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ブルックリン物語 #23 Autumn in NY「ニューヨークの秋」
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ブルックリン物語 #23 Autumn in NY「ニューヨークの秋」

2016-09-15 18:00

    NYにいるぴちゃん(ダックスフント・♀)からメールが届いた。厳密に言えば預かってくれている友人のモダンダンサー折原美樹邸に住んでいるヒーラーのしんちゃんからなのだが、パパと一緒の時より笑顔が多いような気がするのは、僻(ひが)みだろうか。

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    ぴちゃんはパパの出張を知っている。旅のパッキングをし始めると単独のお出かけがバレてソワソワさせてしまうので、ぴちゃんを宿泊先に預けてしまうまでパパは一切何もしない。パッキング以外の旅の準備。例えばメモを作って持っていくものを把握したり、冷蔵庫の野菜を片したりゴミを出したり。でもそういう些細なことこそ、ぴちゃんには伝わっているのだ。キッチンからリビングへ、リビングからキッチンへちょっとした動きをするパパについて、ぴちゃんはお出かけのキャリーバッグに滑り込む。

    「あたしもパパと一緒に行くもん。絶対に一緒に行くんだもん」


    今回の旅前のパパは忙しかった。日本に出発する直前にオペラの人とのコンサートがあり、そのすぐ後にはパパ自身のトリオライブがあった。そんなわけでリハなどで人の出入りが激しい。ぴちゃんはいつもと同じように、人懐っこい仕草でミュージシャン達に甘えて共に過ごす時間を満喫しているようだった。しかし刻々と近づいてくるパパのお出かけの瞬間を予感しているのかのごとく、パパがちょっとした外出から戻るとドアに一番近いローチェアに座って丸まっていることが多くなった。パパがトイレに行くと、さささとチェックしにくる。パパがデッキに出ると後を追う。ピアノを弾くパパを、デッキからジト目で見張る。大好きなご飯を食べている時も、パパがちょっとでも動くと口の周りにいっぱい食べ物をつけたままパパを追う。

    そんなぴちゃんが滞在先のヘルズキッチンを悠々と歩く写真が、パパの誕生日にNYから送られてきた。しんちゃんと同じ表情をしてリラックスモードで映るぴちゃん。マリーンの船をバックに今まで見たこともないようなニコニコ顔で微笑むぴちゃん。目にはちょっとだけ目糞がついてるよ、ちゃんとお掃除してね。ポケモンと一緒のぴちゃん。毛布にくるまるぴちゃん。ご飯を待ってとろんとした目をするぴちゃん。しんちゃんからのメールにはパパの知らないぴちゃんの臨海学校の時間が凝縮して詰まっていた。

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    ぴちゃんが初めてパパと出会ったのは六本木のペットショップ。その時ぴちゃんはアヘアヘいいながら背中を床にこすって、一人上手している最中だった。あまりのおかしさにパパは思わず「ちょっとこの子を抱っこしていいですか」と店員さんに聞いたんだっけ。抱っこされたぴちゃんは見た目よりも柔らかく痩せていた。そして薄い産毛に包まれた胸の奥からトントン心臓の緊張のリズムがパパの左手に伝わってきた。周りの客にどう見られようが一切気にもせず一人遊びに夢中になるタフさを持った面白いそうな犬だなと思ったら、意外や意外繊細で寂しがりやの女の子だった。

    「この子を連れて帰ります」

     
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