• happy birthday to town headman'20~Sid and Nancy~

    2020-08-06 20:45

     誕生日を終えて数日。
     俺は自室にて、持ち帰った仕事に精を出していた。

     名ばかりの日曜日、とはいえ、そんな愚痴を言っていられるのもこれ、平和の証といえる。
     文机の脇に置かれた盆の上から湯呑みを取り、一口。
     ぬるまった麦茶が、それでも少しの清涼感を喉から体へと流し込んでくれる。
    「ふぅ」
     首と肩をほぐし、部屋の窓から外を見る。
     空は青、雲は清々と流れ、空気の気配はだんだんと夏へと向かっている。
     俺は少し手を休め、今年の誕生日の日のことを、思い出していた。

     あの日、何もしない時間という皆からのプレゼントを受け取り、しばしのドライブを楽しんだあと本部へ戻れば、プレゼントをくれたエルスにリリィ、ミカドに志苑、ひさぎはもとより、メイカにヴァオさんなどが本部を訪れてくれ、思い思いに誕生日を祝ってくれる皆と、夕飯を食べ、ケーキを食した。
     やはり、なには無くとも、おめでとう。
     その一言が嬉しいのだと、この日ばかりはそのことをとてもよく教えてくれる。
     ヴァオさんなど、去年の自分の誕生日に祝ってくれたからとわざわざ訪ねて来てくれるのだ、見かけによらずとはまさにこの人のためにあるようなもので、その律儀さ、義理堅さには毎年尊敬を覚える。
     そんなヴァオさんが奏でる誕生日ソングが流れる中、さらなる来客がやって来てくれた。
     やはり昨年もお祝いに来てくれた、シルディである。
    「巽さんこんばんわ~!お誕生日おめでとー!」
    「ありがとう、シルディ」
     身長137センチ。
     セミロングの黒髪に色白の肌、大きな赤い瞳のかわいこちゃん。
     だが男だ。
     そして33歳、俺より年上である。
     先だっての超会議では町の催しに参加してくれ、また、ケルベロスとしても精力的に活動するドワーフ男子。
    「最近じゃあ敵も連合を組んできたり、昔とはまた違う情勢にもなってるけど……だからこそ!」
     びしっと指を立てて美少女の顔をした男は言う。
    「今は英気を養おう!はい、誕生日おめでとうのカード!」
    「うむ、全くだな。シルディもどうぞ楽しんでいってくれ。あ、ジュースのおかわり要るか?」
    「わーい、いるいるー!」

     そんなシルディからもグリーディングカードをいただき、皆とささやかながらも楽しい宵を過ごしたのである。
    「いや、あれは楽しかった……と?」

     と、そこで回想に浸っていた俺を現実に引き戻す、部屋のチャイムが鳴った。
    「はいはい、どなたかな?」
    「あ、忙しいところごめんなさい、清士朗さん……私、楓、です」
     楓であった。
    「なんの、お前ならいつでも歓迎だぞ楓。さ、おはいり」
    「は、はい…お邪魔します」
     いつになく、おどおどとした様子で部屋で入って来る楓。
     ちなみにその服装はそろそろ暑くなって来たということもあってか、軽快なもの。
     綺麗めの黒のキャミソールに淡いグリーンのハイウエストなガウチョパンツだ。
     当然ながら座卓前に座った楓のアレはハイウエストに絞った上に乗るようにして強調され、輝かんばかりにその存在感をアピールしている。
     麦茶を出しつつ、まとめてアップにした髪の楓を眺める。
    「うむ、可愛い」
    「え?ええ……あ、ありがとうございます…」
     ぽっと頬を染めてうつむく楓。
     あざといな、楓あざとい。
     だがそれがいい、まるで狙ったかのように男心をピンポイント。
     愛のスナイパーエンジェル、楓とは彼女のことである。
    「で、今日はどうした?」
     冷えた麦茶を出しながらそう声をかければ。
    「あ、うん……その…遅くなってごめんなさい。今日はその、誕生日プレゼントを、ね…?」
     と、いいながら、上目遣いにそっと小さな包みを出して来る。
     うむ、だろうなとは思ったわけである。
     なにせ楓も何かと忙しい身だ。
     ケルベロスとしての活動に加え、町の防衛隊としての仕事。
     それに加えて、大学で授業に出てかつ、音楽家としての活動も始めているし、かつ、以前に比べれば少なくなってはいるものの、アルバイトもまだいくつかは続けている。
     俺の誕生日だからおいそれと休むことが出来ない事情は鑑みてあまりある。
    「なんだ、そんなことは気にしなくていいのに」
     プレゼントを受け取り、そっとその手を包み込む。
    「ありがとう、楓。こうして気にして言葉をくれること、それが一番嬉しい」
    「え、う……うん。そ、それなら良かったんだけど……」
     と、答える楓はやや視線を逸らし、なにか誤魔化すような雰囲気というか、居づらいような気配を醸し出している。
     はて?と思いながら「ではプレゼント開けてみてもいいか?」と、問えば。
    「あ!う、ううん。その……わ、私が帰ったあとで、開けてくれると嬉しいんだけど……」
     その顔は真っ赤である。
     さて、なにかそんなにも照れるような代物がこの小箱の中に入っているのだろうか。
     それはパンドラの箱なのか、アダムとイブが食した禁断の果実なのか。
     そんなことを考えている間に、俺が供した麦茶を一気に喉に流し込み、目を閉じてふーっと息をつけば。
    「その……ハートがついてて可愛くて、おしゃれでいいかなって思っただけでね!?そ、そんな変なことなんて全然考えてないから!ほんとだから!……じゃ、じゃあこれで!」
     と、まくし立ててささっと部屋を出て行った。
     俺は思わずそのまま見送ったのち。
    「ふむ」
     と、箱を開ける。
     するとそこにあったのは、南京錠のかけられたパンク風のアクセサリー……チョーカーであった。
    「ふ。……シド・ヴィシャスほどにロックな人生はおくれないと思うのだがな」
     そう呟いて、しかし。
    「……いや。さすがのシドも、地獄から戻って来るほどではなかったか」
     苦笑して、重々しいチェーンを撫でた。

