……ほめてるのかけなしてるのか、どっちなんよ」
     反応に困る、と口中に呟いてひさぎはほんの少し、ほの甘い梅酒に口をつける。

     だからきっと。
     お前はやり遂げるべき自身の使命のために、俺の傍からいなくなってしまう。
     そして俺はそれを、笑って見送ってやらなければならないんだ。

    「もちろん褒めているんだ。と、そうそう、そういえば一つ、頼みを聞いてくれるか?」
    「……なに?」
     酒のせいか、ほんの少し頬を染めてひさぎが言う。
    「寝物語を頼みたい。――お前の旅の話、そういえば聞いたことがないなと思ってな」
    「……今日は、雨も風も、強くないんよ」
    「まあまあ、せっかく誕生日だから。……だめか?」
    「――明日、起きれなくても知らないから」
    「ありがとう」

     部屋には、古い洋楽が流れている。
     ボリュームを押さえた曲が部屋を満たす。

     ――君に鍵をかけてつないでしまいたい。
     耐えられないんだ、自由になりたいと君が叫んでいるなんて。
     そんな歌詞を、しかしアップテンポなメロディーに乗せて、男が歌っていた。


  • 広告
  • happy birthday to town headman'19~あなたにくびったけ~

    2019-06-25 18:38

    「うぅーん……こっちかなぁ……ああ、でもやっぱりこっちの方が……」

     俺の腹に、柔かなそれが押し付けられる。
     例えるならば、その内にたっぷりととろみをつけた餡を詰め込んだ肉まん。
     普通の肉まんだと、重量感というか、水気というか、そういうものが足りない。
     その生地ならぬ、その肌はどこまでもきめ細やか、掌で触れれば手に吸い付くように離れず。
     しかし、その表面に指先を滑らせればシルクの如く。
     思わず人差し指と中指でスケートごっこ、ないし登山ごっこを始めたくなる逸品であることを、俺は知っている。
     まあ、一皮むけば肉まんというよりアンマンなわけだが。色合い的に。
     もとい。
     さて、察しのいい読者の皆さんには俺の状況が把握していただけただろうか?
     しかし、そんな状況ではあるものの、その凶器を今、俺に押し付けている本人が俺を誘惑しにかかってでもいるのかと言えば、そんなことはない。
     その本人は、大真面目な顔で、ごくごく真剣に悩んでいるのである。
     逆に真剣すぎて、自分が俺へいわゆる一つの、いやさ二つのおっぱいを押し付けている姿勢になっているということに気付いていない。
     それを天然でやってしまっているところが、眼前のこの人物の恐ろしいところというか可愛いところというべきか。
     まさか、俺がそんなことを考えているとはついぞ知るまい張本人は、形の良い眉をよせて悩みつつ、俺の首元へ自分の持って来たそれらを、かわるがわる当てては、あーでもないこーでもないと独り言ちている。
     まあ正直なところ、この人物はそうして悩んでいる顔や困っている顔が可愛らしく、見ていて飽きない。
     だものだから俺もついつい、先ごろ、俺の部屋へ訪ねて来た彼女からプレゼントをもらった矢先に。
    「ほほぅ、三本セットなのか、ありがとう。……ではせっかくだから、さっそくつけてみようかな、ちと待て?」
     と、シャツとチノパンへと着替えて。
    「ではこの格好にあうのを選んでくれるか」
     と、振ってみたわけである。
     そして彼女は「う、うん。わかった」と、頷きながらももとより、一本に決められないから三本セットにしたのだろう予想に反せず。
    「うぅーん……やっぱり難しい。だって清士朗さんどれも似合うと思うし……せ、清士朗さんが決めて?」
     などと言い出したわけだが、そこで俺は無論のこと、満面の笑みで。
    「いや、楓が決めてくれ。せっかくの機会ゆえ、お前が選んでくれたものを一番最初につけたいんだ」
     と、返す。さすれば。
    「ぇ、えぇ……んー…うん、わかった。じゃあ、が、がんばる……!」
     心底困った顔で、しかし神妙な顔つきへと変わり。
     そうして橘楓は、俺へと贈った赤・黒・紺、三本セットのネクタイの選定に入り、今にいたるというわけなのである。
     なお、選び始めて時間はすでに、10分以上は経過している。

