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一九五〇年代から六〇年代の量産時代に活躍した監督たちに共通することではあるが――野村芳太郎ほど多岐にわたるジャンルを手掛けた人はいないのではないだろうか。
前回の『疑惑』や『張込み』『ゼロの焦点』『砂の器』といった松本清張ミステリーで最も知られているが、他にも、歌謡映画(『黄色いさくらんぼ』『昭和枯れすすき』)、メロドラマ(『あの橋の畔(たもと)で』)、戦争映画(『拝啓天皇陛下様』)、時代劇(『五瓣の椿』)、さらにコント55号やハナ肇の喜劇映画――と、片っ端から撮っているのだ。
そうしたバラエティに富み過ぎるフィルモグラフィの持ち主だが、多くの作品に共通する点がある。それは、日常的リアリズムが尊ばれる松竹で珍しく、ハッタリと言える派手な演出を加えて様々な空間を劇的に誇張し、非日常的な娯楽性を高めていることだ。
たとえば、『影の車』での、精神的に追い詰められた主人公の前に現れる、画面いっぱいの少年の顔面。『八つ墓村』での、犯人と気づかれたヒロインが鍾乳洞で主人公を追い立てる際の、怨霊じみたメイク。こうした極端ともいえる劇的表現によって、トラウマになるような強いインパクトを与えてきた。
今回取り上げる『震える舌』は、その最たるところだ。

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最終更新日:2023-02-09 08:27
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