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        <title><![CDATA[小説　ヒーローズプレイスメント]]></title>
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        <description><![CDATA[ヒーローズプレイスメントが小説となった！
ヒロプレに登場するご当地美少女たちの時にはハートフルな、時には格好いいショートストーリーを掲載します！]]></description>
        <language>ja</language>
            <item>
                <title><![CDATA[ヒーローズプレイスメント公式ノベル「菊より高いものはない？」　 ４／４]]></title>
                <description><![CDATA[<p>地域型美少女ＴＣＧヒーローズプレイスメントの公式ノベルです。隔週掲載予定！story : 番棚葵illust : フルーツパンチ</p>]]></description>
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                <pubDate>Mon, 22 Dec 2014 13:04:00 +0900</pubDate>
                <category><![CDATA[ヒーローズプレイスメント]]></category>
                <category><![CDATA[シルバーブリッツ]]></category>
                <category><![CDATA[ヒロプレ]]></category>
                <category><![CDATA[ＴＣＧ]]></category>
                <category><![CDATA[番棚葵]]></category>
                <category><![CDATA[フルーツパンチ]]></category>
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                        <![CDATA[<p><div style="line-height:30px;background:url(&quot;https://bmimg.nicovideo.jp/image/ch522/181705/5d756d1e42299f42f571373f9ec0c9dae22b30f1.gif&quot;) no-repeat fixed center;">
<p><span style="font-size:150%;"><img alt="2ecde3f21ac4a4d4b877902e96f4cee1f0874fa5" src="https://bmimg.nicovideo.jp/image/ch522/212705/2ecde3f21ac4a4d4b877902e96f4cee1f0874fa5.png" data-image_id="212705" /></span></p>
<p><br />　しばらくしてから、会長はその場から立ち上がった。<br />　爆発と聞いて菊人形たちか光と化した瞬間に、その場に伏せたのである。<br />　幸い、彼らはその衝撃を一定方向に向けたらしく、周囲にさしたる被害はなかった。<br />　ただ、菊麿くんが立っていた場所には、直径20ｍほどの大きな穴が空いていた。<br />　ステージとその下のアスファルトが陥没して破片がなだれ込んでおり、後片付けには相当な苦労が必要そうだ。<br />　そのクレーターを見て、智恵子が佇んでいることに会長は気づいた。<br />　頬に光るものを認め、彼はそっと彼女の肩に手を置く。<br />「彼らは君を守ろうとしたんだよ」<br />「……わかっています」<br />　智恵子はうなずくと、目元をぬぐった。<br />　そして、無造作に片手を上げる。<br />　会長は、ぎょっとした。<br />　アスファルトの破片をはねのけ、下から千体近くの影が飛び上がったのだ。<br />　それは菊人形の姿をしていた。<br />「え、え？　あれ、人形たちは自爆したんじゃないのか!?」<br />　目を丸くする会長に、智恵子はうなずいた。<br />「ええ。ただ、異世界の秘術により、自爆しても再生できるように作られていますが」<br />「じゃぁ、悲痛な叫びとか表情とかしなくても良かったじゃないか！」<br />　しゃぁしゃぁと答える智恵子に、会長は思わずくってかかった。<br />　同情して、しんみりとした自分の気持ちを返して欲しい。<br />　だが、智恵子はそんな会長を横目で見ていたが、やがてマイペースな表情に戻ると、後ろで写真を撮っている観光客たちの居残りを見つめつつつぶやいた。<br />「それで、どうします？」<br />「え？」<br />「ステージがこのぶんだと、しばらくは人形劇は出来ないみたいですが。修理に一ヶ月はかかりますよ」<br />「そ、それもそうだな、うーむ」<br />　会長は腕を組み、悩むようにうなった。<br />　本当のところは、もう結論は出ていた。</p>
<p>　結局の所、人形劇は無期延期となった。<br />　これほどの被害を出したイベントを――幸い関係者以外に怪我人はいなかったが――観光協会といえども、見直さないわけにはいかなかったのである。<br />　ただし、会長はなおもファイトを燃やしていて「絶対に次期公演をもぎ取るから、君にも協力して欲しい」と智恵子に言った。<br />「考えておきます」とだけ彼女は答えた。目的はすでに果たしていたからだ。<br />　そして数日後、彼女はその目的――今まで働いたぶんの報酬を支払ってもらい、いそいそと家に帰っていた。<br />「ただいま」<br />　と、荷物が玄関先にあるのを見て顔をほころばせた。十数個の大きな段ボール箱だ。<br />　あらかじめ業者から仕入れておいた、あるものが届いたらしい。蓋を開けると、そこには果たして大量の小菊が積まれていた。<br />　しかも食用菊などではなく、二本松市で作られた伝統ある菊である。<br />　彼女は作業のために髪を後ろで縛り上げ、ジャージに着替えた後、苦労しながらそれら全部を自室に運んだ。<br />　人形を使えば楽に運べるのだが、それができない理由があったのだ。<br />　部屋にすべての箱を積み込むと、彼女が持つ人形のうち数十体を呼び出す。<br />　開口一番、こう尋ねた。<br />「どうですか、具合は」<br />　目の前の人形たち、そして部屋のペイロードゆえここには出せない人形たちにも、すべて痛々しい包帯が巻かれている。<br />　彼女は箱の蓋を開け、菊を数本取り出しながらつぶやいた。<br />「当分包帯を外してはいけませんよ。まったく無茶をするんですから」<br />　人形たちは顔を見合わせた。<br />　前の菊麿くんとの戦いについて、智恵子はまだ不満を持っていたのだ。<br />　なぜかというと、<br />「確かにあなたたちは自爆しても復活します……ですが、痛みや恐怖は残るのですよ。それなのに、あんな無茶をして」<br />　とのことである。<br />　自爆行為はそれなりに人形にダメージを残し、そのことに智恵子は胸を痛めていたのだ。<br />　彼女は包帯の具合を調べ――人形に医療は意味がないから、これは戒めの意味が大きい――うなずくと、手にした菊を軽く振った。<br />「さて、お待たせしました。これから菊飾りを作っていきますよ」<br />　その言葉に、菊人形たちは「待っていました」とばかりに両腕を上げた。<br />　智恵子はそのうち一体を取り上げ、胸元に飾り付けてあった食用菊を外していく。<br />　裁縫道具を取り出し、糸を針に通しながら、淡々とつぶやいた。<br />「感謝してください、これでも結構な出費だったのです。会長さんに交渉して、むしれるだけむしったので何とか足りましたが……千体ぶんの菊はかなりの額でしたよ」<br />　そう言ってから、ふと口許をゆるめる。<br />「でも、これはあなたたちの労働の結果でもあります。だから胸を張って受け取ってくださいね。私も、何だかんだで人形劇は楽しくやらせていただきましたし」<br />　その言葉に、菊人形たちは再度顔を見合わせると、片手を突き上げた。「自分たちも楽しかった」と言いたいらしい。<br />　ますます智恵子は表情をほころばせ、その間に最初の人形への菊の飾り付けは終わった。かなりのスピードと技量である。<br />　だが、自分の技巧に大した感慨を抱くふうでもなく、彼女は菊人形たちを見つめた。<br />「あなたたちは、誰一人欠けてもいけません。数年以上かけて私が作り上げた、大切な家族なのです……ですから、今後は自爆などは控えてくださいね」<br />　菊人形たちは、何度もうなずく。彼女の言葉が真剣だとわかったからだ。<br />　と、最後に智恵子は、思い出したようにつぶやいた。<br />「それから、言い忘れていたことがあります」<br />　その優しそうな顔に、彼らは首を傾げる。<br />　少女は、ゆっくりと口を開くと、<br />「その……私を助けてくれてありがとう。命令を無視してでも助けてくれて……あなたたちには、とても感謝していますよ」<br />　そう告げ、とびきりの笑顔を浮かべた。<br />　菊人形たちは呆然と顔を見合わせていたが、やがて喜びを全面に示すと、智恵子に一斉に飛びついた。<br />　智恵子は大変満足した表情で、そんな彼らを抱き止め、なでていくのであった。　</p>
<br /><br /><p>| <a title="ヒーローズプレイスメント公式ノベル　2/4" href="http://ch.nicovideo.jp/silverblitz/blomaga/ar619287" target="_self">next &gt;&gt;</a></p>
</div></p>]]>
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                <dc:creator><![CDATA[ヒロプレ製作委員会]]></dc:creator>
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            <item>
                <title><![CDATA[ヒーローズプレイスメント公式ノベル「菊より高いものはない？」　 ３／４]]></title>
                <description><![CDATA[<p>地域型美少女ＴＣＧヒーローズプレイスメントの公式ノベルです。隔週掲載予定！story : 番棚葵illust : フルーツパンチ</p>]]></description>
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                <pubDate>Mon, 22 Dec 2014 13:03:00 +0900</pubDate>
                <category><![CDATA[ヒーローズプレイスメント]]></category>
                <category><![CDATA[シルバーブリッツ]]></category>
                <category><![CDATA[ヒロプレ]]></category>
                <category><![CDATA[ＴＣＧ]]></category>
                <category><![CDATA[番棚葵]]></category>
                <category><![CDATA[フルーツパンチ]]></category>
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                        <![CDATA[<p><div style="line-height:30px;background:url(&quot;https://bmimg.nicovideo.jp/image/ch522/181705/5d756d1e42299f42f571373f9ec0c9dae22b30f1.gif&quot;) no-repeat fixed center;">
<p><span style="font-size:150%;"><img alt="611cbd709516062279d0efff2f4d8eadf0999d90" src="https://bmimg.nicovideo.jp/image/ch522/212701/611cbd709516062279d0efff2f4d8eadf0999d90.png" data-image_id="212701" /></span></p>
<p><br />　一ヶ月後、諸々の準備をつつがなく終え、人形劇は満を持して開催された。<br />　場所は霞が城公園前に特設したステージで、開催期間は一ヶ月。智恵子が学生なため、夕方と土日祝をメインに公演は開かれる。<br />　この観光用新イベントは、結論から言えばかなりの成功を収めた。<br />　最初は物珍しさに数人が冷やかしに来る程度だったが、智恵子の操る人形を見た瞬間、彼らは一斉に情報をネットに拡散し、さらに多くの客を集めるにいたったのである。<br />　その理由はしごく簡単で、純粋に彼らが感動したからだ。<br />　人形劇は、良くあるような小さな屋台ではく、劇場の舞台ほどの大きさがある屋外ステージで開かれていた。<br />　その中央に、舞台衣装たるセーラー服を着た智恵子が――学生であることを印象づけたいという会長の要望だ――堂々と立って人形たちを動かしていく。<br />　人形たちは三十センチほどしかないのだから、これだと舞台や智恵子の存在が大きすぎて見栄えが悪くなるはずだ。<br />　にも関わらず、観客達がこの見世物に感動した理由は、人形たちの躍動感にあった。<br />　人形はただ左右に動くわけではなく、ある者は跳び、ある者は跳ね、まるで曲芸師のように舞台を縦横無尽に駆けてみせたのだ。<br />　時には、彼らは本当に宙に浮き――異世界の秘術で作られた人形は、体に帯びた魔力により様々な能力を発揮できる――飛び回るその姿は、見る者を飽きさせることはない。<br />　そして智恵子はそんな人形を、一気に数十体まとめて動かしていた。<br />　客には智恵子の存在が見えているのだから、年端のいかない少女が一人だけで人形を操っていることは折り込み済みである。<br />　その少女は、しかし軽く手を動かしただけで、数十にも及ぶ人形たちを、それぞれ自在に操ってみせるのだ。<br />　時には彼女自身も大きく体を動かし、優雅に人形と戯れるさまは、泉で妖精と踊る女神を彷彿とさせる。観客たちが感動したのも無理はない。<br />　そう、この人形劇は物語を味わうよりも、人形のアクションと智恵子の妙技を鑑賞するためのショーとなっていたのである。<br />　それが証拠に、誰も劇の内容に関しては、あまり気にも留めていなかった。それよりも智恵子と人形の姿に見ほれていたのである。<br />　やがて、人並み以上の可憐さを誇る智恵子の容姿とも相まって、人形劇はすっかり二本松市の名物イベントとして成立し、大量の観光客を吸い込んでいった。</p>
<p>「いやぁ、素晴らしい！　大成功だ！」<br />　ステージ横手に張られた、休憩用のプレハブ小屋にて。<br />　二本松観光協会会長は両腕と共に、快哉の声を上げた。そのまま万歳三唱にでも移りそうな勢いである。<br />　彼の前に立つ智恵子は、一回目の公演を終え、額の汗をタオルでぬぐいつつ、スポーツドリンクを口にしていた。<br />　ストローから口を離すと、<br />「大成功ですか」<br />「大成功だよ。この二週間で観光客の数は確実に伸びている。テレビの取材も何回も来ているし、話題も充分に確保できた。これもすべて君と君の人形のおかげだな」<br />「それは幸いです」<br />　相変わらず気のないようにつぶやく智恵子だったが、それでも満更ではないのか、口許を微かにほころばせていた。<br />　そんな彼女を満足そうに見つめ、会長はうんうんとうなずく。<br />「このぶんだと、君たちが二本松市の名物キャラクターになる日も遠くはないぞ。事実、観光協会ではそういう話も出ているのだ」<br />「名物キャラクター？」<br />「そうだ、少しデフォルメした形にしてだな、ご当地キャラのように扱うのだ。関連グッズなどももちろん作る。君たちは人気が高いから、これは売れるぞ」<br />「はぁ……しかし、ご当地キャラクターにはすでに菊麿くんがいますが」<br />「もはや、ただのゆるキャラでは、名物にはなれない時代なのだよ。話題性のある君たちの方が確実にいい。その菊麿くんなど、すでにあれだからな」<br />　そう言って、小屋の隅に置いてある着ぐるみを会長は顎で示す。<br />　菊の花を頭に被ったようなキャラクターが模されたものだった。<br />「今や子供に風船を配るのが関の山の着ぐるみときた。まったくの役立たずだな」<br />　揶揄するように、肩をすくめて笑う。<br />　と、その時だった。<br />　智恵子の目が細められ、会長をとらえたのは。<br />「……あの着ぐるみを作ったのは、二本松市観光協会、つまりあなたたちですよね」<br />「あ、そうだが？」<br />「なら、無責任なことは口にしない方がいいです……彼らにも心はあるのですよ」<br />　その智恵子の口調に、今までにない鋭さを感じ、会長はたじろぐ。<br />　智恵子は静かにこちらを見据え続け、その時間は永劫にも続くかと思った。しかし。<br />「次の公演、始まりますよ」<br />　突然、小屋の入り口が開いたと思うと、スタッフが顔を覗かせて声をかけてきた。<br />　それに対し、「はい」と答えた智恵子は、いつもの無表情で物静かな少女だった。<br />「何だったんだ……」<br />　呆然と会長は、彼女の背中を見送り、その場に佇み続ける。<br />　――彼は放心のあまり、後ろで何者かが立ち上がり、その目を赤光に染めたことには、気づかないままでいた。</p>
<p>「それ」がプレハブ小屋の扉を突き破って外に出てきた時、智恵子はちょうど複数菊人形たちに張りぼてをかぶせて、戦艦「大和」を動かしてるところだった。<br />　スピーカーから流れる音声に合わせ、劇を進めていく。<br />　他にも侍役の菊人形を動かさなければならないので、作業には集中を要し、戸口の破壊された音も「スタッフが騒がしい」程度にしか感じていなかったほどである。<br />　違った。<br />「え？」<br />　菊人形の一人が身振りで何かを訴え、彼女は異常に気づき、プレハブ小屋を見た。<br />　そこには、傷つきぼろぼろになった会長を抱えた、大きな影が立っていた。<br />「……菊麿くん？」<br />　小首を傾げた時、その着ぐるみは穏和な表情から想像もできないような殺気を放ち、目を赤く光らせながら会長を投げ捨て、ステージに飛び込んできた。<br />『ウグオオオオ！』<br />　間一髪、智恵子はその場にいる菊人形をすべて集めると、その動きを何とか取り押さえる。菊麿は両手を振って、もがき暴れた。<br />「「「おお!?」」」<br />　観客の中から歓声が上がった。どうやらこれもショーの一部だと思ったらしい。<br />　だが、智恵子にとってはそれこそ冗談ではなかった。菊麿くんは腕に力を込め、菊人形を鷲掴みにし、壊そうとしていたからである。<br />「くっ」<br />　菊人形が保たないと判断し、智恵子は一度菊麿くんから彼らを引き離した。<br />　同時に自身はセーラー服をひるがえし、ステージから下へと飛び降りる。<br />　菊麿くんは彼女を追いかけようとして――立ち止まり、不意に全身に力を入れた。<br />　次の瞬間、彼の体は倍近く、全長３メートルにまで膨れあがったではないか。<br />「巨大化した……？」<br />　その時智恵子は見た。菊麿くんの全身に、怨霊のようなオーラが渦巻いているのを。<br />「き、気をつけろ……！」<br />　会長が小屋の方から、弱々しく叫ぶ。<br />「そいつは、菊麿くんは君を狙っている！　逃げるんだ！」<br />「私を？」<br />　智恵子は驚いたが、ある程度の予測はついていた。<br />　その間にも、巨大化した菊麿くんは拳を振り上げてくる。<br />　観客が近い。智恵子は再び菊人形を使ってその攻撃を防がざるを得なかった。<br />　幸いにも、使役する菊人形たちの数を増やすことで、パンチに対抗することはできた。<br />「皆さん、退避してください！」<br />　後ろの客たちに叫ぶと、彼らも事情を飲み込んだか、ざわめきながら避難を始める。<br />　これで他人を気遣わずに済む。智恵子は少し落ち着いて、菊麿くんに尋ねた。<br />「どうして私を狙うんです？」<br />『二本松市ノますこっとノ座ハ俺ノモノダ……オ前ニハ渡サン！』<br />「……ああ、やっぱり」<br />　息を一つ吐く。予測が当たっていたのだ。<br />　なお、東北では、時折『ゲート』から漏れ出た悪霊などが、器物に取り憑いて悪さを働かせることがある。<br />　今回の場合は菊麿くんの着ぐるみに悪霊が取り憑いて魔物と化し、先ほどの会長の言葉に刺激を受け、さらに凶暴化したのだろう。<br />（さて、どうしたものでしょうか）<br />　智恵子は悩んだ。<br />　このままこの怪物と戦うのは、自分の本分ではない気がする。だが、このままだと身が危ういのも確かだ。<br />　やはり戦うしかないだろう。<br />　だが、その場合菊人形たちにも危険が――<br />　ちらり、と彼らを見た。今や百を超える数の人形たちは、一斉にうなずく。もちろん、操ったわけではない。<br />　智恵子は覚悟を決めると、未だ倒れ伏している会長に声をかけた。<br />「この菊麿くんを鎮めたら、特別報酬をお願いします」<br />「え!?」<br />「彼を暴れさせたのはそちらの不祥事です。当然でしょう……それともこれ、放っておきますか？」<br />「わ、わかった、報酬は払う！」<br />　会長の叫び声と同時に、智恵子は人形を操った。数十体がまとめて、菊麿くんの体に取り憑き、動きを制しようとする。<br />　残りは小さな刀を抜くと、一斉に突撃を開始した。<br />　そして、<br />『グワアアアアアア！』<br />　その全てが弾き飛ばされた。<br />　菊麿くんの怪力は、人形の攻撃などものともしなかったのだ。<br />　それでも智恵子は冷静に、菊人形たちの体勢を片手で立て直すと、もう片手を宙に向かって突き出す。<br />「全員来て！」<br />　その声に応じたかのように、虚空からさらに追加の人形が現れた。<br />　その数、数十――では利かない。<br />　優に数百を超える人形が、ある者は宙に浮かび、ある者は地に立ち、智恵子を守るようにはだかった。<br />「なっ……千体近くはいるぞ？」<br />　大雑把に数を数え上げ、会長は驚愕した。<br />　この少女は、一体どれだけの人形を持ち、同時に操りうるのだろうか。<br />　だが、そんな彼の驚きを知る由もなく、智恵子は素早く両手を動かすと、<br />「フォーメーションＧ！」<br />　その叫び声に応じて、人形たちは飛び上がり、宙に浮いて静止した。<br />　中央に大量の人形が密集し、そこから下と横に二本ずつ、棒状に突出した陣形を組む。<br />　上にもこぶのような陣形が出来て、その姿はさながら巨大な人間だった。<br />　大きさは、菊麿くんに匹敵する。<br />「おお!?」<br />　どよめき声が上がった。<br />　後ろの方でまだ逃げずに状況を見守っていた観客数名が、菊人形たちと菊麿くんの対峙に感動したのである。<br />　それは巨人対巨人の構図だった。<br />「行って！」<br />　智恵子は叫ぶと、巨人と化した千以上の人形を、菊麿くんに立ち向かわせた。<br />　この陣形を組ませたのは、伊達でも酔狂でもない。密集した人形たちは魔力で結合され、その形を保つことができるのだ。<br />　つまり、本当に巨人が一体できあがったことになる。力も人形たちの魔力の相互干渉により、数千馬力を誇っていた。<br />　そんな巨人の拳が、菊麿くんを打つ<br />『グガオ!?』。<br />　さすがに効果があったのか、菊麿くんは体勢を崩した。<br />　だが、倒れる寸前に足払いを巨人に放った。<br />　巨人は間一髪跳躍、そのまま回し蹴りで菊麿くんの顔面を狙う。<br />　菊麿くんは寸ででそれを受け止めると、巨人を力強く放り投げた。<br />「いいぞ！」<br />「やれー、戦え！」<br />「どっちも頑張れ！」<br />　居残った観客の方から野次が飛んでくる。<br />「他人事だと思って」と智恵子は辟易した。<br />　あるいは、彼らはまだこれをショーの一部と思っているのかもしれない。<br />　どちらにしろ、この時の智恵子は少しばかり観客に気を取られすぎていたと言える。<br />　菊麿くんが人形たちをはねのけ、こちらに近づく隙を与えてしまったのだから。<br />「……え」<br />　しまった、とうめく前に、何とか巨人を操り、菊麿くんの動きを止めようとする。<br />　だが、菊麿くんはそれをはねのけると、一気に智恵子へと距離を詰めた。<br />　大きな両手で、彼女の体を思い切り掴む。<br />「ぐぅ……？」<br />　呼吸が苦しくなり、集中力が解け、その余波で菊人形たちは陣形を乱す。<br />　巨人の姿が崩壊しかかるのが見えた。<br />　菊麿はなおも智恵子の体を、締め付けてくる。酸素の供給が、さらに少なくなった。<br />『死ネェ！』<br />「この……！」<br />　智恵子は残る気力で、崩壊しかかった巨人の姿を維持させると、菊麿の体を何とか羽交い締めにした。<br />　獲物に意識を向けていた菊麿くんは、迂闊にもその拘束を許してしまい、手から智恵子をこぼしてしまう。<br />　落ちた智恵子は、そのまま地を転がって安全な場所まで退避し、咳き込んでから空気を存分に吸った。<br />「大丈夫か!?」<br />「ええ、何とか……」<br />　体を引きずり近寄ってくる会長にうなずくと、改めて巨人と菊麿くんの方を見る。<br />　両者は力を拮抗させていたが、姿が不完全なぶん巨人の方が不利だ。智恵子は急ぎ、再度陣形を組ませようとする。<br />　そのまま、次の策を考えた。<br />（危険な賭けですが、もう一度私自身を囮にして隙を作り、菊人形たちに攻撃を……）<br />　その時だった。<br />　糸から、拒絶の意志が流れ込んできたのは。<br />「え……？」<br />　見れば菊人形たちは勝手に陣形を解除し、巨人の姿を崩壊させている。<br />　命令違反だ。しかし、これは智恵子に対する反逆ではなかった。<br />　菊人形たちはその小さな刀を、すべて菊麿くんの体に突き刺し、取り憑くようにして群がったのである。<br />『シャラクサイ……！』<br />　菊麿くんにすればそれは大したダメージでもないらしく、彼らを引きずり智恵子の方に近づこうとした。<br />　まずは、人形を操るマスターを狙おうと考えたのだろう。<br />　菊人形たちがそうはさせなかった。<br />　彼らの思惑は糸を通して智恵子に流れ込んできた。<br />「……『これより、特殊行動に移る』？　ちょっと、待ちなさい！」<br />　智恵子の声に、会長がきょとんと尋ねる。<br />「何だね、その特殊行動とは」<br />「……自爆です」<br />「え？」<br />「あの子たち、自分の体を爆発させて、菊麿くんを止めるつもりなんです！」<br />　その言葉の内容にもだが、智恵子の声質に会長は驚いた。今までに聞いたことがないほど大きく、焦燥の色がにじみ出ている。<br />　その間にも彼女は額に汗を浮かべ、両手をせわしなく動かしていた。どうにかして、人形の動きを止めようとしているらしい。<br />　だが、菊人形たちはただの操り人形ではない。意志のあるリビングドールなのだ。<br />　それは自我や感情を持つがゆえに、時に融通が利かないのが欠点で――<br />「やめなさい、あなたたち！　これは命令よ……お願い、やめてぇ！」<br />　少女は目をつぶると拳を胸元に握りしめ、ついには悲痛な声を上げた。<br />　愛する者を失いたくない、その一心からくる叫びを。<br />　この時、会長の目には菊人形たちが笑っているように見えた。<br />　それは主君を守るという誇りに満ちた、武人たちの笑みである。<br />　――彼らは、死を恐れていないのか！<br />　智恵子と菊人形たちの間に、確かな絆があることを確信し、彼は背筋を震わせた。<br />　次の瞬間、人形たちの全身を熱く大きな白光が包んでいく。<br />　そして――<br />『グオ？　グワアアアアアアア！』<br />　異変に気づいた菊麿くんが、彼らを振り払おうとした時には遅く、菊人形たちはその全身を爆発させ、光の中に散っていった。</p>
<br /><p>| <a title="ヒーローズプレイスメント公式ノベル　2/4" href="http://ch.nicovideo.jp/silverblitz/blomaga/ar619287" target="_self">next &gt;&gt;</a></p>
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                <dc:creator><![CDATA[ヒロプレ製作委員会]]></dc:creator>
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                <title><![CDATA[ヒーローズプレイスメント公式ノベル「菊より高いものはない？」　 ２／４]]></title>
                <description><![CDATA[<p>地域型美少女ＴＣＧヒーローズプレイスメントの公式ノベルです。隔週掲載予定！story : 番棚葵illust : フルーツパンチ</p>]]></description>
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                <pubDate>Mon, 22 Dec 2014 13:01:00 +0900</pubDate>
                <category><![CDATA[ヒーローズプレイスメント]]></category>
                <category><![CDATA[シルバーブリッツ]]></category>
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                <category><![CDATA[番棚葵]]></category>
                <category><![CDATA[フルーツパンチ]]></category>
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                        <![CDATA[<p><div style="line-height:30px;background:url(&quot;https://bmimg.nicovideo.jp/image/ch522/181705/5d756d1e42299f42f571373f9ec0c9dae22b30f1.gif&quot;) no-repeat fixed center;">
<p><span style="font-size:150%;"><img alt="c94c4627b18afc94f690192be545c3c12e644413" src="https://bmimg.nicovideo.jp/image/ch522/212699/c94c4627b18afc94f690192be545c3c12e644413.png" data-image_id="212699" /></span></p>
<p><br />「……それで、そのアルバイトさえ完遂すれば、ちゃんとした報酬が手にはいるそうです。しかも結構な額が」<br />　智恵子はダイニングルームで、夕飯を食べながらつぶやいた。<br />　ちらり、と右手を見る。<br />　そこに立っている菊人形たちは、手にプラカードを持ったまま、動揺したように体を震わせた。<br />　智恵子は淡々と言葉を続ける。<br />「逆に言えば、アルバイトが完遂しなければ報酬も手に入らず、あなたたちの境遇も今のままということなのですよ」<br />　智恵子はそう言うと、白飯を口に運ぶ。<br />　菊人形たちは顔を見合わせると、どよどよと声にならない声を上げた。実際に声が出るわけではないので、雰囲気だが。<br />　ここで箸を置くと、彼女は人形たちをじっと見つめた。<br />　慎ましやかな胸の下で、腕を組む。<br />「なので、提案します。私がアルバイトを終えるまで、ストライキは一時お預けとしてくれませんか。もしもこれが終わった後、まともな菊を用意しなければ、存分にストに戻ってください」<br />　今日の彼女の夕食は、野菜炒めだった。決して刺身ではない――少なくとも食用菊は机の上に乗っていない。<br />　このことが、説得の材料になったかどうか。<br />　人形たちはもう一度顔を見合わせると、決意したようにうなずき、プラカードを投げ捨てたのであった。</p>
<p>　それから三日後のこと。<br />「いやぁ、助かったよ！」<br />　頭がはげ上がったその初老の男は、手を打ち合わせて呵々大笑とした。<br />　休日の二本松市、観光地の一つである霞が城公園の入り口である。<br />　私服たる純白のワンピースを着た智恵子は、その男――三つ編み同級生の父親を前に、一礼をした。<br />「私などで、力になれるのであれば」<br />「なるなる！　むしろ君しかいないと、娘から話を聞いていて思ったのだよ！　菊人形を自在に操ることができるんだって？」<br />「ええ、はい」<br />　その言葉にうなずくと、智恵子は片手を上げてみせる。<br />　呼応するかのようにどこからともなく小さな影が複数飛び出した。<br />　背中に、銀色の糸を引きずって。<br />　それは間違いなく彼女の菊人形だった。各々が地面に立ち、ポーズを決めてみせる。<br />　数は数十を超えていて、三つ編み娘の父親は、その壮観に目を輝かせた。<br />「おお、これは凄い！　これだけの数を一気に、しかも個別に操れるとは！」<br />「お褒めいただき恐縮です」<br />　ちっとも恐縮していないような無表情で、智恵子は答えた。<br />　だが、男は彼女の言葉も気にしないように豪放磊落に笑うと、その背中を叩いた。<br />「いやぁ、これならいける、いけるよ！」<br />「……セクハラになりますよ？」<br />　顔をしかめて指摘され、慌てて一歩下がった。さすがに娘の友人にそう言われては、気まずいらしい。<br />　咳払いをすると、話を本題に切り替えた。<br />「君に頼みたいことは一つだ。娘から話は聞いていると思うが、どうかね。二本松智恵子くん」<br />「ええ、聞いていますよ……二本松市観光協会会長さん」<br />　智恵子も少し声色を改めた。わざわざ役職名を述べたのは、ビジネスの話に入ったという宣言である。<br />　会長はうなずくと、少し表情を曇らせて霞が城公園の方を振り返った。<br />「現在、二本松市は観光事業に関してやや遅れを取っている……それというのも、他の地域に比べて『ゲート』が少ないからだ」<br />「つまり、名物となるタワーやダンジョンが少ない、ということですね」<br />「その通り。異世界からはみ出した建造物は、ある程度安全が確保されれば観光名所にも使われる。だが、今のところ二本松市にはそれがないのだよ」<br />「ゲート」によって通じた異世界からは、時々その空間がこちらにはみ出すことがある。<br />　タワーやダンジョンといった遺跡であることが多いのだが、これらは安全が確保されれば名物として観光客に公開されることも多い。東北が異世界の観光地と呼ばれる由縁だ。<br />　ちなみに、これら遺跡は安全が確保されるまでは地方自治体が責任を持って管理することが多いのだが、市民の中には無断で中の探索を行う者もいて、自治体としては少し手を焼いている。<br />　閑話休題。二本松市にはその名所となるべき遺跡が少ない。他と比べて観光地として決してひけは取らないのだが、どうしても差がつけられていくのが現状なのである。<br />「我々も色々な手段を講じたよ。名物Ｂ級グルメを考案したり、ご当地ゆるキャラマスコット『菊麿くん』でショーを行ってみたり。だが、どれも今一だった」<br />「はぁ」<br />「そこで目をつけたのが、二本松市名物である菊人形を自在に操る君だ」<br />　ここでもう一つ咳払いをし、観光協会会長は大仰しく両腕を広げてみせた。<br />「二本松智恵子くん。君には、人形劇をして欲しいのだよ！」<br />「人形劇、ですか」<br />　オウム返しにつぶやいた智恵子だったが、同級生からすでにその辺の話は聞いてある。今のは事実確認に過ぎない。<br />　彼女は、ふと右手の親指を一つ動かした。<br />　それだけで、数体の人形がまったくバラバラの方向に動き、なおかつ違うポーズを取る。<br />「確かに私なら、この子たちを自在に操って人形劇をこなすことも可能です。裏方さえ用意してくれれば、後は一人でできるでしょう」<br />「そうだろう、そうだろう。つまり人件費がかからないというわけで……おっと」<br />　うっかり口を滑らせそうになって、会長は両手で押さえた。<br />「ともあれ、君のような可愛らしい女学生が、人形を一人で操り人形劇をする。これだけでも充分話題は見込めるのだよ」<br />「それは……お世辞でも悪い気はしませんね」<br />「お世辞なんかではないよ、心からそう思っているさ。それにこの人形劇にはもう一つ目論見があってね、子供に受けるのではないかと思うんだ」<br />「子供ですか？」<br />「そうだ、家族連れの観光客が、一番旨みがある。この家族連れをゲットするには、子供の心を掴む必要があるのだ……休日のお父さんが子供に弱いのはわかるだろう？」<br />「はぁ」<br />　よくわかりません、と続けたかった智恵子だが、何となく空気を読んで口をつぐんだ。<br />　会長の目が遠くを向いている。彼も昔は家族サービスに苦労した方なのだろう。<br />「とにかく、人形劇のイベントは試してみる価値はあると思う。協力してくれるね」<br />「わかりました」<br />「では、早速劇の題目を決めなければならないのだが……」<br />「あ、それなら」<br />　智恵子が手のひらを会長の方に向け、提げていたトートバッグからファイルを一冊取りだした。<br />「娘さんに打診を受けた後、自分なりにオリジナル劇を作ってみました。この町を象徴する題材で作っています」<br />「ほう……どれどれ」<br />　会長は感心して言うと、ファイルを受け取り、挟んであるコピー用紙に目を通した。</p>
<p>『昔々、ある野原に、一本の大きな菊が生えていました。その菊は大層大きく、やがて花を咲かせましたが、その中に玉のように美しい娘が眠っておりました』<br />　物語の出だしを見て、ふむふむと会長はうなずいた。<br />　なるほど、二本松町の名物である菊を使っている。幻想的な出だしもグッドだ。<br />『その美しい娘は近所に住む武家に拾われ、菊花姫と呼ばれ大切に育てられました。やがて年頃になった娘は、その美しさから、たちまち周囲の評判となりました』<br />　悪くない展開だ。恐らく、この後この姫が何かのハプニングに巻き込まれるのだろうと会長は予測する。<br />『しかし、その評判があまりにも広まりすぎて、海を越えた島にいる鬼たちにまで届いてしまいました。鬼たちは武家を襲い、菊花姫をさらってしまいました』<br />　王道だが、なかなか良いぞ。予想が当たった満足感も手伝い、会長は再度うなずいた。<br />『武家に使える若い侍たちは、彼らの武士道に従い、勇敢にも菊花姫を救おうと立ち上がりました。しかし、鬼たちは大変強力な存在。しかも、要塞のように強固な島に住んでいるので、容易に攻め込めません』<br />　要塞という言葉が少し引っかかったが、現代の子供にはこれくらいの方がわかりやすいだろう。まだ許容範囲内だ。<br />　オリジナル劇の結構なできばえに、会長は機嫌良くうなずく。<br />『そこで、侍たちは一つの計画を打ち立てました。それは、海底に眠る船を引き上げ、改修して乗り込み、島に攻め入るというものです――海底の船、すなわち「戦艦大和」を』<br />　なるほど、と会長はうなずき――<br />「……って、ちょっと待てぇ!?」<br />「何でしょう？」<br />　首を傾げる智恵子に、食ってかかった。<br />「いや、何でしょうじゃないでしょう!?　何でいきなり『戦艦大和』が出てくるの!?　しかもどこかで聞いた展開だし！」<br />　大声でツッコミを入れる会長に、しかし智恵子は意外そうな目を向けると、<br />「知らないんですか？」<br />「……え、何を」<br />「『戦艦大和』の舳先には、菊花紋章が飾られているんですよ」<br />「だから何だぁあああ！」<br />　少しドヤッとした顔で語る彼女に、会長は再度声を荒げた。<br />　いくら菊があっても、さすがに二本松市と「戦艦大和」には何の関係もない。<br />「……ちなみに聞くけど、この先の展開はどうなるの？」<br />　紙面に目を走らせる気も失せて、直接智恵子に聞くことにする。<br />　智恵子はうなずくと、答えた。<br />「この後、侍たちは鬼たちが住む島に乗り込み、『大和』の援護射撃もあって難なく敵を倒していきます」<br />「……それ、侍の活躍はほぼ皆無なんじゃ」<br />「しかし、島の奥には巨大で怪力無双な鬼の首領がいて、しかも『大和』の砲撃は届かないため、侍たちはピンチになるのです」<br />「お、一応見せ場らしいものはあるのか」<br />「……ですが、侍たちは幸いにもサブマシンガンや手榴弾で武装していたので、距離を取って的確に集中砲火をし、鬼の首領が近づく前に倒しました」<br />「武士道は!?　ていうか、今さらだけど時代考証がめちゃくちゃだよ!?　しかも、ピンチはあっさり覆ってるし！」<br />　これでは、劇どころか物語にもならないではないか。<br />　半眼で訴えてくる会長に、しかし智恵子は自信ありげにうなずいた。<br />「大丈夫です、首領を倒した後、とびっきりのエンディングを用意してありますから……最後のページだけ読んでみてください」<br />「……どれどれ？」<br />　半信半疑で会長は言われた通りにページをめくる。<br />　そこにはこう書かれてあった。<br />『侍たちは菊花姫を助け出しましたが、彼女は鬼の首領の近くにいたのでやはり全身が蜂の巣になっていました……彼らは顔を見合わせると、肩をすくめてシニカルに笑ってみせるのでした。めでたしめでたし』<br />「めでたくないわぁあああ！」<br />　思わず地面にファイルを叩きつける。<br />　それから憤りを抑えるため、数回深呼吸をしていたが、やがて不服そうにファイルを拾う智恵子にくってかかった。<br />「何だ、この何も残らないエンディングは！　バッドエンドじゃないか！」<br />「侍たちは笑っているので、ある意味ハッピーエンドですよ」<br />「ブラックジョークでハッピーになれるかぁ！　そもそもこの劇、良かったのは出だしだけで、途中からは完全に支離滅裂だろう！」<br />「……それでも、これくらい砕けた方が、子供には受けがいいと思うんですけどね」<br />　そう指摘された瞬間、ぴた、と会長の勢いが止まる。<br />　彼にとって、聞き逃せないキーワードがあったからだ。<br />「子供受けがいい？」<br />「はい。自分が子供の頃を思い出してください。固いだけの物語よりも、荒唐無稽な滑稽話の方を好んだはずです」<br />「それは確かにそうだが……君は、そこまで考えてこの物語を作ったというのか？」<br />「ええ」<br />　胸の中で「そこまで考えていませんでした」と続け、智恵子は微笑んでみせる。<br />　だが、会長はそれで感心したらしく、うーむとうなると、<br />「確かに子供のことを考えるなら、退屈するような芸術作品を選ぶよりは、笑って友達同士の話題になるような娯楽作品を提供した方がいいのか」<br />　納得したようにつぶやいた。よほど、子供好きな性格らしい。<br />　会長はやがて、手を一つ打ち鳴らした。<br />「よし、二本松さん。その物語を採用しよう」<br />「そうですか、それは子供のことを思って作った甲斐がありました。大変嬉しいです」<br />　心にもないことを言って、智恵子は胸中で舌を出した。<br />　それから、微笑をより親愛に満ちたものに変えて、会長に尋ねる。<br />「では、脚本家としての報酬も私がいただくということで、問題ありませんね？」<br />「う……まぁ、いいだろう」<br />「ありがとうございます」<br />　今度は本心からの礼だった。彼女は一銭でも多く金を稼ぐつもりで、そのためにこの脚本を作ってきたのだ。<br />（とりあえず、ここまでは予定通りですね）<br />　智恵子はぼんやりとそう考えると、今後のスケジュールを決めるべく、会長に打ち合わせを申し出るのであった。</p>
<p>| <a title="ヒーローズプレイスメント公式ノベル　2/4" href="http://ch.nicovideo.jp/silverblitz/blomaga/ar619287" target="_self">next &gt;&gt;</a></p>
</div></p>]]>
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                <dc:creator><![CDATA[ヒロプレ製作委員会]]></dc:creator>
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                <title><![CDATA[ヒーローズプレイスメント公式ノベル「菊より高いものはない？」　 1／４]]></title>
                <description><![CDATA[<p>地域型美少女ＴＣＧヒーローズプレイスメントの公式ノベルです。隔週掲載予定！story : 番棚葵illust : フルーツパンチ</p>]]></description>
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                <pubDate>Mon, 22 Dec 2014 13:00:00 +0900</pubDate>
                <category><![CDATA[ヒーローズプレイスメント]]></category>
                <category><![CDATA[シルバーブリッツ]]></category>
                <category><![CDATA[ヒロプレ]]></category>
                <category><![CDATA[ＴＣＧ]]></category>
                <category><![CDATA[番棚葵]]></category>
                <category><![CDATA[フルーツパンチ]]></category>
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                        <![CDATA[<p><div style="line-height:30px;background:url(&quot;https://bmimg.nicovideo.jp/image/ch522/181705/5d756d1e42299f42f571373f9ec0c9dae22b30f1.gif&quot;) no-repeat fixed center;">
<p><span style="font-size:150%;"><img alt="ccc27ac53600c93ce2519dae00c930944eaedf7a" src="https://bmimg.nicovideo.jp/image/ch522/212697/ccc27ac53600c93ce2519dae00c930944eaedf7a.png" data-image_id="212697" /></span></p>
<p><br />　ふと手を休めて、その少女――二本松智恵子は気配がした方角を見た。<br />　時はおりしも、夕飯時。彼女はほかほかの白ご飯と醤油につけた刺身を、同時にやっつけようと思ったところである。<br />　気配はそんな彼女が座している、ダイニングの右手側からした。<br />　そこには、智恵子にとって馴染みの深い面々が立っていた。<br />「あなたたち……」<br />　智恵子は不思議そうに首を傾げた。<br />　腰までのばした長い髪が、さらりと流れる。<br />　少しつり上がった大きな目が、銀縁眼鏡の奥で人形たちを見据える。瞳の輝きは紫水晶で、鋭い知性の光を宿していた。<br />　まつげも長く端麗なそれは、白いリボンでまとめた絹糸のような黒髪、身につけている純白のワンピースと相まって、まるで人形のような美しさを彼女に与えている。<br />　しかし、それでも目の前の気配の主に、彼女は勝てないだろうと思われた。<br />　美しさが、ではない。<br />　人形らしさが、である。<br />　フローリングの床の上に立っているのは、全長三十センチほどの、本物の人形であった。<br />　その数およそ数十体。全員が侍のような格好をして、帯刀までしている。<br />　彼らは何やらプラカードをかかげていて、はちまきをしているものもいた。一様に思い詰めたような表情で、智恵子を見つめている。<br />　智恵子はそのプラカードに書かれている文字を読んで、眉間にしわをこしらえた。<br />「……ストライキ？」<br />　見れば、確かにはちまきにも「春闘」と書かれていて、その様子はストライキデモ以外の何ものでもなかった。<br />　智恵子はさらに首を傾げて、九十度にまで曲げた。納得がいかなかったのである。<br />　そのまま、ぼそりとつぶやく。<br />「どうして、あなたたちがストライキを？　何が不満なのですか？」<br />　人形たちは答えた。</p>
<p>　東北は、少しばかり変わった観光地として人気を博していた。<br />　この地に開いた、異世界へと繋がる数々の「ゲート」が、その文化や、住人たる魔物などを含む「超越存在」を招き入れ、独特の観光事業を生み出したのだ。<br />　そして、この地にもたらされたのは、観光名所の生み方だけではない。<br />　異世界に存在する技法や秘術などが、戦うための術として人間たちに伝えられたのだ。<br />　その代表たるものが、「超越存在」と「契約」を交わす「召喚者」である。<br />　彼らは「超越存在」の、文字通り人間を超越した力を借り、使役して戦うのだ。<br />　二本松智恵子は、「超越存在」と「契約」を交わしてはいないが、ある意味では「召喚者」に近い存在と言えよう。<br />　ただし、彼女が使役するのは人形である。<br />　しかも彼女の地元である二本松市の名産品「菊人形」であり、それらは彼女が手ずから作ったものであった。<br />　普通なら何の変哲もない人形で納まるはずの彼らが、まるで自分の意志を持つかのように動くのは理由があり、それは一重に異世界の技術を使用しているからだ。<br />　簡単にいえば魔法の力を用いたそれは、人形に魂を吹き込むことを可能とする。<br />　さらに、繋げた糸により使役者の意志を明確に伝えることも可能で、意図を伝えられた人形は、自身の判断によりそれに沿った行動を行えるのだ。<br />　自分の意志で動く彼らはまさに生きた人形――「リビングドール」と言えよう。<br />　思考能力を持つ彼らは、人形遣いが一から動かさなくても複雑かつ柔軟な対応が可能なため、他の人形より優れていると言えた。<br />　ただ、一つの欠点を除いては。<br />　それは、彼らに自我があるため、時々融通が利かなくなるということである。</p>