    「……うん、これ!これにします……!」
    「お、紺か。いいな、このイタリアンブルーの明るい青には映えそうだ」
     ありがとう、と告げてネクタイを巻く。
    「うん、やっぱり似合う……お誕生日、おめでとう、清士朗さん」
    「有難う」
    「えへへ、あ、そうだ。せっかくだから清士朗さん、ちょっとお出かけできない?」
     と、そこまで言って、楓は何かに気付いたような顔になって。
    「あ、ううん、無理だった。もう少ししたら晩御飯になるし、皆でケーキも買ってあるから、無理だったんだ、ごめんなさい」
    「おや、ケーキも皆で用意してくれたのか」
    「うん、だっていつも隊員の誕生日には清士朗さんがケーキを用意してくれるでしょう?だから、ね。今日くらいはって、みんなで話して」
    「それは楽しみだ。しかしそうだな……確かに残念ながら、デートとしゃれこむ時間はないな」
    「ね。……だからまた今度にどこか」
    「だがな楓、その辺を散歩する時間くらいならあるぞ」
    「え?」
     俺は黙って、窓の外を指し示す。
     見えるのは雨上がりの美しい空。
     やっと落ち始めた赤い夕陽が、青い空へと赤、黄、紫、白と、複雑な色合いを描いて、今にも虹でもかかりそうな空。
    「綺麗な夕方だ。ちとお前と散歩がしたくなってしまったのだが……付き合ってくれるか?」
     手を出して、微笑む。
     無理をして浮かべていた笑顔が一転、喜色を抑えきれぬそれへと変わる。
     楓が俺の手を取りながら、そっと告げた。
    「ねえ、清士朗さん。異性にネクタイを贈る意味って、知ってます?」
    「ふふ。……どんな意味なんだ?」
     部屋を出て、手を繋いで廊下を歩きながら俺が逆に問いかけると、楓が俺の肩に掴まり、つま先立ちして耳へと唇を寄せて言った。

    「それはね、あなたに――…」

     続く。


  • happy birthday to town headman'19~あまやどり~

    2019-06-24 20:37

    「いやー、よかったねぇ清士朗さん。僕が偶然、通りがからなかったら、せっかくの着物が濡れちゃうところだったじゃない!」
    「うむ、助かった。予報では降水確率が低かったものだから油断した」
     頭の上には灰色の雲と小粒の雨、西の空に夕日の赤い残照。
     そんな複雑な空模様の下、俺とフィーは連れ立って歩く。
     時は約3分前。
     自宅から寮へと戻る道すがら、あと寮まで10分というところで通り雨に出くわしてしまったのだ。
     さて、困ったな。
     さりとて、裾をからげて走るというほどの降りでもない。
    「春雨じゃ、濡れて行こう――」
    「いやいや、依頼帰りの疲れた体に冷えは禁物。防衛隊の主治医としては控えてもらいますよー」
     俺の独り言に素晴らしいツッコミを入れつつ、やけにつくりのいい番傘を差しだしてきたのは誰あろう、赤いフードのレプリカントな彼女。
     深い青藍の向こう側、不敵な笑みを浮かべる、そう、我らがウィッチドクター・フィーさんであった。

