だいぶ前からテレビをつけると料理番組を放送している。知らないうちに料理チャンネルと契約したのかと思うほどだ。
そういう番組は見ない。出演者がいくらおいしくても、わたしはおいしくないからだ。ルックスに恵まれた男がおいしそうにしている番組を見て何が面白いのか? 非の打ち所がない女と結婚した男を見せられているようなものだ。原稿の締め切りが迫っているときのようによっぽどのことがないかぎり、見ることはない(締め切り前ならどんな番組でも面白く見られる)。
味覚には個人差があり、驚異の舌をもつ人もいる。料理を食べて、何が入っているかを隠し味まで当ててみせる人もいる。たぶん微量に混入した料理人の汗やよだれも分かるだろうし、のんびり散歩を楽しんでいて誤ってスープの鍋に落ちた拍子に取れたゴキブリの前足一本の味も言い当てるに違いない。
幸か不幸か、わたしはそういう舌はもっていない。