     同封されていた鍵を、今度俺のナンシーに渡してやらないといけないなと思いながら。
     とはいえ、さすがに終始つけていられるような仕事ばかりではないので、その鍵をナンシーへ渡す前に、俺が自分用に合い鍵も作っていたのはいうまでもない。


     happy birthday to town headman'20.

     ――終わり。



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  • happy birthday to town headman'20~四季ノ唄~

    2020-07-30 21:00

    「……18時か。案外早く終わってくれた」
     左手首の、真鍮製の腕時計を確認して一息。
     内心、もう少し残って町長としての事務処理をしておきたい気がして、後ろ髪を引かれたものの、おそらく俺の誕生日ということもあり、防衛隊の本部では、いつもより少し豪華な晩御飯とケーキが用意されている。(ハズ)
     それは早く帰らないといけませんよ!という秘書さんの言葉もあり、本日はこれにて閉店ガラガラ。
     誰もいない役場の裏口。
     落陽の残滓に染まる、紫の空を眺めている。

     夏の夕暮れは遅い。
     6月というとどうにも梅雨のイメージが強いが、四季としてはすでに夏。
     この時間でも、外はまだまだ明るさを残している。
     脇を通り過ぎる、仕事を終えた職員たちと挨拶を交しながら、こうしてぼうっと立っていると、これはこれで、なんとはなしに充実した時間だという気がして来る。
     事実、毎日仕事に追われ――だが皆に助けられ――過ぎるくらいに充実した日々ではあるが、そうして走り続ける日々だからこそ、こうして何もしないほんのひと時、その大切さに気付けるとそう思うのだ。
     と、そう考えるといっそゆったりと流れる時間に己が身を任せ揺蕩うそれは、戦いの間にも通じるものがあるなという考えがまた浮かぶ。
     それは緩急とでもいうべきか――…一説に、速いが技、という。
     しかしそれもただ速いというだけでは、相手に反応を促してしまうという面があったりする。
     逆に速い動きだからこそ、相手に身構えなければという反射を促してしまうのだ。
     武道、武術の達人と言われる先人の方々が、いっそゆっくりと言っても良い動きで、いつの間にか敵の懐に入り込み反応すらさせずに倒す――あれは、決して絵空事ではない。
     素早い攻撃、実は生き物はそれに対しては反応出来るが、来るのか来ないの判断できない動きには反射神経が動かず、反応が出来ないという現象が起こるのだ。
     例えばパンチ一つ例にしてみれば、素早いパンチはどれだけ速かろうが何らかの動きを人間は見せる、とっさに自分を守らねば、と、体が勝手に反応するのだ。
     では、パンチに見えるが、これは本当にそうだろうか?という疑問を起こさせる動きをしたとして、それにとっさの反応が起きるのか。
     パンチというのは攻撃、攻撃は速くするのが当然、ではそれほど速くはないこれは、果たして攻撃なのだろうか?普通にパンチと思って処理をしていいのだろうか?
     そんな疑問。
     実はパンチに見せて、何か別な狙いがある違う動きなのではないか――そんな疑いの芽。
     それを芽吹かせるのが、技を越えたところに存在するもの――…術。
     すでに魔の類と称され、術の名をつけられしモノだ。
     人は考える葦である、そして戦いという極限状態において、人間は単純な思考しかできない、0.1秒を争う闘争という行為のさなか、複雑な思考をするだけの時間的余裕が存在しないのだ。
     そんな極限状態の中でも、人は馴れることで余裕を見いだす。
     間。
     時間と距離、それを操る者こそが達人。
     それはすでに、決着の勝ち負け、それすら手のうちに収める者、いや、だからこそ達人と呼ばれると言い換えてもいいだろう。
     と。
