• 語るのみにては聞くにたらず、正しく語るをもってはじめて語るにたるなり――村崎友『夕暮れ密室』

    2015-03-09 01:31
    〈あらすじ〉
    栢山高校バレーボール部は、その後の進路にも関わる大事な大会で惜しくも負けてしまう。マネージャーで男子生徒の憧れの的、森下栞は、そんな落ち込む部員たちを明るく励ますのだった。しかし事件が起こる。文化祭当日、校内のシャワールームで、その栞が遺体となって発見されたのだ。現場は二重密室状態。しかも遺書も見つかったことから自殺として処理されそうに……疑念を持った部員やクラスメイトたちは、真相究明に立ち上がるが――!? 第23回横溝正史ミステリ大賞で、惜しくも受賞を逃した青春ミステリの快作が、奇跡の書籍化!

    〈感想〉
    最初から最後まで、むせ返るような青臭さに満ち溢れている。暗鬱とした青春期を過ごした僕にとっては、鼻がひん曲がりかねないほどにだ。登場人物はみんな明るい性格で社交的ないい子ばかりで、恋に悩んだり夢を探したり受験勉強に追われたりと、いかにも青春真っ盛りですと全力で誇示している。意地の悪い奴やひねくれ者やクラスで孤立したぼっち野郎など一人も出てこない。いや、行間には存在しているのかもしれないが、リア充界に生きる住民である本作の登場人物たちには、非リア充界に生きる塵芥のことなど視界に入らないのだろう。そう考えてしまうと、本作を読み進めるのがとても辛かった。読者である僕を完全に殺しにかかっている。

    ミステリとしての出来映えはというと、手放しに褒めることはできない。密室の構成方法も、なんだかなあという感じ。まあ、そもそもの話、本格ミステリを読んでいて密室トリックで感心した経験が少ないのだけれど。

    フーダニットとしても、そんなに優れているとは思えなかった。犯人を絞り込むロジックに瑕疵が目立つ。さすがにそれだけでは証拠が弱すぎるだろう。そして『ない』ことを証明するのは難しい。いくらでも言い逃れができそう。

    犯行後に犯人が取った行動も、さすがにおかしい。いくら動揺していたからといって、普通そういう行動には走らないだろう。あまりにも非合理的だ。自分で自分の首を絞めすぎである。

    学園ミステリ繋がりという連想で例を挙げるが、青崎優吾の『体育館の殺人』なんかも、ロジックの瑕疵を指摘する意見を目にしたことはあるが、あの作品と天秤にかけたとすれば、本作のほうが比較するのも馬鹿らしいほどに論理が甘い。受賞を逃したのも、むべなるかな。

    評価:4 ★★

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  • 月曜の朝は出たくない――倉知淳『猫丸先輩の推測』

    2015-03-06 23:03
    〈あらすじ〉
    『家火災、至急連絡されたし。』夜な夜な届く不審な電報、花見の場所取りをする新入社員を次々と襲う誘惑と試練、行方しれずの迷い猫……。平和だった毎日を突然かき乱す小さな「大事件」を、神出鬼没&ほのぼの系の名探偵・猫丸先輩が鋭い推理でずばり解決! これぞ本格ミステリの精粋といえる六編を収録。

    〈感想〉
    推理ではなく、これぞまさに推測。タイトルからも作者の天晴れなまでの開き直りが察せられる。しかし、だからといって油断しながら読み進めると、思わぬところで足をすくわれてしまう。だというのに、悔しさや怒りといった感情は湧いてこない。あまりにも鮮やかな足払いの技術に、こちらは舌を巻くばかりである。

    猫丸先輩は一刀両断に事件を解決するわけではない。「これはこういうことではないだろう か?」という彼なりの推論を、まことしやかに披露するだけだ。この推論がいずれも絶妙で、納得できるといえば納得できるし、強引といえば強引かも、という際どい線を突いている。この匙加減を調節するのは難しいだろう。提示された謎から解答に至るロジックが飛躍しすぎればただの妄想になってしまうし、か いってジャンプが低すぎれば物足りない。

    本作の場合、冷静に考えればありえないはずなのだけれど、伏線が丁寧に敷かれているせいかいか、はたまた猫丸先輩の詭弁が巧みすぎるのか、彼の語る推測は妙に説得力があり、半畳を入れる気にはならないのだ。日常の謎を扱ったミステリは巷間に数あれど、本作ほど一風変わった趣を持つ作品はそうは存在しないだろう。

