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  • Happy Birthday to Town Headman 2021~アクアテラリウム~

    2021-08-01 12:40

    「いやー、それにしても今年の超会議も楽しかったね!あ、もちろん、巽さんとこのお相撲も!」
     夕の食卓。
     俺の隣、ジュースの入ったコップを空けてそう語ったのは、いわゆるひとつのいかにもなロリっ子だ。 身長140センチ足らず、黒髪に大きな赤い瞳の彩りは、可愛らしくもどこか蠱惑的な印象を持たせる。
     そんな永遠の美少女、ドワーフのロリっ子、シルディ・ガード。
     はい、それではいつもの奴言ってみましょう、皆さん声をそろえてー?

     だが男だ。
     しかも何気に、俺より少し年上。
     依頼で知り合い、それ以来、わざわざ毎年、俺の誕生日を祝いに訪ねて来てくれる友人である。
    「ふふ、シルディも参加してくれてありがとう。俺はちと忙しく、大して回れはしなかったが……今年も楽しいイベントが目白押しであった」
    「あはは、巽さんは超会議中は大忙しだもんね!そしてそんな超会議が終わればそう!今日は巽さんのお誕生日~。32歳のお誕生日、おめでとー!」
     何度目かになるか、クラッカーを天井へ向けて放つシルディ。
     こうして真正面から、なんの含みもなくストレートな祝いの言葉を向けてくれると、やはりこちらも自然と嬉しく、口元が緩んでしまう。
    「ありがとうシルディ。さ、どうぞもう一杯やってくれ。料理の方も食べて食べて」
    「そうですよ!今日は私が腕によりをかけて作りましたから!はい、どうぞー」
     そう俺が告げると、待ってましたとばかりに、シルディの前へ本日の夕飯が盛り付けられた取り皿が差し出される。
     乗っているのはピンク色も美しいローストビーフに、水菜を敷いたうえに盛り付けられたポテトサラダ。
     ドライトマトを混ぜ込んだオムレツと、巻くのではなく、リボンのようにふわりと畳んだ生ハムを乗せたメロン。
     皿の一部にはちょこんと盛り上げて形作られたカレーピラフが、お子様ランチもかくやという形状に反して、本格的カレーを思わせるスパイシーな香りを届かせている。
     にこにこ顔で給仕をしたのは、本日の料理当番、君影リリィであった。
    「うむ、美味い。腕を上げたなリリィ」
    「わあ~、美味しそう!ありがとうリリィさん!」
    「ふふ、嬉しい♪シルディさんもたくさん食べて下さいね!」
     髪をまとめて、動きやすいパンツルックにエプロン姿。
     すっかり若奥様という風情のリリィはしかし、夕食に舌鼓を打つ他のメンバーのおかわりや取り皿の追加など、忙しい。
     くるりと背を向けてキッチンへ立ち去ろうとするのへ。
    「そういえばリリィ。せっかくの誕生日であるから、俺はビールの一杯も所望していいかな?」
    「もちろんです!……と、言いたい所ですが、本日はもうちょっと我慢を師匠」
     振り返り、ちょっとのためらいと共に俺の耳に唇を寄せたリリィはこう告げる。
    「あとで、お部屋の方に飲み物はお届けしますから……酔うのはもうちょっとだけ、お待ち下さい」
     少し赤い頬、それだけ言って。
     小さい子供が親を伺う時、顔を下から覗き込むように。
     そして母親が子供に言い含める時のように、しばらく俺の顔をじっと見る。
    「……判った。期待しておくぞ?」
    「う。あんまり期待されるのもハードルが上がるのでちょっと気が重くなるんですけど……が、頑張ります!」
     小さくガッツポーズ。
     うむ、俺の愛弟子にして愛妻は今日も不撓不屈である。