     そんなとりとめのない考えに囚われている間に、俺の眼前へ一台の車が滑り込む。
    「ローンを組んで買いました!中古の軽ですけど」
     と、弟子が言っていた彼女自慢の愛車だ。
    「お待たせしました、師匠!」
     そう、近いのだから迎えなど、という俺を制してやって来たのは君影リリィ。
     俺の弟子であり防衛隊の部下同僚でもあり、そして俺の可愛い女でもある。
    「わざわざすまんなリリィ、有難う」
     運転席から素早く降り、後部座席のドアをリリィが開く。
     その恰好は、普段はあまり目にしないスーツ姿だ。
     タイトスカートから伸びる脚線美が美しく、髪も今日はアップにまとめてある。
    「お、珍しいな。なんだ、運転手さんに扮してくれたのか?」
    「あはは、気づきました?そうです、今日は無理言って迎えにこさせて貰ったので、それっぽくキメてみたんです」
    「いいな、似合うぞ」
    「有難うございます。じゃ、ドア閉めますねー」
     そう言ってドアを閉め、再び運転席へ乗り込んだリリィは、しかし振り返り、小包を差し出して来る。
    「お誕生日おめでとうございます。キャッシュレス社会とは言いますけれど、全く持ち歩かないわけにはいきませんから……普段使いに」
     差し出す両手の小指に、エメラルドが光るのを微笑んで見つめたのち。
    「ありがとう。開けてみるな?」
     と、包みを開いた。
     そこにあったのはいわゆる小銭入れ――ミニウォレットだ。
     手とれば肌に馴染むマットなレザー。
     右肩上がりに昇る金色の龍が型押しされたデザインは、金運が右肩上がりというゲン担ぎなのだろう。
    「や、これは良いな。気に入った」
    「そう言って貰えると嬉しいですvさて、じゃあ師匠――ううん、清士朗さん、真直ぐ寮へ戻ってもいいんですけど」
     と、そこまで言って、リリィがバックミラーごしにこちらの様子を伺う様子を見せる。
     プレゼントを懐へ仕舞ながら「うん?」と、続きを促せば。
    「実は今日寮に居る皆と話しまして、いつも忙しい清士朗さんなので、晩御飯を遅めにして、ちょっと何もしない時間を――…貴方の町を、ゆっくりと見て回る時間をプレゼントしたらいいんじゃないかな、って言ってたんです」
    「……なんと」
     少し、目を見開いて。
     そして、細めて俺は微笑む。
    「それは嬉しい。心遣い、有難く受け取ろう――では、少しばかり町を流して貰おうか、運転手さん」
    「はい。では参りますね」
     そうして俺はしばし、ごく小さな旅に出た。

     君によりなな日向きかた寄りに
     君に見た花の薫り形見に
     結びゆく道あらばまた帰りみむ
     流るる涙止めそかねつる

     夕日に包まれた町は見慣れたよく知る光景。
     けれども、初めて見る光景。
     ごく小さくつけられたラジオから、どこか懐かしい歌が、流れて来る。
     これまでと同じようだ、けれども少しだけ違う、そんな新しい一年が始まる歌。

     ――今年もそんな、幸せな誕生日だった。 

     ――つづく?



  • happy birthday to town headman'20~茜さす君~

    2020-07-21 20:13

    「宜しいですか、兄様」
    「うむ、頼む」

     そして時間はその日の午後4時まで過ぎる。
     俺は防衛隊本部の一室、6畳ほどの和室は畳の上に、もろ肌脱いで座し、たすき掛けに櫛を手にした志苑によって、髪を梳いて貰っているところである。
     なお、誤解を生むといけないので念のために書いておくと、もろ肌脱いでいるのは俺で、たすき掛けしているのが志苑である。
     誰かね?半裸になった上、たすき掛けしてなにかがより強調され、男の毛づくろいにご奉仕してしまっている美少女の姿を想像したのは、けしからん。
     なに俺?俺は兄だからいいんだ。

