happy birthday to town headman'20~Lanch Box~
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happy birthday to town headman'20~Lanch Box~

2020-07-16 20:39

    「ただいま」
     昼をやや過ぎた13時。
     俺は本部へと戻ってきた。
     というのは、本日のスケジュール、昼飯前に町の区長会議への出席があったからだ。
     町長としては欠席なのだが、町の各区との連携、協力体制が必須である防衛隊隊長としての立場では欠席?NGでしょ!というこの複雑な感じ。
     だがまあ、町長よりはフランクな感じで区長さんたちと会話が出来るので、これはこれで嫌いではない。
     区長さんたちはそのまま会食。
     アルコールも入り始めるので、同じく会議へ出席していた危機管理課長と共に席を辞し、別れて本部へと戻って来たというわけである。
     さて、今日の昼ごはんは誰の担当だったか――などと考えつつ、リビングのドアを開ける。
    「あ、おかえりー。ご飯食べます?」
    「ただいま、お昼を楽しみに帰って来た隊長なので、残っていれば下さい」
     キッチンのカウンターごし、どうやら椅子に座って雑誌なぞ読んでいたらしき本日の昼食当番、ひさぎと軽口を交す。
     まあ残っていたら、などと言ってはいるが、もちろん俺の分があるのは判っていての発言だ。
     基本、防衛隊の食事はその時間勤務している人間での当番制。
     そしてその三食は、リビングに備えられたホワイトボードに前日までに書き込んでおくことで、誰が食べて合計何食分作るのか、作る数を調整しているのだ。
     そして作った内容は、当番さんの手によって献立ノートに記載され、さらに防衛隊勤務管理システム内の献立表にアップロード、なんなら次の当番には何を作るか決めている人間は、先々の日付まで入力ずみ。
     寮ずまいの人間はもとより、その内容によっては、食べたいからと勤務ではない通いの隊員も、ご飯だけ食べにくるということもしばしばあったりするのである。
    「遅くなってすまんな、待たせてしまったか?」
    「いえいえ、連絡貰ってたし大丈夫ですよー。そっちこそお腹すいたでしょ、ささっと準備しちゃいますね」
    「頼む」
     テーブルに座り、お茶を淹れて一息ついていると、本当にあっという間に本日の防衛隊ランチセットがお目見えした。
    「はい、本日のランチは厚揚げといんげんの煮物、きゅうりのピクルスに小松菜とみょうがのお味噌汁、メインはニンニクぬきの和風焼き餃子でーす」
    「おお、これは美味そうだ、いただきます」
     手をあわせ、ほかほかの白米が入ったお茶碗を手に取る。
     まずは何からいくか、少し考えてピクルスをつまむ。
     縦四分割、3~4センチに刻まれたそれを口にすれば、ぽりぽりとした食感と酸味、噛んでいると少しの甘さが出てきてそれが柔かなコクを生む。
     もう一切れほうりこみ、白米と共に咀嚼すればなんともいえぬ充足感。
     この酸っぱさで午前の疲れがほぐれてゆく感覚、ビバ口内調理、日本人に生まれて良かった。
     煮物に味噌汁と舌を喜ばせていると俺の前にもう一膳。
    「じゃ、うちも食べようっと、いただきまーす」
     ひさぎが手をあわせて、自分の分を食べ始める。
    「……おや。実は待っていてくれたのか?」
     どうせ素直に言葉には出すまい、ならば黙って流すのが粋、聞くは無粋と知りつつも、ついついその反応が見たくてかまってしまう自分に、我がことながら少々呆れつつ問えば。
    「どうせ一人分片すも二人分片すも同じですからー。それに」
    「それに?」
    「独りで食べるご飯って、寂しくないです?」
     ああ、と思う。
     きっとそれを、彼女は俺などよりずっと多く、味わってきたのだろうな、と思う。
     当てもない旅の途中、誰もいない夜の森で。
     他人のことなど誰も気にしない都会の雑踏の片隅で。
     きっと数えきれないほどの独りの食事を、いや、食事ともいえぬただの栄養補給を繰り返してきたのだろうなと思う。
     そう、これは持つ者が知り得ないもの。
     温もりを無くしたことがない者は、きっと生涯知ることのない感覚なのだろうなと、思う。
     だから俺も、そっと笑って。
    「だな」
     と、答えて。
    「それにしても、この餃子美味いな。鶏肉で――レンコンかなこれは?シャキシャキしているのは」
    「そうですそうです。昼だし女子も多いし、匂い気にしなくていいのにしようと思って」
    「美味い美味い。淡泊かと思いつつコクもあるし」
    「こないだとっておいたラード使ったんで」
    「あー、それでか」
     そうして今度こそ、たわいない会話の中に本音を隠すことに成功した。

     そうして食後。
     お茶を注いでくれながら、俺の猫は包みを差し出す。
    「誕生日おめでとう。うちの地元の丹波焼なんだけど」
     箱を開けてみればそれは、なんとも言えぬ、濃い茶に橙の釉がかかった味のある色合いの湯呑み。
     手にするとざらりとほどよい触感を手のひらに返し、ちょうどよく手に収まる。
     そしてその厚みは茶を注げば、これまた丁度良い温もりを伝えてくれるだろう。
    「いいなこれ。いいランチボックスだ」
    「え?いや湯呑みだし」
     何言ってんのという顔のひさぎに、ああ、そうだったと笑いながら俺は思う。
     暖かいご飯があって、笑顔があって、会話があって、少しのときめきと驚き。
     全てのものが詰まったこれはそう、まるでランチボックスだと、思わずそう思ったのだ。
     それこそ以前の誕生日、ひさぎがくれたあの弁当箱のように。
     誰かが当たり前に傍に居てくれる奇跡に。

    「……あと、うちの部屋片付きましたんでいつでもどうぞ」
     少し早口に言ってごちそうさま!とキッチンへ引っ込む猫のしっぽは大きくゆっくり揺れる。
     口ほどにものをいうその動きに、俺は嬉しくなる。
     去年の誕生日には、いっそ泣きそうな気持ちで彼女を見ていたのが嘘のような奇跡。
     窓から見える空は、どこまでも澄んだ青。
    「ん。……ご馳走様でした」
    「はい、おそうそう様」

     そうして俺はただ満たされて。
     そっと静かに、手をあわせた。

     つづく。


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