    「もー、それにして去年の年の瀬からすごいね、大混雑!アスガルド・ウォーが終わったーこのままゆっくりお正月だー!」と思ったら、砦の大襲撃でしょ?更には城ヶ島への第3ウェーブから豆まきに、また再びの宇宙(ソラ)へ!そして今度はドラゴンを追って日本中の空へ行って~の、また再びの戦争まで!(ぐるーり)さらにお魚大洪水も防いで…それが終わったら冥府の海の奥へ行って聖王女様と邂逅して~…それから和平交渉して、その後の究極の選択をして…もう何度目かの月へ~!もう大変!でも、事態はこちらの都合なんてお構いなしだし待ってはくれないからね。うん、しっかり頑張らないとだね!」

     さて、シルディの方はジュースですっかり出来上がっているようで。
     俺のとなり、なんとなくとろんとした目で、今年の思い出を滔々と語っている。
    「だな。さすがに俺もあの空の月へ、宇宙空間で戦うような真似をする羽目になるとは思わなかったが……しかし、やろうと思えばやれるものだ。凄いなケルベロスの不死性は」
    「ほんと!デウスエクスみたいに、グラビティチェインで倒されてもコギトエルゴスム化して眠るだけの完全不死ではないけど、僕たちケルベロスの不死性もなかなか大したもんだよね。真空の中へ出たって、深海の中だってなんとかなっちゃうんだもの」
    「まあ、死ぬほど苦しいけどな」
    「うん、死ぬほど苦しいけどね」
     湧き上がって来た「これが一般人にはなかなか理解して貰えないんだ」というケルベロス同士でしか共有できない感情を共有し、俺とシルディはソフトドリンクで乾杯。再び杯を重ねた。

    「まだまだ平和は遠いと判っているけど……なんだかもう少し。あともう少しでなんとかなるんじゃないかって、僕は思うんだ」
     見た目は少女、中身は戦士。
     そしてその心は、どこまでもいつまでも平和を求める求道者。
    「ああ。……まさかたった数年でここまでこれるとは、思いもしなかったが」
    「……それだけの戦いが、あったのさ」
    「そうだな」
    「……さて!さ!せっかくの誕生日に真面目なこと話してちゃ勿体ない!せめて力が抜ける時はのーんびりしないとね!さー、ユスラウメのジャムで作ったこのケーキ!どうぞどうぞ食べてみてー!」
    「おお、これは美味しそうだ、ありがたくいただこう。」
     そう。
     終わってみれば、梅のように甘酸っぱい。
     怒りも悲しみも、忘却出来ることこそが人の強さ、そしてそれこそが幸いなのだ。


     さて、楽しい夕飯のひと時も終わって湯上り。
     俺は浴衣にタオルをひっかけ、寮の大浴場から自室へと歩く。
     窓の外は暗く、しかし町中のこの寮からは、いまだ明るい街の灯がよく見える。
     人は強い。
     自分がいくら傷つこうと、誰が死のうと、それでもなんとか生きぬこうという意思を持っている。
     いやそれは人に特有のものではない。
     この世界に生きる、全ての生き物がそうなのだ。
     感情や知性を持たない本能で生きる生き物こそが、よりその強さは純粋に研ぎ澄まされている。
     高い知性と感情を得てしまった人間は、すでに彼らのように、己のためだけにそこまで強さを絞り出すことは出来なくなってしまった。
     高い知性や感情を持つが故に人は本能に逆行し、自ら絶望を生み出して己が命すら、断ってしまうこともあるのだ。
     部屋のドアを開く。

    (男子寮・清士朗の部屋)
    (ドアを開けると、〇ドガールがいました)