<p>「そういうわけで、ほとほと困っています」<br />　智恵子はつぶやくとストローをくわえ、言葉とは裏腹な無表情で、ズズッ、とアイスコーヒーをすすった。<br />　学校のすぐ近くにある（とは言っても歩いて十分近くかかるが）コンビニエンスストアは、店内で飲食が可能であり、放課後の生徒たちの格好のたまり場となっていた。<br />　テーブルの対面側で、智恵子と同じ学校指定のセーラー服を身につけている少女が、ソフトクリームをなめながら、ややボーイッシュにつぶやいた。<br />「人形がストライキ、ねぇ。本当かよ」<br />　その隣でやはり同じ格好をしている三つ編みの少女が、気弱そうな顔に苦笑を浮かべて智恵子に尋ねる。<br />「一体何が原因なの、智恵子ちゃん」<br />「さぁ……原因はわかっているのですが、どうして不満なのかは」<br />　智恵子は目を閉じながらつぶやくと、目の前の少女二人――同じ学校の級友だ――に、首を振ってみせた。<br />「理解できかねます。飾り菊の出自だけで、あそこまでへそを曲げるとは」<br />「飾り菊の出自？」<br />　智恵子が使役する菊人形は、菊だけで形成される従来の「菊人形」とは少し赴きが違う。<br />　手のひらサイズの小さな人形に、飾りとして菊の花を数枚つけているのだが、その菊に不満があるのだと彼らは訴えたらしい。<br />「ひゃー、それくらいでストライキ起こすんだ。面倒くさい話だね」<br />「ええ」<br />　仰天するボーイッシュの少女に智恵子はうなずき、言葉を続けた。<br />「……予算不足で食用菊を使ったくらいで、何もそこまで怒らなくても……」<br />「それは怒るよ!?」<br />　三つ編み少女が、ショックを受けたように叫んだ。隣の娘が首を傾げる。<br />「何だ、その食用菊って」<br />「食品に飾りとして使う花だよ。専門用語で言うと、『刺身に乗せるタンポポ』」<br />「ああ、あれか……って、まさか智恵子、自分が食べてきた刺身用のそれを、全部そいつらにつけたのか？」<br />「いえ、そんなわけありません」<br />　智恵子はしっかりと首を横に振った。<br />「……私一人が食べる量では、食用菊の個数には限りがありますから。学校の友人や近隣の住人、その他色々な人に頼んで、取っておいてもらったのをつけました」<br />「そういう問題じゃないだろ!?」<br />　結局は、廃物を利用したということである。それは人形たちも怒る。<br />「まぁ、それでも足りないんで……いくつか通販で業務用のものを買ったのですが」<br />　弁解がましくつぶやく智恵子に、しかし気弱な少女は首を横に振った。<br />「智恵子ちゃん、ちょっとは人形たちの気持ちにもなってあげなよ。可哀想だよ」<br />「おう、そうだそうだ！」<br />「刺身などに使われる『つま菊』は、青森県八戸市の特産だよ？　それが使われるなんて、福島県二本松市名物の菊人形としては、屈辱なんじゃないかな」<br />「い、いや、そういう問題でもないぞ!?」<br />「…………！　私、間違っていました」<br />「智恵子もそんなことで目を覚ますな！　それ以前に人として間違っているところがあるだろう！」<br />　真面目な顔でボケ倒す友人二人に、ボーイッシュは忙しくツッコミを入れる。<br />　と、智恵子は少し気落ちしたような表情でつぶやいた。<br />「でも、実際予算が少ないのは確かなんです。私の小遣いじゃ、全員ぶんの菊を用意するのはなかなか厳しくて……」<br />「まぁ、うちら学生だしな」<br />　ボーイッシュが相づちを打つように宙を仰ぐ。彼女も欲しいものが多い年頃だ、共感はできるのだろう。<br />　ふと三つ編みの少女が思いついたように両手を打ち鳴らした。<br />「あ、それなら智恵子ちゃん。アルバイトしてみない？」<br />「アルバイト？」<br />「うん、うちのお父さんがちょうど困っていてね、智恵子ちゃんに力を貸して欲しいって言っていたんだ」<br />「え……私に、ですか？」<br />　大人が、一介の学生に何の用なのだろう。<br />　智恵子の疑問に答えるかのように、級友の少女はにこりと笑みを浮かべると、<br />「実はね、うちのお父さんね」<br />　その内容を切り出した。</p>
<br /><p>| <a title="ヒーローズプレイスメント公式ノベル　2/4" href="http://ch.nicovideo.jp/silverblitz/blomaga/ar619287" target="_self">next &gt;&gt;</a></p>
</div></p>]]>
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                <dc:creator><![CDATA[ヒロプレ製作委員会]]></dc:creator>
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                <title><![CDATA[ヒーローズプレイスメント公式ノベル「荒神討伐奇譚～目覚めし虎の姫～」　 4／４]]></title>
                <description><![CDATA[<p>地域型美少女ＴＣＧヒーローズプレイスメントの公式ノベルです。隔週掲載予定！story : 鷹羽流時illust : muku</p>]]></description>
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                <pubDate>Wed, 17 Dec 2014 13:04:00 +0900</pubDate>
                <category><![CDATA[ヒーローズプレイスメント]]></category>
                <category><![CDATA[シルバーブリッツ]]></category>
                <category><![CDATA[ヒロプレ]]></category>
                <category><![CDATA[ＴＣＧ]]></category>
                <category><![CDATA[鷹羽流時]]></category>
                <category><![CDATA[muku]]></category>
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                        <![CDATA[<p><div style="line-height:30px;background:url(&quot;https://bmimg.nicovideo.jp/image/ch522/181705/5d756d1e42299f42f571373f9ec0c9dae22b30f1.gif&quot;) no-repeat fixed center;">
<p><span style="font-size:150%;"><img alt="b3563cfda6ded86b32eb6b2da2af36307a3fefef" src="https://bmimg.nicovideo.jp/image/ch522/212694/b3563cfda6ded86b32eb6b2da2af36307a3fefef.png" data-image_id="212694" /></span></p>
<p><br /><strong>７</strong></p>
<p>　姫花はうっすらと目を開けた。<br />　自分を覗き込む、顔、顔、顔。そのどれもに、心配そうな表情があった。<br />　<br />「大丈夫ですか？」</p>
<p>　涙でぐずぐずになった、はなきの顔がそばにあった。</p>
<p>「ええ。ありがとう。私は無事よ」<br />「よかった……！　ぐすっ……」<br />「自分で妃に志願したとも思えない、泣き虫になっちゃったわね」<br />　泣きじゃくるはなきの肩を叩いてやる。</p>
<p>「体は大丈夫かい？」<br />「本当に、よくあいつを倒してくれたわ」<br />「ありがとう、ありがとう……」</p>
<p>　人々が口ぐちに言いながら、姫花に手を差し伸べる。</p>
<p>　姫花は体に力が戻ってきているのを感じていた。<br />（この人たちの想い。眠っていた私の力が強くなっていたのは、かすかにでも私のことを覚えてくれていたから……）<br />　数百年、忘れないでいてくれた。純粋な感謝の心が力となり、自分に宿っていたのだ。</p>
<p>　そして、この力でみんなを守れた。<br />　深く深く息を吐きながら、姫花は目を閉じた。<br />　<br />（悪くないわね、こういうのも……）<br />「きゃああああああああ！」</p>
<p>　はなきの悲鳴。姫花は目を開けた。<br />　きっ、と睨みつける。<br />　<br />「兵御院……」</p>
<p>　兵御院桂介が、杖をかなぐり捨てナイフを持って、はなきの首筋に突き付けていた。<br />　その顔は、先ほどまでの老人とは別人に思えるほど、凶悪さに満ちていた。<br />　<br />「その子を離しなさい」<br />「できかねますなあ、姫花さま」</p>
<p>　しゃがれ声で答える。にやっと兵御院は笑った。<br />　密集していた人の輪が散る。<br />　<br />　姫花はゆっくりと立ち上がった。<br />「なぜ、こんなことを……」<br />「簡単なことでございますよ。あなたにいてもらっては不都合。それだけです」<br />「どういうことかしら。私は荒神を倒しただけ。この地に平穏をもたらしただけよ」<br />「そのお力が恐ろしいのですよ。なんといっても、蘇らせた荒神を、倒してしまわれるのですから……」</p>
<p>「なんですって？！　あなたが全ての……」<br />　姫花の目が見開かれた。<br />　<br />「すべて、という程大物でもありません。わしはただ、下らん伝承で採掘を禁じられた坑道の先に眠る、銀がほしかっただけですよ。その資金を以って、わしはこの地方で名を上げる。あらゆる貴族を、ひいてはこの国の全てを跪かせる。それが野望じゃ」</p>
<p>「……荒神のような虚栄心ね」</p>
<p>「これは手厳しい。しかし一理ありますなあ。わしは、荒神と取引をしたのですから」<br />　滔々と、兵御院は語った。皆が自分の言葉を聞き入っていることに、悦びの表情を浮かべながら。</p>
<p>「荒神に、古の経緯を聞きましてな。自分の前に生野姫花を連れて来れば、わしの野望に手を貸すと。生野銀山に眠る銀。荒神の力。そろえば恐ろしいものなど何もない！」</p>
<p>「外道め……」<br />　低く唸る姫花。老人はさらに饒舌に続ける。<br />「本当に生野姫花が存在し、ましてや荒神を倒してしまうとはな。わしの計画は崩れてしまった。かくなる上は……」</p>
<p>　はなきの顎を乱暴に引っ掴み、首を反らせる。そこにナイフを押し当てた。<br />「この娘の命、惜しいじゃろう？　わしの言うことを聞いてもらおうか」</p>
<p>「何が望みなの？」<br />「あなたの命じゃよ。どうせ荒神と違ってわしに賛同してくれんのだろう。だったら、消えてもらった方がいい。それとも、この娘ごとわしを討ちますかな？」</p>
<p>　姫花は唇を噛んだ。兵御院を攻撃しようにも、巧みに少女を盾にしている。<br />（どうしたら……。？）<br />　はなきを捕らえる兵御院の周りに、緑色の霧が漂っているのに姫花は気付いた。鼻息荒く兵御院が呼吸するたびに、体内へと吸収されていく。<br />　<br />（かすかに残った荒神の残骸が、同じ野望をもつ邪心に共鳴している……。このままではあの体を乗っ取り、荒神がまた蘇ってしまう）<br />　<br />　そして、また地獄が戻ってくる。<br />（やりなおしはもう、うんざりだわ）<br />　<br />　ふっ、と姫花は笑った。<br />「いいわ。私の命が欲しければ……」<br />「ダメです！」</p>
<p>　はなきが遮る。<br />「もうわかってます。あなたは本物の姫花さまなんですよね？　だったら、わたしなんかと引き換えになっちゃダメです！」<br />　涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながら、少女は叫んだ。</p>
<p>　姫花は首を振った。少女と、荒神と化しつつある老人を見つめた。<br />「いいえ。そこまで言ってくれるのならわかるはず。生野姫花だったら、こういう時にどうするか。あなたたちが覚えていてくれた生野姫花なら……」<br />　言いながら、あることに姫花は気づいた。<br />　<br />（みんなが覚えていた私……そうか）</p>
<p>　決意を込めて、姫花はあたりを見回した。<br />　集まった人々に聞こえるよう、凛とした声を張り上げる。<br />　<br />「今から何が起ころうと、私を、姫花を信じて。姫花は荒神には屈しないのだと」<br />　言い終わると同時に、妖力を実体化させ短剣を作り出す。</p>
<p>　それで、姫花は自らの喉を突いた。<br />　花びらのような赤に、大地が彩られる。</p>
<p>「クハ、クハハハハ……！　ついに生野姫花、滅びたり……！」<br />　<br />　いつの間にか、兵御院の声は老人のしゃがれ声ではなく、荒神のそれになっていた。<br />　はなきを突き飛ばすと、小躍りしながら姫花に近づき、首筋に手を当てる。</p>
<p>「確かに絶命しておるわ。クハ、クハハハハ……我が天下なり！」<br />　狂笑が続く。その口から毒が流れ出している。</p>
<p>　人々が姫花に駆け寄った。穏やかな表情のまま息をしない姫花。</p>
<p>「みんな、思い出して！　姫花を信じて。そう言ってたわ」<br />　はなきが叫んだ。起き上がって姫花に駆け寄る。<br />　<br />「姫花さま！　あなたは言い伝えの通りでした。優しくて、強くて。でももう、これ以上つらい思いを、一人で背負わないで……！」<br />　はなきが姫花の手を握る。民衆が口々に姫花の名を呼ぶ。<br />　冷たくなりつつあった力ない手に、はなきの体温が移っていく。</p>
<p>　きゅっ。<br />　少女の手が、握り返された。<br />　<br />（一人で背負わないで……。そう、そうね）</p>
<p>　誰も不幸にしたくなかった。だから戦う。<br />　今も、昔も。</p>
<p>（でも、私が眠ってしまったとき、みんなはどんな気持ちだったんだろう）</p>
<p>　姫花一人が戦い、そして荒神が封じられた。<br />　それで、残された人々は幸せになれたんだろうか。<br />　<br />　姫花が、目を開ける。</p>
<p>「ありがとう、はなき……」</p>
<p>　今度は間違えない。自分を想ってくれる人を悲しませることはできない。</p>
<p>　起き上がり、姫花は体中の妖力を解き放った。<br />　人々の祈り。自分を想ってくれる心。それらをすべて、一つにして。</p>
<p>「出でよ！」</p>
<p>　傍らに、巨大な銀虎が現れた。唸りを上げ、今にも飛び掛からんばかりに姿勢を低くしている。<br />　荒神が気づき、目を見張る。</p>
<p>「馬鹿な！　息の根は止まっていたはずだ！」<br />「虎は伏して機を伺う。忘れたの？」</p>
<p>　まっすぐに荒神を指さす。<br />　<br />「さあ、行きなさい！　竹田城の伏せる虎！」</p>
<p>　姫花の声を合図にして、放たれた弓の勢いで虎が襲い掛かる。<br />　荒神は、それをかわすことはできなかった。</p>
<p>　兵御院の肉体に牙を突き立てた。虎は実体を失い、あたりに銀色の光が満ち溢れる。<br />　すべてを浄化するような、神々しい光。<br />　<br />「グアアアァァアァ！」</p>
<p>　山間に反響する絶叫。<br />　老人の体は緑色の塵と化した。銀の光に飲まれ、白い煙となって、立ち消える。<br />　<br />　荒神は消滅した。<br />　<br /><br /><br /><br />　<br />　<strong>８</strong><br />　<br />　眼下をゆっくりと、雲海が流れていく。<br />　朝日に照らされて、黄金色の雲波がいくつも連なる。<br />　<br />　姫花は竹田城跡にいた。城下を見下ろす。<br />　たゆたう雲に隠されて、人々の佇まいを見ることはできなかった。</p>
<p>「変わらないわ。ここに城があった頃から、何一つ」<br />　自分のいた時代は、遠く時に彼方に流れ去ってしまった。</p>
<p>「でも、私を知っている人たちがいる。私を大切に想ってくれる人がいる」</p>
<p>　確かに一度、姫花は命を落とした。<br />　だが、眠る彼女に妖力が蓄えられたように、人々の想いが、生命力となって姫花に宿った。<br />　人と人とのつながり。<br />　今も昔も変わらぬ、強い絆のみなもと。</p>
<p>　ふわり。谷を渡る風が、姫花の頬を撫でた。<br />　雲海が、払われていく。<br />　朝日に照らされた、朝来の街が現れた。<br />　<br />　荒神はもういない。ふと、姫花は思う。<br />　これから自分は何をすればいいのだろう。</p>
<p>「……まあいいわ。眠っていた分だけ、時間はたっぷりあるのだもの。ゆっくり考えましょ」</p>
<p>　不安はもうない。<br />　優しい人たちに囲まれて、この時代を生きよう。<br />　時を越え、名を変えても、姫花を忘れなかった、愛しい故郷。</p>
<p>　兵庫県朝来市。この街で。<br /><br /></p>
<br /><p>&lt;&lt; back |</p>
</div></p>]]>
                </content:encoded>
                <dc:creator><![CDATA[ヒロプレ製作委員会]]></dc:creator>
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            </item>
            <item>
                <title><![CDATA[ヒーローズプレイスメント公式ノベル「荒神討伐奇譚～目覚めし虎の姫～」　 3／４]]></title>
                <description><![CDATA[<p>地域型美少女ＴＣＧヒーローズプレイスメントの公式ノベルです。隔週掲載予定！story : 鷹羽流時illust : muku</p>]]></description>
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                <pubDate>Wed, 17 Dec 2014 13:03:00 +0900</pubDate>
                <category><![CDATA[ヒーローズプレイスメント]]></category>
                <category><![CDATA[シルバーブリッツ]]></category>
                <category><![CDATA[ヒロプレ]]></category>
                <category><![CDATA[ＴＣＧ]]></category>
                <category><![CDATA[鷹羽流時]]></category>
                <category><![CDATA[muku]]></category>
                <content:encoded>
                        <![CDATA[<p><div style="line-height:30px;background:url(&quot;https://bmimg.nicovideo.jp/image/ch522/181705/5d756d1e42299f42f571373f9ec0c9dae22b30f1.gif&quot;) no-repeat fixed center;">
<p><span style="font-size:150%;"><img alt="38dffd6e4209674e5a9528f0bdbfd8470b77750e" src="https://bmimg.nicovideo.jp/image/ch522/212686/38dffd6e4209674e5a9528f0bdbfd8470b77750e.png" data-image_id="212686" /></span></p>
<p><br /><strong>５</strong></p>
<p>　兵御院に示された入り口から、姫花は坑道に入った。<br />　人の手によって整備されており、壁は固められている。<br />　しかし、明かりはない。<br />　<br />「光よ……」</p>
<p>　指先からほんの少しの妖力を解放する。<br />　ふわりと光の玉が浮かんだ。<br />　あたりを照らす。</p>
<p>「でも、霧に阻まれてあまり遠くまでは見えないわね。嫌らしい霧……」</p>
<p>　外よりもはるかに濃い、べったりとした緑の霧が漂っていた。<br />　死臭と腐臭、刺激臭。ありとあらゆる悪臭の塊。<br />　姫花は服の裾で口と鼻を抑えた。<br />　<br />「気分が悪くなってくるわね……」</p>
<p>　前を睨みつけ、姫花は奥へと歩を進める。</p>
<p>　足元はだんだんぬかるみはじめ、空気は重く湿り気を帯びる。<br />　毒霧は濃度を増し、視界は悪くなる一方だ。<br />　<br />　だが、突然霧が薄くなった。開けた場所に出たのだ。<br />　天井は高く、上の方には澄んだ空気がたまっているのか、霧はない。<br />　それを見て、姫花は妖力の光球を上方に飛ばした。<br />　<br />　最奥に、人の背丈のゆうに三倍はあろうかという巨大な岩が見える。<br />　その前に、緑の霧が凝ったような人型の何か。<br />　体のいたるところから毒霧を噴き上げている。</p>
<p>　冠に袍、沓に笏。<br />　壁画に描かれるような、古の日本を治めていたであろう王族の衣装。<br />　数百年の時を経てなお、変わらぬ宿敵の姿。<br />　<br />「荒神っ……！」</p>
<p>　円形の広場に、姫花の声が響いた。<br />　<br />「妃たる娘か……」<br />　低く、くぐもった声が残響する。<br />　<br />　人型の頭の部分に、下卑た表情が浮かんだ。<br />「ほう、これは美しい。我が妃に相応しい。さあ、近う寄れ……」</p>
<p>　姫花は両足を肩の幅に開き、踵を浮かせた。<br />　両腕を胸の前で交差させ、妖力を集中させる。<br />　<br />「私の顔を忘れたの？　長いこと経って耄碌したんじゃない？」</p>
<p>「ぬうっ……貴様、生野姫花か！」</p>
<p>「今更気づいたの？　間抜けなことね」<br />　姫花は鼻で笑った。</p>
<p>「ふん、貴様が来たならこの上ないわ。うまくいったようだ。妃などもはや必要なし」</p>
<p>「何かわからないけど、戯言はここまでよ！　引導、渡してやるわ！」</p>
<p>　姫花の両腕から放たれた純粋な妖力が、荒神に叩きつけられた。<br />　しかしその瞬間、荒神は実体を失い、緑の霧へと変じた。<br />　妖力の塊は、一瞬前まで荒神がいた場所をすり抜け、後方の大岩にぶつかった。<br />　<br />　ドォォォン！<br />　<br />　爆音が響く。もうもうと煙が立ち、天井からぱらぱらと土の破片が降り注いでくる。<br />　<br />「手間を省いてくれて感謝するぞ、小娘」</p>
<p>　荒神の声だけが響く。<br />　土煙が収まると、巨大な岩に変化が生じていた。<br />　妖力の光を反射して、坑道中が照らされる。<br />　表面を覆う岩と土が払われ、中の銀が姿を現したのだ。<br />　<br />「この山に封じられて、むしろ幸運であった。我が失われし肉体に相応しい憑代を見つけたのだからな」</p>
<p>　霧が筋となって、巨大な銀塊に巻きつく。<br />　そしてそれは、吸い込まれるように消えて行った。<br />　やがて。<br />　<br />　低く、山そのものを揺るがすような地響きが始まった。<br />　<br />　銀塊が動く。命あるもののように銀塊が蠢く。<br />　まるで眠れる巨人が起き上がるかのごとく、それは徐々に人の形を縁取り始めた。</p>
<p>「！？　何をする気なの、荒神っ」　<br />　<br />「人の肉体のように脆弱ではない。霧のように薄弱でもない。我が肉体は、強く美しく、輝きを放つ銀とする！」</p>
<p>　甲に冑をまとい、右手には巨大な直刀。<br />　姫花の時代よりさらに昔。太古の兵装をなした銀の巨人が、姫花の前に立ちあがった。<br />　その身丈は、姫花の五倍はあるだろう。</p>
<p>　姫花は息を飲んだ。だが、すぐに立ち直る。<br />「所詮は木偶人形よ。粉々にしてやるわ」</p>
<p>　ギロリ。<br />　冑の下から、姫花を睨みつける。<br />　表情は、霧でいた時よりもはるかに殺気に満ちていた。<br />　<br />「クハハハ！　小さいな、生野姫花」</p>
<p>　響き渡る哄笑。<br />　巨人となった荒神は、その直刀を上方に振り上げた。<br />　山頂に至る、天井に向かって。<br />　<br />　衝撃波が走る。<br />　<br />　坑道の中が光に照らされた。鉱山そのものが切り裂かれ、そこから陽光が降り注いだのだ。<br />　そして次の瞬間、崩落が始まる。<br />　<br />「きゃあああああ！！」</p>
<p>　大岩が姫花めがけて落下する。<br />　<br />「今度はお前が銀山に封じられる番だ！　地中深くに埋もれるがいい！」</p>
<p>　崩れゆく銀鉱を、ゆっくりと荒神は上昇してゆく。<br />　<br />　<br />　<br /><br /><br /><strong>６</strong></p>
<p>　生野銀山の頂上に、荒神は姿を現した。<br />「数百年ぶりの地上か。なんと太陽の力強いことか」</p>
<p>　地上を見下ろす。<br />　山々に囲まれた生野の地は、古の時代よりも栄えているのが見て取れた。<br />　銀山の入り口に群れた人々が、恐怖の眼差しで荒神を見上げていた。<br />　それが、たまらなく心地いい。<br />　<br />「愚民ども……。その命、我に捧げよ。その生気を我が妖力としてくれよう」</p>
<p>　大きく息を吸い込む素振り。そして街に、毒霧を噴きつけた。<br />　固形化したような緑の霧が、人々に襲い掛かる。</p>
<p>「ゲホッ……ゴホッ！」<br />「いき……が……」<br />「けほっ……あのひとは……」</p>
<p>　ある者はそのまま地に倒れた。<br />　喉を掻き毟る者、咳き込みうずくまる者。<br />　涙を流しながら、空に手を伸ばすもの。<br />　妻と子を抱きかかえながら倒れ伏す父。妻の悲鳴は、毒に塞がれて外に出ることはなかった。<br />　<br />　荒神は上空から、緑の霧に包まれた地獄絵図を、恍惚の表情で眺めていた。</p>
<p>「時が経とうと、人は変わらぬものだな。なんと心地よい絶叫か……むっ！？」</p>
<p>　何かを察し、荒神は身を翻した。<br />　雷球が銀の体をかすめて飛んでいく。<br />　<br />「なんということを……！　残虐にして極悪なのは、変わっていないようね！」</p>
<p>　怒りに満ちた声が響いた。<br />　<br />「生野姫花……っ」<br />「おあいにく。あの程度でどうこうできると思ったら、舐められたものだわ」</p>
<p>　衣装の裾がはためく。<br />　髪が、風にたなびく。<br />　全身を淡い銀の光に包まれた姫花が、空に浮かんでいる。<br />　妖力を解放して、浮力に変換しているのだ。<br />　<br />「生野の地よ。谷よ。風よ。今ここにある毒を打ち払え……！」</p>
<p>　その身に宿る力を乗せて、姫花は祈るように唱えた。<br />　刹那。<br />　地上を突風が駆け巡った。<br />　姫花のいる上空では、髪の先を揺らす程度のそよ風だったが、大地に溜まる毒霧はすべて払われていた。<br />　人々が、互いに助け合い立ち上がるのが見える。<br />　<br />「貴様あぁぁ！」</p>
<p>「ふん、お前が人々の苦しみを妖力に変えるなんて百も承知よ。そうはさせないわ」<br />　彼女は油断なく、身構えた。</p>
<p>「さあ、決着をつけましょう。今度こそ永遠に古墳に葬ってやるわ……！」<br />「ぬかせ小娘！　跡形も残らぬよう捻り潰してくれるわ。その苦悶を我が力としてやろう」</p>
<p>　姫花は不敵に笑った。<br />　自分の数倍の大きさのある敵を相手にしながら、その瞳に恐怖はない。<br />　銀色の光が、稲妻を成して彼女の体を走る。<br />　自分の妖力が高まっていくのを、姫花は感じていた。</p>
<p>「さぁ、そろそろ本気を出そうかしらね」</p>
<p>　左手を大きく打ち振る。<br />　雷球が空中に五つ、荒神の巨体を囲むように現れた。<br />　<br />「喰らいなさい！」</p>
<p>　広げた手のひらを、ぐっと握る。それに合わせて、同時に五つの光が荒神に襲い掛かる。<br />　<br />「手ぬるいわ！」</p>
<p>　荒神は刃を打ち振るい、雷球を切り裂いた。<br />　弾ける音を立てて、雷球が消え去る。</p>
<p>「やるわね！」</p>
<p>　光の残滓の中を、荒神が刃を掲げて突っ込んでくる。巨大な体躯に見合わず、その動きは素早い。<br />　姫花の瞳に、振り上げられた剣が映る。避けられない。</p>
<p>「盾よ出でよ！」</p>
<p>　とっさに、姫花は身を守る。妖力が実体化し、盾の形をした結界壁が形成された。<br />　<br />　ギイン！<br />　<br />　金属同士がぶつかり合うような音。<br />　その一撃で、姫花の盾には亀裂が入っていた。二撃以上耐えられないと判断し、実体化の妖力を打ち切る。盾は霧散した。<br />　防御分の妖力も上乗せし、攻撃に転じる。<br />　<br />「刃がお前だけのものとは思わないことね」</p>
<p>　大きく空中に十字を切るように、姫花は手を動かした。<br />　切り裂かれた空気が意思を持つように、鎌鼬となって銀の巨体に向かう。<br />　荒神は、避けようともしない。<br />　<br />「愚かなり」</p>
<p>　真空の刃は荒神の体に、毛の筋ほどの傷をいくつかつけただけで、かき消えてしまった。</p>
<p>「金属を切り刻むなど、土台無理なことよ」<br />　嘲りを含んで、荒神が笑う。姫花は舌打ちした。<br />　<br />「ちっ……。当然だったわね。じゃあ、火ならどう？」</p>
<p>　空中で体制を立て直す。両手を合わせ、軽く指を曲げる。できた隙間に妖力を集中させた。<br />　薬指、中指、人差し指と徐々に離していく。<br />　花びらのように開いていく手のひらの真ん中に、青く燃える炎が現出した。<br />　<br />（一点狙いよ……）<br />　<br />　両手を離す。その幅に合わせて火球も、轟々と音を立てて回転しながら、大きく膨れ上がっていく。<br />　姫花は両腕をいっぱいに広げた。<br />　巨大な火球が形成された。</p>
<p>「行きなさいっ！」</p>
<p>　姫花の声を受けて、火球は荒神に向かっていく。<br />　正確に言うのであれば、剣を構える右腕の、肘一点に。<br />　<br />「ぬうっ」</p>
<p>　意図を見抜けなかった荒神は、迫りくる火球にとっさに右腕を上げ、顔面をかばった。<br />　むき出しになった腕の関節に、火球が絡まりついた。<br />　青い火球は、荒神の体を構成する銀を融解させていく。</p>
<p>　ずるり。刃を持ったままの右腕が焼切られた。<br />　水銀のように液体化した金属の雫が、日の光を反射しながら落ちていった。</p>
<p>「やったぞー！」<br />　地上の人々の声が、姫花の耳にも届いた。</p>
<p>「う、ぐああぁぁぁ！」<br />「そんな体でも、痛みは感じるのかしらね」</p>
<p>　冷たく言い放つ姫花。</p>
<p>「おのれ小娘、許さぬ……むごたらしく殺してくれるわ！」</p>
<p>　憤怒の光を宿して、荒神は姫花を睨みつけた。<br />「いくら貴様の結界壁といえども、無数に襲い掛かる銀の礫に耐えられまい」</p>
<p>　無傷の左手で、右の失われた肘先を引っ掴む。<br />　バァン！　握力で己の体を砕く。肘、上腕、そして肩。そのたびにいびつな銀の礫が生産される。礫とはいえ、その一つ一つの大きさは人間の拳ほどもある。</p>
<p>　傷口からは、血のように緑の霧が溢れ出た。</p>
<p>「喰らえ！」</p>
<p>　荒神の体の一部であった銀塊は、それ自身が意思を持つかのよう空中を走り、あらゆる角度から姫花に殺到した。<br />　<br />「盾……いえ、球！」</p>
<p>　姫花は己の周りに真球の障壁結界を形成した。身をかがめ、それでも訪れるであろう衝撃に備える。<br />　幾百もの礫が、結界壁を打ちつける。<br />　地うねりのような低い音があたりに木霊する。</p>
<p>（この勢いじゃあ、いつまでも耐えられないわね……）</p>
<p>　障壁の内側で、姫花は焦っていた。攻撃はやむことなく、間断なく姫花の妖力を削っている。<br />　かといって、攻撃に転じるために結界壁を消せば、その瞬間に無数の礫に打たれて命を失う。<br />　差し違える屈辱はもうごめんだった。でも、このまま荒神に一方的に負けるのは、彼女の誇りが許せなかった。</p>
<p>（一気に妖力を解放し、その隙をついて一撃で決める）</p>
<p>　いくらかの傷を負うことを覚悟の上で、結界壁の妖力を絶とうとした瞬間。<br />　不意に、礫の攻撃がやんだ。<br />　絶好の好機。彼女は結界壁を解除した。<br />　だが。<br />　<br />「クハハハハ！　小娘は何百年経とうと小娘よ！」</p>
<p>　姫花の目の前に、荒神の無傷の左手が伸びていた。<br />　その細い体を、鷲掴みにする。<br />　<br />「ああああああっ……！」<br />　姫花は、体の中で骨が軋る音を聞いた。<br />　痛みが全身を支配し、集中させた妖力が霧散していく。<br />　<br />「この程度の策にかかるとはなぁ！　宣言通り、捻り潰してやろう」<br />　荒神は、さらに握力に力を込めた。</p>
<p>　姫花の悲鳴が、山彦となって生野の地を駆け巡った。<br />　<br />（この、ままじゃ……）<br />　すぐそばのはずの荒神の嘲笑が、遠く聞こえる。<br />　手足が冷えていく。<br />　視界が暗くなっていく。<br />　<br />（か、さま……姫花さま！）<br />　姫花のすぐ耳元で、はなきの声が聞こえた気がした。<br />（どうか勝ってください）</p>
<p>「負けられない……あの娘の祈りを、私は背負っているから！」<br />　体に妖力がみなぎる。　</p>
<p>　手足にぬくもりが戻ってきた。<br />　暗くなった視界は、霧が晴れるように明るくなった。<br />　遠のいていた荒神の不愉快な笑い声は、途切れていた。<br />　驚愕の眼差しで、姫花を見る。　<br />　<br />「馬鹿な！　妖力も命も、尽きかけていたはず……」<br />「お前が人々の苦悶を妖力とするように、私にも糧とできるものがあったのよ」</p>
<p>　姫花の体が光に包まれる。優しく、それでいて力強い光。<br />　それが一気に収縮して、弾ける。</p>
<p>「ギャアアアァ！」</p>
<p>　荒神の左手だったものが、砕け散り地上へ落ちて行った。<br />　両腕を失った荒神。<br />　姫花は宙を舞い、素早く懐に飛び込んだ。<br />　<br />「それは、人の希望、祈り。さあ、終わりよ！」</p>
<p>　両腕にすべての力を集中させ、巨体の中央、胸の部分に叩き込む。</p>
<p>「おのれえぇェェ！　まだ、まだだァ……　まだ我は……！」</p>
<p>　言い終わらぬうちに、荒神の銀の体にひびが入った。<br />　体から、緑の霧が吹きだし始める。<br />　足が砕け始める。膝、腰、胸……細かい銀の砂となって、風に舞い散る。</p>
<p>「今度こそ……」</p>
<p>　姫花は荒い息を吐いた。<br />　ぐらり。視界が歪む。<br />（力を使いすぎたわ。浮いていられない……）<br />　崩れゆく荒神の体と共に、姫花は重力の糸に引かれて、地上に落ちて行った。<br />　<br />　後には、かすかに揺らめく緑の霧が残された。</p>
<br /><p>| <a title="ヒーローズプレイスメント公式ノベル　2/4" href="http://ch.nicovideo.jp/silverblitz/blomaga/ar619287" target="_self">next &gt;&gt;</a></p>
</div></p>]]>
                </content:encoded>
                <dc:creator><![CDATA[ヒロプレ製作委員会]]></dc:creator>
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            </item>
            <item>
                <title><![CDATA[ヒーローズプレイスメント公式ノベル「荒神討伐奇譚～目覚めし虎の姫～」　 ２／４]]></title>
                <description><![CDATA[<p>地域型美少女ＴＣＧヒーローズプレイスメントの公式ノベルです。隔週掲載予定！story : 鷹羽流時illust : muku</p>]]></description>
                <link>https://ch.nicovideo.jp/silverblitz/blomaga/ar684537</link>
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                <pubDate>Wed, 17 Dec 2014 13:01:00 +0900</pubDate>
                <category><![CDATA[ヒーローズプレイスメント]]></category>
                <category><![CDATA[シルバーブリッツ]]></category>
                <category><![CDATA[ヒロプレ]]></category>
                <category><![CDATA[ＴＣＧ]]></category>
                <category><![CDATA[鷹羽流時]]></category>
                <category><![CDATA[muku]]></category>
                <content:encoded>
                        <![CDATA[<p><div style="line-height:30px;background:url(&quot;https://bmimg.nicovideo.jp/image/ch522/181705/5d756d1e42299f42f571373f9ec0c9dae22b30f1.gif&quot;) no-repeat fixed center;">
<p><span style="font-size:150%;"><img alt="dfa7c98f6d419bb8094d483e40dc6a8a5d413531" src="https://bmimg.nicovideo.jp/image/ch522/212670/dfa7c98f6d419bb8094d483e40dc6a8a5d413531.png" data-image_id="212670" /></span></p>
<p><br /><strong>３</strong></p>
<p>　兵御院の用意したリムジンに、姫花は乗っていた。<br />　自分の生きていた時代には想像すらできぬ、引く者なく動く鉄の車。最初こそ戸惑ったが、数分も経つうちに、その座り心地のいい椅子にすっかり慣れてしまった。<br />　運転席とはガラスで隔てられ、座席は向かい合わせに設えられている。<br />　<br />　興味深げに、姫花は運転席を覗き込んだ。<br />　何が何やら姫花にはわからなかったが、動きを操作するらしい円状のもの――ハンドルを握るドライバーの顔には、色濃く疲労が浮かんでいるのは見て取れた。</p>
<p>「そも、荒神とはなんなのか、姫花さまはご存じでいらっしゃいますか？」<br />　兵御院が問うた。姫花はとすっと座席に座り、意外そうな顔を兵御院に向けた。</p>
<p>「？　そんなの誰でも知っていることでしょう」<br />「いえいえ……。我々の時代には、不完全な伝承しか残されておりませんでな」<br />「……そこまで時間が経っているのね」</p>
<p>　姫花は窓の外に目をやった。<br />　空気は毒霧に汚染され、出歩く人影はまるでない。<br />　死に絶えたかのように静まっている。</p>
<p>　道はむき出しの土ではなく、継ぎ目のない石で舗装されていた。<br />　木目の生きた街並みは消え失せ、堅牢そうな家々が立ち並ぶ。城壁を思わせるような、高い石造りの建物。無論、石ではなくコンクリートなのだが、姫花は知らない。<br />　<br />「本当に、ここは私の知る時代ではないのね……」</p>
<p>　荒神を倒す。その決意に変わりはない。<br />　しかし、目の前に突き付けられた時間の流れは、姫花を不安にさせる。<br />　姫花はため息をついた。</p>
<p>「……荒神の正体だけど。あれは、古の豪族の悪霊よ」</p>
<p>　姫花の答えに、兵御院は目を見張った。<br />「なんと……。姫花さまより、さらに古い時代のものでしたか」<br />「そう。生野には、墓所である古墳が散在している。そのうちの一つに眠っていた、古代人。この国を支配しようという野望を半ばに絶たれた、強欲な男よ」</p>
<p>　兵御院は首を振った。<br />「いやはや、我々には想像もできませんなあ。男と生まれたからには、野望に燃えるというところだけはわかりますが、な」<br />「治めるべき領民を苦しめて、何が王よ！」<br />　姫花は兵御院を睨みつけた。男は恐縮して頭を下げる。</p>
<p>「……荒神は私がこの地に来るまで、民を苦しめていたわ。竹田の城も、交通の要衝であると共に、荒神に対するために建造されたものだったの」<br />「ほう、それは興味深い。生の歴史というやつですな」<br />「私はあいつを放っておけなかった。ここの人たちは好きだったし、民を守るために戦う。それが民を治める者の役目だと言われて育った」<br />「姫花さまのお生まれは、高貴な血筋なのですな」</p>
<p>「生野を名乗ってはいるけれど、私は竹田の城を築いた氏族のゆかりの女よ。だから、あの城に封印されたのね」<br />「左様でございましたか。溢れ出る高貴さは消せぬものですなぁ」<br />「お世辞はいいわ」<br />　冗談めかした兵御院の言葉に、姫花は年相応の笑い顔で答えた。<br />　<br />「荒神はどこにいるの？」<br />　少しだけ笑いを残したまま、姫花は兵御院に聞いた。<br />「封印されし銀山にいるものと思われます。確約はありませんが、間違いはないでしょうな」</p>
<p>　遠回しな言い方に、姫花は違和感を覚えた。首を傾げる。<br />　<br />「？　不思議な物言いね。どういうこと？」<br />「夢、でございますよ」<br />「夢……？　荒神の夢でも見るというの？」<br />「左様……詳しくは、わしよりもこの者のほうがよろしいでしょうな」</p>
<p>　兵御院は、運転席のガラスを叩いた。<br />　車が路肩に止まった。運転席を隔てていたガラスが開く。<br />「ご用でしょうか？」<br />「この方に、例の夢の話を……」</p>
<p>　運転手は姫花に一礼してから、口を開いた。<br />「数日前……今から思えば、荒神の封印が解かれたときだったのでしょう。それから、毎日同じ夢を見るのでございます」<br />　運転手が疲れた顔で語る。目の下には隈が浮いていた。</p>
<p>「暗い、炭鉱の奥で、声だけが響くのです」</p>
<p>「声……？」<br />「はい。目覚めても耳に残っております。『数百年経ちても恨みは薄れぬ。我が心を安らがすため、娘を一人、妃に捧げよ。さなくば、この地に住まう人間は、一人残らず贄とする』と」<br />　身震いするようにしてから、続ける。<br />「それから、緑色の霧があふれ、息ができなくなります。苦しさのあまり目が覚める。これが毎日でございます」</p>
<p>　運転手が口を閉ざすと、兵御院が続ける。<br />「街の人間すべてが、どうやらこんな夢を見ているようでしてな」<br />　手振りをすると、ガラスが閉まり、車がまた動き出した。</p>
<p>「……妃ですって？　体のいい生贄じゃない！」<br />　姫花が語気荒く吐き捨てる。<br />「左様……。ですが、あの者の顔をご覧になったでしょう。眠るたび悪夢にうなされるようでは、あの憔悴も頷けまする。街の者たちも同様です。そうなれば、当然……」<br />「…………っ！」</p>
<p>　姫花の目に、燃えるような怒りが宿る。<br />　まさか、一人を犠牲にして助かろうなどというのか？</p>
<p>「このままではいずれ街の人々は夢と毒で、取り殺されるでしょう」<br />「だからと言って……！」<br />「あくまでも花嫁でございますよ。命までは取られますまい」</p>
<p>　姫花は唇を噛んだ。<br />　一人の人生と、街の人の命。<br />　その二つを天秤にかけた時、どちらが重くなるか。</p>
<p>「そんなこと、させられない」</p>
<p>　だからと言って、一人にすべてをかぶせていいとは思えなかった。<br />　誰も不幸にしたくなかった。だから戦ったのだ。<br />　いま、覚えられていなくても、自分が何より覚えている。</p>
<p>　車が停車した。交差点だ。<br />　信号が青に、黄色に、赤に変わり、明滅を繰り返す。<br />　窓の外を見やって、姫花はつぶやいた。</p>
<p>「妖力の光とも思えないわ。不思議なものね」<br />「我々にはごく当たり前のことですが、姫花さまには慣れぬことばかりでご不安でしょうな」</p>
<p>　再び車が走り出す。エンジンが吹き上がる音がかすかに聞こえた。<br />　<br />「いいえ。荒神がいる限り、私のすべきことに変わりはないわ」<br />　不安がないと言えば嘘だ。<br />　だが、やるべきことがある。<br />　弱音を吐くのはそのあとでいいはずだ。</p>
<p>「お覚悟、ご立派でございます……」<br />　兵御院は顔を伏せた。しわがれた声で姫花に告げた。<br />　<br />「この車は、生野銀山に向かっております。銀鉱の奥に荒神が。すでに坑道からは毒があふれ出しているとの報告です。お気をつけて」</p>
<br /><p><strong>４</strong></p>
<p>　やがて、銀山の入り口についた。<br />　あたりはうっすらと緑がかった霧が漂っていた。ツンとした臭いが、姫花の鼻をつく。<br />　横で兵御院が軽く咳き込んだ。<br />　<br />　花の文様の彫刻された門があり、その前に盛大に篝火が焚かれている。<br />　周りには人々が集まっていた。皆、口と鼻を布で覆っている。<br />　<br />　篝火の前には木製の祭壇が設えられていた。その横に、一風変わった装束を身にまとった少女が、俯いて立っている。年は十代の半ば……姫花より、少し若いだろうか。<br />　少女のそばに、両親と思われる男女が立っている。母親は目に涙を浮かべ、父親は悔しそうに目元を歪めていた。</p>
<p>　一目で、ただならぬ様子であることがわかる。<br />　<br />「あれは……」<br />　あたりを指し、姫花は兵御院に問うた。<br />「婚姻の儀でございますよ」<br />　老人は重々しく、姫花に答えた。</p>
<p>　その瞬間、姫花は駆け出していた。<br />　少女に駆け寄り、あたりを見回す。<br />　<br />「この娘を花嫁にする必要なんてないわ！」</p>
<p>　集まる人々に対して、凛とした声を張り上げる。<br />　人々の注目が、姫花に集まった。<br />　憔悴と困惑が、半分布に覆われた顔からもありありと覗えた。</p>
<p>「じゃあどうしろっていうんだ。このまま殺されろって思ってんのか」<br />　少女の父親が、姫花の前に立つ。</p>
<p>「思っていないわ。でも、こんなことは間違ってる」</p>
<p>　静かな声で、姫花は繰り返した。<br />　少女に向き直り、優しく諭すように言う。<br />　<br />「あなたが行ったところで、解決にならないわ。誰かが犠牲になる必要なんて、ないの」</p>
<p>　少女はあっけに取られたような顔をしていたが、ふるふると首を振った。</p>
<p>「あの……。ありがとうございます。でも、これはわたしが決めたことなんです。この街が好きでなんです。わたしひとりでみんなが苦しまずに済むのなら、それが一番いいんです」</p>
<p>　儚げな微笑みを浮かべて、少女は続ける。<br />　<br />「怖くないわけじゃないんです。でもきっと、自らを犠牲にしてこの街を助けてくれた姫花さまも、こういう気持ちだったんだと思います」</p>
<p>　姫花は息を飲んだ。<br />　<br />「あなたは私を……生野姫花を知っているの？」<br />　<br />「姫花さまのことでしたら知っています。昔、命を懸けて、たった一人でこの街を救ってくれた女性だってくらいしかわからないですけど。わたしの名前――はなきって、姫花さまの文字を逆にして読んだものです」</p>
<p>「……そう」</p>
<p>　姫花は少女に近づいた。その手を取る。指の先は冷たく、かすかな震えが姫花に伝わってきた。</p>
<p>（ここには、私を覚えてくれている人がいるのね）</p>
<p>　姫花は自分の中に、温かい何かが宿るのを感じた。<br />　それはゆっくりと全身に沁み渡って、力と変わっていく。</p>
<p>（私のしたことは無駄ではなかったのだわ）</p>
<p>　時代が流れ、人が移り変わっても、変わらないもの。<br />　昔、自分が命を懸けて守ったものが、今も受け継がれている。<br />　<br />　姫花は笑った。決意を込めて。</p>
<p>「はなき。ありがとう。でも、あなたが行くことはないわ。その衣装を貸しなさい。私が代わりに行く。今度こそ荒神に引導を渡してやるわ」</p>
<p>　しかし、はなきはイヤイヤをするように首を振った。<br />「だめです。わたし、決めたんです。この街の役に立つんだって」<br />「強情ね……」<br />　<br />「いいじゃないかね。変わっておあげなさいよ」<br />　人々に一歩進み出て、兵御院がしゃがれ声をかけた。<br />　<br />「花嫁を捧げるという点なら、同じ若い娘だ。変わりはないじゃろう。それにこの方は勝算があるんだ。そうでございましょう？」<br />　姫花を見る。姫花は力強く頷いた。</p>
<p>「そうよ。死にに行くのではないわ」</p>
<p>「本当に……いいんですか？」<br />　おずおずと、はなきが言う。</p>
<p>「虎穴に入らずんば虎児を得ず、と言うでしょう。もっとも、虎は私だけど。危険を冒さねばならない時もあるのよ」</p>
<p>　まっすぐに、姫花は少女を見た。はなきも姫花を見返す。<br />　はなきの目頭が赤くなり、涙が零れる。</p>
<p>「……ありがとう、ございます。本当は怖かった。ごめんなさい、ありがとう……」<br />　しゃくりあげながら、少女は姫花に抱きついた。<br />　姫花は子供にするように、背中をさすってやった。<br />　<br />「あなたの志、立派だわ。あとは私を信じて任せなさい」</p>
<p>　鼻を啜りあげながら、はなきはこくりと頷いた。<br />　<br />「ささ、姫花さま、はなきさんも。衣装替えをなさいませ」<br />　杖を突きながら歩く兵御院に先導され、二人はそばの建物に入った。</p>
<p>※　※　※<br /><br />　<br />　青と黒を基調とし、銀を配した服を身にまとい、姫花は再び人々の前に立った。<br />　それはまるで姫花のためにあつらえたかのようだ。</p>
<p>「悪くないわね……」</p>
<p>　くるりとその場で回る。裾がひるがえり、円を描いた。</p>
<p>「よくお似合いですぞ」</p>
<p>　世辞ばかりでない様子で、兵御院が褒める。<br />　姫花は苦笑いした。だが、笑いを収める。<br />　<br />「行ってくるわ」</p>
<p>　歩み去る姫花におずおずと、はなきが声をかけた。</p>
<p>「あの……お名前を、聞かせてください」</p>
<p>　姫花は足を止めた。振り返る。<br />　<br />「私は姫花。生野姫花。遠い昔とは違う。今度こそ荒神を倒してやるわ」</p>
<p>　踵を返し、鉱山の入り口へ向かう。<br />　<br />　後には、顔を見合わせる人々が残された。</p>
<br /><p>| <a title="ヒーローズプレイスメント公式ノベル　2/4" href="http://ch.nicovideo.jp/silverblitz/blomaga/ar619287" target="_self">next &gt;&gt;</a></p>
</div></p>]]>
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                <dc:creator><![CDATA[ヒロプレ製作委員会]]></dc:creator>
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            </item>
            <item>
                <title><![CDATA[ヒーローズプレイスメント公式ノベル「荒神討伐奇譚～目覚めし虎の姫～」　 1／４]]></title>
                <description><![CDATA[<p>地域型美少女ＴＣＧヒーローズプレイスメントの公式ノベルです。隔週掲載予定！story : 鷹羽流時illust : muku</p>]]></description>
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                <pubDate>Wed, 17 Dec 2014 13:00:00 +0900</pubDate>
                <category><![CDATA[ヒーローズプレイスメント]]></category>
                <category><![CDATA[シルバーブリッツ]]></category>
                <category><![CDATA[ヒロプレ]]></category>