    「本当は依頼が終わったらすぐに来て欲しいところなんですけど」
    「はい、すいません、先生」
     フィーから渡された番傘を真ん中に立て、しかし互いの身長差を考慮し、風向きに対してフィーが濡れる面積を出来るだけ少なくするよう考慮しながら、俺は笑ってそう答える。
     防衛隊の隊員は、大体の人間が依頼終わりにはフィーのもとへ赴いて診察を受ける。
     戦闘というのはやっている時は夢中だ、何せ命がけ、傷を負っても傷みを感じず、気づかないままに戦い続けていたりするのはザラ。
     よって戻ってから、きちんと診ることの出来る人間に、軽く診察して貰うだけで、本人が気づかなかった負傷にいち早く対処したりできる。
    「それに、僕としてもいいデータが取れるからね、是非皆来て来てー」
     と、本人がふんす、と息も荒くウェルカムなことも手伝って、隊員たちがフィーの自室を「医務室」と呼び、依頼終わりに通うことはわりと通常営業と化していた。(多分)
    「よろしい。……でもついに清士朗さんも三十路かぁ」
     隣のフィーが顔を上げる。
     フードの下ちら、と視線を俺へと投げて、そんな言葉を長い息とともに吐きだした。
    「なんだ、もっと若くいて欲しかったのか?フィー」
    「そんなんじゃないけどなんとなく……そう、なんかしみじみしちゃっただけ」
     目を細めて笑う彼女は、俺にとって戦友とでも言うべき数少ない存在だ。
     無論、町を守るための大切な人物であることは言うまでもない、言うまでもないが、では俺にとってなんなのだと言われるとそれはそれで答えに困る。
     友情、それも正解だろう。
     愛情、まあそれも間違ってはいない。
     恋愛関係は違うとして、だが大事な人間であることは確かだ。
     あえていうなら、稀有な、同じ経験をした者同士の間にしか芽生えないなにか。
     長い長い旅路の苦難を共にし、飢えの果ての中、一口の水を分け合った者同士のような、なにか。
     それだけの濃密ななにかが、あのごく短い、回廊を抜ける時間の中にはあったのだ。
    「そうして、しみじみしてくれる相手がいてくれるというのは得難いことだなと思うよ」
     またまた、そんな人たくさんいるくせに。
     にひ、とでも形容できるような人を食ったような笑みを浮かべて、少女が目を細める。
     俺を大切に思ってくれる相手は、それは有難いことに居てくれている、とは思うが――そうだな、それを言葉にして言ってくれる人となるとまた少なかったりするし、感動したりするものだろう?
    「まあ、それはそうかもしれないけどねー、贅沢は良くないよ?」
    「まったくだ」
     俺の言葉は否定せず、少しだけ芯をずらした返答を返す彼女は、道路を濡らす雨に似つかぬからりとした顔で笑っている。
    「ところでこの傘はどうした?男物だし、お前の趣味ではないのでは」
    「うん、それはね、アレですよ」
     ぴた、とフィーが足を止める。
     俺もつられて足を止める。
    「誕生日プレゼントってやつですよ、もちろん。最初はくすりばこのグレードアップでも考えてたんだけど、ドラゴンのゲート破壊も成功した今、もすこし遊び心に寄ってもいいのかなーって」
    「……ああ、どうりで」
     すっかりと濡れた傘は、深い深い青空を思わせる青藍に、今は天へと昇る白龍の姿が浮かび上がっている。
    「……見事な龍だ」
    「でしょでしょ。恭君によさそうなお店連れてって貰おうと思ったら……職人さん紹介された」
    「ほう、オーダーメイドというわけか」
    「です。世界に一本だよ!もしも修理が必要な際はこちらにねー」
     メモを手渡し、もう一度、誕生日おめでとう、と言う彼女へ。
    「ありがとう」
     と、一言だけを返す。
    「ではさっそくこちらの傘に活躍してもらいつつ、あと少し、寮までお供仕ります、先生」
    「うむ、くるしゅーない」
     仰々しく、重々しく台詞を吐いて。
     そうして、二人で大きく笑って。

     俺たちは、寮へと帰って行った。
     雨は寮へ着く少し前に、止んでしまったけれど。

     続く。