      >ドアを閉じる?【はい】【いいえ】

     ……そう。
     その代わり、時に人は。
     己のためでなく、人のためならば己の限界を超えてすら力を発揮することが出来るのだ。
     たとえばバドガールのコスプレをしたりとか。
    「わー、ちょ、ちょっと待ってくださいよぅ!」
     顔を真っ赤にしたリリィのその言葉に、俺はそっ閉じしかけたドアを開いて室内へ。
     バドガール。
     いわゆるバドワイザーのビールのロゴをプリントしたスーツを着た女性のことである。
     さすがに恥ずかしかったのだろう、赤い顔で焦りながら、超ミニワンピの裾を押さえるリリィ。
     うむ。正直、たまらん。
    「……えと。お誕生日おめでとうございます。お祝いに一杯、と思いまして。生ビール、お持ちしました☆」
     部屋の中央、テーブル脇へと移動すると、膝立ちとなり。
     卓上サーバーを手に、夕食で作ってあったのとはまた別の、ビールによく合いそうなアテを指し示してリリィは微笑む。
     チョリソーとポテトの盛り合わせ。
     キャベツに塩昆布をあえたものやもろきゅう。
     冷やしトマトなどなど。
    「……ふふふ、成程。これは我慢した甲斐があったというものだ」
     さっそく席について、冷えたジョッキを美人のバドガールに手渡す。
    「ではリリィも」
    「あ、はい。じゃあご相伴にあずかりますね」
     注いで貰ったジョッキから伝わる冷たさ。
     我慢したからこそ、高まる期待。
     リリィのスタイルの際立つ衣装。
    「うむ、完璧だ。完璧な誕生日のお祝いだ、有難うリリィ」
    「ほんとですか?よ、よかった。外してたらどうしようかと」
     なんだかんだで関西系女子なリリィ、ネタの空振りには厳しいのだ。
    「いやばっちり、俺の好みだったとも。わかりやすさは大事なことだ――…はい、乾杯」
    「あはは、確かに分かりやすさ大事ですもんね……はい、乾杯」

     そして俺たちは色々なことを話した。
     神戸から東京までたどり着くまでのリリィの話。
     リリィと出会うまでの俺の話。
     そして出会ってからの、この町での話。
    「……そういえば私、最初はあなたのことも信じてなくて。どうせ色仕掛けでもすればいいように出来るだろうなんて考えてた」
    「……ああ、あったな。ダンジョンで出たいいライダースーツを俺が贈って、次のダンジョン攻略に着て来てくれたのはいいが、ライダースーツの前を開けて見せたりな?あれはグラっと来た」
    「やめて!黒歴史を思い出させないで!……子供だったの、私。大人なんて、皆同じだって思って」
    「実際、家族を亡くしたあと、お前はずっと一人でやって来たのだからな。そう簡単に信用など出来なくなっていて当然だろう」
    「でもあの時、自分を大事にしなさい、ってあなたが叱ってくれて。私、嬉しかった……もしも、大好きだったおじいちゃんが生きてたら、きっとこんな風に優しく諭してくれたんだろうなって」
    「爺さんみたいだとはよく言われる」
    「うふふ。……ねえ清士朗さん。生きていてくれて、ありがとう」
    「俺こそ。生きて、俺のとこまで来てくれてありがとうリリィ」
     にゃー。
    「ああ、そうだな。もちろんレオも」
     羽根猫の頭を撫でる。
     一説に。
     ウイングキャットは、その主の平和を愛する心の一面、その具現化した姿だという。
     ならばきっと彼は、リリィが切り離したかった平和を求める心、その姿。
     家族を殺され、そして不幸にも。
     ――デウスエクスと戦う力を、不幸にも得てしまった彼女の。
     戦う力を得てしまったことで、忘却することが許されなかった彼女が、戦うために切り捨てた心。
     平和に生きていたいという心そのものなのか。
     ならば、平和を勝ち取って、戦う力を不要としたその時、このレオはどうなるのか。
     視線で問うても、レオは答えない。
     ひょっとしたら、自分のために、そして彼女のために。
     彼女を傷つける全てのものから、守るための存在だったのだろう。
    「……もしもお前が、彼女の中に帰る時が来ても、俺があとを引き継ぐから大丈夫だぞ」
    「にゃあ」
    「あー!ずるーい!清士朗さんとレオだけで内緒話してずるーい!」
     すっかり出来上がったリリィが言う。
     俺とレオは目くばせして笑う。レオがリリィにじゃれにいく。

     激しく賑やかだった戦場という名の楽園、その終わりはきっと近い。
     そうして僕らは、漂っていた海から上がり自らの足で歩き始めるのだ。

     生活。
     生きる。
     活きるという、新たな冒険を始めるために。






      >ドアを閉じる?【はい】【いいえ】


      >【それを閉じるなんてとんでもない!】 

      >【……冒険は まだまだつづくよ!】


     Happy Birthday to Town Headman 2021 完


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  • Happy Birthday to Town Headman 2021~pool~