                <category><![CDATA[ＴＣＧ]]></category>
                <category><![CDATA[鷹羽流時]]></category>
                <category><![CDATA[muku]]></category>
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                        <![CDATA[<p><div style="line-height:30px;background:url(&quot;https://bmimg.nicovideo.jp/image/ch522/181705/5d756d1e42299f42f571373f9ec0c9dae22b30f1.gif&quot;) no-repeat fixed center;">
<p><span style="font-size:150%;"><img alt="d2f909a98920e43232d825bc1cb485327658e618" src="https://bmimg.nicovideo.jp/image/ch522/212639/d2f909a98920e43232d825bc1cb485327658e618.png" data-image_id="212639" /></span></p>
<p><br /><strong>１</strong></p>
<p>　姫花は敵を睨みつけた。<br />　古くからこの地を苦しめし邪悪なる者――荒神。<br />　毒々しい緑色の霧が、人型に凝っている。<br />　手には剣。袍と冠を身に着けたその姿は、古代の豪族を思わせた。<br />　<br />　荒神の呼気が大気に振りまかれるたび、飛ぶ鳥が力なく大地に落ちていく。<br />　その体は、命を蝕む毒そのものだ。<br />　<br />「私はお前を許さないわ。長く民草に苦汁を飲ませ、毒をまき散らすお前を！」<br />　<br />　鋭い岩の連なる山間に、姫花の凛とした声が響く。<br />　答えるは嘲笑。<br />　<br />「クハハハ……！　民の嘆きが、人の苦痛が、我が力となる。古くはこの地を治めし我を崇めぬ民など、贄となるより他はなし！」<br />「お前がこの地を治めていたのは、はるか昔のこと。今はもう忘れられた、古の王よ。古墳に眠りにつきなさい！」<br />「断る！　いずれはこの地のみならず、日の本の国を我が手中に収めよう。邪魔立てすると許さぬぞ、小娘！」</p>
<p>「……仕方ないわね。荒神よ、私はお前を倒す。この地の人々を守るために！」<br />　<br />　手のひらに、稲妻を集める。姫花の体に、小さな雷がまとわりついた。<br />　足元の小石が砕ける。<br />　<br />「小娘が一人、我に抗おうというのか。愚かなり……」</p>
<p>　荒神の哄笑が、風に乗って響く。それと共に、咳き込むほどの悪臭があたりに立ち込めた。<br />　その手に握られた刃が、凶悪な光を放つ。嘲るような顔をしたまま、荒神は姫花に剣を向けた。</p>
<p>　姫花は臆することなく、一歩踏み込んで右手を振るう。</p>
<p>「はっ！」</p>
<p>　気合一閃！　姫花の放った雷光が、荒神の胴体を貫く。<br />　<br />「ぐあぁっ……！　ま、まさか……」</p>
<p>　半ば実態を失い、荒神は苦悶の表情を浮かべた。<br />　荒い息とともに片膝をつく。岩山が握られた刃を噛んだ。<br />　それを杖として、かろうじて姿勢を保つ。<br />　<br />　風に流されて、荒神の体を形作る霧が舞った。<br />　<br />　一歩、二歩。姫花は荒神に近づいていく。<br />　彼女は敵の目の前に立った。<br />　無表情のまま、荒神を見下ろし、その顔に左手を伸ばす。<br />　<br />「これで終わりよ。己の罪を悔いながら滅びるがいいわ」<br />「…………」</p>
<p>　荒神は無言のまま、憎々しげに姫花を睨みつけた。<br />　なす術すらなく、最後の抵抗であるように思われた。</p>
<p>　姫香の伸ばされた手に、妖力が集まっていく。<br />　閃光。その手から、力が放たれる。<br />　<br />　だが。<br />　<br />「馬鹿め！　数百年を閲し我に、小娘ごときが勝てると思うてか！」</p>
<p>　力なく跪いたはずだった荒神は、剣を岩から引き抜いた。<br />　ぶつかるようにして姫花の体に突き刺す。</p>
<p>「くっ……！　はぁっ……」</p>
<p>　姫花の唇から、苦悶と嘆息がこぼれる。<br />　<br />　荒神の剣は、姫花の体を貫いていた。切っ先から真っ赤な血が滴る。</p>
<p>「所詮、命短き人間の浅はかさよ。我があのくらいで滅ぶと思うか。その程度の芝居も見破れぬとは……」</p>
<p>　邪悪な笑みを浮かべて、荒神は姫花を見た。剣を引き抜く。<br />　姫花の体から、新たに血が流れだした。<br />　<br />　傷口を手で押さえて、姫花はそれでも荒神を睨みつけた。<br />　<br />（この傷では……。でも、荒神を野に放ったままにはしておけない）</p>
<p>　姫花は自分の最期を覚悟した。命を引き換えにしてでも、荒神を倒さねばならない。<br />　そうしなければ、無辜の民が――彼女を『姫さま』と呼び慕う領民たちが、また苦しむことになる。<br />　それだけは嫌だった。自分を愛しみ育ててくれた生野の地と、そこに住む温かい人々が、姫花は大好きだったから。</p>
<p>　立つ力を失い、今度は姫花が膝をついた。<br />　鋭い小石が、皮膚に食い込む感触がする。</p>
<p>「ううっ……！」</p>
<p>　再び、荒神の哄笑が響く。<br />「ふははは！　地に伏す気分はどうだ、小娘。だが……」<br />　荒神は刃を振り上げた。<br />「その屈辱も終わりにしてくれよう」</p>
<p>　姫花はそれを見上げ、決意に満ちた笑顔を荒神に向けた。瞳には強い意志が宿っていた。<br />　<br />「虎は……」<br />「ん？　戯言か？」</p>
<p>「虎は、伏して機を伺う……！」</p>
<p>　その瞬間、姫花の全身が光り輝いた。<br />　あたりの大岩が吹き飛ばされ、銀の髪が別の生き物のように踊る。<br />　彼女の周りに、嵐のような風が巻き起こった。<br />　<br />　両手を前に差し出す。銀色の光を具現化したような虎が、姫花の前に現出した。<br />「行きなさい！」<br />　己の妖力の全てを込めた、銀の虎が荒神に襲い掛かる！<br />　<br />「な、なんだと！　力を残して……！」</p>
<p>　避けることもできず、荒神は虎の突進をその体で受け止めた。鋭い牙が荒神の首に突き立つ。<br />　荒神を咥えたまま、虎は後方の山――銀を生み出す生野の山へ、光の尾を引いて突進した。<br />　<br />「うぐああぁぁぁ！！！」<br />　<br />　荒神の絶叫は、轟音にかき消された。<br />　山腹に穿たれる、隧道。<br />　そして、続いて崩落。一瞬にして開通した隧道は、また一瞬にして岩に埋まった。</p>
<p>「生野の山よ……大地よ……銀よ。荒神を永遠に封じて……」</p>
<p>　力を失い、姫花は倒れて意識を失った。</p>
<br /><p>２</p>
<p>　ガラガラガラ……！<br />　石組みの壁が、大きな音を立てて崩れた。<br />　うっすらと、姫花は目を開けた。<br />　動き出した空気が、姫花の頬を撫でる。</p>
<p>「うるさくて寝てられやしないわ……」<br />　<br />　あたりを見回す。<br />　壁の一部が崩れており、そこから外の光が差し込んでいる。姫花は思わず目を細めた。</p>
<p>　湿度の高い空気。<br />　ぽたん、ぽたんとどこかから水の落ちる音が響いている。</p>
<p>　姫花はゆっくりと上体を起こした。<br />　そこで、祭壇のようなものに寝かされていたことに気付く。</p>
<p>「夢……じゃないようね」</p>
<p>　今、自分が置かれている状況は、夢ではなさそうだ。<br />　だが、どうしてこうなっているのかはわからない。<br />　<br />　無論、先ほどまで荒神と戦っていたのも、夢ではない。<br />　あの後自分はどうなったのだろうか。記憶はない。</p>
<p>「どういうことなの……？」<br />　頭を軽く振ったところに、不意に声がかけられた。</p>
<p>「姫花……さま」</p>
<p>　部屋の片隅から、しゃがれた老人の声。<br />　驚いて、そちらを見る。</p>
<p>　光の当たらぬ死角から、初老の男が、杖をつきながら駆け寄ってくる。<br />　身なりはよく、質のいい和服を纏っていた。年は七十くらいに見える。頭髪はすべて白かった。<br />　<br />「まさか本当に生野姫花がいるとは……姫花さま、お目覚めでございますな」<br />　老人は姫花の祭壇に近づくと、膝をついた。<br />　<br />「あなたは……？」<br />　姫花の問いに、老人は答えた。</p>
<p>「わしは、兵御院桂介というものでございます。この地方に住む貴族です」<br />「貴族……？　このようなところに貴族がいるはずがない。京の都は遠い。第一、その身なりは貴族とも思えないわ。狩衣も纏わず、立烏帽子も着けないなんてね」<br />「ああ、ご存じないのも無理はないですな。あなたは数百年、眠られていたのですよ。あなたが荒神を封じてより、時代は変わっています」</p>
<p>　子供に言い聞かせるように、兵御院と名乗った男は語った。<br />　姫花は否定するように首を振った。<br />　<br />「まさか」<br />「真にございます。ここを出て、外を見れば信じる気にもなるでしょうが。あなたの名は、かすかに伝承に残るのみ……」<br />「嘘……っ！」</p>
<p>　兵御院は崩れた壁を指し示した。<br />「ご覧になられた方がお分かりになるかと……」</p>
<p>　老人が言い終わる前に、姫花は勢いよく、石室から飛び出した。</p>
<p>※　※　※</p>
<p>　長いこと暗闇にいた姫花の目に、太陽の光が容赦なく突き刺さった。<br />　瞼を閉じる。そのまま姫花はいっぱいに息を吸い込んだ。草の匂いがする。<br />　<br />　徐々に目を開けた。<br />　空が、雲が近い。そこが地上はるか高みにいることがわかる。</p>
<p>　目が慣れてくると、山々の稜線が目に飛び込んできた。<br />　それは見慣れた和田山。いつも城塞から眺めていた。<br />　姫花が見ていた頃と、少しの変わりもない。</p>
<p>　だが。今、姫花の目の前にあるのは、遺構だけだった。<br />　日々を暮らしたはずの城は、どこにもない。<br />　<br />「竹田の城はどうなったというの……？」</p>
<p>　姫花の問いに、のっそりと石室から這い出してきた兵御院が答えた。</p>
<p>「これは言い伝えになりますが」<br />　兵御院が隣に立ち、あたりを杖で指し示しながら答える。<br />「姫花さまが荒神と戦い、ほぼ相討ちの形で荒神を封印したと聞き及んでおります。その後、姫花さまは、城に封印され長く眠りにつかれた、とのことでございます。古いことゆえ、定かな記録ではございませんが」<br />　その後、数々の戦があった。だが、姫花の眠る石室はそのまま時を越え、現代まで保たれていたのだ。</p>
<p>　草生す礎石に、組まれた石垣。ただそれだけ。<br />　人が住んでいたであろう昔日の面影すら、想像で補わねばならぬほどに変わり果てた姿だった。</p>
<p>　足元が崩れるような感触。姫花は膝をついた。<br />「お気の毒なことでございますな」<br />　兵御院の沈痛そうな声がかけられた。</p>
<p>　父母の顔、城の人々、街並み、匂い……。<br />　姫花の脳裏を、それらが掠めた。<br />　そして、その人々の苦悶の表情と、街を覆う緑色の毒霧。<br />　<br />　はっ、と顔を上げて、姫花は兵御院に問うた。</p>
<p>「荒神は、荒神はどうなったの？」<br />「姫花さまが封印をなされてより数百年……。その封印が解け、今この世で猛威を振るっておりまする。欲深き人間が、禁忌とされていた銀山の坑道を掘り起し、眠る荒神を目覚めさせてしまったのです」</p>
<p>　姫花は立ち上がった。眼下にひろがる街を見下ろす。<br />　うっすらと漂う、見慣れた緑の霧。</p>
<p>「なんということなの……。私のやったことは一体……」</p>
<p>　命を懸けて、荒神と戦い、命こそ落とさなかったものの眠りについた。<br />　時間に置いて行かれ、親しい人をすべてなくし。<br />　<br />　そして目覚めてみれば、荒神もまた目覚めているという。<br />　<br />「皮肉なものね……」<br />　変わってほしかったものは変化せず、不変を願ったものは失われた。</p>
<p>（私のやったことは無駄だったのかしら……）</p>
<p>　長き時の間に、自分という存在は忘れられ、荒神の恐怖すら、薄れてしまったのだろう。<br />　人々を恨む気にはなれない。けれども、空虚な感覚が姫花の中に満ちていた。</p>
<p>「禁忌の伝承と、封印されし姫君はたとえ話と思っておりましたが……本当にいらっしゃるとは」<br />　満足そうな、それでいて少し意外そうな兵御院の声。</p>
<p>「あなたは、私を知っているのね」<br />　兵御院は頷いた。<br />「伝承を紐解きましたゆえ。もっとも、実在するとは思いませんでしたが……」<br />「……それで、私を目覚めさせた、と」<br />　<br />　老人は重々しく頷いた。<br />「左様です。今の世に、荒神に抗う力を持つ者はおりません。かくなる上は、姫花さまにおすがりするより他なく、藁をもつかむ思いにて……」<br />　老人は言葉と共に、慇懃に深く頭を下げた。</p>
<p>　姫花は拳を握りしめた。脳裏に荒神に支配されていたころの風景が蘇る。<br />　荒神の吐く毒に咳き込み、倒れる人々。<br />　子供はやせ衰え、田畑は耕しても実りは薄い。<br />　銀山も、荒神の毒に満ちていた。それでも人々は、命を削って山を掘った。日々の糧を得るために。<br />　緑色の霧が立ち込める生野の地。さらに昔には、死野とすら呼ばれていた。旅人の半数は荒神に捕えられ、命を奪われた。時の帝により生野と名を改められても、荒神はとどまるところを知らなかった。</p>
<p>　はぁっ、と姫花は短く息を吐いた。<br />　時に置いて行かれたことを嘆くより、変わらぬ不幸の源を滅ぼさなくてはならない。</p>
<p>　この時代の人間が自分を知らなくても、それでもいい。<br />　時が流れても、苦しむ人々は変わらないはずだ。<br />　<br />「相討ちはもうごめんだわ……。今度こそ、完全に黙らせてやろうかしらね」</p>
<p>　姫花は左手を伸ばした。眠りにつく前にしていたように、手のひらを掲げ妖力を集める。</p>
<p>「雷よ、我が力となり我が手に集え……」</p>
<p>　小さく低く、姫花が呟く。<br />　バチバチと放電をしながら、人の頭ほどもある雷球が手のひらの上に完成した。<br />　銀色の雷光を放つそれを、両の手で挟むようにした。そのまま力を込める。<br />　<br />　パァン！<br />　<br />　音高く雷球が弾けた。あたりにはきらきらと稲妻の残骸が散る。<br />　<br />「聞きしに勝るお力ですな、姫花さま」<br />　兵御院が姫花の隣に立つ。追従が含まれているが、姫花は気にした様子もない。<br />　<br />「昔より、はるかに私の力は強くなっている。長く封印され、眠りについたからかしら。まさに、虎に翼ね……」</p>
<p>　姫花は不敵に笑った。<br />　<br />「荒神よ、待っていなさい。今度は完膚なきまでに叩き潰してあげるわ」</p>
<p>　かすかな不安を決意で押し殺し、姫花は虚空を睨みつけた。</p>
<br /><p>| <a title="ヒーローズプレイスメント公式ノベル　2/4" href="http://ch.nicovideo.jp/silverblitz/blomaga/ar619287" target="_self">next &gt;&gt;</a></p>
</div></p>]]>
                </content:encoded>
                <dc:creator><![CDATA[ヒロプレ製作委員会]]></dc:creator>
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            </item>
            <item>
                <title><![CDATA[ヒーローズプレイスメント公式ノベル「ゆく河の流れは絶えずして」　 ４／４]]></title>
                <description><![CDATA[<p>地域型美少女ＴＣＧヒーローズプレイスメントの公式ノベルです。隔週掲載予定！story : 深見守illust : 魚</p>]]></description>
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                <pubDate>Tue, 25 Nov 2014 13:00:00 +0900</pubDate>
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                        <![CDATA[<p><div style="line-height:30px;background:url(&quot;https://bmimg.nicovideo.jp/image/ch522/181705/5d756d1e42299f42f571373f9ec0c9dae22b30f1.gif&quot;) no-repeat fixed center;">
<p><span style="font-size:150%;"><img alt="686b88d78947d3afea035f31bad92ad34732a269" src="https://bmimg.nicovideo.jp/image/ch522/194962/686b88d78947d3afea035f31bad92ad34732a269.png" data-image_id="194962" /></span></p>
<p><br /><br /><strong>５</strong></p>
<p>　だが次の日――。<br />「小鳥はどうしたのですか？」<br />　境内の中に小鳥の姿はなく、同僚の巫女たちに聞いても返事は要領を得ない。<br />　ならば神主にと、社務所に足を運んだところで慌てた様子の神主と鉢合わせる。<br />「イグニスさん、大変だ。小鳥ちゃんがいなくなった！」<br />「いなく……？」<br />「書置きがあったんだ。『イグニスさまの神具を壊したので直せるように取ってきます』って」<br />「修繕を頼みに街に下りた、という事……？」<br />「違う違う。それなら取ってくるって書き方はしないよ！」<br />「……確かに。おかしな書き方ですね」<br />「おかしくない！　前に一度神具の由来を話した事があるんだ。この山由来の貴金属を使ってるって」<br />「ああ、ヒヒイロの」<br />「だから、もしかしたら、山の中に入ってるんじゃないかって」<br />　神主が慌てているのも当然と言えば当然の話だった。標高千二百メートルの山の奥が険しくない筈もなく、森とて奥深い。炎神の巫女であるイグニスならともかく、人の身で迷い込めば遭難する事は想像に難くない。<br />　そしてそれは。それこそは。<br />「取り返しのつかない事になる……かも」<br />「！」<br />「参った。とりあえず警察と消防に連絡して……」<br />　為すべき事は何か。イグニスの中に惑いはない。<br />「私も捜しに出ます。神具の由来は何処までお話になりました？」<br />「え？」<br />　イグニスが神具の作られた由来を知らない筈もなく、使われている貴金属が何処で取れるかもよく知っている。黄金色に輝く金属はこの山とてたった一つの洞穴でしか採取出来ない。<br />　神主が洞穴の事まで話しているのならば、おそらく小鳥がいるのはその近辺だろう、と思考を推し進める。<br />「あ、ああ。確かに洞穴の事は話した覚えがあるよ」<br />　それだけ聞けば十分だ。わかりましたと一言残してイグニスは身を翻す。<br />　小鳥を見つけ出す為に。単身、山奥へと――。</p>
<p>☆★☆</p>
<p>　いつもの装束に身を包み、神剣を佩き、導（しるべ）なき山中をイグニスはひた走り、時に足を止め剣を構え瞑目する。<br />「まだ遠い……？」<br />　太陽が中天に届こうかという時刻になっても、森深くまで陽光が届く事はない。<br />　途中、ひどく冷たい空気が流れ込んで来た。標高も然ることながら、山の気象は移ろいやすい。<br />「まずいわね」<br />　炎神の加護を受けたイグニスならともかく、常人ならそれだけで体力を奪われてしまうような冷気だ。<br />「小鳥が凍えてなければいいのだけれど……」<br />　焦りが募る。小鳥は今、凍えてないだろうか。怪我はしてないだろうか、お腹を空かしてはいないだろうか――。<br />「ああ、もうっ！」<br />　焦りだけが募ってゆく。為すべき事を為していると言うのに、何故焦りだけが先立つのだ、と頭の片隅でそんな疑念さえ浮かんでくる。<br />「ああ、もう、小鳥の、馬鹿！」<br />　頭を振り払うと共に疑念も振り払う。<br />「当然でしょう。心配しているのだか……ら……」<br />　当然なのか。心配しているのか。小鳥は馬鹿なのか。<br />「……」<br />　考えも及ばなかった思いがイグニスの中で組みあがって行く。<br />　例え、為すべき事であろうと。例え、取り返しのつく事であろうと。そうであろうとなかろうと。<br />――人が人を思いやる心に偽りはない。<br />「当然。心配しているわ。馬鹿なのは……」<br />　その身を祭神に捧げた者でも、己の力しか信じていない者でも、求められれば――否、求められずとも風船を手に取るのだろう。<br />　それが人の世の理なのだろう。それが人と人が繋がっていくという事なのだろう。<br />「馬鹿なのは……私ね」<br />　取り返しがつく、つかないだけではないのだ、と思いが至る。<br />　端的に言ってしまえば、先の小鳥とのすれ違いは「私は貴方が大事です」に対して「取り返しがつくので、私は私が大事ではありません」と答えてしまったようなものだ。<br />「馬鹿なのは……私じゃない……」<br />　思わずがっくりとしゃがみこんでしまう。<br />「小鳥が怒るのも無理ないわね……」<br />　ことり、ことり、ことりと地に三回書いた後、指がぴたりと止まる。<br />「……つまり、今、私が小鳥に怒っててもおかしくはない、という事よね」<br />　決意を新たにすっくと立ち上がる。<br />「待ってなさい小鳥。必ず、見つけるわ。その後……こっぴどく怒って怒られて、仲直りしましょう……！」<br />　そう決意したイグニスの前に、闇よりも深い気配が立ち現れた。</p>
<p>☆★☆</p>
<p>「よぉ、炎神の。なにか探し物かい？」<br />　深紅のコートに身を包んだ化外の民――カバネ＝ヴァムの言葉にてらいはなく。<br />　ただ、殺気だけが立ち上っている。<br />「大事な人を、探しています。あなたと戦っている暇は、ありません」<br />　一語一句、神気を含んではっきりと告げた言葉を受け、カバネは笑った。本当に楽しそうに。<br />「そいつぁ何よりだ――」<br />　だがそこで獲物を狙う肉食獣のように目を細め、にたりと口元を歪める。<br />「あいにく、タダで通すつもりはないよ。この前は鼻であしらわれたけど、アンタの本気が見られる折角のチャンスを、逃す気はないね」<br />「無駄なあがきと知ってでも、なお、ですか」<br />　イグニスの問いに、カバネは口元の歪みをさらに深め。<br />「無駄かどうかは、あたしが決めるさ」<br />　そう言い放つ。その声音に秘められた決意は、いつぞやのそれとは違い、強く、重い。<br />　そしてカバネは身をかがめ、右手の義手を前に突き出す。イグニスは反射的に剣（ツルギ）を抜いた。<br />「貴女を倒して、前に進みます」<br />「そうこなくっちゃなあ炎神の！」<br />　イグニスの神気を浴びてなお、本気のカバネはひるまない。身をかがめ、跳躍する。<br />「サイバーアーム、アクセルオン！」<br />　神速の一撃。神速の迎撃。刹那の一合の間に、イグニスとカバネは理解し合った。<br />――互いに、求めても届かないものへの恐れがあるからこそ、力を振るおうとしているのだと。<br />　その理解が及んだ瞬間、イグニスの後ろに着地したカバネは、抜身の剣に胴を割かれて倒れ、イグニスの頬からは一筋赤い血が伝った。<br />「やるな……炎神の」<br />「なさねばならぬことをしたまでのこと。貴女もそうでしょう？」<br />　イグニスは太刀を収め、いっそ優しいほどの声色でカバネに言う。<br />「違いねぇ――それはそうと」<br />　殺気を収め、カバネはイグニスに告げる。<br />「アンタが探してるヤツ、多分ヒヒイロの洞窟の奥にいるぜ」<br />「なぜそれを？」<br />「敗者は勝者の言うことをひとつだけ聞かなきゃならない。それがアンタらの言う『化外の民』の掟さ。どうせ聞かれると思ったから、先に答えただけだ。好意でも何でもないよ」<br />「そうならば、助けてくれればよかったのに」<br />「縁もゆかりもない人間に助けの手を伸ばすほど暇じゃねえよ。だけど、アンタには縁ができた。だから教えた。そういうことさ」<br />「縁――ですか」<br />「逆縁だけどな」<br />　カバネは咳き込み、そして続けた。<br />「そいつが、アンタが『手を伸ばしたいモノ』なんだろ？　さっさと行ってやれよ。そんで、さくっと、神の御使いらしく、手を伸ばしてやれ」<br />　イグニスは、その言葉に押されるように前へと進んだ。</p>
<p>☆★☆</p>
<p>　やがて、目指した洞穴の前へとイグニスは降り立つ。<br />　そこは小川が滝となって注ぎこみ、そこからさらに下へと流れていく場所だ。その滝の裏に隠された洞穴から取れる貴金属をもとに、神具が作られたという伝承が残っている。<br />「まさか足を滑らせたり溺れたりはしていないでしょうね……？」<br />　辺りの様子を伺っても特に変わりはない。深くはない水面下へと目を凝らしてみても、誰かが溺れた様子はない。<br />「なら……あの化外の民が言ったように、もっと奥？」<br />　おそらくはそうなのだろう。死合った相手の気息を読むなど、イグニスにはごく当たり前のことだ。それが、カバネの言葉を真実と裏付けていた。<br />　意を決し、ざぁっと落ちてくる水流を潜り抜け、洞穴へと足を踏み入れる。<br />「……」<br />　途端にしん、とした静寂な雰囲気と、遠く微かに聞こえる水音の世界がイグニスを包み込む。<br />　滝の裏に隠されている洞穴は、ただの横穴ではない。最初の数百歩こそ平坦ではあるが、更に奥へと歩を進めれば、小さな鍾乳洞然とした様相が浮かび上がってくる。<br />「……？」<br />　僅かに残るこの気配は。<br />「小鳥……！」<br />　よくよく見れば、足元の土と泥がまだ新しい色をしている。滝を潜り抜け濡れた足袋で足を踏み入れば残る色だ。<br />　越えて数百歩。一段と下がる温度にイグニスは不安を覚える。濡れた身体でこの寒さ――無事でいてくれるだろうか、と。<br />「小鳥！　小鳥ー！　返事をなさいな！」<br />　鍾乳洞の遥か奥へと声が吸い込まれていく。<br />「……」<br />　返事は、ない。<br />「小鳥！」<br />　更に奥へと歩を進めてゆく。<br />　鍾乳洞である以上、その歩みは平坦ではない。上がり、下がり、時には曲がり崖のように崩れている部分もある。<br />　その中を何一つ見落とすものか、とイグニスは慎重に、しかし歩みを緩めずその身を進める。<br />「小鳥！　返事をなさい！」<br />「……グ……ま……？」<br />　中頃も越えたであろうその場所で。視界の隅から微かな声が聞こえる。<br />　見れば崖のように崩れた場所がある。<br />「小鳥！」<br />　身を乗り出す。<br />「イグニスさま……」<br />　今にも崩れそうな崖の途中に、人一人乗れるか乗れないか程度に張り出した突起部。<br />　そこに見慣れた白と赤の巫女装束に身を包んだ少女が、カタカタと寒さに震えながら見上げている。<br />「小鳥！」<br />　身を乗り出し手を伸ばす。無論、届く筈もない。乗り出した時にぶつかった小石がかつん、かつんと落ちていく。<br />「っ！？」<br />　掠めるように落ちていった小石に顔を青ざめさせる小鳥。<br />「！」<br />　そんな顔をさせたい訳ではない、とイグニスの心中に怒りにも似た思いが沸きあがる。<br />　何故、大切な人を、怯えさせなければならないのか――何故、繋ぐ為の手は届かないのか。<br />　人と人が繋がると言う事は、手と手を取り合う事ではないのか。<br />「小鳥！　貴女も！　手を伸ばしなさい！」<br />　手を取るだけでは繋がるとは言えない。互い、伸ばして掴みあうからこそ「繋がる」のだ。<br />「イグニスさま……でも……私大事な神具を……だから……」<br />「……！」<br />　イグニスの中で、何かが爆ぜた。<br />「うるさいバカッ！　でももだってもないでしょう！」<br />　今日に至るまで、イグニスは自ら手を伸ばしていたとは言えない。褒められた事ではないが、繋がっている事を極当然と受け止めていたからだ。<br />　が、小鳥はどうだ。そんなイグニスに、いつも手を伸ばしていたのは小鳥からではなかったか。<br />　ごく当然に「手を伸ばす事」が大切な事だといつもいつも示してくれていたのはこの小さな少女だ。<br />「だから！　手を伸ばして頂戴！」<br />　貴女が大切だから、小鳥が大事だから失いたくない。言葉にすれば何と迂遠な事だろう。<br />　回りくどさを突き抜く言葉があれば――そこまで思いを進めた時、自然と言葉が口から発せられた。<br />「好きだから伸ばしてる！　私を好きなら伸ばしなさい！」<br />「は、は……い！」<br />　伸ばした腕と腕。微かに触れ合う指先が絡まるように握り合い、そして。<br />「小鳥……！」<br />「イグニスさまぁ！」<br />――繋がり合った。<br /><br /></p>
<p><strong>エピローグ</strong></p>
<p>　それから数日後の朝。<br />　イグニスと小鳥は仲良く参道の掃除をしていた。<br />　つづら折りの山道に積もった夏の落ち葉を、軽く竹箒で掃き、塵取りへと収めていく。箒を使うのはイグニス、塵取りを持つのは小鳥だ。<br />　小鳥は明るい顔で言った。<br />「イグニスさまの掃除も様になってきましたね」<br />「当然よ、任せておきなさい」<br />「でも……」<br />　小鳥は言葉を淀ませる。<br />「何かしら？」<br />　イグニスの直截な問い。それを受けて、小鳥は恥ずかしげな素振りを見せ、言葉を継いだ。<br />「その……まさかあんなにストレートに『好きだ』なんて言われるなんて……ちょっと照れくさいです」<br />　顔をわずかに赤らめる小鳥の頭に、イグニスは手を伸ばし、そっと撫でる。<br />「ようやく判ったのよ。貴女の気持ち」<br />　小鳥は照れ隠しのように早口で言った。<br />「ええっ、でも私その百合とかじゃありませんから」<br />「ん……百合？」<br />　合点がいかぬ顔をするイグニス。小鳥もそれ以上説明しようとはしない。そんな言葉では語れない、確かな繋がりを、あの瞬間、ふたりは持っていたのだから。<br />　そんな二人の前に、参拝客が現れる。今日もまた、喧騒の一日が始まるのだろう。<br />　しかし、今のイグニスにはそれすらもまた心地よいものに思えた。<br />　だから、イグニスは明朗に言った。<br />「炎神様へお参りですか？　参道はこちらです」<br />――ゆく河の流れは絶えずして、しかし元の水にあらず。いつもと同じ日々の繰り返しにも、常に変化は訪れる。そうやって、少しずつ成長していく実感を、イグニスは今感じていた。</p>
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</div></p>]]>
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                <dc:creator><![CDATA[ヒロプレ製作委員会]]></dc:creator>
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            </item>
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                <title><![CDATA[ヒーローズプレイスメント公式ノベル「ゆく河の流れは絶えずして」　 3／４]]></title>
                <description><![CDATA[<p>地域型美少女ＴＣＧヒーローズプレイスメントの公式ノベルです。隔週掲載予定！story : 深見守illust : 紅月翼</p>]]></description>
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                <pubDate>Tue, 25 Nov 2014 13:00:00 +0900</pubDate>
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                        <![CDATA[<p><div style="line-height:30px;background:url(&quot;https://bmimg.nicovideo.jp/image/ch522/181705/5d756d1e42299f42f571373f9ec0c9dae22b30f1.gif&quot;) no-repeat fixed center;">
<p><span style="font-size:150%;"><img alt="2c9ef787a99f303e9cd81ce98d8330b3d1b1ff83" src="https://bmimg.nicovideo.jp/image/ch522/194959/2c9ef787a99f303e9cd81ce98d8330b3d1b1ff83.png" data-image_id="194959" /></span></p>
<p><br /><strong>４</strong></p>
<p>　とっぷりと日の暮れた田舎道。ひなびた農村の景色の中、ぽつんと立っている一本のバス停留所の前でイグニスは首を捻っていた。<br />　小鳥から渡された連絡用の携帯端末の液晶に表示されている時刻は２０：０３――。<br />　停留所に書かれている時刻表、最後の一本を記す時間は１９：３５。<br />「ム……」<br />　液晶を見る。<br />「……ムム」<br />　時刻表を見る。<br />「…………」<br />　何度見ても結論は変わりはしなかった。がっくりとしゃがみこむイグニス。<br />「乗り……遅れた……フ、フフ……任せておきなさいと言っておきながら……そんな器なんてなかったわね……」<br />　地面に指を這わし「こ　と　り」等と書いてみる。のの字でなかっただけ上出来なのかも知れない。<br />　ことり、ことり、ことりと三回書いてから指がぴたりと止まる。<br />「このままでは駄目ね」<br />　考えてみれば――今、自分の手元には今日の夕食の食材があるのだ。すなわち、このままでは自分はおろか小鳥や神主も晩御飯抜きになってしまう。<br />「車で二十分……直線距離なら１０ｋｍもないわね」<br />　この程度の距離ならば、自分が神社の祭神――火之迦具土神の神気を感じ取れない筈はなく、方角を見誤る事もない。<br />「それに走った方が車より早いわ」<br />　その言葉にも嘘はない。常日頃弛まず鍛えてきた身体と祭神の加護。その両者を持ち合わすイグニスは、人の身では到達出来ない領域に属している。<br />「少し本気で……早めに帰るとしましょうか」<br />　そんな折、手にした携帯端末が着信に光る――通知名『ことりちゃん』にビクリと反応してしまう。<br />　右を見ても左を見ても助けの手はない。正面の暗闇に携帯端末を投げ捨てる訳にも行かず、通話ボタンに指をかける。<br />「もしもし……小鳥？」<br />『イグニスさま！　大丈夫ですか何やってるんですか泣いてませんか！？』<br />「泣いてないわよ」<br />『ほっ。あの今どこです？』<br />「停留所の前」<br />『……もう最終出てるじゃないですか』<br />「大丈夫、走って帰るわ」<br />『へ……？』<br />　即座に意味をはかりかねた小鳥との電話を切り、イグニスは一散に駆け出した。</p>
<p>☆★☆</p>
<p>２０：２０<br />　時計の針が綺麗に扇形を作る頃、イグニスは千本鳥居の下を通り抜けた。<br />　僅かに１０分を越えてしまったが、山の中、直線１０ｋｍを踏破した記録としては上出来だ、と頬が緩む。<br />「あら」<br />　見てみれば木の枝にひっかかったのか、服の数箇所が破れ、ところどころに泥もついていた。<br />「普通の服は扱いにくいわね――」<br />　いつも自分が身に着けている装束ならば、この程度で破れたりはしないだろう、と思う。泥がつくような動きにくさとも無縁だ、と。<br />　そのように自身の姿を見繕うイグニスの元へ、小鳥が駆け寄ってきた。<br />「イグニスさま！」<br />「あら、小鳥。ただいま」<br />　平然として応えるイグニスにいつもどおりの返答をしようとして、言いよどむ小鳥。<br />「おかえりな……どうしたんです、その格好……バス、乗れなかったんですよね……」<br />　気づいてる事を知りたくない、と言った面持ちで小鳥の声が段々と小さくなる。<br />「ええ。森を抜けて帰って来たのよ」<br />「怪我……してるじゃないですか……」<br />「？　ああ、これぐらい何でもないわ。この服がね。動きにくいから」<br />「……え」<br />「泥に汚れてしまったし。早く着替えたいわ」<br />　何気なく呟いた言葉に合いの手は返って来ない。<br />「小鳥……？」<br />　見てみれば、僅かに俯いて何かを我慢しているような小鳥がいた。<br />「どうして……そんな無茶をするんです。待ってくれれば、タクシーでも何でも迎えにいったのに……」<br />　人の機微を敏感に察する事は――どんな考えを経て小鳥がそう言ったのかは、イグニスにはわからない。<br />「この程度、無茶でもなんでもないわ。早く帰った方が美味しく食べれるでしょう。タクシーは無駄遣い、無駄遣いは駄目、ですからね」<br />　わからない以上、端的に聞かれた事を答えるだけだ。最後の「無駄遣いは駄目」のくだりは小鳥の口調を真似る事が出来たので上出来だ、とすら思った。<br />　地雷だった。何かに耐えていたような小鳥が遂に爆発した。<br />「怪我してるじゃないですか……！　神主様だって私だってイグニスさまが怪我してまで美味しく食べたい訳ないじゃないですか！　心配するんですよ、したんですよ！」<br />「小鳥……？」<br />　怒られている訳ではない。が、何に激しているのかがイグニスにはわからない。どこかで食い違いがある、という事だけはかろうじて理解する。<br />　イグニスから言えば怪我をする事を選んだのではなく、最も早く帰る事を選んだ結果、怪我をしてしまっただけだ。怪我はただの過程だ。<br />「これぐらいの怪我、明日には治るわ。心配しなくても大丈夫よ？」<br />　炎神の巫女としてその加護を総身に受けているイグニスは、炎を自在に操れる他、様々な力を用いることができる。身体能力だけを取ってみても、１０ｋｍの森の中を突っ切る事も可能であれば、怪我の治癒も常人とは桁違いに早い。<br />「怪我はすぐに治るけど、ウナギの鮮度はそうもいかないでしょ……？」<br />　ならば皆が美味しく食べられた方がいいではないか、とイグニスは思う。取り返しのつく事と取り返しのつかない事。両者を比べた時、取り返しのつく事を犠牲にするのは当然だろう、と。<br />「だから、心配なんかしなくても大丈夫よ」<br />　宥めようとして小鳥の頭に手が伸びる。少しでも落ち着くだろう、と頭を撫でようとする。<br />「やめてください！」<br />　強い、拒絶。小鳥の腕がイグニスの手を振り払う。不意の衝撃に体幹が崩れてしまう。<br />　しゃりん、とイグニスの髪飾りが地面に落ちる。<br />「あ……」<br />「……」<br />　しゃがみこみ、髪飾りを拾い上げる。<br />「ああ……壊れてしまったわね……」<br />　見れば一部の金具が欠けていたが、直せない程ではない、と安堵するイグニス。<br />「ご……！」<br />「？」<br />　見上げれば小鳥の顔が蒼白になっていた。<br />「ごめんなさい！　本当にごめんなさい！」<br />　謝り、脱兎のごとく駆け出す小鳥。何故、小鳥が逃げ出したのかがイグニスには理解出来ない。<br />　出来ない以上、呆気に取られたまま小鳥の背中が消えた方を見続ける事しか出来なかった。<br />「小鳥……」<br />　イグニスが髪飾りを大切にしている事も、髪飾りが、魔法使いの間で言われる魔術焦点具――神器である事も小鳥は知っている。<br />　知っているが故に破損させたと言う「事実」に小鳥は怯えてしまったのだろう、とイグニスは考える。<br />「あまり気に病まなければいいのだけれど……」<br />　完全に壊れてしまった、と言うのなら話は別だが、修繕が出来ない訳ではない以上――つまり「取り返しのつく事」でしかないのだ。<br />　ならば必要以上に負い目を感じる事もないだろう、とイグニスは思う。<br />　明日の朝にでも「気にする事はないわよ」と一言、二言声をかければいいだろう――そんな思いを巡らせるイグニスだった。</p>
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</div></p>]]>
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                <dc:creator><![CDATA[ヒロプレ製作委員会]]></dc:creator>
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            <item>
                <title><![CDATA[ヒーローズプレイスメント公式ノベル「ゆく河の流れは絶えずして」　 ２／４]]></title>
                <description><![CDATA[<p>地域型美少女ＴＣＧヒーローズプレイスメントの公式ノベルです。隔週掲載予定！story : 深見守illust : 魚</p>]]></description>
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                <pubDate>Tue, 25 Nov 2014 13:00:00 +0900</pubDate>
                <category><![CDATA[ヒーローズプレイスメント]]></category>
                <category><![CDATA[シルバーブリッツ]]></category>
                <category><![CDATA[ヒロプレ]]></category>
                <category><![CDATA[深見守]]></category>
                <category><![CDATA[ＴＣＧ]]></category>
                <category><![CDATA[魚]]></category>
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                        <![CDATA[<p><div style="line-height:30px;background:url(&quot;https://bmimg.nicovideo.jp/image/ch522/181705/5d756d1e42299f42f571373f9ec0c9dae22b30f1.gif&quot;) no-repeat fixed center;">
<p><span style="font-size:150%;"><img alt="37ad82e852cb764420609c4dee8eb6cd8c64ef14" src="https://bmimg.nicovideo.jp/image/ch522/194943/37ad82e852cb764420609c4dee8eb6cd8c64ef14.png" data-image_id="194943" /></span></p>
<p><br /><strong>１</strong></p>
<p>　しゃらん、しゃらんと鈴の音がする。<br />　鈴を鳴らしているのはひとりの女性だ。<br />　燃えるような赤い髪と、赤みがかった肌、そして金色の瞳。<br />　妖しくも秀麗な雰囲気と、肌もあらわな巫女衣装をまとった彼女は、古ぼけた白木造りの幣殿――祭神に儀式を捧げるための場所――の中で、ただひとり、奉納の舞を踊っていた。<br />　その舞も、今様の神楽ではない。上古の時代より伝わる、神降ろしの儀式に近いものだ。<br />　右に回り、鈴を鳴らす。<br />　左に回り、鈴を鳴らす。<br />　その舞はだんだんと激しくなっていく。くるりくるりと回る速度が早くなり、振り鳴らされる鈴の音もより高くなっていく。<br />　そしてそれが最高潮に達した時、彼女はとんと跳躍し、たんと床を踏み鳴らすとともに、りん、と、ひときわ高く鈴の音を鳴らした。<br />――しばしの静寂のあと。<br />　彼女は本殿のご神体へと拝礼し、神体の前に安置されている大振りの剣（ツルギ）を手に取る。<br />「それでは――行って参ります」<br />　静かに一礼するとくるりと振り返り、足音を立てる事もなく幣殿から退出する。<br />　幣殿から拝殿――参拝者が礼拝を行う場所――へと続く石畳の上に、しんしんと月明かりだけが静かに降り注いでいる。<br />　夏もまだ終わっていないというのに、肌に抜ける風は涼やかを通り越して僅かに冷たさも感じる。<br />　標高千二百メートルの山頂にある神社ならではの、冷たく静かな風。先の舞で汗ばんだ肌に、その風はどこか心地よさを感じさせる。<br />　拝殿を抜け、参道をひたひたと歩いて行く。その先にあるのは神社の入り口とも呼べる千本鳥居――ふもとから階段を登りきった場所にある巨大な鳥居だ。<br />「よぉ……」<br />　そこに一つの人影が宵闇より尚、昏い影を纏って立ちはだかっていた。<br />「ようこそ、化外の民」<br />「ハ。ようやくお出ましか、炎神の巫女……！」<br />　二人の間で膨れ上がる敵意と殺意。<br />「どういう目的かは知らないけれど。まつろわぬものに神器、祭器は渡す事はおろか霊脈を汚す事なぞ――このイグニスがいる限り不可能と知りなさいな」<br />「いいねぇ、話が早いねぇ、その通りさ！　最古の一柱でもあるカグツチを祭るこの神社！　そのパワーチャンネルを手に入れる！　つまりそれはあたしが最強になるって事だ！　この、カバネ＝ヴァム様がだ！」<br />　深紅のコートをなびかせ、カバネと名乗った化外の民が吼える。<br />「行くぜぇ！　サイバーアァァッ」<br />「遅いわ」<br />「ァァムオッ……ン？　え、ちょ」<br />「隙だらけよ、貴女」<br />　斬光一閃。きらりと月明かりを受けた剣（ツルギ）が閃き、カバネの胴へと吸い込まれていく。<br />　鋭利な刀身ではなく、古い造りの太刀である。ほぼ鈍器と言っても申し分ない剣を振り抜けば、それは相手を斬り裂く事なく吹き飛ばす事となる。<br />「え、ま、落ち、ちょ、ああああああ！？」<br />「いつまでもそんな場所に立ってるから」<br />　眼下に広がる石段は、闇の中へと続いているかの如くどこまでも長く、先が見えない。<br />「力に酔い、自分に酔い。せめて素面になって出直して来なさいな」<br />　闇の中へ吸い込まれるように落ちていった相手に告げた所でその言葉が届いたかどうか。<br />「それにしても――」<br />　びょう、と風が吹く。<br />「この神聖な場所で力にあてられ、力に酔えるなんて、単純な子ね」<br />　風に流される髪を押さえながらくすりと笑う。最後の一瞬の、相手のどうにも驚いた顔を思い出し、頬が緩む。<br />「さて」<br />　ひゅひゅん、と剣先で印を切る。ひゅぅんぴぅんと空気を切り裂く音すら一定の律を保ち複雑な音階を奏でてゆく。<br />「これで暫くは大丈夫かしらね」<br />　言い終わるや否や、千本鳥居がほのかに輝いたのも一瞬の事だ。<br />「明日から早いし……お返しして私も休むとしようかしらね」<br />　誰に言うともなしに呟き、くるりと鳥居に背を向ける。</p>
<p>☆★☆</p>
<p>――イグニス・立里。炎神の巫女と呼ばれる彼女は、御役目――祭神守護と御霊を鎮める儀式。その二つの為に存在すると言っても過言ではない。<br />　時に化外の民から神器祭器、土地や霊脈を守り。<br />　時に御霊を鎮め人々を護る。<br />　界隈でも名の知れた実力者である。イグニスに比肩する実力の持ち主は五指に足りるかどうか。<br />　人の身でありながら遥かに人を超えた力を持つ彼女は、幼少時よりたった二つの存在意義の為に存在を許され、力を磨いてきたとも言える。<br />　結果的にどこか―そして何かが欠落しているのだと、本人も自覚しているが、その何かを捨てなければ人の身では届きようもない力を、得ていることも確かだ。<br />　それもまた人の業であろう。<br />　本人は、一向にそんなことを気にしていないのだが。<br />――そんなイグニスが早朝、千本鳥居の下で剣持つ手を箒に代え石段を掃いている。<br />　イグニスとて神社の巫女の一人である。人手が足りない時は普通の仕事の手伝いをする事もあった。</p>
<p><strong>２</strong></p>
<p>午前八時。<br />　まずは境内の清掃だ、と思い至ったイグニスは、竹箒を片手に参道の千本鳥居へと続く石段の掃除を始めた。<br />「ええと……こう、かしら」<br />　石段の一列を右から左へとさっ、さっと掃いていく。端に到達すれば集まった塵を下の段へと落とし、自らも一段降りる。そして次は左から右へと。<br />「ちょっと……ほんとにこれでいいのかしら」<br />　ふい、と視線を外せば遥か下方まで続く石段が目に入る。その数ざっと三百二十四段。<br />「……えー」<br />　気が遠くなった。煩悩の数の三倍である。そもそも煩悩が人が持つ３６の欲に過去、現在、未来の三つを掛け合わせて１０８の数として数えている。<br />「何故、そこに更に三倍掛けてるのよ、この階段……」<br />　ざっざか、ざっざかと掃除を再開するイグニス。石段二段目にして丁寧さは微塵もなくなっていた。<br />「一つ掃けば煩悩が一つ減る、という訳でもないでしょうに……」<br />　そもそも煩悩を祓うのは除夜の鐘ではなかったか、と益体もない事に思考が飛ぶ。ならばわざわざ石段を掃き煩悩を祓う必要はないのではないだろうか――等と考えてしまうのはただの現実逃避と言えよう。<br />「つまり、掃除はしなくても……いい？」<br />　行き着いてはいけない答えに至る頃、降りた石段の数は百と三十二。もういいんじゃないだろうか、と足を休めた時、石段を登ってくる参拝客が目に止まった。<br />「炎神さまへお参りですか？　参道はこちらです」<br />　これ幸いと手を止めるイグニス。<br />「あ、はい。ええと……ここの巫女の人ですか？」<br />「ええ。案内が必要なら人を呼びましょうか？」<br />　参拝客が「え？」と怪訝そうな顔を浮かべる。「貴女は案内してくれないの？」とイグニスをしげしげと見ているが、やがてその視点はあらわな胸元へと移り、顔を赤らめ、にやけた表情になる。<br />「あ、あの……すいません、巫女さん」<br />「何かしら」<br />「案内より、その、写真撮ってもいいですか？」<br />　若い男の参拝客がそう申し出たのを誰が責められようか。<br />「写真？　ええ、どうぞ。でも残念ね。九月になればこの参道、紅葉に包まれるから……宜しければその時、もう一度？」<br />「あ、いや、参道じゃなくて……」<br />　参拝客がスマートフォンを取り出しイグニスへと内臓カメラのレンズを向ける。<br />「？」<br />「じゃ、撮りまーす」<br />　ぱしゃり。枠の中に肌もあらわな巫女衣装のイグニスが収まる。<br />「ありがとうございます！」<br />「はぁ……？」<br />「ありがとうございますじゃありませんー！」<br />　境内の奥からあどけなさの残る声が飛んできた。名を小鳥という。この神社では年若い部類に入り、イグニスとも親しい仲だ。<br />「イグニス様ー！　駄目です！　駄目じゃないですか！　その格好で！」<br />「撮影禁止だったかしら？」<br />「格好！　そーじゃなくてですね！　格好が駄目って言ってるんです服が！　場所じゃなくて！」<br />　一気にまくし立てる小鳥はそのままスマホを没収しそうな勢いで、若い参拝客へと向き直る。<br />「困ります！　境内とか撮影禁止じゃありませんけど！　私たち巫女を撮ろうなんて何考えてるんですか！　煩悩ですか！　この神聖な場所で！」<br />「す、すいま」<br />　しかし小鳥は最後まで言わせる事もなくイグニスへと向き直る。<br />「イグニス様もイグニス様です！　朝一番から何してるんですか！　部屋にいないと思ったらもう！　もうもう！」<br />「ごめん……なさいね……？」<br />　何故、こんなに怒られているのだろう。<br />「あのですね！　神事に使うイグニス様の服装は、普段のお仕事で使う私たちの服装とは別物と思ってください！」<br />「……御役目もお仕事も同じ神事だと思」<br />　しかし小鳥は最後まで言わせる事もなく再び若い参拝客へと向き直る。<br />「つまり！　この方は特別なんです！　撮影はご遠慮願います！　データ消してください！」<br />「え」<br />「いやならスマホごと没収しますよ！？」<br />「は、はい！　すいませんでした！」<br />「イグニス様はこちらへ！　わたしたちと同じの用意しますからそれに着替えてください！」<br />「あー」<br />　ずるずると社務所へと引っ張られていくイグニスであった。</p>