    ・『夜届く』
    奇妙な謎に悩まされているところに、見事な逆転の発想で一撃を食らわせられる。この解決は爽快で気持ちいい。

    ・『桜の森の七部咲きの下』
    発想がユニーク。意外な落とし所に膝を打つ。本作の中ではこれがベストかな。

    ・『失踪当時の肉球は』
    猫丸の手も借りたいペット探し。良質なホワイダニット。

    ・『たわしと真夏とスパイ』
    強引といえば強引のような、そうでもないような、絶妙の納得感。

    ・『カラスの動物園』
    文量の多さの割には小粒なトリックで、残念さは禁じ得ない。

    ・『クリスマスの猫丸』
    謎解きが読めた部分もあり、今ひとつな出来映え。


    評価:6 ★★★


  • 結末を迎えた脚本。その終止符を切り裂く論理の刃――井上真偽『恋と禁忌の述語論理』

    2015-01-12 20:08
    〈あらすじ〉
    大学生の詠彦は、天才数理論理学者の叔母、硯さんを訪ねる。独身でアラサー美女の彼女に、名探偵が解決したはずの、殺人事件の真相を証明してもらうために……。
    詠彦が次々と持ち込む事件――「手料理は殺意か祝福か?」「『幽霊の証明』で絞殺犯を特定できるか?」「双子の『どちらが』殺したのか?」――と、個性豊 かすぎる名探偵たち。「すべての人間の思索活動の頂点に立つ」という数理論理学で、硯さんはすべての謎を、証明できるのか!?

    〈感想〉
    第五十一回メフィスト賞受賞作。本作の趣旨は、作中の探偵が一度解決した事件を、数理論理学者の硯さんが数理論理学を用いて再検証することで、事件の結末を覆し、真相を明らかにするというもの。

    本書の帯に大々的に書かれた『名探偵を超える最終探偵、誕生!』という文句から匂い立つ、あまりの胡散臭さにはなはだ不安を感じながらも、とりあえずは購入して読了してみたわけなのだが、やはり予想に違わず残念な出来映えだった。

    たとえるなら、衣だけが異様に分厚くて身が非常に小さい海老の天麩羅のような感じだ。本作は連作短編形式を取っているのだが、それぞれの話で扱っている謎が小粒すぎる。まったく興味を惹きつけらない。

    謎が小粒であろうとも、トリックが斬新なものだったり、精緻なロジックで楽しませてくれれば構わないのだけれど、そういうことでも全然なかった。どの事件も、短編として読むのも物足りないような低水準な内容なので、そんなものがいくつ集まったところで、売れ残りの商品だけを詰めた福袋程度の価値にしかならないだろう。

    数理論理学の解説やら事件の再検証やらが長々と書かれているが、最終探偵さんが事件の真犯人を指摘するにあたってやったことと言えば、犯人の失言を取り上げたり、確かな物的証拠のない仮説を披露したりと、数理論理学の必要性が微塵も感じられないことばかりである。それ証明できてねえよ、と突っ込みたくなる場面が何度かあった。

    最終章では、連作短編形式を活かした仕掛けが明かされるのだが、それも伏線が今ひとつ足りていないような気がするし、やはりここでも確かな証拠は存在しないので、相手に否定されたらそれ以上何も言えないように思えた。数理論理学は完全にいらない子になってるし。

    作品を全体的に考えると、数理論理学が何の伏線としても機能しておらず、数理論理学に関する話をオールカットしても事件は問題なく解決できてしまう点が、本作における最大の瑕疵になるだろうか。いや、瑕疵というよりは、構造的欠陥といったほうがより正確かもしれない。

    僕は学問の解説書を読みたいわけではない。ミステリに数理論理学を取り入れるのは結構だが、大前提として、作品の核となる物語、謎、トリック、ロジック等々が確かな面白さを備えていなければ、いかに数理論理学を謳おうとも、それは看板倒れもはなはだしいだろう。

    唯一褒められる点があるとすれば、内容の乏しさを誤魔化すために、巧みに本筋を装飾して話を引き伸ばすテクニックだ。その点に関しては実に見事である。すでに作家として十数年以上も活躍しているのではないかと錯覚してしまうほどに、熟練の技を感じた。

    ここまで低評価の意見ばかり述べてきたが、まあ、あざといアラサーの美叔母に興味がある人は、試しに手を出してみるのもありなのではないか。キャラ萌えとして読む分には、そこそこ楽しめるかもしれない。

    評価:3 ★☆