    2021-07-23 17:41


     ――レンガ造りの街並みを歩く。

     さくさくと、足の下で音を立てる雪が少々うっとうしい。
     自宅アパルトマンのドアを開こうとして、足元で動く影を見つけた。
     猫だ。
     黒い毛並みの仔猫。
     人なれした様子で足元にじゃれついて来るのを、眺めて暫し。
    「悪いな。ウチにはもう猫がいるからお前は飼えないんだ」
     しゃがんで手袋ごしに撫でてやると、気持ちよさそうな声をあげる。
    「じゃあな」
     後ろ髪をひかれつつも、俺はドアを閉めた。
     ピンポーン。

     ――おや?
     おかしいな。
     俺が部屋に入るというのに、なぜ逆に部屋のチャイムが鳴るのか。
    「……」
     いや、アパルトマンってなんだよ。
     夢だった。

    「まあ、たまの休日だし、うたた寝くらいいいんじゃないです?」
     といいつつ、持ち込んだ薬缶から、湯冷ましにお湯を注ぐのはひさぎだ。
     昼を食べてのちしばし、寮の自室でうとうとしていたところに、おやつを持って来てくれたのである。
    「ほう、カキ氷」
    「近所の駄菓子屋さん、もう始めてたんで。……イチゴで大丈夫でした?」
    「定番だな、もちろん大丈夫だ。いただきます」
    「はい、溶けないうちにどーぞ」
     お先に失礼して、氷と書かれたチープな器から、これまたチープなストロー兼スプーンを手にして、甘い氷を口にほおばる。
     テーブルの向こう、ひさぎはガラスのコップに麦茶を注ぐ。
    「夏も近くなって来たが、やはり日本の夏は麦茶とカキ氷、だな」
    「うん、日本はやっぱりそうだよね」
     しゃくしゃく。
     二人で話しながら、いちごのかき氷を崩して食べていく音が、静かに部屋に響く。
     開いた窓から、初夏の風が入り込んで来る。
    「そうか、ひさぎは外国暮らしが長かったものな」
    「アメリカとかだと、夏といえばレモネードかなあ」
    「ほう」
     麦茶を受け取り、喉を潤す。
    「子供がお小遣い稼ぐのに、家の庭で売ってたりするの」
    「さすがアメリカ、自立している」
    「うちも旅先で仲良くなった子たちがやってるのを手伝ったりもしたよ」
    「ふふ、何気にひさぎは友達、多そうだな」
    「んー、どうだろう。ま、ロスで会ったその子たちとは仲良くなって、しばらく一緒にアルバイトみたいなことしたりしたけど」
    「旅の資金を稼いでいたと」
    「そうそう。……別れる時には、売り上げからカンパしてくれたりしてね」
     そういうひさぎの顔はとても優しい。
    「連絡先は、判らないのか?」
    「ないよ。アドレス書いたメモは貰ったけど……日本に帰って来る前に、どこかに行っちゃった」
    「なら、その町に行けばいいわけだな」
    「……は?」
    「いや、実際にロスに行って、覚えている限りの場所を探してみれば、知り合いの一人や二人は見つかるのでは?」
    「いや、それはそうかもだけど……そんな簡単に」
    「今となっては世界をまたにかけるケルベロスの一員。そのくらいは可能だろう。なんならこの夏の休暇で行って来たらどうだ」
     彼女はしばし、黙って。
    「……まあ、気が向いたら」
     そういって、まるで顔を隠すように窓の向こうへ視線を向ける。
    「うむ」
    「……それは、それとして!今はこれです」
     勢い込んでひさぎが、端末の画面を差し出す。
    「ふむ?……ああ、イベントの連絡が出ていたな。梓織さんの誕生日の奴か」
    「です。……いつか貴峯のおばさまの誕生日シナリオに一緒に行きたいな、とは思っていて。……ちょっと今回男のひと向けではない気もするし、とててもとても迷ったのです、が」
     彼女は少し、唇をかむ。
     ポニーテールにした髪の下、首筋にひとすじ、汗が流れる。