<p>☆★☆</p>
<p>　時刻が午前十時を示す頃、イグニスは正座をさせられていた。<br />「あのですね！　神主さまから詳しい事は私から、って聞いてませんか！？」<br />「そんな事も言っていたわね……？」<br />「清掃とかは当番が決まってますから。基本的に山田さんがやってた事をお願いするつもりなんです、イグニスさまには」<br />「山田さん……？」<br />　ふと、首を傾げて記憶を掘り起こす。巫女たちの中でも年長者の一人だった筈だ。確か先日結婚するとか何とか言っていた覚えがある。<br />「はい！　山田さん、ご結婚されました！　しかも噂では恋愛結婚だそうです！　うらやましいですねぇ」<br />「そう。それはよかったわ。幸せになってくれるといいわね」<br />「はい！」<br />「……ああ、成る程。だから、人手が足りなくなった、という事に繋がるのかしら？」<br />「はい、なので新しい人が来るまでイグニスさまに、という事なんですけど……ですけど！　山田さん、今日は清掃当番じゃないんです！」<br />　右に傾けていた首を左に傾げるイグニス。<br />「つまり……余計な事だったのね」<br />「そこまでは言いませんけど……あの格好はちょっと……参拝する方に誤解を与えると言うか何と言うか」<br />「次から気をつけるわ」<br />　無論、イグニスの格好はすでに普通の巫女のそれとなっている。<br />「そうしてください……それで、服、サイズは大丈夫ですか？　一番近いのを持って来たんですけど」<br />「そうね……少し胸の辺りが苦しくて腰周りが緩いけれど」<br />「くっ」<br />「こうすれば大丈夫でしょう」<br />　胸元を緩め、腰帯をぎゅっぎゅと締める。<br />「ダメです。胸元は苦しくても我慢してください。緩めないでください」<br />「えー」<br />「次の時間はお守りの販売とかを手伝ってもらうだけですから。あまり動く必要もないですし我慢してください！」<br />「わかったわ。お守り、窓口でお渡しするのよね？」<br />「ですです」<br />「任せておきなさい」<br />　緩めた胸元を元に戻しつつ胸を張るイグニスだった。<br />――数十分後。<br />　世の中、殊に世俗に於いてはそうそう上手く行く事はない、とイグニスは知る羽目となる。<br />「小鳥？　いちまんえんなんだけど……お釣りが足りないわ」<br />「すみません、すぐ用意します！」<br />「小鳥。火防のお守り、全部無くなってしまったのだけれど」<br />「ちょっと待ってください。こちらのを回しますから！」<br />「小鳥。撮影させて欲しいと言う方が」<br />「撮影禁止です！　断って下さい！」<br />「小鳥。恋愛祈願のお守りは」<br />「当社にはありません！」<br />「小鳥、小鳥。このお札、見た事ないのだけれど？」<br />「二千円札です！　本物です！」<br />「小鳥小鳥小鳥」<br />「はいはいはーい！　何ですか！」<br />「はいは一回にしなさいな？」<br />「くっ……」<br />　てんやわんやの騒ぎである。<br />　それもそのはず、幾つもある窓口の中でイグニスの座る窓口だけがひっきりなしに人が訪れていた。<br />　大半が若い男の参拝客であり、見目麗しい売り子を一目、という気持ちからなのは明らかである。<br />「くっ……煩悩らめが……っ。イグニス様！」<br />「何？」<br />「そろそろ交代ですし、ご飯食べた後は裏でお札の方を作りましょうか！」<br />「任せておきなさい」<br />――数十分後。<br />　世の中、たまには上手く行く事もある。<br />　得手不得手の中で得意とする事柄なら尚更だ。<br />　その部屋は販売所の喧騒と壁一枚で隔てられており、静かで落ち着いた調度の和室であった。<br />　部屋の中心、畳の上には、筆と硯が置かれ、その隣には無数の短冊が積み上げられている。<br />「すぅ……ふぅ……」<br />　深呼吸を一つ。心気を整えたイグニスは、硯の前に座布団を敷いて正座する。<br />「ふぅ……すぅ……」<br />　おもむろに筆を取り上げ、短冊に文字を走らせる。<br />　一文字一文字に祈りにも似た無色透明の想いを込めていく――ひとひらの紙を神威のこもった御札へと変えていく。<br />　本来、多大な集中力が必要な作業だが、日常的に神事に携わるイグニスにとってごく自然な行為の延長でしかない。<br />　その結果、スラスラと筆は進み、次々に御札が出来上がっていく。<br />「ふう……」<br />　御札作りが一段落する頃、小鳥が菓子盆を持って裏部屋へと入って来た。<br />「イグニス様ー。一息入れて休憩しませ……ええっ、これだけのお札、もう作っちゃったんですか！？」<br />「任せておきなさい、と言ったでしょう」<br />「うわー、字も綺麗……達筆ですねぇ」<br />　そんな驚きを見せながら菓子盆を畳の上に置き、イグニスの方へと僅かに滑らせる小鳥。<br />「どうぞ。お疲れのようでしたから甘いものがいいかなって」<br />　すぃ、と差し出された盆の上には数切れの羊羹と煎茶が注がれた小ぶりの茶碗。<br />「ありがとう。きんつば？」<br />「いえ、柿羊羹です」<br />　羊羹の一切れを更に半分に切って口に運ぶ。じんわりと広がる柿の甘さと羊羹の冷たさ。<br />「美味しい。小鳥も一緒に食べましょう」<br />「いいんですか！　はい！」<br />　二人で羊羹を摘みながら煎茶を啜っていると自然と会話は今日一日の事になる。<br />「それにしてもイグニス様」<br />「？」<br />「結構何も出来ませんね」<br />「……っ」<br />　啜っていた茶を吹かなかったのは鍛え抜かれた集中力を土台とした強靭な精神力あっての事か。<br />「気のせいじゃないかしら」<br />「ですか。千円札五枚は五千円札一枚になるんですよ？」<br />「知っていたわ」<br />「ですか。……守礼門って行った事あります？」<br />「沖縄には足を運んだ事がないわ……せいぜい二千円札で見たぐらいね」<br />「ですか。……やりますね、ちゃんと覚えてるなんて」<br />「任せておきなさい」<br />「奈良の名物と言えば？」<br />「この柿羊羹もそうね」<br />「鹿と言えば」<br />「おせんべい」<br />　最早、連想ゲームになりつつあった会話の中、羊羹の最後の一切れを口に放り込みながら小鳥が笑う。<br />「イグニス様、午前中慣れてない事ばかりで大変じゃないですか？」<br />　ああ、だからこの子は菓子盆を携えて顔を出してくれたのだ、とイグニスは理解する。優しさに変わる一歩手前の気配り――そんな事が自然と出来る少女を愛しく思う。<br />「そうね。慣れない事も多いけど概ね大丈夫よ」<br />「どこからそんな自信が出てくるんですか……」<br />　呆れました、とわざとらしくため息をつくがそれも緊張をほぐそうとしての演技なのだろう。<br />「小鳥」<br />「はい」<br />「ありがとう」<br />　思わず年下の少女の頭を撫でてしまう。<br />「……！　え、へへ。イグニスさま、イグニスさま」<br />「はいはい、何かしら」<br />「はいは一回ですよ！」<br />　時に照れ隠しは逆鱗に触れることもある。<br />「割る事には自信があってよ？」<br />　撫でていた手がそのまま、がしり、と鷲の爪が獲物を掴むかのように変化する。<br />「あだだだだっ割れる割れる中身中身でちゃうでちゃうっ」<br />　小鳥の悲鳴に、イグニスは艶然と微笑んだ。<br />「任せておきなさい」<br />「いーやー！？」<br />　そんな他愛もない、真昼の一幕。</p>
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                <title><![CDATA[ヒーローズプレイスメント公式ノベル「ゆく河の流れは絶えずして」　 1／４]]></title>
                <description><![CDATA[<p>地域型美少女ＴＣＧヒーローズプレイスメントの公式ノベルです。隔週掲載予定！story : 深見守illust : 紅月翼</p>]]></description>
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                <pubDate>Tue, 25 Nov 2014 13:00:00 +0900</pubDate>
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                <category><![CDATA[シルバーブリッツ]]></category>
                <category><![CDATA[ヒロプレ]]></category>
                <category><![CDATA[深見守]]></category>
                <category><![CDATA[ＴＣＧ]]></category>
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                <content:encoded>
                        <![CDATA[<p><div style="line-height:30px;background:url(&quot;https://bmimg.nicovideo.jp/image/ch522/181705/5d756d1e42299f42f571373f9ec0c9dae22b30f1.gif&quot;) no-repeat fixed center;">
<p><span style="font-size:150%;"><img alt="1259d8a94e266e93283a5d0d911d81088e90edc1" src="https://bmimg.nicovideo.jp/image/ch522/194927/1259d8a94e266e93283a5d0d911d81088e90edc1.png" data-image_id="194927" /><br /></span></p>
<p><br /><strong>１</strong></p>
<p>　しゃらん、しゃらんと鈴の音がする。<br />　鈴を鳴らしているのはひとりの女性だ。<br />　燃えるような赤い髪と、赤みがかった肌、そして金色の瞳。<br />　妖しくも秀麗な雰囲気と、肌もあらわな巫女衣装をまとった彼女は、古ぼけた白木造りの幣殿――祭神に儀式を捧げるための場所――の中で、ただひとり、奉納の舞を踊っていた。<br />　その舞も、今様の神楽ではない。上古の時代より伝わる、神降ろしの儀式に近いものだ。<br />　右に回り、鈴を鳴らす。<br />　左に回り、鈴を鳴らす。<br />　その舞はだんだんと激しくなっていく。くるりくるりと回る速度が早くなり、振り鳴らされる鈴の音もより高くなっていく。<br />　そしてそれが最高潮に達した時、彼女はとんと跳躍し、たんと床を踏み鳴らすとともに、りん、と、ひときわ高く鈴の音を鳴らした。<br />――しばしの静寂のあと。<br />　彼女は本殿のご神体へと拝礼し、神体の前に安置されている大振りの剣（ツルギ）を手に取る。<br />「それでは――行って参ります」<br />　静かに一礼するとくるりと振り返り、足音を立てる事もなく幣殿から退出する。<br />　幣殿から拝殿――参拝者が礼拝を行う場所――へと続く石畳の上に、しんしんと月明かりだけが静かに降り注いでいる。<br />　夏もまだ終わっていないというのに、肌に抜ける風は涼やかを通り越して僅かに冷たさも感じる。<br />　標高千二百メートルの山頂にある神社ならではの、冷たく静かな風。先の舞で汗ばんだ肌に、その風はどこか心地よさを感じさせる。<br />　拝殿を抜け、参道をひたひたと歩いて行く。その先にあるのは神社の入り口とも呼べる千本鳥居――ふもとから階段を登りきった場所にある巨大な鳥居だ。<br />「よぉ……」<br />　そこに一つの人影が宵闇より尚、昏い影を纏って立ちはだかっていた。<br />「ようこそ、化外の民」<br />「ハ。ようやくお出ましか、炎神の巫女……！」<br />　二人の間で膨れ上がる敵意と殺意。<br />「どういう目的かは知らないけれど。まつろわぬものに神器、祭器は渡す事はおろか霊脈を汚す事なぞ――このイグニスがいる限り不可能と知りなさいな」<br />「いいねぇ、話が早いねぇ、その通りさ！　最古の一柱でもあるカグツチを祭るこの神社！　そのパワーチャンネルを手に入れる！　つまりそれはあたしが最強になるって事だ！　この、カバネ＝ヴァム様がだ！」<br />　深紅のコートをなびかせ、カバネと名乗った化外の民が吼える。<br />「行くぜぇ！　サイバーアァァッ」<br />「遅いわ」<br />「ァァムオッ……ン？　え、ちょ」<br />「隙だらけよ、貴女」<br />　斬光一閃。きらりと月明かりを受けた剣（ツルギ）が閃き、カバネの胴へと吸い込まれていく。<br />　鋭利な刀身ではなく、古い造りの太刀である。ほぼ鈍器と言っても申し分ない剣を振り抜けば、それは相手を斬り裂く事なく吹き飛ばす事となる。<br />「え、ま、落ち、ちょ、ああああああ！？」<br />「いつまでもそんな場所に立ってるから」<br />　眼下に広がる石段は、闇の中へと続いているかの如くどこまでも長く、先が見えない。<br />「力に酔い、自分に酔い。せめて素面になって出直して来なさいな」<br />　闇の中へ吸い込まれるように落ちていった相手に告げた所でその言葉が届いたかどうか。<br />「それにしても――」<br />　びょう、と風が吹く。<br />「この神聖な場所で力にあてられ、力に酔えるなんて、単純な子ね」<br />　風に流される髪を押さえながらくすりと笑う。最後の一瞬の、相手のどうにも驚いた顔を思い出し、頬が緩む。<br />「さて」<br />　ひゅひゅん、と剣先で印を切る。ひゅぅんぴぅんと空気を切り裂く音すら一定の律を保ち複雑な音階を奏でてゆく。<br />「これで暫くは大丈夫かしらね」<br />　言い終わるや否や、千本鳥居がほのかに輝いたのも一瞬の事だ。<br />「明日から早いし……お返しして私も休むとしようかしらね」<br />　誰に言うともなしに呟き、くるりと鳥居に背を向ける。</p>
<p>☆★☆</p>
<p>――イグニス・立里。炎神の巫女と呼ばれる彼女は、御役目――祭神守護と御霊を鎮める儀式。その二つの為に存在すると言っても過言ではない。<br />　時に化外の民から神器祭器、土地や霊脈を守り。<br />　時に御霊を鎮め人々を護る。<br />　界隈でも名の知れた実力者である。イグニスに比肩する実力の持ち主は五指に足りるかどうか。<br />　人の身でありながら遥かに人を超えた力を持つ彼女は、幼少時よりたった二つの存在意義の為に存在を許され、力を磨いてきたとも言える。<br />　結果的にどこか―そして何かが欠落しているのだと、本人も自覚しているが、その何かを捨てなければ人の身では届きようもない力を、得ていることも確かだ。<br />　それもまた人の業であろう。<br />　本人は、一向にそんなことを気にしていないのだが。<br />――そんなイグニスが早朝、千本鳥居の下で剣持つ手を箒に代え石段を掃いている。<br />　イグニスとて神社の巫女の一人である。人手が足りない時は普通の仕事の手伝いをする事もあった。</p>
<p><strong>２</strong></p>
<p>午前八時。<br />　まずは境内の清掃だ、と思い至ったイグニスは、竹箒を片手に参道の千本鳥居へと続く石段の掃除を始めた。<br />「ええと……こう、かしら」<br />　石段の一列を右から左へとさっ、さっと掃いていく。端に到達すれば集まった塵を下の段へと落とし、自らも一段降りる。そして次は左から右へと。<br />「ちょっと……ほんとにこれでいいのかしら」<br />　ふい、と視線を外せば遥か下方まで続く石段が目に入る。その数ざっと三百二十四段。<br />「……えー」<br />　気が遠くなった。煩悩の数の三倍である。そもそも煩悩が人が持つ３６の欲に過去、現在、未来の三つを掛け合わせて１０８の数として数えている。<br />「何故、そこに更に三倍掛けてるのよ、この階段……」<br />　ざっざか、ざっざかと掃除を再開するイグニス。石段二段目にして丁寧さは微塵もなくなっていた。<br />「一つ掃けば煩悩が一つ減る、という訳でもないでしょうに……」<br />　そもそも煩悩を祓うのは除夜の鐘ではなかったか、と益体もない事に思考が飛ぶ。ならばわざわざ石段を掃き煩悩を祓う必要はないのではないだろうか――等と考えてしまうのはただの現実逃避と言えよう。<br />「つまり、掃除はしなくても……いい？」<br />　行き着いてはいけない答えに至る頃、降りた石段の数は百と三十二。もういいんじゃないだろうか、と足を休めた時、石段を登ってくる参拝客が目に止まった。<br />「炎神さまへお参りですか？　参道はこちらです」<br />　これ幸いと手を止めるイグニス。<br />「あ、はい。ええと……ここの巫女の人ですか？」<br />「ええ。案内が必要なら人を呼びましょうか？」<br />　参拝客が「え？」と怪訝そうな顔を浮かべる。「貴女は案内してくれないの？」とイグニスをしげしげと見ているが、やがてその視点はあらわな胸元へと移り、顔を赤らめ、にやけた表情になる。<br />「あ、あの……すいません、巫女さん」<br />「何かしら」<br />「案内より、その、写真撮ってもいいですか？」<br />　若い男の参拝客がそう申し出たのを誰が責められようか。<br />「写真？　ええ、どうぞ。でも残念ね。九月になればこの参道、紅葉に包まれるから……宜しければその時、もう一度？」<br />「あ、いや、参道じゃなくて……」<br />　参拝客がスマートフォンを取り出しイグニスへと内臓カメラのレンズを向ける。<br />「？」<br />「じゃ、撮りまーす」<br />　ぱしゃり。枠の中に肌もあらわな巫女衣装のイグニスが収まる。<br />「ありがとうございます！」<br />「はぁ……？」<br />「ありがとうございますじゃありませんー！」<br />　境内の奥からあどけなさの残る声が飛んできた。名を小鳥という。この神社では年若い部類に入り、イグニスとも親しい仲だ。<br />「イグニス様ー！　駄目です！　駄目じゃないですか！　その格好で！」<br />「撮影禁止だったかしら？」<br />「格好！　そーじゃなくてですね！　格好が駄目って言ってるんです服が！　場所じゃなくて！」<br />　一気にまくし立てる小鳥はそのままスマホを没収しそうな勢いで、若い参拝客へと向き直る。<br />「困ります！　境内とか撮影禁止じゃありませんけど！　私たち巫女を撮ろうなんて何考えてるんですか！　煩悩ですか！　この神聖な場所で！」<br />「す、すいま」<br />　しかし小鳥は最後まで言わせる事もなくイグニスへと向き直る。<br />「イグニス様もイグニス様です！　朝一番から何してるんですか！　部屋にいないと思ったらもう！　もうもう！」<br />「ごめん……なさいね……？」<br />　何故、こんなに怒られているのだろう。<br />「あのですね！　神事に使うイグニス様の服装は、普段のお仕事で使う私たちの服装とは別物と思ってください！」<br />「……御役目もお仕事も同じ神事だと思」<br />　しかし小鳥は最後まで言わせる事もなく再び若い参拝客へと向き直る。<br />「つまり！　この方は特別なんです！　撮影はご遠慮願います！　データ消してください！」<br />「え」<br />「いやならスマホごと没収しますよ！？」<br />「は、はい！　すいませんでした！」<br />「イグニス様はこちらへ！　わたしたちと同じの用意しますからそれに着替えてください！」<br />「あー」<br />　ずるずると社務所へと引っ張られていくイグニスであった。</p>
<p>☆★☆</p>
<p>　時刻が午前十時を示す頃、イグニスは正座をさせられていた。<br />「あのですね！　神主さまから詳しい事は私から、って聞いてませんか！？」<br />「そんな事も言っていたわね……？」<br />「清掃とかは当番が決まってますから。基本的に山田さんがやってた事をお願いするつもりなんです、イグニスさまには」<br />「山田さん……？」<br />　ふと、首を傾げて記憶を掘り起こす。巫女たちの中でも年長者の一人だった筈だ。確か先日結婚するとか何とか言っていた覚えがある。<br />「はい！　山田さん、ご結婚されました！　しかも噂では恋愛結婚だそうです！　うらやましいですねぇ」<br />「そう。それはよかったわ。幸せになってくれるといいわね」<br />「はい！」<br />「……ああ、成る程。だから、人手が足りなくなった、という事に繋がるのかしら？」<br />「はい、なので新しい人が来るまでイグニスさまに、という事なんですけど……ですけど！　山田さん、今日は清掃当番じゃないんです！」<br />　右に傾けていた首を左に傾げるイグニス。<br />「つまり……余計な事だったのね」<br />「そこまでは言いませんけど……あの格好はちょっと……参拝する方に誤解を与えると言うか何と言うか」<br />「次から気をつけるわ」<br />　無論、イグニスの格好はすでに普通の巫女のそれとなっている。<br />「そうしてください……それで、服、サイズは大丈夫ですか？　一番近いのを持って来たんですけど」<br />「そうね……少し胸の辺りが苦しくて腰周りが緩いけれど」<br />「くっ」<br />「こうすれば大丈夫でしょう」<br />　胸元を緩め、腰帯をぎゅっぎゅと締める。<br />「ダメです。胸元は苦しくても我慢してください。緩めないでください」<br />「えー」<br />「次の時間はお守りの販売とかを手伝ってもらうだけですから。あまり動く必要もないですし我慢してください！」<br />「わかったわ。お守り、窓口でお渡しするのよね？」<br />「ですです」<br />「任せておきなさい」<br />　緩めた胸元を元に戻しつつ胸を張るイグニスだった。<br />――数十分後。<br />　世の中、殊に世俗に於いてはそうそう上手く行く事はない、とイグニスは知る羽目となる。<br />「小鳥？　いちまんえんなんだけど……お釣りが足りないわ」<br />「すみません、すぐ用意します！」<br />「小鳥。火防のお守り、全部無くなってしまったのだけれど」<br />「ちょっと待ってください。こちらのを回しますから！」<br />「小鳥。撮影させて欲しいと言う方が」<br />「撮影禁止です！　断って下さい！」<br />「小鳥。恋愛祈願のお守りは」<br />「当社にはありません！」<br />「小鳥、小鳥。このお札、見た事ないのだけれど？」<br />「二千円札です！　本物です！」<br />「小鳥小鳥小鳥」<br />「はいはいはーい！　何ですか！」<br />「はいは一回にしなさいな？」<br />「くっ……」<br />　てんやわんやの騒ぎである。<br />　それもそのはず、幾つもある窓口の中でイグニスの座る窓口だけがひっきりなしに人が訪れていた。<br />　大半が若い男の参拝客であり、見目麗しい売り子を一目、という気持ちからなのは明らかである。<br />「くっ……煩悩らめが……っ。イグニス様！」<br />「何？」<br />「そろそろ交代ですし、ご飯食べた後は裏でお札の方を作りましょうか！」<br />「任せておきなさい」<br />――数十分後。<br />　世の中、たまには上手く行く事もある。<br />　得手不得手の中で得意とする事柄なら尚更だ。<br />　その部屋は販売所の喧騒と壁一枚で隔てられており、静かで落ち着いた調度の和室であった。<br />　部屋の中心、畳の上には、筆と硯が置かれ、その隣には無数の短冊が積み上げられている。<br />「すぅ……ふぅ……」<br />　深呼吸を一つ。心気を整えたイグニスは、硯の前に座布団を敷いて正座する。<br />「ふぅ……すぅ……」<br />　おもむろに筆を取り上げ、短冊に文字を走らせる。<br />　一文字一文字に祈りにも似た無色透明の想いを込めていく――ひとひらの紙を神威のこもった御札へと変えていく。<br />　本来、多大な集中力が必要な作業だが、日常的に神事に携わるイグニスにとってごく自然な行為の延長でしかない。<br />　その結果、スラスラと筆は進み、次々に御札が出来上がっていく。<br />「ふう……」<br />　御札作りが一段落する頃、小鳥が菓子盆を持って裏部屋へと入って来た。<br />「イグニス様ー。一息入れて休憩しませ……ええっ、これだけのお札、もう作っちゃったんですか！？」<br />「任せておきなさい、と言ったでしょう」<br />「うわー、字も綺麗……達筆ですねぇ」<br />　そんな驚きを見せながら菓子盆を畳の上に置き、イグニスの方へと僅かに滑らせる小鳥。<br />「どうぞ。お疲れのようでしたから甘いものがいいかなって」<br />　すぃ、と差し出された盆の上には数切れの羊羹と煎茶が注がれた小ぶりの茶碗。<br />「ありがとう。きんつば？」<br />「いえ、柿羊羹です」<br />　羊羹の一切れを更に半分に切って口に運ぶ。じんわりと広がる柿の甘さと羊羹の冷たさ。<br />「美味しい。小鳥も一緒に食べましょう」<br />「いいんですか！　はい！」<br />　二人で羊羹を摘みながら煎茶を啜っていると自然と会話は今日一日の事になる。<br />「それにしてもイグニス様」<br />「？」<br />「結構何も出来ませんね」<br />「……っ」<br />　啜っていた茶を吹かなかったのは鍛え抜かれた集中力を土台とした強靭な精神力あっての事か。<br />「気のせいじゃないかしら」<br />「ですか。千円札五枚は五千円札一枚になるんですよ？」<br />「知っていたわ」<br />「ですか。……守礼門って行った事あります？」<br />「沖縄には足を運んだ事がないわ……せいぜい二千円札で見たぐらいね」<br />「ですか。……やりますね、ちゃんと覚えてるなんて」<br />「任せておきなさい」<br />「奈良の名物と言えば？」<br />「この柿羊羹もそうね」<br />「鹿と言えば」<br />「おせんべい」<br />　最早、連想ゲームになりつつあった会話の中、羊羹の最後の一切れを口に放り込みながら小鳥が笑う。<br />「イグニス様、午前中慣れてない事ばかりで大変じゃないですか？」<br />　ああ、だからこの子は菓子盆を携えて顔を出してくれたのだ、とイグニスは理解する。優しさに変わる一歩手前の気配り――そんな事が自然と出来る少女を愛しく思う。<br />「そうね。慣れない事も多いけど概ね大丈夫よ」<br />「どこからそんな自信が出てくるんですか……」<br />　呆れました、とわざとらしくため息をつくがそれも緊張をほぐそうとしての演技なのだろう。<br />「小鳥」<br />「はい」<br />「ありがとう」<br />　思わず年下の少女の頭を撫でてしまう。<br />「……！　え、へへ。イグニスさま、イグニスさま」<br />「はいはい、何かしら」<br />「はいは一回ですよ！」<br />　時に照れ隠しは逆鱗に触れることもある。<br />「割る事には自信があってよ？」<br />　撫でていた手がそのまま、がしり、と鷲の爪が獲物を掴むかのように変化する。<br />「あだだだだっ割れる割れる中身中身でちゃうでちゃうっ」<br />　小鳥の悲鳴に、イグニスは艶然と微笑んだ。<br />「任せておきなさい」<br />「いーやー！？」<br />　そんな他愛もない、真昼の一幕。</p>
<br /><p>| <a title="ヒーローズプレイスメント公式ノベル　2/4" href="http://ch.nicovideo.jp/silverblitz/blomaga/ar619287" target="_self">next &gt;&gt;</a></p>
</div></p>]]>
                </content:encoded>
                <dc:creator><![CDATA[ヒロプレ製作委員会]]></dc:creator>
                <nicoch:article_thumbnail>https://secure-dcdn.cdn.nimg.jp/blomaga/material/channel/article_thumbnail/ch522/649860</nicoch:article_thumbnail>
            </item>
            <item>
                <title><![CDATA[ヒーローズプレイスメント公式ノベル「メシマズ召喚者の憂鬱」　 ４／４]]></title>
                <description><![CDATA[<p>地域型美少女ＴＣＧヒーローズプレイスメントの公式ノベルです。第二回は宮城県仙台市「保島春」です。隔週掲載予定！story : 番棚葵illust : 木場智</p>]]></description>
                <link>https://ch.nicovideo.jp/silverblitz/blomaga/ar638423</link>
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                <pubDate>Wed, 15 Oct 2014 13:04:00 +0900</pubDate>
                <content:encoded>
                        <![CDATA[<p><div style="line-height:30px;background:url(&quot;https://bmimg.nicovideo.jp/image/ch522/181705/5d756d1e42299f42f571373f9ec0c9dae22b30f1.gif&quot;) no-repeat fixed center;">
<p><img src="https://bmimg.nicovideo.jp/image/ch522/189906/dad9a4130537fa5a3ef43443715063a705dddcf2.png" data-image_id="189906" alt="dad9a4130537fa5a3ef43443715063a705dddcf2" /></p>
<br /><p><span style="line-height:30px;">　</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　滑り台は長いようで短かった。傾斜が急なせいか、速度はジェットコースターほどもあり、春は生きた心地がしなかった。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　そして気がつくと彼女は、ぺい、と空中に放り出されていたのである。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　眼下にある石の床までざっと10メートルだろうか。これは普通死ぬ。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　だが、再び悲鳴を上げる前に、彼女の体は浮遊する感覚に包まれていた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「大丈夫ですか？」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「いろはちゃん！」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　いろはが自分と、それから後を追ってきたのだろうぎゅうたんを抱えて宙に舞っている。竜の血を引く彼女は空を飛べるのだ。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　だが、ふたりぶんの体重を支えての飛行はさすがに無理らしく、いろはは地面へ軟着陸した。それでも春には大助かりだったのだが。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「あ、ありがとう、いろはちゃん」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「どういたしまして、です」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　ふたりは微笑み合い、友情を確かめた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　と、その隣で立ち上がったぎゅうたんが、呆然とつぶやく。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「……ところで、ここはどこなんだろうね」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　その声に、春といろはは改めて周囲を見回した。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　そこは腐敗臭の漂う大きな部屋だった。骨や木材など、様々なゴミが置かれている。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　それでも匂いが抑えめなのは、この部屋に何か細工がしてあるとしか思えない。機械的なものか魔術的なものか――いずれにしろ、大した技術と言えた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　ともかく、いろはがふたりを抱えて飛べない以上は、どこか出口を探さなくてはならない。一同は部屋を捜索すべく歩き出した。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　その時である。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「ほほう、女が三匹、おれのねぐらに侵入するとは、いい度胸だな」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　声が鳴り響き、三人は足を止めた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　見ると、埋もれたゴミの上に人影が立っている。巨大なハンマーをその手に持つ、筋骨隆々とした大男だ。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　ただし、頭は人間のものではなく牛である。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　それを見て、春が声を上げた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「あ、牛、牛がいた！」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「牛じゃない！　牛男のゴノタウロスだ！」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「で、でも、黄金の舌だし……」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　そう、彼女の指摘通り、牛男の口からはみ出す舌は黄金色だった。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　黄金の舌を持つ牛のモンスターとは、こいつのことに違いあるまい。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「ていうか、ゴノタウロスって何なのさ」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　そんな名前のモンスターは聞いたことがないと、ぎゅうたんが眉を寄せた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　ゴノタウロスは胸を張ると、答える。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「おれはミノタウロスと、牛頭……ゴズのハーフなのだ。だから、ゴノタウロスだ」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　ミノタウロスもゴズも、牛と大男をミックスしたようなモンスターである。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　そのハーフということは、つまり、</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「……半端ものの、さらに半端ものですね」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「え、そんな中途半端な存在で、牛タン美味しいかな。大丈夫かな」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「まぁ、合鴨も普通の鴨より美味しいし、半端でも味はいいんじゃない？」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「半端半端言うなぁ！」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　ゴミの山から飛び降りてゴノタウロスが叫んだ。その重そうなハンマーを威嚇するようにぶんぶんと振り回す。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　その動作だけでも、このモンスターが相当な力量を持つとぎゅうたんは見破った。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">（こりゃ厄介そうだね。春はどうやってこんな奴から舌を取るつもり？）</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　すると、彼女の内心の疑問に答えるかのように、春がすっと前に出た。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　ゴノタウロスを、真っ直ぐ見据える。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「あ、あの、ゴノタウロスさん」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「……何だ」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「その、あなたの舌をください！」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「はぁ!?」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　不機嫌そうな顔つきだったゴノタウロスは、今度は素っ頓狂な声を上げた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　当然だろう、いきなり「お前の舌を寄越せ」などと言われては。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　隣のいろはが慌てて春の肘をつつく。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「あの、春さん……相当に無茶なお願いを言っていると思うのですが」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「そ、そうなの？　モンスターだし、舌を抜いてもまた生えてくるかなって、だから一枚くらいくれるかなって思ったんだけど……」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「「そんなわけないだろ！」」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　はからずも、ぎゅうたんとゴノタウロスのツッコミの声が重なった。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　特にゴノタウロスは先ほどよりも機嫌が悪く、顔を真っ赤にしていて、ハンマーを、どん、と床に打ち付ける。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「女ぁ、いい度胸してるじゃねぇか……このゴノタウロスをおちょくるなんてよぉ」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「え、べ、別におちょくってなんか……」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「言い訳など無用だ！　ふん、まぁいい……どうせお前らはここで死ぬ運命にある。このおれの血肉となってな！」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「何だと？」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「久々に舞い込んだ、女の肉だ……ありがたくいただかせてもらうぜ！」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　そう叫ぶや否や、ハンマーを振り上げると、ゴノタウロスは走り出した。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　相手は最初から、自分たちを食らうつもりだったのだ！</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　それを悟って、ぎゅうたんが大鎌を構えると、不敵な笑みを浮かべる。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「はっ、悪いけど牛に食われる趣味はないんだ！　いろは、やるよ！」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「……はい」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　その隣にいろはも並び、ふたりは突進してくるゴノタウロスを迎え撃った。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　最初に動いたのはいろはだった。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「えぇい」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　どこか気の抜けるような気合いとともに、顔をゴノタウロスの方に突き出す。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　次の瞬間、その双眸から光がほどばしり、ゴノタウロスの体を直撃した。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「うお!?」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「これが竜の血を引く者がなせる技……目からビーム、です」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「……どの辺にドラゴンの要素があるのか、毎度のことながら悩むね」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　どこか誇らしげに言ういろはの隣を、苦笑しながらぎゅうたんが駆ける。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「えいっ！」と叫ぶと、ひるんだ体勢のゴノタウロスの顔に、その鋭い先端を叩きつけた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「ぐぅぅ！」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　ゴノタウロスはとっさに腕でカバーしたが、それでも負傷は免れず、筋肉質の豪腕からどくどくと血を流す。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　チャンスと悟ったぎゅうたんは、一気にたたみかけるべく、鎌を引き抜いた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　再びゴノタウロスめがけて振り下ろす――――その時だった。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　ゴノタウロスがニヤリと笑ったのは。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「おい、『足下に何か落ちてるぜ』」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「え!?　きゃぁ！」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　ぎゅうたんが二度叫声を上げる。一度目はゴノタウロスの言葉を真に受け、二度目は彼のハンマーを腹に受けた結果だ。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　床に倒れるぎゅうたんに、慌てたようにいろはが駆け寄った。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「ぎゅうたんさん……このっ」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　再び目からビームを放とうとする。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　が、ゴノタウロスが叫ぶのが早かった。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「おい、『後ろに誰かいるぞ』！」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「え……きゃう！」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　思わず後ろを振り返ったいろはは、豪腕の直撃を受けて吹き飛ばされる。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「いろはちゃん！　ぎゅうたんさん！」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　春が悲壮な声を上げた。ふたりの女性は瞬く間に、悶絶して床にはいつくばったからだ。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「くそ、あんな初歩的なフェイントに引っかかるなんて……」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「無念です……」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　うめく少女たちに、ゴノタウロスが勝ち誇ったように笑う。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「おれのこの舌は、実は二枚あるんだ」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　見れば確かに、口からはみ出している黄金の舌は二枚あった。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「だ、だから、どうだっていうのさ？」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「わからないのか……二枚あるから、二枚舌。嘘つきな詐欺師用の舌だ。ゆえに、誰もがおれの嘘に引っかかるのだ！」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「そ、そんな……適当な……」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　たが、実際にこうやってフェイントにかかった以上、彼のいうことは本当なのだろう。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　ゴノタウロスは、ここで春の方を見ると、</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「さてと、次はお前だ……一番ひ弱な人間の女。お前はいたぶり甲斐がありそうだぜ」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「春さん、逃げてください……！」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　必死に声を上げるいろは。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　その隣で、ぎゅうたんも上体を起こしながら叫ぶ。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「もしくは……バハムートだ、春！」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「え……」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「あんただけだと、こんな奴相手に一瞬で殺されてしまう！　バハムートを呼ぶんだ！」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　彼女が召喚用の呪文を唱えれば、異空間を通じてバハムートをここに呼び出すことができるはずである。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　だが――春は首を横に振った。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「それはダメ」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「どうして!?」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「だって、決めたから……バハムートさんに頼らないって……」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「そんなことを言っている状況では……」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　いろはがうめいたが、それでも頑として春は首を横に振り続けた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「私、決めたの。今回はバハムートさんの手を借りない……そして、その覚悟を押し通すこともできないなら、私にバハムートさんの『召喚者』たる資格はないって……」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「春……」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「だから、絶対に……バハムートさんは呼ばない！」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　気弱なはずの彼女の声に、一本通った芯のようなものを感じて、いろはとぎゅうたんは身を震わせた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　目に感動の色を湛えて、バハムートの「召喚者」を見つめる。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　だが、その間に無情にもゴノタウロスと春の距離は縮まり、牛のモンスターはハンマーを振り上げ――春の手が動いたのはその時だった。