文=元川悦子
サッカーキング インタビューズ
文=元川悦子
代表落選からの再出発…金崎夢生はいばらの道をどう乗り越える?
文=元川悦子
「誰をFWで使うかだが、1つ言わなければならないことがある。金崎夢生(鹿島)のことだ。招集リストに入っていたが、日本代表候補の選手があのような態度を取ってはいけない。それが理由で今回は外した。これは全選手に伝えたいと思うが、このような行動を取るとA代表には入れない。彼はすでにA代表に入ったことがある選手だ。若い選手のよい例になるとは思えない。この先のことは全く考えていない」
ヴァイッド・ハリルホジッチ監督が25日の2018年ロシアワールドカップアジア最終予選・UAE(埼玉)&タイ(バンコク)2連戦に挑むメンバー発表会見で語気を強めたように、日本代表で存在感を高めていた金崎が突如としてメンバーから外された。8月20日の湘南ベルマーレ戦(カシマ)で後半25分にファブリシオとの交代を告げられ、石井正忠監督との握手を拒否したうえ、激高したことが問題視されたためだ。
ポルトガル・ポルティモネンセ時代も指揮官から「お前は熱くなりやすいところがあるから冷静にやれ」としばしば言われていたというほど、感情的になりやすいところがある。そのことを本人も自覚していたが、鹿島の第2ステージに入ってからの停滞感、周囲との連携の難しさ、わずか1点しか奪えていない自身のパフォーマンス含め、苛立ちが募ったのだろう。感情のコントロールを失うという大きなミスを犯してしまった。石井監督自身も機能しないチーム、結果の出ない状況に自信を失いかけていたため、この出来事によるダメージは大きかったようだ。
それでも金崎が謝罪し、クラブ側も不問に付したことで、今週の鹿島は何事もなかったように練習していた。24日に練習場に姿を見せた彼自身も、普段以上に申し訳なさそうに振る舞っていた。しかし、25日のハリルホジッチ監督発言で騒動が一気に大きくなった。日本サッカー協会からは鈴木満常務のところに「クラブの問題に介入して申し訳ない」と連絡があったというが、石井監督も金崎自身も少なからずショックを受けたのは間違いないだろう。その結果、翌26日に指揮官が体調不良を訴えるという予想外の事態に発展した。27日の横浜F・マリノス戦も「『体調がすぐれないので、今日はムリです』と石井から電話があった」と鈴木常務が説明した通り、大岩剛コーチが監督代行として指揮。金崎は通常通りスタメン出場した。
「彼自身の行動は僕自身が評価することではなく、クラブの中ですでに解決している。僕は彼を選手としてすごく信頼しているし、アグレッシブなプレースタイル、ボールへの執着心含めてこのチームに欠かせない。石井監督も彼を使うつもりで今週1週間準備してきた。本人にもチーム内での立ち位置を説明したうえで今日を迎えた」と大岩監督代行も話したが、鹿島としての金崎への信頼は揺らぐことはなかったのだ。
それだけの大きな期待を寄せられたのだから、金崎もチームを勝利に導かないわけにはいかない。前半開始直後からアグレッシブにプレスに行き、鋭い守備から攻撃への切り替えから一目散にゴールに向かい続けた。彼という起点がいてこそ、鹿島の攻撃が機能する。それだけ大きな存在感を金崎は示していた。前半28分の鈴木優磨の先制点の場面も、ファン・ソッコのボール奪取から左サイドでパスを受け、巧みなスルーパスで鈴木優磨のフリーシュートをお膳立てした。試合は最終的に2-2に終わり、金崎自身も喉から手が出るほど欲しかったゴールは奪えなかったが、90分間のパフォーマンスそのものはポジティブな印象を残した。
とはいえ、一度、代表監督の信頼を失った選手が再び日の丸をつけるのは容易なことではない。3年連続J1得点王に輝いた大久保嘉人(川崎)でさえ日本代表入りできていないのだから、攻撃の起点となったり、得点をアシストする程度ではインパクトが足りないのだ。金崎と同じポジションを争う武藤嘉紀(マインツ)が27日の今季ブンデスリーガ開幕戦、ボルシア・ドルトムント戦でわずか10分間の出場にもかかわらず貴重なヘディング弾を決め、滝川第二高校時代の先輩・岡崎慎司(レスター)も依然としてスタメンの座を死守している。彼らの間を割って入るのはそう簡単ではない。金崎はいばらの道を歩まなけれなならないはずだ。
かつてない苦境を乗り越えてこそ、彼は真のプロフェッショナルになれる。鹿島は目下、監督交代問題で揺れ動いているが、今後石井監督が続投しても、大岩監督代行が昇格しても、金崎には絶対的点取屋として常勝軍団をけん引する責務がある。加えて1つ注文するなら、ハリルホジッチ監督にも自ら進んで謝罪に出向くべきだ。規律に厳しい指揮官には、そうやってサッカーへの真摯な姿勢を示すしか関係修復の道はない。
いい意味で「野生児」のようなキャラクターが金崎のよさではあるが、今はピッチ内外含めて自分自身を真剣に見直すべき時期に来ている。プロサッカー選手として心身ともに再出発すると同時に、代表落選の逆境をさらなる飛躍の糧にしてほしいものだ。