    「やっぱり、うちはあなたと一緒に行きたいです」
     彼女の顔が赤い。俺はにんまりとする。
    「今年のプレゼントは、変化球というわけだ?」
    「……です」
    「――もちろんOKだ。是非行こう、ついでに泊まりにして、お婆さんのところにも顔を出さねばな」
    「え、いや、そんな大事にしなくてもいいんだけど」
    「いやいや、俺としては神戸まで行って顔を出さないわけにはいかん。改めて結婚の報告もせねばいかんし」
     なんとなく、言うんじゃなかったという色を見せ始めたひさぎの表情を眺めて、俺はふと先ほどの夢を思い出す。

    「そういえば、先ほどうたた寝をしている時に、こんな夢を見ていたんだ」
    「……どんなんです?」
    「俺はどこか、ニューヨークっぽいような都市のアパートに住んでいて、入り口にねこが捨てられていたんだがな、俺の部屋にはひさぎが居るからなとちゃんと断ったのだ」
     笑顔で胸を張る。
     と、そこまで言って。

     ひさぎがまるで、GOMIを見るような目つきで俺を見つめているのに気づく。

    「……あれ?ひさぎさん、どうかしたのかな?」
    「……はいはい、それで?今度はどんな可愛い子を見つけたんです?」
    「え。いやちがくて」
    「どーせ、その前振りからの本題が別にあるんじゃないんですか?いいですよ、怒らないから言ってごらんなさいな」
     一転、にこにこ笑顔で迫って来る俺の猫にして新妻。
    「うわあ、俺、物凄い信用がない」
    「まあ、それはそれとして」
     ぺろり。
     このくらいはやりかえさせろと言わんばかりに、カキ氷のシロップで真っ赤になった舌を見せて山猫が笑って。
     俺は、時が止まればいいと思った。

     そんな暑くなって来た日々の一幕。
     ちょっとだけ背筋が冷えた午後。
    「お誕生日おめでとう」
    「ありがとう」
     響くのは二人の笑い声。
     俺はひさぎをプールに連れていく約束をした。

     微かに熱を含んだ風が部屋を通り抜けて、遠く遠く、御柱の山へ駆けていく。
     夏が来る。
     ウチにひまわりは、もう咲いていない。
     けれど、ウチの神社に咲くキササゲは、今が盛りだ。
     そう俺の庭には、今も花が咲いている。