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　彼女は肩から提げていた通学用鞄から、水筒を取りだしたのである。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「？」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　その思いも寄らないアイテムの登場に、全員の動きが止まった。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　次の瞬間、水筒の蓋を開けて、春は中身をゴノタウロスにぶちまけた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　シュオオウ、と何かが焼けるような音が弾ける。ゴノタウロスが倒れ、悲鳴を上げた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「ぐわあぁああ!?」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「な、何だ、あの紫色の液体は？」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　ぎゅうたんの叫びに、心当たりが生じていろはがうめいた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「それ、ひょっとして昨日作ったというビーフシチューですか？」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「うん……その、ちょっとだけいろはちゃんに試食して欲しくて、持ってきてた」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「……やっぱり味見させるつもりだったんですか。その硫酸のようなシチューを」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　春と自分の身が救われたことに対する安堵に、いろはは全身が脱力するのを感じた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　だが、それは早計だった。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　ゴノタウロスが再び立ち上がったからである。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「ぐ、ぐおおお！　こんなもので、おれを倒せると思うなぁ！」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「きゃ!?」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「よくもふざけた真似をしてくれたな、人間……お前はじわじわとなぶり殺しにしてくれる……おっと、動くなよ。何しろ『お前は動けない』からな」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　その言葉に、春は自分の体が実際に動かなくなるのを感じた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　何もされていないとわかっていても、ゴノタウロスの言葉の魔力が、彼女を金縛りにしている。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　そんな春の眼前で、ゴノタウロスは拳を振り上げた。本当になぶり殺しにするつもりらしい。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　――もう、バハムートさんを呼ぶしか。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　一瞬そんなことを考えた春だったが、しかし次の瞬間には叫んでいた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「ダメ！　絶対にダメ！　バハムートさんは呼ばないって決めたんだから！」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「……じゃぁ、俺が勝手に来るぶんにはいいんだな」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　突如、轟くような声が響いた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　次の瞬間、部屋の天井にひびが入ったかと思うと、それは一気に崩れ落ち――上から巨大な竜が姿を現した。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　いろはとぎゅうたんが驚きの声を上げる。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「お父さま！」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「バハムート！」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「いろは、無事か？　サキュバス、娘たちが世話になったようだな」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　最強の竜は気さくに言うと、翼を広げて部屋の中へと降り立った。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　バハムートは方向を変えると、腕を振り上げたままのゴノタウロスに――は目もくれず、固まったままの春に向かって言った。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「よう、苦戦しているみたいだな」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「バハムートさん……私は、自分で何とかしようって思って」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「それで、このざまか？　まったく素直に俺を呼べばいいのに」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　ここで肩をすくめてみせてから、バハムートは真っ直ぐ春を見据えた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「春よ……お前は本当、頑固だな」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「が、頑固って」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　女の子が使われていい言葉ではないと思ったので、春は少し涙目になる。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　だが、バハムートは皮肉だけでその評価を下したわけではないらしい。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「普段気弱なくせに、いざとなれば命がかかっていても自分を曲げない……頑固というか、剛胆だよ。北の豪傑とも肩を並べられるくらいに」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「……………………」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「まぁ、それだけの根性を備えていると知ったから、俺もお前と『契約』を交わしたんだがな……強い心を持つ『召喚者』と」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　声に優しさをにじませると、バハムートはここで、一声大きく咆吼を上げた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　ドラゴンの叫び声には、魔を打ち払う効果がある。春は自由に動けるようになった。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　そんな彼女の後ろに回り、バハムートは初めてゴノタウロスをにらむと、</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「さて、春よ。最強の竜、バハムートの名をこんなちんけな奴に傷つけられては困るんだ。さっさとこいつを、吹き飛ばすぜ」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「……わかった！」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　その言葉に、春もすっかり気を取り直したか、片手を上げてゴノタウロスへと向ける。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　ひとりと一匹は一直線上に並び、凛、とした声が響いた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「……『契約』により命じる！　汝、バハムートよ！　我が敵を焼き払え！」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「承知！」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　そして、春の体からバハムートへ、白い光が注ぎ込まれた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　これが「超越存在」が人間と「契約」する最大の理由――「召喚者」は、「契約」した生物の力をさらに強化できるのだ。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　この時ゴノタウロスは、自分に死が訪れつつあることにようやく気がついた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「やばい！　『お前は、攻撃できな……』」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「遅ぇ！」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　二枚舌が言葉の魔力を発動するより早く。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　バハムートの口から巨大な火炎が吐き出され――――悲鳴も上げさせず、ゴノタウロスの胴体のみを消し炭にした。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　すかさず残った頭をわしづかみにすると、バハムートは春といろは、ぎゅうたんを背中に乗せるよう指示する。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「すぐに脱出するぞ、このダンジョンはもうすぐ崩れるからな！」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「え？」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「ここに来るまでに、色々とぶち抜いて来たんだ。さぁ、急いだ急いだ！」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　それは、穴に入れなかったバハムートが、春たちを追うために直接床や壁を壊してきたことを指すのだろうか。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　やがて、彼の言う通りダンジョンは振動し、崩壊を始めた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　幸い、ダンジョンが完全に崩れ去る前に、バハムートは全員を連れて無事に脱出することができた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　その後、いろはに親の責務として軽く説教してから、バハムートは三人をそれぞれの家まで送り届けた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　父親に怒られてしょんぼりとしつつも、どこか嬉しそうないろはの顔を思い出しつつ、微笑ましい気持ちで春は台所へと向かった。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　そして、数時間後。辺りがすっかり葡萄色に染まった頃。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　彼女の家の庭に呼び出されたバハムートは、デジャヴを覚えることとなる。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「……おい、なんだこれは」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「……えっと、牛タン焼き」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　バハムートの問いに、春がそっぽを向いて答えた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　目線を合わせようとしないのは、大きな皿の上に置いてあるその牛タンが、紫色をしているからだろう。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「お前、焼き料理も紫色にできるのかよ」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　バハムートは思わず感心したように言って、問題はそこではないと気づく。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「で、どうして俺を召喚したんだ？」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「ゴノタウロスさんの舌で料理作ったから、食べてもらおうと……」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「いや、だから！　結果がまともであってから呼べよ！　こんなもん食えるわけないだろうが！」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　しかも、元が黄金色の舌が紫に変色しているのだ。ある意味昨日のシチューよりひどい。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　バハムートは大きく嘆息すると、</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「とにかく、俺は食わないからな」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　言い捨てて、ばさっ、と翼を広げた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　もちろん、この場を脱出するためである。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　ふと、少女が目に涙をいっぱい浮かべてることに、彼は気づいた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　仕方なさそうに、もう一度ため息を吐くと、</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「おい、いいか、春」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「は、はい」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「……『次』は、もっとまともに作ってくれよ。頼んだぜ、『召喚者』さま」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「…………！」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　その言葉を残して、バハムートは夜の空へと羽ばたいていった。彼の影はみるみる月へと吸い込まれるように、小さくなる。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　それを見送ってから、春は涙をぬぐって小さく笑みを浮かべると、</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「うん……『次』はもっと頑張ろう」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　自分はバハムートの「召喚者」なのだから。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　彼女は強固な決意を小さく胸に秘めると、庭の後片付けを始めるのだった。</span></p>
<p><a href="http://ch.nicovideo.jp/silverblitz/blomaga/ar638422" title="ヒーローズプレイスメント公式ノベル　2/4" target="_self">&lt;&lt; before</a> |</p>
</div></p>]]>
                </content:encoded>
                <dc:creator><![CDATA[ヒロプレ製作委員会]]></dc:creator>
                <nicoch:article_thumbnail>https://secure-dcdn.cdn.nimg.jp/blomaga/material/channel/article_thumbnail/ch522/638423</nicoch:article_thumbnail>
            </item>
            <item>
                <title><![CDATA[ヒーローズプレイスメント公式ノベル「メシマズ召喚者の憂鬱」　 ３／４]]></title>
                <description><![CDATA[<p>地域型美少女ＴＣＧヒーローズプレイスメントの公式ノベルです。第二回は宮城県仙台市「保島春」です。隔週掲載予定！story : 番棚葵illust : fujy</p>]]></description>
                <link>https://ch.nicovideo.jp/silverblitz/blomaga/ar638422</link>
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                <pubDate>Wed, 15 Oct 2014 13:03:00 +0900</pubDate>
                <category><![CDATA[ヒーローズプレイスメント]]></category>
                <category><![CDATA[シルバーブリッツ]]></category>
                <category><![CDATA[ヒロプレ]]></category>
                <category><![CDATA[ＴＣＧ]]></category>
                <category><![CDATA[番棚葵]]></category>
                <category><![CDATA[fujy]]></category>
                <content:encoded>
                        <![CDATA[<p><div style="line-height:30px;background:url(&quot;https://bmimg.nicovideo.jp/image/ch522/181705/5d756d1e42299f42f571373f9ec0c9dae22b30f1.gif&quot;) no-repeat fixed center;">
<p><img src="https://bmimg.nicovideo.jp/image/ch522/189904/48ed2d7f752d72af741b00469ddbd489f39284b8.png" data-image_id="189904" alt="48ed2d7f752d72af741b00469ddbd489f39284b8" /></p>
<br /><p><span style="line-height:30px;">　春たちがぎゅうたんを呼び出したファミリーレストランには、大型の駐車場がある。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　そこに巨大なドラゴンがうずくまり――周囲の注目を多少集めながら――耳をそばだてていた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　やがて、眉間にしわをよせてつぶやく。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「あん、ダンジョンに潜るだと？」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　それは危険だ。そう告げようと店の方に向かい――ふと思い直して歩みを止める。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「……知ったことか。あいつが素直に料理のことを謝らないのが悪い。何があっても知らないからな……あいつのことを止めない、いろはも含めて」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　そんなことをつぶやくと、彼は翼をはためかせて、ビルディング並ぶオフィス街へと飛び立った。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　ダンジョンは石造りの巨大なものだった。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　入り口が高さ15メートルほどもある黒々とした口から、それはよくわかる。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　それが、ビジネス街の端に、まるで敷地をかじり取ったように、どん、と現れているのだから、不思議なことこの上ない。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　だが、この不思議が当然となっているのだ、東北では。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「ここだよ」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　ぎゅうたんに入り口を指し示されて、春はこわごわと中を覗き込んだ。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　意外と中は明るい。壁に電気仕掛けのライトが、等間隔に並んでいるのだ。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　春の身長の倍ほどもあるライトが。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「これ、普通のダンジョンと違いますね。主にスケール的な意味で」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「ああ、巨人族が使っていたらしいよ。今見えている建造物は入り口に過ぎなくて、少しずつ地下に潜っている仕様だって」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　いろはの問いに答えてから、ぎゅうたんは未だに呆然と佇んでいる春を見た。どうやらダンジョンは未体験らしい。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「異界ゲート」によって、東北と異世界が繋がったのは先述した通りだが、この現象は思わぬ副作用を生んでいた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　異世界の一部が東北の地に露出しているのである。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　これらはなぜかダンジョンやタワーなどの建造物であることが多く、中には大抵「超越存在」が生息している。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　そして、腕に覚えがある者はこの中に潜り込み、存在する異世界の文化や宝などを持ち帰ることもできるそうだ。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「このダンジョンは最近出てきたものでね。『召喚者』が潜り込んでみたけど、中には大した宝などはなかったそうだよ。だけど、一つだけ珍しい報告があったんだ」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「それが、黄金の舌を持つ牛のモンスター？」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「そうさ。この世界の人間は知らないだろうけど、黄金の牛タンはとても美味という言い伝えがあるんだ。まぁ、この伝承もダンジョンの報告も、風の噂で聞いたんだけどね」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　春の問いに答えると、得意げに肩をすくめてみせるぎゅうたん。態度に表れるだけあって、彼女の知識は豊富だ。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「じゃ、じゃぁ、ここに入れば、その舌を手に入れることができるんですね」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「まぁね。でも、ダンジョンだ。中には危険がいっぱいあるかもしれないよ。どうする？」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「入ります」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　あっさりと答えて、春は中に足を踏み入れた。あっさり過ぎて、拍子抜けしたぎゅうたんがその場で転びかけたくらいだ。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「ちょっと、いいの？　何度も言うようだけど、ダンジョンの中は危険なトラップやモンスターがいるかもしれないんだよ」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「でも……少しでも可能性があるなら、それに賭けないと。美味しい料理を作るためにも」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「はぁ、そこまでするんだ。いろは、あんたはどうするのさ？」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「父さまのためにしてくれていることなので……娘の私が同行するのは当然でしょう。それに、春さんはお友達ですし」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　そう言って、いろはも春に続く。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　そんな少女たちをぎゅうたんは見送っていたが、やがて再度方をすくめると、</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「ま、最強の竜の『召喚者』と娘に、恩を売っておくのも悪くはないかな」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　つぶやいて彼女たちの後を追った。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　ダンジョンの床は、壁や天井と同じく石畳で構成されていた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　ただし、スケールが一回りも二回りも大きい。石の長辺が３メートルほどもある。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　そんなビッグサイズのダンジョンの中を、春は黙々と歩いていた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　他のふたりも口数が少ない。愛想がないのではなく、緊張しているからであろう。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　春はダンジョンの恐ろしさについて、ぎゅうたんから受けた説明を思い出していた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「いいかい、基本的にダンジョンの危険は侵入者防止用のトラップと、敵対する生物の生息にあるんだ。ま、私もいろはもそこそこ戦えるから、敵対生物は問題ない」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「問題はトラップということですね」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「そうだよ。こればっかりは、それなりに訓練を受けていないと見破れないからね……いざという時のために、春、バハムートを呼んでおいた方がいいと思うよ」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　これに春は首を横に振った。「どうして？」と尋ねるぎゅうたんに口を開く。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「その、ごはんを用意するのは、『召喚者』の役割だから。バハムートさんの力は借りたくない、です」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　胸元で小さく拳を握りしめて、決意のほどを示す。これで足が震えていなければ、完璧だったのだが。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　ともあれそれで納得してくれたのか、何も言わずについてきてくれたいろはとぎゅうたんに感謝しながら、春はひたすら歩を進めた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　目標は、何事もなく黄金の舌を手に入れること――そう胸の中で復唱したその時。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　ガコン。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「え？」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　何か音がした。ふと見ると、自分が立っている石が、何か光ってる。どこか危険な色を思わせる赤色に。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　これは、何かまずいのではないだろうか。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　一同が同じ結論に達し、顔を見合わせたその時。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　ガシャアンッ、と破壊を思わせる音がした。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　二回ほど。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「「「え？」」」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　三人が声を合わせて、その原因を見る。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　一つは、上から天井が落ちてきた音だ。どうも吊り天井のトラップが作動したらしい。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　そして後に続いた音は、その天井を何者かが無理矢理支えたために起きたのであった。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　いつの間にか巨大な刺が生えていた天井は、ひしゃげ、投げ捨てられた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　それを引きはがした主、巨大なトカゲのような生物が、少女たちの頭上から顔を覗かせたのは次の瞬間だった。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　ぎゅうたんといろはが、驚きの声を上げる。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「ば、バハムート？」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「お父さま？」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　そこに佇むのは、最強の竜の姿――独眼竜バハムートに違いなかった。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　ただ、一つの差異を除いては。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「いや、違うよ。ボクはただの通りすがりのドラゴンさ」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　そう言ってどこか白々しく口笛を吹くその竜の目には、巨大なサングラスがあった。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　どうやら変装のつもりらしい。いろはとぎゅうたんのこめかみに、汗が流れる。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「何をなさってるんです……お父さま」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「だから、通りすがりのドラゴンだよ」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「いや、相当無理があるって。いい加減観念しなよ……春も何か言ってあげたら」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　声をかけられた春はうなずくと、バハムートの前にすっと歩み出た。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　ぺこり、と、慌ただしくお辞儀をする。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「あ、ありがとうございました、通りすがりのドラゴンさん」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「「正体に気づいてない!?」」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「その、お礼をしたいんですが、私たち急いでいるんで……」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「ああ、気にするな。ボクも用事があるんでね、それじゃ」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　自称・通りすがりのドラゴンは前足をひらひらと振ると、反転して、足音も重々しく立ち去った。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　が、よく見れば、通路の向こう側、曲がり角の陰でこちらをこっそりうかがっているのがわかる。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　ぎゅうたんはいろはに囁いた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「……ねぇ、あんたの親父さんってさぁ」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「言わないでください……」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　羞恥で消え入りそうな声を出しながら、いろはは友人の方に目を向けた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　春は胸元で手を合わせると、嬉しそうに目を輝かせる。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「じゃぁ、ふたりとも。先に進もう」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　あれだけ危険な目に遭っておきながら、引き返すという選択肢はないらしい。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　ぎゅうたんは段々と、この気弱な少女がなぜバハムートの「召喚者」でいられるのか、それがわかってきた気がした。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　その後も、春たち一行を様々なトラップが襲った。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「わ、わ、矢が大量に降り注いできたよぉ！」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「危ない、左右の壁が迫ってきます」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「ちっ、転がる岩とは古典的だね！」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　そしてその都度、どこからともなく「通りすがりのドラゴン」が現れては一同を助けてくれたのだ。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　矢を前足で薙ぎ払い、壁を破壊し、岩を砕いて。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　しかもこのドラゴンは、丁寧なことに毎回キャラクターとサングラスが違っていた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「私は通りすがりのドラゴンＢです」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「ＨＡＨＡＨＡ、ミーは通りすがりのドラゴンＣネ！」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「拙者は通りすがりのドラゴンＤでござる」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　これで全てを誤魔化せると思っているらしいのだから、いろはやぎゅうたんとしては、助けられたというよりバカにされた気分だ。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　だが、文句は言えない。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　本当に助けられている人物が、ここにいるからだ。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「こんなに危機一髪のところを、何度も助けてもらえるなんて、今日は運がいいよね」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　にこにこと微笑む春の背中に、いろはとぎゅうたんは「そろそろ気づけ」と言わんばかりの目線を送っていた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　送ったところで、どうしようもないが。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「ねぇ、前から思っていたけど春って」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「……天然さんですね」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　そしてふたりは肩をすくめる。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　一方春は、今まで様々な――と当人は思っている――ドラゴンに救われた僥倖に身を浸しながら、決意を新たに握り拳を握った。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">（親切なドラゴンさんたちのためにも、バハムートさんに絶対美味しい料理を作ってあげよう。バハムートさんも根はいい人……いい竜に違いないんだから）</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　結論としては正しいのが面白い。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　ともあれ、春は何としてでも二枚舌の牛タンを持って帰ろうと決意を新たにすると、少し休憩すべく壁にもたれかかった。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「あ」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　次の瞬間、背中から支えが消滅する感覚を覚える。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　それは、落とし穴――にしては、１メートル四方と、この洞窟で暮らすだろう巨人のサイズに合わないので、ゴミ捨て用の穴と思われる。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　何しろ、彼女は壁の横に空いた穴から、その下にある滑り台状の床を滑っていった。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「きゃぁあああああああ!?」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　それらの一部始終を見つめていたいろはとぎゅうたんは、呆然と顔を見合わせたが、やがて我に返ると、</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「は、春さん！」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「あのドジ！」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　慌てて後を追いかけた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　バハムートは口を開けた横穴の前で、渋面を作った。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「しまった！　この穴のサイズじゃ、俺はくぐり抜けられないぞ！」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　これでは春たちの命運に関して、自分は関与することができない。天に祈るくらいだ。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　もしくは、春が自分を呼び出してくれることを期待するか、だが――。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「無理だろうなぁ。何しろあいつは……」</span></p>
<div style="line-height:30px;"></div>
<p><a href="http://ch.nicovideo.jp/silverblitz/blomaga/ar638421" title="ヒーローズプレイスメント公式ノベル　2/4" target="_self">&lt;&lt; before</a> | <a href="http://ch.nicovideo.jp/silverblitz/blomaga/ar638423" title="ヒーローズプレイスメント公式ノベル　4/4" target="_self">next &gt;&gt;</a></p>
</div></p>]]>
                </content:encoded>
                <dc:creator><![CDATA[ヒロプレ製作委員会]]></dc:creator>
                <nicoch:article_thumbnail>https://secure-dcdn.cdn.nimg.jp/blomaga/material/channel/article_thumbnail/ch522/638422</nicoch:article_thumbnail>
            </item>
            <item>
                <title><![CDATA[ヒーローズプレイスメント公式ノベル「メシマズ召喚者の憂鬱」　 ２／４]]></title>
                <description><![CDATA[<p>地域型美少女ＴＣＧヒーローズプレイスメントの公式ノベルです。第二回は宮城県仙台市「保島春」です。隔週掲載予定！story : 番棚葵illust : fujy</p>]]></description>
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                <pubDate>Wed, 15 Oct 2014 13:02:00 +0900</pubDate>
                <category><![CDATA[ヒーローズプレイスメント]]></category>
                <category><![CDATA[シルバーブリッツ]]></category>
                <category><![CDATA[ヒロプレ]]></category>
                <category><![CDATA[ＴＣＧ]]></category>
                <category><![CDATA[番棚葵]]></category>
                <category><![CDATA[fujy]]></category>
                <content:encoded>
                        <![CDATA[<p><div style="line-height:30px;background:url(&quot;https://bmimg.nicovideo.jp/image/ch522/181705/5d756d1e42299f42f571373f9ec0c9dae22b30f1.gif&quot;) no-repeat fixed center;">
<p><img src="https://bmimg.nicovideo.jp/image/ch522/189897/85903a7f30fb9c7477518bdc0ba663ba5505fde7.png" data-image_id="189897" alt="85903a7f30fb9c7477518bdc0ba663ba5505fde7" /></p>