     つかみはOK。
     ということで、この複雑な現状の説明に移行、もとい、いやある意味正解だが行こう。
     それは、俺が遅めの昼餉をすませた直後のこと。
     我らが九龍町に、デウスエクス警報が鳴り響いたのだ。
     そう、最近防衛スレッドとして襲撃事件を起こしていないので忘れられているかもしれないが、我が町は結構な頻度で降魔の襲撃を受ける。(一応、連中の勢力も少なくなってきているので頻度としては減っているが)
     それは、町の中央、御柱神社を中心として吹き出す、不可視のエネルギー、そう、イメージとしては地から天へとそそり立つ、光の柱とでも考えて貰えればいいだろうか。
     デウスエクスが欲するグラビティチェインそのものであるその柱は、常に飢えるデウスエクスたちにとってまさに垂涎の的。
     わざわざ生物を殺して摂取するまでもなく、その光を浴びるだけで必要十分以上のエネルギーを摂取することが可能であると最近の研究で判ってきた、まさにこの町は彼らにとっては夢のシャングリラなのである。
     そんなわけで我ら防衛隊は即時、出撃、その撃退へと乗り出した。
     我々の実力が伸びていることも無論関係するが、幸いなことにこたびの敵は強さ、数、ともに大したことはなく、無事撃退と相成ったのだが――あとの始末が悪かった。
     こたびの相手はデウスエクス・マキナクロス――…打ち捨てられたモノに憑りつくタイプのダモクレスであった。
     その姿はまさに古にいう付喪神に似た、筆と硯というもの。
     町のごみ処理場に捨てられていた古い筆と硯が機械化し、暴れだしたのだ。
     ただでさえ老朽化が進んで修繕に予算がかかるようになってきてしまっているクリーンセンターの焼却炉だ、そちらに被害が出たりしてはたまらんと、急ぎ現場へ駆け付けてみればそこはすでに黒黒黒。
     黒、一色。
     巨大化し、全長数メートルとなった二体のダモクレスは、硯が己が体から墨を生み出し、筆が吸い取り、その体を宙へ一振りすれば、たっぷりと重々しい墨が宙を舞い、人間や作業車を大地へ貼り付けにする。
     さらに硯は妖怪話のぬりかべさながら巨体で押しつぶそうとしてくるわ、筆は墨を濁流の如く生み出してバッドステータス足止めしてきたりする。
     しかし、そこはそれ。
     そんないい暴れっぷりの二体ではあったが、現場到着から10分経たずに討伐は完了。
     しかし、終わった時には出撃した全員がもれなく真っ黒という状態。
     よって、全員本部への帰還後は、大浴場にて墨を綺麗に洗い落としたというわけである。
     だがしかし、俺は一仕事終えて風呂も浴びて、気分さっぱり一杯やるかとはいかない。
     まだこのあと、というか本来であればすでに役場の本庁でこなさねばならない仕事が待っている。

     というわけで半分濡れた髪もそのまま、あまりみっともいい姿とはいえぬ姿でうろつくはめになったのだが、そこへ偶然居合わせたのが、自分の身支度はすっかり終えた志苑だ。
     なぜか我が意を得たりと言わんばかりの笑顔で。
    「御支度、お手伝いいたします」
     と、申し出てくれた。
     まあその笑顔の意味するところはよく分からんがそれは助かるということで――今現在のこの状況というわけなのである。

     音もなく、彼の髪が櫛けずられる。
     それを為すのはどこまでも嫋やかな白魚の指。
     夕日が透けるカーテンは緩やかに、涼やかな風を抱いて舞う。
    「おめでとうございます」
    「……この状況が、だろうか?」
     真顔で返す兄に、妹は鏡越し、くすりと笑う。
    「兄様のお誕生日が、ですよ」
    「ああ……ふふ、忙しない午後となったせいで思わず忘れていた」
     ありがとう、と笑う兄の髪を両手で掬い、まとめようとするも、細くくせのない髪がその手からこぼれて。
    「……兄様の髪はとても美しゅう御座います」
    「お前の髪の方がよほど美しかろう。だがまあ、褒められて悪い気はしないな」
     それに今のところ、抜け毛の心配が要らなさそうなのは助かる。
     という兄の言葉に「まあ」と、大学生となった妹は微笑む。
     そして。
    「出来上がりました」
    「――これは」

     その髪を飾るのは新たな彩り。
     細く、しかし鮮やかな多々の色が彼の髪を整えていた。

    「繰り返しになりますが、お誕生日おめでとうございます。髪は神に通ず――やはり兄様が髪を伸ばされているのもやはり、宮司としてのお仕事が故でしょう」
     兄の背を手拭いでぬぐったのちにぴたりと三つ指をついて。

    「この組紐が、どうぞ兄様のお力になれますように」
     と、志苑は一礼した。

     籠められた霊力――グラビティは感じ取るまでもない。
     もともとは巫術士であった妹の、一本一本霊力を練り込み、編み上げる姿が目に浮かぶようだ。
    「――助かったぞ、志苑」
     着物を羽織り、振り返る。
     カーテン越し、暖かな光に照らされた妹の笑顔を眺めて彼は言った。

    「では、もう一つの仕事も片づけて来るか」
    「はい、お疲れ様です」
     妹はただ、そう返した。

     つづく。