     淡く、黄色い――…古くはひさぎと呼ばれた花が。


  • Happy Birthday to Town Headman 2021~Hungry spider~

    2021-07-18 09:39


     さて、時は過ぎて昼ご飯。
     本日の献立は素麺。
     それも昼から天ぷら付き、素晴らしい献立。
     大ぶりの海老はブリブリの肉厚な身から迸る旨味を。
     輪切りにした新玉ねぎは旬の野菜の甘みを口いっぱいに。
     大葉はさくり爽やかな芳香で口の中をさっぱりとしてくれ。
     そして縦に切られた茗荷を嚙みちぎれば、ああ……夏。
     それは素麺も進むというもの。
    「あー、美味しかった。ご馳走様!」
    「玉ねぎ甘くていいねー、まだ新玉ねぎあるんだねー」
     などと口ぐちに感想を述べながら、昼休みを終えて町の各所へと散っていくのは、本日、昼番の防衛隊隊員たち。
    「じゃあね、清士朗さん、いってきまーす」
    「町長さん、いってきます」
    「うむ、気を付けてな」
     そう告げて見送る俺は、そう、非番。
     昼の一時を過ぎてなお、ゆったり茶を啜る時間のなんと有難いことか。
    「兄様、もう一杯いかがですか」
    「ああ、ありがとう。貰おうか」
     誰もいなくなったリビングに残ったのは、本日の昼の食事当番にして、後片付けの当番でもあるこの方。
     志苑であった。
     馴れた仕草で茶を淹れてくれたのを受け取って一口。
    「美味い」
    「ようございました」
    「しかし、ここで俺がゆっくりしていては、片づけが進まないか。すぐどくからな」
    「いいえ、どうぞごゆっくり。こちらこそばたばたして申し訳ありませんが、少しずつ片づけを始めて大丈夫ですか?」
    「勿論だ、どうぞ進めてくれ。というか俺も手伝った方が良いな。待ってくれ、この辺りのをまとめるから」
    「まあ、宜しいのですか?お休みなのに、申し訳ありません」
     そうして皿や箸をまとめつつ、俺はこまごまと動く志苑を眺める。
     変わったな、と思う。
     思えば、志苑が防衛隊に入ったのは5年前の春。高校入学を機に家を出、九龍町は九龍高校へと入学をした。
     当時から大人びた顔を見せる少女であったが、いまでは彼女ももう成人。
     町へ来た当初、彼女への俺の印象は固いものであった。
     表面上はあくまで柔らかく、嫋やかなものでありながら、その胸中には重く寒々しいものを抱えた少女。
     そんな印象を持っていたからだ。
     さもあらん。
     彼女は幼くして長兄を亡くし、またその命が失われていく様子を、まざまざと見せつけられた。その眼に、魂に、けして癒えぬ傷を刻み付けられ、それをどうすることも出来ぬままに成長していたのだ。
     もちろん彼女自身はそんな過去はおくびにも出さず、ほぼほぼ眉目秀麗、外柔内剛、大和撫子という印象しか人に与えることはない。
     その育ちのためもあろう、幼くして強固なる仮面をしかと身に着けるすべをすでに身に着けて育ってきていたのだ。だが、彼女の悲しみには及ぶまいが、同種の傷を持つ者にとっては、その仮面の奥に浮かぶ涙の色を、感じ取ることが出来たのだ。
     しかし、今は違う。
     奇なる縁の糸の導きか、かの長兄の仇を己が手で討つこと叶った彼女は、今はそう、嫋やかな中にそっと柔かなで暖かなものを抱いている。そんな印象を受ける。
     触れたものを凍えさせる氷の刃は、今はその鋭さの中に暖かな命の炎、とでもいうべきものを得て、輝いている。
    「良かった」
    「……?なにかおっしゃいましたか?兄様」
    「――…ああ、いや。なんでもないんだ」
    「そうですか?それなら宜しいのですが……」
     瞳に奇異な色を見せながら、割烹着を外して結わえていた髪をほどく志苑。
    「片づけ、お疲れ様。この後はお前も警邏に合流か?」
    「はい、いってまいります。けれど、その前にこれを……以前お贈りしました巴鳥と、御一緒させていただければと思います」
     彼女の掌の上、ちょこんと鎮座していたのは木彫りの雀。
     深海か、はたまた夜空のように輝く瑠璃色の石を、大切に抱えている。

     ――以前、防衛隊の皆で、共に出かけた時を思い出す。
     小さな小物を商いする店を見つけて、動物型のお手玉を買った。
     その時、志苑にと買ったのは、青い鳥のもの。
     そう、彼女に感じたのは鳥だった、高い空を一羽で飛ぶ、孤高にして美しい、けれどもどこか悲しい一羽の鳥。
     その鳥が、どこまでも青い石を大切に、大切に抱えてここに居る。
     ここに、とどまっている。
    「これは……ふふ、可愛らしい。それになぜか、懐かしいな」
    「兄様もそう思われますか?私もなぜか、どこかで見たような気がしまして、つい手にとってしまったのです」
    「今度、これを売っていた店に連れていってくれ、志苑。なにか縁がある場所なのやも」
    「喜んで」
     片づけを終えた彼女は身なりを整えると、愛刀を手に一礼する。
    「それでは隊長、行ってまいります」
    「宜しく頼む」
    「はい」

     そうして部屋を出て行く背に口を開きかけて、止める。
     彼女はもう大丈夫。
     そして今、ここに居る。
     ならばそれでもう、充分だと思う。

     そう、それだけで飢えた心はもう充分に、満たされているのだから。