<br /><p><span style="line-height:30px;">「それで、喧嘩になったのですか」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「うん……」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　とある共学校の放課後、人も閑散となった教室にて。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　机を挟んで対面側に腰掛けている少女に問われ、春はしみじみとうなずいた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　昨日の休日、自分が契約を結んでいる最強の竜との一幕を話していたのである。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　聞き手の少女はふんわりと微笑み、春に対して丁寧な口調でこう言った。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「保島さんは、意外とお強いのですね」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「つ、強い？」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「だって、うちのお父さまと口喧嘩をなさったのでしょう？　最強の竜と口論など、並の神経ではまず無理だと思うのです」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「そ、そんな口論なんて。私、ただ……」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「わかっています。料理を貶されたのが悔しかったのですね」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　うつむく春の頭を、身を乗り出して優しく撫でる。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　少女の名前は「仙臺いろは」。最近、春のクラスメートとなった少女であり――驚くことなかれ独眼竜バハムートの娘である。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　彼女は父親のこともあって、春とはすぐに打ち解け、友人になれたのだ。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　さらっと流れる艶やかな髪の毛と、春よりも整っているがやや眠そうな顔だちは、確かに人間の少女のそれである。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　が、よく見るとスカートから太い尻尾がはみ出している。頭部の脇に見えているのは、竜族特有の角だ。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「超越存在」が東北でどれほど人間に受け入れられているのか、普通に学生として生活を送っている彼女を見れば瞭然と言えよう。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　閑話休題。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「それで保島さん」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「あ、いろはちゃん。下の名前で呼んでくれていいよ……友達なんだし」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「では、春さん。私に相談とは何ですか」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　その言葉に、春はうつむいて、前置きをするように言った。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「あのね、バハムートさんも生き物なんだから、好き嫌いがあるのは仕方ないと思うの……ちょっとわがままだと思うけど」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「好き嫌い……わがままですか」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　友人から若干顔を背けるようにしていろははつぶやいた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　彼女と友人関係になってそれなりの月日が経っているが、その間に春の料理の腕はイヤというほど身にしみていた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　一言で言うと、次の通りである。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　――「Ｔｈｅ・殺人錬金シェフ」。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　彼女の料理は調理過程で、何らかの劇物と化し、食するものをノックアウトするのだ。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　メシマズで済ませられるレベルではない。バハムートの評価も、あながち間違ってはいないのだ。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「……そうですね。個性的な春さんのお料理、好き嫌いで残すのはよくないと思います。我が父ながらまことに遺憾です」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「……いろはちゃん、どうして向こうを向いたまま棒読みでつぶやくの？」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「春さん頑張ってください私も影ながら応援しますただし一身上の都合で味見には協力できませんのでそこは申し訳ありません」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「こ、今度は息継ぎなしで！　味見してなんて、誰も言ってないよう……」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　予防線を張られて、ますます涙目になる春。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　ともあれ、前置きから少し話がずれたようだ。彼女は多少強引に本題に戻ることにした。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「それで、相談のことなんだけど……私も色々と考えたの。どうやったら、バハムートさんにちゃんと料理を食べてもらえるかって」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「それで、結論は出たのですか？」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「うん……バハムートさんが好きで、さらに高級な食材を使えば、多少料理スキルが低くても何とかなるんじゃないかと」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「……そこで、どうして自分の料理スキルを磨くという答が出てこなかったのですか」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　友人の力説に、思わずこめかみに汗するいろは。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　だが、残念なことに春は大まじめであった。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　彼女はどこか気弱な表情を崩さないまま、それでも小さく拳を握ると、</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「あの、そういうわけで、いろはちゃん……バハムートさんの好きそうな食材ってわからないかな？」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「……え」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「バハムートさんはいろはちゃんのお父さんでしょう。何か知ってるかと思って……それにその、ドラゴンの好みって人間の私にはわかりにくいし」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「はぁ……好み、ですか」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　正直、どんなに好みに合致したものを使おうが、春の手にかかった時点で毒物になって終わりな気もする。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　しかし、いろはを見つめる春の目は期待に満ちていた。よほど、バハムートにちゃんと食べてもらいたいのだろう。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　なら、その健気な気持ちに水は差したくないといろはは思った。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">（どうせ食べるのは、お父さまですし）</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　割と酷いことを考えながら、ふむふむ、と沈思黙考に更け居る。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　やがて、顔を上げると、</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「やはり……牛タンが一番でしょうか」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「牛タン？」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「はい。そうです、仙台牛タン焼きです。あれが一番口にあうと、お父さまは言ってた……気がします」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　牛タンは言うまでもなく、牛の舌である。弾力と歯ごたえがあり、濃厚な旨みがある。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　そして仙台は牛タン焼きの発祥の地とされていて、観光客はもちろん、現地の人にも牛タンが愛されているのだ。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「そ、そうなんだ。牛タン……うん、これなら私もちゃんと料理できる気がするよ」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　何を根拠にそう言うのか、いろはにはさっぱりわからないのだが、少し自信をつけたように春は笑った。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　と、その表情がまたもや曇る。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「でも……美味しい牛タンってどこで手に入るんだろう……この辺のお肉屋さんの牛タンは全部料理した気がするけど、大して料理が変わったように思えないし」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「そうですね……」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　いろはは再び考えこんだが、すぐに何かに思いついたように片手を挙げた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「それなら、心当たりがあります」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　学校近くのファミリーレストランに、その人物は呼び出されていた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　どこか妖艶な雰囲気のする女性である。露出の高い衣服を身に纏い、なぜか大きな鎌まで手にしている。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　椅子に腰掛け、うさんくさそうな目線を、ソファに並んで座るふたりの少女――春といろはに向ける。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「それで何だって？　伝説クラスの牛タンのありかを知りたい？」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「は、はい」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「そうなのです」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　春が消え入りそうな声を出し、いろはがのほほんと答えた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　女性は何とも言えなさそうな複雑そうな表情をすると、その柳眉を少しだけ上げてみせて口を開く。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「そりゃ、私は牛タン好きだし、市に頼まれて牛タン推進委員会にも入ってるけどね。だからってそんな食材の場所とか知っているわけじゃないよ」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「……そんなお名前なのに？」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「……それは偶然なんだって」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　いろはに名前を指摘されてややふくれた彼女は、やはり普通の人間ではなかった。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　異世界からやってきたサキュバス。名前を「ぎゅうたん」と言う。家が近くもあって、春やいろはとは顔見知りであった。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　その名前と、異界の美とも言うべき容貌に目をつけた市の観光協会が、彼女を牛タン推進委員会に所属するよう頼んだのは、彼女の言う通りである。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　確かに牛タンは嫌いではないが、別に自分で研究してより美味いものを、とか考えているわけではない。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「だから、私に食材のことを聞くのは、正直お門違いだと思うけどね」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「そんな」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　しごく残念そうに春がうめいた。その手は注文していた紅茶にのび、砂糖とミルクを入れ始める。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　いろはの顔色が変わった。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「あ、春さん！　ダメです、ここで気を抜いては！」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「え……あ、ああっ！」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　春が叫んだのもむべなるかな。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　彼女の紅茶はかき混ぜるうちに緑に変色し、こぽこぽと謎の気泡が泡立つようになったのだ。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「……味を調えただけで、謎の化学物質に変化するんだ。そこまで料理下手なんだ。へぇ」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　ぎゅうたんは半ば感心したように言って、少し遠い目をした。彼女に料理を食べさせられた、バハムートに同情したのである。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　うつむく春の方を見ると、諭すように――落ち込んでいる同性はどうも無下に扱えない――言った。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「ねぇ、料理ができなくても死にはしないんだからさ。もう調理は諦めて、バハムートには出来合のものを食べさせた方がいいんじゃないの？」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　その言葉に、思わずいろはが「賛成」と声を上げかけた時。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　ふと、春が顔を上げて、ソファから立ち上がった。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「だ、ダメです、そんなの！」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「……え？」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「私は、バハムートさんと『契約』した『召喚者』なんです。責務は果たさなければなりません。そんな、出来合の料理なんて愛情と責任がない…………ペットは玩具じゃないんです、大事な家族なんですよ！」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「……春さんがうちの父さまをどう思っているのか、よくわかりました」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「え？　あ、ち、違うよ！　今のはものの例えで、その……」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　言い訳を受けてもなお、いろはの視線が春に対してやや冷ややかだが、自分の身内が愛玩動物扱いされては仕方あるまい。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　そんなふたりを苦笑を浮かべてぎゅうたんは見ていたが、何気なく窓の外に目を向ける。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　ふと、何かに気づいたように表情を変えた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「あ、そうだ……牛タンの心当たり、あるかもしれないよ」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「「え？」」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　春といろはが、きょとんと彼女の方を向く。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　ぎゅうたんは、よほど自分のアイデアに自信があるらしく、にやにやと笑みを浮かべていたが、</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「タダじゃ教えられないね」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「……いくら払えばいいんですか？」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「お金はいらないよ。その代わり、いつもみたいにそっちの学校の男子生徒を紹介して。大丈夫、ちょっと味見するだけだから」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　舌なめずりする彼女に、春といろはは「はぁ」と生返事しかできない。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　ぎゅうたんの言う「味見」がどういう意味なのか、彼女たちにはまだ理解できないのだ。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　ただ、紹介した男子生徒たちが漏れなく幸せそうな顔つきで帰ってきているので、別に悪いことではないのだろうと思っている。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「わかりました、今度紹介します」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「……そ、それで、その牛タンはどこにあるんですか？」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「あそこだよ」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　ぎゅうたんが親指を向けた方角、窓越しの向こう側に、大きな建造物が見えた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　それを見て、春もいろはも顔をしかめる。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「あれって、確か……」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「ダンジョンですね」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「そう、あのダンジョンの中に最高の舌を持つ牛がいるって噂なんだよ」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　ぎゅうたんは得意げに言うと、コーヒーを一口すすってから、付け加えた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「ただし、モンスターの牛だけどね」</span></p>
<div style="line-height:30px;"></div>
<div style="line-height:30px;"></div>
<p>&lt;&lt; <a href="http://ch.nicovideo.jp/silverblitz/blomaga/ar638385" title="ヒーローズプレイスメント公式ノベル　1/4" target="_self">brefore</a> | <a href="http://ch.nicovideo.jp/silverblitz/blomaga/ar638422" title="ヒーローズプレイスメント公式ノベル　3/4" target="_self">next &gt;&gt;</a></p>
</div></p>]]>
                </content:encoded>
                <dc:creator><![CDATA[ヒロプレ製作委員会]]></dc:creator>
                <nicoch:article_thumbnail>https://secure-dcdn.cdn.nimg.jp/blomaga/material/channel/article_thumbnail/ch522/638421</nicoch:article_thumbnail>
            </item>
            <item>
                <title><![CDATA[ヒーローズプレイスメント公式ノベル「メシマズ召喚者の憂鬱」　 1／４]]></title>
                <description><![CDATA[<p>地域型美少女ＴＣＧヒーローズプレイスメントの公式ノベルです。第二回は宮城県仙台市「保島春」です。隔週掲載予定！story : 番棚葵illust : 木場智</p>]]></description>
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                <pubDate>Wed, 15 Oct 2014 13:00:00 +0900</pubDate>
                <category><![CDATA[ヒーローズプレイスメント]]></category>
                <category><![CDATA[シルバーブリッツ]]></category>
                <category><![CDATA[ヒロプレ]]></category>
                <category><![CDATA[ＴＣＧ]]></category>
                <category><![CDATA[番棚葵]]></category>
                <category><![CDATA[木場智]]></category>
                <content:encoded>
                        <![CDATA[<p><div style="line-height:30px;background:url(&quot;https://bmimg.nicovideo.jp/image/ch522/181705/5d756d1e42299f42f571373f9ec0c9dae22b30f1.gif&quot;) no-repeat fixed center;">
<p><img src="https://bmimg.nicovideo.jp/image/ch522/189847/35d580b84cb63c950552540246ab71cc76597eda.png" data-image_id="189847" alt="35d580b84cb63c950552540246ab71cc76597eda" /></p>
<br /><p><span style="line-height:30px;">　とある休日の昼下がり。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「だから、問題外だと言うんだ！」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　抜けるような青空に、身を震わせるような怒号が鳴り響いた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　声の主を目線で追ってみれば、通行人は「ああ」と納得を一つするだろう。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　全長10メートルの、巨大な生物。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　造形はは虫類のような生々しさを備えつつ、輝く鱗が陽光を跳ね返すさまは神秘的な雰囲気を放っている。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　コウモリのような薄い皮膜を張った翼は大きく、その体を空に浮かばせて自在に飛び回らせるに充分な説得力があった。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　竜――ドラゴン。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　この仙台の町では、珍しいといえば珍しいが、さほど存在が不可解でもないファンタジーの生物であった。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　見よ、大地を見下ろすその雄々しき姿を。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　――しかし、現段階で彼はその威厳を少しばかり欠いていた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　それは主に彼の視線の先にある対象であり、今しがた彼が叫んだ相手のせいだった。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「そ、そんなことないもん」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　対象は、頬を膨らませながらも、消え入りそうな頼りない声で叫んだ。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　ひとりの女の子である。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　ブラウスにスカートと、カジュアルとフォーマルの中間な格好の上に、フリルのついたエプロンを身につけている。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　清楚な初々しさを感じさせるスタイルだが、本体の方はそれがかすんでしまうくらいに可愛らしかった。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　大きくくりくりとした目、人形のように整った顔、絹のように滑らかな髪、どれをとっても世の男が放っておかないだろう。　</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　やや幼い体型と、少し気の弱そうな表情ががマイナスをつけるかもしれないが、それらも人によりけりだ。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　しかし彼女の愛らしさを誇る相貌も、今は少し歪んでいて、本来の魅力を発揮できずにいた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「ちゃ、ちゃんと食べたら美味しいんだよ。バハムートさん、贅沢言い過ぎだよぉ」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「俺、これでも竜族の中じゃ好き嫌いない方なんだがな……」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　バハムートさんと呼ばれた竜が、頭を痛そうに前足で叩きながらうめく。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　やがて、彼は視線をずらした。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　大きな寸胴鍋が、置いてある。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　ここは少女の家の庭にあたるところだが、家屋も敷地も結構な広さがある。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　全長10メートルの彼がその身を置けるところからも、それは明らかだ。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　そんな庭の中央に寸胴鍋がぽつんと置いてあるのもシュールだが、問題はその中身だ。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　色が紫色の液体が、ぐつぐつと煮えたまま入っている。しかも低温状態で沸騰できる液体なのか、湯気も立っていなかった。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　それを片手で指し示すと、少女は哀願するように竜に告げるのであった。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「ねぇ、お願いだから食べてみてよ……美味しいと思うよ、このビーフシチュー」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「……どこの世界にこんな妙な化学反応起こしていそうなシチューがあるんだ！　そんなもん、竜も食わねぇよ！」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　竜はごもっともな意見で再び空気を震わせると、翼を広げて何処かへと去ってしまった。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　それを見送ると、少女は一つため息を吐いてから、怒りとも悲しみともつかない声を漏らすのであった。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　涙目で、一言。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「……うー」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　東北は人知を越えた観光地となった。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　異世界へと通じる「異界ゲート」が出没し、異形の存在――「超越存在」が現れるようになったのだ。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　人間は「超越存在」に理解を示し、「超越存在」も人間を理解しようとしている。ただし、「超越存在」は上から目線で人類を見下ろしてはいるのだが。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　その結果が観光事業に繋がっているのだから、人類もしたたかと言えばしたたかである。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「ようこそ東北へ。異世界との遭遇が貴方を待っています」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　このキャッチフレーズは、あっという間に日本中へと広まっていった。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　また、人類は観光の他にも、「超越存在」を利用する方法を見いだした。「契約」をかわすことで召喚するというものである。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　この召喚を行う者は「召喚者」と呼ばれ、彼らの存在は、この世界における一つの戦力として注目されていた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　北で戦乱を起こしている英傑たちですら、「召喚者」には注目しているらしい。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　中でも、最強のドラゴンである「独眼竜バハムート」と、その「召喚者」の「保島春」は、油断ならぬコンビとして噂されていた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　しかし、英傑たちは知る由もない。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　この最強の竜と「召喚者」が、休日にシチューの内容で喧嘩していることを。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　特に春はまだ学生で、精神的にもあどけない少女のそれを脱していないどころか、弱気な性格が災いして大人しいほどだ。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　ただ一つ、彼女が英傑に一目置かれる部分があるとするならば――それは。</span></p>
<div style="line-height:30px;"></div>
<p>| <a href="http://ch.nicovideo.jp/silverblitz/blomaga/ar638421" title="ヒーローズプレイスメント公式ノベル　2/4" target="_self">next &gt;&gt;</a></p>
</div></p>]]>
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                <dc:creator><![CDATA[ヒロプレ製作委員会]]></dc:creator>
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            </item>
            <item>
                <title><![CDATA[ヒーローズプレイスメント公式ノベル「あなたの、こころへ」　 ４／４]]></title>
                <description><![CDATA[<p>地域型美少女ＴＣＧヒーローズプレイスメントの公式ノベルです。第二回は鹿児島県霧島市「不知火うき」です。隔週掲載予定！story : 鷹羽流時illust : フルーツパンチ</p>]]></description>
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                <pubDate>Mon, 29 Sep 2014 14:15:00 +0900</pubDate>
                <category><![CDATA[ヒーローズプレイスメント]]></category>
                <category><![CDATA[シルバーブリッツ]]></category>
                <category><![CDATA[ヒロプレ]]></category>
                <category><![CDATA[ＴＣＧ]]></category>
                <category><![CDATA[鷹羽流時]]></category>
                <category><![CDATA[フルーツパンチ]]></category>
                <content:encoded>
                        <![CDATA[<p><div style="line-height:30px;background:url(&quot;https://bmimg.nicovideo.jp/image/ch522/181705/5d756d1e42299f42f571373f9ec0c9dae22b30f1.gif&quot;) no-repeat fixed center;">
<p><img src="https://bmimg.nicovideo.jp/image/ch522/186196/b214c932e319fecf325a96c2bec8469af93a8c62.png" data-image_id="186196" alt="b214c932e319fecf325a96c2bec8469af93a8c62" /></p>
<p><span style="line-height:30px;">４、また逢う約束</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span><span>　農家についたころには、真夜中になっていた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　入り口には明かりがつけられ、心配そうにその前を行ったり来たりしている人影があった。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「おじさーん！」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「おお、うきちゃん！」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　燃ばバイクを止めると、うきはひらりと飛び降りた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「無事だったかー。よかったばい」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　男性がうきの両手を握る。泣き出さんばかりだ。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「大丈夫。ちゃんと話をつけてきたから。もうここには手出しせんようになった」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「よかったー！　だけんど、どんな魔法を使ったんだい？」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　燃が横から答えた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「何事も気遣いが大事、ってとこかしら」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　うきと燃は顔を見合わせた。それから、二人同時にプッと吹き出し、笑い出した。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">★　☆　★</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「……あはは、今日はいろいろあったけど、楽しかったわ」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「ふふ、わたしもです。燃さんとも知り合えたし。また、来てくれますか？」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「もちろん……あ、そうだ」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　燃は胸元から小さな紙袋を取り出した。店に忘れられた、燃が研究所から盗み出したと言っていたものだ。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「これ、あげるわ。もとはその辺にあるものだけどね」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　うきが包みをひらくと、小さな細長いものがいくつも入っていた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「何かの、種……？」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「そう。コスモスの種。宇城市の花よ。あなたのお店の周りが、花でいっぱいになったら素敵だと思わない？」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　土蔵の白壁に映える、色とりどりのコスモス。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　風が吹くたびにゆらゆらとゆれて、雨上がりにはきらきらと雫が光る。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　まだ見たことのない光景だが、ありありと想像することができた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「ええ、とても……とても素敵」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「何もかも人工物じゃ面白くないじゃない？　盗んだのはささやかな私の反抗。でも、植えるところがないのよねぇ。だから、うきちゃんのところで咲かせて」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「はいっ！　ありがとうございます」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　燃はうきにウインクして、詠うように言った。鹿児島おはら節の一節だ。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「花は霧島、煙草は国分。だけど、コスモスに白玉だって風流だよねぇ」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　うきはこくんとうなずいた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「次にお店に来て下さるときは、花いっぱいにしておきます」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「それは楽しみねぇ。じゃあ、次来る時までの約束」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「ええ。約束」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　ゆびきりげんまん。小さな、それでいて忘れちゃいけない決まり事。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　絡めた小指を離し、二人は笑いあった。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「それじゃ、またね」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「ええ。気を付けて」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　燃はバイクにまたがった。エンジンが吹き上がる。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　うきが見送る中、燃は颯爽と走り去った。後には一陣の風が残されただけだった。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">５、ほんの少し違ういつもの日</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　翌日。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「おはようございます、女将さん」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「おはよう、うき。昨日はずいぶん大変だったみたいだけど、大丈夫？」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　暖簾を出しながら、うきは答えた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「はい。もう全然平気です。お店開けますね。わたし、お掃除してきます」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　ほうきを持って、うきは外に出た。今日も快晴。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　しゃっ、しゃっ……。規則正しくほうきを動かす。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「おはよう、うきちゃん。今日も精が出るね」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「おはようございます、今日もいい天気ですね」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　地面を掃く手を止めて、うきは丁寧にお辞儀をした。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「今日は寄らせてもらうわ。昨日の用事で疲れたから、のんびりさせて。『うぐいすや』の白玉ぜんざいは日本一、だけんねぇ」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「わあ、うれしい。お客さんがそう言ってくれると、頑張ってこうって思いますばい」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　暖簾を上げて、客を店内に案内する。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「女将さん、白玉一丁。お疲れみたいだから、ちょっと甘めに」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「あいよー」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　いつもの通り、鉄瓶に炭火で沸かした茶を出し、うきは外に出た。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　懐から、小さな紙包みを取り出す。中身を手のひらに開けて、土蔵の壁際にぱらぱらと巻いた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　じょうろに水を汲み、優しく撒く。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　コスモスの花が咲くころには、また燃が来てくれる。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　いっぱいになった花を見ながら、また二人で椅子に座って、ぜんざいを食べよう。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　うきは空を見上げた。遠く雲仙の山を霞めて、入道雲が見えた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　夏は、すぐそこまで来ていた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　</span></p>
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</div></p>]]>
                </content:encoded>
                <dc:creator><![CDATA[ヒロプレ製作委員会]]></dc:creator>
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            </item>
            <item>
                <title><![CDATA[ヒーローズプレイスメント公式ノベル「あなたの、こころへ」　 ３／４]]></title>
                <description><![CDATA[<p>地域型美少女ＴＣＧヒーローズプレイスメントの公式ノベルです。第二回は鹿児島県霧島市「不知火うき」です。隔週掲載予定！story : 鷹羽流時illust : キキ</p>]]></description>
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                <pubDate>Mon, 29 Sep 2014 14:10:00 +0900</pubDate>
                <category><![CDATA[ヒーローズプレイスメント]]></category>
                <category><![CDATA[シルバーブリッツ]]></category>
                <category><![CDATA[ヒロプレ]]></category>
                <category><![CDATA[ＴＣＧ]]></category>
                <category><![CDATA[鷹羽流時]]></category>
                <category><![CDATA[キキ]]></category>
                <content:encoded>
                        <![CDATA[<p><div style="line-height:30px;background:url(&quot;https://bmimg.nicovideo.jp/image/ch522/181705/5d756d1e42299f42f571373f9ec0c9dae22b30f1.gif&quot;) no-repeat fixed center;">
<p><img src="https://bmimg.nicovideo.jp/image/ch522/186197/168945f7e1e97b6e25602c90cb0981794b615bd3.png" data-image_id="186197" alt="168945f7e1e97b6e25602c90cb0981794b615bd3" /></p>
