happy birthday to town headman'20~Secret heaven~
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happy birthday to town headman'20~Secret heaven~

2020-07-13 17:11


    「――こんなところか」
     そう呟いて、俺は防衛隊は隊長室のデスクでリターンキーをタッチ。
     これで一つ、書類が片付いたと時計を見れば、時刻はそろそろ午前10時。
     朝の鍛錬を終え、朝食をすませたのち、本日の業務に勤しんでいたわけである。
     ちなみに本日の俺の業務は、夕方までは防衛隊本部にて、隊長業務、その後本庁舎で会議という具合。
     さて、一息入れるのに、珈琲でも淹れるかと腰をあげかけて。
     部屋の外に気配を感じ、ドアがノックされるのを待った。
     と。
    「失礼します」
    「おや」
     俺の返答を待って、部屋に入って来たのはエルスであった。
     ふわりと香る珈琲の香り、手にはどうやらお盆を持っている。
    「有難う、ちょうど珈琲を淹れようかなと思っていたところだ」
    「はい、お茶の時間かなと思ったので、珈琲と、クッキーをお持ちしたんですね」
    「そうか、それなら良ければ、エルスも一緒にどうだ?」
    「えへへ……じつは、そのつもりで自分の分も持ってきたんです」
     ちょっとうつむき、頬を染める彼女の持つ盆の上には、確かに二人分のカップとクッキーの小皿が乗せられている。
    「ふふ、以心伝心だったな。さ、お座り」
    「はい、今、用意しますね」
     俺がデスクから、隊長室の一角に設えられた応接セットのソファへ歩み寄れば、その間にエルスは、応接セットのローテーブル上へと、それぞれのカップとクッキーの乗った小皿を、音を立てぬよう重々注意しながら準備している。
     ソファに座りながら様子を伺えば、今日の彼女の姿は淡い小花柄のサマーワンピースに白のエプロン。
     ちょっとメイドさんぽくも見えるのは彼女なりのシチュエーションにあわせたコーディネートであろう。
    「しかしそうか、今日は平日勤務だったのだな」
    「はい、午前中だけ。午後からは学校に行ってきます」
     そんな会話をしながら、それぞれ珈琲とカフェオレを口にする俺とエルス。
     そう、彼女はまだ高校生。
     そして2020年6月15日はまごうことなき平日だ。
     ではなぜこの時間に、学校にいないのか?
     すわ、ずる休み?などと思うことなかれ、彼女も先に云った通り、これには歴としたわけがある。
     つまり旅団、九龍城砦――…またの名を、九龍町防衛隊、その勤務体制に拠るものである。
     町の中心にグラビティチェインの噴出口、龍穴を持つこの町は古来より、他の土地とは比べようもないほどに、デウスエクスの暴威に晒されてきた。
     そこでこの地の人間は、その脅威に対抗すべく、土地を守る防人の集団、防衛隊を結成。
     近年では、その任務をケルベロスへと委託し、事件こそ多かれど、デウスエクスによる死者が出なくなるまでになった。
     今や60人を超える隊員たちはその力の質、人材の数共に向上し、今は安定して三交代制での勤務を日々こなしている。
     とはいえ、学生や他の仕事を兼務するケルベロスも多く、それら人材に配慮はしているものの、まれにこうして、学校の許可のもと、学生ながらも授業を休んでの勤務となる者も出るわけなのだ。
    「成程。しかしすまんな、ただでさえ学校を休ませた上、お茶まで淹れて貰って」
    「いいえ、逆に今日が勤務の日で良かったんです」
    「おや、そうなのか?」
    「はい、だって……判りませんか?」
     なにかいいたげな、しかし直接口に出すのははばかられる。
     そんな様子でもじもじとする彼女を前に、俺の唇に微笑みが浮かぶ。
    「そうだな。……俺も嬉しいぞ」
    「……はい!じゃあ、清士朗様、これを」
    読み取った彼女の気持ちを言外に伝えると、花のような笑みと共に、エルスがエプロンのポケットから、小さく光るそれを差し出す。
    「ありがとう。……これは、鍵、だな?」
    「はい、鍵です」
    「ふむ」
     造りは良い。
     目の高さへ持ち上げて裏表と眺めてみるに、それは翼の浮彫で飾られたアンティーク風の銀の鍵。
     それは細く、華奢で、しかししっかりとした感触をもたらして、その硬さが逆に安心感を与えてくれる。
     そう、まるで今、目の前にいる少女をそのまま鍵の形に封じ込めたような。
    「……綺麗だな。で」
     鍵の向こう、両手でカップを持ち、微笑みを浮かべる少女を透かし見る。
    「これはなんの鍵なのかな?」
     そう問えば、にこりと悪戯な笑みを浮かべて天使は言ったものだ。

    「答えは自分で見つけるほうが、面白いと思いませんか?」
     ――そうして暫く。
     そう、ほんの20分足らずの間、俺たちは二人だけの秘密の楽園で過ごした。

     Baby,bady, I love our Secret heaven.
     No one knows that where we go.

     そう、秘密の楽園はいつでもそこに。
     鍵は、俺のこの手に。

     けれどその門はきっと、天使の笑顔がなければ開くことはない。

     つづく。


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