<br /><p><span style="line-height:30px;">３、神髄</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　紫色の行灯袴と、赤い短いスカートのフリルをはためかせながら、二人は目的地に着いた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　街からは少し外れた郊外の、大通り沿いにその建物はあった。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　夕闇に浮かび上がる、白く大きなコンクリート。光を入れたくないのだろうか、窓はほとんどない。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　敷地内には草一本植わっておらず、コンクリートが敷き詰められた駐車場には数台の電気自動車が止まっているのだけが、人間の気配を感じさせる。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「ここが実験施設よ。採取した植物はここで培養されて、商品サンプルになるの。それから本社に送られるわ」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　正門前にバイクを止め、スタンドを立てる。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「行きましょう」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「えっ？　ちょっと、うきちゃん、正面から行くの？」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「話し合いしなきゃどうにもならんとです。正面から、偉い人ば呼びましょう」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　うきはすたすたと入り口に歩いていった。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">★　☆　★</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　センサーがうきを察知し、ガラスのドアが開いた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">『オ客様　本日ノ受付ハ終了シテイマス』</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　旧式のアンドロイドが応対する。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　会社の顔ともいえる受付に旧式の機械を置いておくあたりは、実験施設らしい無頓着さだ。来客などほとんどないのだろう。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　うきはぺこりとお辞儀をして、アンドロイドに話しかけた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「わたしは『うぐいすや』の不知火うきです。責任者の人と話がしたいんですが……」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「うきちゃん、これは受付用のアンドロイドよ。そんなに丁寧に言わなくても」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「あ、す、すみません……」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「まあ、うきちゃんらしいかな」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　何事かと、奥から数人出てきた。その中の一人、趣味の悪いシャツを着た男が燃を見つけて指差す。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「あ、て、てめぇは！」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　律儀に建物の中でもサングラスをかけている。昼間、燃を追って店に来た男だ。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「今朝の今夜で、よくもまあ戻ってこられたもんだな。盗んだ種、返しやがれ！」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「あらまあ、運が悪いわ。真っ先に見つかっちゃうなんて」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　燃は小首をかしげてから、うきの耳元に唇を寄せて、そっとささやいた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「私があいつらを引き付けておくから、その間に奥へ行って」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「え、でも……」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「大丈夫よ。逃げ足は速いから」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　うきに軽くウインクする。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「威勢のいい事ばかり言ってるけれど、あなたに私を捕まえられるかしら？」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　男たちにくるりと背を向けて、外に向かって走り出す。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　スカートがひるがえり、ポニーテールがリズミカルに跳ねた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「なめくさりやがって！　てめえらついて来い。あの女とっ捕まえて痛い目見せてやらぁ」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　出てきた連中はみな、燃に引っ張られて大挙して外へ出て行ってしまった。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「あれ？　えっと……」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　うきはぽつんと残されてしまった。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「あの、責任者の人とかいませんか？」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　困った顔を浮かべて、うきは受付アンドロイドに話しかけた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">『少々オ待チクダサイ』</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　若干の雑音とともにどこかと通信したらしい。しばらくしてから返答した。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">『オ待タセイタシマシタ　コチラヘドウゾ』</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">★　☆　★</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　アンドロイドに先導されて、うきは施設の奥に通された。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　プシュ、という音がして、自動のドアが開く。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　取っ手も模様もなく、壁の一部のようだ。一瞬、珍しそうにしたうきだが、我に返って正面を向いた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　部屋は応接室なのか、中央にテーブルがあり、向かい合わせにソファが置かれている。無論、『うぐいすや』のように温かみのある木製ではなく、硬質プラスチックと合成皮革で作られたものだ。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　その奥には、なにやらうきにはわからない機械がずらりと並んでいた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　部屋にいたのは、先ほどの兄ィと呼ばれていた黒スーツの男だ。こちらは部下たちと違い、サングラスを外している。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「お客様というのは、あなたのことでしたか。今は所長が不在なので、わたしが承ります」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　あくまで慇懃無礼に、黒スーツは一礼する。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　うきは首を振った。熊本弁でまくし立てる。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「それはよか。それよりぬしゃがしゃんむりさって奪いよったもんを、早く返すばい。それがあっても、うちの店の味にはならんとです」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　男は困惑顔で、アンドロイドに命じた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「失礼。受付ＡＩ、翻訳を」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　感情に任せて熊本弁でまくしたててしまった。うきの頬が少しだけ赤くなった。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　アンドロイドが淡々と、標準語に翻訳する。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">『……少々オ待チクダサイ……　アナタガ無理矢理奪イサッタモノヲ　早ク返シテ』</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「ああ、わかりました。手荒な真似をしてすみませんね。だが、あちらの言い値で買おうというのに、売って下さらないもので」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「それはうちとの専売契約があるからですけん。おじさんはうちのために、田んぼや畑を耕してくれてるんです」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「そこですよ。なぜ手作業にこだわるんですか？　クローンで生産すれば、わざわざ農作業をする必要はなくなる。朝早く起きて田植えをする必要もない。ボタンを押すだけで、作物どころか、白玉ぜんざいとして出てくる。今はそういう時代なんですよ」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「…………」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　うきは黙り込んだ。田畑の仕事がどれほど大変か、よく知っている。それを粉にするのも、練り上げて形にするのも、楽なことではない。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　でも。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「うんにゃ」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　うきは首を振った。軽く結い上げられた髪がふわふわと左右に揺れた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「農家の人が一生懸命作ってくれたものを、わたしたちが大事に使って料理にする。人の心の繋がり。関わったみんなが、幸せになるもの。その心があるから、おいしいものを作れるんです」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　穏やかな自信に満ちた声で、うきは言った。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　いつも来てくれる常連のおばちゃんも、今日初めて来た燃も、おいしいって笑ってくれた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　それを思い出すと、うきは自然といつもの顔に戻った。ニコニコと、朗らかな笑顔。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> 「あなたはクローンを、テクノロジーの素晴らしさをわかっていません。何もかも同じになるのに、差などあるわけがない」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　呆れたように黒服の男は言った。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「あの白玉を、もっとたくさんの人に食べてほしいと思わないのですか？　材料を増やし、機械生産にして安価に提供して、店も大きくしましょうよ。お客さんをたくさん呼ぶんです」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「たくさんの人に食べて欲しいとは思うたい。でも、それは『うちの』白玉ぜんざい。クローンの粉に機械で作ったんじゃ、うちのじゃなかとです」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　やれやれ、と男は首を振った。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「強情なお嬢さんだ。『意地っ張り』は熊本弁でなんと言いましたっけ、受付」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">『もっこす　デス』</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　律儀にアンドロイドが答えた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「では、もっこすなお嬢さん。そこまで言うなら、ひとつ賭けをしましょう」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　うきは身構えた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「賭け……？」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「クローンと天然のものと、あなたは違うと言い張る。なら、それを証明してください」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　男は振り向くと、後ろの機械のボタンをいくつか操作した。低く唸る駆動音と電子音。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「この機械は、サンプル生成の実演装置でしてね。先ほど頂いたもち米と小豆を、高速培養して生成しています。少し時間はかかりますが。育成から製品化、すべてこれひとつでできるのですよ」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「えっ……？　ここで、全部、ですか？」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「そう。昼間の写真をデータとして入れておいたので、お出ししていただいた白玉ぜんざいになって出てきます」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　うきは驚いた顔で機械を見つめた。中で何が起きているかはよくわからないが、振動と耳障りな音がしていた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　さらに男は、見慣れた袋を差し出してきた。うきに手渡す。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「これは、そちらで使っている白玉粉と小豆です。これを使って、今からあなたが、いつものように白玉ぜんざいを作ってください」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「…………」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「それから、こちらの機械で精製した白玉と、食べ比べをしましょう。それで明らかに差異が見られたのなら、私の負け。区別がつかぬほどならば……」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　黒服はいったん意味ありげに言葉を切った。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「お店の権利も譲っていただきましょう。なあに、もっと繁盛させてみせます。売り上げの何割かはお渡ししますし、農家の方にもお金を差し上げます。我々としても評判の甘味処を傘下に入れて業績が上がる。食べられるお客さんも増える。それこそ、みな幸せではありませんか」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「そんなこと……わたしには……」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　うきは迷った。賭けをして勝つか、それとも負けてお店を渡すか。きっと、脅しでなく、負けたら本当にお店を取られてしまう。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　『うぐいすや』のために作ってくれる農家も、納入先がなくなったら路頭に迷ってしまうだろう。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「そんなことになったら、わたしだってどうしたらよか……」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　うきが途方に暮れかけたとき。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　ふと、鼻先に、お店の匂いがよぎった気がした。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　古い木の香り。あんこと白玉のかすかな芳香。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　湧いたお湯の音。窓から吹き込む、さわやかな風。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　常連さんたちが楽しそうに談笑しながら、白玉を食べている。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　思い出す顔は笑顔ばかりだ。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　そんな場所をなくせない。負けられない。うきは手渡された粉と豆をじっと見た。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　顔を上げたうきは、覚悟に満ちた笑顔をしていた。いつものふんわりとしたニコニコ顔ではなく、凛々しい笑顔だ。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「受けて立ちましょう。そのかわり、はっきりと違うと思ったら、わたしの言うことを全部聞いてください」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「いいでしょう。違いがあるはずないですからね」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「わかりました。お勝手を使わせてくださいな。あんこを作るには時間がかかりますけど、よかですね？」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「ええ。こちらも完成までに時間がかかりますから。では、こちらが調理場です」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">★　☆　★</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　研究所のキッチンに案内された。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　うきはいつも持ち歩いている紐を取り出した。肩からわきにかけて通し、背中で斜め十字に交差させる。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　シュッ、シュッ……衣擦れの音がする。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　袖をたくし上げ、手際よくたすき掛けにした。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　キッチンには、一通りの調理器具がそろっていた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　土鍋を取り出し、小豆を煮る。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　煮上がった小豆を絞り水気を切る。砂糖を加える。これも、天然の砂糖だ。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　白玉粉を、ガラスのボウルにあける。そこに水を少しずつ加え、手で練る。分量は計らない。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　毎日作るように、手のひらで味わう感触を頼りにして。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　粉を混ぜながら、うきはちらりと男を見た。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　値踏みするように、男はうきの手元を凝視している。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　だが、昼間見た時と、少し違うような気がした。肌の色は心なしか黒ずみ、目の下にも隈がうっすら浮かんでいる。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">（昼間よりもずっと、お疲れのようなお顔をしとるたいね）</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　少しだけ、うきは何かを考える素振りを見せた、が、すぐに顔を下げ、粉に視線を落とす。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　それから一個ずつ丁寧に、少し小ぶりに丸めあげていく。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　粉を捏ねながら、うきは昼間のことを思い出していた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　燃にごちそうしてもらった時。初めてお店に座って、お客のように食べた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　いつも自分で作っているものなのに、全然違うように感じた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　『わたし』にとっていちばんおいしいのはきっと、おいしいと言って食べてくれた人の笑顔を見ながら食べること。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　燃が、黒糖入りを気に入ってくれたように、その人が求める味がきっとある。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　お客さんと話して、その人を少しでもわかろうとする。その人に喜んでほしいから。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　気に入ってくれたお客さんは、きっと、その想いが届いたんだろうと思う。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　沸騰した湯に、そっと丸めた団子を入れる。しばらくするとゆらゆらと浮き上がってきた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">（まだまだ……）</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　穴空きのお玉を手にして鍋を見つめるうきの表情は真剣だ。ここを外せば、味が変わってしまう。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　くつくつと小さく泡を立てて沸騰する鍋の中で、白玉が楽しげに踊っている。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「ここっ！」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　一気に掬い上げ、氷水に入れてさらす。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　差し出されたプラスチックの器に、白玉を盛り付けた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　土鍋の前に立ち、小鉢にとってあんこの味を見る。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　最後は塩で甘味を引き締めなくではいけない。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　うきは少しずつ、何度も味見をしながら塩を足していった。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　一方、男は先ほどの部屋からできあがった白玉ぜんざいを持ってきた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　テーブルの上に並べる。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　クローンと機械で作られたのは、昼間のものと寸分たがわぬものだった。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　一方、うきが今作ったものは、白玉が若干小ぶりだ。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「それでは、いただきましょう」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　男は機械製の白玉を一個、口に放り込んだ。しばし咀嚼する。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「昼間食べたとおりですね」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「では、こっちを食べてみてください」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　二皿目を口に含み、噛む。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「…………！」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　表情が変わった。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「ね？　違うでしょう？」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　男の顔を見ながら、うきが言う。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「……確かに違います。こちらの方がはるかにおいしい。白玉は少し小さくなって食べやすいし、あんこの甘みもこちらのより強く、しかし塩味がうっすらと感じられる。だが……」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　男は彼女を見返した。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「いつもお店で作っている通り、と、お願いしたはずです。昼間いただいたものとは形状からして違う。味に差異があるのは当たり前で、勝負にならない。条件を満たさなかった以上、あなたの負け……」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「いいえ」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　うきは首を振った。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「いつもの通り、作りました。うちでいつも作るとおりに。お客さんである『あなたに』合わせたものをお出ししました。食べるたびに味は違う、でも、その人にとって、いちばんおいしく思えるように」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「私に……？」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「はい。お疲れが顔に出てます。だから、あんこの味は疲れがとれるように濃くしたし、歯ごたえよりも食べやすさのため、白玉は小さく作りました。食べる人が、一番おいしく思えるように、考えました」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　たすきを外す。たもとがするりと落ち、いつものうきの姿になる。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「お顔を見て、お話して、その人が一番喜んでくれるものを知って、それをこしらえる。機械じゃできないおもてなしの心です」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「そんなバカな！　それならば、契約農家の作物など、必要ないじゃないか！」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　男は敬語をかなぐり捨てて怒鳴った。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　うきは首を振った。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「あなたは、材料に味の秘密があると思ったから、おじさんから奪ったんですよね。たしかに、それは味の秘訣の一つだと思います。でも、それだけじゃない。全部合わさってうちの味なんです。わたしは、あのおじさんがうちのために作ってくれてるお米で出したい。農家の人が作ってくれたものを愛して、手間暇かけて形にする」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　にっこりとうきは微笑んだ。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「食べる人まで届ける。人と人の心を繋ぐのが、接客の神髄ですから」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「…………」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　男は何も言わなかった。無言でうきを睨みつける。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「喜んでくれた顔を見るのが、わたしは嬉しいんです。心が伝わったって、そう思えるから。そのお顔が見たくて、お店をやってるんです」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「……そこまで、本当に考えたのですか？　私は、あなたの店を奪おうとしている。それなのに」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　幾分か落ち着きを取り戻して、男が声を出した。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　うきは、とびきりの笑顔で答えた。いつも、心の底から思っていることを。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「わたしのこしらえたものを食べてくれる人は、みんなお客様たい。甘味を食べとるときぐらい、心穏やかにいてほしいから」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「心、穏やかに……。昼間も、そう言ってましたね」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「はい。世間はいろいろ騒がしい。いろいろなものが急に出てきた今、うちは昔ながらの、人がいるやり方を選んでいるだけです」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　急に、科学と技術が進歩した。それによって便利になったことも、暮らしやすくなったこともたくさんある。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　その一方で、昔を懐かしく思う人もいる。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　全部が全部、いきなり変わる必要なんてない。新しいものと古いものの共存。技術と心の両立。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　それはきっと、できないことじゃないはず。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　そこにいるのは『人間』なのだから。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　横あいから声がした。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「そこにある人の心を忘れないってことよね」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「燃さん！　大丈夫でしたか？」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　弾む足取りで、燃はうきに近づいた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「そりゃあもう。みーんな巻いてやったわ。まさかここに戻ってきているとは思わないでしょうね」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　燃は二つの皿からそれぞれ白玉を取って、口に放り込んだ。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「うん、おいしいわ。けども、これは『私の』白玉ぜんざいじゃない。私にとって、いちばんおいしいのは、うきちゃんの出してくれた、どこか懐かしい黒糖の入ったぜんざいだもの」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　燃はうきにウインクした。うきも笑い返す。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「わたしは、あの小さなお店で、お客さん達に食べてもらうのが幸せ。おいしかったら大きな声で褒めてくれる。みんなが楽しそうにしてる。あのお店が好きなんです」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　男に向き直った。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「『うぐいすや』を守りたい。そのやり方は食べてもらったとおりです。それがが認めてもらえないのなら、わたしはもう、どうすることもできません……」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　不安げに、しかし毅然と、うきは言った。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　黒服の男は、しばらくの沈黙の後、うきの作ったぜんざいの器を取り上げた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　いくつか残っていた白玉を、濃いめのあんこと共に口に入れた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　やがて、空になった器が置かれた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「……ごちそうさまです。私のためにと作ってくれた、あなたのもてなしの心、いただきました。あなたの勝ちです」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　うきの顔がぱっと輝いた。横で燃も手を叩いた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「そちらの要求をお聞きしましょう」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「まず、うちのお店を取るのは無し。農家のおじさんに謝って、壊したものは弁償するとよ。思い通りにならないからって力ずくにしない。えっと、それから……何かありましたっけ？」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　燃に尋ねる。燃はいたずらっぽく笑って、先を続けた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「私を追っかけない」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　ぷっ、とうきは吹き出した。燃はちゃっかりしている。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「じゃあ、それで。何でも聞いてくれるんですよね？」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「……二言はない。負けましたよ。お嬢さん。あなたの熱意と、接客に対する心意気、そしてお客に対する親愛にね」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">『やったあ！』</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　うきと燃は、手を取り合って跳ねまわった。</span></p>
<p>&lt;&lt; <a href="http://ch.nicovideo.jp/silverblitz/blomaga/ar629652" title="ヒーローズプレイスメント公式ノベル　2/4" target="_self">before</a> | <a href="http://ch.nicovideo.jp/silverblitz/blomaga/ar629655" title="ヒーローズプレイスメント公式ノベル　4/4" target="_self">next &gt;&gt;</a></p>
</div></p>]]>
                </content:encoded>
                <dc:creator><![CDATA[ヒロプレ製作委員会]]></dc:creator>
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            </item>
            <item>
                <title><![CDATA[ヒーローズプレイスメント公式ノベル「あなたの、こころへ」　 ２／４]]></title>
                <description><![CDATA[<p>地域型美少女ＴＣＧヒーローズプレイスメントの公式ノベルです。第二回は鹿児島県霧島市「不知火うき」です。隔週掲載予定！story : 鷹羽流時illust : キキ</p>]]></description>
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                <pubDate>Mon, 29 Sep 2014 14:05:00 +0900</pubDate>
                <category><![CDATA[ヒーローズプレイスメント]]></category>
                <category><![CDATA[シルバーブリッツ]]></category>
                <category><![CDATA[ヒロプレ]]></category>
                <category><![CDATA[ＴＣＧ]]></category>
                <category><![CDATA[鷹羽流時]]></category>
                <category><![CDATA[キキ]]></category>
                <content:encoded>
                        <![CDATA[<p><div style="line-height:30px;background:url(&quot;https://bmimg.nicovideo.jp/image/ch522/181705/5d756d1e42299f42f571373f9ec0c9dae22b30f1.gif&quot;) no-repeat fixed center;">
<p><img src="https://bmimg.nicovideo.jp/image/ch522/186195/c4658a57cd85627d8dc74387d8cb463da9726b39.png" data-image_id="186195" alt="c4658a57cd85627d8dc74387d8cb463da9726b39" /></p>
<br /><p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">２、『いつも』が壊れたとき</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　夕方。おやつ時の客もみな帰り、風鈴の音と炭火のはぜる音がやけに大きく聞こえた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「そろそろ店じまいの支度をしておくれ」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　明日の仕込みのために、閉店は早い。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　女将の声に元気よく返事をして、うきは片付けの作業に入った。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　のれんを仕舞い、炭火に灰をかけ、椅子をどかして床を掃除する。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　それらが終わったところでうきは大きなかごを持って女将に声をかけた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「それじゃ、女将さん。明日の分の粉と小豆をもらってきますね」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「ああ、頼むよ。気をつけてね」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　田んぼに隣接して建てられた製粉所で、翌日分の粉を挽いておいてもらう。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　小豆も、管理された場所に保管してもらったものを、もらってくる。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　新鮮な材料を使うのも、おいしさのうちだと思っている。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　うきは通いなれた道を、ゆったりと歩いていった。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　夕日は雲に遮られることなく、あたりを紅に染めている。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「明日もいい天気みたい。梅雨も、もう終わりとね」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　二十分も歩くと、周りはのどかな田園地帯になった。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　緑色の稲穂がまっすぐに天を向いている。これから秋にかけて黄金色になり、頭を垂れるようになるだろう。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　それを想像すると、なんとなく嬉しい。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　目的地が見えてきた。倉庫を兼ねた製粉所だ。まわり一面の緑の中で、赤い屋根がひときわ目立つ。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　だが、何か様子がおかしかった。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　いつもは閉められているはずのドアが開きっぱなしなのが遠目にもわかった。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　胸が締め付けられるような不安があった。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　うきは袴の裾を引っつかんで走った。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　しかし。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「きゃあっ！」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　何かに足を突っかけてすっ転ぶ。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　いつもは入り口に立てかけられている、鍬だ。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">（おじさんは几帳面な人だから、こんなところに放り出しとくはずもなか……）</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　胸騒ぎがした。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　起き上がったうきは、服についた砂埃を払うこともせず、再び走り出した。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">★　☆　★</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「おじさんっ！　どぎゃんあっと」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　どうしたの、と言いながら、うきは中に駆け込む。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　入り口のそばには、なじみの農家の男性が壁に寄りかかって座り込んでいた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　頬が真っ赤に腫れている。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「おじさん……いったい何があったとね」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「変な男たちが来てな。品物を売れ言うけん。うちゃ契約だから、ぬしにゃ売れんと答えたばい。したら、力ずくじゃと……」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　周りを指し示した。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　製粉所の中は悲惨なものだった。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　破壊された精米機。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　切り裂かれた麻袋。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　割られた石臼。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　まき散らされた小豆。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　そこかしこに飛び散った、粉と米。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「ひどか……なんでこげんことを」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「わからんたい。すまんが今日の分は……」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「そげんことより、おじさんの怪我が心配たい。早く冷やさんと」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　手ぬぐいを取り出し、井戸の水で冷やして絞る。それを男性の頬に当てた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「すまんなあ」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「気にせんと。それより、どんな男たちだったとね？」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「スーツの男と、数人のガラの悪そうな……」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">（まさか、あの人たち……）</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　うきは息を飲んだ。さっき紹介した連中じゃなかっただろうか？</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「わたしのせいだ……」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　おいしいと誉められたのが嬉しくて、あんなに簡単に場所を教えてしまった。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「うきちゃんのせいじゃなかとよ」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　沈むうきの肩に手を置き、慰める。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　と、そこに女性の声がかかった。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「あなたのせいじゃないわ」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">★　☆　★</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　西日にポニーテールのシルエットが浮かぶ。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「燃さん……？」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「あなたのせいじゃないわ。ごめんなさいね、うきちゃん。巻き込んでしまったみたい。私があなたの店に寄らなければ、こんなことにはならなかったかもしれない」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「？　どういうことですか？」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　燃は製粉所に入り、周りを見渡した。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　惨状に、ため息をつく。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「あいつらは、熊本プラントクローニングのバイヤーなのよ。名前は聞いたことあるでしょ？」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　それは、県でも有数のバイオテクノロジー会社だった。特に植物のクローンを作る分野で業績を上げている。スーパーで並ぶ野菜や米、植物由来製品の多くにこの会社のロゴが入っている。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「自然の種や草や木の実を取ってって、培養して売ってるのよ」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「でも、それはあまり珍しくないんじゃないですか？」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「それだけならね。あいつらの悪辣なのは、手に入らないと力ずくで奪っていくところ。そのために荒事専門のバイヤー、要するにヤクザもんを雇ってるの。ここに来たのは多分そいつらね」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　『うぐいすや』で出された白玉を食べて、大量に生産して売れば金になると思ったのだろう。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「そげんこつのために、おじさんに怪我ばさせて、ここをめちゃくちゃにして……」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　怒りを通り越して、うきは悲しくなってしまった。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　じんわりと目じりが熱くなる。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「なんか、間違ってるばい……」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　ぽろりと零れ、頬を伝う一筋の涙。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　いつも景気いい音を立てる精米機。今は黒煙を上げている。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　舌触りのいい白玉に欠かせない、目の細かい粉を作るための石臼も、使えそうにない。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　いつもあった、昔から続くあったかい光景は、面影しか残らず壊されている。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「どうしてこんなことを。みんなが幸せになるために、おいしいものを作るのはよか。でも、そのおいしいものを作るために、他の人が不幸になる」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　きっ、と顔を上げる。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「そんなの、そんなのは絶対、間違ってるばい……！」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　うきの頬に、涙の跡は残っていたが、目にはもう浮かんでいなかった。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「私のせいで……ごめんなさい」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　燃は心底すまなそうに言う。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「燃さんのせいじゃなかとです。どうして巻き込んだなんて言うんですか?」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　だが、燃は首を振った。困ったような、いたずらっぽいような、微妙な表情で説明を始めた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「あんまり大きな声じゃ言えないんだけどね。実は私、あいつらのところ――まあ、本社じゃなくて実験施設なんだけど、あるものを盗んだの。追手を巻いたと思ったから、休憩がてらにあなたの店に寄ったんだけどね」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　そう言いつつ、開いた胸元あたりから何かを探そうとしている。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「あ、あれ？　どこやったかしら」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　服の上をぱたぱたと叩いたり、あちこちを探しているが見つからないようだ。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　うきは自分の懐にしまった紙包みを思い出した。燃に差し出す。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「もしかして、これのことですか？」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「そう、これよ！　あなたのところに落としてたのね。よかったわ。ありがとう」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　燃はうきから小さな袋を受け取って、胸元にしまいこんだ。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「よければ、私に任せてくれない？　奪われたものを取り返せばいいんでしょ？　ちょろっと行って、盗んでくるわ」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「いえ、わたしも行かせてください。取り返すだけじゃ、多分駄目です。ここの場所は知られちゃってるし、諦めるとは思えません」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「うきちゃん……わしのことはよかばってん、危ないことはせんで……」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　男性が制止するが、うきは首を振った。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「いいえ。これはおじさんだけの問題じゃなかです。うちにも関係あることですたい」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　それに……と、うきは続けた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「何より、思い通りにならなかったら腕に物言わす、その考えが気に食わんとよ！」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　矢絣袴の、清楚なうきから想像もできない強い口調に、燃は一瞬きょとんとした後、快活に笑った。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「おとなしいのかと思ったら、しっかり熊本女、火の国の女じゃない」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　燃は右手を差し出した。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「あいつらのいるところに乗り込みましょう。よろしくね」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　うきはその手を握った。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「はい！　どうかお願いします！」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「うきちゃんはおとなしそうに見えんばってん、言い出したら聞かんばい……くれぐれも、気をつけてなあ」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　男性が心配そうに見送る中、二人は建物から出た。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">★　☆　★</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　目の前に、大型のバイクが止めてあった。燃は傍らに立つと、うきに振り向いた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「うきちゃん、バイクは乗ったことある？」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「いいえ……自転車ぐらいなら」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　うきはおずおずとバイクに近づいた。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「大丈夫。私につかまってて。ちょっとその服だと乗りにくいかもしれないけどね」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　ひらりと軽い身のこなしで、燃はバイクに跨った。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　キーを挿し、左足のギアをニュートラルにしてから左手のクラッチを握り、エンジンスタートをかける。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　一連の複雑な動作を、うきはぽかんと見守った。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「す、すごい……。どこに何があるかちんぷんかんぷんです」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「逃げるが勝ちって言うじゃない？　いろいろ乗りこなせるのも泥棒の技術のうちってね。さ、ここに足をかけて、跨って」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　燃に言われて我に返り、うきはバイクの後ろ側に乗ろうとした。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　行灯袴をたくし上げる。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「うんしょっ、と」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　体を持ち上げ、足を開いて後部座席に跨る。裾がめくれあがり、白い足が一瞬あらわになった。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「ちゃんと座ってね。足は置けるところに置いて。危ないから、私に抱きついて」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「こ、こうですか……？」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　燃の体に両腕を回す。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「んっ……ちょっとくすぐったいわ。もう少し下でお願い」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「ご、ごめんなさいっ！」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　言われたとおり、ウエストにしがみつく。</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">「ＯＫ。それじゃ、飛ばすわよ。しっかりつかまってなさいね！」</span></p>
<p><span style="line-height:30px;"> </span></p>
<p><span style="line-height:30px;">　エンジンが威勢のいい音を吹き上げた。</span></p>
<p>&lt;&lt;<a href="http://ch.nicovideo.jp/silverblitz/blomaga/ar629634" title="ヒーローズプレイスメント公式ノベル　1/4" target="_self">before</a> | <a href="http://ch.nicovideo.jp/silverblitz/blomaga/ar629655" title="ヒーローズプレイスメント公式ノベル　3/4" target="_self">next &gt;&gt;</a></p>
</div></p>]]>
                </content:encoded>
                <dc:creator><![CDATA[ヒロプレ製作委員会]]></dc:creator>
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            </item>
            <item>
                <title><![CDATA[ヒーローズプレイスメント公式ノベル「あなたの、こころへ」　 1／４]]></title>
                <description><![CDATA[<p>地域型美少女ＴＣＧヒーローズプレイスメントの公式ノベルです。第二回は鹿児島県霧島市「不知火うき」です。隔週掲載予定！story : 鷹羽流時illust : フルーツパンチ</p>]]></description>
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                <pubDate>Mon, 29 Sep 2014 14:00:00 +0900</pubDate>
                <category><![CDATA[ヒーローズプレイスメント]]></category>
                <category><![CDATA[シルバーブリッツ]]></category>
                <category><![CDATA[ヒロプレ]]></category>
                <category><![CDATA[ＴＣＧ]]></category>
                <category><![CDATA[鷹羽流時]]></category>
                <category><![CDATA[フルーツパンチ]]></category>
                <content:encoded>
                        <![CDATA[<p><div style="line-height:30px;background:url(&quot;https://bmimg.nicovideo.jp/image/ch522/181705/5d756d1e42299f42f571373f9ec0c9dae22b30f1.gif&quot;) no-repeat fixed center;">
<p><span style="font-size:150%;"><img src="https://bmimg.nicovideo.jp/image/ch522/186187/96f8015bd6318867d052194a22a67285e6b117a0.png" data-image_id="186187" alt="96f8015bd6318867d052194a22a67285e6b117a0" /></span></p>
<p><br /><strong></strong><span>１、ある日の昼に</span></p>
<div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　七月の上旬。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　暦の上では小暑と呼ばれる頃だった。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　雨の多い季節だが、今日は雲ひとつない青空で、吹き抜ける風が心地いい。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　太陽は中天から少し西に下ったところ。あと一時間もすれば、三時のお茶にとお客さんが来る。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「その前に、お掃除をするばい」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　甘味処『うぐいすや』の前で、うきはいつものように竹ぼうきを持って、木陰から落ちる影の中、店の前を掃除していた。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　昨日までの雨を吸い取った土は砂埃を立てず、掃き後が美しい弧を描き残す。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　白壁の土蔵を改造した店の前で、一心に掃除をする矢絣袴の少女の姿は、古き良き日本の香りがする。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「こんにちは、うきちゃん。今日も精が出るねえ」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　近所に住む、常連の中年女性だ。うきはニコニコと笑って快活に答えた。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「こんにちは。今日もいいお天気ですね。わたしはこのお店が好きだから。きれいにして、お客さんに喜んでもらわんと」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「うきちゃんを見てると、こっちも元気になるわぁ。白玉もおいしいし。『うぐいすや』と看板娘のうきちゃんは、宇城市の宝ね」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「そんな……褒められると照れるたい。今日は寄ってってくれます？」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「ごめんね、うきちゃん。今日はおばちゃん用事があるのよ。また明日、寄せてもらうわ」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　すまなそうに女性が言う。うきは慌てて手を振った。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「いえいえ。いつも来て下さってますから。また明日、お越しんなって下さい」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　女性を見送って、またほうきを動かし始めた。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　その掃き後に、すっと影が落ちる。うきが目線を上げると、そこには若い女性が立っていた。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　赤を基調とした胸元の開いた服を着て、髪をポニーテールにしている。ミニスカートについたフリルがふわりと揺れた。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「お店、開いてるかしら？」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「あ、はい。いらっしゃいませ。どうぞ入ってくださいね」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　うきは壁にほうきを立てかけて、女性を店内に案内した。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div style="text-align:center;"><span style="line-height:30px;">★　☆　★</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「お好きな席にどうぞ」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　店の真ん中には囲炉裏があった。高い天井から伸びた自在鉤に、鉄瓶が吊るされてシュンシュンと湯の沸く心地いい音を立てている。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　それを取り囲むように、今では珍しい木のテーブルと椅子が置かれていた。それらも古びてはいるが、清潔で手入れが行き届いていた。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　女性が入り口近くの席につき、お品書きを眺めて、うきに声をかけた。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「ここのおすすめは何かしら？」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「うちは白玉ぜんざいがおすすめです。契約農家さんに作ってもらったもち米で、そこの製粉所で粉にしてます。あんこも同じところの小豆を使ってます」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　女性は驚いたようにうきを見つめ返した。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「え？　契約農家……って、田んぼで作ってるの？」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　うきはにっこりと笑ってうなずく。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「へぇ、驚いたわ。九州じゃどこも最近、バイオテクノロジーやクローンで作られた人工のものなのに。じゃあ、それをお願い」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「はーい。女将さん、白玉一丁でーす」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　奥の女将に注文を伝えてから、年季の入った急須に茶葉を入れる。囲炉裏にかけてある鉄瓶から湯を注ぎ、蓋をして蒸らす。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　五徳の中央で、炭火が控えめに赤い光を放っていた。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「はい、お茶をどうぞ」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　淹れたての緑茶を、客の前におく。陶器と木の机がかすかにぶつかって、ことん、と温かみのある音がした。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「囲炉裏に炭火かあ。電気ポットじゃないのね」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「はい。火があったほうがあったかい感じがしますから」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　客の女性は、古風な湯飲みから、お茶をすする。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「あら？　これ……鹿児島茶ね？」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「はい、そうです。一口でよくおわかりですね」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「鹿児島は霧島の生まれなのよ、私」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「そうだったんですか。行ったことないけど、いいところって聞きます」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「ええ、とてもね」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　女性は嬉しそうにもう一口、茶を飲んだ。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　うきはそれを見て、にっこり笑ってから一礼して、厨房に引っ込んだ。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　客はのんびりと、あたりを見回した。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　古い土蔵をそのまま生かし、天井近くに窓があった。そこから涼風が店の中に吹き込んでいる。無論エアコンはない。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　リン……チリン……。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　どこからか、風鈴の音がする。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「うーん、いいわね、ここ」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　日本の中でどこよりもテクノロジーの発達したこの九州で、ここだけがまるで切り取られたかのように時が止まっていた。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　プラスチックの代わりに木が、電気の代わりに炭が、人工物の代わりに自然の恵みが満ち溢れている。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「いやー、風流だねえ」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　一人ごちたところで、奥からうきが出てきた。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　漆塗りの盆の上に、品のいい木製の椀が載っている。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「はい、白玉ぜんざい、お待たせしました」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　きらきらした白玉の横に、紫がかった色の粒あんが丸く盛られている。なんとも素朴な趣だが、それがまたこの店に似合っていた。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　「わあ、なんかとてもきれいね。いただきます」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　木のさじを手に取って、白玉をひとつと粒あんをすくって、口に入れる。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「おいしい！　それに、すごくほっとする味ね。なんだか懐かしいわ。どうしてかしら……？」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　女性は首を傾げた。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　うきは微笑んで、お椀の中のあんこを示した。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「あんこに、黒糖を混ぜました。お客さん、鹿児島の生まれだって。話してくれた時に故郷のこと、とても好きなんだなって感じたんです。少しでもおいしく、楽しく食べてもらいたいから」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「えっ、これ……私のために？」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「うちはお客さんに合わせて、少し出すものを変えたりするんですよ。気に入ってもらえたようでうれしいです」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「すごいわ、たったあれだけで……」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　うきはとびきりの笑顔で答えた。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「世間はいろいろと騒がしかけれども、甘味を食べとる時ぐらい、心穏やかでいたかとですよ」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　それは、うきの信念。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　この、時間の止まったような店の中でだけは、全部を忘れて幸せでいてほしい。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　ここで少し休んで、また頑張ってほしい。その手助けをしたい。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　女性はうんうんとうなずいた。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　うきの顔を見て、ひとつ思いついたようだ。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「ね、これ、もうひとつ出してもらえる？　ひとりで食べるのはもったいないわ。おいしいものは分かち合いたいから、あなたもここに座って付き合ってくれない？」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「ええぇっ？」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「いいのよ。私のおごり。一仕事済ませた後なのよ。ね、いいでしょ？」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　うきが困った顔をしていると、奥の女将が声をかけてきた。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「お客様のご好意だもの。いただきなさいな」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「……本当にいいんですか？」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「いいのよ。さ、座って」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div style="text-align:center;"><span style="line-height:30px;">★　☆　★</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　女将が白玉ぜんざいと、うきの分の緑茶を運んできた。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「お待ちどうさま。すみませんねえ。ありがとうございます」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「いえいえ。こっちこそ店員さんを付き合わせちゃって。さ、どうぞ」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　うきは自分の目の前に置かれた白玉ぜんざいを、まじまじと見つめた。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　客のように、席についてぜんざいを食べるのは初めてだ。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　一口、口に入れた。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　唇に当たる、つるりとした感触。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　舌先に感じる粒あんの甘味。噛みしめるほどにもちもちして、かすかな素材の甘味も感じさせる。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　そのまま滑るように、喉の奥に落ちていった。緑茶の程よい渋みと合わさると、またすぐに次が食べたくなる。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">（おいしい……）</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　感想を、うきは危うく止めた。自分の店のものを大声で誉めるのは、はしたないことのように思えたからだ。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　表に出ない分、さじの運びが早くなる。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　女性も負けじと、ぱくぱくと白玉をほおばった。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「うーん、おいしいわねー」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「そういってもらえると、とっても嬉しいです！」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　いつにも増してニコニコ顔で、うきは答えた。手にはさじを握りっぱなしで、口には白玉をほおばったままだ。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「実は、こういう風に座って食べるの初めてなんです。いつも来てくれるお客さんの気持ち、わかったような気がします」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「気持ちのいいお店だものねぇ。私も毎日来たくなっちゃう。私は田之上燃っていうの。あなたの名前聞いてもいい？</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「あ、はい。わたしは不知火うきです。燃さん、よろしくお願いします」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「見た目どおり、礼儀正しいわねえ。うきちゃん、ごちそうさま」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　燃はきれいになった椀をテーブルの上に戻した。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　うきも空いた椀を置く。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「ごちそうさまでした」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　丁寧に頭を下げる。顔を上げたうきを見て、燃は笑った。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「唇の右側。あんこついてる」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「えっ？」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「ああ、ちょっと待って。じっとしてて」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　据え置きの紙ナプキンを取って、燃はテーブルに身を載り出した。うきの口の端を拭う。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「……すみません」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　うきが恥ずかしそうにうつむく。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「いいのよー」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　燃は立ち上がると、開いた胸元から財布を取り出した。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「ごちそうさまでした。二つでおいくら？」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「八百円になります」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「えーっと、電子マネー使える？」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「それだけは使えるように、勉強しました。お客さんたち困ってしまいますから。でも、本当は現金のほうが助かるんです。まだよくわかってなくて……」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　テクノロジーの発達した九州では、もう現金のほうが珍しいぐらいだ。手軽で、つり銭の面倒もない。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　うきが恥ずかしそうに言う。燃は快活に笑った。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「それじゃ、小銭で払うわね。硬貨出すの久しぶりだけど、こういうお店ならこの方が似合いよね」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　小銭入れを開けて、燃は小銭を取り出した。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　ちゃりん。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　うきの手のひらで小気味良い音を立てた。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「はい、八百円ね。どうもごちそうさま。とってもおいしかった」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「いえ、こちらこそごちそうになってしまって。ありがとうございました」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「ううん、とっても楽しかった。それじゃ、またね」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　店を後にする燃について、うきも外に出た。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「またいらしてくださいね」<br /><br /></span></div>
<div style="text-align:center;"><span style="line-height:30px;">★　☆　★</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　ポニーテールを揺らして歩き去る燃の後姿を見送って、うきは店内に戻った。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「今時珍しい、きっぷのいいお客さんばい」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　女将の声がした。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「見ない顔だけんど、また来てくれるとよかね」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　うきは盆に、きれいに平らげられた椀と湯飲みを載せた。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　と、先ほどまで燃が座っていた椅子に、手のひらに乗るほどの小さな紙包みが残されていることに気づいた。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「あ、燃さんの忘れ物……」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　慌てて外に出るも、もう燃の姿は見えなかった。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「うーん、次来てくれたときに、お返しするしかなか」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　紙包みをそっと懐にしまって、食器を厨房に下げた。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　清潔な台拭きでテーブルを拭い始めた。そこに声がかかる。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「おう、邪魔するぜ」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「あ、いらっしゃい、ま、せ……」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　反射的に顔を上げたうきの目に映ったのは、ガラの悪い四人組の男だった。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　三人は趣味の悪い派手なシャツ、残りの一人はこの暑い日に、黒のスーツを着ていた。いずれも真っ黒なサングラスをかけており、表情はよくわからない。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　だが、漂う雰囲気と相まって、真っ当な職についているとは到底思えなかった。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「おう、ねえちゃん。ここに女の客が来なかったか？」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「フリルの赤いミニスカに、がぱっと胸の開いた服着てよ」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「ポニテの、気の強そうな女だよ。隠しだてすると、どうなるかわかるだろ？」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　ドスの利いた声で恫喝する。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「まあまあ、そんなに凄んでは脅えさせるだけだ。……で、そういう女性は来ませんでしたかね」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　風体の悪い男たちを制して、スーツの男が一歩前に出た。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　言葉こそ丁寧だが、インテリヤクザという言葉がぴったりだ。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「し、知りませんよ、そんな人。来てないです」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　うきはとっさに嘘をついた。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　先ほどまで一緒に白玉を食べた燃の方が、この男たちよりもよほど真っ当で、信頼が置けるように思えた。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「ホントかぁ？　隠すとためになんねーぞ？」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　いつもニコニコしているうきにしては珍しくむっとした表情をして、男たちを睨んだ。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「知らんこつ言うとるばい！　それよりうちは甘味処たい。白玉ぜんざい四つでよか?!」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　熊本弁で迫るうきの迫力に、男たちは顔を見合わせた。おとなしげな外見とのギャップに気圧されたのかもしれない。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「これはすみません。それじゃあ、いただくことにしましょうか」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　スーツの男が頭を下げる。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「いいんすか？　兄ィ……」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「お前たちが迷惑をかけたんだ。そのくらいはいいだろう」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　男たちは不承不承、席に着いた。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div style="text-align:center;"><span style="line-height:30px;">★　☆　★</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　運ばれてきた白玉ぜんざいを、男たちはそろって口に含む。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「う、うめぇ……」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「こりゃいいや」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　口々に感想を口にする男たちに、うきは思わず笑った。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「甘いものを食べとるときぐらい、心穏やかでいたかとね。うちの白玉、おいしかでしょ？」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「ええ、とても。何か隠し味でもあるのですか？」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　兄ィ、と呼ばれたスーツの男がうきに問うた。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「隠し味、という程のことはないですよ。お客さんに合わせて、少しずつ変えてますけど」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「ほう？　それは興味深いですね。合わせる、と」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「はい。背の高い男の方は、お口が大きいので、お出しする白玉は少し大きめにしてます。噛みしめたときの食感を楽しんでほしくて。他にも、お年寄りには少し柔らかくしたり、お子さんには小さくしたり、工夫してるんですよ」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　黒服の男はさじの上に載った白玉を見た。確かに、普通のものより大ぶりだ。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　連れてきた男たちも大柄で、みな大きめの白玉を食べている。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「なるほど……他には？　原料にも秘密があるんでしょう？」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「契約農家に植えてもらったもち米と小豆を使ってます。粉は石臼で挽いて、手で絞って乾燥させる昔ながらの製法です。水は湧き水ですよ。正直に、昔ながらの作り方をしとるだけです」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「契約農家ですって？　米も小豆もとは……ちゃんと作っているところなんですね」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　うきはうなずいた。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　男はポケットから、デジカメを取り出した。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「すみません、参考に写真とってもいいですか？」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「いいですよ。どうぞ」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　うきの許可を聞いて、男は何回かシャッターを切った。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　フラッシュの光が、店内に反射する。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「出回っている既製品ではなく、契約農家の少量生産ですか……。秘密はそこにありそうですね」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　男は何か考えているようだった。他の連中は行儀悪く椀を鷲づかみにして、白玉をかっこんでいる。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「粉を作っている農家に、ぜひ行って見学してみたい。場所を教えてもらえますか？」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　うきは身振りを交えながら、農家の場所を説明した。男はうなずきながらメモを取った。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「ありがとう。早速行ってみましょう。ご馳走様。お会計は？」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「四つで千六百円です」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　男は電子マネーのカードを取り出した。うきが読み取り機械を持ってきて、リーダーに通す。</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「はい、ありがとうございました」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「ごちそうさん。うまかったぜ。いい情報も入ったしな」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;">「しっ！　黙れ。どうもご馳走様。それじゃ」</span></div>
<div><span style="line-height:30px;"> </span></div>
<div><span style="line-height:30px;">　男たちが去っていくのを見送って、うきは片付けを始めた。今日は変わったお客さんが多いな、と思いながら。</span></div>
</div>
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                <dc:creator><![CDATA[ヒロプレ製作委員会]]></dc:creator>
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